GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
我ながらなぜこのブーストを本編に生かせないのか(苦笑
それはともかく二重奏XDU本家の14話の裏で朱音が何をしていたのかの話です。
個人的に、このシリーズのオリ主たる静音の祖母な大赦前代表殿は、G3に出てくた、未公開シーンでちゃっかり生き残ってた守部家の刀自のばあさんをイメージして読んでました。
もうかれこれ、諏訪奪還作戦からおよそ一か月の時が過ぎた。
その間は造反神側からの敵襲も無ければ、神樹様からの新たな神託すら一つも下りてくることなく、戦況はいわば膠着状態にまで落ち着いていた。
けど、中国独自の宗教――儒教の〝聖書〟とも言える経典――五経の内の一つ、易経にこのような一文がある。
〝天地否、それ滅びなん〟
――とね。
とうの昔に、天と地、それぞれを司る神々は背き合い、今は地の神たちすら足並みを乱し、相争う……この世界の現状。
一見、平穏に見えていていても、次なる危機、見えざる脅威は直ぐ目の前にあり、近づいている。
人類のスタンドプレーにも敗北を喫した今、造反神は静かに戦略方針の大幅な見直しと、練り直しを行っていることだろうと、人間である私たちでも、漠然とながらも神である敵側の様子を想像するくらいはある程度できる。
それを直接知る方法が、神樹様からの神託に依らなければならないことに変わりはないのだが。
いずれにしても、この一瞬よりも短い時にて咲き誇る花のような、儚き〝夢幻の世界〟が、〝戦時下〟であることに変わりはない。
むしろ、直接的な武力衝突がない、こういう嵐の前の穏やかな状況こそ、戦争において最も注意を怠ってはならない。
翼が〝防人〟と並んでよく使う言葉――〝常在戦場〟ってやつさ。
なので、この前の勉強会も含め、学業への取り組みも忘れずに、鍛錬も日々欠かさず行い修練を積み重ねつつ、時にはちゃんと息抜きに友にして仲間であるみんなと、娯楽を堪能したりしていた、この前の歌野の畑での収穫作業も、その一つだ。
戦時下なのに? と疑問を持たれるかもしれないが―――戦時中だからこそ、平穏無事かつ喜びも楽しさも味わえる一日を過ごせる余裕も必要なのだと、私は私が経験してきた戦いと、二つの我が祖国たちの間で起きた悲劇の戦争から、学んでいる、
さて、近況を述べるのもこの辺にして。
今日の私は今、一人SONGの本部内にある仮眠室の一室にて、後で自主鍛錬を行う為にリディアンの体操着に着替え、室内に置かれているオフィスチェアに腰かけた。
端末(スマートフォン)内のアプリを操作し進め、両耳にヘッドセットを、両目には眼鏡のように掛けられる特殊ゴーグルを装着。
「(もう直ぐ始まるけど、準備はいい?)」
「ああ」
直後、ゴーグルの内側のモニターに映像が、私の瞳の間近で投影され。
「楽しさの欠片もない仮装パーティーだこと……」
早速私は、言葉通りの眼前に広がる光景に毒づいた。
勇者が使う《NARUKO》が搭載された端末には、トト含めた精霊が目にしたもの、耳にしたものを、受信、映像音声化して記録できる機能が備わっている。
私が付けているヘッドセットとゴーグルは、その映像と音声をワイヤレスで、しかもVR方式に鑑賞でき、つまり、私は機器を通じてトトの、リアルタイムで捉えられた〝視界〟を、本当にその場にいるような臨場感で共有しているのだ。
そしてトトが今、どこにいるのかと言うと、香川県某所にある―――大赦本庁の、会議室。
『では、これより緊急の幹部会を始めます』
これからここで、次期代表の静音も含めた大赦の、組織のピラミッドの上位にいるいわゆる〝お偉いさん〟な神官たちの幹部会が開かれようとしていた。
トトは、静音の隣で浮遊した状態で会議の模様を傍聴する実質オブザーバーである。
なぜトトがこんなところにいて、私は相棒の目を通じてこの会議の中継を鑑賞しているのかと言うと―――それは諏訪奪還作戦の日、どうにか当初の予定通り諏訪を取り戻した直後に遡る。
戦闘を終えて程なく、みんなが寝静まっている中、疲労が溜まった身で一人職務(デスクワーク)に追われていた静音に、せめてもの夜食を振る舞うがてら、私は自分でもこれは〝無理で無茶〟だと承知の上で、彼女にあるお願いをした。
〝次の大赦幹部会で、オブザーバーとして自分を出席させてほしい〟
読み通り、その時静音は大和撫子然とした美貌を渋くして〝無理がある〟と苦言を呈した。
かつて守護神ガメラ、神様の端くれだったとは言え今の私は〝元〟がつく人間の端くれである上に平行世界からの異邦人である。
仮にも政府よりこの国への影響力(上には上がいることと、組織柄のせいで全然そう見えないけど)を持っている大赦の本庁に、足を踏み入れるだけでもままならない。
そこで、我が精霊(あいぼう)のガメラで、元な私と違い現役の神様なトトの出番。
神官たちにとって、神樹様の眷属である精霊もまた心服すべき存在、それを利用して、代わりにトトが静音に同伴する形で直接幹部会にオブザーバーとして参加し、相棒の瞳(カメラ)を通じた端末越しに私も傍聴する形で了解を得ることができた。現に幹部神官たちはトトが議場に堂々と尚且つしれっといることに、見えているにも拘わらず何の疑念すら抱いていない。
こうして異邦人の身ながら幹部会中継を傍聴できる機会を得た代価の条件として、作戦の裏でトトに現特機部の視察を行い、千景の子孫である郡千明司令ともコンタクトを取って伝言まで貰い受けた件も込みで、諏訪奪還作戦に関する報告書(レポート)の提出を、ストレートに言えばペナルティを静音は私に課したのだ。
それもやんわりと笑顔で、彼女がかの表情を浮かべるのは大抵〝怒っている〟時だったりする。しかし、笑みでペナルティをこちらに突きつけた瞬間、千明司令から送られてきたメールが受信されたタイミングは、ある意味で神がかっていたな。
しかも内容が、要約すると。
〝草凪朱音とその精霊トト君、興味深く面白い部下たちを持つお前が羨ましい、彼女らが異世界からの来訪者じゃなければ是非ともスカウトしたいところだが、ここはお前に譲るよ、どうか丁重に取り扱ってくれ〟
これが一体何を意味し、読んだ静音がどういう心境だったかは、敢えて明言しないっでおこう。
さて、こうしてトトの視線越し議場を見渡せばまあ………静音も入れてこの場に参じた神官たちが揃いも揃って、真っ白い神事服を着こみ、あの人間味を吸い尽くしてしまうそうなのっぺらで不気味な仮面を被って集まる姿は、居るだけで息苦しくなりそうで、滑稽なのに全く笑えず、シュールどころかある種のチープさも付いてくるホラーと化していた………お化け屋敷としても、さっきも口にしたが仮装パーティーとしても全くセンスは感じられないけど。
訓練に使いたいので実銃(それも西暦時代のアクション映画で使われた)を仕入れてほしいと言う無茶な要望(訓練以外の意図もあるけど)をした私が言うもあれだが、組織運営の予算内にこの仮面を神官全員分作る枠があり、それを着用する義務があるならさっさと廃止した方がいい、完全に無駄に金銭を喰うだけな上に、組織のイメージもより悪くするだけにしか見えない。
こんなルールを議会政治でも採用してみろ、もれなくマスメディアから〝税金の無駄遣い〟と袋叩きを受けるの間違いなしである。
『内容は今後の造反神との戦に関してと、過日行われた諏訪奪還の件に関して――』
さて、仮面越しでもそれを外して放り投げたい本音が見える静音が改めて議題を提示して、始まった幹部会は――。
『全くもって度し難いことだ! 我らが神樹様の命に従うことなく、あのような強引なふるまい――』
早速盛大に、本題から脱線して――紛糾した。
大赦には大まかに、二つの〝派閥〟に分かれている。
静音とトトから見て右側の議席に座る顔ぶれは、神樹様への過剰な盲信と依存が特に強く、静音が代表候補になり改革が進められる以前は完全に組織を掌握していた〝上層部会〟。
もう一方で左側の席に座している方々が、若葉の子孫で園子たちの親御である乃木家現当主を筆頭に、篠崎家や上里家らのメンバーで構成された〝常人幹部会〟。
そして派閥同士の仲が犬猿並に険悪である組織のお決まりごとは、大赦とて例外ではなかった。
『――罰当たりにもほどがある!』
机の上に立てられ、日本の国会でも見られるの同じ形をした名札には〝国土(こくど)〟とある上層部会の一人の女性神官は、ヒステリックに喚き散らし、この会議における本来の議題から、どんどんずれて遠のかせていく。
『神世紀となり三百有余年、我ら人類は神樹様の下で慎ましく生きる事こそが定めとなったのだ、だというのに国土安全保障だのなんだの、人の都合などを持ち出すとは何たる──』
零れること自体は予測してたけど、それより早々に、私の口からは呆れの溜息が吐き出された。
当時より少し先の〝未来の一つ〟で巫女の最高権威となったひなたが、組織改革の一環で、何の為に当時は大社だった名を〝大赦〟に改名したか、あの黒墨だらけの史料にも〝理由〟に〝意味〟がしっかり記載されていたと言うのに、その三百有余年の時間で多くの神官たちの間から綺麗に忘れ去られ、すっかり歴史認識が歪められ、実体より乖離してしまっている。
『国土! 少しは落ち着きなさい。今はそのようなことを討議する場ではない』
『篠崎、そもそもお前たち常任幹部会がアレを野放しにし続けたことこそが今回のようなことを招いたのであろうが!』
常人幹部会側の一人で、同様に仮面を被っているが、名札の〝篠崎〟で奏芽の実母であることが窺えるショートヘアの神官が宥めようとするも、却って相手を煽る結果となってしまい……議場はさらなる混迷の一途を辿るばかり。
トトが目線を変えて静音の様子を見せてくれたが、仮面が無意味なくらい大きくため息を彼女も零していた。ヘッドセットから、トトの聴覚が捉えた吐息さえくっきり聞こえてくる。
私も正直、この辺は見るにも聞くにも堪えない、酷い有様だと思わざるを得ない。
最早こいつは会議とは名ばかりの、ヘイトスピーチの練習中――と揶揄もしたくなる罵倒中傷の詰り合いな言葉の斬り合いへと、一時は化していたが。
『国土、そうは言うがな。あの風鳴訃堂相手にではどうやれば彼の御仁を止められたというのだ? 現に上層部会の言葉を奴は聞くに堪えぬと遮ったのであろう、今回の件で憤っているのは我らも同じこと、言い争うよりかは今後いかにこのようなことを起こさせぬようにするのか話し合うべきと思うが?』
乃木家ご当主のお言葉で、大きく脱線して離れてばかりだった会議は、どうにかようやく本題の線路に戻された。
だが、あの国枠主義の怪物――風鳴訃堂の蛮行を、今後どう食い止めるのかの対策もまともに浮かばない状況の中、一人の神官が静音に近づき、耳打ちで何かを伝えた。
「来た…」
読んでいた通りだ、口元の端が、不敵に上がってほくそ笑む。
ようやくお出ましときたか、待ちかねたよと――私は笑った。
『フェフェフェ……』
静音も入れて議場内にいる神官たち全員が、驚愕でどよめいた。
『相変わらずも、陰険な場所じゃわい』
その者は現れて早々、飄々さと老獪さが混ざり合った声音で、毒のあるお言葉を吐いた。
もしかの無責任アンチヒーローなら今頃――〝D○ユニバースオタの集会かよ〟と辛辣に言い放っていたかもね。
それぐらい議場は、流れゆく行き先がどこにもなく停滞し、陰湿でどんよりと重苦しい空気が充満していると、映像からでも伝わってくる。
『まさか……このような場に櫛名田様が……』
『これは驚きました。まさかこの場に来ていただけるとは』
この議場に新たに現れた、仮面の付き人たちを引き連れし者達。
『ことの次第は、既に次期代表たる我が娘より聞かされております』
内一人は静音の生家にして大赦創設御三家の筆頭である櫛名田の宗家現当主、櫛名田咲姫、勿論静音とは実の親子な血縁があり、彼女の面影が濃く垣間見える。
そしてもう一人の御老体の女性こそ、櫛名田家前当主にして大赦の前代表であった―――櫛名田桔梗その人だ。
周りの面々と違い、この二人はかの仮面を付けておらず、それが〝格の違い〟の何よりの証となっていた。
実際、さっきまで威勢と癇癪具合だけは一丁前に常任幹部会の面々に対し喧嘩腰上等の姿勢だった上層部会の連中は、一転して極度に平身低頭して、静音の母と祖母にひれ伏している。
『しかし、こちらの言い分すら聞く耳もたんとは訃堂の馬鹿は、相も変わらずじゃったようだの、まぁ、それはそうと上層部会の連中のこの様はのぉ、フェフェフェ――流石に見ものじゃわい』
そうだな、確かに先程の大人げなくて見てられなかった罵り合いに比べれば、まだ見物だよ。
『くっ! 櫛名田様、いくらなんでもそれは……』
『あんまりというのなら顔を上げんか貴様ら、そもそのような度胸すらないのであろうがな』
御老体一人の話術を前に翻弄されるだけの上層部会たちの、なんとまあ哀れな道化たる様と、腰の据わりが微塵もないチキン振りよ。
こんな者たちの為に………友奈たちは。
『全く桔梗様……幹部たちをからかうのも大概にしてくださいな……』
さすがにここまで上層部会を翻弄する前当主に、現当主で娘の咲姫殿は諫言を投げかけた。
『さすがに遊びが過ぎたかのぉ、風鳴の件はこちらが一手に引き受けようぞ、あの馬鹿とは少なくない因縁もある故の。お前さん方よかは役に立つと自覚しておるが、どうかの?』
『そうであるならば、こちらにとっては願ってもないこと。おまかせできますかな桔梗様』
予め静音と打ち合わせしていた常任幹部会の皆さんは、喜んで応じた一方。
『桔梗様自らがでありますか!?』
『な……なんと……』
前代表が自ら、かの外道の愚行を抑止する為のネゴシエーター役を買って出る件が初耳だった上層部会は、仮面で覆われても筒抜けな戸惑いこそ見せたが。
『まさか断る気かえ?』
『い……いえ、滅相も……是非お願いいたします』
見えているのか怪しいほどに閉ざされた瞼の隙間から、ほんの微かに、されどはっきりと相手を槍で突き刺すように放たれた前代表の眼光一つで、あっさりと引き下がった。
『まぁ、あの馬鹿も諏訪を取り戻したことでしばらくは無茶な願いはこちらに寄こさんだろうでの、まぁ、大船にでも乗ったつもりでおれ』
と高らかに宣言した櫛名田桔梗は、要件を済ませると直ぐ様この議場を後にしようとした。
「もうお帰りですか?」
「乃木よ、いったい誰が好き好んでこのような仮面ばかりの議場にいたがると思うのかえ? 要件は当に告げて終わっておろうが、あたしゃこんなところにいつまでも長居などはしとうないでの、息が詰まるわ」
その判断も物言いも正しい、トトの視界とVRゴーグルを隔てても、この仮面仮装大会はつまらなさと息苦しさしかない、用が済んだら毒気に当てられる前にとっととこんな場所から、おさらばするのが賢明だ。
「agree(同感だ)」
私も目的を達成できたので、ゴーグルだけ外し、ヘッドセットは付けたまま、髪を簡易的なポニーテールに纏め、体操着の上にジャケットを羽織り、音声のみで会議の続きを聞き届けながら、仮眠室を後にしてキャットウォーク内を歩く。
最新式のノイズキャンセラーに、呼びかけられると自動で音量を下げてくれるセンサー付きなので、周囲に聞き漏られる心配はない。
「(トト、もう暫くは静音に付き添ってあげて、会議が終わる頃には相当お疲れだろうから)」
「(分かった)」
おっと、そう言えば話してはいなかったな。
私がわざわざこうしてトトとテクノロジーの力をお借りしてまで、幹部会を傍聴している〝理由(ねらい)の一つ〟は、櫛名田桔梗と言う人物にお見えし、本当にかの人物があの外道と渡り合えるだけの傑物足りえるのか―――できるだけ直接、この目で確かめたかったからである。
本当に静音の言っていた通りの大物なら、あの手の場に自ら足を運び、神官たちの前に立ち現れると私は読み、こうして当たりを引いたのだ。
結果は上々、この傑物ならば、あの外道も余計な横槍をこれ以上は刺しに来ないと期待できるし、当分は事態の悪化にしか繋がりそうにない奴からの〝摩擦〟を気にせず造反神との戦いに専念できそうだ。
戦いにおける〝摩擦〟を起こす存在が、何もあの外道だけとは限らないので、今後いくつも新たに起きるのは確実なので、油断大敵ではあるけど。
さて、あの会議の模様だけでも、櫛名田桔梗前代表は、表向き常人には鳩もしくは猫と見せかけて、実体は巧妙に爪を隠す猛禽あるいは虎な、煮ても蒸しても焼いても食えない、組織内の権力闘争を勝ち抜いてきた女傑だと分かった。
それほどの人物なら、神官たちが神々への畏敬の強さでスルーしていた精霊たるトトが、あの場に居座って傍聴していた理由くらい、造作もなく見抜いただろう。
向こうがどう〝反応(リアクション)〟をこちらに見せてくるか………もう暫く待つとしよう――と、ジャケットの内ポケットに入れていたスマートフォンの《NARUKO》を落とし、代わりに音楽を流そうとプレーヤーを立ち上げようとした……直前だった。
「っ―――」
脳内へ、濁流かはたまた荒波の如く、全身の神経が過敏に荒ぶるほどの高密度の情報が、流れ込み、咄嗟に艦内に壁へ背中をもたれこませる。
「はぁ………あぁ……ふぅ……」
壁面に支えられた私は、肩で息をするくらい呼吸が乱れていた。
「朱音ちゃん!」
丁度そこに、休憩中だったらしいこの世界のあおいさんが私を見つけ、手を貸そうと駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「ええ、どうにか……」
一人で立てるくらいには回復できたので、壁から離れた。
でも鍛錬をするには、もう少し一休み必要だな。
「今回は紅茶で良いかしら?」
「お願いします」
そのまま二人で、休憩室に向かう。
いつもならあおいさんの〝あったかいもの〟はブラックコーヒーに限るが、今回は疲労回復を優先して紅茶をチョイスした。
「やっぱり、神樹様から、新しい神託が」
「はい……」
淹れたての紅茶を受け取り、気品のある香りを吸いつつ一服しながら答える。
「いつも突然送りつけてくるので、困ったものですよ、地の神の方々には」
毎度ながら、狙ったように不意を突いてくるな――わざとだろ――と言いたくもなる。
しかも今回は、飛び切りヘビーなのを、叩き付けてきたな………神樹様めが。
神々の真意は窺い知れなくとも、今までの流れを踏まえれば、次の開放場所がどの辺りになるかはある程度絞れる。
神樹様としては、足場を固めて少しでも多く力を取り戻し、造反神の次なる手に対応したいのは確かだろうから、四国の、それも香川県内の未開放地区のどこかまでは予想していたし、事実今の神託で的中した。
けど、よりにもよって………次なる戦場(せんじょう)が、静音たちには縁が深いどころではない……〝あの地〟とはね。
それから……さらに数日が過ぎ。
その日、静音から放課後、大事な話があるので寄宿舎の指定された部屋に来てほしいと言うメールを受け取った。詳細はそこで話すから、できるだけ早くとも。
「ここか」
自室には寄らずに制服姿かつ鞄を下げたまま、指定された部屋のドアの前に着いた私がインターフォンを押すと、開かれたドアから静音が姿を見せて出迎えた。
「早いわね」
「できるだけ急いでほしいと言ったのは静音だろう?」
「そうだったわ、中に入って」
「おじゃまします」
入室して奥へと進むと、中央のテーブルを囲む形で四つのソファーが置かれた、八人で会合をするには丁度いいインテリアな部屋には、静音の他に、もう一人いた。
黒く艶めいた髪色も髪質も、アメジストの瞳も、大和撫子然とした顔立ちや均整の取れた背格好まで、静音と生き写しに瓜二つながら、纏う雰囲気や物腰が見事に好対照となった、それこそ〝合わせ鏡〟と表するに相応しい女子。
「こんにちは」
私はそのもう一人に、まず深々と頭を下げる。
「初めましてですね――Ms.コトネ・クシワダ」
「はい、こちらこそはじめまして、草凪朱音さん」
前から静音と奏芽から話に聞いてはいたけど、こうして顔を合わせるのは初めてなので、お互い改めて自己紹介をし合い、握手も交わした。
櫛名田琴音――静音の双子の姉にして、櫛名田宗家の跡取りでもある、大赦専属の巫女の一人だ。
「いつも妹様には色々お世話を掛けてしまい、申し訳ありません」
続けて私は、何かと静音に無理なお願いをしているのは事実なので、もう一度深くお辞儀をして、彼女の姉に詫びを入れると。
「いえいえ、こちらこそ色々と融通の利かない我が妹を日頃サポートして頂き、ありがとうございます」
その姉より、何かと性格がお固い妹とは正反対の柔和さでお辞儀を返された。
この調子で、琴音と、彼女の妹絡みも込みでトークを花開かせたいところだけど。
「ごほん!」
静音が強めの声量で咳払いをしたので、今日は控えておこう。
琴音も正式にSONGへ出向しているわけだし、またの機会はいつでもある。
それに今は、若干恥ずかしそうに頬を赤く染めて、口元をぐぬぬと締めている静音の顔を拝めただけで充分だ。
「二人とも、なぜそんなニヤけた顔をしてるのかしら?」
「いや、別に」「いえ、別に」
私と琴音の二人がなぜこんな表情(ニヤケ)を同時に静音へ向け、互いの声がぴったりハモッて答えたのかは、わざわざ語るまでもない。
「まあいいわ……朱音も神託を受けてもうご存知でしょうけど、今日ここに呼んだ理由が……〝これ〟よ」
静音は、自ら作成したと思われる冊子を手渡した。
表紙に書かれていた冊子の題名は――
《大橋市開放作戦計画書》
――大橋……その単語を目にすると、神樹様から送られた大量のビジョンが、また私の頭の中を、絶えず何度も駆け巡る。
内一つを挙げるとすれば………真っ二つに両断され、まるで、手を広げ懇願しているように、嘆いて苦しんでいるように、叫びを轟かせているように、怨嗟に満ちた呪詛を吐き出しているように、災厄を齎す〝天〟に向かって仰ぎ見ているようにも見え、感じられた………空の真上の彼方へと無残に捻じ曲げられ、見る影もなく大破し、リビングデッドの如く朽ちていくのを待つしかない―――瀬戸大橋の亡骸。
そしてこの地――大橋こそ、かつての静音――清美達や銀達ら、先代勇者たちの〝故郷〟であり、神樹様からのお告げより、次なる造反神の支配から開放する場所に選ばれたのだ。
「Storm coming(嵐が来るぞ)」
「承知の上よ」
私は当事者本人……即ち静音から、口頭の形でとは言え、知っている。
あの大橋の地にて、一体、何が起きたのかを。
この〝夢幻の世界〟に呼び集められた勇者たちの間で、新たな波乱の〝摩擦〟が起き、不協和音が鳴り響くのは、確実だった。