GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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今回は朱音とトトのガメラコンビしか出てこないお風呂サービス回と+。

ちなみに劇中で言及された映画の元ネタは『インセプション』って映画です。


秘密の夜の特訓Ⅰ:NEW ARMED GEAR

 大橋での激戦を勝ち抜いて、香川の地を完全に造反神から取り戻し、季節も秋から冬へとバトンタッチする兆候が表れ始めたあくる日の夜。

 朱音はこの世界にいる間の住まいである寄宿舎の、急ごしらえに建造されたものにしては、リディアン本校の寮ばりに学生一人が住むには破格の広さを有するバスルームにて。

 

「はぁ~~……」

 

 葡萄色がかった黒髪をオールバックのアップで纏め、筋肉質で引き締められながら魅惑的曲線と柔肌が沿う身体(プロポーション)にそぐう色香を纏った吐息を、赤く上気する両頬に挟まれた口元より零し、天井へ翡翠の瞳を見上げる形で湯船に浸かり、放課後の鍛錬に明け暮れた体をお湯でほぐして、全身の隅々まで癒していた。

 そして湯に浸かるのは、朱音の他にもいて。

 

「(極楽極楽~♪)」

 

 と、トトが精霊としての能力で形成した自分の大きさに合うミニタオルを頭に乗せて、人間で言うバタフライの要領で、湯の心地よさを味わいながら優雅に泳いでおり。

 

〝~~~♪〟

 

 気持ちよさを堪能するが余り、換気扇を入れても尚湿気が蒸気とセットで溜まって音がエコーする風呂場内にて、朱音とトトはデュエットで歌い始め、反響させるくらいだ。

 ちなみに今彼女たちが歌っているのは、土曜ドーでしょうの、青空の下のドライブにはぴったりな初代主題歌だった(これは番組スタッフたちが起こした権利ミスの問題で、歌詞は同じなのにメロディを全くの別物で作曲し直して二代目を出す事情があった為)

 

 

 

 

 

 ドーでしょうの主題歌をフルで歌い切って、彼女らは暫く沈黙でお湯の温もりを味わっていたが。

 

「(朱音、さすがに入浴中の出歯亀はしないみたい)」

「そうか」

 

 湯の熱でややとろけ気味だった朱音の美貌は、トトからのこの言葉を受けると、急に眉と目尻が上がって真剣味を帯びる。

 朱音たちは、全体の七割ほど心から入浴を堪能していたが、一方で内三割は胸の内にて〝警戒〟していた。

 例の、香川全域を奪還してから、主に静音、若葉、棗、そして朱音に向けられる〝何者〟かの視線に対してだ。

 その何者とは、当然――造反神との戦いの為、時間と次元の壁を越えこの結界(せかい)に神樹様の力で呼び集められた勇者と装者ら少女たちの〝敵〟に当る。

 

「トトはどう思う?」

「(僕も造反神が、過去か平行世界、もしかしたら両方から召喚した装者と勇者、どちらかだと思う、ちょっと前まで神樹様の一部だったんだから、同じ御業くらいできる筈だし……さすがに神々の集合体な神樹様のように、そう何十人も呼べそうにないけど)」

「そうなると、神といえども片手で数えられるくらいが精一杯か、だが向こうにはバーテックスもいる、連中も造反神(しゅじん)の命令とあらば協力するだろうから……」

「(厄介だよね……バーテックスだけでも強敵なのに、そこに人間の知恵と戦略と戦術が加わったら――)」

「double advantage(鬼に金棒)………今は様子見に徹しているが、香川が取り戻された以上、造反神が本格的に戦力投入するのは、時間の問題だな」

 

 右手の指を下顎に添えて、朱音は英語混じりに応えた。

 実際の〝物的証拠〟こそまだベールに包まれてはいたものの、朱音とトト――ガメラたちは敵の正体が、造反神が神樹様と同様の〝技〟で呼び寄せられた、対抗戦力(にんげん)の〝戦士〟であるとも、いずれ圧倒的物量と戦闘能力の脅威的な質を誇るバーテックスともども、本格的にその者たちと一戦以上交えることになるのが、そう遠くない未来で起きるとも、確信を得ていた。

 

「(しかも召喚された一人が、朱音の直感の通りなら)」

「〝柳星張〟―――奴の転生体で、間違いない」

 

 前世の〝宿敵〟と断言できる、災いの影――ギャオスの変異体にして、超古代文明が生み出した最悪の怪獣たるかの邪神の〝名〟を、苦々しい声色で口にした朱音は、首に掛ける〝勾玉〟を手に取る。

 

「私達〝ガメラ〟への……カウンターウェポンとしてね」

 

 朱音の世界の〝神〟に該当する〝地球(ほし)の意志〟は、彼女の前世(ガメラ)の能力を、シンフォギアと言う名の〝器〟で象る形でほぼ完全に再現できていた、なら――。

 

「(じゃあ、朱音と同様、柳星張の能力も)」

「造反神によって再現されている、そう見立てた方が良い、最後まで生きて勝ち抜く為にも、根拠のない楽観は禁物さ」

 

 柳星張の恐るべき能力の数々は直に痛いほど間に当たりにしてきただけに、朱音は一切楽観視していないし、ほとんど断定し切っていた。

 造反神の手で宿敵もまた、人のまま、前世の己の力を手にしていると………想定できる可能性の中で最悪のものだが、だからこそ〝あり得ない〟と一蹴するわけにもいかない。

 いっそ確実と断じた上で、〝その時〟にまでにできる限りの対策を練っておく必要があった。

 

「(ヒ○キさんが言ってたみたいに、〝鍛え足りないならもっと鍛え直すだけ〟、そうしたいけど……)」

 

 一方で、見過ごせない問題もあった―――柳星張の能力の一つ。

 二四時間オールタイムとまで行かなくても、今こちら側は向こうより戦力把握も兼ねたストーキングを受けている。

 こんな状況で迂闊に、武器装備のアップグレード、新たな戦術、技の追求や特訓を押し進めても、敵と実際に戦う前から手札の裏側を、相手に見せびらかすようなものである。

 その上に、柳星張の厄介極まる力の一端――〝コピースキル〟を使われでもしたら、せっかくの対策も裏目に帰してしまう。

 

「そのことで、トトに聞いておきたいんだけど」

「(何?)」

「この前見せた『エクストラクト』みたいなこと、テレパシーでできる?」

「(あっ! なるほど~~その手があったね)」

 

 朱音からの〝アイディア〟に合点がいったトトは、握り拳を掌の上に叩く。

 映画マニアの彼女が相棒に挙げた映画は、こちらの世界では西暦末期に公開され、ターゲットの人間が睡眠中に見ている夢の世界に入り込み、対象が夢――潜在意識にて所持している重要な機密情報(アイディア)を盗み取る産業スパイチームの活躍を描いたSFアクション映画である。

 朱音はその映画の設定を下にした特訓方法を、思いついていたのだ。

 

 

 

 

 

 よし、私が弦さんよろしく映画で思いついた、敵の監視網に悟られずにできる〝特訓法〟がトトのテレパシーで可能だと分かったので、早速実行に移す、善は急げってヤツだ。マスカット色のパジャマに着替え、明日の学業の準備をして、歯磨きでお口の中もすっきりさせ、夜用の肌のお手入れも忘れず施して、ベッドに直行。

 

「Light.,OFF」

 

 音声入力式の蛍光灯を消灯。

 トトも私の枕元に来て。

 

「Good night,My Buddy」

「(オヤスミ~~良い夢を)」

 

 私達は〝夢の世界〟へと入り行く為に眠り始めた。

 心は意識と言う名の、光り差す海原の海面(ひょうそう)から、海中へと沈んでいく。

 段々と周囲の水の色合いが暗くなっていくが、それは闇の暗黒と言うよりは、夜天の如き深くたおやかな紺色で、恐怖はないし……このまどろみに落ちていく静寂は、いつ味わっても穏やかになる。

 やがて心(わたし)は――意識の海と溶け合って……。

 

 

 

 

 

 一度潜在意識と交じり合った私の心は、直ぐに形を取り戻した。

 閉ざされていた瞼を、そっと開ける。

 瞳が光の加減と周囲とのピントが合わさり、眼前の光景を私に映し出す。

 高々と、広々と、果ての見えない海原の水平線と、雲一つない夏の蒼穹、目線を変えれば、緑豊かな山々の麓に築かれた港町。

 

「きゅうきゅう♪(やった♪ 成功)」

「Good Job♪ トト」

 

 ガメラ同士、サムズアップし合う。

 私とトトは今、トトのテレパスによって私の脳内で創造された、ルシッドドリーム――明晰夢、簡単に言えば『これは夢だと自覚して見る夢』を共有していた。

 前にトトに見せたSFアクション映画『エクストラクト』では、明晰夢の世界を人為的に設計して作り出し、複数の人間と共有できる機械があり、劇中では台詞で言及されているのみだが、主に軍隊の訓練で使われている設定。

 それをトトの力で、再現したのだ。

 

「(映画と同じく、現実の五分がここでは一時間になるよ)」

「ありがたい、これならたっぷり特訓に使える」

「(でも朱音が僕の設計した夢にいられるのは、レム睡眠の間だけだから)」

「分かった、休憩時間も必要だからね」

 

 眠りは、意識が浅いレム睡眠と深めのノンレム睡眠の交互で繰り返される。

 夢が見るのはレム睡眠なので、当然と言えば当然。

 それにノンレム睡眠時間を差し引いても、現実の二〇倍ものの時間があるので、これでも充分過ぎるくらい。

 

「それでだが……トト」

「(どうしたの?)」

「ここ、トトの主演映画の〝聖地〟だよね?」

 

 私が使った〝聖地〟とは、いわゆるサブカル用語で、映画やアニメなどの映像作品のロケ地に選ばれた街、場所、庭園、建物、自然地域などを指す。

 

「(あちゃ♪ バレちゃった?)」

「見え見えのバレバレ、この小島がトトの誕生地の『緋島』だってこともね、まあ夢の設計なんて初めてだから、馴染みある場所をチョイスしたのは分かるよ」

 

 ここから見える港町は、トトの映画『小さき勇者たち~ガメラ~』のロケ地の一つ、三重県志摩市大王町。

 けど、今私達が立つトトの誕生地たる鋭利な岸壁がそびえ立つ小島――『緋島』だけ、トトの次元(せかい)にしか存在しない島である(映画では他のロケ地の風景を合成して作られた)。

 

「(あ、それでだけど朱音)」

「何?」

「(特訓前に、自分の姿を確認しといた方が良いよ)」

 

 ん? どういうことだ?

 と、思ってふと両の手を見てみた私は、呆気に取られた。

 明らかに人間のものではない、鋭い爪の伸びた大きな爬虫類型の掌。

 その手で、胸部、腹部、背中、肩、顔、頭を触る………久しくも、はっきり覚えのある感触。

 思わず、目の前にあった岩肌の窪みにできた池で自分の今の姿を目にして、驚愕の余り両手を両頬に、パンっと音が鳴るくらいの勢いで当てていた。

 

「How Cowッ!(なんてこったッ!)」

 

 写っていたのは………ギャオス・ハイパーに柳星張と戦っていた頃の、戦闘への進化が急激に進んで、我ながら凶暴な顔つきとなった自分(ガメラ)、だったからだ。

 大きさこそ、映画で使われた着ぐるみくらいのサイズだが、それ以外は本物そのもの、実際かつてはこの肉体だったのだ、間違えようのない。

 

「ガァァァァァーーーオォォォォォォーーーン!」

 

 衝撃の余り、私は〝ガメラ〟の鳴き声を、トトの聖地中へ盛大に轟かせてしまった。

 だが、どうしてこうなった……かの理由は、すぐに見当ついた。

 翼がよく使う表現を用いるなら〝常在戦場〟の精神で、仲間たちとの日常は謳歌しつつも造反神との戦いの日々をおくっていた影響で、己の潜在意識が前世の姿にさせたのだと。

 確かにトトの言う通り、まずは草凪朱音(にんげん)の姿に戻らなければ……シンフォギアを纏って変身するどころか、特訓も満足に始められない。

 現実でこのガメラの姿になれるのならともかく、今の私はシンフォギア装者、人の身で鍛えなければ意味がないのだ。

 

 

 

 

 

「はぁ~~……どうにか」

 

 夢の世界での体感時間で一五分くらい、暗示を掛けるくらいの域で集中を極限にまで高めた上で自身に言い聞かせ、一度全身が光って治まったと思うと、どうにか私は前世から今代の人の姿(服装はリディアン制服)に戻ることができ、安堵の溜息を零した。

 ちゃんと首には勾玉(ペンダント)もある……これでやっと当初の目的である特訓を始められる。

 

「(少し休んどく?)」

「いや、まだ体力はたっぷりある、鍛えてますからね♪」

 

 装者と同じ〝音楽〟で魑魅魍魎と戦う鬼(せんし)なベテランヒーローみたく、顔の横で手をシュッとした私は。

 

「早速始めよう」

 

 改めて深呼吸をし、再び集中力を高め。

 

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪〟

 

 聖詠を歌い、現実同様紅緋色のエネルギー球体が全身を包み込み、フォニックゲインから実体化したギアアーマーを装着され、球体(フィールド)が解除されて変身完了。

 

「(まず何を?)」

「まずは……新しいアームドギアを一つ、生成(ビルド)する」

 

 右手の掌を空に向けて腕を伸ばし、私は目を瞑ってイメージする。

 アームドギアの生成に必要なのは、相応のエネルギー=フォニックゲインとイマジネーション。

 そして、これも翼の言葉からの引用だけど――〝常在戦場の意志の体現にして、胸の覚悟を構える〟。

即ち、何よりも、戦いに臨む覚悟と、己が得物を具現化しようとする、強く確たる意志。

 この三つが揃えば――。

 

〝我が炎よ~迫る災いより~命を守る~新たな甲兵となれ!〟

 

 即興で編み出された超古代文明語の詩を奏で、掌のプラズマ噴射口より炎が放出。

 火は、私がイメージした姿、形へと変えていき、イメージした通りの武器(アームドギア)へと、固形化される。

 

 できたぞ―――私の新たなアームドギア。

 

 それを、瞳が開くと同時に、右手で掴み取り、左手も柄を握らせ、手始めに残像を起こすほどの速さで、舞い踊りながら振り回して、仁王構えで締めた。

 

「(おおぉ~~~♪)」

 

 私の披露した演武に拍手を送ったトトは、できたてのアームドギアの周りを飛び回って、まざまざと見つめた。

 

「(なんか、色々混ぜ込んだ武器になったね)」

「あら、多元複合武装、またの名をマルチウェポンもまた〝ロマン〟なのだよ♪ トト君」

「(怪獣で言うところの、人間の常識を超越した巨体と、熱線や光線みたいなもの)」

「That’s right♪(そのとーり)」

 

 ギアアーマーと同じ鮮やかな紅緋色の柄、その先端にプラズマ噴射口を携えたシャープな円錐状の穂先――槍、その下に武骨だが流麗で黒艶を帯びた半月刃の戦斧、反対側には同様の黒味と艶やかさを持つ逆台形状の分厚いハンマー、この二つに挟まれる形で、紅緋色に橙色のラインで刻んだ、トトの腹部の〝炎〟に見える模様を模したレリーフ、穂先の反対側の先には、斧とハンマーより大きさは小振りながら、出縁型戦棍(フランジメイス)も備えた、全長は私の身長の三分の二ほどの長さ、あくまで〝基本形態〟時だがな。

トトにも言った通り、紛うことなき――多元複合武装(マルチウェポン)。

 ぱっと見で把握できる以外にも、隠れた機能が盛り込んであるぞ。

 

「(ここまで凝ったデザインなんだから、この武器固有の名前でも付けない?)」

「お、それは良いアイディアだ、折角作ったわけだし」

 

 さてと………どんな名前にしようかな?

 そうだ、ローマ神話の火の神――ウゥルカーヌスと、リトアニア神話の雷神――ペルクナスが使っていたとされるハンマー――ミルナ、それと宇宙で最も激しい天体現象。

 神の名と神の武器の名をアレンジしつつ混ぜ合わせ、そして天体現象と組み合わせ。

 

「決めた、このアームドギアの名は――《ヴォルナブレーザー》」

 

 こうして、新しい愛機(アームドギア)の名を付けたことだし、これを現実のバーテックスどもと、いずれ現れる造反神側の戦士と相見える〝戦場〟でも寸分たがわず実体化し、扱えるよう。

 

「(早速実戦形式で行くけど、映画同様、痛覚をリアルに設定してるからね、攻撃が当たれば死ぬほど)」

「むしろありがたい、夢に甘えない為にも、それぐらいのスリルがないと張り合いがないからな」

「(じゃあ、行くよ)」

 

 夢の設計者たるトトの手で、水平線に、星屑たちと小型ノイズたちとの混成群体が出現した。

 私はヴォルナブレーザーを無業の位で携えて、敵に眼光を放ちつつ、相対し。

 

「Here~we~Go――ッ!!」

 

 胸部の勾玉から伴奏が鳴り始めると同時に、その一声で、駆け出した。

 さあ―――特訓を始めようかッ!


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