GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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草凪朱音-ガメラ-の勇者御記~戦姫と勇者の二重奏XDU外伝~:23.5-厳しさの不調和

今回は二重奏XDU本編23話で描かれた展開の裏での朱音の動向がメイン。
『不調和』とは『違い、差異』と言う意味で、歌をテーマとしてるシンフォギアにぴったりと採用。
そんなサブタイ通り、あるキャラが相手に厳しい態度を見せる場面が多く出ますが……その『厳しさの質』は全く異なっております。


23.5 - 厳しさの不調和

 三人目の友奈こと赤嶺友奈、柳星張(イリス)転生体――比良坂真矢、平行世界の立花響ら造反神側の勇者と装者たちとの本格的武力衝突となった第三次愛媛未開放地区奪還作戦。

 結果だけ見れば、今回もいわゆる神樹様側の我ら勇者装者部隊が、領土解放含め、勝利することはできたが………同時に静音をリーダーとするチーム全員が作戦に出向いた間にSONG本部が停泊する軍港施設ごとバーテックスの襲撃を受けたことで施設は甚大な被害を受け、その上勇者と装者にそして巫女たちと、彼女らサポートするSONGスタッフらを護衛する役を担っていた自衛官の方々から、多数の犠牲者を出してしまった。

 

 そんな赤嶺ら造反神側の連中の策略で〝苦々しい勝利〟と〝犠牲となった命の痛み〟を味あわされた第三次愛媛奪還作戦の戦闘から、二日後、瓦礫と黒煙混じりの炎と、生前の姿の見る影もなく、ドックタグが無事でもなければ誰のものだったのかすら分からぬまでに、赤嶺の殺意(しじ)の下、バーテックスの虐殺で殉職した自衛官の方々の亡骸たちが散らばり損壊した軍港は、今日も残った人員たちの尽力で復旧作業が進められていた。

 幸いそれ程被害を受けずに済んだ訓練施設の敷地内の一角を借り、トトの認識操作結界の中、私は先代勇者のチームのリーダーである過去の静音こと鷲尾清美と、先代組最年長でどこか若葉と千景の容姿が合わさった面影のある篩梨花相手に、二体一にて稽古(もぎせん)を行っていた……これは二人各々から同時に申し出を受けたもの。

 他の年長組は、翼やマリアならアーティスト業、風部長に奏芽はマネージャー業、勿論静音も次期大赦代表候補としてご多忙であり、また対人戦の場数と二人の戦闘スタイルに比較的近いことから、他の皆を差し置いて私に白羽の矢が立てられたのだ。

 正直、まだ昨日の今日で、軍港の惨状とバーテックスの犠牲者を初めて直に目にしたショックの尾がまだ強く引いている彼女たち精神状態を思うと私も相棒のトトも乗り気ではなかったが………二人とも生来の生真面目な性格に加え、清美は先代組のリーダーとしての責任感、梨花は勇者としての誇りと使命感に駆られるまま強く願い出てきて、半ば折れる形で渋々………。

 

「そこまで切望するなら、付き合ってあげる、けど先に言っておくが、一応訓練だから加減はするけど………模擬戦とは言え戦う以上〝遠慮〟はしないよ」

「はい、分かっております朱音さん」

「こちらこそ、余計な遠慮は無用です」

 

 ――〝やる以上は厳しくやる〟と二人に重々釘を刺した上で、了承した――。

 

「っ…………」

 

 ――上で、実戦にできるだけ近づけた模擬戦の体で二人の相手をすればするほど、彼女たちの精神状態は未だ危ういものと改めて強く、認識と実感をさせられ………そんな苦味を胸の内に隠したポーカーフェイスのまま、前言の通り加減はしながらも〝遠慮はしない〟厳しい姿勢で、私は二人の攻撃に応じていた。

 この先さらに戦争は激化していくのは必至な以上、下手に甘くなってしまっては………逆に二人の意志を侮辱するも同然、その想いを尊重するならば、今は心を〝鬼〟にすべき時だ。

 

「ハァァァァーーー!!」

 

 震え声も混じった雄叫びを上げて、上段から振り下ろされた梨花の唐竹の一閃をあっさり紙一重で避けると同時に《天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)》ごとを握る両手を掴み取ると同時に梨花の首元に手刀を叩き込み、相手の振るった勢いを利用し、そのまま天鹿児弓の弓を引く清美めがけ霊剣(かたな)の切っ先を突きつけながらホバリングで突貫。

 梨花(なかま)への誤射を恐れて逡巡した清美へ手を翳した私は、掌の噴射口から閃光を発し、目を眩ませる。

 すかさず梨花の鳩尾に肘打ちと、両手に膝蹴りを見舞わせ、日本神話で最も有名な霊剣を奪い取り、閃光でまだ視力が回復していない清美の足首を踏み捻じる。

 さらに奪った霊剣の峰側で清美の、弓を引く上で重要な左膝と左肘と左肩に手首のスナップを利かせた〝峰打ち〟の連撃(手加減のイメージが強いが、実際は相手の骨を砕く為に振るわれる立派な凶器である)を撃ち込む――腕は翼たちに比べれば遥かに遠く及ばずながら、私も祖父から剣術を教え込まれてる身だ。

 前屈みに体勢を崩れた彼女へ踵落としで叩き伏せた直後、背後から焦燥がたっぷりしみ込んだ〝戦意〟を察すと私は敢えて霊剣を上空へ放り投げ、小太刀で突きたてようと迫っていた梨花の突進をくるりと回って躱し、最早猪武者な無駄に力任せの突進の勢いを逆用した、ジークンドーと合氣道の応用による投げ技で相手を宙に浮かせ、仰向けとなったところで肘打ちを打ち、梨花もまた地に伏せさせ、マウントを取る。

 

「うっ……」

 

 そのまま奪った小太刀を、梨花の首のすぐ真横に突きたて、彼女の顔が戦慄で青ざめる中、立ち上がった私は落ちてきた霊剣をキャッチし、無理にでも立ち上がろうとしていた清美の下顎の皮膚寸前で剣先を通し、冷たい刃の側面を首筋に触れさせ、反撃させまいと弓本体をも踏みつけると。

 

「おめでとう………これで君達は、十一回目の〝不名誉な戦死〟を遂げた」

「はい……参りました」

 

 模擬戦と言えど〝遠慮はしない〟と釘を刺した前言通りに私は、ブラックジョークも用いて二人に敗北を突きつける。

 清美は仲間を纏めるリーダーとして、殉職者を出させない意志も込みの責任感で気負いすぎる余り、時に咄嗟の判断力が鈍り。

 梨花も一見冷静沈着な様で、バーテックスに対する過剰な敵意が災いし、一度熱くなると攻め方が単調になってしまう。

 前々から薄々察していたが………今回の訓練でこの二人の短所が明るみとなった。

 

「まだやる気があるところ申し訳ないが、ここで一旦休憩に入るよ」

「待って下さい! 私も鷲尾さんもまだ!」

「じゃあ聞くけど、私がいつから〝歌わず〟に清美と梨花の相手をしていた?」

「そ、それは……」

 

 食ってかかる二人にこの問いを投げると、こっちの予想通り二人とも返答に詰まり。

 

「五回目からだ、八回目からは自分のアームドギアもほとんど使っていない」

 

 と――敢えて歌わずにギアの出力を下げ、アームドギアも用いていない自分にすら圧倒されていた――事実に加え。

 

「またきついこと言うけど、もし私が静音の立場で、今バーテックスが出現したら、二人に出撃停止を下していたくらい本調子の時の三分の一も出てなかったぞ、このまま続けても、疲労しか溜まらない」

 

 前以て詫び入れつつも、はっきり私は〝戦力外通告〟同然の言葉を厳しく口にし、二人は悔しさで唇を噛みしめ、梨花など床へ振り上げた拳をぶつけてさえいた。

 先代組の中でトップクラスの実力者たるこの二人でさえこの有様だ………銀たち他のメンバーのケアもまだまだ必要なくらい、心身ともに調子(コンディション)は芳しくないのは明白だった。

 こんな状態な上に、私との模擬戦で疲労が蓄積している今でこれ以上続けても、当人らに伝えた通り無駄に消耗するだけだし、これで充分二人も自分らの実情に対し、身を以て味わい、心にまで染み込んだ筈だ。

 なら味あわせた身としては、次の奪還作戦も踏まえてちゃんとフォローもケアもしておきたい。

 

「皆の足を引っ張りたくなくて焦る気持ちは分かるけど、お役目を全うする意志自体に揺らぎはないからこそ、自分を休ませる時はちゃんと休ませてあげよう、清美……梨花………See?(わかったかい?)」

「「分かりました……」」

 

 どうにか二人は、私の戒めの言葉に納得してくれたので。

 

「じゃあ前言通り〝遠慮〟せずに打ちのめしたお詫びにご馳走するから」

 

 そう言った直後、落ち着きを取り戻した清美と梨花のお腹から、ほぼ同時に空腹の虫さんが鳴き声を上げ、二人とも恥ずかしさで一時私の遠慮抜きの実戦的模擬戦で青ざめてた顔が、一転赤くなった。

 

「あの……今日のメニューって」

「勿論メインは二人も好物なうどんで――」

 

 けど清美は、自分では上手く隠してるつもりでも内心とても楽しみにしてるが私の目からは筒抜けのご様子で、恐る恐る今回のランチの内容を訊ねてきた。

 見れば勇者のお役目を始めた当初は清美たちと馴れ合わず独断専行しがちの一匹狼だった梨花も、この結界(せかい)での造反神との戦闘の傍ら、時空を越えて集った勇者と装者との交流により、良い意味で日常では丸くなってきている影響か、先の模擬戦中の張り詰めの度合いが過ぎて堅苦しささえあった具合から一変して、喜びと楽しみを鋭利な美貌から、確かに表していた。

 

「それもギネス風ビーフシチューうどんだよ」

「ギネス?」

「祖父(グランパ)の母の故郷(ふるさと)、アイルランドの郷土料理なシチューのことさ、せっかくだから彩奈たちも呼ぼう」

「そうですね、私と篩さんだけ味わうのは狡いので、朱音さんのお言葉に甘えて」

 

 清美はすぐさま端末を取り出して《NARUKO》のメールで戦友たちにランチのお誘いのメールを送る。

 よく特訓のある日はほぼ必ず私がご馳走を振る舞っているのもあり、どちらも堅物な性格ながら、二人ともランチを楽しみしている様子で………良い意味で彼女らも〝年頃の女の子〟な一面(かお)を表情(かお)に出すくらい精神的余裕が戻ってきていると感じ取り、私はほっと安堵する。

 実際、今回の私が作ったランチにも、先代組の中学生メンバーたち(銀たち小学生組の方は、かつて三人の指導役だった安芸先生が自ら、防人部隊の教官の仕事もこなしつつも当時を変わらぬ姿で再会した教え子たちの面倒を見てくれている)はそれぞれの人柄らしさの違いはあれども、顔をくしゃっとほっこりさせて美味しく堪能してくれた。

 

 けれども、まだ一日や二日程度で………直視させられたバーテックスが齎す災厄のショックから立ち直れると楽観はしていない、少なからず時間がどうしても掛かってしまうだろう。それでも司令(げんさん)へ伝えた通り………少しでも戦いの狭間で日常を送る中で、彼女たちの〝心の支えや安らぎ〟になろうと………自分が戦士である以前に、人として、できることを努めていた。

 

 

 

 

 

 しかし、問題と言う概念(しろもの)は、一つ片付けようとしてそちらにばかり目が行き過ぎると、また別の問題が表出する厄介な性質を持っている。

 そしてさらに数日後、SONG本部内のブリーフィングルームで行われた第三次愛媛奪還作戦の状況及び事実の確認報告――デブリーフィングにて………かの〝厄介〟が起きてしまった。

 

「皆さんお疲れ様です、今回の愛媛未開放地区解放は、SONG本部の置かれた軍港側に被害こそ出してしまわれましたが、幸いに付近の民間居住区への被害はゼロ、本部の方もほぼ無傷」

 

 この時報告を担当していたのは現在SONGに出向の体でサポートメンバーに加わった、静音の双子の姉にして大赦専属の巫女――櫛名田琴音。

 

「戦果の割に大きな被害ではありましたが、作戦は〝おおむね成功〟でした」

 

 初対面時に見せた、静音(いもうと)と正反対に穏やかかつ上品に人を和ませる表層的な人柄は鳴りを潜め、淡々と事務的に事後報告を行う琴音。

〝私自身〟は今の琴音の様相と伝え方に異論はない、こういう場では変に虚飾されるより、事実をできるだけ正確かつ泰然とした調子で伝えた方が賢明だと承知しているからだし、この方が今後の対策を立てていく上であり難さすら感じている。

 実際――〝おおむね成功〟と言う表現は間違ってはいない、大きな被害を出てしまったともはっきり言っているわけだし。

 

「成功……」

 

 でも……〝私自身〟はそう判断して受容できても、琴音の言い回しに納得できずにいる面々の方が多いことは、周りの皆の顔つきを一人ずつ見ていけば明らかであり、むしろ私の方が例外で。

 

「何が……何が成功なんですか!? 本部の置かれていた港の、あの惨状を見ているのに、たくさんの人が死んだのに、これのどこが成功なんですか! 失敗の間違いじゃないんですか!?」

 

 先代組年少メンバーの一人であり、過去(かつて)の東郷にして静音と清美の義妹である須美が、険悪さを露骨に表した面持ちで声を荒げ抗議し、対して淡々とした態度を崩さぬまま。

 

「――朱音さんが駆けつけてくれたおかげでどうにか最小限のままに被害は抑えることはできました、合理的に見て作戦は〝成功〟に値しております」

 

 結果は〝成功〟だと表現を覆さなかった。

 情緒面の方では私とて最小限でも〝犠牲者〟を出してしまったこと、赤嶺たちがあのような外道の策を繰り出してくると事前に予測できなかった(堂々とSONG本部の司令室に現れておきながら、宣戦布告とともに〝樹海が出現しなければ戦闘しない〟と、私達を〝倒す気はあっても殺す気はない〟と宣言した赤嶺の発言を甘く見てしまったこと含め)悔しさの苦味は、未だ口の中に残ってはいるが……一方で戦士としての心象(じぶん)は〝成功〟の部類に入ると思考し、納得はしている。

 琴音とて、事務的な態度に徹しているだけで、内心は心痛めているのだと………ドライな無表情の仮面を被る静音と生き写しの容貌から、私の目からははっきり捉えていた。

 

「(ああして泥を被っちゃうとこ……双子だけあってそっくりだね)」

「(そうだな……これも櫛名田の家に生まれてしまった因果ってやつか)」

 

 トトの言う通り、こう言う自分から率先して〝汚れ役〟を買って出てしまうところは、静音(いもうと)と瓜二つであり、櫛名田家の、風鳴家に勝るとも劣らぬ黒く深き業の一端が垣間見えた。

 けどこれらの自身の芸当は、まだ一応大人と子どもの狭間の肉体の内に、過酷な前世――ガメラの記憶を抱えているからこそ、為し得られているものであり。

 

「何が合理的です! まるで人を、数字でしか見ていないような言葉……これが清美姉さんの血の繋がったお姉さんの言葉だなんて、信じたくありません! 酷すぎますッ!」

 

 幼いゆえに、感情の起伏を感じさせない琴音の態度から、冷徹な印象を捉えてしまって一層激昂する須美だけでなく。

 

「琴音さん、私もその発言はいささか配慮に欠けてるかと思います」

 

 ひなたからも異論の声が出ただけでなく。

 

「犠牲が出たのは変わりありませんし、それに――」

 

 幼馴染の若葉が驚愕と戸惑いの表情を見せるくらい彼女の口調までもが、語気を荒く強まらせて反論する事態にまで至ってしまった。

 それでも琴音は〝おおむね成功〟と言う自身の発言を覆さずに、本心をポーカーフェイスで隠し貫いたまま、デフリーディングは終了し、勇者装者一同はブリーフィングルームを出ていく中。

 

「トト、ひなたから〝司令たちとの今後の方針に関する相談で遅くなるから先に帰ってて貰えませんか〟と伝言を頼まれたと、若葉に言っておいて」

 

 私も一旦退室して少し回廊を進んだところで止まり、トトに頼み事をする。

 勿論、今口にした〝伝言〟の内容は、大半が嘘である。

 

「(分かった、さっきの様子じゃ、まだ一悶着ありそうだもんね)」

 

 相棒は私の意図を察した上で若葉に〝伝言〟を送りに向かっていき、相棒を見送った私は、耳に高性能小型ワイヤレスイヤホンを取りつけながら、忍び足だが足早にブリーフィングルームの方へと戻っていき、出入り口からやや離れた壁にもたれ、腕を組んだ体勢で耳を澄ませると。

 

『冷静に、合理的かつ論理的に考えれば、今回の作戦はおおむね成功と呼べるものです、それ以上になにが必要だというのですか?』

 

 予めサイレントマナーモードに設定しレコーダーアプリを起動させて室内の机の中にこっそり置いておいた端末とイヤホン越しに、琴音とひなたの口論が聞こえてきた。

 

『それはただ怜悧冷徹、冷酷と言うのですよ!』

「荒れてるな……」

 

 その若葉含めた友人や仲間がいない為か、一層琴音の表面的には冷徹に見えても無理はない態度に対しひなたは、普段は親友にすら絶対に見せぬあからさまな怒りすら露わにして、それを半ば頭ごなしに相手へぶつけてしまっていた。

 案の定の荒み具合に、とてもじゃないがこんな彼女の一面を若葉には下手に見せられそうにない。

 

『ひなたさん………まさか私が、本心からあんな酷い言葉を申し上げたとお思いなのですか貴方は!?』

 

 これにはとうとう、内心痛む想いをひた隠しにして、ここまで無表情の事務的に徹し続けていた琴音の逆鱗に触れてしまった様で、声だけでも普段の大和撫子然とした顔立ちが歪んだ形相に豹変したと把握できるくらいに、彼女の怒りを表し始めていた。

 

『手薄な本部を叩かれることで、本部を置いた軍港に被害が及ぶなど、想像するに難しいことでないこともわからないわけではないでしょう?』

『それは確かにその通りです。でもだからと言って――』

 

 他に言い様がある――とでも言いたいのだろうがひなた、今回の場合はむしろ逆効果だよ。

 

『〝他に言い様がある〟と?』

 

 私が心中零したのと、琴音は同じ言葉をひなたへ発した。

 

『生憎ですが、今回のこの惨状を彼女たちがその目に焼き付けてしまった以上、どう取り繕うが結果は変わりませんし、それでもあの子たちにぬか喜びをさせるようなことを私に言えとでも!? あの子たちにそうすることがいったい何の慰めになると言うのですか? 却ってそちらの方が遥かに残酷と言えるものでしょう!?』

 

 激情に駆られて口論が紛糾しているひなたと琴音の心境は一時置いておいて、どちらの意見に賛同できるかと言われれば、私は琴音の方を選ぶ。

 琴音も言った通り………特に先代勇者たちは――この結界(せかい)に召喚するまで学校の教科書含めた知識でしか存じていなかった………西暦末期の若葉たちの時代では世界中で起きていたバーテックスどもが齎す〝虐殺〟と〝災厄〟、それと今回それらの引き金を引いたのが他ならぬ赤嶺ら歳の近い人間たちであることと、犠牲となった人々の痛ましい亡骸たちを、既にこの目にはっきりと焼き付けられてしまっている。

 そんなあの子たちに………中途半端な優しさで、臭いものに蓋をするも同然な生ぬるく甘ったれた言い方でお茶を濁すなど………その方がより一層残酷であり、却って銀達に罪悪感の影を心の根っこ植え付けてしまう酷薄なやり方だ。

 

『大赦に属する巫女というモノが、世間一般で言う神事や祭事を取り仕切るソレと同じとでも本気で思っているのなら、その考えは改めるべきことです、今すぐにでも』

「どういう……ことです?」

『あらまあ? ではやはりお気づきになっていなかったようですね、まぁ無理もありませんか、今の大赦の堕落っぷりを見れば、彼ら自身も全く気付いていないのは明らかですし、その大赦の礎となった方だというなら猶の事納得出来て……呆れますわ』

 

 語気が怒りごと強まっていく琴音は、大赦専属の巫女が、日本人らの世間一般の認識する巫女像からかけ離れた――〝清廉潔白〟――からもほど遠い存在だと言うことを。

 

『年端も行かない、人によっては小学生程度、そんな子供を死と隣り合わせの地獄に叩き落している人間のどこが清廉潔白なのですか!?』

 

 前に静音が教えてくれた………彼女と琴音が所属する大赦と言う組織が、三〇〇年の年月を経て如何に事なかれ主義の無責任さと覚悟の無さ、何の罪悪感も持たず平気で歳はも行かない子どもたちを神の意志と言う言い訳で戦場に放り込み、自分たちは手を汚さず綺麗さに固執する腐敗の極みの体質へと自らを改悪し尽くし、ただ神々に仕える特権に依存する醜悪な組織へと至らせてしまったか、その実態ごと………後に、西暦当時は〝大社(おおやしろ)〟と呼ばれていたかの組織を今の〝大赦〟への改名含めた組織改革を断行することになる――〝上里ひなた〟――本人へ突きつけてきた。

 

『世間ではそういう存在は〝悪鬼〟若しくは〝悪魔〟と呼ぶのですよ! そして私たち大赦の巫女は、その存在その時点ですでにその〝悪魔の所業〟の片棒を担いでいる〝共犯者〟です、世間一般の神事を司る巫女の方々がお聞きになられたら絶句するほどのッ!』

 

 風鳴司令も、あおいさんらSONGのスタッフも、そして静音や奏芽たちすらも………自らの行いを正当化せず〝悪魔の所業〟と重々己が心に刻み、神々とともに片棒を担ぐ〝共犯者〟なのだと自虐、自嘲、そして心苦しくなる程に自覚していると、日頃の彼ら彼女らを見ていれば理解できる。

 かく言う私も……年端の行かない子どもの一人でありながら、同じ子どもたちの過酷な運命を憂いながらも、地獄そのものたる戦場で慈悲の無い冷酷極まる〝災い〟との戦争に加担させている〝共犯者〟の一人に他ならない。たとえ静音と平行世界の司令たちから『(貴方・君は)違う! むしろ自分たちの世界の危機に巻き込ませてしまった被害者』等と言われてフォローされようが……譲る気はないし……その所業の罪過をも背負う覚悟で、私は今も〝守護者(ガメラ)〟でいるのだ。

 

(ん? この感じ……)

 

 ここで私は覚えのあり過ぎる〝感覚〟を複数、汲み取った。

 一つはバーテックスのもの……なのに気配は感じても、連中特有の人間に対する殺気が感じられない。

 もう一つは………実際に姿を現す以前から受けていた、赤嶺たちの出歯亀の視線。

 

「(トト)」

「(僕も両方の気配を感じてる、でもバーテックスからの殺意までは………あ、もしかして)」

「(私も同じことを考えてた、多分連中はバーテックスを監視ドローン代わりにこき使ってる)」

 

 造反神側の勇者と装者は、バーテックスを思うがまま操ることができる、ならドローンの真似事くらいできてもおかしくない。

 

「(どうする? バーテックスぐらいなら位置を何とか割り出せそうだけど)」

「(いや……〝動かざること山の如し〟に徹してくれ、ドローンバーテックスはアジトの場所含めた連中の実態を把握する上で重要な手がかりだ……とりあえず今は泳がせて、静音と司令にこっそり報告を)」

「(了解)」

 

素知らぬ顔と姿勢のまま、今は向こうの出歯亀には静観に徹することにした(下手に撃墜でもするとどんなしっぺ返しが来るかも分からないし、向こうを出し抜く策を練る上で泳がす方が賢明だ)一方で………そろそろひなたと琴音、巫女同士の口論はお開きにして欲しい頃合いだったが。

 

『神樹様のお役目はとても尊く神聖なものです。それを〝悪魔の所業〟なんて言葉を使うなど、さすがに罰当たりにも程が――』

『〝罰当たり〟ですって?何を……今更なことをッ!』

 

 私の切願をよそに……ひなたの反論の中に入っていた〝罰当たり〟の言葉が切欠で………静音と琴音、この姉妹(ふたご)に共通して抱えている〝悪癖〟が発動してしまった。

 二人とも、一度怒りが一定の度合いを超えて堪忍袋の緒が切れてしまうと………相手の発言の一つ一つから、隙、穴、矛盾点の数々を細かく徹底して幾つも多く炙り出して理路整然に突きつけ、相手の意見に持論のカードを手札から切り出す前に墓地へと送って反論を封じ込み、その上追い打ちで正論を剥き出しの激情ごとぶつけ、口論する相手を完膚無きにまでとことん叩きのめしてしまう〝持病〟があった。

 それこそ三年前、当時大赦に所属していた防人部隊の強制解散に異議を唱えた当時の亜耶ちゃんも、かの姉妹の静音(かたわれ)からかの悪癖で糾弾され、打ちのめされた被害者の一人である………あれ程の袋叩きを受けて、生来の天使の如き善性を失わなかった亜耶ちゃんの強さを心から讃えたいくらいだ。

 そして今回はひなたが、琴音から悪癖の牙を向けられようとしている。

 一瞬、割って入って引き留めようとする気に駆られたが………盗み聞きしているグレーな立場の自分が下手に干渉したら、確実に余計に事態は悪化する。

 よって私は……赤嶺たちに悟られまいと胸の奥にて軋む心を隠し通しつつも。

 

〝勇者とはバーテックスと戦うための兵士、戦士の名、そしてその勇者が手にするものは弓矢や槍、大斧といずれも世間一般には武器と呼ばれるもの、それ自体を内包するそれは、文字通りの殺戮兵器そのものです〟

 

〝私たちが勇者にその兵器を持たせ戦わせている相手もまた神、それも日本神話においてこの地を創造成された文字通りの最高神、罰などとうに当たっておりますし、そうなったからこそこあなたの時代から数えて、優に三〇〇年も戦争状態なのでしょう?〟

 

〝神樹様を構成する地の神の多くは、神話においては荒神、いうなれば世間一般で言うなら邪神や悪魔と呼称されることが多い代物で、元より敬われるより畏れられる対象であったものがほとんどであり、この世の中において神様ほど身勝手極まりない存在はおりません〟

 

〝感謝し敬うのは兎も角、神罰が当たるからなどと言う理由で言いたいこと、本音すらも言えないなど大きな間違いです、それは敬うのではなく縋るか自分の都合よく神という存在を言い訳にしているだけ!〟

 

〝それにあなたは今の大赦の神官たちの姿と行動原理を見て何も感じないのですか? 仮面で自らの素顔を覆い隠し、まるで機械の同然に神樹様からのお告げばかりを聞き鵜呑みとし、またその結果お役目と言う〝人身御供〟を平気で名誉扱いし受け入れそれを口にするような人々を………その様な人でなしと化すことが神への感謝、敬う姿というのなら、私はたとえ神といえども言いたいことをぶつけ、そうして罰を喰らった方がマシだと思いますし……むしろ神に依存する愚か者どもにこそ、罰が当たってしまえとも言いますよッ!〟

 

 正論は使い方を間違えると、言い分も理屈も論理も破綻した暴論より、相手の精神を傷つける刃になってしまうと分かっていながらも、ひなたへ容赦なくぶつけられる、その正論たちを分厚く覆わせた理不尽なる糾弾の数々を、黙して聞き手に徹するしかなかった。

 

『あなたに……あなたに一体なにが分るのですか!? ただ記録された歴史の中でしか、私たちの時代の事を知らないのに!』

『都合が悪くなると、子供みたいに喚くんですね』

 

 ここまで心をいたぶられたひなたは、とうとう普段の大人びて淑やかな人となりは、声だけでもすっかり見る影もなくなり………隠されていた〝年相応の幼さ〟が赤裸々となって涙声混じりに琴音へ訴えるも、相手は動じないどころか、声音に呆れすらも交えて。

 

『もう六年前になりますが……勇者の役割という〝地獄〟に、自分の片割れともいえる静音(いもうと)を含む八人の少女たちを送り出す決断を取ったのも、満開の後に起こる地獄を知っていながらもそれを勇者たちに伝えない決断を取ったのも、大赦に属する家だけで勇者候補を集められないからと、文字通り戦う覚悟もない民間人の子どもたちまでも戦場に送り出すような惨たらしい決断を執る道を選んだのも。当時次期代表であった私です、それに私は先に言いましたよね? 大赦に属する巫女とはどういう存在かを……それを知らずに行うこと、それもそれを子どもにやらせるなど、それを〝悪魔の所業〟と言わずに何というのです?ましてやそんなことを平然と行える人間が〝純粋無垢な少女〟などと言えるわけがない!子どもの子の字もつかない本物の〝悪魔〟であり、そしてあなたの前にいるのは実際にそんな所業を実行した、冷酷かつ狡猾な〝正真正銘の悪女〟なのですよ!』

 

 自分もまた………年端も行かぬ子どもたちへ強いてきた〝悪魔の所業〟と言う罪を犯した咎人な〝悪女〟であると、ひなたへ叩き付ける形で打ち明けた。

 

 ついに反論する言葉も意気も熱情も失い、打ちのめされたひなたは………吐息すらも疲れ果て、足音すらまともに聞こえない足取りでブリーフィングルームから出て来て、私の存在に一切気づかないまま背を向けて向こうの回廊へと歩いていった。

 盗み聞きしていた立場を抜きにしても、私はとても………一際小さく、か細く、ガラス細工の如きか弱さがあふれ出たひなたの後ろ姿に、声を掛けるどころか、追いかけることもできなかった。

 憔悴し切って〝心ここに非ず〟……の状態な今のひなたに………どんな言葉を掛けても裏目にしか出ない、今はそっとしてあげる以外にできることはなかった。

 

〝ええ……私もまた〝狡い女〟ですよ、時に都合よく子供を演じて、また都合のいい時は神樹様の神託を受け取る巫女の振る舞いをして……自分という人間を、時と場合に応じて偽り、本当にうまく世の中立ち回ってきましたから、元の時代でも……〟

 

 これはちょっと後に、トトが偶然聞いてしまった、自らを〝狡い女〟と表し、自身の……親友(おさななじみ)の若葉にすら一欠けらも見せたことのない〝本性〟と。

 

〝櫛名田の前当主……今の私の子孫の方々が言うに相当な獅子とも呼べる御仁であったとは聞いてはおりましたが、正しくです……アレは……静音さんと琴音さん、二人はまさしくその獅子の孫娘ですよ〟

 

 ひなた自身の子孫から聞かされたらしい――櫛名田家前当主はまさしく獅子そのものと言い切れる御仁――であることと、静音と琴音の姉妹は、その血を濃く受け継ぐ孫娘だと痛感させられた想いを、一人言葉にして零された独白(モノローグ)……結界(ここ)では精霊である我が相棒の存在(けはい)すら気づかないくらい、疲弊していたと窺える話だった。

 だが………先代勇者たちの内、銀たち三人を死に追いやり、その時生き残った静音たちを絶望のどん底に突き落としたのと同じ個体のバーテックス三体を相手にして危機に陥っていた私を助けてくれた一人は、何を隠そう――上里ひなただ。

 友人にして恩人である彼女がここまで打ちのめされたのを黙っていられるほど、私は薄情ではなく、その上幸いにもドローンバーテックスを通じた出歯亀行為を赤嶺たちが取りやめて退散してくれたので、足を踏み出し。

 

「さすがに言葉が過ぎたんじゃないですか? 琴音さん?」

 

 このチャンスを逃すまいと入室して、真っ先に皮肉も込めた敬語で琴音へ、両腕を組み直して決然とした姿勢で苦言を呈した。

 

「盗み聞きとは、あまり褒められたことじゃないですよ、朱音さん」

 

 琴音はデブリーフィング当初の時の様相で、私の盗聴行為を咎めた。

 

「自省はしております、ですが褒められたことではないのはお互いさまでしょう? 静音もですがあなたもかなり大概です、自分の血の繋がった妹(はんしん)の惨状を知っていながら、友奈たち他の子たちまでも同じ運命を押し付けたのですから」

「知らずにやるより、知ってやる方が……ずっと性質が悪い……ええ、その通りです」

 

 私も私で、琴音自身が自ら言い放った〝悪魔の所業〟の一部を、この静音の姉(はんしん)へと突きたてると………一転彼女は自嘲たっぷりに、自分の性質の悪さを肯定し。

 

「あと溜口で構いません、静音には半ばそうしているのですし、その方が公平かと思いますよ」

 

 呼吸一回分の間を置き、ため口で構わないと返してきた。

 

「だったら君もそうしたら良いんじゃない? 琴音」

「お生憎、普段よりこれが私の語り口ですので、どうかお気になさらず」

 

 そう告げた琴音の声は、また一層に自嘲の色合いが濃くなった。

 

「わかってます、これでも自覚はしているのですよ、最も矛盾してるのはひなたさんではなく、私だと………勇者が背負う多くの残酷を知っていながら、友奈さんや静音の妹も同然な、鷲尾さん……今の東郷さんたちがあのような暴挙に出るのを、未然に防ぐことはできた筈なのに防げなかったのですから………」

 

 当時記憶喪失だった静音に友奈たち今代の勇者たちに対する、腫れ物同然な扱い、バーテックスとの命がけの戦いと、満開を使うごとに少しずつ不全となっていく己が肉体を襲う散華(だいしょう)で追い詰められ摩耗していく彼女たちに一切手を差し伸べず………神樹様の結界の壁の一部を破壊し、あわや神々と人々と世界ごと心中しようとした東郷の暴走などの悲劇を招いた………大赦の暴挙の数々、風鳴司令や広木防衛大臣に、翼と奏さん――ツヴァイウイングの助力と尽力が無ければ、もっと悲惨な事態となって、最悪この世界は〝天の神〟の望み通りに滅亡していたかもしれない。

 

 

「けど、上里(あのひと)もあの人でまた大概ですよ、自分の欠点を次々に拡大解釈されて、反論も何も出来ない心理状態に追いつめられてしまったのですから」

「一切の反論も許さず、一方的に叩きのめしたの間違いじゃないのかい?やっぱり琴音も静音も姉妹だな、堅物で融通か聞かないか、狡賢くて世渡りがうまいかの違いがあるだけで……〝本質〟はそうそう変わりがない」

 

 この私のブラックジョークには、さしもの琴音も反論して言い返すだけの言葉(カード)を失ったらしく。

 

「そりゃそうですよ、一卵性の双子で、それぞれ母様の特性を見事なまでに半分ずつ受け継いでるのですから。母が得意としていたモノ、弓と剣の腕も見事にそれぞれで分けられてますしね」

 

 自分と妹は、表面的の性格の真逆さ、実母譲りの得意とする武術(静音は弓術、琴音は剣術)を分け合う形での正反対さはあれども、〝胸の歌〟の奥底で宿る潜在意識(ほんしつ)は、双子を超えてクローンも同然に同質なのだと頷いて返してきた。

 

「お婆様は言っていました……私は静音と二人で一人前なのだと、一人ずつでは双方の欠点が浮き彫りになり、結局は其処を突かれて何もかもが瓦解してしまうとも」

「なるほど、あの御仁なら言いそうなことだね」

 

 私はトトの視界を通じて傍聴した……〝つまらない上に陰湿で不気味で息苦しい仮装パーティー〟だった大赦の仮面を被って開かれ紛糾と本題からの脱線を繰り返す無様さを見せられた《幹部会》にて、堂々と顔を晒して現れた静音たちの母と祖母――現当主の櫛名田咲姫と、前当主の櫛名田桔梗らの姿を思い返し。

 

「当然です、自分が内包する力も人徳もカリスマ性も自覚し、それを文字通り武器として世を渡り歩いてきた程の傑物でなければ大赦などという組織を動かすどころか、風鳴訃堂という文字通りの〝悪鬼〟を抑えることなど、できはしません」

「確かニコロ=マキァヴェリの《君主論》の一文だったかな?――〝君主はライオンのような勇猛さと狐のような狡猾さが必要である〟――と」

「ええ、そしてかの思想家の著書はお婆様も、お母様も愛読しております、本当、鬼すらもその手で手名付けられるほどの獅子ですよ、私のお婆様もお母様も……私も静音も、全くそれ等に一人ずつでは到底及びようがないほどに」

 

 特に国枠主義の怪物な外道たるあの風鳴訃堂とやり合えるだけの発言力と威厳とオーラを有し、巧みに〝猫〟の皮を被って爪と牙を隠しながらも実体は〝獅子〟に相応しい櫛名田桔梗は、やはり煮ても蒸しても焼いても食えない、組織内の権力闘争を勝ち抜いてきた女傑にして………櫛名田家の深淵の域にすらある〝業〟の化身でもあると思いながら、ルネサンス期の政治思想家の著書からも引用して琴音と、かの御仁に関して交し合った。

 他所のお家事情と、そんな業深き家に生まれたばかりに苦労してきたこの姉妹を話題とした立ち話もこの辺にして、そろそろ………本題の〝忠告〟を琴音に伝えておくとしよう。

 

「けれど琴音、静音もだけどただ正論を振り翳せばいいってものでもないのも事実だ、そうやって相手を手酷く論破したところで、敵ばかり作るだけなんだから……」

 

 大赦含め、静音たちや風鳴八紘情報官らが身を置く……いわゆる〝政治(まつりごと)〟と〝権力競争〟による謀略が渦巻く暗黒の界隈に住む人種は……〝敵と味方〟の二種類しかいない、ある意味で白黒はっきりしたシンプルな世界ゆえに―――可能な限り、味方を多く作っておく方が大いに越したことはないし、はっきり言って静音と琴音姉妹のやり方は、無駄に敵を量産させ、下手すれば自身を孤立の四面楚歌に陥らせる悪手そのものだ。

 私が彼女に伝えたかった〝忠告〟とは、このことである。

 

「分かってますよ、だから言ったではありませんか、一番矛盾してるのはひなたさんではなく私なのだと……事実人の事など言えた立場じゃないですし、そこまで出来た人間でもないのですよ私は、だって本当に私は………〝狡過ぎる女〟なのですから」

 

 私からの忠告を、自虐の質の濃度が濃厚かつたっぷりと返答してきた琴音は、ブリーフィングルームから退室しようと歩き出す。

 一方私は、敢えて琴音と背中合わせとなったところで、人さし指を立てる。

 

「ああそれと、もう一つ――」

 

 先の自虐で私の思考は、もう一つ送っておきたい忠告を、この僅かな時間で練り上げていたので。

 

「似た者同士には大人げない子ども染みた〝八つ当たり〟をぶつける癖に……逆に〝物分かりのいい〟と判断した相手には、自分の〝女狐さ〟ぐらい自覚できていると無遠慮に打ち明ける、そう言う点でも確かに君は〝狡い女〟だが………次期党首にはまだまだ未熟者だよ―――Ms.KOTONE」

 

 背中を向けたまま、私は辛辣さもアイロニーさも混ぜ込まれた忠告にして諫言を、送りつける。

 琴音も後ろ姿のまま立って聞いていたが、固唾と飲んだ音を大きめに響かせたのを皮切りに、黙然としたまま退室していった。

 彼女の足音が消えたところで、やっと私は琴音が出て行った扉の方へ振り返り。

 

「はぁ……本当……不器用が過ぎるよ……二人とも」

 

 静かな室内で一人、私は溜息と一緒に呟くと、机の中に隠しておいた端末を取り出して録音を停止し、ブリーフィングルームを後にする。

 さて、赤嶺たちのドローンバーテックスを用いた出歯亀の件と、ひなたと琴音の確執の件ともども、報告書(レポート)に纏めておかないとな、早い内に。




《戦姫と勇者の二重奏シリーズオリキャラ紹介》

・鷲尾清美
誕生日:7月16日
ICV:喜多村英梨
年齢:13歳(神樹館中等科1年生)
身長:161cm
好きな食べ物:うどん、お好み焼き

二重奏シリーズのオリ主『風鳴静音(本名:櫛名田静音(くしなだ・しずね))』の中学時代で、二重奏でのわすゆに当る『鷲尾清美は勇者である(通称『わきゆ』)』の主人公であり先代勇者組のリーダー、同じく鷲尾家に養子入りした須美とは血縁が無くとも仲は良い。
真面目で責任感が強く融通が利かない性格はこの頃から既に定着しているが、現在の静音よりはまだ朗らかであり、むしろ現在の静音の方が近寄りがたい人柄になってしまっている。
外見イメージは蒼穹のファフナーEXODUS頃の髪型をした中学当時の立上芹。

・篩梨花(ふるいりか)
誕生日:3月15日
ICV:田村ゆかり
年齢:14歳(神樹館中等科3年生)
身長:165cm
好きな食べ物:うどん

わきゆ登場キャラの一人で先代勇者組最年長。のわゆの若葉と千景を掛け合わせた外見(黒髪ロングのはっつんヘアをポニーテールで纏めている)をしている。
性格も前述の二人を掛け合わせたようなもので、几帳面で気難しく、勇者への使命感と誇りを強く持っているのが災いして当初は清美たちとも馴れ合わず独断専行しがちだったが、ともに戦っていく中で少しずつ親交を深めていった。

・櫛名田琴音(くしなだ・ことね)

誕生日:7月16日
ICV:三澤紗千香
年齢:18歳
身長:165cm
好きな食べ物:うどん

静音の双子の姉である巫女。
双子だけあり外見は瓜二つだが、堅物な妹と違ってお淑やかでおっとりしたひなたに似た性格で、第一印象は妹と真逆、ただし怒った時は静音ですら震えあがるほど怖い。また実は妹の静音同様、一度激昂する程の怒りに駆られると舌戦している相手を理路整然かつ徹底的に叩きのめしてしまう苛烈な一面も秘めており、琴音自身もそんな自分を『嫌な女』だと自覚し自虐している。
静音とは現在も仲は良いが、生家の事情ですれ違うことも少なくない。

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