GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
朱音がSFアクション映画から着想を得て発案し、トトのテレパシー能力によって、トトの誕生の地を元に〝設計〟された、明晰夢の世界。
そこで、次なる脅威に立ち向かう為、共に戦う仲間、友たちを守る為、新たなアームドギア――《ヴォルナブレーザー》を創造(ビルド)した朱音は、早速トトの手で再現された星屑(バーテックス)と両親の仇でもある特異災害ノイズの混成群体相手に、疾駆。
海上へと跳び出すと、両腕に装着された黄色い球状の反揚力装置と足にスラスターで、ホバリング走行へ切り替え。
〝災禍は眼前~~今が馳せる時~~我は戦士~~駆け走れ!~~♪〟
勾玉から流れる伴奏をバックに超古代文明語の詩を歌い始め、実質ほとんど実戦そのものな『模擬戦闘』に、生み出したばかりの得物を手に臨む。
(まずは軽い慣らし運転だ)
まず、ブレーザーの穂先の槍を敵方に向けると。
《炎貫弾――スティングプラズマ》
穂先を取り囲む形で添えられ噴射口より、槍刃状のプラズマレーザーがガトリング並みの連射力で連続発射され。
貫通性では朱音の飛び道具の中でトップクラスなプラズマレーザーの真横から降り注ぐ驟雨は、先陣にいた星屑とノイズを続々と打ち貫き、灰化、もしくは消滅させる。
(舞い踊れ! 新たな愛機よッ!)
スティングプラズマの乱れ撃ちに敵側の態勢が乱れている内に、すかさず朱音はヴォルナブレーザーの斧刃、ハンマー、槍、メイスに橙色の稲妻を纏わせながら右手で振り回し、左手の噴射口からライフルを生成し砲身にエネルギーチャージさせつつ、右腕を勢いたっぷりに振るい、ブレーザーを投擲。
《光輪斬閃――ローリングシャインサイクラー》
鮮やかな電火を帯び、光輪を描いて回転飛行するブレーザーが群れに肉薄し、雷撃混じりの斧刃を前に切り刻まれ、刃の直撃を受けずとも広範囲に迸る雷たちに躱す暇も許されず撃破される。
朱音は脳波コントロールで、攻撃していたブレーザーを、上空にまで飛ばし、砲身が伸長されたライフルを構え。
(穿てッ!)
《轟炎烈光波――ブレイズウェーブシュート》
銃口から、海面が蒸気を立ち昇らせるほそのプラズマ火炎流を放射、横合いに薙ぎ払う。
超放電現象の奔流を受けた敵たちは、盛大に爆発の花火を次々と上げ、半分以上が撃破された。
残る敵も朱音は見逃すつもりはない――これは実戦形式の〝訓練〟なのだから。
ホバリングしていた両足のスラスターの出力を上げ、飛翔し、上空に電化を纏わせたまま待機させていたヴォルナブレーザーをキャッチ、電火の輝きと激しさが増し、そのまま残存する群れの渦中へ、ハンマーを向けた得物を上段に回しながら振り上げ、落下。
「(トト! 海面にフィールドをッ!)」
「(了解ッ!)」
トトは指示通り、海面スレスレに海を保護するように面上の防御フィールドを貼り。
朱音はそこへ、上段から遠心力を乗せたハンマーを豪快に叩きつけた。
《玄翁轟雷――サンダーストロークタイタン》
ハンマーとフィールドが衝突し、そこからドーム状に雷の衝撃波が放出し、周囲の星屑とノイズを呑み込む。
今の広範囲攻撃でノイズは先に全滅した。残る星屑たちは集まりだし、バーテックス化しようとし始める。
(お前達の目論見は見切っている)
しかし奴らとの初戦闘での洗礼を受けてから既にバーテックス戦を幾度も戦い抜いて来た朱音は、そう来ると看破しており。
〝天から降り立ち~~驕れる使徒よ~~味わうといい~~雷の鉄槌をッ!~♪〟
ブレーザーを持つ右手を星屑どもへと突き出し、稲妻迸る穂先、斧刃、ハンマーから同時に。
《緋雷迅――》
「ライトニングーースマッァァァーーシュッ!」
橙色の苛烈にして、猛々しい雷撃――《ライトニングスマッシュ》を打ち放った。
融合途中で密集していた星屑たちの大半が、雷撃の直撃を諸に受け、反撃への一歩すら踏み出せぬまま、大爆発を起こした。
それでも僅かに残った数体が、円形状で朱音を取り囲み、大口を開けて迫るも。
〝~~~♪〟
(甘いな)
柄を伸長させて《ハルバードモード》となったブレーザーの斧刃を超振動させ赤熱化。
バレエの如く舞い、横合いの軌道による激しくも美しい円月斬撃で、全て焼き払うのだった。
朱音はその足で緋島の岩肌に飛び戻る。
「状況終了」
「(お見事♪)」
トトは拍手を送る。
何せトトが生み出したノイズも星屑も、現実に出現したものと寸分違わぬ戦闘力で〝設定〟していた。本物同然の〝災いの影〟たち相手に、それまでのアームドギアと使い分けつつもヴォルナブレーザーを使いこなし、様々な新技のお披露目までして撃破したのだから。
実は朱音はブレーザーをイメージする際、それを使った技も同時に作り上げていた。
そして雷撃生成制御能力は、この世界に来る以前より会得していたもの、今まで使わずにいたのは、雷撃による電子機器への影響に対する考慮と、プラズマの炎だけでも充分デリケートな運用が求められるほど強力なことと―――〝能ある鷹は爪隠す〟の精神によるものだった。
「Thanks♪ でもこれぐらい現実でも扱えるように、意識(むねのうた)に根っこまで覚え込ませるのが、目下の課題だな」
朱音はトトの賛辞を気前よく受け取りつつも、ブレーザーを片手で素振りしながら当面の課題を己に言い聞かせた。
「次は暫く基礎訓練しておくから、トトは故郷巡りでもしておいで」
「(うん、ありがとう、じゃあ行ってきま~す)」
「行ってらっしゃ~い―――さてと」
トトは自身と友にして育ての親である少年たちのふるさとな港町へと飛んで行った。
まだ朱音の眠りはレム睡眠状態かつ時間も二〇倍化でまだたっぷりあるので、朱音は己が意識にブレーザーの使い勝手を芯まで覚えさせる為、基礎に立ち返ったトレーニングを始めるのであった。
翌朝、午前五時、冬が近づいているので空は明るくなってはいるが、まだ太陽は上がっていないままの時に、朱音は意識が目覚めると同時に起き上がり。
「ん~~あぁ~~………」
まずは両腕を天井へ伸ばして腰を振り子の様に左右に傾け、軽く身体を解した。
「Good morning♪ トト」
「(おはよう朱音♪ よく眠れた?)」
「すっきり爽快さ、大体三日間(three days)特訓に明け暮れてたとは思えないくらいにね」
事実腕を回して腰を横に捻じる起きたての朱音の顔色は、見るからに良好以上であり、軽やかにベッドから跳び上がった。
「これなら肉体の方のトレーニングにも行けるな」
そのままパジャマから予めハンガーラックに掛けて準備していたリディアンの体操服に着替えながらトトに聞く。
「相棒、ひとっ走り付き合える?」
聞かれた相棒(トト)は。
「(もちのろん♪)」
景気よく答え、ガメラたちは早速寄宿舎を飛び出して、行きつけの臨海公園で、陽が登り始めた中、朝のトレーニングの一環のジョギングに興じる。
〝~~!♪ ~~~――~~~ッ!♪〟
〝ひとっ走り〟の元ネタである特撮ヒーローの主題歌を、これはまた景気よく朱音もトトも二重奏で歌いながら、園内を駆け抜ける。
歌いながら走るなど、常人ならあっと言う間に息切れだが、精霊であるトトはともかく、朱音であすら、もう園内を一〇周していると言うのに、走るスピードも、歌う喉も息もまだまだ揺るがない様子だった。
当人たちの予想していた以上に、明晰夢内での特訓法は効果があったので、学業と仲間たちとの日常と、現実での特訓の傍ら、この《ドリームトレーニング》は引き続き、朱音のレム睡眠中にて行われることになった。
最初の数日は、《ヴォルナブレーザー》の扱い方をより高めることに注力していた。
次にトトが設計した明晰夢は、昭和の等身大特撮ヒーローたちには大変お世話になった採掘場の砂場である。
そこで最初に行った特訓は――。
「北に三〇メートル――南南西に二五度五〇.九メートル――垂直に四〇.五七メートル――次、半径一〇メートル未満で、時計回り五回転なると巻きからの、反時計回り八回転、五回転まで円を重ねて、残りは星を描いて――」
トトからランダムで出される指示通りに、ブレーザーを投げてはキャッチを繰り返し、より正確に投擲脳波操作できるようコントロール技術を高める為のものだった。
それを一時間に一〇分の、五時間に三〇分と適度に休憩を入れつつも、その時間込みで計一〇時間ほど続けた次のメニューは。
「(次の特訓内容は?)」
「最初に鉄の壁二つ用意して」
「(分かった、そらよ)」
トトは砂場の上に、厚い壁も同然な鉄板を指示通り二つ用意した。
「この二つを違う壊し方するから、私の後ろで見てて」
「(は~い)」
自分の背後の位置に移って佇んでいるのを確認した朱音は、何のエネルギーも的ませていないブレーザーを手に横合いに構え。
「デリャ!」
まず一枚目を、ハンマーで派手に叩き込む。
甲高い金属同士の衝突音が騒がしくなると同時に、一瞬で壁面全体の至るところに亀裂が入り、鉄の壁は手で持てるくらい細かい無数の破片へと、粉々に崩れ落ちた。
続いて、二枚目の鉄板の前に立って構えた朱音は、一呼吸を挟んで、ハンマーを叩き付ける。
すると今度は、打突部分に丸状の風穴が開きつつも、二枚目は一枚目と打って変わって、比較的原形を止めたまま、仰向けにバタリと倒れ込んだ。
同じハンマーによる打撃にも拘わらず、このくっきり現れた違い。
「(板に掛かる衝撃の範囲を、変化させたんだね)」
「そうさ」
この〝からくり〟を、トトが端的に説明した。
朱音はハンマーから繰り出す衝撃を、一枚目は広範囲に拡散させ、二枚目は逆に一点集中させて部分破壊に留めさせることで、異なる壊し方を見せたのだ。
「トト、今度は鉄板を………こんな感じで配置して」
「(はいよ~)」
トトは朱音が砂上に指で描いた通りに、複数の鉄板を形成して配置した。
ドミノ倒しの様に、鉄板たちが円状に、その内部にも板が十枚一直線で並べられている。
これをどう破壊するのかと言うと、まずブレーザーを左側に投げ回して、反時計回りに円状の板たちを斧刃で両断して一旦キャッチ、間髪入れずにハンマーの一点集中型打撃で、十枚全て――。
「一枚も倒さずに、風穴だけ開ける」
「(これはまた難しいそう……)」
「でも弦さんの〝マジカル拳法〟とシネマトレーニングよりは、まだ控えめだよ」
「(それは言えてる、あれで〝ただの人間〟なのが、未だに僕は信じられない)」
そう雑談を交わしつつ、一回目。
朱音が投げたブレーザーの斧刃は綺麗な円を描いて円状に並ぶ板こそ全て切り裂いたものの。
「ヤアァ!」
直線十枚の板相手への打撃は、五枚目まで立たせたまま風穴を開けたが、六枚目は倒れ、七枚目から最後まではバラバラになってしまった……つまり、失敗。
「(さすがに一回目で決まらないか)」
「だからこそ面白いんだよ、ハードルは高過ぎてもダメだが、低過ぎても張り合いがなくて困る」
現実の二〇倍ある夢の世界の時間経過を生かし、さらに数時間、休憩もちゃんと取りながら、この特訓に明け暮れる。
さしもの朱音も。円状の板こそ全て投げ切れるものの、直線の十枚には手を焼かされたが………本人には悲観も諦観もない。
前世(ガメラ)の頃より、苦悩や迷走こそすれど、どんな苦難、逆境、ピンチを前にしても立ち向かうことを諦めない意志の持ち主だった上に、今や朱音は困難の高さに対し、逆に闘志が燃え上がる体育会系的気質も持ち合わせていた。
そうして、かれこれこれで五百回目。
「(そろそろノンレムに入りそうだから、これで失敗しても成功しても一旦夢は閉じるよ)」
「OK」
朱音はブレーザーを投げる構えのまま、しばし微動だのせず、瞑目し、眼前の鉄の壁たちと対峙する。
夢の中の実時間にして十秒、されど体感ではそれ以上に時が伸びて刻まれる中。
十秒ジャスト。
その瞬間、朱音は開眼と同時に投げつける。
これまで同様、円状に配置された鉄壁(てつへき)は、むしろ一回目よりも正確かつ素早く両断され、ブレーザーをキャッチ、ここまでは良い。
「ハァァァァ――――」
最大の関門たる、残る直線の十枚の一枚目の中央へ。
「オリャァァァァーーーーーッ!」
ハンマーの一打を叩き込んだ。
風穴は、一枚目、二枚目、三枚目―――五枚目を過ぎ―――九枚目も貫き、残る十枚目。
トトが固唾を呑み……朱音が黙して動かず、自らが開けた穴越しに最後の一枚目を注視する中、十枚目も円形に、貫通。
そして、真っ直ぐに群れる鉄壁は―――
一枚たりとも、崩れず、倒れず………かの源氏の悲劇の武将の忠臣であった僧兵の最後の如く、立ち続けていた。
朱音は残心として、姿勢を正して一礼し、しばし頭を下げたまま、採掘場に吹くそよ風を受ける。
これに二十秒ほど時間を掛け、頭を上げ直すると………。
「ひゃほっほ~い♪ ヒャッホォォォ~~~♪ やったぁぁぁぁぁーーーーー!!」
粛然としていた物腰と空気から、一八〇度一変。
ぴょんぴょんと兎の様に軽快に飛び跳ねて、成功できた喜びを噛み締め、満面の笑顔でガッツポーズを取った。この辺、心身ともに大人びていようとも、彼女も年頃の女子であることが窺えよう。
「(わ~いわ~い!♪)」
トトも喜びの気持ちを共有し、朱音の周囲をウキウキと旋回していた。
「「ハイタッチ♪(ハイタッチ♪)」」
そうして二人は、喜色満面のまま、お互いの手をハイタッチし合う。
また一つ朱音が、己が〝技術、技量〟の階段を多数登り上がった瞬間であった。
この歓喜は目覚めてからの、早朝トレーニング中にも尾を引いて続き。
「今日はやけにご機嫌が良いわね?」
「そう? いつになく朝陽が綺麗で風も気持ちいいからかな~♪ ふふ~ん♪」
「私にはいつもと変わらない気がするけど、まあいいわ」
ともに朝トレを日課とする静音とこんなやり取りを交わすくらいであり。
「うわ……早っ!?」
静音が驚くくらい、いつも以上のスピードで臨海公園のジョギングコースを周りに廻るくらいだった。
「ヤタ、トトから何か聞いてない?」
主からの問いに、八咫烏は首を振って否と返答した。
尚、実はこの時も例の敵たちから監視されていたのだが、朱音は割と以上に日頃から日常は大いに謳歌する方だったので怪しまれなかった上に、当人はそれを感づいた上でいつもよりご機嫌に朝トレを励んでさえいた。
中々に、煮ても焼いても食えない、元亀型怪獣である。
明晰夢での柳星張対策も含めた特訓は、初日から一週間は《ヴォルナブレーザー》を実戦で遜色なく扱う為の鍛錬に費やしていたが、その夜は次のステップに至っていた。
今回朱音からの依頼で、トトが設計した明晰夢の〝舞台の一つ〟は、讃州市の市立図書館の、多数の本棚が立ち並ぶフロア。
そこに設置されているテーブルの一つに腰かけ、窓から注ぐ日光を主な灯りに、一言も零さず静かに真剣な表情を維持したままノートへ、鉛筆一本でひたすら〝絵〟を描き続ける。
何ページにも渡って、あるもののデザインを描いては描き進め。
「できた」
ようやく〝決定稿〟へと至る。
今回〝新装備〟実体化する前に、デザインを描き下ろしていたのは、特に相手の遺伝子を吸い取り、技をコピーする能力込みで柳星張対策に力を入れていたが為だ。
「次に作るアームドギアってどれどれ」
トトがノートに描かれた次なる新たな〝アームドギア〟のデザインを見た。
「今回は甲羅シールドの改良版なんだ」
「ああ、名前ももう決めてある―――〝シェルシールドⅡ(ツヴァイ)〟」
「わざわざ2がドイツ語なのも特撮からだよね」
「Of Course♪」
朱音は、鉛筆一本ながら、複数かつ詳細に細かな新機能を備えた、甲羅型の盾の名前を、口にした。
「よし、早速特訓に入ろう!」
「(おぉーー!)」
二人はそのままフロアを出て、一階まで階段を降り、図書館より外へ出た。
そこに広がっていたのは、見渡す限りの砂と巨大な岩場が広がるアメリカの荒野。
今回はここが―――《ドリームトレーニング》の場(フィールド)なのだ。
次回、夜の秘密の特訓Ⅲ:Fly we to the beyondに続く。