GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
後半なんてまたどこのカブトだよばりに料理描写に力入れ過ぎちゃいました。
でもアウスさんの本編では赤奈チームも登場して絶賛シリアス中なので、一方で彼女たちは日常を謳歌していると描きたくてこのシリーズやってるので
一泊二日の国土亜耶の休日、二日目。午前は朱音らリディアン高等科一回生装者メンバーとともに勇者部活動の一環として、讃州市の観光地の一つである壱ノ宮海岸公園内のゴミ拾いの依頼を終えた。
それから亜耶も含めた高一メンバー一向は、真っ直ぐ軍港に停泊しているSONG本部の潜水艦に直行し。
「極楽デ~ス♪」
艦内設備の一つで、本物のスーパー銭湯のもの以外の何物でもない、ヒノキに岩場や大理石等々で作られた大浴場にて、活動(ボランティア)+朱音のレイライン流れる土地のお清めも兼ねた全員参加型ミニライブで流した汗を洗い。
「善行に励んで思いっきり歌った後の温泉って、こんなに格別だとは思いもしませんでした、気持ちいいです~~♪」
「だろう? 今日も絶好の湯加減で、天国極楽ぅ~ユートピア~♪」
岩場が囲む結構な大きさで、蒸気がもくもくと上がる湯船にてたっぷり浸かり、朱音など即興で歌うくらい、トトら精霊たち含め一同は、温泉が齎す心地よさを満喫している。
ちなみに切歌以外の面々は長髪な上、特に亜耶は巫女の身の上な都合上、腰にまで伸ばしている。なので入浴前に朱音とトトに髪を一対のお団子状に丸めてもらった。ボリュームがあり過ぎて、傍目からはネズミ系キャラクターの被り物をしている様にも見える。
さらに補足として、言わずもがなだが、潜水艦内にこんな立派な銭湯施設があるのは、SONGの運用資金援助も担っている乃木家の御令嬢ズの差し金であると、一応付け加えておこう。
証拠の一つとして。
「凄いです♪ 瀬戸内海と讃州市が一望できるなんて、まるで外から眺めているみた~い♪」
亜耶は銭湯内に設けられた機能に感嘆する。浴場内を円状に取り囲む壁面は防水機能も完備な超高精細超高画質三六〇度モニターになっており、潜水艦の高性能三六〇度式カメラの映像を投影することもできた。
「この光景を、実質〝勇者(わたしたち)〟は独占してるんだ」
「羨ましい……ゴールドタワーの大浴場は窓一つ無かったから」
「私が推薦状出してあげるから、SONGに出向する気になったらいつでもおいで」
「えっ………本当ですか!? う~ん………」
朱音のまた発揮された気前良さに、彼女は少し悩ましい表情となりながらも。
「じゃあ……その気になるまで、今は〝チャンス〟だけ受け取っておくね、朱音ちゃん」
「All Right(りょーかい) 亜耶ちゃん♪ 私はいつだって大歓迎だよ」
「はい」
今は保留の形で、答えた。
〝現在の亜耶〟が神託を受ける巫女役としてSONG入りする………あくまで〝かもしれない〟……いわゆる――〝フラグ〟って代物が立った中。
「「ジィ~~~~っ………」」
先程、一同は温泉を堪能していると申し上げたが、実は先述の表現と実態には、少々ながら……〝差異〟があったとも、言っていこう。
さっきから調と英理歌がジィーっとジト目で、目先を朱音と切歌に固定したまま視線を送り。
(まただね、ハハ…)
(またデスよ……アハハなのデス)
視線と言う名のレーザーを受けている朱音と切歌は、苦笑いを零し合い、肉声に依らないアイコンタクトで仲間からの視線絡みで〝またか〟とやり取りも交し合っていた。
精霊たちの様子もを見てみたら………彼らも〝やれやれ、またこれか〟と言いたげ雰囲気を見せ。
「(裸の付き合いの時はいつもこれだよね……アハハ)」
トトが代表する形で、朱音ら当人ばりに苦笑いを浮かべた。
「トトさん、これは一体どんな状況なのですか?」
唯一事情を知らない亜耶は、そんなトトに訊ねてみた。
「(四人をよ~く見比べてみて、二と二の四で)」
「は、はい……」
トトに言われた通り、四人をそれぞれよ~く注視してみると。
「なるほど、大体事情は分かりました」
「(うん、年頃の乙女の悩みは女子それぞれってね)」
「確かに……私もよく味わされる〝悩み〟です」
事情を察した亜耶は、ヒソヒソと小声でトトと確認し合った。
大人と子の狭間な一〇代のうら若き、年頃で繊細な乙女たる少女たちには、大小あるかつ多種多様な、一人一人に差異や形があれど、共通の悩みが存在する。
それは――己が肉体の発育(せいちょう)度合ってやつである。
ざっくばらんに言えば、身体の育ちが伸び悩むと悩ましく、かと言って……逆に大人の肉体へと、飛び級ばりに進み過ぎても悩ませられる……困った代物だ。
かく言う装者高一メンバーたちも、例外ではない、明言するのは憚れるが……敢えて詳細を話すとなると――。
前者の伸び悩んでいる方は、調と英理歌。
後者の進み過ぎて悩んでいる方が、切歌、そして朱音である。
「調も英理歌も………急に〝発育のエンジンギア〟を上げてきた自分の体に、私がどれだけ苦労したかこの目でしかと見てきた筈デスよね?」
「まさか切歌……その〝ギア〟とやらが急に上がったの、リディアンに入ってからなのでは?」
「一言一句、朱音(あや)ちゃんの言う通りなのデスよ~~……」
まずは、切歌の事情。
身長は同年代の日本人女子の平均より僅かに下程度な一方、日本の学生なら中学三年だった歳ながら実質テロリストの立場だったフロンティア事変の頃の彼女のスリーサイズは――B81・W56・H83。
数値からも分かる通り当時でもそれなりに進んでいた方なのだが、今年の春にリディアン高等科にて遅咲きの学生デビューを飾ってから、造反神のクーデターが起きる夏休み真っ只中までの間に、バストだけでも胸囲の数値は83に、カップサイズも切歌の想像以上に膨らみ具合で……現実では半年も経たない造反神との戦争に入る直前までの間に急成長していた。
「この半年ちょっとで、何度ブラを買い替えた?」
「具体的な回数は秘密デスけど、五本の指分は軽く超えたデス」
そうなると浮上する問題が、下着(ブラジャー)問題、ちゃんと胸の膨らみに合わせた適切なサイズを選ばないと胸に却って負担を掛けて下手すると怪我に繋がりかねない都合上、胸部のサイズが変わればその都度ブラを買い直さなければならない。
当然切歌も、学業と勇者部活動と装者のお役目の傍ら、それなりの頻度で買い直すのを強いられていた。
「胸(ここ)と好みのデザインが一致したのを探すのって……」
「本当難しくて大変なんだよね……」
「ですデスよ~……最初の頃なんてあちこち店回りなくったデスもん」
切歌は朱音と子どもから大人への肉体急成長の悩みの一端を、うんうんと頷きあった。
「でもあやちゃんの苦労に比べたら、私のなんてまだ可愛いもんデス」
「分かる?」
「そりゃ同い年なのに同い年と見られないシチュを結構見たデスし、容易にイメージできるデスよ、高一でマリア並のスタイルなっちゃった悩みの具合」
そして言わずもがなだが、敢えて言えば朱音など切歌以上に成長に恵まれた方の乙女の苦悩を、コンプレックス込みで抱えていた。
ついこの前、神樹様の結界内ながら、現実ならば一六歳の誕生日を迎えてまだ間もない朱音は、妙齢かつそこら芸能人顔負けの、翼に奏にマリアと並んでも全く見劣りしない上に、モデルとグラビアアイドルのバランスに関しては彼女ら以上に一番バランスが絶妙なプロ―ポーションへと早熟している。
ゆえにこちらの世界でも、休日同い年の級友と街へ出ると、ほぼ必ず年上と間違えられるアクシデントに見舞われて朱音の乙女心がダメージを受ける下りは………言い辛いが………健在だった。
〝ジィ~~~……〟
「切ちゃんにあやちゃん……」
「そう言うのを……〝贅沢な悩み〟って言うんだよ」
「デェ~ス……」
「あはは……」
調と英理歌の睨みが利いたジト目の眼力が強まり、切歌は温かい湯船の中で背筋が凍る感覚を覚え、朱音は二人の気持ちを汲み取りつつも、同時に発育が進み過ぎた自分ではどんな表現(ことば)でも彼女らの逆鱗に触れると承知もしていたので、何も言えず苦笑するしかなかった。
調たちの方は、やんわりとした言い方を使うなら、発育は歳相応より余り進んでおらず、一回生当時の響らと比べても、まだ幼さが残る容姿だった。
「自分も英理歌も、やっかみだってこと分かってるけど……」
「私たちから見たら……やっぱり……羨ましい」
調が言った通り……〝隣の芝生は青い〟なんて諺がある様に、調と英理歌からすれば、成長の恩恵を人並み以上に受けている朱音たちに対して………自覚があるのは分かっていても、どうしてもジェラシーな感情が沸いてしまう。
「それに、亜耶も……」
「はい」
二人の羨望の眼光の矛先が、今度は亜耶に向けられ、キョトンとした顔つきに首を斜めに傾げつつ、彼女は視線を合わせた。
「見たところ、八〇はある」
「それで……C」
「えっ!? どうして分かったんですか?」
眼光には平然としていた亜耶もさすがに、二人から現在の自分のバストサイズを当てられては、驚き、ただでさえお湯で紅潮していた頬が羞恥も混じって赤味が増し、咄嗟に両手で自身の膨らみを隠す。
今の亜耶の身長は調くらいなのだが………胸囲(バスト)だけでも数値上八〇かつ、カップもランクにするとCくらいで、おまけに山の形も端整と、朱音と切歌に比較すれば控えめだが、確かに大赦専属時代の防人のサポートをしていた頃より、発育の階段は着実に昇っており………彼女もまた調と英理歌が羨望の眼差しを向けてしまう対象。
その証拠に、両腕で隠した勢いで亜耶の双子山の膨らみは押し上げられ……。
〝ZIZIィ~~~………〟
と、調たちの眼光がさらに強まりかけそうになった直前に。
「デェヤッ!」
音が反響する銭湯内にて、朱音は湯船へ裂帛の気合いたっぷりの雄叫びを上げ、常人なら目にも入らない疾走なる手刀を叩き込んだ。
ほんの刹那だったが………岩の浴槽内の湯水が水面から水底まで、旧約聖書で有名なイスラエル人たちのエジプト脱出のエピソードを想起させる程に、綺麗に――割れた。
湯船の斬撃痕は、即座に塞がり、今の衝撃で舞い上がった分のお湯が豪雨を鳴って降り注ぐ。
今の神技な現象を引き起こし、俯いている上に前髪で双眸が隠れた朱音(ちょうほんにん)を除き、切歌たちは目を大きく見開いて口も開けられたままの放心状態に陥っている。
「お前たち……それ以上亜耶ちゃんにそんな〝下賤な目〟を向けてみろ――」
ゆっくり朱音は表情こそ聖者の如き穏やかな笑みだった………だが、翡翠の瞳から発する眼光とドスさえ聞いた声音は………全く〝笑っていない〟どころか、威圧力をたっぷり調と英理歌に放っており。
「I’ll direct hit on you――Next time(次は――直撃させるぞ)」
槍の穂先を向けるが如く警告(がんこう)を、彼女ら突きつけた。
「「は……はい……すみませんでした」」
放心状態から解放されたことで、自分が置かれた状況を理解した調と英理歌は、湯船の中にいながら背筋が凍って震え出すくらい戦慄し、頭を下げ。
「ガメラ3で見た前世のあやちゃんもあんな感じだったデス~~……」
「渋谷炎上の件ですよね……怒った時の恐ろしさは健在なようで」
「デスデス」
こくこく頷く切歌と亜耶も、全身を小刻みに振動させながら思わず抱き合って煽りを受けていた。
「ならよろしい」
の一言で、朱音から発せられていた怒りのオーラは一瞬で何事も無かった様に消え失せ、湯船も元の穏やかさを取り戻し……朱音以外の高一メンバーはほっと安堵の息を吐いて胸をなで下ろす。
途中こんなアクシデントはあったものの、最終的に一向は温泉が齎す極楽を上がるその瞬間まで味わい尽くすのだった。
一向が湯上りして食堂に移動した頃には、既に時計の針は正午を過ぎていた。
「今日のお昼、どうするあやちゃん」
高一メンバーどころか、造反神との戦争で召喚された勇者装者の中でもトップクラスの調理(おさんどん)技術を持つ朱音と調は、髪を纏め、エプロンを着て手を洗って前準備をしつつ、これから今回の昼食のメニュー内容を決めようとしているところ。
「今回のランチのメインのデータを今調の端末に送ったから、見てみて」
「うん」
調が端末を確認すると、確かに朱音からのデータファイルが添付されたメールが来ており、中身の料理の作り方を見通した。
「美味しそう……切ちゃんたち皆と早く一緒に食べてみたい♪」
ファイルには朱音が書いた料理の完成図の絵も載っており、それは壱ノ宮公園のゴミ清掃後のみんなで歌った《祝詩(いわいうた)》を挿入歌の一つとする《晴レの巫女~Sunny Girl~》劇中にてヒロインが作っていたのを朱音流のアレンジを加えた料理のレシピ、彼女の高い絵画スキルもあって、本物さながらな絵に〝料理人(おさんどん)の血〟が騒いで目を煌かせる調は調理して食したい気持ちが一気に強まった。下手すると腹の虫も勢いで鳴っていたかもしれない。
「あ、それで本部に行く途中にスーパーで」
「そう言うこと♪」
朱音は左手に、軍港の近所にあるスーパーで今日のランチの材料として買ってきた海苔塩味のポテチと、朱音の世界とこちらの世界の両方に昭和の時代から歴史ある〝最初のインスタントラーメン〟――福仁(ふくじん)ラーメンの袋を持って掲げ、調に改めて見せた。
今回のランチのリストは――。
・海苔塩ポテチ豆苗(とうみょう)雑穀チャーハン。
――を、メインに、厨房に残っている食材から二人が検討し合った結果。
・福仁(ふくじん)ラーメン付きパリパリシーザーサラダ。
・かぼちゃとコーンとカリフラワーのポタージュスープ。
・喉に優しい砂糖入りホット緑茶(グリーンティー)。
――のラインナップに決まった、ところで。
「じゃあ早速始めよう」
「うん、切ちゃんのお腹の虫も、今盛大に鳴ってるからね」
「ごはん&ごはんな響のお腹も、私の知る限りこんな大きいのを出した覚えはないな」
食堂の座席にて、備えられたテレビ番組を見て待っている面々の一人な切歌のお腹から鳴った空腹の鈍い音色は、厨房にいる二人の耳に届いてしまうほど、かなり大きめに食堂中に響いていた。
「(今回はどんな選曲で)」
「まったりとした午後に似合うクラシック」
「(オゥ~ラ~イ♪ ポチッとな)」
トトが持っている音楽プレーヤーアプリが起動する自身のスマートフォンへ、朱音は音声入力すると、アプリは彼女の希望通りの、耳に心地良いゆったりと聞く者の気分を柔らかく朗らかにさせてくれるクラシック音楽のメロディが流れ始め、それをバックにいよいよ調理開始。
まずサラダ用のトマトやレタスら鮮度が保たれた生きのいい野菜たちを丁寧かつ手早く二人は細かく切ってサラダボールに盛り付け。
「思いっきり割っちゃって良いんだよね?」
「そう、遠慮抜きの盛大にやっちゃって」
「それなら、えい!」
袋に入ったままの乾いた福仁ラーメンを捻ったり叩いたりでパリパリと割りまくり、中を開けて破片となった麺をサラダに振りかけ、野菜たちと混ぜ合わせ、後はシーザーソースをかけるだけのところでラップをかけ、一旦冷蔵庫に保管。
もう一つ下準備に、複数の生卵を二人は片手のみの手慣れた手つきで割り、黄身と白身を分け、黄身の方も同じく一時冷蔵庫へ。
そして――ここからがメインの料理に手を付ける。
チャーハンは朱音、ポタージュは調担当だ。
スマホから流れる時間そのものも長く引き伸ばしてしまいそうな、ピアノやバイオリンらで奏でられるゆったりとした音色が流れる中、焦らないどころか耳を澄まして聞き入る余裕ももったまま、プロ顔負けの腕を持つ二人の料理人な装者は、てきぱきと調理を進めていく。
二人はそれぞれ担当の料理に使う玉ねぎを包丁で微塵に切り刻み。
朱音の方は続いて豆苗を大体2センチの間隔で切り、しょうがを適量分すり下ろし。
熱していたフライパンにマヨネーズを掛けて溶けたところで表面全体になじませ。
〝ごま油としょ~うがに~~玉ねぎを~~混ぜて~~中火で炒め~~♪〟
英語の即興で作り方を歌唱しながら、玉ねぎがしんなりとしたところで、敢えて常温にさせた雑穀混じりの白米に鶏ガラスープの素と醤油を投入し、そして海苔塩味のポテチを細かく砕いて振り掛けた。
一方で、秋に相応しいかぼちゃコーンポタージュ担当の調の方は。
かぼちゃたちを角切りにした後、サラダ油を弱火で温めていた鍋に刻んだ玉ねぎを入れ、水が飛んで飴色に染まり、ボリュームが半分になるまで炒め。
角切りにしたかぼちゃたち、コーン、コーンクリームにチキンブイヨン、さらに隠し味で黄身と分けた白身を加え、弱火でしばし待機。
ふと、朱音の方を見てみると。
「トト、フォルコーネに変えたな」
「(朱音が口笛吹きたがりそうだったから)」
「Thanks♪ 実はそんな気分だったんだ」
トトの計らいで、流れる音楽がクラシックから、口笛混じりで荒野のイメージが浮かぶアコースティックギターを主旋律とした曲に変わっている。
「映画の曲?」
「そう、エンリオ・フォルコーネ作曲のマカロニ・ウエスタンスコアさ」
「マカロニ? それって普通の西部劇とどう違うの?」
端的に言えば、神世紀からは大昔な二〇世紀の中期にブームを起こした、イタリア映画業界が制作した西部劇映画たちの総称。
そしてエンリオ・フォルコーネとは、マカロニ・ウエスタン込みで多くの映画の名劇伴を生み出したかの時代を代表する作曲家の一人である。
「例えるなら、ハリウッドが時代劇映画を撮るみたいなものかな」
「なるほど、何となくイメージは掴めた………そのハリウッドからしたら、バチモン作られてご立腹だったんじゃないの?」
「その通り、実際当時のアメリカじゃ揶揄の意味で〝スパゲッティ・ウエスタン〟と呼ばれてた、マカロニは日本の映画評論家が独自に付けた名前でね」
「ふ~ん」
アクション映画マニアの弦十郎とオタ友な朱音から今日も映画の豆知識を聞いてうんうんと感心していたところで、フライパンの中を眺めてみると。
「あ、あやちゃん……どうやってこのパラパラを出したの?」
今まさに炒められている最中なお米の状態を前に、調は驚かされた。
中華料理店で見る本場さながらに、具材と混ざり合った米はパサパサ感を醸し出していた。普通なら専用のコンロによる、家庭用のものでは比にならない大火力で炒めないとこうはならない。
「炒める前マにフライパンをヨネーズで塗って、常温または冷や飯で炒めると、専用の器具を使わなくてもパラパラチャーハンになってくれるんだ」
「なるほど……メモっておこう」
調は懐から料理関連のメモ帳に、朱音が明かしてくれた裏技を書き記す。切歌と英理歌、そしてマリアとセレナに美味しいご飯を食べさせたい為に、日々さらなる研鑽は惜しまない。
「そろそろかぼちゃも良い具合じゃない?」
「あ、ありがとあやちゃん」
鍋の中を見れば、かぼちゃ含めポタージュは丁度良い煮込み具合に仕上がっていた。
「お互い出来はばっちしだね♪」
「うん♪」
朱音と調は、五指をOKマークにした手を向け合って讃え合う。
とまあこんな感じで、料理人装者な二人は、互いの調理技術に刺激を受け、その腕を日々高め合い精進しているのであった。
その頃、食堂で料理を待つ組の方はと言うと――。
〝ぐぅ~~~〟
また潜水艦内にしてはかなり広めなフロア全体に響き渡るくらいの。
「まだデスか~~……」
空腹感で力なく机に突っ伏す切歌の声と一緒に、彼女の腹の虫が、これまた大き目の悲鳴の鳴き声を上げていた。
「まだって切歌……まだ三〇分も経ってない」
「もうじきの辛抱ですよ切歌さん、これを乗り越えれば朱音ちゃんたちの料理とカラオケタイムが待ってます」
朱音と調が調理中の間、三人は食堂内に備えられたテレビから流れる番組の内容やら、スマホのSNS上がっているトレンド等を話題の種にししたガールズトークで待ち時間を潰していたが、切歌の体力はそろそろ限界に近付きつつあった――。
「「おまたせ~~♪」」
――ところで、完成して一人分ずつ皿に盛り分けた料理たちを乗せた配膳トレーを押して、二人とトトは笑顔でやって来て、テーブル上に配り始めた。
「待ちわびたご馳走なのデ~ス!」
勇者部メンバー全体でもトップクラスの調理スキルの持ち主な二人の料理だけあり、チャーハンとポタージュスープの香りだけで切歌の体力をテンションごと回復させる。
亜耶も英理歌も、中央にまん丸の黄身が綺麗に乗った海苔塩ポテチ豆苗雑穀チャーハンと、色の鮮やかさととろみが利いたかぼちゃポタージュスープらのラインナップに、瞳を煌かせていた。
配膳作業を終えて、朱音と調も席に着いたところで。
「「「いただきます」」」
一同は合掌し、〝感謝〟の意味と思いが込められた食前の挨拶を声に出し、今日のランチを食し始める。
中央に乗った黄身を混ぜ合わせたチャーハンを掬って口にすれば、溶け合った風味が相乗効果を生み出し、じっくりと煮込ませたスープはかぼちゃとコーンそのものの甘味に、シャキッとした野菜と福仁ラーメンのサラダは程よい噛み応えを、砂糖入りホットグリーンティーは喉をほんのり温め癒しをと、料理たちはそれぞれ独自の旨味を彼女たちへと齎す。
朱音のチャーハンのモデルになった《晴レの巫女~Sunny Girl~》では、主人公と一緒に自身が作った料理を、膨らんだ頬に掌を密着させて食べる仕草をヒロインが見せていたが、それと同様な動作を一同の内の何人が行い、かつ全員が昨夜の夕食に負けず劣らずの笑顔を見せて、今宵のランチの美味をたっぷりと噛み締め味わっているのであった。
(あれ? 静音?)
ふと、朱音はほんの一瞬だったが………食堂の出入り口の方にて、こちらの………正確には自分たちと一緒にいる亜耶の様子を窺いに来たと思われる静音の姿を、確かに翡翠の瞳はしっかり捉えた。
今日も色々とご多忙だろうに、思わず〝なぜ見てるんですッ!?〟と突っ込んでしまいたくなるくらい、わざわざこっそり覗き見に来るなんて。
(ふふ♪……全く我らがリーダーってば、ほんとそう言うとこ―――お可愛いこと…♪)
心中内にて、朱音は静音へこっそりと―――妖しささえ帯びた艶やかで蠱惑的に、微笑んだ。
この後の予定、鍛錬も兼ねた本部内でのカラオケ三昧。
その5、へ続く。