GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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84ゴジから見られるようになった『どこから撮ってるの?』な司令室のモニター描写ですが、ドローンの普及のお陰で違和感なく描けるようになったのはほんとありがたい、ただゴジラなら無害な無人機でもとりあえず落としてくるので光学迷彩ぐらい付けるだろうとあんな感じに、無人機を新規で作る費用もバカにならないですしね。

機龍の操縦方法が本家XDUコラボでも言及されてたTプロジェクトのサイコトロニックジェネレーターを応用した脳波コントロールの設定にしたのは、本家では経緯はしょられてたマリアさんの機龍ギア発現の伏線でもあります。なんとかマリアさんと機龍に眠る初代ゴジラの意思との対話場面を入れたいので、初代ゴジラのサイボーグと言う業(せってい)から自分はどうしても目を逸らせない(汗


EP5-怪獣との調律の鍵

 つくばの国連G対策センター敷地内から、一つの飛行物体が飛翔し、首都圏の方角へと超高速で空を駆けていく。その速さは音速をも超える勢いで、見えない大気の壁の数々を派手に突き破って蒼穹(そら)に飛行機雲を描いていた。

 無論、この青空に雲(えのぐ)を直線で描く主は、自身のシンフォギア――ガメラを纏いて、品川埠頭に再び出現したと言うカルマゴジラ掃討に向かう朱音とトトのガメラたちである。

 今回ギャラルホルンが次元の扉を開いた事態に最初に関わった装者メンバーの中で、通常形態時から飛行できるゆえに、直接現場へと急行中の朱音に――。

 

『司令室より〝ガメラ〟へ――どうぞ』

「はい、こちらガメラ――状況に進展ですか?」

 

 G対司令室のオペレーターの一人から通信が入った。ちなみに戦闘中での装者たちは特機二課とSONG同様、纏うシンフォギアの名がそのまま〝コードネーム〟となっている。麻野司令や黒木特佐らと同盟を結ぶ為の協議の際に決めておいたのだ。

 

『はい、朱音さんたちと同じシンフォギア装者と思われる少女三人が、銀座区方面へ進行中のカルマゴジラたちと交戦している様子を索敵ドローンのカメラが捉えました、一人は大型の鎌を持った緑色の――』

 

 オペレーターからの報告を一通り聞き終え、その三人が切歌と調と英理歌だとすぐに分かった朱音は。

 

「彼女たちも、私達の組織から増援で派遣された装者です、私もじきに現場へ到着しますので、カルマゴジラの足止めをしている間の警戒避難体制の徹底をお願いします」

『了解しました』

 

 司令室との通信を終える頃には、ほぼ現場――品川区と港区の境目付近の上空に到着していた。やはり朱音たちに続いてこちらの次元(せかい)に来た装者は、切歌、調、英理歌の三人であり、顔には内心結晶体を携える彼女たちからはまだ〝謎の存在〟なカルマゴジラ相手に、毅然と応戦している。

 幸い、まだゴジラ災害用の警戒体制と避難警報そのものはG本体を撃退した後もしばし継続していた為、都内二三区内の摩天楼には民間人はおらず、カルマゴジラの再出現による人的被害は起きずに済んでいた。

 

「三人とも聞こえるか?」

『あやちゃん!?』

「これより上空から援護する、我が火の雨に気をつけろ」

 

 同い年の級友にして戦友である同じ高一組たちに忠告を送ると同時に、自身を空中にて安定滞空させていた推進機と揚力機を全て停止させ、集中力を高める為に目を閉じ深呼吸、その場から顔と瞳を地上へと向けた体勢で落ち始めたと同時に、開眼。

 

〝馳せ行けッ~~漆黒の破壊神たちが産み落とし災厄の影へと~ッ!♪〟

 

 胸部の勾玉(スピーカーマイク)から流れ出した伴奏に乗って、超古代文明語による即興の詩で歌い出すと同時に、右手のプラズマ噴射口から放出した炎をアームドギアの基本形態の一つ――《ツインプラズマライフル》へと作り替えグリップを握り、ブレージングスイングスラスター含めた推進器を派手に再点火させて急降下。

 

《烈火球・嚮導――ホーミングプラズマ》

 

 瞳は地上へ見据えたまま、周囲に誘導能力のある火球を幾つも生成し。

 

《烈火球――プラズマ火球》

 

 ギアのアップグレードにより縦に二つ並ぶライフルの銃口から、彼女(ガメラ)十八番の火球を連射しつつホーミングプラズマを一斉発射。

 放たれた火球は全て、地上に蔓延る幾多のカルマゴジラの群れの一部の命中し、戦友たちを巻き込まない規模で爆発(はなび)を上げる中、地上に落ちる寸前で体勢を向け直してウイングスラスターと足裏のバーニアで一気に減速して華麗に降り立ち、すかさず揚力機(リパルサーリフト)でホバリング移動を開始。

 

《旋火ノ華(せんかのはな)――バーニングフラワーダンス》

 

 ウイングスラスターを腰に巻き付ける様に据えると、揚力機の出力を上げてその身を高速回転して技の名に違わず舞い踊り、翼の推力放射部から夥しい無数のプラズマ粒子の〝花弁(やいば)〟を周囲のカルマゴジラたちに浴びせ、受けた小型のゴジラたちはカルマノイズの瘴気に戻り霧散。

 

《玄武掌――ハードスラップ》

 

 舞いを終えたと同時に正面から相対した一体に正拳を叩き込み。

 

《焔爪刃(えんそうじん)――フォトンドライクロー》

 

 繰り出した拳の籠手から伸びた三つの爪で突き刺し、左手からも伸びたもう三振りの爪でカルマゴジラの下顎へアッパーカットで刺し打ち上げ、相手を四散。

 

「あやちゃん、後ろですッ!」

 

 ――させた刹那、朱音の背後に迫る数体と警告を発した切歌の声が響く中。

 

《邪斬突――エルボークロー》

 

 腕のアーマーからもう三つの爪を展開して赤熱化させると同時に振り向きざま。

 

《烈火斬――ヴァリアブルセイバー》

 

 プラズマの炎刃が、不意打ちを仕掛けようとしたカルマゴジラ数体を両断し。

 

《邪撃槌――ヒールクロー》

 

 バックスピンキックの勢いで踵から伸びる蹴爪をもう一体のカルマゴジラの側頭部に突き刺し、間髪入れず手の噴射口から、プラズマライフルに並ぶ朱音の基本形態(アームドギア)の強化型である穂先が魔を祓う仏教の法具の五鈷杵状で花びら状に展開できる棒(ロッド)――《ブランドスピアーロッド》を編み出し、両端を伸長。

 

《灼熱刃――バーニングエッジ》

 

 打撃部分に炎の刃を帯びたロッドを円月状に振るい、次々とカルマゴジラを切り抜け進み、切歌たちと応戦していた敵を一通り掃討し終え、改めて切歌たちと合流する。

 

「待たせたな」

「助かったよあやちゃん、今度の世界は一体どうなってるの? 人気のない街を歩いてたらいきなり警報が鳴ってカルマノイズの瘴気も出て来て」

「かと思えば……ちっこいゴジラたちがもう次々ウハウハと」

「見た目以外はまさに、私たちの世界では幻の〝シン・ゴジラ〟のゴジラ第五形態……」

 

 事態への対処優先で、一度胸の内に引っ込めていた疑問を投げる三人に。

 

「この次元(せかい)は怪獣とノイズが同時に存在する世界で……」

「(カルマノイズが本物のゴジラに憑依して、そこから生まれたのがあのカルマゴジラなんだ)」

 

 朱音とゴジラは端的にかつ、分かり易く説明した。

 

「なんデスとぉぉぉ~~ッ!」

「じゃあ、その……カルマゴジラってのも」

「分身とは言え〝本物のゴジラ〟、英理歌の言った通りある意味で〝ゴジラ第五形態〟そのものさ」

 

 朱音とトトが、片や元、片や現役の〝怪獣(ガメラ)〟である事実を知っていても尚、三人はゴジラが実在する平行世界の事実に驚きを禁じ得なかった。

 余談だが、元大怪獣ガメラにして怪獣映画含めた特撮マニアな朱音を通じて、ゴジラシリーズに関する知識は三人とも結構持ち合わせており、休日には彼女お勧めの特撮作品をよく一緒に見たりしている――ことはさて置き、切歌たちが今回の平行世界の実態に驚愕した直後、朱音たちの真上でGフォースの輸送VTOLが通り過ぎ。

 

「あれは……」

「Gフォースの輸送機だよ」

「およよ~~!?――ってことは、つくばにあのG対策センターもあるんデス!?」

「勿論あるよ、しかも黒木特佐がGフォースの現場総指揮官」

「な……なんと驚き」

 

 映画と似て非なるものながらゴジラとゴジラ映画劇中の組織と登場人物が実在する〝現実(じじつ)〟に対し、普段表情の変化を余り見せない英理歌まで驚愕で瞳を大きく見開かせて瞬きを高速で繰り返す中、上空から三つの閃光が煌いて程なく、輸送機から飛び降りてギアを纏ったマリア、奏、奏芽が降り立った。

 

「三人とも怪我は!?」

「あやちゃんの助太刀で、全員何とかどこも何ともないデスよマリア」

 

 七人の装者が揃った瞬間、また東京の摩天楼の真っただ中にカルマノイズの瘴気らが現れ始めた。

 

 

 

 

 

 カルマゴジラをまたも実体化させようとするカルマノイズの瘴気が漂う、真昼かつ装者(わたしたち)以外に人気のない〝意外に狭いし脆い〟首都東京の渦中で。

 

『さしずめ〝七人の装者〟――役者は揃った――と言うところですか』

「ッ!?」

 

 偶然か?故意か? どちらにしても映画としての初代ゴジラと同じ一九五四年公開の映画が元のもじりネタを口にした黒木特佐の声をこの場に鳴らすスピーカー音が響き、いきなりのことでこの場にいる装者のほとんどは驚きを見せた。

 

「まずドローンの〝光学迷彩〟を解いて貰えますか特佐? ドッキリの仕掛け人ではあるまいし」

『失礼、対怪獣用ゆえ、使用中は姿を隠す方が定石(おきまり)だったもので』

 

 先の司令室との通信で大体〝からくり〟を把握していた私が苦言を呈すると、円を描いて並んでいた私達の輪の中央へと降りて引き続き通信スピーカー役を全うしながら、光学迷彩を解いた《対怪獣用索敵ドローン》が私たちの目線と、自分らの姿を司令室のメインモニターに映しているであろうカメラレンズを合わせた高度にまで降りてきて、その場に滞空(とどまった)。

 

「確かにノイズと違って……怪獣は無害な無機物にも容赦ありませんからね」

『いかにも、ですのでカモフラージュ機能は必然的に必須となります、経費の節約も兼ねて』

「国連組織の予算も無限ではない――ですよね?」

『そう言うことです、組織の性とも断言できるでしょう』

 

 キャロルや錬金術師が生み出したアルカや例のカルマと言った亜種に異種の類や二次災害を除けば、基本〝人間しか〟襲わないノイズと違い、怪獣はその巨体ゆえにただ歩くだけでも……時に明確な意志を以て……人間社会の領域(テリトリー)を構成する建築物等のインフラ、攻撃してくる対怪獣用兵器、それどころかただ周囲を飛び回る物体にも牙を向く。

 いわゆる八四年版ゴジラでも、東京の摩天楼を歩いている時に横切った民間ヘリをかの場面でしか披露してないレア技〝放射熱弾〟で高速道路に撃ち落としてアスファルトを火の海に変えた―――ってそこ、過去の東宝特撮映画からの流用と突っ込まないッ!―――おっと仮にもまだ戦闘中なのに失礼したね(冷や汗。

 

『司令室の解析の結果、次のカルマゴジラ出現範囲は先程より広く、闇雲に打って出てもカルマノイズの習性の一つでさらに数を増やす恐れがあります』

 

 ドローンが投影した立体モニターで、次のカルマゴジラが群れて出てくるエリアが表示される。この広さでは特佐の言う通り無計画に掃討しても無駄に消耗するだけだし、もしカルマノイズと同様の〝人間が密集している場所に出現する〟習性も受け継いでいるとすれば、この場で数少ない人の集まりな装者に釣られて第二波に続き、第三波、第四波のカルマゴジラの猛威に繋がる可能性もあった。

 

「特佐、早急にカルマゴジラの第二陣を殲滅する作戦は、既に思いついている様ですね」

『無論ですよ、私の仕事は端的に言えば〝勝つか負けるか〟のどちらかです――しかし私も皆さんも〝勝つ為〟そして〝守る為〟に最善を尽くす意志は同じ、よって短期決戦でカルマゴジラ第二陣を撃破する作戦を指示します』

 

 出ました特佐の名言の一つ、戦場のど真ん中じゃなかったら興奮と歓喜で舞い上がっていたところだよ。しかもたまさかにも、私が何度か戦闘中に口にしたことがあるものと似た発言まで………何と言う因果だろう?

 

「了解したわ、黒木特佐」

 

 私ら〝七人の装者〟を代表して最年長のマリアが応じる、全員説明を受ける前から特佐の指示に従うことに異論はない。事実黒木特佐は稀代の域で優秀な指揮官の一人だ。

 特佐が提示した作戦内容を要約すると。

 火力と機動性と一対多数用の手数(わざ)が両立している私が陽動役としてカルマゴジラを迎え撃ち、他の六人は二人ずつ指定した場所(ポイント)にてそれぞれ一旦散らばり、数を減らしながら私のいる地点まで追い込み一網打尽すると言うもので、シンプルだけど効果的な攻撃計画だった。

 私以外の六人三組は、マリアと調、奏芽と切歌、奏さんと英理歌の組み合わせで決まり。

 

『ではこれより――作戦開始ッ!』

「「「了解ッ!」」」

 

 まだ瘴気がカルマゴジラになっていない今の内に、マリアたち追い込み役の三組は、他の索敵ドローンの案内の下、指定したポイントへと向かっていく。

 程なく、私のいるビル街の渦中の道路上周辺からも、瘴気から新たなカルマゴジラが現れた。

 

〝Go~Ahead~~Make~My~Dayッ~!♪〟

 

 私はS&W M29を手にマグナム44弾で悪党どもを成敗するサンフランシスコのダーティーなはみ出し刑事の名言にして、『ゴジラvsキングギドラ』でもオマージュされた台詞――〝Go Ahead, Make My Day(さあ来いよ! 望むところだッ!)〟――を即興(アドリブ)の詩にして歌い上げ、カルマゴジラとの戦闘を再開させたのだった。

 

 

 

 

 

 結論から先に言えば、黒木特佐が発案し装者たちが実行した作戦は見事なまでに〝成功〟した。

 

〝お前達の憎き人間(てき)~~その端くれたる私は~~〝ここにいるぞ〟~~小さき破壊神たちよ~~ッ!♪〟

 

 朱音は戦闘による二次災害(コラテラルダメージ)を最小限に抑える様、留意を怠らずに陽動役としてカルマゴジラたちの注意を引き続け、プラズマライフルの銃口から十字架状の火が噴き、投擲操作されるシェルシールドⅡの鋸(カッター)とヴォルナブレーザーの斧波が敵の胴体を切り裂く中。

 

《γ式 卍火車(ガンマしき まんじかしゃ)》

《DISTORTION*BREAKER》

 

(その調子よ!)

 

 調のヨーヨーに丸鋸たちと、奏芽の対象を空間ごと歪曲させる重力球。

 

《INFINITE†CRIME》

《凶鎖・スタaa魔忍イイ(きょうさ・スターマニー)》

 

(くらいなさいッ!)

(ルートから外れたら即刻お仕置きデ~~スッ!)

 

 マリアの短刀(ダガー)たちと、切歌の二つの鎌の合体でできた巨大手裏剣。

 

《PROCYON》

《SPICA》

(目標……駆逐)

 

 英理歌の周囲に出現した空中移動砲台と、両腕で構えた突撃銃(アサルトライフル)から同時連射される銃撃に。

 

(おらおら! ボサっとしてねえで行った行ったぁぁぁ~~ッ!)

《STARLIGHT∞SLASH》

《SAGITTARIUS∞ARROW》

 

 奏が振るう撃槍から飛ばされる炎の三日月刃と、投球で放たれた巨大な光矢。

 

 三チームに分かれた六人は、それぞれの一対多数用の技でカルマゴジラの群れの数を減らしつつ追い込んでいき、再出現時よりも大分数を減らして朱音が待つ地点まで誘導させたところを。

 

《REFLECTION†DOME》

 

 すかさずマリアの脳波で操作される短刀(アームドギア)たちが形成した白銀色でドーム状に形作られたエネルギーフィールドに閉じ込め。

 

〝THIS~THE――ENDッ~!♪(これで――決まりだッ!)〟

 

《玄翁轟雷(げんおうごうらい)――サンダーストロークタイタン》

 

 ヴォルナブレーザーを手に跳躍した朱音は、ハンマー部に閃光迸る暁色の稲妻を纏わせて得物を振り上げ、上段唐竹の軌道でドームに雷撃の鉄槌を叩き込む。

 フィールドの内側の空間は雷撃と衝撃が内壁と乱反射し合って暴れ狂い、内部にいた残るカルマゴジラたちを全て一掃させ、瘴気の残滓へと霧散させし切った。

 黒木特佐の指揮と、装者たちがこれまでの経験で養われた経験で、カルマゴジラたちによる首都襲撃は最小限の被害で収束し、殲滅させることができたのだった。

 

 

 

 

 

 あの後、切歌と調と英理歌も入れて七人となった私たちは、再びGフォースの輸送機に乗って(その間に切歌たちにこの怪獣のいる世界の詳細と、カルマノイズが招いた事態を詳しく説明して)G対策センターに帰還し、今度こそこの世界にいる間の待機場所である兵器開発部の研究室に入室した。

 やっぱり国連機関の一角だけあり、研究室もかなり広々としたスペースが確保されている。

 ウェルの仕事場部分を抜き取っても、破格のスペースを有しており。

 

「Welcome to My laboratoryッ!(我がラボへようこそッ!) シンフォギア装者の諸君! 新たなミステリアスガールも含め、改めて歓迎致しますよ~!♪」

 

 その研究室の主たるマッドドクターは、関心を寄せるシンフォギア・システムと装者(にないて)がさらに増えたのもあって、これまた意気揚々に端整な容貌をサイコな顔芸で台無しにして私たちを出迎えた。

 

「はぁ……」

「なんであのトンデモが……」

 

 反対に切歌たちのテンションは、この通り下がっていくばかりで、さっきのマリアと奏芽に負けず劣らずのあからさまさ具合で苦虫を噛んだ顔をしている。

 輸送機内でGフォースと機龍(メカゴジラ)の説明をしていた時は、彼女たちの心中にも存在している〝ロマンチシズム〟がはしゃいで楽しみにしていたのだが………それの創造主の名を聞いた途端、一気にテンションが天国の空から地獄の奈落に突き落とされ、この有様である。輸送機に乗ってた間なんてG対本部に到着するまで思考停止(フリーズ)していたくらいだった。

 

「…………」

 

 調と切歌でもこのよそよそしさなのに、英理歌に至っては元から少ない口数が一層減って、白け冷め切った紫の瞳(じとめ)を無表情だが拒絶感がはっきり浮き出た顔ごとプイっとそっぽを向き……〝お前と語る舌は一切持たない〟と態度そのもので主張していた。これは余程の切迫した事態でも起きないと、頑としてウェルとは一言分も会話をしなさそうだな。

 詳しい説明は長くなるので省くが、三人もまたかつて奏芽にマリア、そしてかのマッドドクターとともに《フロンティア事変》を引き起こした当事者であり、英雄中毒の症状が悪化したウェルの暴走の数々に対し痛い目に遭った被害者でもあった。

 

「三人とも、気持ちは痛いほど分かるけど悪い人ではないから……ね?」

 

 マリアに説得されるまでもなく、三人とて目の前にいる三式機龍(メカゴジラ)の開発者にして平行世界のウェルが自分らの知るウェルとは別人であると頭では〝理解〟している………でも心(きもち)の方は割り切って納得するまで、まだまだ時間が掛かりそうだと、こっちも釣られて眉を漢数字の八の字にして苦笑しそうになる。

 

「朱音さん、僕の顔に何か付いているのでしょうか?」

「私は直接の面識はないのですが、どうも博士によく似た知り合いがいたらしくて」

「ごめんなさいデス……」

 

 さすがに平行世界の別人にこんな態度を見せるのは申し訳ないとも思っているらしく、切歌が三人を代表して頭を下げた。

 

「つまり僕のそっくりさんですか………きっと僕に勝るとも劣らぬ溢れる才能を持ち合わせた天才にして英雄的なお方なのでしょうね♪」

「博士の想像にお任せしますよ」

 

〝ノーコメント〟の意志を表明する三人に代わって、どうにか〝平行世界の同一人物問題〟を切り上げ。

 

「それより、機龍の素晴らしき性能に関する説明の続きの方を聞かせて下さい、初代ゴジラの骨をベースにしたサイボーグであることと、DNA-Cとアブソリュート・ゼロに関する説明は、本部に戻るまで間に三人にも伝えてありますので」

「おっとそうでしたね、では三式機龍に搭載された操縦機構の説明に入る前に、僕の偉大な発明の一つをお見せします♪」

 

 そう言うと博士は、研究室内の机の上に、頭部全体を包み込む曲線のデザインをしたヘッドセットを私たちに見せた。

 

「この器具は一体なんです?」

 

 実を言うとこれもゴジラ映画の一つの劇中に出たきたものと微妙に似た形をした見覚えのある装置(しろもの)だったが、一応問うて見ると。

 

「《サイコトロニックジェネレーター》です」

「さ、サイコ………なんですって?」

「サイコ――トロニック――ジェネレーターだよマリア」

 

 案に違わずと言うべきか、ウェルの口からゴジラ聞き覚えのあるこの装置の名称が発せられ、なまじ字数が長かったので問い直すマリアに私は単語を三分割させて呼び直した中。

 

「五年前、G対は《Tプロジェクト》なる計画を推し進めていました」

 

 これまたゴジラ映画で聞き覚えのある〝計画名〟が出てきた。

 

「簡単に内容を説明しますと、超能力者のテレパシーを使ってゴジラの意志を掌握して乗っ取り、操る形でヤツの破壊活動を止める計画でした、このサイコトロニックジェネレーターは、テレパスの脳波の出力を増幅させるものです」

「あのゴジラを操るとか、また思い切った作戦だな………」

 

 映画であれば西暦一九九四年公開の『ゴジラvsスペースゴジラ』にて登場した計画と装置であり、この世界の方もほぼ同様のものだ。

 当時のG対策センターには超能力の研究部署《サイキックセンター》なるものが映画と同じく存在し、そこに所属する超能力者と増幅装置を使い、ゴジラの意思と調律(どうちょう)させて繋ぎ、ヤツの底知れぬ〝怒り〟に〝憎悪〟や〝破壊衝動〟を抑え、G含めた怪獣災害を防ぐ。

 それが正式名称――《TELEPATHY PROJECT》だった。

 

「ですが博士の発明品の力を以てしても、ゴジラの凶暴な意識を鎮めることはできなかった……」

「今でも思い出すと悔しさで腸(はらわた)が煮えくり返りそうになりますが、朱音君の仰った通りの結果で………装置こそ問題なく正常に稼働しましたが、実験に志願した使用者はいずれもゴジラの強すぎる思念に耐えられず、計画は中止せざるを得ませんでした、中には暴れ出してしまう者もいた為にあの時は苦労しましたよ………ぐぬぅ……」

 

 テンションが上がった時とは違う色合いで、ウェルの端整な顔の眉間が皺で歪み、今にもハンカチを噛んで歯ぎしりし出しそうなくらいの絞り出す声音になる様相を見せてきたので、よっぽど彼にとっては苦過ぎる〝失敗〟の経験だったらしい。

 

「けれどただでは転ばない貴方は、この優れた発明品を機龍の〝コントロールデバイス〟として改良させた――と言うことで宜しいですか?」

「ずばり大当りですよ朱音君! 君(ユー)のように呑み込みと僕の類希なる〝才〟に対する理解が早い方がいてくれて、説明する身としては大助かりです♪」

 

 少々〝おだて〟も混ぜて本題に切り込んでみると、一転ウェル博士のテンションはまた上昇する………中々の域を軽く飛び越えるテンションの上下の激しさに、マリアたちが如何に彼との付き合い苦労した上にさせられたか、また一つ改めて窺えた。

 

「どういうことあやちゃん?」

「つまり装者(わたしたち)がアームドギアを遠隔操作する時と、同じ原理でね」

 

 この場にいる面々を代表して調が投げてきた疑問に、私は側頭部に人さし指をトントンとさせて。

 

「機龍はサイコトロニックジェネレーターで増幅されたパイロットの脳波で遠隔操縦(リモートコントロール)するシステムになってるのさ、DNAコンピュータが齎す機龍の性能を最大限に発揮させる為にね」

「そうですッ!」

 

 こちらの世界の機龍はゴジラ同様、身長一〇〇メートルものの巨体である生体ロボットの機龍(つまりこの世界の初代ゴジラは、低く見積もっても身長八〇メートルはあったことになる、高層ビルの無かった時代で暗闇の中をゆっくりと進撃して東京を火の海にした初代ゴジラに、当時の日本人はさぞトラウマとなるほどの恐怖を植え付けられたことだろう)に、機械に対する人間の認識(じょうしき)を超えた生物的運動性を機龍に確保させたDNAコンピュータだったが、その性能の高さゆえの無視できぬ大きなデメリットも抱えていた。

 余りに高過ぎる運動能力の為、機体の稼働時に生じるGはいわば殺人的な領域となってしまい、日本のロボットアニメでお馴染み直接機体に乗り込んでの操縦は生身のパイロットに掛かる膨大な負担からほぼ不可能となり、遠隔操縦を余儀なくされた。この辺の問題は映画でも同様である。

 

「不測の事態が起きた時の為に通常のレバー操作こそ残してはいますが、サイコトロニックジェネレーターと組み合わせることで、DNA-Cと同調(シンクロ)した操縦者は――〝思考〟するだけで三式機龍を自在に動かせる様になっているのですよッ!」

 

 しかし、それだけで満足するウェルではなく、Tプロジェクトの失敗の苦味すらもバネにして、自らが設計した機龍に脳波コントロール機能まで搭載させてしまった。

 性格面ではともかく、自称するだけあって確かに〝天才中の天才〟には違いないな………この高機能社会不適合者(ハイスペックソシオパス)はと、内心私は揶揄して苦笑いをした。

 同時に理由の中身は純度百パーセントで怪獣クラスの肥大化した英雄中毒(よくぼう)から来るものだが、打倒ゴジラに掛ける熱意は混じり気の無い〝本物〟であるとも、確かに私は感じ取れた。

 

「ですから、カルマゴジラはともかくとして、ゴジラ本体となればシンフォギア装者の貴方たちの手を借りずとも――」

「ちょっと待った!」

 

 ウェルが〝史上最強最高の対ゴジラマシン〟の異名に違わぬ三式機龍(メカゴジラ)のスペックに関する一通りの説明を終えた直後。

 

「さっきアンタは言ってたよな? 〝怪獣には怪獣の力〟をってさ」

「はい、それが何か?」

 

 何やら〝アイデア〟を思いついたらしい奏さんが、ゴジラとの直接戦闘においては装者(わたしたち)の出る幕はないと言おうとしたウェルに待ったを掛けてきた。

 

「アタシたちのシンフォギアにもあるぜ、怪獣に対抗する為の――〝怪獣の力〟――を発現させる〝方法〟がッ!」

 

 眉と目尻を大きく釣り上げ、自信たっぷりに奏さんが提示しようとしている〝対抗策〟とは――。

 

 

 

 

 

 

 ――さて、時計の針を、静音と司令への報告の為に一度SONG本部へ帰還した頃に進め直し、どうにか心身を回復させた静音のオフィスにて。

 

「〝心象変化〟の機能で怪獣の力をシンフォギアに反映させる………奏ってばまたトンデモなアイデアを思いついたものね」

 

 私は静音と司令の二人に、奏さんが機龍の操縦方法を聞いた際に思いついた、シンフォギアによるゴジラたち怪獣への〝対抗策〟の内容を報告書と口頭の両方で伝え、静音はその場で浮かんだ正直な感想を表明して、呆れと敬服が入り混じった奏さんに対する笑みを、生真面目で苦労性が何かと現れ易い顔に浮かばせながら報告書に目を向け続けており。

 

「昔から一度決めたことは頑として譲らんかったからな、奏は」

 

 司令(げんさん)もほぼ同様の笑みを浮かべて、奏さんに関する記憶を思い返していた。

 

 奏さんは私とトト――怪獣(ガメラ)同士による同調(ユニゾン)による融合形態――《タイタンギア》を参考に、サイコトロリックジェネレーターを用いて〝怪獣の力〟を〝心象変化〟でシンフォギアに具現化させようとしていた。

 この〝心象変化〟とは、装者がある強いイメージまたはビジョンを心象風景(せんざいいしき)に強く訴えかけることで、ギアがその心象に合わせて装束(アーマー)、アームドギアを変化、または特殊能力を付加させると言うもの、何度かギャラルホルンが次元の扉を開いた先の世界で起きた事態に、この機能で対処したことが何度もあったと言う。

 簡単に喩えるなら、特撮ヒーローで言う〝タイプチェンジ〟もしくは〝フォームチェンジ〟の類ってやつである。

 奏さんはサイコトロニックジェネレーターを使って強制的に怪獣の思念と同調し、心象に強く刻み込んで怪獣の力を宿した形態――《カイジュウギア》へとシンフォギアを心象変化(フォームチェンジ)させようと思い立ったのだ。

 

「その辺の奏さんの気質が、今回も発揮されてね……」

 

〝操る〟目的ではないので、ウェルは同調のレベルは下げて調整、設定するとは言っていたが………Gフォースの選りすぐりの超能力者(テレパス)でも耐えられなかった怪獣それもゴジラの思念と繋げるなど、リスクだらけにも等しい手段ではあったけど。

 

「いくら危険性を伝えても〝指をくわえて見てるだけってのは性に合わない〟と譲らなかったよ」

「「うん、実に奏らしい」」

 

 実際に奏さんの人となりを間近で見てきた二人は、自然と声をハモらせた。

 できればそんな〝危ない橋〟を渡らずに事態を収束させたいけど、相手がカルマノイズとあのゴジラな以上、そうも言ってられないだろう。

 ならば、《カイジュウギア》の発現が求められるほどの事態込みで、起きうる〝可能性〟から目を逸らさずに、入念に備えて対処していくしかないだろうと………私は考えを過らせるのであった。

 

 

 

 

 

 一方、その頃のG対策センターでは、黒木特佐が自身に貸与されたオフィス内にて腰かけ、机上に置かれたPCの立体モニターが映している映像を、コーヒーを少しずつ飲みつつ、黙々と眺めていた。

 画面に流されているのは、地下格納庫内の監視カメラの録画映像。

 特佐は、ウェルとアランが装者たちに三式機龍に関する説明を行っている最中のところで映像を一時停止させ、タッチパネルとなっている画面に指をなぞってある箇所をズームアップさせる。

 その箇所とは、機龍の巨体を見上げる朱音の横顔。

 

「………っ」

 

 特佐は無意識に、自身の双眸と画面との距離を詰めるくらい食い入って見つめる。

 機龍をじっと見つめる朱音の横顔の一際目を引かせる翡翠色の瞳からは……映像越しにでも窺えるくらいの〝憂い〟を、携えていたからであった。

 

つづく。

 


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