GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
大晦日当日に思いついて急ぎ書き上げた特別篇です、ゆゆゆいでもお馴染み若葉と歌野のうどんそば戦争が題材ですが、来年放送予定でyoutubeで先行公開中な某キャンプアニメネタと言う捻りを利かせつつ、彼女の良い方向での変化も最後に織り込んでます。どういうことかは読んでのお楽しみに。
さて、前世がかの大怪獣ガメラであるシンフォギア装者なわたくし草凪朱音は、地の神々の集合体――《神樹様》が、人類を滅ぼそうとする天の神の業火と、そんな天とは程遠く疫病神な神の使徒たる《バーテックス》から人間社会含めた地球(せかい)のことを自分の中では某ウルトラな特撮ヒーロー風に《ゴッドバース》と呼んでいる。
かの世界が天の神の侵攻で西暦から神世紀となり、世界は唯一神が生み出したものと信じていたユダヤ、キリスト、イスラムら一神教の信者たちの天地を文字通りひっくり返してどん底に突き落としてから約三〇〇年(何せ日本独自の宗教たる神道準拠とした八百万(たくさん)の神々が実在すると証明されたからだ)、今度は地の神々内にて造反神がクーデターを起こして内戦(シビルウォー)を招き、私含めて時空と次元と越えて勇者と装者たちが、神樹様が作り上げた仮想世界(けっかい)にて造反神側のバーテックスと勇者装者たちとの戦争を繰り広げる一方………日常では一年間の恒例行事も存分楽しんだりしている。
私たちは戦士である以前に人間である上に、年頃の女の子でもあるからね。
無論、年末と年越しと新年の年明けも然りなんだけど………。
「うどんだッ!」
「蕎麦よッ!」
師走の、まだクリスマスにも猶予があるあくる日の休日、SONG本部が停泊する軍港内の訓練施設をお借りして、一層激化する造反神側との戦いの備えとして鍛錬(じしゅれん)を行っていた中(この日は私も入れた高一装者組とセレナ、四国諏訪北海道沖縄ひっくるめた西暦勇者メンバーの集まり)。
「あ……また始まってしまいましたね」
「始まったデスよ」
「英理歌、あやちゃん、もうこれで何度目だっけ?」
「さあ……途中までは数えてたのは覚えているんだが」
「朱音と右に同じく、私も……どこまで数えてたかすら、忘れた」
今日もまた、別のとある〝戦争〟が勃発してしまい、私と切歌と調と英理歌とセレナは冷や汗が自然と滴り流れて、苦笑いを浮かべた。
「年越しは蕎麦一択と誰が決めたッ!? 現に香川では年越しの〝しっぽくうどん〟に、年明けうどんもあるッ!」
「いいえッ! 大晦日と言えば全国共通で蕎麦を食べるがお決まりでしょ! サヴィッ!?(お分かり!?)」
「うどんうどんうどんうどんッ!」
「蕎麦蕎麦蕎麦蕎麦ッ!」
西暦末期の時代より召喚された〝西暦勇者〟の内、当時の四国の勇者メンバーのリーダーである乃木若葉と、諏訪の勇者である白鳥歌野。
この二人の口から連呼していた単語二つからお察しの通り、彼女らは自分たちが本来生きている時代から、この結界(せかい)に召喚されてからも、それぞれの故郷の地の名物である麺類を巡る論争を、今日もまた繰り広げていた。
「乃木さんも白鳥さんも……絶対決着つかないの散々分かってる筈なのに」
「耳にタコだぞ……」
「ほんと、ここまで白熱したものとは実際に目にするまで想像もしなかったわ……」
若葉と同じく四国の西暦勇者である杏、球子、千景もまた、額から冷や汗を流し。
「ソーキそば……」
「「ううんッ!?」」
「な、なんでもない……ゴメン……」
ふと沖縄のソウルフード麺を口にした棗も二人のプレッシャーに圧倒され。
「まあまあお二人さんとも、ここは間をとってラーメンを――」
「「どこが間(だ・よ)ッ!?」」
北海道の西暦勇者である雪花が隙あらばと私も一番好きな麺類でもある好物のラーメンを勧めれば逆に二人が結託して反論される有様だった。
「雪花、棗、いくら〝年越しラーメン〟と〝年越し沖縄(ソーキ)そば〟があるからってこの状況で振るのは火に油だよ」
「あはは……朱音さんの言う通りだったにゃ……」
「つい……出来心で……」
加えて今回の〝うどんそば戦争〟は、大晦日の年越し要素も加わって、一層激化の一途を辿っていた。
日本で年越しに食べるものと言えば、一般的には歌野の愛する信州蕎麦含めた蕎麦だが、地域によっては例外も存在する。
例えば若葉も先程言っていたが、私とは料理の師弟でもある結城の方の友奈たち勇者部の発足時メンバー含めた香川県民は、冬野菜をたっぷり入れて煮込んだ香川の郷土料理の《しっぽくうどん》で年を越す家庭も少なくない。
また〝今の私〟のいる次元でも、こちらの次元でも、日本ラーメン協会の惜しみない普及活動で〝年越しラーメン〟を食べる地域も少なくはなかった。
そして、棗の故郷沖縄での年越しに食べる麺は勿論、ソーキそばである。
「そもそも、何で自主練(こんなとき)にまで論争が始まるのよ……それも大晦日限定で」
千景がそうぼやいた矢先。
「それは歌野が、〝一二月と言えば大晦日、そして年の瀬と言えばやっぱ年越し蕎麦よね〟などと言うからだろう!?」
「当然(ナチュラリィ)じゃない! なのに若葉が〝断然年越しも年明けもうどん以外あり得ないだろう?〟と言うからでしょ!?」
当事者たちは今回の〝うどんそば戦争〟の発端を自ら打ち明けた。これではとても鍛錬する気になれず、絶賛停止中だ。
「ごめんなさいね………毎度この二人の大人げない論争に巻き込んでしまって」
「麺のことが無ければ、二人とも仲の良い親友なんですけどね……」
千景と杏が、まだ熱量たっぷりに舌戦を繰り広げる当人らに代わって、一応先輩に当る私たち高一組に詫び入れてきた。
フォローしておくと、若葉と歌野の仲は悪いどころか、背中を預け合う戦友としても、一緒に日常を送る同年代の友達としても、二人の巫女(パートナー)な親友――ひなたと水都――とはまた違った強い信頼関係と縁で結ばれている。
むしろ仲良しだからこそ、どうしても譲れない想いゆえに好物の麺を巡って仲良く喧嘩しな、になってしまうと言えた。
「二人がそう畏まって謝る程じゃないよ」
とは言ったものの、そろそろ昼食時(ランチタイム)……このままでは〝大晦日に食べる〟から〝お昼に食べる〟に論点が切り替わった上でうどんそば戦争が継続する危惧があったので。
「二人とも、熱を入れ過ぎた討論で喉も疲れてきただろう? まずはこれでも飲んで落ち着いて」
「あ………忝いです」
「サンクスね……朱音さん」
私はレモンとハチミツを使った自家製清涼飲料水の入ったストロー付きストローボトル二本を差し出すと、それで我に返った二人は喉の渇きを自覚したようで、一転気を静めてそれぞれ受け取り、鍛錬と討論で体力を消費した心身を水分で潤したところで――今だ。
「もうじきランチタイムだから休憩に入るよ、今日のメインは〝そばうどん〟だ」
「「そばうどん?」」
No~ no~not like that.(違う~違う~そうじゃない)
「〝そばう・どん〟だよ」
聞き慣れない料理名に、若葉と歌野だけでなく、この場にいる私以外の勇者装者の全員が額にはてなマークを浮かばせている中、今や一緒にみんなにご馳走を送るおさんどん係となっている調にこっそりと、アイコンタクトを送る。
こちら意図を大まかながら理解した調は、こっそり私だけに見える様に指をOKマークにして応じてくれたのだった。
「それと、懐かしの〝ソフト麺〟だ」
「そ、そふとめん……デス?」
それから約一時間後の、ランチタイム真っ只中にて、一同は。
「今日のあやちゃんたちのランチも美味しいね郡ちゃん♪」
「うん……♪」
「そうだな、今日もタマげた美味さな上、鶏がやわやわのとろとろだぞ~♪」
「鶏肉に沁み込んだそばつゆと山菜がこんなに合うなんて……」
朱音が作った。甘目のそばつゆで鶏肉をじっくり柔らかくなるまで煮込み、香川で取れた山菜をたっぷり混ぜた炊き込みご飯に乗せた――蕎麦鵜丼(そばうどん)。
それと――。
「このうどんでも蕎麦ででもない……もっちりとした食感……」
「バーテックスが出てくるちょっと前に給食で食べたことあったのに………懐かしい歯ごたえだにゃ~ん」
「うん、確かに懐かしの味」
調が作った。香川の冬野菜と中華だしに、かつて日本の給食で子どもたちの舌を唸らせた正式名称――ソフトスパゲッティー式麺(神世紀では丁度今年にこの麺の味を三〇〇年越しの再現に成功し、一般販売されたばかり)を使った味噌スープ――の二種。
プロのシェフ並みの調理スキルを持つ朱音と調の作った料理は、今日もそれを食する勇者と装者たちを魅了し、笑顔に満ちた昼食の風景を生み出していた。
「しかし朱音さん、この蕎麦つゆを使った丼はとて美味しいのですが、どうして〝そばうどん〟と呼ばれているのですか?」
「それはね……むしろトトの方が詳しい、相棒、この料理の由来を話して」
名前の由来を聞かれた朱音は、微かに切なさを帯びた声音で説明のバトンをトトに託した。
「(これはね、映画では語られなかったけど、僕の生まれ故郷の郷土料理なんだ)」
トトの世界の日本の、ガメラの誕生地でもある港町、三重県志摩市大王町では、かつて海の漁業だけでなく、観光も兼ねた鵜飼業も〝かつて〟盛んであった。
その鵜飼に使われた鵜の餌として、そば粉も混ぜた飼料が使われていた。
「(けど……みんなも知っての通り、僕の世界でもギャオスが世界中で大暴れしてね、僕の先代が命と引き換えに奴らを駆逐したけど……)」
大王町の漁業は鵜飼業込みで破綻してしまった。
幸い先代ガメラが残した恵みの置き土産と言える〝緋色真珠〟が代わりに大王町のメインの特産品となり、ギャオス災害の爪痕だけでなく一時期の市町村合併の荒波も乗り越えてきた一方、日本全体のインフラが回復するまでのブランクで鵜飼業の技術は廃れてしまった。
だがせめて、大王町にて確かに存在した文化を後世にまで残そうとした町民たちによって生み出された郷土料理こそ………《蕎麦鵜丼》だったのだ。
「こ、この料理に………そんな誕生秘話があったなんて……」
「なんてエモーショナルで……センチメンタルな話なの……」
トトからこの話を聞かされた若葉と歌野+αは、思わず瞳に潤いが溜まりかけていたが。
「あ~~若葉、歌野……ちょ、ちょっとぉぉ~~待ってもらえるかな?」
「まさか二人がそこまで感極まると思わなかったから……早い内に謝っておくね」
「「ごめんなさい(ごめんなさい)」」
「「え?」」
そんな中、朱音と調とトトが席を立って、二人の前で深々と頭を下げ。
〝デッデデェーン♪〟
と、文字にするとこんな効果音とともに、トトは精霊の能力で具現化された持ち手看板が……板の表面には〝ドッキリ大・成・功!〟とロゴが描かれていたが。
「………」
突然のことで若葉と歌野は呆気に取られて思考停止、反対に二人の親友であるひなたと水都に、一部除く勇者装者は各々納得した表情を浮かべている。
「実は、蕎麦鵜丼自体はこの世界でも実在する料理なんだけど……」
「トトが話してくれた由来は………」
「〝うそやで~~〟……なんだ」
「なんだ嘘だったんだ……って、ええ!?」
そして朱音と調とトトは、気まずそうな笑みでこれがいわゆるバラエティ番組でもお馴染み〝ドッキリ〟であることを打ち明ける。
調理している間、せっかくの休日を使ってまで行われていた鍛錬をうどんそば戦争で浪費した二人の行為に、少しのお灸のつもりで、二人と一匹が思いついた代物である。
「まあ何というか、孔子の言う〝兵は詭道なり〟ってやつさ」
「「な――なんだってぇぇぇぇ~~~ッ!」」
ようやく思考の冴えが戻り、蕎麦鵜丼に関する先のエピソードが〝ドッキリ〟だとようやく理解した二人は絶叫し。
「タマの感動を返せぇぇぇ~~~!」
「タマっち先輩ってば……もう……」
「私も信じてちゃったデスよしらべぇぇぇ~~~!」
「切ちゃんも……ほんとごめんね、アハハ」
続く形で、同じく本当の話だと一時信じてしまった球子と切歌も、思わず叫んでしまう。
それ以外の面々は、多少の気づくまでの差はあれど察しており。
「これは若葉ちゃんも歌野さんも」
「一本、取られちゃったね」
ひなたも水都も、早い段階でこれがドッキリだと感づいていたが、今後造反神側の勇者と装者たる赤嶺友奈一味がどんな搦め手を使ってくるかの懸念の込みで、敢えて言わずにいた。
この程度の嘘(ドッキリ)に簡単に引っかかっているようでは、今後の戦いに勝ち抜くどころか、日常でおちおち互いの心から愛する麺類を巡っての討論もおちおちできないと当人らも痛く感じた様で、午後からの鍛錬にはいつも以上にストイックかつ一生懸命に励む二人の西暦勇者なのであった。
余談として、若葉たちの大仰なリアクションに一同が夢中になっている間、悟られぬ様こっそりと唇を固く締め、さらに重ねた両手で塞ぎつつも、しかし思いっきり笑っている、黒髪ロングの西暦勇者が一人。
「(千景?)」
「はぁっ!」
「(大丈夫、今の声は防音しておいたから)」
トトが呼びかけると、その勇者――千景がほんの一瞬ながら、口から笑い声の残滓が混じる驚愕の声が漏れたが、咄嗟にトトが張った結界で高嶋(しんゆう)と若葉(ライバル)含めた周囲には悟られずに済んだ。
「(トト……お願いがあるんだけど)」
「(大丈夫、千景が大笑いしてたことは、高嶋(ゆうな)も入れて誰にも言わず閉まっておくから)」
「(あ、ありがとう………はぁ……)」
口外しないとトトは約束してくれたので、千景は密かに安堵の息を零し。
「(自分でもこんなに大笑いするなんて………知らなかった)」
「(朱音が言ってたよ、人は自分が思っている以上に面の皮は多いし、分厚いって)」
「(そう……確かに朱音さんの言う通りかもね………でも………悪くないわ)」
「(だね♪)」
これまた、ひっそりこっそりとトトの結界の中で、はにかんだ表情(かお)を見せる千景なのであった。
終わり。