GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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本編の話も書きつつも、また思いついてしまったあやつば短編の前篇



剣の夏のお使い 前篇

 その1(リディアン校歌~♪)

 

 七月の、夏真っ盛りに入った頃のあくる日。

 その日の仕事を終え、叔父弦十郎の邸宅に帰宅した翼は、早速自室の和室にて、机に置かれたPCを立ち上げ、インターネットに繋げる。

 翼の視力は良い方なのだが、シンフォギア装者とアーティストを掛け持っている身の上と、ライブの際、遠い座席からでもエールを送って応援してくれるファン一人一人の姿をこの目でしかを焼き付けたい個人的な思いもあり、用心を取ってブルーライト用の伊達眼鏡を掛けている。

 黙っていれば凛とした容貌な美人(しかし口を開けば確実に様子のおかしい扱いされる)なので、眼鏡を掛けた姿はよく似合っていた。

 さらに幸いにも、部屋は緒川の手入れを受けたばかりで綺麗に片付けられている。

 しかしそれもほんのささやかな一時、数日経てばアッと言う間に、汚部屋へと果てる運命である。

 

「よし、これならば……」

 

 翼のがさつなプライベート面はさて置いて、彼女が今アクセスしているのは、通販サイトのHPだった。

 どうやら何らかの商品を探し、その目星のものが見つかったらしい。

 マウスでカーソルを動かして、購入手続きにを押そうとしたが……指がボタンを押すのを躊躇する。

 

〝どうする? とても宅配業者に邸宅(ここ)まで送ってもらうのは……恥ずかしすぎる………それにうっかり緒川さんや叔父様に見られたら…………想像しただけで火照る〟

 

 目当ての品は見つかったものの、それをどう入手するかで、翼は苦悩していた。

 

「何か良い手立てはないか………あっ――」

 

 その良い手立てが、見つかった。

 

 されど運命は、波風立たさずに終わらせてくれるほど、甘くはなかった。

 

 

 

 

 

 その2~♪

 

 幸運にもその日は、世間も翼の多忙なスケジュール上でも、休日だった。

 天気も晴れ晴れとし、夏独特の鮮やかな青空と、巨大な入道雲がそびえ立っている。残り一週間の命な成虫のセミたちも、子孫を残す為の歌声を高らかに響かせていた。

 自分が《風鳴翼》であると悟られぬよう、髪型を変え、眼鏡を掛け、帽子を被り、抜かりなく変装し。

 

「『私――堪忍袋の緒が、切れました!』」

 

 変装時の声のトーンも調整し、邸宅には自分以外に誰もいないと確認すると、外出支度を整えて、そっと正面玄関を開けて出て、バイクに乗り、目的地へと走らせた。

 翼が向かった先は、律唱市内はおろか、関東でも有数の大型ホームセンター《プラントホーム7(セブン)》。

 食品、生活雑貨、衛生用品、化粧品、衣服、家具家電電化製品、書籍、カー用品、建築資材に工具、園芸用品と至れり尽くせりなマンモス店舗である。

 その上ここは、宅配荷物のお預かりと受け取りサービスも担っていた。先日通販サイトで翼が注文した品も、ここに一時預けられている。

 駐輪場にバイクを止めた翼は、近場の出入り口から店内に入った。

 木の葉を隠すなら森の中、休日だけあり多くのお客が行き交い、誰も翼の正体に気づく者はいない。

 そのまま、サービスカウンターに向かい、品を受け取ろうとしたのだが―――

 

「はっ!」

 

 何やらを目にした翼は、大慌てかつ素早く、近くにあった柱の影に張り付くように隠れる。

 心臓が、過去最大にドクンっとビクンと鼓動し、あわや頭の中は銀世界になりかけた。

 深呼吸して落ち着かせると、こっ~~そりと、物陰から慎重に顔を出す。

 翼の目線を追っていくと、その先には――

 

 

 

 

 その3~♪

 

〝よりにもよって、朱音がいるとは………〟

 

 ―――ショッピングカートを手押しして、店内を見て回る買い物中らしき、淡い水色で背中が大胆に開かれたアメリカンスリーブと、濃い色目なショートデニムパンツの組み合わせで、筋肉質ながら魅惑的な二の腕と両脚と両肩が眩しい、夏らしく開放的な格好をした朱音がいた。

 何気に変装してまでここまで来た翼にとって、他の装者たちに学友、二課の面々に緒川や弦十郎を差し置いて、一番この状況を見られたくない相手である。

 

〝迂闊だった………高い女子力の持ち主の朱音なら、買い出しに来ていても何らおかしくなかったと言うのに………これなら開店直後に来た方がよかったかもしれん〟

 

 今さら来店のタイミングを見誤ったと後悔しても、仕方ない。

 預けられた宅配の品には、保管期間があり、スケジュールの都合諸々で今日がその最終日、今日を逃せば明日はなく、せっかく前もって払った金銭が無駄になってしまう。

 何とか、朱音に自分の存在を気づかれず、SC(サービスカウンター)に行かなければならなかった。

 しかし、不味いことに今の翼は、朱音に〝もし気づかれたら〟と言う懸念に縛られる余り、ささっと自然な足取りでSCに行けずにいた。

 この広い店舗内のどこをどう通るかシミュレーションしても、運悪く彼女と鉢合わせてしまうのではと恐れに囚われていた。

 

 

 

 

 

 一方、今日の夕飯+生活用品+α(何かはお察しを)の買い出しに来ていた朱音はと言えば。

 

「今日のディナーはパスタにしよう」

 

 今日の夕食のメニューを考えながら、品ぞろえが本格的で某穂○原のブ○ウニー曰く、〝男子禁制の結界、めくるめく官能の世界〟なコーナーにて、商品の一つを広げて、そう呟いた。

 

「うん、パスタ」

 

 直後、今日もガメラだった頃から変わらぬ光沢に恵まれた翡翠色の瞳を、チラっと横に向けた。

 

 

 

 

 

 その4~♪

 

 結局翼は、朱音の存在を気にし過ぎて、彼女が目当ての品物を集めて、セルフレジにて清算し、持参していたマイバックに入れて店の外に出るまで、半ば尾行する格好となってしまった。

 

「はぁ……」

 

 緊張の糸が緩和されて、ホッと溜息を吐いて、手を当てた胸を撫で下ろす。

 とにかく試練は乗り越えられたので、当初の目的に移るとする。

 

「すみません、そちらに宅配物を預けていたのですが――」

 

 ようやくサービスカウンターに付いて、通販で購入した品である段ボールで包装された箱を受け取り、帰宅の途に付くべく、お腹の前で箱を両腕で抱えた状態でバイクを置いた駐輪場へと向かった。

 そして自分のバイクを見つけた瞬間。

 

〝ガーンッ!〟

 

 そう擬音が鳴りそうなほどに、翼は驚愕で全身が一時凝固した。

 どれくらいの驚き具合と言えば、口は大きく開き、双眸と額は前髪と濃くなった影で隠れ、変装用のメガネに罅が入りかけ、髪の一部の何本かが寝癖みたく跳ね上がり、力の抜けた腕から品物がどさっと舗装された地面に落ちた。

 こうなった原因は、聞かれるまでもなく、問われるまでもなく。

 

「HI(^O^)/♪―――Mr.TSURUGI♪(ハーイ、剣君)」

 

 最悪の事態――勃発。

 翼のバイクの後部席に腰かけ、夏の晴天と互角以上に晴れやかな、慈悲深き女神の無垢なスマイルをお披露目して、手を振っていた。

 向けられている翼から見たら、悪魔の微笑みにしか見えないだろう。

 

 一時は心身ともに固まっていた翼は、このまま〝奏並みにいじわるな朱音〟してやらぬわけには行かぬと、即座に体勢を立て直し。

 

「やあ朱音、これは奇遇だな、今日もいい天気だ」

 

 と、無駄に堂々とした振る舞いと、多少おかしいが有無を言わせぬ確固とした佇まいで返した。

 

「あのリアクションの後に奇遇で済ませるには無理があると思うんだけど」

 

 さすがの朱音も、翼の切り返しに対して、後頭部にいわゆる〝ジト汗〟が、変な奇音と一緒に流れた。

 

 後半につづく。

 


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