GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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さてさて二連続投稿の二打目。
亜耶ちゃんより先に雀ちゃんが出てくる回、ちょっと間が空いた上に前後編のつもりがまたボリューム上がって三部作に、面目ねえ。
一応季節がぴったりな時期に出せましたが 


収穫の秋と迷える小雀 中編

 鮮やかの一言だけでは表し切れない、極農の原色な色たちが多種多色かつ半ば無秩序で無節操に樹木に大地に空にと染め上げる、神々がその超常の力で以て生み出す極彩色の異空間にして異次元――樹海にて。

 

「ひゃあぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 数多くの人類の中でも、発せられる機会も、それを耳にする機会も、一生の内に一度あるかどうか、それすらも断言できないくらいの、余りに強さだの逞しさだのと無縁な〝情けなさ〟たっぷりの、少女の悲鳴が空間のドーム内一杯に轟いた。

 その声の主を救う為に実は今回、生成された樹海内では、それでも夥しい数の、造反神に侵略された地――未開放地区を我が物顔で飛び回っていた中、自分たちがその身を賭けて駆逐しなければならぬ〝敵〟の気配を察知して内部に入り込めた星屑たちが、巨大な枝たちでできた山あり谷ありの大地を疾走するたった一つの〝人影〟を殺すべく、一斉に襲い掛かっていた。

 

「ひぃぃぃぃへぇぇぇぇぇーーーーー!!」

 

 人影――少女は、殺意が充満する星屑の大群を前に、またも奇声じみた、けれど本人にとっては命の瀬戸際に立っている状況を主張する、精一杯の悲鳴をまた異空間中に響かせた。

 そんな彼女の、華奢で小柄で幼さをの残す体躯には、どこかナズナの葉や幹を連想させる淡い緑色の、少女が纏うには武骨な形状をした鎧らしき装束、肩のアーマーには、実際にナズナの花が描かれた腕章が刻まれている。

 顔はバイザーで口以外は見えず、片手に持つ十字架状の装束と同色の盾以外に、獲物の類は……一切見当たらない。

 事実、今この少女には、星屑たちに攻撃できる手段たる〝武器〟の類を、全く持ち合わせていなかった。

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ! いやマジで今回お先真っ暗、あの世へ真っ逆さまな直行便! わたしいよいよさよなら! もうゼッタイ殺される~~~! メブゥゥゥゥーーー!」

 

 にも拘わらず、死の奈落まで、もう後一歩と言う余りにも絶望的な状況下で、休む手間暇も与えず常に襲ってくる星屑たちの猛攻を、口振りに反して―――凌いでいた。

 あらゆる方向方角から雪崩れ込む星屑の群れの突進の数々に、まるで敵の手の内を先読みしているかのように掻い潜り。

 それでも肉薄してきた固体を、ある時は紙一重に躱し、またある時は盾を巧みに用いて体当たりの勢いを受け流し。

 またある一体を、スイングからの盾の一撃で打ち払いさえした。

 

「きゃあ!」

 

 その隙に飛び込んだ攻撃さえ、屈んでギリギリのところで逃れる。

 

 

 

 

 

 なぜだ?

 天よりの命を以て粛清すべき人間の中でも、飛び切りの弱者にしか見えない、雀の涙程度の〝神樹〟の力の一部しか纏えていない虫けら一匹に、なぜ自分たちは殺すどころか―――攻撃の一つさえ当てられない!?

 星屑たちの、本能と言う名の集合意識には、焦燥や苛立ちが、鰻上りに積み上がっていった。

 

“コノママデハ、スマサン………〟

 

 奴らの〝全にして個、個にして全〟なる共有意識は、決意した。

 宙を駆ける速度を上げ、一層苛烈に少女を強襲しつつも、一部は一箇所に集まり出す。

 

「はっ……」

 

 バイザーの隙間から冷や汗を流す少女は、敵の意図を察した。

 星屑たちは融合しようとしている。

 かつて〝防人〟と呼ばれていた――神々の力をお借りしていながら、〝勇者〟と呼ばれることを許されなかった……雑草の一草も同然な弱っちくて臆病者な自分一人相手に。

 星屑(やつら)の融合が完了して、バーテックスとなってしまえば、防戦で手一杯だった彼女に、成す術はない。

 逃れようにも、共に窮地に立ち向かう〝仲間〟は、今ここにいない。

 

(ごめん………メブ………みんな)

 

 気がつけば、大枝の大地に、力なく尻もちを付いていた。

 

「っ………」

 

 最早、悲鳴すら上げて、全力で怖がりつつも必死に抗う余裕すらなくなりつつあった。

 

(みんなの■■……守れそうに――)

 

なけなしの、雀の涙に等しい乾いた笑みを浮かべる彼女の脳裏に走る、友たち

 絶えることのない攻撃の荒波を受ける中で、巨大なる神の使徒が誕生する瞬間を突きつけられる直前。

 

〝~~~♪〟

 

(う……うた?)

 

 歌が、歌声が………聞こえる。

 少女にはどんな言葉で、どんな意味が全く理解できぬ言語でできた詩。

 しかしそれを、大地の鼓動の如き力強さと、流れゆく水流の如き艶やかさを併せ持った歌声が、彼女に訴えかけてくる。

 

〝諦めるなッ!〟

 

 歌に籠る〝熱情〟が、少女の胸の奥へと鳴り響いたと同時に、完全に融合し終える直前の災厄の集合体たる巨躯へ、少女が結界の外で何度も目の当たりにしてきた業火に似た、鮮烈なるマグマの色をした〝火球〟が貫く。

 たった一撃―――で、バーテックスになりかけだった巨体は、瞬く間に全身が灼熱に覆われ、豪快に四散した。

 

「えっ?」

 

 何が起きたか全く呑み込めない少女に、今度こそと星屑の群体は迫るも。

 空から降り注ぐ、槍の驟雨に串刺しにされ。

 星屑以上の眼にも止まらぬ速さで翔る短刀たちに切り刻まれ。

 宙を震撼させる、二つの強烈な衝撃波たちで薙ぎ払われる。

 それでも内一体が、突然の猛攻を潜り抜け、正面から牙を剥き出しに大きく開いた口で、彼女を噛み殺そうとするも。

 

「ひぃ!」

 

 直前、彼女の前に降り立つ人影。

 

(め……メブ?)

 

 刹那、雀は、〝当人からは〟いつも頼りっ放しの助けられっぱなしな、我らのリーダーの後ろ姿が見えたが、直ぐに錯覚で、背中を見せている相手は別人だと気づく。

 逆光の視界でも鮮やかに色づく、メカニカルで紅緋色の鎧(アーマー)。

 艶やかに風で揺らめく、葡萄色がかった黒髪。

 そして先程聞こえた歌声とともに流れていた伴奏(メロディ)を鳴らし、その勇姿は彼女の前に立つ。

 

(あれ?)

 

ほんの一瞬だったが、少女の眼は、自分の救助に来たと思しき、友の面影が過った何者かの後ろ姿から――〝甲殻を背負った巨獣〟の姿が見えた。

 

(も、もしかして……この人が……)

 

 その戦士の右手に持つ鎧と同色の得物(ロッド)は、星屑の口内へ神速の勢いで突き入れた。

 少女を殺害できるまで、もう後一歩だった星屑の一個体は、結局使命を果たせぬまま、体内から急速膨張する〝プラズマ〟に、肉片残さず焼き尽くされた。

 

「How~does ~it~taste?(お味はどうだったかな?)」

 

 神の使徒たちからは皮肉(ブラック)この上ない、少女を救ったシンフォギア装者――草凪朱音の、胸の勾玉からのメロディに乗ったまま、ユーモア込めた捨て台詞な即興の歌詞とともに。

 

「Now then~ It’s slice~and~ (さて次は――輪切りと)」

 

 左手の噴射口からの炎を、甲羅状の盾に変え。

 

《旋斬甲――シェルカッター》

 

 一回転の遠心力を相乗からの投擲、ジェット噴射で高速回転する甲羅の刃は、朱音の宣言通り次々と星屑の肉体を両断(わぎり)にし。

 

「―― cinder ~~!!(消し炭だッ!)」

 

 間髪入れず、ロッドからライフルに変えたアームドギアの銃口から。

 

《烈火球――プラズマ火球》

 

 超放電現象迸る、焔の弾丸を連射し、甲羅の旋回で機動を乱された個体たちを撃ち落とす。

 時として装者としての彼女の、伴奏含めた戦闘歌は、その時の場や状況に合わせて柔軟に、さながらジャズの如く即興性たっぷりな自由気儘に変化して〝アドリブ〟をかます様が、見られることもあった。

 少し前まで同類だった球状の花火(ばくえん)から吹かれる暴風に晒された、残る敵たちの本能(いしき)は、戦慄する。

 来た………来てしまった。

 この雑草一草始末できぬまま、〝奴ら〟が現れるのを、許してしまった。

 自分達の宿敵―――勇者と、シンフォギア装者を。

 

 

 

 

 

 

 今の私たちのサッカーパンチで、相当数を減らされながらも、尚突撃を止めぬ星屑を、銀の二斧が横薙ぎの軌道で薙ぎ払い、棗の三節棍が盛大に叩きつけ破砕させる。

 

「おっと、お集まりもご遠慮――願いますよ!」

 

 再び融合しようにも、雪花が絶えず投げつける槍の乱れ投げと、セレナの脳波で飛行するダガーたちが阻む。

 

「怪我はないか?」

 

 その間私は振り返って、淡いグリーンの装束(アーマー)を纏った彼女に呼びかける。

 

「は、はい……お助けありがとございます」

 

 何とか間に合った。

 間一髪助けることができた相手には、受け答えができるだけの体力も理性も意識も、残っていて無事だった為、警戒は怠らないまま安堵する。

 彼女にこれ以上手出しはされないよう、銀、雪花、棗、セレナ、そして私の五人は、円を描く形で彼女を取り囲み防衛する。

 顔こそバイザーで隠れているが――。

 

「待たせたな――加賀城雀、君を助けに来た」

 

 ―――この人こそ、神樹様が神託で〝防人の一茎たる小雀〟と称された、安芸先生の教え子その人である。

 

「え? なんでッ!?」

 

 彼女の驚愕に反応したのか、バイザーが開いて彼女の小動物風な容貌が露わになる。

 三角おかっぱと、麻呂眉が中々チャーミングだ。

 

「いやいやいやいや~~お、恐れながらですよ………そ、装者様の、それも天下の大怪獣ガメラ様が、なぜ私なんぞの名前をご存知で?」

「今は〝元怪獣〟だ、説明なら後でじっくりするよ、君は大船に乗ったつもりで休んでいてくれ、奴らに一切手出しは―――〝私達〟がさせない」

 

 さてと――。

 

「私と銀で切り込み、棗は中距離(ミドルレンジ)で迎撃を、雪花とセレナは加賀城雀を護衛しつつ後方支援を頼む」

「「はい!」」

「了解した」

「はいよ~~♪」

 

 念仏を唱える時間ぐらいはあっただろう?

さあ〝災いども〟よ、ここからは―――It’s my turn(私たちのターンだッ!)

 人間(われら)からの盛大な引導(プレゼント)、とくと受け取れ!

 

「掃討するッ!」

 

 

 

 

 

 

 これが、ちょっと前の時間に起きた私、絶対忘れられそうにない衝撃の体験でした。

 そして今この私――加賀城雀は結構な広さのある畑の隅っこで体育座りをしたまま。

 

「歌野、水都、次はどの野菜を取ればいい?」

「それじゃ棗さん、今度は――」

 

「ほよ~~一際でかいの取ったぞデ~ス!」

「暁さん凄~い」

「なんとビック………ドクターがいたらお仕置きに使えたのに」

「英理歌さん……その人にどこの笑ってはいけない何々をやらせるつもりですか……」

 

 せっせと秋らしくたっぷり畑に実った色んな作物の収穫に励む、人間全体のヒエラルキーにおいて最底辺に位置する私より年下ながら、逆にヒエラルキー上の上位に位置する勇者の方々と装者の皆様の、訓練以外の時の自分たちの姿が浮かぶ雑談を交えながらの作業の様子を、まざまざ眺めている状態にありまして。

 ある意味で、中学以来この讃州市に久方振りに来た〝目的〟が、ある意味で達成されたわけなのでした。

 詳しく話し出すと長くなるので、簡潔に言いますと、私は過去や異世界からやってきたと言う勇者とシンフォギア装者に、ちょっとお目にかかりたい好奇心がまた沸いて………わざわざ朝早くから、実質私たち〝防人〟の学生寮も同然なゴールドタワーからこっそり抜け出してきたのです。

〝前回〟はがっつり讃州中学勇者部の方々とお会いし、活動に付き合った挙句、エールまで頂いてしまいましたが、今回こそは〝覗き見〟だけで過ごすつもりだったのですが、その顔を知られている勇者部の皆様に気づかれずに拝む機会などそう来るはずもなく、市内を彷徨っている内に気がつけば迷い。

 慌ててスマホで現在位置を確認しようとしたら、何とも底辺人間の私らしい運の悪さで、安芸先生からもメブからも耳にタコができるくらい注意喚起されていた………入ってはいけないとこ――いわゆる造反神の縄張りにされた未開放地区にうっかり入って、今まで経験したことのない、一人で星屑たちを相手にしなければならない波乱な目に遭い、今度こそ命運も尽きたと思われたところで助けられ、今に至っております。

 偶然にも、助けてくれた面々のほとんどが、いずれもこっそりの少しでもいいから顔を拝みたかった人達ばかりでした。

 諏訪の勇者、白鳥歌野。

 沖縄の勇者、古波蔵棗。

 北海道の勇者、秋原雪花。

 仲間の一人の小学生の時の同級生だった……三ノ輪銀。

 あのフロンティア事変に大きく関わっていたと言う世界的アーティストマリア・カデンツァヴナ・イヴと姉妹みたいに仲良いらしい、大昔の武器の欠片を使って変身するらしいシンフォギアって武器を使う装者(つかいて)の一人な暁切歌と月読調と星空英理歌、そんでマリアさんの実の妹のセレナって子。

 そして………なんと私も名前だけは聞いたことあった平行世界(パラレルワールド)からはるばる神樹様が呼んできた、前世がなんと、特撮だっけ? その特撮系映画に出てくる本物の怪獣だった装者、草凪朱音。

 さっきの不運から一転してのこの幸運な巡り合わせ、これ………後からもっと大きな不幸が押し寄せるフラグとかか何かじゃないよね?

 そんな自分でもどうにかしたいと思ってる不安、恐れ、マイナス思考に、また頭の中が一杯になりかける。

 

「(お~い)」

「びょえぇ~~!」

 

 直前にいきなり、私の頭の中で声が聞こえてびっくり仰天して、押し寄せる嫌な不安たちは一気に吹き飛ばされた。

 

「(ごめん、びっくりさせちゃったね)」

 

 脳みそに直接声をかけてきたのは……宙に浮いてるお腹が〝火〟にも読める模様をした小さな亀さん。

 安芸先生から話は聞いてたけど、これが勇者様に装者様の戦闘をサポートする、パートナーも同然な精霊。

 大体が妖怪モチーフらしいと聞いた時は、やたら怖い方を想像して背筋が凍ったものだけど、実際の精霊はイメージから真逆に離れすぎた、ゲーセンのUFOキャッチャー内にいてもおかしくない、いかにもゆるキャラなルックスをしていた。

 しかもその一体にして、あの異世界から召喚された、映画に出てくる怪獣も生まれ代わりでもある草凪朱音さんのパートナーにして、同じく本物のガメラな筈な、名前はトトと言うこの精霊さんは、飲み物が入った紙コップを乗せたお盆を持っていた。

 

「(取れたて野菜の、はちみつ砂糖入りのグリーンスムージーだけど、一杯どう?)」

「あ、どうも……」

 

 せっかく持って来てくれたので、両手で丁重に受け取る。

 

「精霊って、君みたいに普通に喋れるの?」

「(さすがに僕みたいなのは、精霊にもそういないよ)」

 

 さらもしかも、その子は超能力ではポピュラーな、でも精霊たちの間ではマニアックらしいテレパシーで人と会話もできる。

 空飛ぶ喋れる亀………冷静に考えると中々シュールではなかろうか?

 とは言え、スムージー自体はありがたく頂こう、丁度喉が渇きそうだったし。野菜の方のジュースはどちらかと言うと苦手だけど、甘味も入って癖も少ないだけあって、ごくごくいけるくらいすんなり飲めて、美味しい。

 

「(それじゃ僕は収穫作業に戻ってるから、どうぞごゆっくり)」

 

 と、トトは畑の方に飛んで行った。

 同じく重力何それに飛び回る他の精霊たちも、収穫のお手伝いを頑張っているんだけど………これ、ちょっとした百鬼夜行だよね?

 精霊は勇者様装者様ご本人と、関係者以外の一般人には見えないと安芸先生から聞いていたと言うのに思わず私は、通りがかりがうっかり見て腰抜かしてないか、きょろきょろ辺りを見回してみる。

 

「(僕が人避けの結界貼ってるから心配はないよ)」

 

 どうも見かねたトトが、そう説明してくれたのでした。

 安心した私は、スムージーを飲みながら暇つぶしに収穫中な畑の中に、好物のみかんの樹がないかなと探したけど……見当たらない……極早生なら丁度今が収穫時期なんだけどな、あったら今頃取れたてをたっぷり食べられたところなのに、ちょっとがっくりさせられたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何をしているのだろう? あの人は……」

「多分、トトたちが通りがかりに見られてないか心配なんだろう」

 

 名前の通り雀みたく首を振って周囲を見回る加賀城雀の様子に対し、私と調はこう受け答え合った。

 今、私と調の二人は、一旦収穫作業から離れ、ポータブルラジオからの番組をいわゆる作業用BGMに、互いの持前の料理スキルを活かしてランチの調理に取り掛かっている。

 持ち込んできた折り畳みテーブルの上には、レンタルした折り畳みリヤカーに乗せて一緒に持参してきた料理に必要たる器具は揃い踏みだし、材料そのものだって困らない、なんてったって新鮮な取れたてがたっぷりあるからだ。

 今回の料理のラインナップは――。

 チキンのささみ肉と秋野菜ときのこの混ぜ合わせソテー。

 大豆とマカロニと取れたてトマトをふんだんに使ったスープ。

 メインは香川の郷土ライス『おいでまい』と、今朝棗が市場から仕入れてきた、切ない回で取れる今が味の旬な黒鯛一匹まるごと使った香川名物の一つ――『チヌ飯』。

 ――と、なっている。

 結構メンバーがいるので、まず必要量のお米を半々で私たちは洗い、一時間くらいざるに置いておく。

 その間に、自分たちがここまで収穫した野菜たちの材料(いちぶ)を手早くテキパキと切り刻んでいたのだが――

 

「はぁ~……」

 

 最中、包丁で材料を端整に捌く手を緩めないまま、調はまた溜息を零した。

 

「戻ってきてからずっとそんな調子だが……どうした?」

 

 加賀城雀救出の為出撃した前と比べても、少々ながら彼女のテンションが低い。

 そう言えば切歌も戻った直後は似たような調子だった。

 

「あ、実はあやちゃんの指示通り、本部に報告した時なんだけどね……」

 

 私が出撃前に伝えた通り、あの後調たちは本部と通信を繋ぎ、畑の近くで未開放地区に人が入り込んでしまい、メンバーを二手に分け一手が救出に向かったこと、その相手が安芸先生の教え子、つまり彼女が監督官を務める〝戦士隊〟のメンバーである加賀城雀であることも含めて報告した。

 歌野によれば、それを聞いた安芸先生は表面(かお)こそ平静を装っていたが、内心は怒りがふつふつとオーラとなって沸き上がっていたらしい………無理はないけど。

 その際、おかんむりだったのは安芸先生だけではなかった。

 

「その時司令室にいたマリアに奏芽と、クリス先輩や夏凜先輩から、ちょ~っと………苦言を突かれちゃって」

 

 苦笑いする調からの話を纏めると、要は。

 

〝普段自分たちの言うことには渋って食ってかかる癖に、朱音の指示には素直に従うとはどういうことだ? お~い?〟

 

 意訳入っているが、大体こんな感じだ。

 

「次の訓練はいつもよりみっちり扱くのでそこのところ心の準備はしておくようにとも言われちゃった……」

「その様子じゃとことんみっちり扱かれそうだな」

「うん……」

 

 弓美が愛するアニメも、私や静音も嗜む特撮も含めたあらゆるチームものの物語において、よくいるだろう?

 勝つことなどに拘る余り、チームワークそっちのけで先走り、スタンドプレーに突っ走って痛い目を見てしまう問題児なキャラ。

 実は調と、切歌もだが、この二人で一人なシンフォギア装者のザババコンビは、戦闘に於いてはその手の問題児に該当する一面を持っていた。

 この二人、一見性格は正反対なようで、血気に逸り易く、前述の通り熱くなって突っ走りがちなところは似た者同士なところがある。実際今までの戦闘でも、マリアたちの指示を跳ね除けて独走してしまい辛酸を舐めさせられてしまう場面が何度も起きていたと、静音から聞いたことがある。

 

「なのに私の指示にはすんなり聞いてくれるよね? 君も切歌も」

「っ………」

 

 調の表情に、胸の内から明らかにドキッとした音が響いたのが見えた。

 

「ま、まあ………」

 

 見るからに目を、水棲生物ばりに右に左に泳がせてもいる。

 

「どう言ったら………あ、あやちゃんって歳は私たちと同い年だけど、戦闘じゃガメラだった頃入れるとベテランの中のベテランだから、聞き入れやすいと言うか、受けやすいと言うか……」

 

 明らかに、これは私を持ち上げて誤魔化す魂胆だな。

 それは敢えて追及しないことにして、改めて思い返してみても、先程のも入れて私からの指示(他にはリーダーの静音からのもだが)には、すんなり受容している方だった。

 この間の、日本政府からの指令――実態は風鳴家の長にして国枠主義の怪物な外道爺の無理難題も同然な差し金で進められた諏訪奪還作戦直前にて起きた、敵側の小手調べであった襲撃の際、まだ避難していなかった地元農家住民なおばあさんの安全確保の為、マリアから避難民の護送を指示された時も、最初こそ渋っていた癖に。

 

〝調、切歌聞こえるか? 状況は大体把握している、私たちのお役目の基本は、『危険に晒される命を守る』こと、戦闘は一手段であって目的じゃない、はき違えるなッ!その人を最も確実に助けられるのは、君たちなんだッ!〟

 

 指令所のモニター越しながら、状況を汲み取った私が通信で叱咤すると、二人とも一転して冷静になり、各々のギアの機動性を生かし、住民を連れて戦場から離脱したのだ。

 

「でも、マリアたちの指揮能力にも何ら問題はないんだし、もうちょっとは素直になってあげた方はいいと思うけど」

「う、うん………どうにか善処はしてみる」

「じゃあ私は黒鯛の臭みを取るから、ささみ肉のカットお願い」

「は~い」

 

 野菜を一通り切り終えた私は、肉は調に任せ、黒鯛の臭み取りの作業に入る。

 まず、臭みの大半の原因である滑りを取る為に塩を振りかけて――。

 

『さて皿の上のにはガイドのピーターが作った鹿肉の野菜炒め、山泉涼のキタカワヒメマス飯が火花を散らし合ってのご登場、果たして日本対カナダの勝負はこれいかに――』

 

 そこへ何の偶然か。

 今ラジオから流れている番組からは、あの土曜ドーでしょうを落語の小噺調で朗読すると言う趣旨のコーナーなのだが。

 タイムリーにも今日のはカナダでカヌーの川下りをしながらキャンプする回なのだが、レギュラーの天パータレントが、川で釣りたての淡水魚で作った魚飯なのだが………今まさに私がやっている臭み抜きを一切やらずに炊いたせいで、生臭さに満ちたお味となり、共演者スタッフ一同から酷評の嵐を受けていた。

 ご安心なさい、香川県民の方々と黒鯛たちの名誉にかけて、チヌ飯はとびきり美味しく作りますので♪

 

『こ~んどまたキタカワヒメマス飯みてえなもん作ったらはっ倒し~~の殴り倒しにしてやっからな!』

『仮にもそのデブリンチョな腹ん中に僕のキタカワヒメマス飯がいくらか入ってるってのに何だ? その口ぶりは~~』

 

 笑いのツボを刺激されつつ、私は臭み抜きを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 おっとしまった………そう言えば加賀城雀が何者であるかの詳細を、全然説明していなかったな。

 けどそれはまた次の――ってことにしておこう。

 食事時にするには、重すぎる話題でもあるからだ。

 

 ではまた次回。

 

 後編に続く。

 


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