GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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早くも特訓回第三弾、取り合えずこれで一息ですね。

サブタイ前々回はクウガ風、前回は響鬼さん風でしたが、今回は蒼穹のファフナーの主題歌風にしてみました。


夜の秘密の特訓Ⅲ:Fly we to the Beyond

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪〟

 

 その夜のトトが設計した明晰夢内に建てられた讃州市立図書館から外へ――アメリカ西部劇映画でもお馴染みの荒野へ出た朱音は早速、館内で試行錯誤を経てデザインした次のアームドギアを含めたシンフォギアの〝機能、機構〟の新たなイメージを脳内にて明瞭に投影させながら、変身する。

 装着されたギアアーマーは、正面から一見すると、ルナアタック直後の頃に〝リビルド〟された(インナースーツに白いラインが増えた)ものと違いが見受け難いが、よくよく見れば大きな変更点がいくつもある。

 まず両腕、両足、腰など全身アーマーは、以前よりも鋭利さが増しながら、航空力学に基づいた空気抵抗をより緩和させて風とより一体になりやすい流線型な形状になり、腕部アーマーの肘部分には推進器が追加されていた。

 

「(腕に付いてるそれ、もしかしなくても、ロケットパンチ?)」

「まあね」

 

 トトの発言の通り、この推進器は《バニシングフィスト》込みで拳撃する瞬間噴射することで、威力をさらに上げる為に付けられたものだ。

 

「でもこれだけじゃないよ」

 

 朱音がそう言うと、関節部近くのアーマー表面にある、ガメラの甲羅模様がある円形パーツが飛び出して大型化したかと思うと、甲羅状の盾に様変わりした。

 

「これがシェルシールドⅡ(ツヴァイ)だ」

 

 以前の甲羅型シールドからの大きな変更点はと言うと、一つ目は今見せたように普段は腕部に小型化し収められ。

 二つ目はスラスターの出力が上がり、より空気力学に基づいた形状となり、投擲時の空気抵抗がより軽減され、速度面も安定面も向上されたこと。

 次に三つ目、朱音は近くにあった岩に盾を近づけると、側面から鋸状の刃が展開され。

 

「私の脳波に応じて、物体に近づくと自動でカッターが開く仕組みになっている」

 

 シェルカッターが、収納展開式となったことと、前は盾本体と一体であったがパーツが分割され、盾と刃がそれぞれ独立して同時に回転できるようにもなったが、これだけではない。

 まだまだ追加機能はある、むしろここからがメイン。

 

「ちょっと盾を軽く叩いてみてくれる」

「(うん)」

 

 トトは盾表面に、トントンとドアをノックする感じで軽く叩いてみた。

 

「(何だか前のより音が綺麗でよく響くようになった気がするけど……もしかして、あのアメコミヒーローが使う)」

「当たり、私のもう一つの祖国の国家理念を体現したヒーローのシンボルな、星条旗シールドに使われている特殊金属と同じ機能がある」

 

 この盾は、実体エネルギー問わず、攻撃を受けると、その際生じた衝撃を分散しつつ吸収し、エネルギーとして蓄積して強度がより増し。

 逆に攻撃する際、溜められたエネルギーを放出して、攻撃力をアップさせることもできるようになった。

 

「実はブレーザーにも、同様の機能が備わっているのさ」

 

 斧刃、ハンマー、穂先、メイスにもシールドと同様の機能があり、柄にも衝撃分散できる仕組みとなっていた。

 朱音が自らの得物(アームドギア)に求める、高い強度と柔軟性の両立を、より高めた格好だ。

 

「さすがに一度に溜めておけるエネルギーの量には、限度があるんだけどね」

 

 但し、都合よくメリットだらけなわけもなくデメリットも存在しており、その両方を正確に理解し、絶えず変化し続ける戦況の中で瞬時かつ的確な判断力と決断力を以てしての適切な運用が、当然ながら求められる代物となっていた。

 

「(朱音、もう一つ〝とっておき〟の機能があるでしょ)」

「あらバレた?」

「(顔に書いてあったもん)」

「これは一本取られたね、トト君の仰る通りだ、百聞は一見に如かずと言うわけで―――盾に火球を一発当ててもらえるかな? できれば君の主演映画の着ぐるみくらいの大きさになって」

「(了解、ちょっと待っててね)」

 

 トトは自身の全身を赤く光らせると、みるみる大きくなり、朱音からの注文の通り、自身の映画の撮影で使われたスーツぐらいの大きさとなった。

 両者は距離を取り。

 

「(準備は良い?)」

「いつでも」

 

 このやり取りを合図に、トトの腹部の『炎』の文字に似た模様が真紅に発光し、そこから発せられる熱で、周囲の大気が揺れ、陽炎を引き起こし。

 

「(トトインパクトッ!)」

 

 トトの口から火球が発射。

 対して朱音は、盾の表面に稲妻を迸らせると同時に回転させ、自身に迫り来る火球を受け止めた。

 すると火球は、稲妻と混ざり合って中和、拡散され、そのまま消失してしまった。

 トトはシェルシールドⅡが見せた技に驚きつつも、その機能の正体を突き止める。

 

「(これって、あのレギオンが使ってた〝電磁フィールド〟ッ!)」

「そうだ」

 

 そう、かつて朱音――ガメラのいる世界に襲来した宇宙怪獣――レギオンが使っていた、彼女のプラズマ火球すらも無効化する電磁波を用いた防御フィールド。

 それを朱音は、自身のギアのプラズマエネルギー操作能力を用いて、再現してみせたのだ。

 

「(敵の能力もちゃっかり拝借してるなんて、念入りに柳星張対策してるね)」

「それぐらいやっておかないといけない強敵だからな、しっぺ返しをくらわされた私にはともかく――」

 

 かの京都駅構内での激戦時、自身の武器で串刺しにしたガメラの右腕からDNAを蒐集した柳星張は、プラズマ火球をコピーして、それで止めを刺そうとした。

 しかしガメラは覚悟を持った決断で、突き刺された右手を自ら火球で破壊、隻腕となった右腕で柳星張の火球を受け止め、《爆熱拳――バニシングフィスト》を叩き込み、逆転の勝利をもぎとった。

 これは柳星張からしてみれば、因果応報な屈辱的敗北でもある。

 ゆえに次に再戦する時は、絶対に奴は自分の能力を二度とコピーしないと、朱音は確信していた。

 しかし……ともに造反神の猛威に立ち向かう戦友たちともなれば、話は違ってくる。

 

「もしも仲間たちの能力が奴にコピーされてみろ、例えば……クリスのイチイバルだったら」

 

 説明する朱音と、それを聞いているトトは、同時にそのシチュエーション―――樹海の至るところを大量のミサイルなどの重火器によって爆発が起きる様を想像し、二人とも鳥肌が立つくらいの戦慄を覚えて一瞬ながら、顔も青ざめられた。

 

「これらの機能はそうなった時、仲間と神樹様を守るのに必要な〝盾〟だ」

「(うん、その為にこうして夢の中でも鍛えているんだもんね)」

「Yeah(ああ)」

 

 散々自分を苦しめた強敵の能力までも彼女が会得したのは、一重に宿敵の脅威から、この結界(せかい)で巡り合えた、仲間――友を守り抜く、誰一人として死なせない、みんな生きてこの戦いを勝ち抜く為の、朱音の〝信念〟の一つでもあった。

 

「まあ、レギオンから拝借した技は、バリアだけじゃないんだな、これが」

「(お~~どれどれそれも見せて)」

 

 シェルシールドⅡを小型化し、左腕のアーマーに仕舞い直した朱音は、右腕のアーマーそのものを変形させる。

 握り拳を覆う形で砲塔が出現し、朱音の右腕そのものが砲身となった。

 

「《フォトンアームキャノン》、ライフルと違って、こっちは雷撃技をメインに使う飛び道具だよ」

「(ということは………今的を用意するから、一発撃ってみてくれる?)」

「分かった、私も試し打ちしたかったからね、九〇式で頼むよ」

「(オッーケー、あ………でもレギオンの技がモデルなんだから、万が一の為に痛覚の〝設定〟は変えておくよ)」

 

 朱音は頷いて応じる。

 トトはパートナーが立っている場所から一〇〇メートル向こうの地点に、陸自の九〇式戦車実物大を顕現させた。

 朱音は翡翠の瞳を戦車(ひょうてき)へ見据え、右腕(フォトンアームキャノン)の砲身を向け、さらにキャノンの形状を変形させる。

 ライフル同様、砲身が伸び、先端の砲口に三角を描いて囲む形で、肉食恐竜の三本爪にも見える三つの突起が添えられた。

 

「行くぞ」

 

 その一言を皮切りに、砲口に橙色の光が点り、三角の突起たちが回転し始め、同色のマイクロ波エネルギーを集束させる。

 砲塔の回転数と、稲妻迸るエネルギーの輝きと轟音が、機械音の大きさごと激しさを増してチャージは進んでいき。

 

「フォトンスパイラルシュート―――ファイアッ!」

 

〝荷電粒子砲〟となったアームキャノンから、橙色の光線が発射。

 ほんの僅かな刹那、九〇式戦車があった地点から、地上より五〇メートル近くもある爆発の大火が、爆音とともに舞い上がり、爆風は朱音たちにまで押し寄せた。

 戦車は光線が着弾すると一瞬で加熱、溶解された果てに、豪火に呑み込まれたのだ。

 

「(たった一発で戦車隊の五〇パーセントを壊滅させただけあるね……って朱音!)」

 

 暴風を身に受け、映画で見た『マイクロ波シェルでレギオンの巨体をも超える巨大な爆発』を思い返しもして、その破壊力に圧倒されていたトトは、一泊遅れて砂場に膝を付けて、肩で息をしている朱音に気づき、駆け寄った。

 

「(大丈夫!?)」

「まあなんとか……トトのお陰で腕も火傷も骨折もしていない」

「(みたいだね、でも熱は一応取っておくよ)」

「ありがとう」

 

トトが両手をキャノンに翳すと、赤熱化していた砲身から熱をみるみると吸い取って行き、オーバーヒートが治まったところで、朱音は変身を解き、久しぶりにシンフォギアの運用による披露で尻餅を付いた。

 

「はぁ……はぁ……うぅ………課題は山積みだな、歌ってもいないのにあの威力と反動と燃費の悪さに、砲身も一発でオーバーヒートと来た」

 

 この時改めて朱音は、かの宇宙怪獣(レギオン)の恐ろしさを改めて思い知らされた。

 今、浅黄たちがいて、宇宙では自身と自衛隊が立ち向かったレギオンの同族たちが星から星へと繁殖しているであろう、あの世界は大丈夫なのだろうか? と心配になるくらいに。

 とは言え、今の朱音にそれを確かめる術はなく、今でもあちらの地球も、人間含めた生命たちも健在であることを、願うしかなかった。

 勿論、この結界(せかい)での自身に課せられた使命も、忘れてはいない。

 

「(まだまだ、鍛え足りないってことだね)」

「だったら………鍛えに鍛えるだけさ」

「(朱音ならそう言うと思った)」

「諦めの悪さは、お互いさまだろう?」

「(言えてる)」

 

 疲労困憊でも尚、朱音の翡翠の瞳に宿る力強さは、一片も削がれてはいない。

 けれども、消耗しているのもまた事実なので。

 

「(でもそろそろ時間だし、一旦夢から出て、休んでおこう)」

「じゃあ、トトの厚意に甘えて今は休むよ、お休みなさい……」

「(お休み、続きはまた後で)」

 

 瞳を閉じた朱音の全身が光り出すと、段々とその輪郭(すがた)がぼやけて消えていく。そうしてトトは相棒の意識を、自身の夢から彼女の深い眠りへと、一度送り返して行った。

 

 

 

 

 

 一度、ノンレム睡眠の海の中で休息を取っていた朱音が、現実時間で一時間ほどして、トトの明晰夢の世界へと戻ってきた。

 ガメラたちは再び、夢の中の讃州市立図書館のフロアに入る。

 次の特訓前に彼女たちは、ノートに筆記しつつ、柳星張の転生体も含めた造反神側の少女(せんし)たちに関わる、二人だけの対策ミーティングを行っていた。

 全容どころか一部すらもベールに隠れた相手の戦力に対する、下手な断定は禁物だが、程よい具合に推測を思案しても、損はない。

 

「(始めのお題は柳星張だね)」

「ああ、私の推理では……造反神は奴に〝勇者システム〟の形で力を与えていると考えている」

 

 根拠は、この神樹様内部の仮想世界の特性と、シンフォギアシステムが抱える短所、そして勇者システムの開発経緯にあった。

 

「(歌いながら戦うシンフォギアに比べたら、まだ勇者システムの方が扱い易いもんね)」

 

 知っての通り、シンフォギアは担い手の心象風景(せんざいいしき)を元にギアが作詞作曲した歌を、半ば本能的とは言え装者自身が実際に〝歌い続ける〟ことで本領を発揮する特性ゆえに、ダメージを受けたりなどして歌唱が途切れば、戦闘能力は一気にダウンしてしまう〝泣き所〟を抱えた、扱いの難しい兵器である。

 それならば、地の神々の力を呪術面と科学面の双方で解析し開発された〝勇者システム〟を付与した方が得策な上に。

 

「それに元は、天の神側から地の神側に亡命してきた造反神由来の対バーテックス兵器だからな……」

 

 ゆえに造反神単体でも、システムを構築し柳星張転生体たちに分け与えるくらいは造作もないだろう、しかも。

 

「神樹様の仮想世界なら、〝満開〟もほとんどノーリスクで使える」

 

 朱音が召喚されたばかりの戦闘にて、静音が見せてくれた勇者システムの決戦機能――〝満開〟。

 本来なら使えば、能力が格段に強化されると引き換えに、多大にして残酷な代償を背負うこの機能は、神樹様の結界内に於いてはその代価を払うことなく発動できる。

 それは仲間たちの勇者だけでなく、造反神側の勇者も例外ではないだろう。

 同様に結界内であれば、シンフォギアの決戦機能にして、現実世界での使用時は装者に掛かる負担(バックファイア)も決して小さくはない〝絶唱〟も、ほぼノーリスクで使える筈だが、満開と違って発動には専用の〝歌詞〟を歌わなければならない短所もある。

 それ以上に限定解除――XD(エクスドライブ)に至っては論外だ。

 大量のフォニックゲインを以てようやく発動できる、奇跡と言う名の大博打を〝戦術〟には組み込めない。

 この世界の響たちのシンフォギアに後付けで搭載されている《イグナイトモジュール》も、使用時間が限定されている為……ノイズやバーテックス相手はともかく、柳星張相手では、雀の涙が良いところ。

 

「奴が勇者と仮定して、満開時にどれくらい能力が跳ね上がるか未知数だが……」

「(静音たちには申し訳ないけど、満開を使っても空中戦で柳星張に張り合える〝勇者〟は……いないと僕も思う)」

 

 このガメラたちは、強敵な怪獣ばかりを相手にした死線を潜り抜けてきた戦士である為に、戦場に関してはメンバー中リーダーの静音に並んで最も〝リアリスト〟な視点と思考で対応している。

 

「私もだ……」

 

 そんな彼女らが、『柳星張転生体が勇者として参戦』と仮定した場合、空中戦では仲間の勇者たちでは敵わないと、特に実際に空で戦った経験がある朱音は、はっきり結論付けていた。

 

「だからもし奴が飛行した時は、私が打って出るしかないか……やはり」

 

 満開やXDなどを除き、神樹様側メンバーで最も空中戦スキルが高いのは、何を隠そう――朱音である。

 だが朱音当人としては、例え相手が満開を発動し空中戦を仕掛けてきたとしても、絶唱に頼らずに対応したかった。

 

「(で、これが対抗も兼ねた装備なんだよね?)」

 

 トトは朱音が書いていたノート内のページを開き、新装備たる〝新推進機構〟のデザイン画を指差す。

 

「その通りだ」

 

 朱音は肯定した。ノートには、ギアを纏った彼女の後ろ姿と、腰部分に付けられた、中央下部に丸型の推進器が備えられた甲羅状のオブジェクトが装着されていた。

 

「よし、ミーティングはこの辺にして、《ブレージングウイングスラスター》の試運転に出るぞ」

 

 

 

 

 

 再び二人は図書館の正面出入り口から外に出る―――と同時に朱音は聖詠を歌い、再びシンフォギアを纏って変身、勿論腰の新装備も実体化されている。

 外の景色は、これはまた朱音からのリクエストで、アメリカ西部の荒野から一変している。

 今度は、天候こそ先の荒野と同様青空と太陽が拝める晴れではあるが――。

 

「(今度は昭和の先輩の聖地――)」

「であると同時に、最初の〝スーパーヒーロー〟の聖地でもある」

 

 地球の最北端、メタ的に言えば朱音とトトの先輩に当る〝昭和ガメラ〟が眠っていた地にして、朱音も言っていたアメコミ最初のスーパーヒーローの秘密基地の場所でもある――北極の真っただ中だった。

 全体の内数少ない陸地のある地域なものの、気温は当然氷点下の極寒の地、風に乗って、絶えず無数の雪の粒子が流れ飛んでいる。

 しかし朱音のギアはプラズマを扱うだけあって温暖機能はバッチリ、トトも神にして精霊だけあり、全く寒風に凍える様子を見せていない。

 

「(前に見せてくれたあのヒーローの映画、僕はあんま乗れなくて、あんな大都会のど真ん中で街を壊しながらのバトル……〝そういうのは怪獣映画でやれ〟だったよ、根っからの正義の味方には似合わなかった)」

「確かにね………でも彼がここで初めてスーツとマントを着て、思う存分に飛び回る姿は、名シーンに挙げても異論はないでしょ?」

「(うん、僕も解放感たっぷりだったあの場面は大好き、思い出すだけで今すぐ大空を飛び回りたくなるくらい凄かった♪)」

 

 実際、朱音もトトも涼しい顔で雑談を余裕に興じられるくらい、雪上を進んでいく。

 

「Wlell(さてと)……まずは動作チェックだな」

 

 朱音が《ブレージングウイングスラスター》と名付けた推進器のある背中へ目を向けると、機具の両端がシンメトリーに展開され、猛禽類と『ガメラ3――通称G3』の頃のガメラの飛行形態時の両腕の特徴が合わさった一対の〝翼〟へと変形し、両足外側の側面部からも小さな副翼が現れる。

 脳波で大小四つの翼を動かし、特に念入りにチェックしている主翼は、G3の頃以上の柔軟(フレキシブル)さを持った可動域の広さを実現していた。

 次に控えめの出力で、足裏、脹脛裏、腰側面、そして新たな主翼の風切部の噴射口を点火。

 浮いては降りを一〇回ループし、次に三メートルほど直立に浮かせた滞空状態で、前後左右に動かす。

 

「よし」

 

 雪原に降りて一旦主翼を畳んだ朱音は、今の準備体操が思った以上に手応えがあった様で、軽くガッツを取ってはにかんだ。

 

「じゃあトトの夢中を一曲分飛び踊り、〝歌ってくる〟よ」

「(行ってらっしゃ~い)」

「行ってきます」

 

 ここからが本番と、朱音は歩き出す。

 

「Music Start」

 

その一声で、《ブレージングウイングスラスター》は再び展開、胸部の中心に据えられた勾玉から、前奏が流れ出す。

 けれどもそれは朱音の戦闘曲のものではない、出だしはギターとオーロラのゆらめきの如きシンセが合わさったメロディ……それが段々とテンポが速まっていき、音色に合わせて朱音は歩行から走りへ、駆け行くスピードを上げていき――一気にスラスター全てを点火させて、急速飛翔。

 同時に曲は転調し、ユーロビートが利いたギターサウンドによる前奏二段目をバックに、雲より上の高度にまで急上昇。

 この曲は、朱音の好みの一曲にして、前世(ガメラ)と同じ、超古代文明を襲う猛威の数々から人類を守った〝光の巨人〟の主題歌である。

 

〝~~~♪〟

 

 朱音は凛として、どこか儚さを携えつつも……もっと高く、どこまでも高く……〝未来〟と称せる大空へ高く羽ばたき、舞い上がり、飛び進まんとする力強さも持った歌声で、歌い始める。

 伴奏と歌詞に合わせ、スラスターを巧みに制御しながら、即興で思い浮かべた振り付けで、空中と言う名の広大な〝舞台(ステージ)〟を、隅々にまで飛び回りながら、全身を一杯に、歌声も一杯に、踊り歌っていた。

 その様相は………まさに〝巫女の舞〟の如き、麗しささえも携え持つダンス。

 そして弦楽器を主体とした間奏に入ると、朱音はスラスターの火を消灯して主翼を閉じ、青空に仰向けたまま、地上へと降りて行く。

 

「(朱音……落ちながら踊ってる!?)」

 

 トトが驚嘆するのをよそに、間奏が盛り上がっていくと共に―――踊り続け。

 

〝―――ッ!〟

 

 そしてメインの主旋律に移り直ったと同時に。

 

(もっと――高く)

 

 曲名にもなっている――〝もっと、高みへ行こう〟――を意味する詩を歌い放って、歌の名に違わず垂直に飛び上がり、太陽を背に、大地の鼓動(マグマ)を連想させるプラズマの粒子を噴き上げた翼(ブレージングウイングスラスター)を、高らかに広げ上げ、羽ばたかせた。

 クライマックスのサビのパートに入り、一層舞踏も歌声も、先鋭に、鮮烈に、躍動的に、優美にして華美に……奏でられ……残る後奏の――FINE――まで〝演奏〟し終え、残心の身構えで締めくくった。

 

 

 

 

 

《ブレージングウイングススラスター》による高機動高速飛行の特訓も兼ねた、夢の世界の北極の地をステージとしたライブをやり切った朱音は雪原の地上へと戻って降り立つ。

 すると、感嘆の余りテレパシーでの声すら出てこないくらいの、トトからの拍手喝采を送られる。

 相棒からの称嘆に、朱音は、バレエの締めのお辞儀で応じた。

 

「(あ~~飛びたい飛びたい! 今度は僕も一緒に飛んでいい?)」

「勿論さ、どうせなら競争としゃれこもう、トト」

「(うん、だ~い賛~成♪ 負けないよ!)」

「私もさ!」

 

 公平を期すために、浮遊していたトトは地上に降り、朱音も右手の握り拳と右膝と左足を雪上に置く。

 トトの両足と朱音のスラスターが点火し、白煙と一緒に周囲の雪の結晶たちが華やかに舞い踊り出していく中―――ガメラたちは真下の雪氷を、派手に割って疾風怒濤に飛翔。

 大気を文字通り盛大に切り抜ける〝強風〟そのものとなって、北極の上空に佇む蒼穹(うみ)に飛行機雲を描き引いて、駆け巡って行くのであった。

 


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