GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
アウスさんからは無論了承を貰っております。
香川のその日の晴れた早朝。
勇者とバーテックスと激闘で現在でも大破したままの姿な瀬戸大橋とほど近い地区な綾歌郡大束町の海沿いには、一つのガラス張りな塔(タワー)がそびえ立っている。
名は――《ゴールドタワー》。
地上高は一五八メートルあり、こちらの世界では旧世紀扱いな西暦の、昭和末期の頃より存在する、現在は大赦の管理下にある建築物だ。
その塔の足元で、周りをきょろきょろと少々挙動不審に見回しながら歩いている少女が一人いる。
前髪を三角形状に切り揃えた茶色がかったショートヘア。
猫背気味の体勢なせいで、より小柄に見える体躯。
およそ〝自信〟と言う単語と縁がなさそうな、気弱な表情(かおだち)。
そんな印象を抱かされる少女は、軽装なリュックをしょって、何者かに見つからぬよう、こっそり朝の街中を歩き、最寄りの大束駅に入ると、讃州市方面行きの切符を買い、ホームへ向かい、行き先の列車に乗り込んだ。
無事に列車が発進し、やっと少女は安堵の一息をつく。
車窓に目を移すと……瀬戸内海を煌めかせる朝陽が、段々と立ち昇っているのが見えた。
⊡収穫前の準備運動~♪(リディアンチャイム)
同日の午前。
十月――神無月の中頃。実際は神樹様の結界(せかい)の中とは言え、まだまだ実りの秋の季節の真っただ中の刻(とき)。
セレナ、若葉、朱音らこの月をバースデーとするメンバーの誕生祭と、造反神側が起こしたハロウィン絡みのちょっとした騒動――カボチャ巨大化事件の直前な、秋の陽光がたっぷり地上にすみ渡るあくる日の朝方。
後にその事件が起きる現場ともなる、遠方では神樹様の壁がそびえ立つ瀬戸内海を一望でき、どこかヨーロッパの地中海を思わせる光景が広がる地で耕された、三百年前の諏訪より召喚された勇者――白鳥歌野が営む農場では――。
「みんな! 今日(トゥディ)は収穫にお付き合い頂いてベリーサンクスです♪」
一同、一斉に拍手。
絶好な日和だけあり、今日も陽光に負けず日本語と英語混じりの陽気で、頭に自身の精霊である猿の妖怪――覚(さとり)を乗せ、《農業王》と言う三文字を荒々しく躍動感たっぷりな白舟書体でデカデカと印字されたTシャツを纏った農場主の歌野を筆頭に、彼女の親友にして巫女の水都と、切歌、調、英理歌、銀、棗、雪花、朱音ら作業着を纏った少女たちと、トトら精霊たちも加わって、今日は大がかりな収穫が行われようとしていた。
メンバーが歌野と水都同様の切歌たち蕎麦派と、朱音らラーメン派と、沖縄そば派の棗で構成され、うどん派が銀くらいしかいないのはちょっとした偶然である。
「でも皆さんもご存知かと思いますが、農作業はかなりの重労働なので、学業にもお役目にも影響が出ないよう、まず始めに準備運動をします」
「「ああ分かった」」
「「「は~い(デス)」」」
「しゃっす」
水都は、支給されたスマートフォン内のアプリを立ち上げ、端末のスピーカーから、メロディが流れ出した。
神世紀の日本国民でも知らぬものはいない、かのポピュラーな〝ラジオ体操〟の音楽。
「こんな気持ちいい朝にこの体操をするの、ほんと久しぶりだ」
「それはどういう―――ああそうか、朱音はアメリカからの帰国子女だったな」
「あやっち、米国(あっち)でもラジオ体操みたいなのってあるの?」
「と言うか、最初にラジオ体操を始めたのはかの自由の国なのさ」
「ええ!? そうだったんすか!?」
「西暦一九二五年にアメリカの保険会社が考案した『メトロポリタンライフ ヘルス エクササイズ』が発祥でね、それから一九二八年に日本流でアレンジした『国民保健体操』が始まって、みんなも知ってる今の形になったのは一九五一年だ」
「あの怪○王が銀幕デビューする三年前か」
「そんな大昔からあった歴史ある体操だったなんてびっくりしました……」
朱音からの、神世紀の現在ではもうかれこれ江戸の世を越えた四百年近くの歴史があるラジオ体操のルーツの講演も交えられながら、音色に合わせて、収穫作業参加メンバーは準備体操で身体を慣らしていった。
精霊たちもパートナーたちに合わせて、宙にて身体を動かしている様は、とても微笑ましく可愛らしい。
「ウォーミングアップも終わったし、みんなには野菜の収穫担当を割り振っていくわね、みーちゃん」
「うん」
水都は、前日に作成しておいた、本日収穫予定の野菜のリストと、それぞれの取り方に各担当も記載された用紙(しおり)をメンバーに配る。
リストに載っている野菜は――
・レタス
・チンゲン菜
・サラダからし菜
・ニンジン
・かぼちゃ
・ジャガイモ
・里芋
・レンコン
・トマト
――等々。
「水都の説明はいつも分かり易くて助かる」
「そ、そんなことないですよ棗さん」
棗からの心からのお褒めの言葉に、水都はあわあわとかぶりを手と一緒に振った。
作業は一時間の内四五分、残り一五分は休憩の流れとなっており。
最初の四五分は草むしり。
神樹様の結界内であり、かつ毎日歌野が懸命に毎日欠かさず除草してもしぶとく生えてくる雑草たちを、一同は鎌やシャベル片手にむしっていく。
精霊たちも飛行能力を活用してせっせと雑草を抜き、ある程度溜まれば指定された一箇所に纏めて山にしていく。
メンバーの作業効率をキープさせるのも兼ねて、畑の近くで設置された野外用テーブルの上に置かれたラジオからは、作業にはうってつけの音楽が畑中に響き渡っていた。
⊡鍛えてます~♪
「セレナさん」
「なに三ノ輪さん?」
「最年少のあたしが言うのもなんなんですけど……もし体調悪くなったら言って下さいね、セレナさん結構ほっそりしてるから」
実際、セレナの肢体は姉のマリアが過保護になるのも無理ないくらい、華奢だ。
「失礼ですよ、私だってシンフォギア装者の端くれ、これでも鍛えてますから、えっへん♪」
と、光の巨人よろしく両手を腰に添えて胸を張るセレナ。
「っ………」
銀もドキっと来るくらいの可憐さであり。
〝はぁ~~写真は愛よ……〟
銀にとってはまだこの間な、ある休日にて色んなキュートさたっぷりの衣装を園子に着せ替えられた時の自分を、鼻血の噴水からのハイテンションに駆られるままカメラ(スマホから一眼レフにいつの間にか瞬時に持ち替えて)のフラッシュを焚いて撮りまくっていた須美を思い出す。
(もし今マリアさんもいてこのセレナさんを見たら、あの時の須美みたいなことになりそうだな)
とも思って、苦笑する顔に冷や汗を流す銀。
その推測は、あながち間違っていないのが恐ろしくもある――〝ただの姉バカなマリア〟であった。
⊡早熟の理由~♪
「(じゃあこの束は持ってくね)」
「ありがとトト」
作業は続く中。
「前から気になってたんだけど……」
作業の手を止めずに英理歌が、いつもの抑揚が控えめの声色で。
「歌野って、朱音とセレナと奏さんと同じ日に神樹様に召喚されたよね?」
「ああ」
「それにしては、畑耕して作物ができるまで、早過ぎる気がする」
以前より過っていた疑問を口にする。
「およよ~~言われてみればそうデス」
「うん、確か召喚されて……三日後から農園(ここ)で耕し始めたそうだから……」
造反神の侵略で神樹様が現実そっくりの結界を生成したのは八月の始めで、そこから一か月と数日後の九月上旬頃に朱音たちが召喚された。
仮にその日から土地を見つけて開墾して、種まきまで行き着いても、今日の時点で収穫できるようになるまでに成長して実るのは、余りに期間が早過ぎた。
「静音から聞いた話なんだが、この辺は元々大赦が管理している土地で、近くに神社がある上に丁度真下にレイラインが通っているんだ」
朱音は説明しながら、片手に自らのシンフォギアの待機形態である勾玉を乗せ、もう片方の手を土に触れさせると。
「あ、光ってるデス」
「綺麗……あったかそう」
勾玉は星の血脈たるレイラインに流れる星の生命エネルギー――マナを感知してマグマ色の光を発した。
「あ、しかもここって神樹様の結界の中だから……」
マナの強い影響で、野菜たちは現実より早い速度ですくすく育ったと言うわけだ。
無論、献身的に丹精込めて育ててきた歌野の努力の賜物でもあるので。
「文字通り神の恵みと、歌野の恵みがベストマッチしたってわけさ」
「時空を超えても農業に全力全開で打ち込める歌野も凄いけど、ほんと神様って何でもあり……」
リディアン四国分校と讃州中学からは自転車を使った方がいいくらいの距離があるこの辺りの土地は、現実世界では元々大赦が所有していたものだったが、歌野たちが召喚された折、彼女らの農作業用に割り当てられたのである。
当然現実では畑の体を為してない土地だったが、神樹様のご厚意か、結界内の同地域では、植える種ごとに微調整をすればいつでも植えられるくらいには開墾されていたと、歌野と水都は証言している。
歌野本人はこの神樹様に対して、感謝こそしているが、できれば自力で一から耕したかったともぼやいていたそうだ。
「でもよく大赦、土地(ここ)を歌野たちに気前よく貸してくれたよね」
「そこは静音と清美が、〝ドギツい交渉〟で何とかしたらしい」
「あの二人……一体何をしたの?」
きりしらえりトリオの胸中に、ざわめきが走った。
「そこまで詳しくは聞いてないが、多分あれくらいのことはしただろうね」
「〝あれくらい〟ってっ何?」
「ジ○ダイがラ○トセーバー抜く」
「それって交渉と言えるんデスか!?」
「言えない言えない……」
「どう聞いても、脅迫な荒事……」
切歌、調、英理歌の三人は、顔を青ざめて先月のある出来事を思い出す。
響ら九月生まれのメンバーのバースデーパーティー当日に、傍迷惑にも出現したバーテックスどもに対し、静音と中学時代の静音――清美が、味方の方が戦慄して絶句するほどの閻魔大王染みたドス黒い怒りのオーラを纏って敵を殺戮――もとい一掃したことがあったのだ。
「ってのはジョークで、実際はちゃんとした手続きで借り受けたそうだよ」
「な~んだあやちゃんのジョークだったデスか~~はは」
「朱音の冗談、無駄にクオリティと演技力高過ぎ……」
ほっとする切歌たち。
しかし一時でも朱音の〝ドギツい交渉〟を真に受けてしまったのは、彼女のアメリカ暮らしで鍛えられたジョークスキルの高さもあるが、それだけ我らがリーダーの恐ろしさを痛感しているに他ならなかった。
尚、静音たちが正規で正式な手順ではあるが早急に歌野用の農場を借り取ったのかと言うと、歌野自身の気質もあった。
バーテックスの侵攻を切欠に初めて今やライフワークと化した農業への愛が大きすぎる余り、一日一回は土に触れていないと正気を保てない性質になったしまい。
〝レタス、たまねぎ、ほうれんそう、トマト、いんげん、なす、ピーマンにししとう……だいこんにぶろっこりー……とうもろこし―――〟
召喚されて二日過ぎた時点で歌野の目は生気が希薄となって虚ろになり、自分が育てたい野菜たちの名を念仏よろしくひたすら唱えていくと言う軽いホラーな状態に陥ったとなれば、早急に手を打とうとした静音たちの奮闘も窺えるであろう。
一巡目(だいいちらうんど)が終了し、一回目の水分補給も兼ねた休憩タイムを挟みつつ。
3(ザァッ)! 2(ザァッ)! 1(ザァッ)!
「(ホ○レン!)」
畑一杯に広がる笑い声と言う名の、草たち。
「いや~~まさか遥か未来に来てまでそのネタ見るとは思わなかったにゃww」
精霊たちが、手元に実体化させた鍬で順序良くテンポよく耕して披露したネタに、勇者たちは爆笑しつつ、二巡目(だいにらうんど)より収穫作業に入る。
⊡嘘つきな我らがマリア
「おお~~! でっかいのキタデスよ!」
「切ちゃんおみごと~~♪」
ジャガイモを担当していた切歌と調は――
〝~~~♪〟
「はぁ……」
「デース……」
ラジオからある歌が流れ出した途端、うきうきと収穫していた二人の高めのテンションが急降下した。
「きりっちにしらべっち……急にどうしたの? せっかくラジオがマリアさんの歌流してくれているのに」
気になった雪花が二人を尋ねる。
そう。
今ラジオが響かせている番組内で流れているのは、アーティストとしてのマリアが最近発表した新曲、恋も仕事も絶好調に乗りこなす女性の姿を高らかに謳った――《Stand up! Lady!!》。
「私たちからすればこの歌は――〝マリアがまた嘘ついた〟――」
「――と言いたくなるくらい悲しい歌(バッドソング)なのデス!」
「ど、どういうことか……にゃ?」
「神樹様の世界でも仕事のレバー操作は全く以て順調なんだけれど……」
「〝恋〟も順調だなんて初耳デスよ!」
「なんでそこで〝恋〟ッ!?」
中々にツッコミ処のある、姉同然なマリアに対する切歌と調の、割とあからさまに酷い言いぐさ。
「順調過ぎて逆に疲れているのかな……」
「気の毒デスよ……休んだ方がいいデスよ」
「お二人さん………身内には案外容赦ないのね」
今頃マリアは、風の噂によるくしゃみを発していることだろう。
⊡生きている幻たち
朱音と棗の二人は、今はトマトを担当していた。
水都が作成したしおりを参考に、鮮やかに赤く逞しく実り、完熟の印としてヘタが閉じたトマトを一本一本取り、わら籠に入れていく。
「歌野、一つ食べてもいいだろうか?」
「OKよ、せっかくだしとれたてをた~んと召し上がれ♪」
「それじゃ、このとりたて、頂くよ」
余りに美味しそうだったので。二人は思い切ってその場で食べていいか歌野に頼んでみると、この農場主は気前よく了承した。
「「いただきます」」
合掌して日本ならではの食事前の挨拶――恵みを頂いてもらった感謝の言葉も置きつつ、何も調味料を付けていない取れたてを、まず一かじり。
実が舌に触れた瞬間、瞳が大きく開眼し、二人の表情(かお)は驚きを上げる。
「っ――とても瑞々しく」
「なんて……甘い」
まるで果物の如き、水気と甘味に恵まれたそのトマトの美味に、舌から神経を通じて脳髄が、いい意味で打ち震え、我を失いかけるほどの体験を受けた二人。
もっとこの旨味を味わいたくて、二度、三度と被りつくように頬張っていくと、あっと言う間に食べ切ってしまった。
「これだけの美味なら、トマトが苦手な翼とマリアも食べられるだろうし、朱音や風がどう料理してくれるか楽しみだな――」
目の前にいる朱音含め、料理上手な勇者装者の面々がどう料理してくれるのか、期待に胸を膨らませていると、棗の瞳は、眼下に落ちる一滴の小さな水玉を映した。
一瞬雨かと思い、頭上の秋の青空を見上げるが、上空は小さなわた雲が流れる晴れ模様のままで、とても天気雨さえ降りそうにない。
「っ……」
ささやかなすすり声が聞こえ、視線を下げれば――
「朱音?」
棗の姿を写す、宝石のように艶やかな朱音の翡翠色の瞳から、涙が頬を沿ってこぼれ落ちていた。
「泣くほど……美味しかったのか?」
「ああ……それも、あるんだけど……」
手袋を外した指で、朱音は濡れた頬と目元を拭う、
けれど瞳の中の震える潤いは、まだ止まることを知らず、また今にもこぼれ落ちそうにしている。
「芽吹いて、根付いて……〝生きているんだ〟なって………この〝夢幻の世界〟でも、生命(いのち)が……」
瞳は涙に覆われていながら、歳相応より大人びた美貌を歓喜で埋め尽くした笑顔で、大地、空、海原を見渡してそう答えた。
夢幻(ゆめまぼし)の世界。
朱音が表した言葉を聞いて、棗は涙の意味を感じ取る。
何度も言うようだが、ここは神樹様が現実そっくりに作り上げた仮想世界。
召喚された勇者と装者、彼女たちをサポートするSONGや一部大赦の面々は身も心も生身であり、その他の人間たちも魂こそ本物。
しかし、それ以外は全て、現実そっくりに再現された、朱音の言う通り〝幻〟。
山も、木々も、草花も、川も海も、空も雲も大気も、そこに住む人以外の生物たち
さえ、神に作り上げた、実体無き〝プログラム〟に過ぎない存在でもあった。
それでも―――。
改めて、棗は一度海の方へ向けた瞳を閉じて、自身が愛する海も含めた……〝世界〟そのものに身を委ね、耳を傾ける。
「確かに、この夢幻(せかい)も……生きている」
気がつけば……棗の瞳からも、陽光で煌めく泪が、慎ましく流れ落ちた。
「私たちを見守り……愛しているその声が、私にも聞こえてきた」
二人とも、元より感性と情緒が豊かな勇者装者たちの中でも指折りで感受性が高く強いだけでなく、あらゆる森羅万象に対して強い敬意の念をその胸の内の心に宿している。
それゆえ、神樹様からの神託とも違い、様々な生命が織りなす世界そのものからの声―――歌を、聞き、味わうことができた。
だがそれは、同時に二人にある〝残酷な事実〟を教えてきて、歓喜と一緒に、悲しみも押し寄せてくる。
その想いが涙となって、また二人の、世界を見つめる眼(まなこ)から、流れ落ちた。
彼女らの髪が、そよ風で揺れる様も、ゆったりと泳ぐこの世界の中の時さえも、寂しさも醸し出す。
ここは、神樹様が、天の神側に寝返った造反神との〝戦争〟の為、何より地の神々らが、自らに代わって戦う戦士たちへ送った、彼らなりの厚意によって生み出された幻
(せかい)。
造反神が勝っても……そして〝勇者たち〟が勝っても、どちらかが勝利を掴んだその時点で、この結界(せかい)は消滅する……死する……そしていなくなる――運命だ。
どんな存在、生きている以上、いずれは死が訪れる。
そしてその時が来るまで、生きることは、どんな形であれ……他の命を糧にすると言うことだ。
彼女たちが身を置く、神々と人間たちの争いと言う都合によって産み落とされた………この、ゆりかごの中の〝夢〟さえも。
「〝私たちの戦い〟の為に、この世界は生み出され……終わると同時に、死んでいく」
「Like……tears in the rain………As of……fall the flowers(雨の中の、涙のように………散りゆく花々のように……)」
今ここにいる勇者たちにとっては長きに渡る戦いとなっても、現実に流れる時間は……結界(せかい)が生きている時間は、儚過ぎるほどに短い。
刹那よりも一瞬な時の中で………咲き誇り、煌めいて、散華していき、次なる命への〝バトン〟が繋がれることなく、二度と咲かずに消えゆく〝花〟なのだ。
「なら、なおのこと、負けるわけにはいかないな……」
朱音が発し、棗は頷いた。
どんな理由、どんな目的があるにしても。
造反神と、そして天の神が行おうとしているのは、この幻も入れて、今こうして〝ここにいて〟、賢明に生きている生命たちを冒涜し、足蹴にし、無残に消し去る行為に他ならない。
もし自分たちが負けてしまえば………誰がこの世界(はな)が、確かに生きていた――〝ここにいた〟―――のだと、記憶に刻み、伝えることができるのだろう。
その為にも、諦めず………みんなと、最後までこの戦いを生き抜く。
改めて固めたその決意を胸に、誓いを込めた互いの拳を、朱音と棗はそっと、打ち合ったのであった。
わら籠に一杯トマトを取り入れた朱音と棗は、一度水都の下へそれを持ってきた。
「あの……その目、どうされたんですか?」
「ああこれ……目にゴミが入っちゃって、なあ棗」
「うん、私も右に同じく」
ベタにも程がある咄嗟の言い分だったが、瀬戸内海から潮風も吹いてくる農場の中ともあればあり得ない話でもなかった。
「(いや……きっと、違う)」
しかし、二人と同じくらい強い感受性の持ち主な水都は、薄々さっきまで彼女らの瞳から流れた涙の意味を察しつつも、あえて何も問わないことにした、
「そろそろ休憩だ、その次はランチに準備に入るね」
「はい、お願いします」
「楽しみにしているぞ」
「ああ、遠慮なく期待して待ってて――」
その直後だった。
朱音と、水都の脳内に、突如断続的なビジョンの数々が浮かび上がり、手を頭に触れさせた。
「どうした? まさかここで〝神託〟が!?」
「はい」
「作業中断! 全員すぐ集まってくれ!」
朱音が大声で号令をかけると、歌野ら他の収穫メンバーは急ぎ集合。
「みーちゃん、朱音さん、ワッツハプン?(何があったの?)」
「いま、神樹様からの神託がありました」
一同は驚愕を顔に浮かべた。
「なんて言ってきたのデスか?」
「〝防人の一茎たる小雀、閉ざされた地にて彷徨う〟……」
「私も水都と同じ内容だった」
「どういう意味なんだ……今回のは」
「防人……翼さんのことじゃ、ないよね」
「それに小雀って……」
神託の意味を紐解こうと思案していると、朱音は何か閃いた様子を見せて、SONGを通じて大赦から支給された携帯端末(スマートフォン)を取り出し、専用アプリ《NARUKO》を開く。
「Bingo、みんな地図を見て」
言われた通り、NARUKO内のGOPSアプリを開くと、地図上にて自分たちの他に、農場からそう遠くない、まだ造反神に侵略されたままの地区――《未開放地区》の真っただ中に、もう一つ〝点〟が表示されていた。
「かが、しろ……?」
「恐らく、『かがじょう・すずめ』と読む」
「誰なんでしょう?」
「誰であれ、奴らがテリトリーに踏み込んだ獲物を見逃す筈がない」
まだ樹海化現象は発生していないが、事態は一刻も争う状況な以上、急がなければならない。
「私と棗、雪花、銀、セレナは『加賀城雀』の救出に向かう、歌野、調と切歌と英理歌は万が一の為に水都と農場の護衛と司令部へ報告、あと安芸先生にもこのことを伝えておいてくれ」
張り詰めた早口で朱音は指示を飛ばす。
「オーライ!」
「「はい(デス)!」」
「了解です! でもなんで安芸先生に?」
「今は〝教え子がピンチ〟としか言えない」
「デデデース!?」
未開放地区に迷い込んだその者が、安芸先生との関係がある人間である理由を朱音は端的に述べ。
「時間がない、さあ行くぞ!」
即席に編成された救助チームの勇者たちは、急ぎ端末が示す方角へと駆け出し。
Seilien coffin airget-lamh tron~♪
Valdura airluoues giaea~♪
ギアペンダントを手に聖詠を唱え。
端末の変身用アプリをタップし。
朱音たちは一斉同時に、変身。
単独での飛行能力を持つ朱音とセレナは飛翔し。
「銀!乗れ!」
「あや姉さん、盾――お借りします!」
「古波蔵さんと秋原さんは私の短刀(ダガー)に!」
「分かった!」
「はいよ!」
残りの飛べないメンバーの内。
銀は自立飛行できる朱音の甲羅状のシールドに。
棗と雪花はサーフボード並みに大型化させたダガーの刃の側面へ跳躍して乗り込んだ。
〝~~~♪〟
未開放地域に侵入直前、端末から樹海化警報のメロディが鳴り響き、丁度目的地周辺に樹海のドームが出現した。
「樹海が……」
「このまま突っ込む! 全員戦闘準備ッ!」
(どうか持ちこたえてくれ、今助けに行く!)
朱音たちはそのまま、〝同朋〟が放り込まれた戦場――樹海の渦中へと飛び込んでいった。
中編につづく。