GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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今回は朱音とエルフナインの『おねショタ回』となっております(コラ


夜の秘密の特訓EXⅡ:MOTHERHOOD

 SONG本部内の調理室(キッチン)で、エルフナインも含めたみんなの昼食(ランチ)を作っている、髪をアップに纏めたエプロン姿の私。

 今回は最初に思いついたイタリアンシチューのトリッパと、鮭としめじのバター炊き込みライス、アボカドと枝豆入りシーザーサラダ、野菜が苦手でもごくごく飲めるビタミンたっぷり、雀からの恩返しに頂いた愛媛みかん入りフルーツ野菜ジュース。

 サラダとジュースはもう調理済みで冷蔵庫に保管中、ライスも炊飯器の中で炊き込みを待つだけ、後はメインのトリッパだけであり、ガスコンロ上の大き目の鍋の中でぐつぐつと蒸気が上がって煮込まれるスープを、丹念にお玉で混ぜ合わせている。

 本当は実際にトリッパのメイン食材たる牛のハチノスを使いたかったけど、生憎調理場の冷蔵庫にはなかった、残念……でも香川の風土とオリーブで育てられた讃岐牛の牛もつと、同様に香川県産の讃岐夢豚のロース肉はあった。

 なのでもつと、刻んだ豚ロース肉を代用し、ニンジンに玉ねぎにセロリなどの香味野菜をだしにトマトソースをバジルとセットでペーストし、具の一つにほうれん草も入れ、調味料の一つに米酢も用いているので、実質日伊折衷シチューだ。

 

「おさ~んどん♪ おさんどんおさんどん~♪ I’m a Osandon~♪」

 

 調理への意識は向けながらも(ちなみに今日切歌たちと一緒でないのは、クリスと夏凜ら現〝勇者部〟を仕切る面々をリーダーとした解放地域の見回り任務に駆り出されている為が理由、どうも私からの指示は素直に聞く状況にあのツンデレコンビは先輩として少々〝危機意識〟を持っているらしい、別にそこまで気負わなくてもいいのにな、三人とも大いに二人をリスペクトしてるんだから)、調譲りの『おさんどんの歌』を口ずさみながら、風味とともに赤味が鮮やかに色づいていくスープを茹で進めていると。

 

「今日も絶品に美味しそうなお料理を作ってるね、朱音ちゃん」

 

 ここの調理場と食堂の主であり、普段より友里さんらSONG職員たちのお腹を満たしている、かつて海上自衛隊所属の自衛官でもあったシェフのおばさんが、私の調理模様を覗いて来た。元海自だけあり、あの海軍カレーも勿論調理し、多くの同僚のお腹を満たしてきた腕前の持ち主である。

 

「いつもすみません、厨房(ここ)を使わせてもらって」

「気にせんで、おばさんとしても朱音ちゃんや調ちゃんの料理の腕には、日々勉強させてもらってるから」

「いえこちらこそ、おばさんの技量には大いに学ばされてもらってますよ、シチューに米酢を入れてるのもおばさん譲りですし」

「あらそうだったの? ありがと―――おや大分濃厚に煮上がってきたね♪」

「はい♪」

 

 おばさんと雑談を交わしながら、トマトと野菜とお肉が溶けあった香味を嗅ぐ。

 

「わたしは食材の買い出しに行ってくるから、今日本部に来てる勇者のお嬢ちゃん達のお昼は、頼むわね」

「任せて下さい」

 

 おばさんが材料の買い出しに食堂を出て、讃州市内にある業務用スーパーへと行ってから、二・三分ほど経つと―――食堂に向かって、うら若き女子たちの多様な声たちの積み重ねてでできた喧噪が、近づいてきた。

 厨房から見える食堂の出入り口から、若葉たち西暦勇者とひなた、過去の静音こと清美ら先代勇者中学生組が入ってきたところを目にしてほどなく―――二組の中から、料理の豊穣な香りに釣られて、笑顔で真っ先にこっちに向かって、訓練直後とは思えない元気さで走って来るメンバーが二人。

 

「大朗報だぞみんな~~! 今日のお昼は朱音の手料理だ! 見てるだけでもうタマら~ん♪」

 

 到着と同時にカウンター上を両手で立ったの一人目は、パーカー姿がよく似合うボーイッシュにしてやんちゃ坊主な容姿と口調とが特徴的な西暦メンバーの一人の球子。

 

「朱音さん! その鍋の中の料理って何ですか!?」

 

 歳相応より小柄な身体をぴょんぴょんと跳ねて鍋内のスープに釘付けになりつつ料理の詳細を聞いてきた二人目は、先代メンバーの奏芽ちゃんこと、中学生当時の奏芽である。

 

「トリッパって言うイタリアの牛もつトマトシチューだよ、後鮭としじみの炊き込みご飯にアボカド入りシーザーサラダと、愛媛みかんも混ぜたフルーツ野菜ジュースのラインナップ」

 

 私がメニューを一通り述べると、声にならない嬉しい悲鳴を上げる二人の双眸の潤いと輝きの度合いはさらにからの、よりさらに強くなった。見える――確かに二人の頭にワンコの耳、腰からは尻尾が確かにはっきり見えた。

 ここまでランチを楽しみにしてるとなれば、無論、口からは涎が出てしまっており……奏芽ちゃんなんて、現在の奏芽が見たら悶絶必至な、滝並みの量が口元から流れ落ちるくらい、中学生なのに一種の幼児退行現象まで起こしていた。

 

「あ~~もう!奏芽ったらはしたない!」

「はいティッシュ」

「ありがとうございます朱音さん」

「助かりました、ほら!タマっち先輩もお口吹いて、みっともないったらありゃしない」

「あはは~~これはすまなかったぞ杏」

 

 咄嗟に私は厨房内にあったティッシュボックスを、清美たちの前に置くと、球子と奏芽ちゃんの保護者たちが涎を吹き上げた。球子なんて杏より年上だと言うのに、戦闘時はともかく、日常の場では精神年齢が完全に逆転してる。

 

「全く……鍛錬の疲れで空腹なのは分かるが二人とも、勇者の身でもあるのだから、節度をしっかり持て!―――」

 

 中学生勇者組一同を代表して、球子と奏芽ちゃんに苦言を呈する若葉であったのだが――。

 

「ってひなた!? あ、朱音さんまでまた!? な……何ですかそのやけに生暖かい目線と笑顔は!?」

「「だって若葉君(ちゃん)」」

 

 私とひなたは、若葉本人曰く『生暖かい笑顔』な表情のまま彼女の顔に目を向け、各々自分の口元の端を人差し指一本でとんとんと指差し。

 

「ほらここ、君の凛々しい口(マウス)からも零れてるよ」

「はっ!」

 

 私は、一滴ほどだが零れている上に料理の匂いで顔も実は緩み気味だった若葉にダメ押しで、からかう気満々の我ながらニヤケた顔の一部な口から一言付け加えた。

 そこでやっと己が事態に気づいて顔を真っ赤にした若葉は、これは不味い状況だと神速でティッシュを一枚取り出し、大慌てで自分の涎を一吹きで拭いきろうとする。

 西暦勇者のリーダーにあるまじき醜態を、またひなたの〝被写体〟の枠に捉えられまいとした必死の行動だったが………パシャパシャパシャッ!

 

「無防備な若葉ちゃんのショット!連続ゲッ~~ト♪」

 

 若葉にとっては無常にも紙一重の差で、いつの間にか両手でスマホを構えていた幼馴染はシャッターをスマホカメラの機能で連写。ちゃっかりシャッターを切った分だけ若葉の年頃の女子な一面を写真にして画像保存してしまった。

 

「ひ~~な~~たぁぁぁぁーーーー! せめて今撮られた分だけでも消去させてもらうぞ! カメラを寄越せぇぇぇーー!」

「おっ~と――そうはいきません! ハイ! ソイヤ!」

 

 二人の間の恒例行事と言える、ひなたの〝若葉コレクション〟がたっぷり貯蔵された彼女のスマホを巡る攻防戦、それをある勇者は心弾んで観戦し、まだある勇者は苦笑いを浮かべ。

 

「〝全く〟と言いたいのはこっちね」

「その点に関しましては……同感です」

 

 さらにまたある勇者は、両腕を組んで心底呆れ気味の溜息を吐き、若葉を勇者としても剣士としても〝尊敬〟している者でさえほぼ似た視線で眺めていた。

 西暦勇者のリーダーと巫女による勝負の模様を見る限り、この様子じゃ今日も若葉の負け確定だな――と、早急に判断を下してスープの味見をした私は。

 

「はいはいその辺にして! 丁度今スープもできたから、みんな席で待っててね!スープおかわりもたんまりあるから」

 

 と、一同に声を掛けると、中学生勇者のメンバーほとんどが人それぞれ多少なり差異はありながらも景気よく応じた。

 うん………やっぱり私からの号令やら指示やらには、気前よく応じてくれるメンバーが結構多い気がするんだけど、なぜかな?―――とまた日々のお役目で時に浮かぶ疑問が再浮上してくるも、すぐにお腹を空かせるみんなにランチの提供を優先し直した。現に他のメンバーには聞こえなかったみたいだが、球子と奏芽ちゃんのお腹から、空腹の虫が鳴き出しているのを、ちゃっかり人一倍に鋭い五感の一つたる私の耳は拾っていた。

 

「は……はい」

 

 そんな中一人だけ、気恥ずかしそうに照れて、細々な声を発しそっと手を挙げたが。

 

「ほらほら郡ちゃんも♪ はぁ~~い!」

「た、高嶋さん!?」

 

 親友――高奈の手で、天井に向かってピンっと真っすぐ手を伸ばされてしまう。

 勿論その一人、千景の………時々……自分(ガメラ)とギャオスと柳星張によって運命を翻弄された〝彼女〟の面影が見えてしまう、他者を余り寄せ付けない雰囲気を醸し出しながらも、黒のストレートヘアが似合う大和撫子風の美貌は、さっきの若葉ばりに赤々と染め上がってしまい、翡翠の目で密かに捉えていた私は、配膳準備に紛れてこっそり口元を微笑ませる。

 さてと……これだけの大人数だから、トトも呼んだ方が良いかなと、勾玉を握りしめた。

 勾玉に触れれば、これを通じて私からの思念を送ることができる。滅多に使わないのは使い過ぎれば傍目から思念通話中だと筒抜けになる上に、敵に〝手札〟を悟られたくない事情があったからだが……〝便利〟に依存したくない心持ちも理由だった。でも使える時は、偶にでも使わないとね。

 

 

 

 

 

 一方、エルフナインの私室兼研究室の方では、トトが小さな身体で下手に起こさない様、ベッド上で器用に白衣だけを脱がせて、ショーツを体に被せて寝やすい体勢に寝かし直した。

 

「(このファイルはこの辺に置いても大丈夫かな?)」

 

 ついでにと、研究熱心が過ぎる主によって少々散らかった部屋(それでも翼の汚部屋に比べればか~な~りマシだが)を、本人が〝どこにどれがあるかあったか却って混乱〟させない様留意しながら、整理整頓を軽く行っていた。

 

「(ここまでにしておこう―――ん?)」

 

 と最後の片付けようとしたトトは、ファイル名が目に入り釘付けになる。

 

「(『ドクター・ウェルのデータチップ解析レポート』……)」

 

 ファイル名に明記されている『ドクター・ウェル』なる人物のことは、トトもSONGの記録書を通じて一応存じていた。

 文書越しに受けた印象としては、トトも朱音もほぼ共通して――『生化学者としては優秀極まるが、度を越した英雄願望に囚われたサイコパス、〝英雄〟になろうとしてやらかしたことはアメコミの〝宇宙全体の生命を半分にしようと本気で目論んだヴィラン〟となんら変わらぬ、畜生を極め切った下衆の外道』と、ヒーローを目指さずしてヒーローの精神を胸に宿し、人間(ヒト)を愛するガメラら彼女らでさえ辛辣に下すほどの――〝精神的怪物〟だと断じていた。

 そして二人とも、奴に直接関わった人間は誰も彼もが酷い目にあったと淡々に表記された記録書でも窺えたので、日常でも戦闘でも、話題どころか名前の一言すら口にせずにいた。

 

「(朱音なら、もしこいつと会ったらきっと―――)」

 

〝英雄って称号は結局のところ、人々から偉業と見なされた行為を果たした者に送られる豪華な〝おまけ〟でしかない、そんな英雄に手段選ばずなろうとしてる時点で、お前は英雄からほど遠い場所に奈落にいる、その自意識の魍魎な執着を捨てない限り暗い底辺からは出られないぞ……永遠にな、マッドドクター〟

 

「(なんて言うんだろうな)」

 

 などと想像する一方で、ふと過った〝直感〟から、もしかしたらと思いファイルを開いて読み始めた。

 神樹様から付与された知識で、日本語と英語の読み書きは普通にできるくらいの語学力を今のトトは身に着けている。

 何ページか捲り進めると。

 

「(多分、これがビンゴ)」

 

 そう確信したトトは捲るのを止め、これだと思ったページを読み進めていく。

 

「(ダイレクトフィードバックシステム………あれ? このギアを纏ってる装者って未来!?)」

 

 トトは〝神獣鏡〟のシンフォギアを纏わされた未来の写真に衝撃を受けつつも、さらにこのシステムの詳細を読み進め。

 

「ヴゥゥっ………(最悪中の最悪……)」

 

 ウェルが未来に対して行った非道の数々を思い知り、唸り声を上げるくらいに忌々しく吐き捨てるも。

 

「(でも運用次第じゃ、これで巫女以外の勇者(みんな)にも……)」

「(トト)」

 

〝ダイレクトフィードバックシステム〟と言うマッドサイエンティストが生み出した一種の悪魔の発明から〝光明〟を見い出したトトに、朱音より勾玉を通じたテレパシーが届いた。

 

「(なに?)」

「(ランチができたから、若葉たちの分を配るの手伝って)」

「(うん)」

 

 トトはファイルを閉じて机に置くとその場で霊体化、一気に食堂へと配膳の手伝いに向かった。

 

 

 

 

 

 若葉たちの昼食を配り終えた朱音は、自分とトトとエルフナインの分を乗せた配膳カートを押して、研究室に改めて向かい。

 

「「Excuse Me(Excuse Me)」」

 

 本日二度目の訪問をすると。

 

「ふぁ~~……」

 

 丁度良いタイミングで、エルフナインがあくびを上げて眠りから覚め始めた。

 起き上がって、重さが残る瞼をこすりながら。

 

「はぁ~……おはようございますです」

「お寝坊姫様、もう時計はお昼の一二時の鐘をとっくに鳴らし終えてしまってますよ」

 

 寝惚け気味のエルフナインに、朱音は二枚目の男性的な声音でユーモアを送った。

 

「はい?―――ええぇぇぇ~~! いけません!僕はなんて大ボカな大寝坊をッ!」

 

 今ので一気に意識が覚醒したエルフナインは大慌てでベッドから飛び起きそうになったが、その直前に朱音の両手がやんわりと彼女の両肩に触れ。

 

「ほらエルフナイン君……そこで慌てない……焦らない……」

 

 今度は小さな子どもをあやす様に、翡翠の瞳の瞼が丸みを帯び、穏やかで柔らかな声音によるささやき声と微笑みで、優しくエルフナインの肩をとんとんとしてから次に背中をゆっくりさすり、落ち着かせてあげた。

 

「ありがとうございます、でもどうして朱音さんとトトさんが僕の研究室に?」

「説明は後でするから、まずはランチを食べよう」

「ランチ? はぁ~~……♪」

 

 朱音越しに配膳カートの上に乗った料理たちを目にしたエルフナインの瞳は、煌びやかになり、脳の電気信号は食欲を促進させ。

 

〝~~~♪〟

 

 お腹にいる虫も鳴き出し、エルフナインは正直に空腹を訴える自身の体に苦笑した。

 

「です……ね、では朱音さんが作ってくれた昼食、ご馳走させて頂きます」

「そうだよ、良い子良い子」

 

 朱音はエルフナインのボリュームとウェーブ豊かな髪が乗る頭を撫でてあげた。

 

 

 

 

 

 朱音が配膳に使ったカートには、三人分の食事をじゅうぶん乗せられる即席テーブルに変形できる機能が付いている。

 キャスターを固定し、上部の板を広げて、研究室にあった椅子を料理の前に置き座った三人は同時に合いの手で。

 

「「「いただきます(いただきます)」」」

 

 日本お馴染みの食事の挨拶の礼をして、食し始めた。

 

「朱音さんの料理今日も絶品です! 特にホルモン、ネットでは食べにくいと聞いてたのに、このトマトシチューに入ってるのは柔らかくて食べやすいし、トマトの甘味と肉汁のジューシーさがこんなに合うなんて! 炊き込みご飯も、お米の味を消さずに鮭とバターの味が絡み合って食が進みます! 後々サラダも――」

 

 少々興奮気味に朱音の料理の美味具合を述べ立てるエルフナイン、あわや咽そうな様子だが、さっきの朱音のあやしの効果か、テンションは一定レベルを超える前にジュースをそっと一口飲むなどして対応する程には理性も働いていた。

 朱音とトトは、そんな彼女を微笑ましく眺め、お互いに笑顔を交し合って自分の分のランチを堪能する。

 

「実は僕とキャロルにとってシチューは、家族の……パパの味の一つなんです」

「君のダディって、料理ができたのかい?」

「いえいえ……錬金術による薬の調合は達人の域でしたが、逆に料理は全くのダメダメでした……お肉一つも満足に焼けなくて、カチンコチンの炭にしちゃうくらい」

 

 当時のキャロル曰く――〝不味いし苦いし美味しくないし、零点としか言いようがないし〟とドきつい評価を下しまくっては、自分が料理を作り直していたとのこと。

 

「シチューだって、どうやったらそうなるのは今でも分からないくらい、毒液染みた代物でしたし」

 

 朱音とトトは、フィクション――主にアニメや漫画に出てくるメシマズキャラが作る典型的不味そうな料理を想像した、多分これで合ってると断定して良い。

 

「(でも〝二人〟にとっては……大事な思い出の味だったんだね)」

「はい♪」

 

 ちょっとしたエルフナイン、そしてキャロルの思い出話も込みの雑談で場を華やかせて食事を進めていく内に。

 

「「ご馳走さまでした」」

「おそまつさまでした」

 

 皿に乗ってた料理はいずれも、ソースにスープの残滓を除けば綺麗に食べ尽くされ、食後の挨拶を経て、一旦朱音はお皿の片付けに退室。

 

「それじゃ改めてエルフナイン――」

 

 三度研究室に入り椅子に座ったところで。

 

「――君の研究室に訪問した理由だけど、実は――『かくかくしかじかで』」

 

 一応トトの結界で元から高い研究室の防音性をさらに高めてもらった中、朱音はここ数日自分とトトが行っていた〝秘密の特訓〟を一通り説明した。

 

「トトさんのテレパシーはそこまでの御業もできるんですか……」

「(まあね)」

 

 聞いたエルフナインは、案の定驚嘆の表情を見せる。

 

「藤尭さんから、今日録ったフォニックゲインのデータも端末に送られてる筈だよ」

「確認してみます」

 

 エルフナインが自分の腕に巻かれた端末(スマートウォッチ)を立ち上げて立体モニターを表示すると、確かに藤尭からのメールを受信しており。

 

「凄い!効果覿面ですね!」

 

 比較データを見て、感嘆の言葉と表情を表した。

 

「ああ、実際に想定してた以上の成果は出たんだけど」

「(実際にこの〝夢特訓〟を実施するのは、僕くらいのテレパシーと、神樹様の神託を受けられるだけの神通力が必要で……)」

「だから脳領域の研究に熱心な君に、代用できるものがないか、聞いておこうと思って」

「なるほど、確かに眠りながら夢でも訓練が可能になれば、響さんたちの学業への影響も減らせた上で技量も適合率も向上させられますからね………トトさん、PCの横に置いてあるファイルを持ってきてもらえますか?」

「(うん)」

 

 トトは、さっき自分も見ていた『ドクター・ウェルのデータチップ解析レポート』のページを開きながら持ってきて。

 

「ダイレクトフィードバックシステム?」

「(これのことだよね?)」

「はい」

「トト、どうしてそれだと―――ああ~~私が調理してる間に先に読んでたわけだね」

「(そう、とりあえず……怒りが湧くことも記述されてるから、慎重に読んで)」

「oh……Okey……(ああ……分かったよ)」

 

曰くありげなトトの言い方に思わず英語で応じて、その意味合いを訝しみつつも、朱音は『ダイレクトフィードバックシステム』の項目を読み始める。

 

「ふざけているのか……これは」

 

 朱音の美貌は、読み進めれば進めるほど瞳と眉が大きく吊り上がって眉間が皺寄せ影まででき、ファイルを手に取る両手は両腕ごと震えて肌に鳥肌が立ち、全身が怒りの色に染め上がって行き。

 

「最悪だ……今すぐ奴をあの世から蘇生させて、眼鏡ごと顔を殴りまくってから、神樹様の結界の外に放り込みたい気分だ………Son of a bich!(ドちくしょうが!)」

 

 と――反感、嫌悪感、不快感、不愉快さ、胸糞悪さ、吐き気、精神的アレルギー反応、地の底から湧き出てくる憤怒と言った悪感情の数々を、一切隠さずに全身からオーラは迸りそうなくらい表現して、心底忌々しげにブラックユーモアとスラング語交じりにはっきりと……吐き捨てた。

 しかし前世の経験で、怒りの感情を巧みに分散して受け流しコントロールする術を身に着けていた朱音は、深呼吸を三回ほどしただけで、平常心を取り戻した。

 

「とんだ醜態を見せてしまって、ごめん……」

「いえ、彼の生化学者としての優秀さはともかく、実際にウェル博士と会った方々の評判は、朱音さんの仰る通りの〝最悪〟に相応しい散々なものでした」

 

 実際、ウェルは洗脳する形で未来を神獣鏡の装者に仕立てあげただけでなく、予め用意した戦術プログラムを直接脳に送る専用のシステムヘッドギアを、彼女の頭に文字通りダイレクトに埋め込み、自身の傀儡としたのだ。

 まさに、英雄願望を拗らせ、歪ませ切った挙句、人の道を踏み外し過ぎた悪行所業以外の何ものでもない。

 

「朱音さんからは平行世界の未来さんとは言え、ご友人を兵器に仕立てられたわけですから………それぐらい怒るのも無理はないです」

 

 朱音の心中には察しつつも、通信機越しにやり取りを交わしたことはあっても実際に顔まで合わせたことのないエルフナインでさえフォローしない有様を見ても、本名――ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスの本性は、底知れないものがあった。

 これ以上かのマッドサイエンティストを話題にしていては、一向に本題が進まなくなるので、さっさと移行しよう。

 

「(でも、システム自体の有効性は把握できたでしょ?)」

「まあね、使い様によっては、人工的に設計した夢を複数の人間に見ることはできる」

「はい、対象者の脳内の電気信号を、予め用意した仮想空間に複写して脳構造を接続すれば、理論上はトトさんの能力同様に、明晰夢の生成と共有が可能となります」

 

 ただし、エルフナインが〝理論上〟と加えたことからも分かるように、ことは映画のようにそう簡単にはまた行かないもので。

 

「だがやはり、相応の危険性も高くつく……と……」

 

 少なからず、命にもかかわる重大な課題が存在していた。

 

「そうですね……人の脳内意識ほど複雑に絡み入り組んだ迷宮はございません、最悪の場合を想定しますと……」

「使用した人間同士の自分と他者の境界が崩れ、意識が溶け合い、精神崩壊の果てに植物人間となってしまう可能性も、高い確率であり得る―――ってことだな?」

 

 エルフナインは頷いて、朱音が提示したシステムの危険性を肯定する。

 

「すみません、錬金術を応用させてのシステムの再現に、日々努めてたのですが……前途は多難で」

「いや、君が謝ることじゃない、可能性が少しでもあることは分かっただけでも私たちにとっては貴重な収穫だよ」

 

 朱音は、力及ばずな自身への無力さに嘆きかけるエルフナインをフォローするとともに。

 

「それに――」

「それに?」

「また眠気が来ているんじゃないかい?」

 

 彼女の意識に、再び睡魔が忍び寄っていることも見抜いた。

 

「あっ………分かりますか?」

「分かるよ、明らかにさっきより瞼が細くなってるもん」

 

 ジェスチャー込みでそう応える朱音は、さっき食べた昼食の影響も少なからずあると踏んだ。

 

「だからもう少し休んでおいた方がいい」

「でも……」

「じゃあ私のグランパからの、ありがたいお言葉を送ろう」

「朱音さんのお祖父さんの、ですか?」

 

 朱音は、天井――の外の海中よりさらに向こうの〝天空〟を指差すかのポーズを取り。

 

「グランパは言っていた―――『休める時は徹底して休んで心と体のコンディションをキープする、それでこそ最良最高の仕事ができるもの』だってね」

「はぁ……確かに」

 

 格言を聞いたエルフナインは、睡眠欲が来る脳にも、心から合点が行ったようで感心を見せていた。

 

「午後の予定は特に立ててないから、暫くは私の膝枕を貸してあげる、だから自分をちゃんと休ませてあげて」

「っ………では、朱音さんの膝枕、お借りします」

「よろしい♪」

 

 また一層瞼が重くなって眠気が脳内に入り込んでくる中、エルフナインはご厚意に甘えて、ベッドに腰かけた朱音の膝を枕にして横たわる。

 それを朱音は、先程みたくまた、柔らかく包容力に満ちた笑みで迎い入れた。

 

「朱音さん……」

「何かしら?」

「あの………良かったら、歌を……歌ってもらえますか?」

「いいよ、お安い御用さ、選曲だけど………マリアとセレナの故郷に伝わる童歌でいいかな?」

「マリアさんたちの……では、それでお願いします」

「お願いされました♪」

 

 朱音は深呼吸して準備をすると、そっと口元から、かつて《フロンティア事変》での月の落下による地球存亡の危機から、世界を救うに至らせた童歌――《Apple》を歌い始める。

 

〝~~~~♪〟

 

 彼女の包み込むような温もりに満ちる、母性的な歌声に耳を澄ますエルフナインは、やがて再び、安眠の世界へと、寝入っていくのであった。

 

「Sweet dreams♪(良い夢を♪)」


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