GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
戦いにおいて『情報の使い方』も武器であることを知ってるからでございます。
愛媛を奪還し、浄化の儀も終えた私たち装者と勇者の面々はその日、次なる奪還先たる徳島県内の、既に開放地区となっている市街地の中にいた。
徳島の未開放地区の実態をリサーチする為の〝先行調査〟であり、私は、雪花と球子と彩奈と奏さんで構成された班(メンバー)で街を見回っている。
「さっきおいしそうなラーメン屋さんを見つけたんだけどどう?」
とは言え年頃のティーンエイジャーな私たちなので、一応調査であることは忘れぬ様留意してはいるけど、半ば徳島観光となっており。
「ここだにゃ、お昼はここにしない?」
我らラーメン党の一人である雪花が――〝いそたに〟――と暖簾に銘打たれたラーメン店を指差し、ランチはそこにしないかと提案してきた。
調べてみると、この店は徳島ラーメンのブームもけん引した、神世紀の時代でも徳島でトップクラスの人気を誇る老舗らしい。
「おぉ~~! うどんは好きだが、他の麺類を食べないわけじゃないからな!タマはいくぞ~!」
「そんじゃアタシも一緒に行こうかねぇ♪ 彩奈と朱音はどうすんだ?」
「当然、アタシも食べに行くに決まってるだろ♪」
「私も右に同じ」
満場一致で私たちは店内に入り。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「徳島チャーシューメンの大盛り白飯餃子セット」
「タマもだ!」
「アタシもそれで!」
「私は普通の徳島ラーメン唐揚げセットご飯少な目で、朱音さんは?」
「とんこつしょうゆ徳島、半チャーハンセット」
座敷の一角に座り込んでどれを食べるかお品書きを眺めていると、お冷と一緒に店員さんが注文を取りに来たので、お品書きにそれぞれ選んだラーメンを指差す。
店内を見渡すと、今日が休日でランチタイムな上に人気店なのもあって、他にもお客さんが来ているので、全員分来るまでに少し時間かかりそうだな。
「(ただいま)」
けど、たった今別件の調査から帰ってきたトトから〝報告〟を聞くには丁度良い。
「私の分が来たら教えて雪花」
「OK」
「(ごくろうさま)」
端末(スマートフォン)のアプリを立ち上げ、イヤホンでラジオ番組を聞き流す状態で私は、相棒の仕事振りを労う。
「(本庁の様子はどうだった?)」
徳島を観光がてら先行調査する傍ら、私はこの街上空を飛び回ってたトトに今日の大赦本庁の様子も見て来てほしいと頼んでいた。
余り本庁に近づくと霊感の強い幹部たちに気づかれる恐れがあるので、結構遠くの場所から、かつ赤嶺たちにも気取られない様、細心の注意を払った上での偵察であるし、ガメラであるトトの視力なら、今私たちがいる徳島の街から窺うくらい造作もなかった。
「(今日大赦に入庁した車の内、櫛名田家と篠崎家の車の他に、篩家、乃木家、上里家、伊予島家に球子の子孫が嫁いだ藤原家……)」
前に私の代わりにオブザーバーとして大赦の幹部会に参加した際、ちゃっかりトトには幹部たちの移動用車両の車種とナンバーを覚えさせておいた。
「(諏訪で見たのと同じ東京ナンバーな二課のセダンも来てた、十中八九〝あの人〟だね)」
トト曰くあの人とは無論、篩家当主夫人とは姉妹でもある、現特機二課司令――郡千明殿………彼女も本庁へ堂々のご到着と入庁か。
「(後……関東方面から通信用の電波が来てる)」
「(おそらく神野家辺りがリモートで参加……となれば、〝大赦十傑〟のメンバーがほぼ揃い踏みか……)」
《大赦十傑》
過去の静音――清美と奏芽と、銀達ら先代勇者の面々の親世代に当る………かつて幼少期から勇者または巫女としての資質を見い出され、ともにその過酷なお役目に身を置き、誠意瞬時代を駆け抜けた方々十人を、大赦では御大層にそう呼んでいるが、分かり易く喩えれば、元勇者と元巫女だった者たちで構成された後援会みたいなもの。
この傑物たちがそう総称されていることを私が存じているのは、静音からの説明で聞き、また大赦の記録にもこのことはほぼ検閲されずに記載されていたからだ。
「(先代勇者OG集合にしては、同窓会って感じじゃなかったけど……)」
なぜ私とトトが今日大赦本庁で、その幹部たちの会合があると推測していたかと言うと、今日の徳島の先行調査には、この結界(せかい)でも歌手業をこなしてる翼やマリアもスケジュール調整と変装で参加していながら、肝心の実働部隊たる私たち勇者と装者と、そして巫女たちの指揮役に相当する静音と琴音と奏芽が、大赦絡みの別件で来られないと言う〝事情〟に引っかかりを覚えたから。
その〝別件〟の為に大赦本庁に赴かなければならない以外に、静音たちは詳細を司令たちSONGにも明かさず、しかしその秘匿する態度から却って明らかに〝訳あり〟な用件だと容易に推察できたので、調査の傍ら遠間から本庁周辺の様子を窺っていたら……案の定だった。
「(まあそれも兼ねてそうだが、本題はあの外道の愚行絡みだろう……現櫛名田家ご当主も参加の上で)」
仮に私たちの推理通り、櫛名田桔梗(多分、第一高射台に送られていたサクリスト弾頭)と十傑たちの非公開(オフレコ)な会合だったとして、お題は明白に風鳴訃堂の………一言で表すなら〝国防〟を言い訳にした蛮行に関する対策だろう。
店内のテレビを見るとニュース番組が流れており、先日の件で現内閣と与党に対し、理性的だけど厳しい態度で批判する野党党首のインタビュー映像が映されていた。
静音が強硬手段を取らざるを得なかった諏訪奪還の件と良い、首都圏と目と鼻の先な東京湾上に出現した大型バーテックス相手に核兵器と同等以上の対特異災害戦略兵器――《サクリスト弾頭》に使用しようとした件と言い………あの外道のやり口は事態の悪化しか生まない、正気の沙汰からほど遠い、手段を選ばぬ狂気に満ちた凶行そのもの。
このまま奴を野放ししていたら………日本の国土と国民どころか……次元(せかい)が幾つあっても足りないし………造反神の猛威からこの世界を救うこの戦争を勝ち抜く上………あの外道は最大の〝戦場の摩擦〟だ。
〝事なかれ主義〟の毒が染みついた大赦とて看過できぬこの問題に対し、いくら今は風鳴家傘下な筈の郡家も一連の外道の蛮行には関与していないと証明する意図を込みでわざわざ東京から大赦本庁まで遠出した千明司令含め、十傑のメンバーのほとんどが招集されたなると………。
「(この数日の間に、あの外道はまた何かやらかしたのかもしれない)」
「(あの御仁の指示で、風鳴機関が大赦の重要機密を盗もうとクラッキングした……みたいな?)」
「(充分、あり得るね)」
外道当人含めた風鳴機関をこの戦争を一切合切関わらせない……長期的な〝策謀(プラン)〟は必至だと考えつつも、トトの認識操作の結界内にて私、周囲からはラジオアプリで番組を聞いている風に見えている裏で……端末に保存されている今までの各戦闘の推移記録の俯瞰図を見直していた……特に、比良坂真矢の動向を重点的に。
やっぱり、真矢(イリス)の動きには前世からの宿敵たる私への戦意敵意以外にもう一つ、共通点がある――と、感付き、そろそろかなと思ってスマホのアプリを閉じると。
「朱音さんの分が来たよ」
「ありがとう」
丁度良く、最初に注文したラーメンセットが来て食し始めていた雪花から、自分の分が運ばれてきたと連絡を受け。
「お待たせしました、とんこつしょうゆ半チャーハンセットの方は?」
「私です」
挙手した私は、とんこつの濃厚な香りが煙と一緒に立ち昇り、黄身がセンターを陣取るラーメンと半チャーハンのセットが乗ったご膳を店員から受け取り、小皿にトトの分の麺と具とスープを入れ。
「いただきます(いただきま~す)♪」
今はランチを堪能時と気分を切り替え、まだ熱々の内に私たちは割りばしを割って食し始める。
醤油の酸味と混ざり合い、程よい濃さなスープと黄身は細麺と絡み合い、すすると口の中で美味しさが広がっていくのを感じながら、私もトトも笑顔でランチタイムを楽しんでいた。
「もう!どこ行ったのかしら!」
ラーメンでお腹を満たし終えたばかりの私たちがお店を出ると、過去の静音(清美)と奏芽が焦った様子で街の中を走っているところに出くわす。
確か清美たちの班には……それで大体事情は分かった。
「ありゃ? どうしたのお二人さん」
私たちを代表して雪花が尋ねてみると、予想通り清美たちと一緒だった筈の、先日召喚されたばかりの防人部隊のサポーターだった頃の過去の亜耶ちゃんが行方知らずになったらしい。
「亜耶はしっかりしてるからさ、直前に端末か何かにメッセージでも入れてないか?」
「あ、はい、確認してみます」
彩奈のアドバイスで清美は《NARUKO》のメッセージ画面を立ち上げると、『いい掃除用具を見つけたので暫く見ています』と亜耶ちゃんからの伝言(メール)が送られていたと言う。
亜耶ちゃんが入店したらしい掃除用具店の場所を調べてみたが、現在地からそれなりに離れた場所にあった。
「迎えには私が行こう、清美たちは予定通り次の地区で調査継続をしておいて」
「分かりました、国土さんをお願いします」
まだ徳島は未開放地区の方が圧倒的に多く点在しており、万が一亜耶ちゃんが足を踏み入れてしまう可能性もあったので、私は彼女の迎えと同伴を買って出て、清美たちは次の調査地区へと向かっていった。
「(トト、亜耶ちゃんはまだ例の掃除用具店の中かい?)」
「(うん、商品に無我夢中だから、今から行けばすぐに合流できるよ)」
「(Roger(了解)、念の為の用心で目は離さないでね、開放地区とは言え何が起きてもおかしくないから)」
「(りょうかい)」
トトに念を押した私は、端末のアプリで見た地図で現在地から目的地までの最短ルートを頭で瞬時に割り出し、その道に沿って街の中を走っていくと、例の掃除用具専門店――『くりーにんぐ本舗』に着いた。
「(こっちこっち)」
入店するとトトが手招きをし、周囲のお客と店員に怪しまれない様に気をつけて頷き、相棒の案内で亜耶ちゃんが今いるエリアまで行くと。
「おっそうじ~おそうじ~♪」
文字通り〝籠の鳥〟な境遇の身だっただけあり、本人にとっては未知なる掃除用具の数々を前につぶらな瞳は一層煌いた笑顔で店内の商品を手に取り、どう使うのか想像力を駆使して眺めている亜耶ちゃんの姿が目に映る。
見ているだけで微笑ましく、心がほっこりする愛らしい光景を前に見惚れかけたが、そんな贅沢も言っていられないぞ――と、私は自分に言い聞かせ。
「(あんなに楽しそうに物色していると、中々話しかけづらくて)」
「(その気持ち、分かるよ)」
トトの発言に同意しつつも、私は亜耶ちゃんの下へと近づき。
「お客様、こちらの商品の使い方をお教え致しましょうか?」
「は、はい!お願いします―――」
店員の振りをして話しかけると、亜耶ちゃんは普段のおっとりな雰囲気から想像し難い素早さで振り返ってきた。ちなみに過去の亜耶ちゃんからは私も〝さん付け〟で呼ばれており、できれば現在の彼女みたいに〝ちゃん付け〟で呼んでほしいのだが……その気持ちは抑えて相手が一番呼びやすい呼び方を尊重させている。
この頃の彼女では、元〝神様〟である自分相手にちゃん付けはハードルが高過ぎるだろうし。
「――って、朱音さん!?」
「迎えにきたよ亜耶ちゃん」
一瞬私を本物の店員と思い込んでいた亜耶ちゃんはようやく我に却り、私は少し屈んで彼女と目線を合わせる。
「清美たち置手紙のことに中々気づかず、急にいなくなった君を探しててんやわんやだったね」
「すみません……見るのが初めてな掃除用具がたくさんありまして、でも調査中の清美さんたちに迷惑も掛けられず、ついNARUKOの機能に甘えてしまいまして」
案の定、自分の欲求と敬愛する勇者装者のメンバーを患わせたくない気持ちの狭間で揺れた結果、メッセージを使うに至ったのだと、 ぺこぺこ繰り返し頭を下げて詫びる彼女の様子から窺えた。
「まあ何ごとも無かったから、私は気にしてないし」
この件は大赦神官たちには報告しないよう、静音らと根回ししておこう。
特に亜耶ちゃんたちの一応実母に当るが……正直毒親が過ぎる国土愛衣夫人には……絶対に報告できそうにないし、したくない。
でも戦闘能力のない巫女たちに何かあっては遅いので、単独行動はさせない等といった対策を静音たちには相談することにして。
「次にこう言う機会があった時は、私とトトが一緒に付き合ってあげるから」
「(うんうん♪)」
「はぁ~~ありがとうございます♪ その時は使い方もご伝授頂けますか?」
「もちろん♪」
次は一緒に掃除用具巡りをする約束を交わし、私たちは店を出て。
「何かめぼしい用具は見つけられた?」
「それが……あれも良いな~これも良さそう~~と、目移りばかりしてしまって、結局選べませんでした」
「そっか、でも時間なんてたくさんあるんだし、さっき約束した次の機会に選んだらいいよ、その時までに回れるお店の数は増やしておくから」
端末で現在仲間が調査している地点(ポイント)を確認し、そこへ向かいながら。
「そのためにも、キッチリ徳島を開放していきませんと」
「そうだね、お互い頑張ろう♪」
「はい♪」
亜耶ちゃんと雑談を交わし合ったり、景気づけにハイタッチしたりしていた。
勿論、造反神からの差し金にも対処できる様、気を配ってはいたんだけど。
「なっ!?」
「――ッ!?」
なんて………迂闊。よりにもよって、一番鉢合わせたくない相手と真正面かつ……開放された街の真っただ中にて鉢合わせてしまった。
比良坂真矢――イリスと、トトがガメラとして最初に戦った敵にして奴の精霊――ジータス、私たちガメラの宿敵たちに。
まあそれは、向こうも同様であり。
「草凪朱音っ!?何でアンタたちが徳島(ここ)にいるのよ!?」
「生憎私も同じことが言いたいね!比良坂真矢!」
どうやら私たちも奴らも、なまじ油断すまいと気をつけ過ぎていたのが裏目に出て……こんなシチュエーションで遭遇するとは、この瞬間まで予想の埒外にいたらしい。
「まあいいわ!〝ここで会ったが何とやら〟よッ!」
「それはこちらの台詞だとも言わせてもらおうッ!」
だが今は、私自身のミスと、警報どころか自分と亜耶ちゃんに神託の一つも寄越さなかった神樹様と、仮にも敵の筈の私たちが近づいている状況下で真矢たちに何の警告もしなかった赤嶺友奈と造反神どもの今日の采配に関して、追及する時間は微塵もない。
こっちには亜耶ちゃんもいる上に、向こうは戦闘に移ろうとしている……正直樹海外で戦端を開きたくは無かったが………真矢(イリス)含め造反神(やつら)には亜耶ちゃんに指一本触れさせはしない!
〝Valdura~――〟
〝Aegias~――〟
その意志を胸に、相手と同時に聖詠を唱えだした矢先。
「お二人とも待って下さい!」
「亜耶ちゃんッ!?」
「ちょッ!? アンタどういうつもり!?」
その亜耶ちゃんが変身しようとしている私たちの間に割って入り、聖詠が中断されるくらい私たちは驚愕し、唖然させられた最中。
〝~~~♪〟
あわや戦闘が起きかけたこの場に、空腹の虫の鳴き声が響いた。
「はぁ……敢えて聞くけど亜耶ちゃん、今の音を鳴らしたのは君のお腹だよね?」
「はい………お昼ご飯を食べるのも忘れちゃうくらい夢中になっていたことに、私も今気づきました」
気まずそうにお腹を抑えて苦笑いする亜耶ちゃんは私の質問に応じ。
「もう……今ので完全に興が削がれたわ……」
比良坂真矢も、今の音色ですっかり戦意を失せてしまっていた。
「そのようだ、ところで真矢、今日ここで会ったことは無かったことにしてこの場を収めたいんだが、どうだ?」
「奇遇ね、丁度私もそうしたかったの、たとえ宿敵(アンタ)相手でもこんな人だらけの場所で戦って………京都の時みたいな大災厄を再来させる真似は、私だって二度と御免よ」
「Agree……(賛成だ)」
ランチを取るのを忘れていたことも忘れていた亜耶ちゃんの空腹の音色のお陰でお互い思考(あたま)が冷えた上に、幸いにも前世の死闘の再現をしたくない意図が合致したのもあって、結果的に徳島のこの街が戦場になる事態は回避されたのであった。
それから数十分後――私と亜耶ちゃんたちと、真矢たちは、立場上敵同士でありながら……この徳島の街の一角にある軽食店内の席に差し向かいで腰かけて、チャーハンを頬張っていた(私はランチを取ったばかりなので、少な目)。
なんでこの状況に至ったかと言うと………既にほとんどの飲食店は昼の営業を終えた時間帯な上に、真矢と遭遇した地区は中心街から離れたところで周辺にはファーストフードの一つも見当たらず、どこで亜耶ちゃんのお腹を満たすか困っていたところに。
〝ねぇ、なら私が今バイトしてる店が近くにあるけどそこでお昼を取らない?今日私は非番だけど、話くらいは付けてあげられるわ〟
一度その足でアジトに帰ろうとしながらも、そんな私たちを見かけたらしい真矢が、思わぬ〝敵へのお塩〟を届けてきたのだ。
前世の宿敵かつ現在も敵対してる身なので、当然真矢の提案に対し反射的に疑念が胸の内に沸いたが、奴にとっても予想だにしてなかったらしい先の私たちと遭遇した瞬間からの態度を思い返しつつ様子を探ってみた辺り、この提案に〝謀略〟の意図が一切感じられなかったし、バーテックスドローンを通じた赤嶺の監視の目も、造反神の配下(バーテックス)と樹海の出現に、その予兆たる〝世界の静止〟と樹海化警報が鳴る予感も気配もなかった。
〝良いだろう真矢、お前の折角の提案、乗ってやるさ〟
私としても空腹の虫がまた鳴りそうな亜耶を右往左往させたくはなかったので、真矢の提案に乗ることに決める。
少なくとも赤嶺はこれらの事態を把握どころかこの徳島の街周辺にもいそうにないし、リーダーたる彼女があずかり知らぬからこそ、真矢もこの思い切った計らいを提案したのだろうと窺えたからだ。
〝決まりね、それじゃ案内するわ〟
先導する真矢に着いていく形で暫く歩いて段々市街地中心から離れていく中、奴の言う〝バイト先〟らしい軽食店に着いたが………その店も既に昼の営業を終えていた。
けど店主のおばさんは気前良く厨房を貸してくれたので、雇い主のご厚意を受け取って調理の準備をし始めた真矢に対し。
〝手伝おうか?〟
〝えっ!? 何のつもり?〟
私は自ら手伝いを申し出た。
〝別に、他意はない……と言われたら嘘になるから正直に言うと、一応お前がおかしなことを企まないかの監視さ〟
さすがに自分からランチを振る舞うと提案した上に、店主のおばさんの気遣いを無碍にしてまで騙し討ちする気を、今の真矢からは感じられなかったが……亜耶ちゃんの命も預かっている身でもあるので、仮にも敵対している奴を前にして気抜けするつもりもなく、相手に調理と私への注意以外に意識を向かせない様に、こうして堂々と監視する意図もあると伝える。
〝あ、そう……ならご勝手に、けれど手伝うっていうのならほら〟
〝Thanks(どうも)〟
真矢は下手に断るのも面倒くさそうに〝仕方ないわね〟と言いたげな表情でこのお店専用のエプロンを素っ気なく投げ渡してきた。
〝わぁ、すごいです朱音さんも比良坂さんも〟
そうしてお互い、怪しい行動を起こさないか見張り合いながら、腹を探り合ってると気づいていない亜耶ちゃんから、今日も天使の如き眩しい笑顔で感心と称賛の言葉を贈られる程の我らながらの手際の良さで、この軽食店の看板メニューである特製チャーハンができあがり。
「「「いただきます」」」
前世(むかし)の自分たちが見たら天地が一変する域で驚愕間違いなしの、かつての宿敵同士、差し向かいでランチを食べる時間が始まった――までに至る。
私はもうラーメンチャーハンセットと言う高カロリーなランチを食べたので、量は半チャーハンより少なめ、その分女子の悩み事を持たないトトが多めに食べることで帳尻を合わせた。
「(かぁぁぁ~~~うめぇぇ~!!)」
「(うん、とっても美味しい♪)」
トトは礼儀正しく、反対にジータスは豪快さたっぷりにレンゲを手にチャーハンを食すも、美味しいと言う反応は一緒で。
「(おお~~初めて意見があったなぁ、トト坊!)」
「(君と同じ感想なのは、正直癪だけどね)」
「(はっ! 言ってろ! どの道うんめえことに変わりねえんだからよ)」
「(まあそこは僕も認めるよ)」
片や守護神の継承者、片や宿敵の遺伝子を継ぐ者として戦い合った中とは思えぬ、喧嘩友達な微笑ましいトトとジータスのやり取りを眺めながら、私もチャーハンを食する………自分もある程度手伝ったとは言え。
「どうお味は?」
「美味しいです、ありがとうございます」
トトも亜耶ちゃんも率直に舌鼓を打ったのも納得の美味しさで、内心料理面でも真矢には負けられないとライバル心の火が点いてしまったが。
「まあ、食べられないほどじゃないな」
「はいはい、どうせアンタからは塩対応されると思ってたわ」
せめて真矢には絶対悟られまいと、表向きはポーカーフェイスのまま涼しく淡々とレンゲで掬ったチャーハンを口に入れ続けた。
みんなほぼ同時にチャーハンを食べ終え、調理の傍ら淹れたお茶で一服する時間に入った中、私は真矢と食器の片付けをしながら。
「そういえば、顔を合わすたびに戦ってばかりだったからか、お前とキッチリ腹を割って話すなんて機会はなかったな」
と、切り出す。
「何よ藪から棒に……」
「何、なんとなくさ」
今日は一切戦闘をしないと〝休戦協定〟を結び、そのことを赤嶺友奈は存ぜず、造反神も横槍を入れる様子を見せてこないので、このチャンスを逃さない手はなかった。
前世では私(ガメラ)も真矢(イリス)も、相手への憎悪剥き出しで殺しあった仲で、人に転生した今でも少しばかり因縁の残り香を引きずってはいるものの………今の私たちは立場上、対立している神同士の代理として戦っている身。
〝京都の時みたいな大災厄を再来させる真似は、私だって二度と御免よ〟
それに実際に幾度の戦闘と、さっきの遭遇時含めた奴の言葉の数々を思い返す辺り……比良坂真矢にとって、自らを進化させる為なら孤独な少女の心の隙を突き弄ぶ鬼畜外道だった頃の柳星張(じぶん)のことは、忌むべき存在と見なしているのが窺えたし、バイト先のおばさんの態度から見ても、今の彼女は明らかにあの頃とは程遠い〝人となり〟であることは、私から見ても分かる。
その上で私の推理が正しければ………真矢は平行世界の勇者部のメンバーの一人かつ、一時は神樹様に選ばれた〝勇者〟だった筈。
となれば――。
「単刀直入に聞くが、なぜおまえは造反神の側に与しているんだ?」
奴が造反神側に雇われ、自身もかの神に与することを選ぶに至る相応の事情と経緯があったのは明白だ。
「言っておくが、ただそうなっているだとか、造反神に召喚されたからだとか、そうした在り来たりな言い分を聞く気はない、私の質問の意図は、お前が今そうして戦う理由は何だ?――ってことだからな?」
「つまり、私が造反神に呼ばれて、赤嶺たちとつるんでまで戦う理由を知りたい――ってことでいいのかしら?」
「ああ」
はぐらかされないよう先手で予防線を張った私に対し、真矢は溜息を一つ吐きつつも。
「分かったわ……アンタのお望み通り聞かせてあげるわよ」
こっちの予想より、思いのほか素直に真矢は了承を示し……かつての宿敵は、比良坂真矢と言う人間に生まれ変わってから、造反神に召喚されるまでの身の上話を、打ち明け始めた。