GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
冒頭朱音たちが歌っていたのはV6のトニセンの『always』がモデルで、映画の方は八甲田山のパロ(役名は変えており、高倉健さんが映画で演じたのは徳島大尉です)。
[chapter:星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女EX:国土亜耶の休日 その1]
愛機(バイク)のワルキューレウイングF6Dの後部席に亜耶ちゃんを乗せ。
「(安全の為にね)」
「トトさんありがとう、サイズもぴったりで助かります♪」
トトが精霊の力の一つ――『自身がイメージした物体を実体化』する能力で亜耶ちゃんの頭に合わせたタンデム用ヘルメットを生成して被せてあげてから、相棒はファスナーを上げたライダーズジャケットの襟元内の、私の胸の膨らみを椅子代わりに座り。
「準備はいい?」
「はい」
「それじゃ――Here~we~go~♪」
「ゴー~~です♪」
亜耶ちゃんの両腕と胴体がしっかり私の腰に回って密着していると確認すると、キーを回してエンジン始動。猛々しくも品のある野太いエンジン音が響き、私はグリップを操作してそよ風ばりの悠長さで安全発進。
未成年な上に、こちらの世界で免許取ってから半年の経っていない私ではタンデムで高速道路を使うことはできないので、小豆島行きのフェリーが毎日運航されている浜松市から讃州市までの香川中部から西部まで縦断できる『讃岐浜街道』に入って、そこから讃州市にまで向かう。この幹線道路たちは、県道と市道と町道がごっちゃ混ぜになっていた為、西暦当時は香川全体の政治課題になるほど管理元がバラバラだったのだが、バーテックス襲来を機に、奴らの出現も含めた災害時に円滑な対応ができる様、香川県が街道上の道路全てを一元管理するに至った経緯がある。
大橋からほど近い大束町に入り、亜耶ちゃんの大切な友人たち――防人部隊のいるゴールドタワーに近づき、もうじき横切りかける。
「友達に顔を合わせておく?」
「いえ、まだ訓練中の筈ですし、急に訪問しても芽吹先輩たちがびっくりされると思うので、予定通り明日の夕方に」
「All right(分かったよ)」
亜耶ちゃんの意志を確認した私は、そのままタワーを通り過ぎた。
「道路状況確認」
程なく懐のスマホと同期したバイクのコンソールで、讃州市までの街道内の交通状態を確認する。よし、これくらいらアプリが報告してくれるまで暫く流せるかな。
空模様も、雲の数と大きさ、閑静さ具合込みで丁度良い蒼穹具合だし。
「トト、テレパススピーカーお願いできる」
「(は~い♪ 僕も丁度そんな気分だったんで喜んで、でも安全運転も忘れないでね?)」
「もちろんさ」
「(一曲目はどれにする?)」
「う~ん、じゃあ―――で」
「(あいよ~Music~Start on a drive~♪)」
トトのテレパシー入力で、端末の音楽プレーヤーが起動。
「あれれ~? 音楽が頭の中で響いてきました」
「そう言う仕様なんだ」
案の定起きた現状を前に驚いた亜耶ちゃんに、トトの音楽を直接脳に送って聞かせる《テレパススピーカー》の概要を簡単に説明してあげた。
「どんな曲なんですか?」
「これはね――」
かの超古代の光の巨人の特撮ヒーロー主題歌も歌ったアイドルグループのカップリングにして、土曜ドーでしょうの主題歌を歌ったシンガーソングライターが、うっかり初代ヴァージョンのメロデイをそのまんまかのグループに曲提供してしまったお間抜けエピソード付きの、されど確かな隠れた名曲である。
「歌詞はちょっと切ないのに、ウキウキして元気も出てくる素敵なお歌ですね♪」
「でしょでしょ♪」
締めまで、かの名曲が流れ終わった瞬間。
「トトさん、今の歌をもう一度流してもらえますか? 今度は伴奏だけで」
「(いいよ)」
「それじゃ、三重奏(トリオ)で行く?」
「もちろんです♪」
再確認したら、さっきよりも交通網はより穏やかになっていたのも後押しになり。
「「「~~~♪」」」
淡い秋の青空の下、街道は良いところで粒子状に煌めきゆらめく瀬戸内の海原沿いに移り、かの曲のボーカルを抜いたInstrumental-Verが流れる中、私ら三人で、三重の歌唱を流れる大気に響き渡らせるのであった。
亜耶を連れて讃州市の寄宿舎の自室に帰宅兼彼女を招き入れ。
朱音→亜耶の順番でシャワーを浴びる。
先に浴びて上がった朱音は、黒のタンクトップにジーパン、首にバスタオルを掛けたラフな格好でベランダに出て。
「ごめんなさいね、今日もまた色々と手間かけさせて」
『もう気にしてないわよ、それに長い目で見て本を正せば………国土亜耶逃走の最大の原因は、私たち大赦にあるわけだし』
スマートフォンでSONG本部内の自室で今日も多様な業務に追われる静音と連絡を取り合っていた。
「さっきのメールでも伝えたけど、明日の夕方まで亜耶ちゃんはこっちで面倒みるから」
『分かったわ、夕方にはゴールドタワーに彼女を送り届けてね、その後は神官たちが迎えに行くから』
「了解、亜耶ちゃんの一泊分の着替えの方もありがとう」
『造作もないことよ』
電話のお題は、今日から明日までn二日間の亜耶の処遇に関する論議である。
朱音が発した通り、次期代表な静音からの施しで、今晩亜耶は彼女の部屋に一泊することになっており、衣服インナーら着替えと歯ブラシ化粧品などの女子お泊りセット一式の入ったバックも寄宿舎に送られ、朱音が帰宅するまでそこの管理人役を担うSONG職員が丁重に預かってもらっていた。
『それで……』
先程までてきぱきとテンポよく応対していた静音の口調が、転じて普段の物腰からはらしくない……歯切れの悪いものへと急に変わる。
「What's up?(どうした?)」
『個人的に、国土亜耶の今の様子はどうなのか? 気にはなったのよ』
(大体分かった)
理由を聞いた朱音は、静音の素直じゃない性分から来る彼女の心境を読み取り、吐息も聞こえぬ様こっそりくすっとほくそ笑んだ。
「多分だけど、国造り計画中止と防人一時解散からのこの三年間の中で、一番心が澄んで絶好調だと思うよ」
大橋公園跡地で勇者部の概要とモットーを話した時の輝かしい瞳、タンデムで寄宿舎へ帰宅地中に、バイクのバックミラー越しに見えた晴れ晴れしい笑顔で覚えたてのドライブ映えする音色の波の流れに乗り、覚えたての歌詞を自分とトトとともに陽気で唄い上げる………歌女(うため)な女の子の姿。
〝都合のいいことばかり口にして………皆さんがどんな想いで………お役目に就いていたのかも知らずに、考えもせずに………酷いことを――〟
それより前に《英霊之碑》の中心で見せた大粒の涙を除き、彼女の三年間を安芸先生の記録越しにしか知らない朱音でも、今の亜耶の心の中の天気は、とても快調なものだと断言できた。
『そう……』
「聞きたいのはそれだけじゃないでしょ? 今でも静音は、勇者部の一員じゃないか」
『勇者部五箇条――悩んだら相談………そうね、今は時間に余裕があるから、ついでにもう一つ、聞いておくわ』
(〝ついでに〟か………〝そう言う人格(とこ)〟が、そういうとこだぞ、静音)
我らがリーダーの有能優秀、卓越した手腕と信念の持ち主な一方で、融通利かずの堅物で一人汚れ役を担う………響や友奈と違う意味合いで歪な自己犠牲精神と、てんで素直じゃない人柄に、今度は複雑な色たちが混じった苦笑を浮かべた。
とは言え、今のリーダーに、ご多忙な日々の中で打ち明けられる相手がいるのは、幸いでもあった。
仕事中に、差し入れを持ってくるなどの朱音のフォローには、確かな効果があったわけだ。
「朱音……」
「yap(うん)……」
『貴方が大赦の記録で見た私の改革のことで……率直な意見を……聞かせてもらえるかしら?』
次期大赦代表に静音が就いて間もなく、若葉たちの遺志と願いを無駄にしない為に断行した、静かに退廃の一途を辿り行く組織の大規模改革の件。
「日本人のイメージする〝率直〟とは比較にならないと、前置(ちゅうこく)しておくけど、それでも構わない」
『承知の上よ』
「分かった………それじゃお構いなく―――すぅぅ~~……――」
むしろはっきりとことん物申して欲しい―――静音の言葉に宿る気持ちを汲み取り、深く深く、いつも歌を歌う直前の時より遥かに大きく息を吸い込んで。
「――In this stubborn basterd & Iron Head. You should know any more adjust! (この頑固ヤローの鋼鉄頭(アイアンヘッド)が、ちっとは加減を知りなさい!)」
声音こそ平常をキープさせたままながら、だが最後辺りは語気やや荒めに――徹底した逡巡も遠慮も抜きのアメリカンな、これが下っ端の大赦神官に限らずお固い組織の下の人間なら解雇になってもおかしくない域の〝率直〟な辛辣度合で、己が意見(ボディブロー)を―――思いっきり静音(リーダー)へ痛烈に突きつけた。
『っ………』
これには覚悟も決めていた静音も息をたまった唾ごと呑んで、閉口させられ。全身も一時固められる。
静音にここまで物申せるのは、異世界からの異邦人な傭兵――装者にして、対等な戦友込みの〝友〟でもあるからだった。
それから実時間にして、五分くらいかな?
三年前の大赦組織改革に関する〝率直〟な感想を、主に義憤で激昂した静音が論戦の際に使っている討論法、通称《静音メソッド》を、テンションや語気は静音本人が使う時より五〇パーセントに抑えた塩梅を意識したまま私なりにこのメソッドをトレースして使い、かの改革の進め方と意志表現と言った運営の問題点を追及しまくる。
内容を上げ出すと、長々と延々説明が続くので、詳細は中略。
「どうせ厳格なリーダーを目指すなら、私は八甲田山の鷹島(たかじま)大尉を参考に推すね」
今挙げた名は、日露戦争より一〇年前の明治期の日本青森県を舞台に、雪中時の軍行対策のノウハウを培う為、〝白き地獄〟を呼ぶに相応しい真冬の八甲田山で、青森五連隊と弘前三一連隊二組に分かれて実行された雪中行軍にて、五連隊の方が遭難し、僅かな生存者を残して大半が凍死すると言う日本最大の軍事訓練事件をモデルとした小説の映画版の、メンバー少数による厳しい指揮系統と防寒対策の徹底で行軍を成功させた三一連隊指揮官の鷹島大尉殿(尚、実在した三一連隊指揮官とは名前が異なる)のこと。
私が警察用人型作業マシンを有する特機部隊な某特○二課の、昼行燈の翼に切れ者な頭脳たる爪を隠した隊長さんと同等に、理想の上官――リーダーとして心から尊敬している架空の人物の一人である。
「じゃあ、今日に関する始末書は一週間以内に提出しますので、失礼致しします」
『ええ……必ず提出するように』
薄々に《静音メソッド》を真似されてしおれている我らが指揮官に、改めて始末書の提出を確約し、私は通話を切り、首のバスタオルを洗濯籠に放り込んで、髪をトドライヤーで乾かす、手入れは一日たりとも怠らず付き合いの長い髪なので、ドレッサーの鏡を使わずともダメージを与えない乾かし方は身体が覚えている。
今ならば、忠言できるお役として翼に風部長にマリアに、過去から召喚された奏さんもいるし、実際の組織運営でも、緩行及びストッパー役になってくれる幼馴染の奏芽と双子の姉の琴音が右腕となっているから、三年前当時ほど苛烈にならなくはなっているけど、諏訪の一件もあるからね………無闇に静音には、大切な友や仲間たちを想い過ぎる余り、これ以上汚れ役の泥に塗れさせたくない。
誰だろうと、どんな形であろうと……天と地、どちらにしても、神々同士が起こす不条理厄災の為に……人が〝人柱〟になるなんて、実際に元神にして神同士の争いに明け暮れた身としては―――もう、御免。
これも我がエゴだと分かっているけど、静音たちにも………そうなってほしくはないのだ。
と――思い馳せながら、乾かした髪を櫛で丹念にまとめ上げ、感触で確認、うん――これでOKっと。
「シャワーありがとう朱音ちゃん、お陰ですっきりしました」
また外出するので、その準備に上着を着替えていると、シャワー上がりたての亜耶ちゃんが顔を出してきた。
服はシンプル過ぎるTシャツと短パンなのだが、そんな風体でさえ、亜耶ちゃんの天使の如き美貌は一切衰えず、同性異性問わずに見惚れさせそうだ。
「髪も私とトトで手入れしておこうか?」
「あ、是非、何分巫女にとって髪は大事なものなので」
日本に限らず世界規模で、昔髪には〝霊力〟が宿るとされ、神道における巫女も、髪は神々と通じる為の重要なキーアイテム、ゆえに現在も大赦(の決まりで)専属の方々も含め、巫女はみだりに〝命〟そのものたる髪を切れず、せいぜい眉を越えて伸びすぎた前髪と、後ろ髪の先を整えるくらいが許容範囲。
ドレッサー前に亜耶ちゃんを座らせ、鏡面と照らし合わせながら、私は端整に細くて肌触りがさらさらとした美髪に残る余分な水分を慎重に取り、トトも細心の注意で優しく研いていき、私たちの努力の甲斐あり、シャワー前よりも亜耶ちゃんの髪は整われ。
「こっちもありがとうね♪ あはは~~♪」
本人も砕けた口調になるほど嬉しそうに両手でふんわりっと髪を靡かせ、その場でくるくると回る。
そんな彼女を見た私とトトは、ハイタッチで互いの健闘を叩い合った。
「これから買い物なんだけど、亜耶ちゃんも一緒に行く?」
「もちろんです、市井の方々はどう食材を調達するのか、前から興味があったので」
斜めに合いの手をした亜耶ちゃんは、顔も傾け喜んで了承してくれた。
はぁ~~やっぱり亜耶ちゃん、君は人であり、天使である――だよ。
もう外の景色は、夕陽に染まっている。
そういうわけで、クーラー機能付きマイバックを肩に掛けた朱音と亜耶とトトらは、寄宿舎を後にし、徒歩にて買い物に出た。
朱音は髪をポニーテールに、紺色と黒と白のチェック柄な三角襟のスウェットに、淡い色で彼女美脚にフィットしたスリムジーンズ。
万が一の迷子対策にトトが頭上に乗っている亜耶の方は、腕に黄色いラインが円を描いている白い 長袖Tシャツの上に、デフォルメされた猫の刺しゅうが入ったピンクのサロペットデニムスカートの出で立ちだ。
行き先は讃州市内にいくつかある商店街の一つ、西暦末期は市内のもあわやシャッター切りのつるべ打ちに遭って消滅の危機に瀕していたが、神世紀に間に行われた再開発事業が成功し、昭和の時代に負けず劣らずの賑わいを現在は取り戻していた。
その一つが、寄宿舎から徒歩でも十五分ほどで行ける場所にあるアーケード――《観音商店街》であった。
讃岐街道の始発にして終着な浜松市にある日本最大の長さを誇る浜松商店街に比べれば譲るものの、それでも地方都市の商店達が立ち並ぶ通りとしては、かなり大きめの方であり、昔ながらの八百屋、精肉店、焼き鳥やクレープなどの立ち食いからレストランまで多種な飲食店、雑貨店、服飾店、眼鏡店、靴屋、ドラッグストア、楽器店――等々の店舗たちが、アーケード街にて壮観に立ち並び、時間帯もあって多くの讃州市民が行き交っていた。
「はぁ~~……」
知識としては知ってても、実際に目にするのは初めてな亜耶は、眼前の光景を前に、感嘆の思いで圧倒されていた。
「もし私とはぐれた時は、迎えに来るまでその場から動かないでね、トトが人避けの結界も貼ってくれるから」
「はい」
朱音に手を繋がれ導かれる形で、商店街に初めて足を踏み入れた亜耶は、友の買い出し様にもまた驚かされた。
店が多数並ぶ道の中、一切迷わず、今日のディナーの料理に必要な食材が置いてある各お店に足を運んでは、山積みされた目当ての食材たちをほんの数秒しただけで選び、店によっては一分も掛けずに買っていく。
例えば八百屋では――。
「このキャベツとニンジンともやしをください」
「あいよ、ホワイトスワン農場で取れた一番生きが良いのを当てるなんて、今日も審美眼冴えてるね朱音ちゃん♪」
「食材確保は早いもの競争ですから、日々目利きの鍛錬も欠かせません♪」
精肉店では――。
「鳥もつ○×グラムと砂肝▽◇グラム、それと豚バラ肉もいつもの量で」
「まいど~~♪ もしかして朱音嬢ちゃん、今日の晩飯って――」
「Sorry(ごめんなさい)、今日は野菜もたっぷり三原風広島焼きなんです」
朱音が合いの手で、純然たる香川県特有のお好み焼き『きも玉焼き』ではないことを詫び入れ、地方独自のお好み焼きを掛け合わせたオリジナルであることを伝えた。
「そっちか~~嬢ちゃんのレパートリー、どれくらえぇあるんな?」
「随時更新中ですよ♪」
「これゆ~て驚いた! 驕らずに精進熱心やな」
「Take me higher(もっとたかく)の精神で精進してますよおじさん」
店主と朱音がお互い自分の腕を叩き合った。
買い物自体はさくさくっと終える一方で、各お店の店員さんらとは気前良くトークする姿を亜耶はまざまざと見つめる。
「もうすっかりこの商店街の常連さんですね、こちらの世界に来てから半年も経ってないのに」
「(朱音の〝進化力〟は、戦闘面だけじゃないんだな~これが)」
「ほう~」
うんうんと繰り返し、この短期間で商店街の人々と打ち解けている朱音に感心して頷く亜耶だった(一応亜耶も安芸先生から、平成ガメラがシンフォギアのようにより戦闘に適した姿へと進化していく生態のことを聞いて存じている)。
ここでの進化とは。創作で使われる強化の類ではなく、環境に〝適応〟する本来の意味の方だ。
幸い、この辺の地理に慣れていない亜耶がはぐれる事態も起きることなく、今日の朱音の買い出しも滞りなくスムーズに終えられ、帰宅の途に付き、もう一角右へ曲がれば寄宿舎はもう直ぐなとこまで来て。
「デ~ス……」
「あ、あやちゃんおかえり……」
「こっちこそ、お疲れ様」
「うん、ほんと疲れた……」
朱音たちからは左側の角の方から、切歌、調、英理歌の三人が、いかにも疲れ切った様子で現れ、こちらと鉢合わせた。
切歌など、すっかり猫背である。
三人とも、今日も気合いたっぷりな先輩装者と勇者に駆り出され、奪還地域の見回りの挙句、樹海での交戦に当てられた後だ。
その為、高一メンバーで朱音と並ぶ料理人な調さえ、買い物に行く暇は無かったらしい。
「朱音……その子ってもしかして静音さんからも連絡あった」
「ああ、紹介するよ、巫女の国土亜耶ちゃんだ」
「はじめまして、国土亜耶です、よろしくお願いします」
亜耶は気品よく姿勢正しく挨拶の一礼をした。
「切歌さん、調ささん、英理歌さんのことは、前から安芸先生と雀先輩からお聞きしておりました」
亜耶が持つ、生来かつ天性の癒しオーラは――。
「なんと可愛い……」
「君は天使か何かなの?」
「デデデース!」
――三人が抱えていた疲労を一瞬で、吹き飛ばしてしまった。
(やっぱり亜耶ちゃんは、人であり、天使だな)
内心こう思いながら。
「それじゃあ今夜のディナーの、三原風広島きも玉焼きができるまでもうちょっと待っててね♪」
「「「は~い♪」」」
今日の献立を伝え、朱音以外のその場にいる全員が、意気良く手を上げて応じたのだった。
それから夜の時間帯に移り、高一メンバー+亜耶が揃った朱音の部屋の中央のテーブルでは。
「さあ、いよいよだよ」
ホットプレートで綺麗なまん丸で焼かれた普通のより大き目な薄力粉の生地の上に、先に痛めておいた焼麺、細かく刻んだキャベツ、ニンジンにもやしとニラ、天かすにとろろ昆布、鳥もつ砂肝に豚バラ肉の野菜もたっぷり焼きそばを見事にぴったり乗せ。
さらに下のものとほぼ寸分違わぬ大きさで薄力粉の生地もう一枚を焼き、鳥もつ野菜焼きそばに乗せ。
「いよいよ卵デスね~♪」
「切ちゃんってばよだれよだれ!」
「もう少しの辛抱ですよ、切歌さん」
「うんうん」
そして広島焼きと言えばこれな卵を、円状に、下も上もふんわりトロトロの絶妙なバランスで焼き。
「One more Egg♪」
「「「おおぉ~~!」」」
その上に片手でさくっと割った卵もう一個の黄身が丁度真ん中に放り込み、一枚目と形を維持したまま混ぜ込み、その上に焼きそばと薄力粉のサンドを乗せてさらにもう一押し分焼き続け。
そして――みんなが固唾を呑んで見守る中。
「3・2・1――GO!」
パンッ!
見事に合わさった生地が、プロの調理負けず劣らずの端整さでひっくり返され、一同から拍手喝采が送られた。
「まるでオムレツみたいなふわとろデ~ス!」
そこに一番手で作り置きしていた。
・中農とオイスターとトマトソース。
・醤油、塩、胡椒。
・ハチミツ。
――これらを混ぜ込んだ特製ソースを表面の卵へとまんべんなく塗り、カロリー控えめのヘルシーマヨネーズをなみなみの網目模様でかけ、最後に青のりと鰹節をふりかけ。
「完成! MY HIROSHIMA焼きフュージョンスペシャル!」
ドーン!(完成した太鼓音)
高らかに宣言して完成したボリュームもたっぷりなお好み焼きに、二度目の拍手の嵐が巻き起こった。
「調、切り分け頼むね!」
「任せて!」
ここに来て、今日のお役目から大分体力が回復した調がヘラを手に構え、キラーンと瞳に光を発したかと思うと。
スパスパッ!
僅か数秒の早業で、亜耶にトトら精霊たちの分も含めたの九等分へと、これまた見事な均等で切り分けられていた。通常より大きめのボリューミーなサイズなので、九分の一分でも、うら若き女子たちにはたっぷりに相当する量である。
二人はそのまま、一枚ずつメンバーと精霊それぞれのお皿に盛りつけ。
「それと、私のスムージーと」
「あ、雀先輩からのおすそ分けですね」
「正解」
冷蔵庫から朱音特製のグリーンスムージーと、デザートの愛媛みかんも人数分テーブルに置かれ。
〝いたたきます〟
五人と四匹は、食事の合掌(あいさつ)を経て、今日のディナーを食し始める。
朱音と調は箸で器用に切り。
英理歌とトトはフォークでさらに切り分け。
切歌は丸ごと箸で掴み上げて豪快に頬張り。
亜耶はナイフとフォークで、高級レストランでステーキを食べる時のように丁寧に切って食しており、トト以外の精霊も食べ方は千差万別。食べる様相だけでも、それぞれ個性が出る何よりの証だった。
一方で極上の美味を芯まで味わい尽くしている点では、調理した本人を含めて笑顔たっぷりに食べる全員、満場一致だったわけだが。
「その生きの良い食べっ振りを見ると、今日もクリスや夏凜たちに扱かれたみたいだね」
朱音が安芸先生と会って、亜耶と行動をともにしている間、切歌たちはクリスと夏凜の先輩教官の特訓と、午後は奪還地域の見回りと、敵襲。
それがどれほどの疲労を齎したのかは、夕刻にて帰宅途中の彼女たちを思い返せば十分だ。
「そうなんデスよ……気合い注入し過ぎデス、明日は休みで助かったデスよ」
「魔法少女事変で、先輩としての責任感に苛まれてた頃よりは、まだずっと良いんだけど………」
「そりゃ一部の年長者の指示には渋って、同い年の私の言葉には素直に聞くからだろ? また〝ベテランだから〟だのどうだのなんて言い訳は、却下」
ギクッ!
あながち間違ってなかったので、三人の胸の内から、そんな図星の音色が響く。
実際前世にて、ガメラとして修羅場を潜り抜け、シンフォギア装者としてもルナアタックを戦い抜き、この造反神との戦いの日々で尚も磨かれ続けている戦闘能力、判断力、戦術眼は、切歌たちからは同い年の友としての友情とともに〝戦士〟として非常に尊敬の念も抱いていた。
「でも先輩たちの指導が厳しくなったの、あやちゃんも原因の一つなんデスよ」
「ここ最近の朱音……フォニックゲインが飛ぶ鳥も越す、鰻登り」
「司令さんの映画鑑賞トレーニング以外に、どんな秘密の特訓をしてるの一体?」
ただ、クリスたちの後輩指導が一段を熱が入っているのは、最近フォニックゲインの数値が急上昇している朱音も、遠因だった。
「悪いがもう少しの間、ヒ~ミ~ツ、謎(ミステリー)は女子をより魅力的にするものだからさ♪」
対して朱音は、人差し指を口に据え、年齢離れした妖しく蠱惑的で無自覚な魔性の笑みではぐらかしつつも(今は造反神側の監視の目を向けられていなかったが、用心の為)。
「どうしても早く知りたければ、敵の出歯亀には注意にしてエルフナインに訊くといいさ」
「エルフナインの研究に、関係してるってこと?」
「まあね」
「じゃあ今日は、その秘密はあえて聞かないでおくデス」
勿論秘密とは、ドリームトレーニングと、ウェル博士の残したダイレクトフィードバックシステムに関することである。
前者はトトのテレパシーと巫女の資質が必須であり、後者は切歌たちにとっては忌々しい、黒歴史と言い切れる〝嫌な思い出〟そのものである相手が開発したテクノロジーによるものの為、せっかくの良い空気な夕食を朱音は台無しにしたくはなく。
また聞き手でいた亜耶の方も、神樹様に懐疑的になった現在でさえ鋭敏さは健在な巫女の直感から、下手に聞かない方が良い話題だと判断して、先の会話の輪には一切入ってこなかった。
(そう言えば……)
そこへ、先の会話で聞き覚えのある名前が切歌たちの口から出たのを思い出し。
「すみません、先程〝夏凜〟ってお名前を耳にしたのですが、もしかしなくても『三好夏凜』さんのことですか?」
「そうだよ亜耶」
亜耶が質問してみると、まず英理歌が応じて。
「自称『完成型勇者』、デスがそう豪語できるくらい頼りになる先輩デ~ス♪」
続いて切歌が、この中の面々では朱音の次に膨らんだ胸を張ったドヤ顔で、尊敬している自慢の我が先輩の一人を説明した。
「あ、やっぱり三好さんだったのですね」
「亜耶って、夏凜先輩と会ったことあるの?」
手を合わせて合点のいった亜耶に、調が夏凜と面識があるのか訊ねる。
「いえ、当時の大赦は巫女と防人に対し、勇者との接触は一切禁じていたので、まだお会いしたことないのですが、防人の内で勇者選抜候補だった皆様から色々お話は聞いておりました」
「その頃の夏凜先輩って、どんな感じだったのデスか?」
「はい、先輩方からの話と、皆さんたちから窺える印象から踏まえると……おそらく今以上にストイックで孤高な姿勢で鍛錬に没頭し、馴れ合いはかなり好まないお人だったみたいですね」
なるほどと思いつつ、いかに友奈たち勇者部によって今の『三好夏凜』になったか、今の亜耶の話からでも想像がついた。
「けどその頃から、世話焼きなところ、あったんじゃない?」
「朱音ちゃんの言う通りです、芽吹先輩――防人の隊長で選考に三好さんと最後まで残った先輩から聞いた話でも、訓練中も困っている他の候補者の方々が放っておけず、アドバイスしてあげたり、体調が悪い人には医務室まで連れて行ってあげたり」
「疲れに効くサプリをプレゼントしてあげたり……もデスか?」
「当たりです、芽吹先輩なんてクエン酸の小瓶を丸ごと貰い受けたそうですよ」
そして勇者部に入る遥か昔から、表面上の言葉遣いと態度とは裏腹に、世話を焼いてしまう面倒見の良い夏凜の人柄はある意味で〝完成〟されていた事実に。
(ツンデレ、デ~ス)
(まさにツンデレだぁ~)
(ツン――デレ……)
切歌、調、英理歌のトリオは心中呟き。
「なるほど、昔から夏凜は『ツンデレ系完成型勇者』だったわけだね~~♪」
「ええ、朱音ちゃんの言う通りかもしれませんね♪ 是非近い内にお会いしたいです」
朱音と亜耶は、そんなツンデレ勇者の人柄ことで、微笑み合う。
今頃当人は、風の噂のくしゃみを吐いてることだろう。
それからも朱音たちは、食べながら話題を変えに替えては、同い年同士のガールズトークの花を、食べ終えるまで絶えず開かせ続けるのであったとさ。