GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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いわゆるバレンタイン特別篇なのですがなんでこんな変化球になったのはゆゆゆいで桐生静(シズ先輩)が大阪のうどん料理である《小田巻蒸し》を作ったのがきっかけです 


朱音と友奈はお料理師弟である:ひなたのバレンタインの贈り物―《小田巻蒸し》

 さて、私が神世紀と言う暦が使われる次元にて、地の神々の集合体――《神樹様》が生み出した仮想世界(マトリクス)たる結界に召喚されて、平行世界の装者(ひびき)たちと、そして勇者(ゆうな)たちと共に戦い、ともに日常をおくる日々が始まってから、もう半年が過ぎて年を越してもう二月。

 女子高生になるまで長年アメリカ暮らしの帰国子女な私はもうすぐ、八年振りの久方振りに二月のとあるイベントを迎えようとしている。

 日本の厄除け行事の十八番節分? 元は一応大阪発祥(何しろ未だ起源が分からないから)かつ地域限定ながらも西暦二〇一〇年代のコンビニ戦略で一気に全国区となった無病息災を願って恵方へ無言で食べる恵方巻?

 それらもそうなんだけど――結界内では最初となる二月最初の日。

 特に用事でも無ければ、ファーストディのこの日に劇場で映画を見ていたであろう私はSONG本部内のレクレーションルームの一角内にして、勇者部の中心人物と言っても過言ではない神世紀勇者の結城友奈と。

 

「今日は、突然お二人をお呼び立てして申し訳ありません」

「いいよひなたちゃん、私と朱音ちゃんに力になれるなら遠慮なく〝相談〟して♪」

「私も右に同じだ」

 

 そして、この次元の西暦末期の時代から招かれた巫女の上里ひなたの三人で、室内の机を囲んでいた。私と友奈は隣同士で、ひなたは向かいに腰かけている格好。

 

「で、早速本題に切り込むけど―――」

「はい」

 

 先程ひなたが慎ましい物腰で詫び入れた言葉の通り、今朝突然彼女から〝相談〟したいことがあると申し出があり、私はその内容を当人に問いかける。横にいる友奈も大層気になった眼差しを私とひなたの間を何度も行ったり来たりしていて、何だかふくろうみたいだ。

 

「ひなたの相談って、バレンタインデーに若葉へ送るプレゼントのことだよね?」

「ええ♪もちのろんです♪」

 

 時期もあって、ひなたからの《NARUKO》のアプリメールを読んだ時点で大体察していたけど………やっぱりか、と一転瞳をシイタケの模様状にキラキラと煌かす彼女の姿に、内心私は苦笑った。

 ひなたが幼馴染で西暦勇者のリーダーである乃木若葉を、とてつもなく溺愛していることは、本人がそれを全く隠しもせず、隙あらば自前のスマホで若葉の色んな一面(すがた)を撮りまくって写真(コレクション)にしているのも込みで、みんながみんな周知している事実である。

 

「でもどうしてわざわざ私たちに、ひなたちゃんも料理上手だし、毎年若葉ちゃんにチョコをプレゼントしてるよね?」

「勿論、今年もチョコを贈るつもりなのですが………その、何と言いますか……」

「さすがにマンネリが否めなくなってきたから、チョコ以外の料理も若葉に贈呈したいと言うことか」

「ええ、ですが中々アイデアが思い浮かばなくて………是非勇者と装者の方々の中でトップクラスの料理の腕前を持つ朱音さんと、そのお弟子さんも同然な結城さんに、力ぞえをお借りしたく………」

「ええっ!?」

 

 自分で言うのも何だけど、自身の調理スキルは非常に高いものだと自負するくらいには上手い方である私へ、去年友奈が〝弟子入り〟を祈願し、今日までに機会を設けては色々調理技法に料理のレパートリーを教え込んできており、ある意味で〝師弟〟とも言い切れる。

 

「ででで弟子なんてそんな大袈裟だよ! 確かに朱音ちゃんから色々教えて貰って前よりずっと料理はできるようになったけど」

 

 少々褒められ慣れていないところのある友奈は、あわあわと両手を同時に振って冷や汗を流し戸惑うが、私からしたらそう謙遜することじゃない。

 幸い私の教えが功を奏して、中学時代は典型的料理下手だった友奈も、今や毎日自前でお弁当を作り、親友であり和食の調理に関しては私以上と言える東郷の舌も唸らせるくらいの腕前にまで磨き上げられていたからだ。

 

「(友奈、とりあえず落ち着こう)」

「トト君ありがと」

 

 トトが予めSONGの自販機から買ってきておいたシークワーサージュースのパックを差し出し、受け取って飲んだ友奈は落ち着きを取り戻したところで………本題の続き。

 

「さて………どうするかな」

 

 両腕を組んで天井を見上げた私は、ひなたから若葉へのチョコ以外のプレゼントをどうするか考え始めた。

 

「若葉ちゃんの好きな食べ物って……」

 

 若葉も香川県民なので好物の筆頭は無論――うどん。

 他には、放課後の時間帯に食べる骨付き肉。

 でもこれらは好物ゆえにしょっちゅう食べているし、私もこの二つを使った料理を何度も若葉たちに振る舞っている。

 

「後はデザート系全般、特にプリン系を好みますね」

 

 プリンか……とりあえずプリンから連想させるものを上げるか………まず、黄色い――とここで、私は閃いた。

 

「朱音ちゃん、もしかして思いついた?」

「そのまさかで思いついたさ、うどん、特に〝讃岐うどん〟をこよなく愛する香川県民の一人たる若葉なら絶対知らないうどん料理をね」

 

 人さし指を立て、私は微笑みひなたの願いに適うバレンタインに送る料理を何にするか決めたのだった。

 

 

 

 

 

 さて、そうと決まればと言わんばかりに、三人は場所を寄宿舎の調理室に移す。

 SONG本部にも厨房はあるが、スペースではこの調理室の方が広いので、複数の人間が同時に同じ料理を実践するにはこちらに軍配が上がる為だ。

 調理台の上に纏められた材料を見たひなたは。

 

「何だかこれから茶碗蒸しをお作りになられる様な……」

「何をかくそう、言ってしまえば〝茶碗蒸しうどん〟だからね」

「「茶碗蒸しうどん?」」

「そう、正式名称――」

 

 友奈とひなたが見事にオウム返しをハモらせた中、朱音は。

 

「―――〝小田巻蒸し〟さ」

「はぁ~~美味しそう♪」

 

 これから作るうどん料理の正式名称を口にしつつ、タブレットPCでその料理の画像を見せ――小田巻蒸しは江戸の世の頃の、商人の街として栄えていた大阪の船場発祥で、丼にうどんが入ったボリューミーな茶碗蒸しで、関西のかの地の郷土料理と言っても過言ではない――と、大まかに解説。

 

「瀬戸内海を隔てた商人の街から、若葉ちゃんの好物がてんこ盛りのこんな料理が生まれていたなんて……うどん好きとして、まだまだ未熟です、精進の余地はたっぷりありますね」

「じゃあ早速、うどん好きを一層極める為にも実際に作ってみよう~♪」

「「おお~~♪」」

 

 性格は三者三様ながら、三人ともノリの良さに関しては共通しているのもあって、朱音が天へと向かって握り拳を掲げると、友奈とひなたの二人も同様の所作でノリノリに応じるのであった。

 

 

 

 

 

・STEP01:具材

 

 最初は具の切り分け。

 ニンジン、長ネギ(特に香川県民の好む青い部分は斜め切り、白い部分は輪切り)、小松菜らの野菜を包丁で食べやすいサイズカット。

 

「朱音さんに負けず劣らず均等にお切りなされますね」

「もうすっかり身体が覚えちゃった、朱音ちゃんの上手い教え方のお陰でもあるけど」

「師、冥利に尽きるね」

 

 朱音とひなたは勿論だが、友奈も鍛えられた甲斐があり、綺麗に斜め切りができるようになっていた。

 朱音の小田巻蒸しのレシピにはトウモロコシも加えるが、これは缶詰ので済まし、細長めの茸(しめじ)を一本ずつ千切り分けていく。

 茶碗蒸しの具のメインの一つでもあるエビは。

 

「ただ背わたを取り除くだけじゃなく、塩と片栗粉をふりかけた上で洗うと、臭みを消すことができるから」

 

 一連の作業で臭みを抜き取る。

 次に、もう一つのメインにして若葉のうどんに次いで好物たる鶏肉を、サラダ油を入れて熱したフライパンに入れ。

 

「まず皮目から焼き目がつくくらい焼くように」

「若葉ちゃんは骨付き肉含めて焼き目のあるのが好みですので、丁度いいですね」

 

 皮目に焼き目が付いたらひっくり返すと同時に輪切りにした白ネギを加え、どちらも焼き目をつけたところで容器(バット)に移した。

 

 

 

 

 

STEP02:うどんとだし汁と卵

 

 うどんは勿論茹でうどん式。

 鍋に入れた水を熱湯になるまで温めた上でうどんを入れ、茹であげたところで。

 

「若葉はコシのある方が好きだから、素早く冷たい水で一気に洗って――」

 

 ちゃんと水気も取り、一玉丁度入るサイズのボウルに入れておく。

 生卵は熱に強い丼に入れ、泡立てない加減で解きほぐし。

 続いてだし汁は、二〇センチくらいの昆布と水を鍋に入れ中火で温め、昆布から泡が出たら取り出しつつ火力を強め、煮立ったら火を止めて鰹節を入れ沈めて一分待ってから、清潔なふきんで汁の中をこすってだし汁の出来上がり。

 

「どれくらい煮込んでおくの?」

「十分、そこまで煮込めば鶏肉から分離した鶏だしがだし汁と混ざり合うから」

 

 別の鍋に焼いた鶏肉とだし汁を入れ、十分かけて(ちゃんとキッチンタイマーも使い)鶏肉本体と鶏だしを分けた後冷まし、別の鍋にだし汁一カップ分、醤油とみりんを入れ、沸くくらい温めたところでうどんと鶏肉と長ねぎとしめじを入れる。

 耐熱丼に保管しておいた卵にだし汁、薄口醤油とみりんと塩を入れて良くかき混ぜ卵汁とし、そこにうどんと具材たちを入れる。

 

 

 

 

 

STEP03:蒸す

 

「蒸し器を使わなくてよろしいのですか?」

「専用の器具を使わなくても蒸せるやり方があるんだ」

 

 丼の高さの半分ほどの量の水の入れた鍋を熱し、水を沸かしたら内部にうどんと具材と卵汁の入った耐熱丼を置き、鍋の箸っこ箸を挟み。

 

「この状態で蓋をして、中火で大体十一分から十三分かけて温めるんだ、これなら蒸し器と使わなくても卵汁が蒸し上がる」

 

 そして十分ともう数分かけてキッチンタイマーが鳴った瞬間、それぞれ蒸していた鍋の蓋を開けると。

 

「うわ~~ちゃんと茶碗蒸しになってる!すご~い」

 

 卵汁が綺麗に蒸されて固まった〝小田巻蒸しうどん〟がそこには確かにあり、完成(ドーン!)

 

「二人とも私のワガママに付き合って下さりありがとうございます♪ これなら若葉ちゃんも大喜びで食べてくれそうです♪ 食後のチョコも含めて♪」

「十四日本番の健闘を祈ってるよ♪」

「私からもエールを送るね、ファ~イト♪」

「はい♪」

 

 もちのろん、今回作った《小田巻蒸しうどん朱音アレンジ》は、美味しく頂きましたとさ。

 

 

 

 

 

・そして、バレンタインデー当日(リディアンチャイムメロディ~♪)

 

「何だこれは!?私の知らないうどん料理と聞いて期待してたのに、丼の大きさの茶碗蒸しじゃないか!」

 

 若葉はなまじ、その凛とした美貌と物腰で同性からの人気も高く、バレンタインデーはひなた以外の女子からも毎年チョコを貰うことになる。

 そんな多数の女子(ファン)たちからの、第一波(ごぜん)の猛攻(プレゼント)を振り切り、当日一週間前よりひなたから。

 

〝チョコと一緒に、若葉ちゃんも知らない特製のうどん料理を振る舞っちゃいます〟

 

 期待を煽られる言葉を受けたのもあり、楽しみにしていたら、ぱっと見巨大な茶碗蒸しにしか見えない料理を出されて、茶碗蒸しも比較的好きな料理なのもあり憤慨とまでは行かずとも、若葉は戸惑う心情が沸き上がるのを否めずにいた。

 

「まずはご賞味下さい若葉ちゃん♪」

「ああ……分かった………いただきます」

 

 ひなたの笑顔の意図が読めにいる中合掌した若葉は、恐る恐る表面の弾力たっぷりに蒸し固まった卵に箸を入れてみると。

 

「う、うどん!?」

「はい、大阪の郷土料理で知る人ぞ知るうどん〝小田巻蒸し〟です、少々朱音さん独自のアレンジが入ってますが」

「なんて不覚……うどんを愛していながら、こんな亜種料理のあるのだと知らなかった……だが折角のひなたの料理、ありがたく頂くぞ」

「はい」

 

 まだまだうどん好きの身として未熟だと噛みしめつつも、若葉は朱音直伝ひなた特製の小田巻蒸しを堪能し始める。

 

「鶏と昆布だしに卵の甘味がコシたっぷりの麺と絡まって………卵もまるでプリンの様にふんわりとしてて、鶏肉にも甘味たっぷり沁み込んでる………」

 

 その堪能が過ぎる余り、ひなたが持つ超高性能カメラ(自動ピント調整と自動撮影に毎秒六〇回切れるシャッター、防水防塵暗視録音機能も完備)による連写にも気づかないくらい食べ尽くすまで味わい尽くしているくらいだった。

 

「朱音さん直伝なのも納得の美味しさだ、ありがとうひなた♪」

「いえいえ、こちらこそおいしく味わって貰って♪」

 

 ひなたの《若葉ちゃん秘蔵コレクション》の写真の総数がさらに一気に、増量されて丁重に保存されることになるのは、言うまでもないことである。

 勿論、この後は食後のデザートがてら、ひなたの愛情たっぷり詰まったお手製チョコも、若葉へ贈るのは必然。

 二人の絆の強さもまた、揺るぎないものであるのも、言うまでもないことだからだ。

 

 

終わり。


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