GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
イメージBGM:ウルトラマンダイナサントラより『光よ、ふたたび』※『遠き呼び声の彼方へ』のアレンジでダイゴとアスカの対面シーンで流れた曲。
星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女 後編:MY WILL
過去の静音――清美と銀たちの故郷である大橋市内の、某所に構えているとあるお花屋さん。
「ありがとうございます」
そこにて〝献花〟する為の花々(ブリザードフラワー)、淡い菊に加え――純白の鳴子百合、鮮やかなオキザリス、紅紫の紫羅欄花、黄色の金糸梅、そして青紫の桔梗――らの花たちを買い、ラッピング+花びらにカバーシートが掛けられたものを受け取った私は、瀬戸内海方面の、ある場所へと向かい直す形で歩いて行く。
行き先は、かつて〝瀬戸大橋記念公園〟と呼ばれていた地だ。
潮風の香りが大きくなって、瀬戸内の海へと近づいていけばいくほどに、否が応にも私の翡翠の瞳は見上げてしまう。
今は〝大橋決戦〟と呼ばれている……先代勇者たちとバーテックスどもとも熾烈かつ凄惨な死闘に巻き込まれ、痛ましく大破した――瀬戸大橋。
今日もまた、私の瞳からは………この世界の今の形に至る元凶となった偏狭にして冷酷無惨極まる〝天の神〟へ、嘆きや恨みなどの籠った思念を送って空を仰ぎ見ている様に見えた。
まだ行き先まで距離があるので、ワルキューレウイングF6Dを一時停めておいた有料駐車駐輪場に寄り、愛機後部のサイドに備えてあるロングツーリングシートバック(あるバイク用品メーカーが御社の最新技術で開発した、使わない時はバイクに付けたままコンパクトに折り畳めるので、タンデムの邪魔にならない優れもの)へ丁重に入れて、エンジンの音量もほどほどに、発進。
安全運転を一層心がけて讃岐浜街道の道路上を走り、元瀬戸大橋記念公園敷地内だった雑草たちが生える平原に停めた。中の花束は………大丈夫、全て無事だ。
花びらを覆っていたカバーを外し、私はそっと抱きしめる様に花束を両腕で持って、海鳥たちが泳ぐ空の下、かの場所に向かう。
途中、大赦の手によるものが明白な『立ち入り禁止』と表記された大きな看板が掲げられた鉄条網と、本日二度目の相対をするが、構うものかと、さくっと日頃鍛えた身体能力で、月面で跳ねるが如くジャンプして飛び越えた。
瞳が見据える、扇状に広がるドーム状の傘に覆われたそれは……かつてマリンドームと呼ばれた、休憩と展望とコンサート等のイベントに使われたホール、だった。
じゃあ神世紀の今はと言うと………ドーム傘下の中央部の、元はイベントステージだった六つ分の階段の頂に聳える石碑の前に立つ。
いくつもの結晶が大地から花びら状にそそり出た様な形状をした、ドーム内にある多数の石碑の中で一際大きく……《英霊之碑》と赤い血染みた色の文字で刻まれていたそれの前にある、勇者たちの姿が描かれた扇絵のレリーフ手前な祭壇石の上に、持ってきた花束を置き、二礼して音を鳴らさず手を二拍。
もう一度一礼し、石碑に目を向けたまま二・三歩下がり、背後に振り返ると、ドーム内一面に、一つ一つに大赦の紋が付く多数の小さな石碑たちが、これはまた扇状になるよう立ち並んでいて、亜耶ちゃんは石碑たちの前で、私に背を向ける格好で、まだ立ち尽くし続けていた。
この〝英霊之碑〟とは……若葉たち初代から、銀たち先代までの約三〇〇年、勇者と巫女のお役目を担った、たくさんの少女たちが祀られている、厳かで静謐な空気が流れる場所。
石碑には〝英霊〟と呼ばれていたけど、私には絶望的な災禍に立ち向かった勇者として敬意と、哀悼の意を表せることはできても、その魂がせめて安らかに眠っていると願うことはできても……とても……少女たちを英霊などと小奇麗に装飾された言葉で呼ぶことはできそうにないな……と、心中呟いた。
そもそもの話、さっきまでは小豆島にある昭和の名作映画のロケセットの観光村にいた私達が、どうして今は大橋の石碑(ここ)にいるのかと言うと。
ちょっと遡って、バーテックスとの襲撃から亜耶ちゃんを守り抜けた後に、かの映画村に建っている神社にて、簡易的ながらも祝詞の奏上も兼ねたお参りをした直後。
〝朱音ちゃん、実は―――どうしても連れて行ってほしい場所があるんです、勇者の方々が祀られる、大橋の、《英霊之碑》に〟
その時、強い意志を瞳に携えた亜耶ちゃんたっての切望で、この英霊之碑までカガミブネで移動(テレポート)し、折角の機会と言うことで、私は勇者たちへの献花する花々を買いに行っていたわけ。
「(亜耶ってば、ここに来てからもうずっとあんな感じ……)」
「そうか……」
花を買ってきている間にもしもの事態が起きた際の対策で、亜耶ちゃんと付き添わせていたトトからここ数十分の近況を聞いた私は、足音をできるだけ立たせぬように粛然と……憂いを抱えた小さな背中を見せる彼女の下へと歩き、横並びになる場所で立ち止まった。
お互い、トトも含めてそのまま何も発さずに黙した状態が続き、自分たちの髪をたおやかに靡かす空気の流れと、海鳥たちの歌声が、より明瞭に聞こえた。
私はと言えば、石碑たちにそれぞれ刻まれた勇者たちの名を――。
桐生静。
霜月小梅。
伊地崎麗奈。
照背結乃。
赤城みりあ
千川ちひろ。
臼沢塞。
小瀬川白望。
大和田佳奈。
花木美佳。
横手すず。
千住はるか。
早乙女哀美。
烏丸久美子。
十六夜爽。
巽美智子。
弥勒蓮華。
赤嶺友奈。
一人ずつ、この心に刻みつけていく想いで……胸の内より声にして呼び上げていく。
中には、歯抜けの如く石碑ごと撤去されているのもあった。
多分……一度死亡扱いされながら、多大な代償と引き換えに実は生き延びていた――鷲尾清美こと風鳴……本名《櫛名田静音》と《篠崎奏芽》の、二人だろう。
ただ、静音たちの場合が数少ない例外であり、勿論、石碑のリストには。
乃木若葉。
上里ひなた。
伊予島杏。
土居球子。
白鳥歌野。
藤森水都。
上城彩奈。
雪野上舞彩。
三ノ輪……銀。
今こうして、ともに造反神と配下(バーテックス)、いずれ来るあちら側の勇者たちに立ち向かう戦友(なかま)たちの名前も、刻まれていた。
たとえ否応でも、この石碑たちは………私に一つの揺るがぬ事実を突きつける。
銀たちはもう、この結界の外の〝世界〟である、数ある次元の可能性(パラレル)の中で………もう生きてはいない存在なのだと。
さらに、銀の碑の隣に、名前が刻まれていない石碑が二つ、立っていた。
二つが誰のものかは……どちらもわざわざ問うまでも、問われるまでもない。
一つ目は清美たち先代勇者の一人な剣士にして、勇者システムがアップグレードされるまでの間、自身の肉体と魂を蝕む諸刃の剣の力で、一人孤軍奮闘して散り、両親ら近親者たちが彼女の死と引き換えに位が上がった御家を大赦に利用されることを恐れ、密葬の形で静かに永眠に着いた。
〝篩梨花〟
もう一つ、銀の隣に置かれている方は。
〝郡千景〟
この世界の現特機二課の司令官――郡千明のご先祖にして、三〇〇年の勇者たちの歴史から存在を、仲間であったひなたに一度抹消された……西暦勇者。
現在のゴールドタワーに、《千景殿》なんて二つ名を与えたのだから、もうここにも千景の名前を刻んであげても良いのに………今度次期代表(しずね)に、その件で上申するとしよう。
そしてここの慰霊碑にはもう一人、石碑に刻まれていない西暦の初代勇者がいる。
〝高嶋友奈〟
私が〝高奈〟と言うニックネームで呼び、西暦末の時代に生きた、もう一人にして、最初の〝友奈〟を持つ少女にして勇者。
若葉とたった二人で臨んだ、西暦最後のバーテックスとの決戦にて………神樹様が自らの結界を強化するまでに、二人で最後まで戦い抜いたものの、行方不明になった。
亡骸は一切発見されず………言葉通りの〝神隠し〟。
最終決戦の功績で、彼女の勇者装束の武器――《天ノ逆手》にちなみ、逆手を取って生まれた女の子は〝友奈〟と名付けられるようになり、長い時で風習に変化して行ってからも、結城友奈の様に、現在もかの名を持つ少女が生きていると言うのに………石碑には千景と同様、その名がない理由。
私の推理では、おそらくだが……満身創痍に陥りながら、生きて戦いを終えられたその瞬間、神樹様が――。
「朱音ちゃん………ちょっと、聞いて頂けますか?」
亜耶ちゃんに……いや、この空気では亜耶と呼んだ方が良いか。
「ああ、いくらでも、聞き手になってあげるよ」
亜耶に呼ばれた私は、目線と一緒に意識を、彼女へと傾ける。
身長差で、私からは亜耶の顔は、口元ぐらいしか見えず、ほとんどが髪のベールに覆われてしまっていた。
「私は……今まで……神樹様の御意志には絶対であり、その御意志に背くことの無い様……信仰心を日々強く持ち続け………常いかなる時も地の神々から齎されるご加護とお恵みに対し感謝の思いを忘れず………神樹様に選ばれ御守りする勇者の皆様には最大限の敬意を表し、死してお役目を全うなさってからも、その犠牲を悲しみ哀悼の意を捧げつつも………それは〝英霊〟となった名誉でもあると………小さい頃から、教えられてきました」
「亜耶……」
しゃがんで見上げれば、カミングアウトをする亜耶がどんな顔をしているのか分かる………けど、今の私にはそれを行おうとする気には、なれずにいた。
だって―――声を聞くだけでも。
「ですが………」
泣いていると………分かったから。
愛嬌ある整った口元は咽びの皺で歪み、髪で隠れた瞳から、大粒の涙が、大きな筋となって頬を流れ、水玉となって一滴、また一滴と、大地に落ちていく。
「勇者となった皆さん………ごめんなさい………ごめんなさい……」
見ている私の瞳まで、もらい泣きしてしまいそうなくらい、潤み始め………自分の脳裏には、三つの光景が浮かんできた。
一つは、私(ガメラ)の記憶。
〝どうして、私を助けたの……〟
〝アヤナ! イリスは………死んだんか〟
柳星張との死闘を終え……既に奴によって息を引き取っていた少女――アヤナと、その子の幼馴染だった少年――タツナリを、マナを使い蘇生させ。
〝ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……〟
タツナリの腕の中で、自らの犯した過ちで罪悪感に苛まれるアヤナが、涙を流していた時のもの。
もう一つは、神樹様から、大橋決戦の前に送られてきた、神託の記録(ビジョン)。
〝神様なら……神様ならなんで姉ちゃんを、守ってくれたなかったんだ!助けてくれなかったんだ!〟
清美たちを戦闘不能にし、彩奈と舞彩を殺害したバーテックス三体を、たった一人で撃退したと引き換えに、最後まで生き残ることを諦めずにいながらも紙一重で及ばず、自らも命を落としてしまった銀たち三人のお葬式にて。
〝姉ちゃんは必死に頑張ってただろ!? それなのに―――なんで姉ちゃんを連れて行っちゃうんだよ! 連れてかないでくれよ! 生き返らせてくれよ! それもできない神樹なんか――神様なんかじゃないんだッ! 姉ちゃぁぁぁーーーん!!〟
銀の二人いる弟の上の子で、当時まだ五歳だった三ノ輪鉄男君の、今まで我慢して耐えて抑え込んでいた行き場のない激情(かなしみ)が、一気にあふれ出し、姉の遺影に向かって慟哭し、式場を埋め尽くすほどの泣き声を上げていた……時のもの。
そして……三つ目は、草凪朱音としての、ほんの少し前の思い出の一角。
〝なのに私………軽々しく一緒に戦いたいとか………〝奏さんの代わり〟になりたいだなんて…………酷いこと………翼さんに……〟
〝どうして………どうして響ばっかり! 苦しまなきゃいけないの!? 辛い目に遭わなきゃいけないの!? 辛い想いを背負わなきゃならないの!? 響が一体何をしたって言うの!?〟
響が、未来が、私の友達が……それぞれ流した、落涙の記憶。
思い出すだけで、胸が強く締め付けられる………いずれも、不条理な災禍が齎す過酷な運命に翻弄された子どもたちの、嘆きだったのだから。
「ごめんさない……ごめんなさい……」
そんなかの四人人の涙と……亜耶の瞳から今流され落ちていく涙は。
「私………皆さんのことを………何も知らないで……」
余りにも、よく似ていて……いや、そのものだった。
「都合のいいことばかり口にして………皆さんがどんな想いで………お役目に就いていたのかも知らずに、考えもせずに………酷いことを――」
「亜耶!」
とうとう立っているだけの力すらも失われて、崩れ落ちようとした亜耶を、彼女の両手が地面に接触する直前で私はしゃがみ……抱き止めた。
トトも、小さなその手で、亜耶の手に触れてあげる。
だけど、亜耶の涙はまだ止まりそうになく、私の両手で肩を支えられた亜耶は、そのまま私の腕の中へとそっと飛び込んで………より輪を掛けた泣き声を、勇者たちが眠るこの地一杯に響かせて………よし一層の涙を、私の胸の中で、零し落としていった。
私の瞳も、亜耶の嗚咽に暮れる姿を見続けるごとに潤んでいき………彼女を抱きしめる腕と手が強まって。
(ごめんね………誰も……ずっと………君のことを………助けてあげられなくて、ごめんね)
私の瞼の端からも、閉じると同時に一筋の雫が滴れ流れ………貰い泣いた。
ずっと。籠の中の鳥だった、巫女以前に……一人の少女であった亜耶が、己が涙を静まらせるまで、ずっと私は彼女の小さな体を、包み込むように抱きしめ続けるのであった。
朱音と亜耶、二人の少女が涙を共有し合ってから、数十分後。
英霊之碑のすぐ傍にある、瀬戸内海が眺められる、元瀬戸大橋記念公園の展望台に二人とトトは場所を移し、そこに複数ある大理石の立方体状で一人座り用のりベンチに、それぞれ腰掛けていた。
「はい」
「あ、ありがとう」
朱音は懐からハンカチを取り出し、まだ目元が赤く腫れて濡れ気味な亜耶に手渡した。受け取った亜耶は、ハンカチを折り畳んだまま、瞳の周り涙を丁寧に拭き取っていき。
「ごめんなさい………」
返す時の渡し方も含め、彼女の育ちの良さを窺わせた。
「朱音ちゃんにまで、貰い泣きさせるつもりなんて、無かったのに」
「気にしないで、これは私自身の涙脆さの問題だから、でもお互い、名前だけじゃなくて、涙腺が決壊し易いところも似てるよな」
「はい、そうですね」
一見外見も属性も性格も真逆そうな二人は、巫女の資質保有者同士なことと一文字差で名前の呼びが似ていることの他に、互いの共通項をもう一つ見い出して、微笑み合い。
〝これじゃ奏さんみたいに翼を泣き虫と揶揄えないね、私も大概だから〟
内心に留めたまま、朱音はこっそり自らの涙脆さに少々自虐して微笑した。
「(お待たせ~)」
「Thanks♪」
「ありがとうトトさん」
朱音から渡された小銭で、ここから一番近い自販機で缶飲料を買ってきたトトは、朱音にブラックコーヒー、亜耶にはココアを手渡した。
貰った缶の蓋を開け、二人とも一口ずつの慎ましさで飲みながら。
「あ、そう言えば………まだ朱音ちゃんに会いに来た詳しい理由を、まだ話していませんでした」
「そうだったね」
と相槌を打つ朱音だが忘れてはおらず、敢えて亜耶の方から自ら切り出すのを待っていた次第。
「また長く込み入った話な上に、ちょっとした相談もあるのですが……」
「構わないよ、言っただろ? いくらでも聞き手になってあげるって、それにだ―――勇者部五箇条―――『悩んだら相談』だ」
「なんなのですか?そのお言葉?」
「今代の勇者たちが設立した――『Love & Peaceで世の為人の為になることを率先してやる』――ボランティア部活動の名前と、その部の五つあるモットーの一つさ」
朱音が、現在自分も在籍する勇者部の簡単な活動内容と、謳い文句(Love & Peaceは朱音が勝手に付け加えたものだが)を説明すると。
「『勇者部、世の為人の為、Love & Peace』―――はぁ~~なんと素敵な響きでしょう♪」
「だろう♪ 亜耶ちゃんもそう思うだろう?」
「うんうん♪」
簡易的な概要を聞いただけで、亜耶の瞳は興味津々に、太陽光を反射する瀬戸内海の海原よりも強い輝きを、瞳に宿らせ、朱音も生き生きと応じる。
二人とも、なまじ神樹様に見初められるだけあり、友奈や響たちに負けず劣らずの愛他主義なフィーリングの持ち主だと言い切れた。
「勇者部のことは置いておいて、本題に入るとしよう」
「あ……はい、危うく逸れてしまうところでした」
「気にしないで、話しやすくする前置きだって必要なものさ」
話題が、逸れる前に朱音がフォロー込みで軌道修正を掛け。
「では、お話致します」
「ああ」
亜耶は、一転して真剣な顔つきとなり、聞き役の朱音も、同様の眼差しを有する姿勢に転じた。
朱音の言い回しを借りるなら、幼い頃からのお家と大赦による英才教育によって〝敬虔な神樹様の熱烈な信者な巫女〟の一人であった彼女のアイデンティティーを揺らがす程の代物にして、まだ決して長くないその人生を一変させる転機の第一歩。
「三年前のことなのですが……」
「大赦の組織改革による、防人部隊一斉リストラ騒動の件……だね」
「その通りです」
先代勇者たちの最後の戦いで、静音の名以外は、鷲尾清美としての自分も、櫛名田静音としての自分さえ、その記憶全てを失い。弦十郎の養子にして翼の義姉妹となり、当時に特機二課所属のシンフォギア装者兼ツヴァイウイングのマネージャーとなってとして、奏と翼と、友奈と義妹だった東郷たち勇者部とともにバーテックスとの次なる戦いで記憶を取り戻し、同時に大赦の次期代表となった彼女が執り行った、かの戦いを通じて腐敗の一途を辿っていたと痛感させられた大赦の、大規模な組織改革。
突貫で始められた変革の一つが、当時の大赦が押し進めていた〝国造り〟の中止と、その施策準備の為、結界の外のバーテックスらが跋扈する灼熱地獄の中、数以外は正規の勇者システムよりスペックが劣る装束と武器で危険な任務の数々に従事していた防人部隊の、当人らからすれば理不尽この上ないお役目御免と、即時解散だった。
当然、リーダーの楠芽吹筆頭にメンバーの大半が反発しただけでなく。
「芽吹先輩たちがいつも必死に訓練に勤しみ、命がけてお役目を全うしてきた姿を見て、いつも神樹様に無事を祈願していた〝あの頃の私〟も、突然下されたこの決定に納得がいかなくて………」
部隊のサポーターを務めていた亜耶も、直接静音に直訴し、国造りの計画中止と防人部隊解散の撤回を強く求めたのだが……。
「全く相手にしてもらえず、一蹴されました……」
一応その件を安芸先生の記録越しに存じてはいた朱音は、亜耶と静音が大赦の方針を巡って張り詰めた空気の中、口論している様を想像し。
「もしかしてだけど、その時静音(じきだいひょうどの)から、こう言われなかったか? 『一回一緒に戦場に出たくらいであの地獄を語るなとか、勇者たちがどんな想いで戦い、命を散らし、神樹様の壁を壊したか、彼女たちの苦しみも知らずして、知ったような口を聞くな』――とか………」
「大体、朱音ちゃんの、想像した通りです………おまけに国土家すらも散々に罵倒されました………今ならそう言われるくらい、神樹様に依存し過ぎてる惨めなお家だと、自分でも認識していますが」
しかも、自身のお家まで罵られて泣きそうになっていた亜耶に、『二度とそのような無様な姿で私の前になど立つな!』と、泣きっ面に蜂の針を突き刺したらしい。
「はぁ~……静音ってば全く……」
(どうして彼女は、そうやって敵ばかり作って、清美(かこのじぶん)にさえ反発されるほどに汚れ役の泥を、必要以上に被ろうとするのだか……)
いつもは静音が、よく言えば奔放、悪く言うと問題児とも言える個性の杭が出過ぎるメンバーの行動行為に対しよくやる溜息と、顔に手を当て、頭を抱える仕草の数々を、無意識にしてみせた。
大赦がこの三〇〇年、組織としてどれだけ歪み、腐敗し、末期状態で早急に改革が必要だったかは、静音から聞かされた勇者たちが大赦より被った受難とそれが招いた悲劇の数々と、黒塗りだらけの記録の数々と、トトの視界越しながら、幹部会にて目の当たりにした国土家含めた上層部会の、〝大赦〟に改名した若葉たちが掲げた組織の理念と目的、目標を忘れ、過剰なる神樹様への盲信と、地の神々をバックボーンとした己が権威に耽溺し固執する有様を思い返せば、異邦人な朱音ですら否でも分かるし、亜耶もその頃はご両親同様神樹様に盲従し、大赦からの教えや与えられた役目に何の疑問も湧かなかっただろうし。
もしも………大赦の初期の記録にも黒塗りされず記載されていた〝捧火祭〟に選ばれれば、当時の亜耶なら喜んで承諾し、共に寝食を過ごした防人たちをも悲哀と絶望と無情な奈落に突き落としたことだろう。
ゆえの改革を断行したその頃の静音の決断と覚悟は、理解できる。
だが………やり方、手段の数々に限度や、使い分けだってあるだろうにと、朱音は思わざるを得なかった。
当時の亜耶は、先代勇者小学生組と同じ一二歳……朱音にとって愛すべき子どもに当る年代……もし自身があの世界の住人な装者または勇者だったら、静音と殺し合いすれすれの大喧嘩になっていたかもしれない。
現在でも外見に負けず天使も同然な亜耶を見てると、その頃の亜耶から見た静音が悪魔の頭領サタンの化身か何かに見えなくもない……幸い会って早々、静音の人柄の本質を垣間見てきたので、実際に彼女の株まで堕ちずに済んだ―――がだ。
「前に加賀城雀にも言ったけど、ほんとごめんね………石頭どころか鉄の頭な頭でっかちの融通利かない我らがリーダーで………」
「いえいえそんな! 雀先輩も仰っていたそうなのですが、朱音ちゃんがお謝り必要はございません、今ならば次期代表殿の秘めた思いは少なからず存じてますし、お陰さまで私は―――目覚めることができましたから」
それでも朱音は頭を深々と下げ、下げられた亜耶はあわあわと戸惑って両手を扇状に振り、冷や汗を飛び散らせた。
(あ~~亜耶ちゃんのエンジェルっ振りが眩し過ぎる……あんな境遇の中でよくぞここまで純真な子でいてくれた……その心の強さを讃えたい)
亜耶の心の器の大きさに、心から朱音は感嘆しつつ。
「この三年、亜耶ちゃんなりに、神世紀の歴史を、研究し直してたってことなんだね?」
「はい、巫女としての修行とお役目の傍らにお調べして………如何に大赦(わたしたち)が愚かで、勇者の皆様たちに、三百年の長き代にも渡って、心身ともに多大な犠牲としてきたことを、思い知らされました………そして―――」
〝そして〟―――ここから先にて亜耶の口から紡がれる言葉こそ、自分に会いに来た理由だと推測し。
「―――今でも芽吹先輩たちのことはお慕いしているのですが………一方で、神樹様や、父と母ら大赦の方々を、信じることが、できなくなってしまって、この先………どうしたら良いのか、何を為すべきなのか……・分からなくなっちゃったんです……」
「それが……無断外出してまで、私に会おうとした理由なんだね?」
亜耶は一時俯いて話していた顔を上げ、はっきりとこっくりと、頷き。
「雀先輩から、朱音ちゃんのことをお聞きして………虫が良い話なのも、悩みを解決してくれるヒントをくれるなんて贅沢だと承知の上で………朱音ちゃんに、窺ったんです」
案の定、朱音が直前に見立てた予想は、当たっていた。
無理もないことだ。
以前の亜耶にとって、神樹様への強い信仰も、大赦からの教えも、巫女としての己に課せられたお役目も………〝国土亜耶〟と言う人間の姿形(アイデンティティー)を形作るアイデンティティーだったのも、また………確たる事実なのだから。
「でも、もういいんです………お話を聞いてくれただけでも、さっきみたいに涙を受け止めてくれただけでも、朱音ちゃんには、バーテックスから助けてくれたのも入れて、とても……とっても感謝しているんです、この三年……ずっと胸の中で消えなかったしこりが、やっと和らいでくれたので」
自らの胸に手を当て、自分が切り出した話をお開きにしようとした矢先。
「待って」
掌を突き出した朱音が、制止させた。
「お礼を述べるのは……まだ早いよ」
「え?」
「君の悩みを聞いた上で、私からも、伝えておきたいことがあるからさ」
と言って、朱音はそれまで腰かけていた大理石のベンチから立ち上がり、海側へと歩き出した。亜耶も、朱音の背中を見つめながら、歩いて彼女の後を追う。
「正直に言うとね………」
朱音は、亜耶に一時後ろ姿を向けたまま、打ち明け始める。
「私にも………亜耶ちゃんが抱えてる悩みを、直ぐに解決してあげる言葉なんて、持ってないんだ………ほんのちょっとなら思いを共有して、背中を押して、手伝ってあげることはできなくはないけど」
「………」
「お互いさまなんだ、人は誰だって、生きていく上で迷いに悩みを抱えちゃう、一つ乗り越えたと思ったら、もっと大きいのが来て、登って越えられず落ちて、転んで苦しんで、時にそんな自分の不甲斐なさを攻めることだってある……」
背を向けたまま、朱音は空へと瞳と顔を上げた。
「私だって例外じゃない、むしろ怪獣で神様だった頃からつき合わされてきた………今度私の映画を見る機会があったら見てみて、特に三作目なんて、怪獣だから台詞なんて一切無いのに………悩んで、苦しんで、ブレまくって………たくさんの命を巻き添えにしてきた、落ちこぼれの神様だってことが、よーく分かるから」
ここでようやく、朱音は背後に佇む形だった亜耶の方へと振り返り、瞳を地面に下ろし、今度は朱音が、勾玉が掛かる自身の胸に手を添える。
「今だって、決して少なくない悩みを、歌を生み出すこの胸の奥に、抱えてる」
なぜガメラの記憶を持ったまま、人間に再び転生したのか?
なぜ記憶が蘇ってしまったのか?
なぜ自分の世界の神に当る〝地球の意志〟は、ガメラの力を宿したシンフォギアを、自分に託したのか?
時に、果たして自分は、ガメラの記憶を持った人間なのか?
それとも、先史時代の巫女フィーネの様に、ガメラの意志が、草凪朱音の人格を全て塗りつぶしてしまった存在なのか?
ならば……一体自分は、何者なのか?
「誰でも良い………誰かに、意味や、答えを教えてもらいたかった……」
「朱音ちゃん………」
「けど――」
ここまで亜耶へと打ち明けた朱音は、一転して凛と、決然とした瞳と表情を彼女に向け。
「これだけは、言える」
確固たる意志が反映された立ち姿から、歩き出す。
「意味や答えなんてものは、探して見つけるものじゃない―――自分の手で創造するものなんだって」
そうして朱音は、自分の手が亜耶に届くまでの距離で立ち止まり。
「自分が信じること、自分が心からやりたいこと、自分が今一生懸命にできること………最後には、自分自身の意志で生み出して、決めて、進んで行くしかないんだ」
少しその場で屈み、彼女の肩に優しく触れつつ。
「その為にも、まずはもっと自分も含めてたくさんの命が生きているこの世界をもっと知って、自分ができることを為せるように、何より己自身を信じられるように、よりもっと―――〝心(ここ)〟を鍛えておかないとね、どんな困難にも………負けないように」
自分の胸を指でトントンと叩いて最後にこう付け加え、自分が亜耶に伝えておきたい言葉(おもい)を―――送り切った。
「………」
聞き入っていた亜耶は、朱音の言葉をしっかりと受け止め。
「はい!」
芯に確かな強さの籠った声で、応じるのであった。
『星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女 EX編』に続く。