GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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こちらはGに出てきた翼のクラスメイトたちが登場する短編です。


踏み出す手助け

 これは、翼が海外デビューへの決意を表明したソロライブと、後に〝ルナアタック〟と呼ばれることになる、終焉の巫女との決戦の間に起きた出来事だ。

 七月に入ったばかりのその日も私は、響や創世ら級友たちと一緒にランチを取り、午後の授業が迫る中、雑談を交わして教室へ戻っている最中だった。

 

「草凪さん!」

 

 みんなで歩いていると、背後から私を呼ぶ声がした。

 振り返れば、三人の上級生が、私に何か言いたげにこちらへ視線を送ってくる。

 一目で上級生と分かったのはネクタイの色。

 リディアン高等科は、制服の一部や体操着が学年ごとに色分けされており、今年だと私たち一回生は赤、二回生は青、そして三回生(じょうきゅうせい)は緑色だ。

 こんな話はさておいて。

 

「あの、私に何のご用ですか?」

 

 次の授業へのカウントダウンは刻まれているので、ささっと三人の上級生に本題を訊ねる。

 

「今日の放課後、空いてるかな?」

「空いてはいますが」

 

 特に断なければならない用事もなかったので、イエスと返した。

 

「ごめんなさいね急に、ちょっとこんな人前じゃ話せないことだから、五時に屋上で」

「はい」

 

 待ち合わせ場所と時間を伝えた三人は、そのまま自分たちの教室(クラス)へと戻って行った。

 

「アーヤ、あの人たちとは?」

「初対面だ、でも、〝人前じゃ話せないこと〟が何なのか、なんとなく分かる気がする」

 

 

 その頃。

 高坂歩(たかさか・あゆむ)。

 佐部瞳子(さべ・とうこ)。

 大木杏胡(おおき・あこ)。

 ら、上級生お三方はと言うと。

 

「ああ~~緊張した……」

「うん、草凪さん、間近で見るとびっくりするくらい綺麗だったよね」

「うちのクラスにもファンがいるの、よく分かったわ……」

 

 ご覧の通り、ぱっと見以上にかなり緊張した状態で、どうにか朱音に話しかけていたわけであった。

 進学校レベルの高い学力を求められるリディアン音楽院だが、芸能人である翼は別格として、何の因果か偶然か、生徒たちの容姿の偏差値も、日本全国の女子高の中でトップクラスの美少女揃いな学校である。

 そんな中でも朱音の――

 天使の輪がくっきりかかる、葡萄色がかった黒髪ナチュラルストレートヘア。

 すらりと伸びた一六九センチの脚長な八頭身。

 武術で鍛えられ、引き締まりつつも肉付きも良いスタイル。

 和洋が絶巧に折衷された、端整かつクールで鋭利で凛とした顔立ち。

 本人にとってはコンプレックスではあっても、その抜きんでた美貌と、美しさをより際立てる大人びて凛々しい佇まいは、同性からも惹かれるオーラを発しており。

 事実、本人も知らない内に、日頃の屋上をステージにした熱唱の影響もあって、校内での彼女のファンの数は、少しずつ積み重なっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 放課後、待ち合わせ場所の校舎の屋上に、私は先に着いていた。

 でも指定時刻まで、まだちょっと時間がある。

 今日も見栄えの良い夕焼けと、その日差しが塗り込まれた空と雲と海、心地いい微風が流れ行く。

 目を閉じて、息を吸い、腕を広げて全身で〝世界〟を味わえば……いよいよよ本格的に近づいて来ている、一瞬で過ぎ去ってしまう夏の、澄み渡る〝匂い〟を、仄かに嗅ぎ取った。

 今すぐ、足を踏み出して、この空へと飛び、泳ぎたい気に駆られそうになる。

 今なら本当に飛べるのに、戦闘の雑音が鳴らなければ………飛べないことが、分かってはいるけど、少しもどかしい。

 なら、せっかくなので、一曲だけでも歌って、歌声を空へと飛ばそうかな。

 何にしようか、と……チョイスに迷っていると。

 

「草凪さん! 待たせちゃった?」

 

 おや残念。

 例の上級生の皆さんが、来てしまったので、一時お開き。

 

「いえ、それより、〝人前では話せないこと〟とは、何でしょうか?」

 

 早速、単刀直入に切り込んでみた。

 実を言うと、何となく予想はしてたんだけど。

 

「あの……こんなこと、いきなり草凪さんに聞くのは……押しつけがましいのは、解ってるんだけど、草凪さん、最近翼さんと、よく一緒にいるよね?」

 

 その予想は、当たってた。

 

「はい、友達としてお付き合いしています」

 

 あっさり友達だと明言した私に、三人は改めて驚いた様子だった。

 翼との関係は、守秘義務がある装者活動絡みか、この前のように歌手活動関係でもない限り、特に秘密にしているわけじゃない。

 創世たちには最初、新たにできた友達が翼であることは隠していたけど、これはカミングアウトした時のみんなのリアクションが見たかったと言う、私のちょっとした悪戯心から来るものだ。

 まあ芸能人ではあるから、公私を混同しないよう、仕事に支障を来さないよう気をつける必要はあるけど、芸能人だからって気負いすぎることないし、友達になれないわけじゃないし、ましてなってはいけない法があるわけでもないんだし。

 そんなわけで、翼との付き合いは、割と堂々と行っていた。

 

「実は私たち……前から翼さんと友達になりたいと思ってたんだけど」

 

 だからいずれ、翼と交流してみたくても、中々できない方々から、お声を掛けられるとは予想できていた。

 この上級生の方々とは、本格的に会話するのはこれが初めてだけど、前から翼と一緒に校内を歩いている時、足踏み状態でこちらを見つめているのを何度か目にしたことがあったから、彼女たちがその一人であるのは薄々察してもいた。

 

「芸能人でトップアーティストだから……中々、声をかけづらくて」

 

 世間のイメージの一つである〝孤高の歌姫〟とは、一見聞こえは良いが、それはある意味で翼を、常人には及びもつかない、人が営む世界とは別次元にいる住人みたいな、近寄りがたい印象を与えていたのも否めない。

 ただ実際、少し前までの翼は、奏さんの死を引きずる余り、誰からの手も拒絶して修羅道に落ちていき、自分も他者も傷つけてしまう鞘のない〝抜き身の刀〟だったから、皮肉にもそのイメージ通り、近寄りがたい存在だったのは事実だったんだけど。

 

「だから、どうしたら草凪さんみたいに、気がねなく付き合えるのか……どうしても知りたかったの」

「でしたら――」

 

〝教えてほしい! どうしたらそう―――強くあれる? どうしたら……君や奏のように、優しさと強さの両方を持って、人を守れるのだ?〟

 

 私は、前にも翼本人から、似たような感じ(翼の方が遥かに切実ではあったけど)で訊ねられたことがあったなと、思い返しつつ。

 

「申し訳ないですが、私には貴女方の疑問を一発で解決できるような答えは持ち合わせておりません」

「え?」

「しいて言えば、思い切って踏み出す、ほんのちょっとの勇気があれば、それで充分です」

 

 確かに、翼って――

 天性のコメディアンで、常に飽きさせない面白さを提供してくれるし。

 戦闘時と装者としても後輩な私たちには、時代錯誤な武士風の口調――通称〝防人語〟な言い回しをするし。

 口も手先も武骨の不器用なのに、妙なところで凝り性だし。

 断捨離センスだって壊滅的で、マネージャー込みの世話役な緒川さんに部屋の整理整頓は任せきりだし、彼が涼しい顔で一生懸命綺麗にしても、下手すると三日も経たずに汚部屋(ダストルーム)にしちゃうし。

 歌捌きは卓越してて、剣捌きも達人な剣客でも、包丁捌きはダメダメだし。

 しっかりしているようで、ドジっ子で。

 バカが付くほどド真面目で堅物頑固なのに、奏さんの生前のお言葉通り弱虫の泣き虫な、寂しん坊で。

 ―――とまあ色々と、アクの強さはある意味一級な、個性的過ぎるお人なんだけど。

 

「近寄りがたく見えるのは、ただそう見えているだけです」

 

〝抜き身の刀〟だった頃の翼なら、防人である自分には友など必要ないと、突っぱねていただろう。

 でも今は違う、もう、奏さんが心配の余りおちおち成仏もできないくらい、誰からの手も繋げられずにいた、あの頃の翼じゃない。

 

「風鳴翼は、ちょっと人見知りしがちな、貴女方と同じ、年頃な一人の〝女の子〟ですから」

 

 私は、今を〝羽ばたく翼〟を掴み取った翼と、手を繋ぎたいのにその一歩を踏み出せずに三人に、笑みと、ささやかなアドバイスを伝えてあげたのでした。

 

 

 

 

 

 ささやかな踏み出す勇気が出てきたらしいお三方を見送って、屋上は再び私一人な場になった。

 おっと、お膳立てが揃った途端――〝歌いたい〟――衝動が、また湧き上がってくる。

 こうなれば、この波にとことん乗ってやるまでだ。

でも……相変わらず、夏にちなんだ歌のどれにするか、選曲に迷ってしまう。

 こうなったら、考えるより――感じろだ。

 私の感覚が読み取った、今日の世界から、インスピレーションの赴くままに。

 

 丘の真上の空を飛び行く、機械の鳥が描いては、直ぐに消えていった、飛行機雲。

 電車が通り過ぎ、線路の上を通る小学生の子どもたち。

 山々にそびえ立ち、暁の空(うみ)の中を回る、風力発電(プロペラ)――風車たちの翼の――舞い。

 絶えず、自らの姿形を変え続け、空をどこまでも流れ続ける――入道雲。

 

 閃いた。

 あの歌にしよう。

 

〝~~~(♪〟

 

 曲が定まった私は、スマートフォンの音楽プレーヤーを起動してかの夏の歌の伴奏を流し――〝歌い出した〟。

 

 

 

 

 

 後日、彼女たちはその一歩を踏み出し、翼と打ち解け合ったそうな。

 

 また、この件もきっかけに、朱音の学内の隠れた人気が、さらに上がってゆくことにもなるのだが、それはまた別の話である。

 


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