GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
後半の朱音は、弦十郎八紘兄弟の『人を信じる』信念をリスペクトし、自分も『信じている』ているからこそ、『誰も信じていない』外道爺にそれをへし折られたくないゆえの『ガメラ』としての警告。
二重奏XDU本編でも登場した『サクリスト弾頭』はアウスさんの『戦姫と勇者の二重奏』シリーズの独自設定ですが、本家でもやりかねないのがあの爺の恐ろしいところです(汗
SONG本部の潜水艦が停泊する香川県讃州市内の軍港から、勇者と装者を乗せた二機の輸送ヘリがプロペラを軽快に回し奏でて浮上。一機は諏訪方面へ、そしてもう一機は、関東方面へと向かっていった。
目的は、一度造反神の手に落ちながらも取り戻した開放地域が、再び向こうに侵略される様に結界を張って敵側の影響力を抑え、神樹様側の力を高める《浄化の儀》を執り行う為である。
関東方面に進む機内には、操縦士含めた自衛官の他に、翼、調、英理歌、未来、朱音、千景、須美………そしてつい先程若葉たちと同じ時代から召喚されたばかりであり、関東地区での浄化の儀を担う巫女にして、おさげヘアに丸縁眼鏡と几帳面そうな雰囲気が印象的な少女――花本美佳(はなもと・よしか)も同乗していた。
諏訪開放以来、久々に輸送ヘリに乗っての遠征と言う機会を生かして、私は目的地に到着までの間、機内から窓越しに地上鑑賞を堪能していたんだけど。
「あ、朱音さん……」
隣に座って移動中の暇つぶしにゲームプレイ中だった千景から呼ばれたので、目をそちらに移すと。
「どうしたんだい?」
乗り物酔い対策でトトが結界を貼っているので、ヘリ内でも快適に趣味のゲームに打ち込める環境でありながら、居心地悪そうな顔つきをする千景が私を見上げていた。
ゲーム画面を見てみると。
「っ……千景がゲームオーバーするなんて珍しい、いつもならHARDでもノーコンティニューでクリア朝飯前なのに」
「はい……いつもならこのゲームだととっくに中盤まで進んでるのに……」
凄腕ゲーマーにしてプレイ中は凄まじい集中力を発揮する千景ならまずあり得ない、『GAME OVER』と『CONTINUE』の文字が画面に表示されていた。しかも出発した時点では難易度HARDでのニューゲームだったから、経過時間を踏まえると、まだ序盤のステージでゲームオーバーしたことになる。
ゲーマーとしての千景が不調で私に相談してくる原因が機内にあるとしたら……それはやっぱり。
「相談の中身は、もしかしなくても美佳(よしか)のこと?」
千景は頷いて返した。
さっきから彼女から千景へ度々向けられている視線が、ゲームへの集中力を阻害されるくらい気になって仕方ないらしい。
「確かに花本さんは、私を勇者として見つけてくれたけど………初めて知り合ったのはその時で………顔を合わせたこと自体、今日神樹様に呼ばれるまでご無沙汰だったし」
「(それで朱音の碧眼で、美佳が何を思っているのか探ってほしいってことだね?)」
「うん……」
千景からは、全く美佳の視線の意図を推し量れず、先日距離が縮まった私とトトに助け船を求めてきたところか。
この後重要なお役目を控えているのに、せっかくの息抜きも兼ねた趣味を楽しむこともできないのでは、さすがに不味いので。
「分かった、ただこれはあくまで私個人の見解だから、それで美佳がそう言う人となりだと思い込まないでね」
「はぁ……ありがとう」
前置きに念押しした上で、私から見た美佳の第一印象を千景に伝えることにし、千景はほっと安堵の息を零して微笑みを見せてくれた。
「ひぃ!」
と思ったら突如、千景の顔が青ざめたものに一変する。
「(千景、もしかして酔っちゃった?)」
「違うの……なぜか結城さん絡みで嫉妬した時の東郷さんの様な気配を、なぜか感じて……気のせいだよね?」
「多分と思いたいけど」
ああ……千景の悪寒の出所は分かる………本人は〝ポーカーフェイス〟に徹しているがつもりだろうが、私の感覚からは見え見えだよ、美佳。
「じゃあ私から見た美佳の第一印象だけど」
「うん」
現状での、私の美佳に対する印象の数々を上げていくと。
丸縁眼鏡と固く締まった眉間に違わず生真面目。
相手と親しくなれる人物かどうかは、慎重に見定めがち。
けど東郷たちみたいに、真面目な気質ゆえに一度何かに嵌ると徹底的にのめり込みがちでもあり――。
「巫女服の板に付いた着こなし具合から見て、家は神社の宮司をしていて……娘が勇者を見い出す巫女となったのをきっかけに父は大社の神官になった……」
「あ……当たりです」
推測通り美佳は神社の家生まれで、神樹様の巫女となる以前から神道と長く深い繋がりを持っており、千景は舌を巻かれた様子だった。
「後しいて挙げるなら………尊敬に値する相手に対する憧憬の念は、人一倍以上に強い……かな?」
「じゃあ………花本さんの私を見る目って」
「おそらく、敬愛の情ってやつだね」
「でも……さっきはなした通り、花本さんとは今日まで一度会ってそれきりだったのに……」
千景からしたら、なぜ自分が彼女から敬意を抱かれているのか心当たりが浮かばないので、戸惑うのも無理なかった。
手がかりがあるとすれば……。
「少し話は変わるけど、美佳本人から〝みか〟とよく呼び間違えられると、聞かされたことない?」
「あ、確かに初対面で〝よしか〟と呼んでくれないことに悩んでると言ってた、私もよく苗字を〝群(ぐん)〟と読まれがちだったから、呼び間違えなかったけど」
「それだ」
私の思考は、掌に拳を打つ仕草を思わずするくらいの閃きが走った。
「ちゃんと〝よしか〟と呼んでくれた、それが千景を敬愛する契機だよ」
「え……たった……それだけで」
「他人の目からは〝それだけ〟に見えても、本人にとってはとても重要なきっかけなのは、誰にでもある、千景だって心当たりはあるでしょ? 主に高嶋(たかな)辺りから」
「あ、言われてみれば……朱音さんの言う通り、主に高嶋さん辺りから」
図星を当てられた千景は、こそばゆさで顔を赤らめて縮こまり出した一方で。
「またありがとう朱音さん、トト、お陰で花本さんまで苦手意識を持たずに済みそう」
「私で良かったら、いつだって千景の力になるよ」
「うん♪」
また私たち笑顔を浮かべてくれた。
私も微笑みを返しながら、千景のこの笑顔も、絶対に守り抜いて見せると、改めて心(むねのうた)に誓いを立てた。
一方、朱音と千景の会話の話題の主たる美佳本人は――。
「(高嶋さん以外に郡様をあそこまで笑顔にさせる草凪朱音さん……ほんと何者なの!? 私だってあの人の笑顔を向けられたいのに!)」
――と言う具合であり。
「良かったら朱音さんもこのゲームやってみる? グラ○ィウス系なんだけど」
「お、じゃあお言葉に甘えて、千景のゲーム機、お借り致しま~す♪」
おまけに朱音の美佳に対する第一印象は――。
「(私だって郡様とゲームし合いたいのに………貴方が持ってるゲーム、全部調べて買って巫女のお役目の合間にやり込んでるんですよ~~!)」
――ほぼ当たっていた。
関東での浄化の儀を行う場に選ばれた、埼玉県にある調と書いて〝つき〟と読む神社――《調神社》に、緒川さんが運転するセダンで到着する頃には、もう夕方となっていた。
実は神世紀の神社は、全て大赦に属している訳ではない。暦が神世紀に改元されたばかりの頃、全国に渡り少なからず存在していた神樹様を信仰する大赦の方針に賛同せず異なる道を選んだ神社たちは、独自に結集して《神社庁》と言う組織を設立した経緯がある。
調神社含めた《氷川神社群》も神社庁管轄地な為、浄化の儀を行う為の承認を得る為に色々と手続きを挟まなければならず、目的地に着くまでだけでもここまで時間がかかってしまったのだ。
ただ神樹様と距離を置く神社庁の方針が功を奏した面もある、クーデターを起こしたといえども造反神の神樹様に属していた神であり、無論その力を最も発揮できる〝拠点〟も四国。
その四国本土から離れている上に、神樹様から離反したことであちらも弱体化は免れていないだけでなく、神社庁の施策で神樹様への信仰心が強くないこの地区なら、造反神とて赤嶺友奈一味をこちらへ瞬時に移動するだけの力を行使できない。
無論、油断は禁物なので、万が一の可能性を忘れずに警戒は怠っていない………乗車中の間も、調神社の大まかな情報を(推理通り実家が宮司をしている美佳から説明してくれたが、ジャンル問わずこの手のマニアあるあるの早口かつ長々としたものだったので、自分で調べた方が早いと即断し)端末で仕入れる傍ら、連中が監視してないか気配を張り巡らせていた。
「到着しました」
幸い何のアクシデントも起きず、セダンは調神社来訪者用の駐車場に停められ、降りた私たちはその足で境内に入る正面口まで歩くと。
「(本当に鳥居が無いね)」
「ああ」
神社と聞いて浮かぶイメージと一線を画する光景を、肉眼で改めて目にする。
トトが零した通り、正面入り口には俗世(ひとのせかい)と神域(かみのせかい)の境界線と言える鳥居の門がない。
邪気から神域を守る門番の役は、狛犬ではなく可愛らしい狛兎の石像が二体、左右対称で向かい合って担っていた。
「なんというか、マリアがいたのなら真っ先に食いつきそうなものだな」
「Yeah」
狛兎をまざまざと見物しながら、私は翼の発言に同意を示す。
「確かにあの可愛いもの大好きな〝アイドル大統領〟様なら、真っ先に飛びつく光景でしょうね」
マリアが愛嬌たっぷりな狛兎たちにときめく姿が、容易に想像できたからだ。
私もお役目(しごと)中でなければ――「門番お疲れ様♪」――と労いながら頭を撫でていたところだ。
「全面同意だが、マリアの前では言わないようにな」
「もちろんですよ、先輩」
と翼から忠告されたけど、いざ参拝したらこちらがわざわざ言うまでもなくマリアは『か、かわいい!』と言ってときめくだろうな。
マリアって結構、思ってることが顔に駄々漏れがちなタイプだから。
――――
同時刻の諏訪では。
「はあ!」
「マリアさん?ワッツハプン?」
「また世界のどこかで誰かが私をネタにしている気がするぅぅぅ~~!」
「マリアさんって、自信家なのか人見知りなのか、よく分かんないところあるよね……」
「言えてら」
なんてやり取りが起きてたそうな。
――――
境内を進んでいくと、狛兎だけでなく、参拝前に手を清める手水も兎の口からも出ており、社殿にも兎たちの木彫があちこち彫られており、千景や調たちもその愛らしさに見惚れており、緒川さんもそんな友たちの様子を微笑ましく眺めていると。
「おやおや、予想よりもお早いご到着でしたね」
「貴方が、この調神社の宮司様であらせられますか?」
境内の兎さんたち並に穏やかな物腰をして眼鏡をかけた宮司のお爺さんが、私たちを迎い入れる。
「はい、話には伺っていたのですが、いやぁ~~皆さんお若くていらっしゃる、皆さんを見ていると、娘夫婦の孫を思い出しますよ、生きていれば丁度、皆さんくらいの年頃でしてなぁ……」
「いや、私たち上から下まで結構ばらけた年齢差だと思うのだけど」
夕空を見上げてそう零した宮司さんの言葉に、千景は呆れ気味に突っ込む。実際このメンバーだけでも年齢にばらつきがあった。
「ハハハ、何小粋な神社ジョーク、円滑な人付き合いに不可欠な作法ですよ」
「むしろ不信感が丸亀上の天守閣あたりまでを築いているのだけれど……」
多分この場にクリスがいたら――〝不信感が万里の長城を築くレベルだぞ……〟――と表しそうだね。
「まあまあ千景ちゃん、一応はここの宮司さんなんだし、その辺で」
と、宮司さんがにこやかに手を自分の額へポンを叩いて発せられたジョークを前に、千景と筆頭として却って訝る気持ちが強まってしまう皆と、それを宥める未来だった。
「(大赦の神官たちにも、この宮司さんくらいのユーモアがあればな……)」
「(僕も同感)」
私たち――《ガメラズ》はと言えば、何度目なのかもすっかり忘れた大赦に対する皮肉をテレパシーで共有し合う一方で。
「(でも………〝偶然〟にしてはでき過ぎだよね)」
「(ああ……調と、調神社に……宮司さんのお孫さん……)」
前に切歌たちから聞いた〝月読調(つきよみ・しらべ)〟と言う少女(とも)の境遇と、宮司さんのジョークの内容との、偶然では片付けられない類似性を対し………内心疑問を秘めている私とトトでもあった。
本殿に隣接している宮司さんの自宅の客間用な離れの部屋に案内された私達は、畳中央の座敷机を囲む形で腰かけると。
「長旅でお疲れでしょうから、淹れたてのあったかいお茶と、私が厳選したお菓子でもどうぞ」
「ありがとうございます」
宮司さんは私達全員分のお茶と、饅頭やお煎餅と本格的な和菓子に、スーパーやコンビニで普通に変える市販のクッキーにチョコと言った洋菓子もたっぷり入った木製のお菓子入れを持ってくれたので、私達はありがたく頂戴する。
無論……いわゆる〝純和風至上主義者〟な須美は洋菓子混じりの宮司さんのチョイスに、言葉にせずとも少々不満気味だったのが表情に出ていたのはご愛嬌と言うことで。
「本題に入りましょうか、皆さまは《氷川神社群》というのをご存じですかな?」
私たちがスナックタイムを終えたところで、宮司さんは関東の地での浄化の儀を執り行う、調神社含めた神社たちのことを、倉庫から持参してきたと思われる地図を広げつつ説明し始めた……一応その辺も私は前以てスマホで調べていたけど、おさらいと言うことで、聞き手に徹する。
地図上に表示された複数の点はこの地区周辺の神社の位置を表しており、大宮氷川、中氷川、氷川女体、中川、宗像、越谷の久伊豆、そしてここ調神社を表しており、それらを線で結ぶと――リオン座を鏡写しに反転させた形になる。
これらの図は《鼓星の神門(ツヅミボシ・ノ・カムド)》と呼ばれ、〝神の力が出ずる門〟と言う意味合いを持つとのことだ。
実際、宮司さんの説明を聞きながら勾玉を握って集中してみると、マナとそれが流れる血脈(レイライン)の反応を感知したと示す光と熱が強く発せられた。
確かに四国本土から離れた地で浄化の儀を行うには、打ってつけの場所である。
「では、すぐにそこに向かうべきだと思います」
「私も鷲尾さんの意見に賛成、手っ取り早く儀式を済ませて徳島の開放を進ませましょう」
千景と須美が《鼓星の神門》の範囲内で、最もレイラインの影響を大きく受けた地点で浄化の儀を早急に行おうと提言した矢先。
〝~~~♪〟
客間中に、重々しいが呑気さも感じさせられる鈍い腹の虫……どころか〝腹の獣〟と呼んだ方が正しいくらいにけたたましい空腹の悲鳴が盛大に響き……私は音の発生源へじっーと視線を送った。
「敢えて問おう……今の唸り声、鳴らしたのは未来、君だね?」
「うん……すみません……犯人はこの私です」
未来は挙手して白状した。
「小日向!?」「未来さんが!?」
空腹の鳴き声を発した意外なる正体に、翼たちは驚きを隠せない。
何しろ食事の摂取を要求するお腹の音色の具合が、響のものと瓜二つだったからだ。
「えっと、なんと言いますかその……いつもご飯を美味しくたくさんいただいてくれる親友の癖が乗り移ったと言いますかその……私の中の獣がごはんを寄越せと大暴れしておりまして……あはは……」
そう弁明する未来は、お腹を手で摩り、顔は茹蛸並みに恥ずかしさで真っ赤が過ぎる真紅に塗りたくられていた。
「では、晩御飯の支度をしましょうか」
宮司さんはディナーの準備をするべくその場から立ち上がり。
「――私の焼いたキッシュは絶品ですぞ」
これから調理する料理のメインらしい、洋食キッシュの名を口にした。
私は〝神社の家の全てが和食〟などと思っていないので気にしなかったが、他の皆はこれまた意外と驚かされていた。
「待ってください! そこは普通和食では!?」
当然須美は、あからさまに不満の声を上げるが。
「鷲尾さん、神社と言えば和食っていうのは、さすがに固定観念が強すぎると思うけど?」
「千景さんの仰る通りです、実際は色々とその神社の宮司の好みも十人十色、洋食を普段から召し上がる方々は普通にいますよ」
千景と美佳の二人に宥められ、渋々須美はその不満な気持ちを心の奥へと引っ込めようと努め出した。
「あはは、お若いのに和食の方に拘りがあるとは、これは少し配慮が足りませんでしたな、ですがどうかご容赦を、これは亡くなった孫の好物でして……昔は色々と時間があるときなどの拵えていたんですよ……それに何より、お客人には一番に得意とする手料理を振舞いたいものではありませんか」
と言って、宮司さんは、曰く〝亡くなった孫の好物〟でもあったと言う自身の得意料理のキッシュ含めた夕食(ディナー)を作りに、台所の方へと向かっていった。
「ちょっと、花を摘みに行ってくるね」
それを見送った私も客間を後にしつつ。
「(トト、翼に二人で話したいことがあると伝えておいて)」
「(分かった)」
私は翼との密談の場所を、調神社本殿前に選んだ。トトが人避けの結界も張ってあるので、盗み聞きされる心配はない。
本題に入る前に私たちは、浄化の儀を成功する為に力をお貸し下さいませと言う祈りを込めて、祀られている神様へ、二礼二拍手一礼で参拝した。
「それで、話と言うのは、例の宮司殿のお孫さんのことか?」
「はい、宮司さんの話、ただのジョークと言うわけではなさそうだったので」
今は公的な状況なので、翼には敬語で応対する。
「現状、これはあくまで私の憶測なのですが……宮司さんのお孫さんはもしかしたら……調かもしれないんです」
「何!? 月読が!?」
案の定、私の憶測(すいり)に対し、翼は刀の刀身の如く吊り上がった瞼を大きく開いて驚愕を見せた。
「これは前に切歌たちから聞いた話なんですが………調の名前も、本名ではないんです」
「なんと……星空の名がナスターシャ教授から名付けられたものだと聞いてはいたが、よもや月読も……」
「ええ、細かな違いこそありますが……切歌と英理歌、そして調、三人とも似たような境遇の持ち主で――」
三人とも天涯孤独の身で、FISに拾われただけではない。
英理歌は物心付いた時から、フィーネに拾われるまで自分はどこで生まれ、どんな人種で、両親は何者で、親からどんな名前を授かったのかも知らないまま、思い出せないまま………戦火の激しい紛争地帯の真っただ中を生きてきた。
FISの調査でも、彼女の出自を掴むことはできず、〝星空英理歌〟と言う名も、プロフェッサーナスターシャが名づけたもの。
〝私の誕生日の四月一三日、実はFISの研究所に連れていかれた日で、本当の誕生日も、それより前の記憶も、覚えていないんデスよ〟
切歌の方は〝暁切歌〟こそ本名であるものの……誕生日含めたそれ以外の記憶は失われていた。
そして、調も――。
「切歌の話によれば、どうも調の家族は何らかの事故に巻き込まれて、記憶を失いながらも彼女だけが生き残ったところをFISに拾われたらしく――」
〝月読調〟と言う名前は、その時彼女が持っていた私物を元に、プロフェッサーナスターシャらが名づけたそうだ。
〝調が持ってたバックには名札があったのデスが……血が滲んで消えちゃってて……でも〝調〟って文字が付いた神社のお守りが付いてたのデスよ〟
「なるほど……〝月(つき)とも読める調べ〟と言う意味合いで、ナスターシャ教授は〝月読調〟と名付けたのか………朱音がそう推理するだけの根拠は、確かに揃っている」
「けど、本人には言わない方が良いでしょう、今言っても混乱させるだけでしょうし」
調本人からすれば………〝月読調〟として、生きてきた時間の方が長いし、今さら切歌たちを会う以前の〝自分〟を今明かされても……大きく狼狽して心の整理が追いつかなくなるだろう。
「本当に調が、あの宮司さんのお孫さんである客観的な証拠もありません」
「そうだな、だが月読が調神社の生まれと仮定すれば、以前静音が言っていたこととの辻褄もかなり合うのだが……」
「静音が……調のことで何と?」
これには初耳だったので、何のことか訊ねてみると。
「どうも月読も、上里や櫛名田、藤森や東郷ほどではないが、〝巫女〟の素質を持ってると、前に静音より聞かされたんだ」
「調も……巫女の適正を?」
「そうだ」
最初は驚愕こそしたけど、巫女の資質と言う点ではあながちあり得ない話ではなかった。
千景の子孫であるこの世界の特機二課の長である郡千明司令は――《感染呪術》――と称された、神や霊的な存在と、長く深く関わりを持つことで後天的に強い霊感を会得していた。
本当に調の肉親が神職出身であれば、同様の経緯で巫女の適正を開花させていたとしてもおかしくはない。
「もし月読が宮司の家系の出なら、彼女が櫻井女史に続いてフィーネの魂を宿した理由にも説明がつく」
これもまた、あり得ない話ではない。
調たちの様なFISのモルモットだった少女たち――《レセプターチルドレン》は、フィーネが万が一バラルの呪詛を破壊する悲願を成就する前に櫻井了子の肉体が死した場合の備えとして、リインカーネーションによる次なる転生先を確保する為に、かのアメリカの聖遺物研究機関に集められた経緯がある。
事実、調はフィーネの次なる転生先の器に選ばれた(ただしその頃のフィーネには、彼女の心身を乗っ取る意志も、今度こそ月を穿つ野望も持っていなかったと補足しておく)。
「だが大赦の巫女は、上里や安芸真鈴のように実際に神樹様に選ばれるまで神職と縁の無かった者の方が多いからな……これとて確証のある話ではないが……」
とは言え………結局のところ、現状では私たちの推測は憶測の域を出ず、調とあの宮司さんが血縁である確たる証拠はない。
彼女が持ってたお守りも、証拠とするには弱い代物。
「そろそろ戻るとするか……」
「そうですね、もうじき宮司さん特製のキッシュもできる頃合いですし」
私と翼は、調と調神社に関する話題をここで一旦切り上げ、みんながいる客間へと戻っていった。
その後、私の懸念してた通り〝浄化の儀〟を阻止すべく真矢――イリスが超大型バーテックスと星屑の群れを率いて出現――を含めたアクシデントの数々に見舞われたが、どうにか私たち装者と勇者、加えて自衛隊や現特機二課の方々の尽力で乗り越え、自ら巫女服を纏い志願した調含めた巫女たちによって関東地区での儀式を、どうにか無事に完遂できてから少し日数経たその日……ちなみに昨夜も含めたここ数日のドリームトレーニングは、空中戦の特訓と、さらなる新技の会得に明け暮れている。
転生後での奴との空中戦では、僅かだが真矢に後れを取ってしまったからだ、せめて〝奥の手〟たる形態(フォーム)と武器(アームドギア)と技を用いずとも、前世での空戦くらい旋回力と瞬間的な加速力は、奴に勝っておきたい。
それと次なる技は、雷撃を用いた奴のアンチプラズマフィールド対策も兼ねたものにするつもりであり、参照の一つは……クイーンレギオンの切札(おくのて)………と決めている私はトトと一緒にSONG本部内の回廊を進んでいる、行き先の弦さんのオフィスのドアの前に辿り着いた。
「(司令が会わせたい人って……)」
「(まあ大体、予想はつくけど)」
弦さんが私一人を呼んだ件に関して、当人からは〝会わせたい人がいる〟としか聞かされていない。
でも、先日の私と真矢との氷川神社群の龍脈(レイライン)の存亡を巡る空中戦で起きた事態と、あの鎌倉の外道が犯そうとした大罪を照らし合わせれば、相手が誰かおおよそ見当がついた。
「(連中の出歯亀は?)」
「(今日はまだ、今の内)」
念には念に、赤嶺たちの今日の監視事情を確認し直した上で。
「失礼します、朱音です」
『入ってくれ』
自動扉横のインターフォンを押して、司令のオフィスに入室すると。
「突然呼び出してすまない」
「お気になさらず」
まず目に入ったのは、オフィスデスクの前で椅子(チェア)に腰かける弦さん――司令と、壁面に設置されたモニター。
「どうしても、君と会っておきたいと所望する御方がいてな」
そのモニターの画面が点灯し。
『お初にお目にかかる、草凪朱音君、トト君』
「こちらこそはじめまして、風鳴八紘内閣情報官」
「(どうも)」
おそらく自身の執務室から通信を繋いでいるであろう、司令の兄にして翼の父である八紘長官の厳かな姿と声が映し出され室内に響き、私とトトは粛然と姿勢を正し直して一礼する。
八紘長官とは既に自分の次元(せかい)で会っている身だが、今通信画面越しで顔を合わせている長官は〝平行世界の同一だが別人〟であり、向こうからすれば私とはこれが初対面なので、私も相手に合わせる形で挨拶を返す。
『君達にコンタクトを取ったのは、どうしても先日の氷川神社群防衛戦に関する非礼をお詫びしたくてね、その節は申し訳なかった』
「いえ、私もトトも、あの誤射が首都圏を死の街にさせない為の〝苦肉の策〟だと重々理解しておりますので」
単独飛行できる私以外の戦力を大型と星屑に割かせた上で、レイラインの破壊を目論んでいた真矢(イリス)とのドックファイト中に起きた、空自の第一高射隊から誤作動で発射されたペトリオットは、私達(ガメラ)と宿敵共々爆風で呑み込もうとした。
身から出た錆にして、自身(ガメラ)最大の大罪――渋谷炎上が原因だったとは言え、前世にてイリスを追走中に同じくペトリオットの攻撃を受けた苦い記憶を思い出させられるには十分な〝貧乏くじ〟だったが、これにはそうならざるを得ない事情があった。
「長官の迅速な裏工作が功を奏していなければ、あわや〝サクリスト弾頭〟を積載されかけたペトリオットは――」
《サクリスト弾頭》とは、かの鎌倉のフィクサー指示の下、風鳴機関が表沙汰にできぬ非合法で盗用した元FISの技術理論を悪用して密かに開発されていた、表向きは特災害用の特殊弾頭……その実態は核すらも凌駕しかねない危険な〝戦略兵器〟。
弾頭内には聖遺物の欠片が積載されており、それを歌以外の手段で暴走させる形で起動し、強引にエネルギーを莫大な破壊力に換えて爆発させる代物で、その破壊力は低くても………我が祖国が犯した大罪の一つたる〝広島原爆(リトルボーイ)〟数百発分、最大ならば旧ソ連が生み出した水爆(ツァーリ・ボンバ)クラスの反応爆弾と同等以上。
「――バーテックスどもどころか、我が戦友たちと大多数の民間人も巻き込んで、首都圏をゴーストシティに変え、かつての私が渋谷で起こした罪以上の大災厄を招いていたことは明白です」
この度を越した破壊兵器を東京湾上空から出現した大型バーテックスの殲滅に使用していたら………首都圏含めた関東の主要都市は、間違いなく壊滅していただろう。
こんな………我が罪過すら比較にならぬ程の非人道的行為を、平然と犯そうとしたのも、他ならぬあの風鳴訃堂だ。
「全くあの鎌倉の御仁は、事態を最悪の最上級にまで高めることばかり長けていて、困りものですよ」
私は、司令と長官がかの外道の肉親であることは承知の上で、皮肉を零し。
「八紘長官にも、郡司令ら現二課も、風鳴機関とは〝別途の諜報機関〟も、相当な苦労を強いられたのは容易に想像できます」
「朱音君……なぜ影護(かげもり)のことまで?――っ……」
「あら? これは貧乏くじを引かされた身として、せめてものちょっとしたカマ掛けのつもりでしたが、実在していたのですね――御仁と風鳴機関の監視(おめつけ)役が」
この世界の日本に存在するもう一つの〝諜報機関〟の存在を、ちゃっかり入手させて貰った私は、少し意地悪気味に笑みを司令に向ける。
「まだまだ詰めが甘いですよ、司令」
『これは一本取られたな、いかな朱音君が大いに信頼できる人物とは言え、脇が甘いぞ弦』
「いや、二人とも面目ない……」
私と兄に釘を刺された司令は、後頭部を掻いて苦笑した。
なぜ風鳴機関の他にも諜報関係の組織が日本にあると踏んでいたかと言うと、あの組織のボスたる外道と、奴の指示を立場上反故にできない空自を出し抜き、サクリスト弾頭を炸裂させずに私たちとイリスどもに向けて誤射させるくらいの〝敵を欺くにはまず味方から〟な策謀を早急に行使するには、内閣情報調査室と特機二課の他にもう一つ組織の力が必要となる筈だと、静音から件のアクシデントのことを聞いた時点で、薄々察していたのだ。
『こうなれば、君とトト君には話しておこう』
「ありがとうございます、その組織に関する情報は、厳重に封をしておきますので」
『君達にその気は微塵もなく、情報戦の重要性を重々理解していることは承知しているが、一応口外しない様に頼むよ、無論お役目を終えて元いる世界に帰還した後でもだ』
「了解です(了解です)」
私達が口を微塵も滑らせないと信じている八紘長官は、《影護》の詳細を教えてくれた。かの組織は、風鳴機関の監視と聖遺物関連の情報含めた非公開の外部情報機関であり、その長は長官の弟にして司令のもう一人の兄である風鳴九皐が務めているとのこと、私とトトを除けば、装者勇者、そして巫女の中で《影護》のことを存じているのは静音と奏芽、それと琴音ぐらいだろう。
私の世界にも、同様の組織と人物が存在してもおかしくない話だな。
さて、このまま八紘長官との謁見を終わらせることもできるけど、二人の様子を見るに……。
「差し出がましいことをお聞き致しますが、もう一つ用件があるのでは?」
「朱音君の察しの良さには、恐れ入るよ」
『見方を変えれば、君が造反神、ましてや風鳴機関が差し向けたスパイの身ではないからこそ、堂々と勘の鋭さを私達に披露できると言えるな』
バーテックスをドローン代わりに、赤嶺たちがこちら側を監視していると判明してからは、SONG本部は勿論、大赦関連施設含め呪術面でのセキュリティも、あちらの出方の隙間を突いて強化しており、司令のオフィスだけでも、情報漏洩防止用の結界が、大赦専属巫女や神官たちによって施されている――事情の話は程ほどにして。
「単刀直入に聞こう……この世界の日本の国防事情に関する、朱音君の率直な意見を聞いておきたくてな」
『特に、鎌倉の御仁に関して』
「〝岡目八目〟――ですね」
もう一つの用件は、私にとっても〝渡りに船〟な第三者からの意見を申し立てて欲しいと言う〝依頼〟……この際だから、私の〝率直な意見〟を、お二方にはっきり伝えておくとしよう。
特に、あの外道に関しては徹底的に。
「仮にも父親であり、国を護ろうとする〝防人〟だと信じているお二方には耳が痛い話をはっきり申し上げますが………〝風鳴訃堂〟は亡国どころか、世界の破滅を招きかねない〝日本〟と言う大木の根に巣を張る癌………そのものですよ」
私のこの表現に対し、苦々しい面持ちを露わにしたご兄弟の様相を前にして、私はある確信を得た。
「司令も長官も、誰であろうと人を最後まで信じ抜く性分なのでしょう……その信念は称賛されるべきものと信じていますし、私もそんなお二人を大いに尊敬し、守護者(ガメラ)としても、一人の人間としても、大いに見習いたいと思っています」
司令――弦さんも、八紘長官も、根っからの善人にしてお人よしで、性善説を信じたい、どこまでも信じ抜こうとする意志(こころ)の持ち主だ。
その想いと在り方は、とても尊い………人間が決して捨ててはならない〝希望〟そのものだけど……。
「しかし……こんな残酷を司令と長官にお伝えするのは心苦しいのですが、風鳴訃堂は、お二人の信念とは真逆に………誰も〝信じていない〟」
正直……心の奥の〝胸の歌〟が酷く締め付けられて、悲鳴を上げてさえいる。
けどだからこそ、このご兄弟の〝信じるもの〟が、無慈悲に容赦なく切り捨てられる無情な悲劇が起こり得る以上、心を鬼にして〝警告〟しておかないといけない。
「他人も、家族も、それどころか……自分自身さえ信じられず、信じることができず………その事実すらも認識してない」
風鳴訃堂の、息子たちとは対極に在り、誰とも決して相容れないと断言できる心象風景(ほんしょう)を形作っているものを、言葉にして並び立てていくのなら。
不信。
猜疑。
不義。
孤独。
拒絶。
絶縁。
奈落。
底なしの闇。
狭く、小さき器。
想像力が致命的に欠如した視野。
私含めて、人間と言う生命体自体が、弱者であるが、かの外道は全人類の中で………〝脆弱〟。
大赦の神官たちより、ノイズとそれを生み出した超先史文明人たちより、バラルの呪詛よりも………相互不和と不理解の体現者。
「よくお二人にも口にしているのではありませんか? 〝果敢無き哉〟……と」
『君の言う通りだ、私も弦も、度々かの言葉を、我ら父の口より聞かされてきた』
「そいつを最初に言われたのは何歳だったか、それすらも思い出せんくらい……にはな」
果敢とは強き意志を意味し、言うなれば――〝勇気〟を示す言葉。
「あの御仁ほど果敢……勇気と無縁な輩は、そういませんよ」
全ての平行世界に生きる人間は愚か、全生命の中で最も〝弱い〟……誰も信じられず、自分すら信じておらず、誰とも繋がることのできない……ゆえに、先人たちが紡いできた遺志と故郷愛を言い訳にし、時代錯誤が過ぎる護国、攘夷、国枠、極右と言った極端な思想と、狂気で脆弱な己を塗り固め、己以外の全てを敵とし、虐げ排斥しようとする、排他さと虚無に満ちて空っぽな、哀れが過ぎる魂。
人との絆(つながり)を断ち切れなかった私でさえ……そう言い表すことしかできない風鳴訃堂と言う、最早人の姿をした……一種の概念。
「とは言え、これはあくまで現状の自分から見た印象でしかありません」
と、ここまで辛辣に述べてきたけど………今の自身の主観でしかないと己に言い聞かせながら司令と長官にも配慮を挟んだ上で。
「ですが……人を信じ続けようとするあなた方の意志をへし折ろうと、いつでも画策し、毒牙を隠し持っていると、念頭に置いた上で………最悪に至る前兆で食い止める対策は、今の内に練っておいた方が賢明だとも私は考えています」
この方々の心からの想いを踏みにじられて欲しくないからこその、忠告を超えた警告を、司令と長官の信念の源たる〝胸の歌〟に送り。
「それでは、これ以上長官のタイトなスケジュールをこれ以上切迫させたくはないので、これにて失礼いたします」
深々と頭を下げて、私は司令のオフィスを退室した。
もし、努力も尽力も虚しく、あの外道が世界そのものも破滅に至らせる凶行に走ったその時は、戦う――覚悟なら、再び〝ガメラ〟の力を手にすると決断した瞬間から、とうにできているさ。
「(朱音、僕も……もし司令たちにとっての〝最悪〟が起きた時の覚悟は、決めているから)」
「(ごめんねトト……でもその時が本当に来た時は、守り抜くぞ)」
「(うん)」
それが守護者(わたしたち)の宿命なら………〝最後の希望〟と言う十字架を背負う〝ガメラ〟として、戦い抜くまでだ。