GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
今回無駄に銃器描写が凝っているのはアニメも放送中なGGOってやつの仕業なんだ。
アウスさん本人から勿論了承頂いております。
私が、平行世界の地球の神々――神樹様に召喚されてから数日が過ぎた。
その日の夜の私は、日頃飲んでいるお手製のグリーンスムージーを飲みながら、寮の自分に割り当てられた部屋で、支給されたパソコンと向き合って、キーボードを打ち込んでいる。
何をしているのかと言うと、風鳴司令こと弦さんに向けた〝上申書〟ってやつである。
実はその弦さんから、装者勇者全員による大規模な特訓を開くと、今日の日中に聞いたのだ。
私は特訓自体には、乗る気はたっぷりあるので問題ない、鍛錬は常に行っておこないと。
ただ………特訓を行う為の場所―――これが厄介な問題となっていた。
一応、SONG本部な潜水艇内には、トレーニングルームがあり、そこはホログラムで様々な場所、状況を再現できるシミュレーター機能も持ってはいるのだが。
正直、私からしてもそこを使うのはお勧めできない。
まず人数の問題、造反神及びバーテックス相手の戦力たる勇者装者は、今や総勢で三〇人を越えた大所帯、明らかに潜水艇内のトレーニングルームでは、狭すぎる。
大都会は精巧なCGで再現できても、自由に飛ぶことすらままならない。
その上、潜水艇であること自体がネックだった。
私一人例に上げても、私のシンフォギア――ガメラは、万物を焼き尽くす、超放電現象(プラズマ)の炎を扱っている。普通の火では燃焼不可な物質も問答無用で燃やせる豪火を、とても海中を泳ぐ潜水艇内で扱えるわけがない。
控えめに見積もっても、プラズマ火球一発で、ルームの壁どころか、潜水艇そのものに風穴を開けて、巨大な棺桶に変えてしまうのが目に見えた(火力を抑え目にする手があるが、それじゃ訓練にならない、マリアは『訓練は実戦じゃない』と、前に弦さんに扱かれた時そう言っていたそうだが、私は可能な限り実戦に近づけた実戦的重視派である)。
しかも気満々な弦さん自体が、常人同様ノイズに直に触れれば炭素化は避けられない人間でありながら、憲法抵触レベルの大怪獣並みの戦闘能力の持ち主と来た。その気になれば震脚一発で本部を真っ二つに割って撃沈させてしまう。
これじゃ潜水艇がいくつあっても足りず。
〝朱音君、大人数の特訓プランの参考になるアクション映画はないだろうか?〟
弦さん本人もそれを自覚しているがゆえに悩んでおり、同じ映画好きの趣味友な私に、どこか特訓の場選びに参考になる映画はないかとその日聞いてきたのだ。
長くなったが、今纏めている上申書は、この特訓に関することである。
幸い、参考とする映画は直ぐに思いついた。
『どうして僕はみんなと違うの?』
『この星を照らす太陽は若く明るい、その光を浴びて、お前の筋肉も肌も感覚も強化された、地球の重力は弱いが、大気には栄養が豊富だ、お陰でお前は、私達の想像以上に逞しく育った、どこまでその力を伸ばせられるか、自分の目で確かめてみなさい』
今テレビ画面で流れている、あの原初のスーパーヒーローが主役のアメコミ映画こそ、その映画である。
人々に自らの力を隠し続け、自身の出生を掴んだ矢先同族と戦わなければならない十字架を背負わされる暗い作風、私のあの〝過ち〟を連想させてしまう終盤の決戦場面も込みで、決して手放しで褒められる作品じゃないんだけど、この北極の氷の上から、大空へ飛び立つ場面は、私も大好きと断言できる名場面だった。
それにエルフナインたちの錬金術を加えれば、あの古今東西のキャラクターたちが跋扈するVRを描いたSF映画の再現にもなる。
私はプレーヤーを一旦停止し、ディスクを入れ替え、かの映画のクライマックス場面を再生させた。
『俺はガ○ダムで行く』
私も自他込みでオタクだから大好きな映画(まさかの原作者大嫌いな映画版の方のシ○イニングの完コピには爆笑させられた)だけど、もし私がトシ○ウでガ○ダムタイプを選ぶとしたら―――ウ○ングゼロで行ってたかな。
理由は、使っている武器がプラズマ繋がり(実はアームドギアの参考(モデル)に使った)なのと、祖国の片割れのアメリカで初めて放送されたガ○ダムにして、私が幼い頃にて最初に見たガ○ダムでもあるからだった。
翌日。
軍港に停泊中なSONG本部潜水艇の、司令室にて。
〝~~~♪〟
現状、異常も異変も観測されていない至って穏やかな現状とは言え、操作卓に腰かけたまま堂々と、ワイヤレスイヤホンを付けて音楽を聞いている藤尭に。
「藤尭さん」
声を掛ける者が。
イヤホンには周囲の音に反応して自動で音量調節する機能もあったので、イヤホン越しでも聞こえた藤尭は肩をビクッとさせ。
「な、な~んだ、若葉ちゃんとひなたちゃんか」
慌てて音楽を止め、相手が私服姿の若葉とひなたであると気づくとほっと一息吐いた。
「どうしたの?」
「朱音さん、今日はどちらにおられますか?」
「あ~~朱音ちゃんね、今軍港(ここ)の射撃訓練場にいるよ」
「分かりました、ありがとうございます」
「では私達はこれで」
二人は一礼すると、そのまま司令室を後にした。
自動扉が閉まるのを見送ると、藤尭はもう一息、安堵の息を零すと、停止していたプレーヤーの音楽を再生。
「よかった………朱音ちゃんに録ってもらったのがバレたらどうしようかと」
藤尭のプレーヤーに収められているのは、朱音に無理言って(本人は満面の笑みで了承してくれたが)録音させて頂いた、彼女が熱唱する歌曲集。
今流れているのは、銃声と硝煙渦巻く荒野のVRを舞台にしたライトノベルのスピンオフのアニメ劇中曲なミディアムチェーンで、朱音の澄み渡る伸びやかな歌声に、彼は無意識に鼻唄を歌うくらい聞き入っている。
朱音の世界の彼と同様に、こちらの藤尭も、数日ですっかり彼女のファンになっていたのは、言うまでもない。
その射撃場は、〝一見〟すると屋外射撃場(アウトドアレンジ)だった。
青空の下、草木が生い茂る斜面の上には様々な形をした標的(まと)たちが、上下左右バラバラに設置されている。
射台側に立つ、葡萄色がかった黒髪を耳と平行の高さで纏め、タンクトップにミリタリーパンツにグローブと、ガン系統のアクション映画に出てくる女性主人公らしい出で立ちで弾込めする朱音は(勿論ゴーグルと防音用ヘッドホンも装着)、テーブルに置かれているいくつかの銃器の内の一つを手に取った。
SIG P210。
スイスの銃器メーカー、シグ社が一九四〇年代に開発した拳銃。
銃身を一度後ろに引かせたP210に、先程9mmパラベラム弾を入れたマガジンを装填しスライド。
射台に立った朱音は的たちへ向けてP210を両手で構え、トリガーを引いて発砲、場内に銃声が轟き、排出された薬莢が地面に転がり落ちて、金属音を鳴らす。
装弾されていた八発を打ち尽くした。
朱音は射台から、テーブル近くに移動し銃を持ちかえる。
次に手にしたのは、M1911A1、通称コルト・ガバメント。
アメリカのコルト社が生んだ、二〇世紀頃のアメリカ軍の制式拳銃であり、大口径を心棒する米国の象徴でもあり、今でも現役のアクション俳優である朱音の祖父――ケイシー・スティーブンソンが、歴代の出演作で愛用してきた名銃である。
神世紀ではもうかれこれ、約四〇〇年前の銃だ。
マガジンに入れられる弾丸も無論、45ACP弾。
それを装填し、再び射台に立つと、撃鉄(ハンマー)を起こし、しっかりと両手で握りしめる。
ガバメントはこうしないと発砲できない機構となっているのだ。
銃口を的たちに向け、トリガーを引いた。
反動の大きい45ACP弾な上に銃自身重いM1911は、とても日本人では扱いきれぬ代物で、現にガバメントを制式拳銃としていた当時の自衛隊は、扱いにかなり持て余して苦労したそうだ。
それを朱音は、顔色も変えずなんと七連射し、素早くマガジンを排出、再装填し、もう七連射、全て的に撃ち入れた。
朱音が撃つのは拳銃に止まらず。
H&K社のカービン型アサルトライフル――HK416。
神世紀の世界でも比較的近年な二一世紀初頭に開発されたライフルを、堂に入った構え方でフルオート、セミオートを交互に切り替えて放ち。
かと思えば、かのサイバネティック生命体も使った一九世紀末頃のレバーアクション式ショットガン――ウィンチェスターM1887を、映画劇中同様左手でくるりとスピンコッキングしながら、左右横合いより放物線を描いて飛んでくる皿を次々撃ち落とした。
私はまた拳銃、それもリボルバーを手に取る。
ある意味で真打ちと言えるだろう。
S&W M29―6インチ・44マグナム。
一九五五年、かの怪獣の王が銀幕デビューしてから丁度一年後に世に出て、かのサンフランシスコのダーティーな刑事の映画にて彼の愛銃となったことで、銃界の伝説的大スターとなった名銃。
今でこそ単純な威力では後に開発された後輩たちに譲ったが、映画劇中の台詞の通り、一時期は間違いなく〝世界一強力な拳銃〟の王座にいたのだ。
スピードローダーで、44マグナム弾六発を纏めてシリンダーに装填
両足をしっかり大地に踏みしめ、一発目は撃鉄を引いたシングルアクションで。
二発目以降はダブルアクションで、一気に撃ち切った。
この重みと反動は、戦場と言う泥沼の海に、飛び込み続ける上で忘れてはならない〝戒め〟を、私に改めて教えてくれる。
そろそろ休憩でも入ろうかな、と考えていると。
〝~~♪〟
直後に、場内に訪問者が入室を求めるチャイムが鳴った。
「ホログラム、オフ」
ゴーグルとヘッドホンを外した私がそう発すると、音声入力を受けた射撃場が、投映していた立体映像を解除し、本来の一面ほぼ灰色な無機質な空間に戻る。
さっきまで一面に広がっていた緑豊かな光景は、精巧かつ触れることもできる3DCG。
元々はアメリカの聖遺物研究機関――FISが有していた立体映像技術を、エルフナインら技術部の面々が大幅に改良を加えた代物とのことだ。
「どうぞ」
壁に埋め込まれた端末のボタンを押して、来室希望を了承すると。
「失礼します」
「お邪魔します」
「若葉に、ひなたか」
「取り込み中でしたか?」
「いや、丁度休憩しようと思ってたところ」
射撃場に訪問してきたのは、西暦末期の初代勇者たちのリーダーであり、園子のご先祖でもある乃木若葉と、彼女の親友にして神樹様からの伝言役たる巫女な上里ひなただった。
二人がわざわざ、勇者といえどもティーンエイジャーの少女には似つかわしくない射撃場(ここ)にまで足を運んだ理由はさておき。
「それよりひなた、例の君の秘蔵、持ってきてくれたかな?」
「はい♪ 若葉ちゃんの秘蔵コレクションでしたら、厳正な審査をパスした選りすぐりを持ってきましたよ」
「なっ!?」
と、私とひなたが〝アイコンタクト〟してからのにこやかな笑みを浮かべると、若葉の翼ばりに堅物さが板に付いた端整な顔が、一瞬で真っ赤に。
「ひ~な~たっ~~! お前は散々勝手に撮り溜めてきた私の写真を、あろうことかよそ様にまで見せびらかす気なのか!?」
「冗談だ♪」
「冗談です♪」
「え?」
羞恥と怒り混じりな表情になった若葉は、私とひなたが同時に発した一言で一転、牛鬼っぽい目つきな味のあるキョトン顔となった。
ちなみにさっきの連携プレーは、顔を合わせた際にひなたとの短いアイコンタクトで咄嗟に繰り出した即興のジョークである。
(付き合ってくれありがとう♪)
(いえいえ、私こそ若葉ちゃんの良いお顔を拝ませてもらい感謝です♪)
若葉本人にバレないよう、ひなたとこっそりまたアイコンタクトを交わし合った。
愛も愛し方も人それぞれなので、ひなたの若葉に対する慕情にはとやかく言う気はない。
「なんだ冗談か………いや待て、それならなぜ朱音さんがひなたの秘蔵コレクションのことを知っているのですか!?」
それは半ば勘みたいなもの。
ひなたと初めて顔を合わせた瞬間から、一目で彼女はいわゆる――〝知○ちゃん系女子〟なのだと、自分の勘が私に伝えてきたのである。
実際ひなたはその通りな人柄の主だったので、親友の様々な顔を余すことなく写真にしているのは簡単に窺えたのだ。
「まあ、言ってしまえば、ゴーストの囁きってやつ」
「ゴースト? 精霊とは違う守護霊が、貴方にいるとでも?」
真に受けた若葉の大真面目な返しに、お腹に直撃を受けた私は思わず大きく破顔してしまった。
今のボケは予想外だったのもあり、腹も抱えてしまう。
「ど、どうしてそこで笑い出すんだ朱音さん? っておいひなた! お前もか!?」
ひなたも口を抑えて、貰い笑いをする。
若葉も大概、真面目が過ぎた面白可愛いお人だよ、うふふ♪
「朱音さん、これだけの銃、どこで調達してきたのですか?」
勇者にして戦士であっても、銃器に関しては完全に素人な若葉たちでも、畏怖と驚嘆が混合された眼差しで、テーブルに並ばれた銃たちを見つめる。
「ああこれね、大赦に頼んで集めてもらった」
ダメ元で頼んで見たら、一日も経たず希望した銃器が銃弾こと提供されたことを。
「かかった費用も全部あっち持ちで」
私は二課繋がり汎用作業機械ロボットの方の二課の第二小隊の隊長さんみたいな飄々としたトーンで打ち明けると、若葉はギャグアニメみたくその場で脚のバランスを崩してズッコケそうになった。
勿論、ひなたがスマホ片手の知○ちゃんばりの笑顔で、そのシャッターチャンスを見逃さなかったのは言うまでもない。
「いいんですか? そんなことして………」
「問題ないと思いますよ、朱音さんなら不用意に発砲するわけありませんし、それに若葉ちゃんお忘れですか? ここは神樹様がお作りになられた仮想世界ですよ」
「あ……そうか」
「この世界は資源も物品も金銭も、経済の流通さえ本物(げんじつ)と寸分違わぬ幻、だから現実の大赦のお財布には何の影響もない」
射撃訓練自体は、私の世界でも装者となった頃から特機二課の設備を借りて日課の一つにすてたけど、さすがに突起物とお偉いさんどもに白い眼で見られている二課にこちらが求める銃の調達なんて無理はできなかったが、神樹様特製のマト○クスなこっちではそんな遠慮はいらない。
神様依存の隠蔽主義で、勇者たちの青春を犠牲にしてきたチキン集団なあの組織に関しては、春信さんに神崎先生と安芸先生一部を除き、まっ~~たく信用はしていないが、使えるものは活用するくらいの柔軟性や寛容さにクレバーさは、持っておかないとね。
「そんなにこれだけ集めて撃ちまくっている私が意外だった?」
「あ……気に障ったのでしたら、申し訳ない………」
「障ってはいないから安心してほしい」
やはり私のミリタリー絡みの趣味に、若葉は驚きを隠せない様子だった。
「ですが……戦場を、踏み込んだ者を修羅に落とす地獄そのものと表した貴方のお言葉を聞いた身として、意外と思ったのは事実です」
「この前のその持論を曲げる気はないさ、けど私は、ガメラとしての記憶と、銀幕の中で武術と銃器を手に悪党ども成敗してきた祖父(グランパ)の影響で、本物の戦争は大嫌い、特にイデオロギーのぶつけ合いには反吐が出るくせに、兵器は嗜好する、映画の中のミリタリー描写にフェティシズムさえ覚える、とんだ困りものな人間に育ってしまったんだ」
喩えるなら、私は人も自然も尊び愛する、ヒューマニストにしてエコロジスト、平和主義を自称しておいて兵器愛好家な上に必要とあらば武力の行使も辞さない、愛する歌さえ武器にすることを躊躇しない武断主義者、実際じゃ聖人と対極にいる欲望――EGO塗れのエゴイストな人間。
まさに……矛盾の塊ってやつ。
ガメラだった頃から変わっていない、私と言う存在の本性。
「だが、人間と言う生物と、その生物たちが作った社会ほど、たくさんの矛盾に満ちた世界はそうない………私たちがその手に武器を取り、神々の力さえもお借りして戦場(じごく)に飛び込み、泥を被って戦ってまでも守ろうとしているのは……そう言う世界であり、勇者となった私たちも例外なく、矛盾塗れの存在」
私はシリンダーに弾どころか薬莢も入っていないS&W M29を握り直し、無機質な壁に銃口を向ける。
「だから私は、その矛盾の塊な世界を守る為に手にした力そのものと、手にしている己そのものへの恐怖と」
あるジャパニーズコミックの時代劇劇中で、主人公と、その師も言っていた。
〝剣は凶器、剣術は殺人術、どんなお題目を並べてもそれが真実〟
凶器を指すのは、何も剣だけではない。
槍も鋸も鎌も糸も、我が炎も、我が友が〝誰かと繋ぐ為〟と言った拳さえ。
正鵠を射るかの言葉は、生ける者たちを守護する戦士として絶対に避けられない、矛盾の一角にして、宿命である。
たとえ守る為――人助けの為であっても、戦うと言うことは、自らの肉体そのものも凶器にする行為なのだから。
「そして災厄を相手に〝引き金を引く〟のは――」
撃鉄を引き、鋭利に研いだ眼で宙に投影した敵(わざわい)どもに狙いを定め。
「力そのものでもましてや神でもなく、自分自身であることを忘れない為に」
他ならぬ、人の一端である私の意志に応じた人差し指が、引き金を引いた。
弾は入っていないし、銃口の先には虚空。
しかし間違いなく、銃身の先端にある、円形の闇から、私の〝殺意〟と言う弾丸は、確かに発射されていた。
たとえ相手が血も涙もなき災いそのものであっても、それと戦い、争い、勝って打ち破る以上………〝殺す〟ことに、変わりはない。
「こうして、この胸に刻み、戒めているわけさ」
って、あ……あれ?
ここまで言い切ったところで、真剣な表情で聞き入っていた二人を見た私は、我に返った。
全く、また偉そうに何を口走っているのやら。
「な、何言ってるのやら……こんな湿っぽい講義を垂れるつもりじゃなかったんだ……ごめん」
「いえ、朱音さんのお言葉には、改めて身も心も沁み入りました」
自嘲の苦笑いが張り付いたまま、合いの手で若葉たちに詫びる。
特に胸に手を当てている若葉からはさらなる敬意を評されたわけだけど、さすがに話題はここら辺で変えよう。
「そうだ、そろそろ本題に入ろうか?」
「そうですね、でしょう若葉ちゃん」
「ああ………実は、次の休日に予定している、風鳴司令主催の大規模訓練のことでお聞きしたいことがあって」
「何を聞きたいんだ?」
「いや、その司令が『今回は特別に、俺が直に訓練を付けてやる、心して待っていてくれ』と言っていたでしょう?」
「その時の風さんや翼さんたちの反応が、気になったそうなんです」
「平行世界の司令とプライベートでもご友人な朱音さんなら、存じていると思って」
先日の定例交流会(ブリーフィング)にて、弦さんから豪気たっぷりにその特訓の旨を切り出された時のことを思い返してみる。
確かに、今代の装者と勇者たちの内。
静音と奏芽は、言葉にすると〝え? 本気?〟と言った戸惑いの顔を見せ。
弦さんと師弟な響と友奈と、姪の翼、そして奏さんは気合いとやる気たっぷり。
クリスと夏凛は大層げんなりとして、世界一ついてないNY市警の刑事ばりにぼやきそうになってて。
切歌たちそれ以外のメンバーも、多少の個人差はあれ、畏怖と畏敬と不安たっぷりな様子だった。
この弦さんの〝特訓を付ける〟に対する響たちのリアクションの意味を知らない側からすれば、気になってしまうのも無理はない。
「若葉はどんな印象を受けた?」
「何と表していいか………まるでバーテックスよりも人知を超えた怪獣を相手にしなければならない状況に陥った、印象を受けまして」
「大体合ってるね」
「は、はい? どういう意味ですか」
「言葉通りの意味だよ」
私は弦さんの――。
常識を超越した超絶的戦闘能力。
人の皮を被った大怪獣。
存在そのものが、刑法どころか憲法にも抵触する武力。
人類どころか、全生命最強の存在。
なんて表されるくらいの、彼の数々の武勇伝を話すと、若葉の顔つきはみるみる青ざめて戦慄し、さしものひなたも若干驚きで引いていた。
なまじあっさりとした何のことも無い調子(トーン)で説明したのもあり、それが弦さんのトンデモ具合がより際立つ効果を発揮させた。
「ほ、本当に………あのお方は、風鳴弦十郎は、人間なのですか?」
「ああ、人間のまま、超常の力を授けられることもなくあそこまでの高みに至った傑物さ」
だからこそ、皮肉にも真なる超常の厄災の前には、どれほどの強さを得ても生身の人間であるがゆえに、最後には私たちに委ねざるを得ない、無力で物悲しい性を彼は背負っているのだ。
「そういうわけで、一応忠告しておく、半端な覚悟で臨むな、待っているのは訓練ではあるが実戦だ――死ぬほどきついぞ」
「分かりました………友奈たちにも、油断と慢心は捨てて臨むようかかるよう、伝えておきます」
何の準備も心構えも覚悟もなく、いきなり弦さんの戦闘能力を目にしてしまったら、それこそヒューマンリアリティショックってやつな衝撃を与えかねなかったので、私はきっちり忠告もしておくのだった。
地獄の特訓当日まで、後――約一週間。