GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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『夏の登校日』の後編です。

本編だとビッキーに雷落としてるとこぐらいしか見たことない担任の先生に焦点当ててみた回です(先生の名前は本作オリジナルなので注意)。
でもなんか若干マムっぽくもなった気がしないでもない(汗

ちなみに今回朱音が歌っていたのは、コ○ン君の主題歌常連だったgarnet crowのカップリング曲の『短い夏』でございます。
晩夏に相応しい良い曲ですよ。


夏の登校日 先生編

 その6~~♪

 

 窓から、色合いを変えていく最中な陽の光が差し込むリディアン校舎内の廊下にて、カツカツとヒールの音を小気味良く立て、姿勢を正して歩く女性一人。

 朱音や響らが在籍する、今年度のリディアン一回生のクラスの担任教師である、仲根真智子先生である。

 実は特異災害対策機動二課の外部協力者の一人であり、シンフォギアやその担い手の装者含めた秘匿事項、リディアンそのものが創設された本当の理由も存じている上で、教師の職務を日々全うしていた。

 さすがに朱音の出生絡みは、二課の組織内部に止められているので、彼女が装者になった経緯は、受験時より白羽の矢が立てやれスカウトを受けた、と聞かされている。

 

「はぁ……」

 

 歩く速度と姿勢を維持させながらも、先生は溜息を零し、顔が過度に強ばっていないか、降れた手の感触で確かめた。

 厳しめの教育方針を取っている仲根先生ではあるが、だからと言って生徒に恐怖心を植え付けて抑圧するような教師の印象を抱かせてしまうのは本望ではない。

 つい先程まで、登校日の時点で夏休みの宿題の進捗率――0(ゼロ)と言う、リディアン開校以来の暴挙を果たしてしまった響へのお説教を終えたばかりの彼女の向かう先は、生徒との個別指導等で使われる、校内の面談室の一つ。

 スライド式扉の前まで着き、腕時計を見る。長針と短針は、約束の時刻の五分前を指していた。

 

〝彼女に限って、特異災害でも起きない限り、遅刻は起こさないでしょうけど〟

 

 防音の利いた空間に連なる境界線たる扉を開けると――

 

「~~♪」

 

 その、水の如き繊細さと力強さが合わさった情感豊かな、彼女が織りなす歌声、先生の聴覚に入り込んできた。

 歌う朱音は、面談室の窓と向かい合う形で立っていた。

 さしもの先生も、熱唱する生徒の旋律に一瞬聞き入ってしまっていたが、日頃の指導で鍛えてきた自制心と理性で我に返り。

 

「ごほん」

 

 わざと大きめな声量で、さらさらと艶やかな後ろ髪を見せる朱音の後ろ姿に目掛けて、咳払いをお一つ零し。

 

「草凪さん、お待たせ致しました」

「はっ!」

 

 完全にいつもの、歌唱に無我夢中となっていた朱音だったが、今の咳払いと一言で我に戻り、なまじ頭が切れる方ゆえに咳一つで今の状況を刹那の刻(とき)で悟り、大人びた背中と美髪を、歳相応の女子らしくびくっと跳ねさせて、その場から振り返った。

 

「せ、先生、いつからそこに?」

「今入室したところです、草凪さんこそ、いつから面談室に?」

「二〇分前には付いたので、その間、夏の空でも見てようと思っていたら――」

 

 いつもの癖で、いつの間にか夏にちなんだ歌曲たちを、しかも半ば無意識下ながら夏の始まりから晩夏までの流れも器用に踏まえたチョイスによるメドレーで奏でていた。

 ちなみに先生に中途で止められる瞬間まで歌われていたのは、某少年名探偵の主題歌を数多く歌ってきた男女四人組バンドグループの――余りに短い一時な夏の終わりを、海原を眺めて実感しながら、沸き上がる儚くも切ない想いのまま、感じていよう――な様を詠ったシングルカップリング曲であったのだった。

 

「貴方の歌への情熱は先生も理解しているつもりですが、屋上以外の私的歌唱は、ほどほどにお願いします、草凪さんほどの逸材でも、度を越せば校内の風紀にも抵触しかねません」

 

 仲根先生は、彼女なりにユーモアを交えながらも、いつもの厳然としたトーン、頻繁に校舎の屋上を独奏会場に変える生徒に、風紀への影響面で苦言を呈し。

 

「はい、すみません」

 

 呈された朱音は深々と頭を下げた。

 

「立ち話の何なので、お席に」

「はい」

 

 先生は面談室中央の机の前に座るよう、朱音に促す。

 

『先生、こちらから先に質問をしてもよろしいでしょうか?』

『どうぞ』

 

 朱音は席に腰かけ、姿勢を正し、翡翠色の瞳でより凛々しくさせた面立ちを見せ、ネイティブな響きのアメリカ英語で先生に質問を投げた。

 先生の方も、突然の言語の切り替えに動じることなく応じる。

 

『今回の面談に、私個人に関する題目はあるのでしょうか?』

『内容は、先程メールでお伝えした通りです』

 

〝この切り替えの早さは、さすがと言うべきかしら〟

 

 口調こそ事務的に進めながらも、内心先生は感心していた。

 

『むしろ学業とシンフォギア装者としての活動を両立させている点では、先生も貴方を大いに評価しております』

 

 生徒たちへの指導は厳しめの仲根先生でも、草凪朱音と言う生徒に対しては、その厳格かつ厳正に努めた目線で見据えた上で、高く買っていた。

 人類守護と言う女子高生が背負うには重すぎる使命を抱えながらも、初年度一学期の成績は学年トップ10に入り、出席日数も、装者としての活動の都合による途中退席と、表向き『幼い子どもを庇っての事故』、実際は戦闘中に負った負傷による入院分を除けば欠席した日は一度もない。

 公私はきっちり分けつつ切り替えも素早く、進学校並みの量と密度を誇るリディアンでの学業も、装者活動も双方おろそかにせず全うし、しかし羽を伸ばせる時はきちんと伸ばす柔軟さも持ち合わせている。

 入学式から度々屋上をステージにして歌ってはいる点は、ご愛嬌。

 幼い頃から育んできた理屈を超越していると言ってもいい歌への愛で磨かれたその歌声は、教師たちの間でも評判が良い上に、デスクワークを捗らせるネット用語で言えば〝作業用BGM〟ともなっていた。

 

『いえ、二足の草鞋を履くことになるのを承知の上での選択です、こちらとしても一介の生徒として、日々ご指導を受けさせて頂き、感謝しております』

 

 改めて一礼する朱音も、装者として(顔は現在でも秘匿されてはいるが)は今や〝世界を救った英雄〟と言う箔を付けられている身ながらも特別扱いせず一人の学生として扱う学園側の方針を理解し、恩義も抱いており、その旨を仲根先生に明かした。

 

『その姿勢を忘れずに、勤しんでもらえれば何よりです』

 

〝日々命を賭けながら学業もおろそかにせず打ち込むなど、楽ではないでしょうに……〟

 

 教師としての顔(ポーカーフェイス)を維持しながらも、心中では相手の生徒の言葉に、涙が流れそうなくらい感銘を受けていた。

 

『こう言いたくはありませんが、草凪さんの〝ご級友〟にも、その姿勢の一欠けらくらいでも、是非見習わせたいくらいに』

 

 だからこそか、思わす口から愚痴も混じった言葉を落としまった。

 

〝いけない、確かに立花さんは学生としては大の付く問題児ではあるけれど、同じ生徒に愚痴を吐いていいことにはならないと言うのに……〟

 

 すぐさま先生は己を恥じ。

 

「はは……」

 

 朱音も苦笑いを浮かべた表情(かお)に、『心中お察しします』と表現していた。

 

『では、本題に入りましょう』

 

 罪悪感が胸の内でうごめきつつも、先生はこの面談の〝本題〟に移行させようとした。

 

『戦友でもある草凪さんから見た、立花響さんの姿を聞かせてもらえますか? 先生はあくまで事情を知っているだけの身であるので、どうしても限界があるのです』

『はい』

 

 本人も口にした通り、仲根先生はシンフォギアに関連する諸々の事情を知っている身であって、関わっている身ではない。

 定期的に二課から齎される、リディアンの生徒でもある装者たちの報告書を読む機会はあれど、やはり〝装者としての活動〟を窺い知るには限度がある。

 加えて響が、万が一の可能性で装者となる運命を背負わぬことになろうとも、先生を悩ます問題児になる運命は避けられなかった、と、残念ながら言い切れる。

 なので仲根先生が朱音とこうして二者面談の場を設けたのは、彼女と級友であり、同じ装者として特異災害から日々人々を守るべく前線に立つ戦友であり、そして先生が受け持つクラスの問題児でもある立花響への今後の指導の参考も兼ねて、彼女からご意見を賜る為であった。

 なにかと、姑の嫁いびりの如く、響にも問題点があるとは言え彼女に怒声を浴びせている先生ではあるが、普段の厳しい指導姿勢も込みで、断じて生徒憎しで行っているわけではない。

 

『少し、先生にとっては複雑なお気持ちにさせると思われますが……』

『構いません、草凪さんの率直なご意見をお願いします』

『分かりました』

 

 前置きを踏んだ朱音は、先生からの希望に応じ、現状、先生が直に目にしたことのない装者としての響の顔を話し始めた。

 

『彼女は本当に熱心に、日々装者としての活動(ひとだすけ)に打ち込んでおられます、なり立ての頃は絵に描いた素人ではありましたが、今は先陣を切って戦場を駆ける戦士となっております、訓練も軍隊並みに厳しいものではありますが、仲間(どうりょう)の一人から〝特訓バカ〟と喩えられるくらい真剣に取り組んでいます――』

「………」

 

 話を聞いていた先生は、朱音の前置きの通り、頭を抱えたくなるくらい複雑な気分にさせられた。

 少なくとも現状、響が装者の活動時くらいの意気で、授業や勉学に取り組んでいる姿を見たことは、ほとんどない。

 無論、響の人助けへの心意気にケチをつける気は全くなかった。

 日々命がけで善行を為しているのだ、むしろ敬意さえ持っている……ゆえの悩ましい心情であった。

 

「すみません………私の方も、響へのフォローが至らなかったばかりに」

 

 今にも項垂れそうな先生、言語を日本語に戻した〝同僚〟たる朱音は詫びた。

 

「草凪さんが気に病む必要はありません、そう言った指導は、教師(わたしたち)の仕事ですし、立花さんの〝人助け〟への本気の意味ごみは、先生にも伝わってきました………ゆえ心配にもなるのです……立花さんの、無頓着にも思える自分への顧みなさと……」

 

 仲根先生の目から見ても、響の人助けに尽力する、真っ直ぐでひた向きな、眩しさの裏に潜んでいる〝影〟を先生なりに汲み取っていた。

 

「辛辣な言い方を使いますが………ただ〝人助け〟と言うプログラムを無機的に実行し続けるだけの………機械になってしまいそうな、危うさも覚えるのです」

 

 普段は絶対に見せぬ、憂惧を帯びた先生の、瞳。

 彼女の、日々の厳格な指導には、このように、生徒への確かな〝情〟があってこそのものであった。

 だからこそ――

 

「だからこそ、先生は多くの人々の為に命を賭ける装者であることを言い訳にして、甘くするつもりはありませんよ」

 

 先生は瞳を教師のものへと戻し、朱音の瞳と合わせる。

 

「英雄だの救世主だの以前に、貴方たちも、〝人〟です、このリディアンで門出を迎えるその日まで、私は私の指導を全うし続けます、いいですね?」

「はい」

 

 朱音はしっかり頷き返しつつ。

 

〝いつかに響も、先生のその想いを理解する日が来るのを、祈って〟

 

 歌を生む源たる心より、そう付け加えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、九月一日、二学期初日のにて。

 

〝た……立花さん〟

 

 先生は平常を装ってHRを進めていたが、内心驚きを禁じ得なかった

 なぜかと言えば、今日は遅刻もせず通学し、登校日の時点では全くの手づかずだった宿題も全て提出していた響が、全身真っ白になった放心状態で、机に座っていたからであった。

 ルームメイトであり幼馴染でもあり、響に心配の眼差しを向ける未来の様子を見た次に、窓の外を眺めていた朱音へと移す。

 彼女と目が合った。

 すると朱音は、先生に、晴れ晴れとしてるのに妖しさも携えた微笑みを見せてきた。

 

〝大体……お察ししました〟

 

 その笑みだけで、先生は大方理解できた。

 登校日から最終日までに起きた、宿題のデスロードを。

 

〝前々から思っていましたが、草凪さん、底知れない〟

 

 

 

終わり。

 


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