GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 作:フォレス・ノースウッド
「よ~しできた♪」
夏のある休日、その日の私は住まいのマンションの部屋でガンプラ――オリジナルガンダム作りに勤しんでおり、丁度今組み上がった。ベースにしたガンプラは、私がアメリカで最初に見たガンダム作品である『新機動戦記ガンダムW』に登場するガンダムエピオンの、いわゆるEW版の方である。
名前は――『ガンダムエピオンG』と名付けた。Gは勿論私の前世(ガメラ)の頭文字からだ。
元の機体は劇中のエレガントなボス兼開発者本人の信念の反映で、武装は接近戦用のみと言う設定(本人の言葉を借りれば『ガンダムエピオンは兵器ではない』)なのだが……そんなガンダムのプラモに思いっきり私は射撃武器(とびどうぐ)を盛り込んでいる………まあそこは個人の趣味嗜好による娯楽なのでご愛嬌。
改造点を幾つかリストにして述べると――。
機体装甲の血の色に近かった赤のパーツを鮮やかな紅緋色がかったカラーに塗り。
両腕前腕をシナンジュの様にビームサーベルを収納させ。
ウイングガンダムゼロの牽制用機関砲《マシンキャノン》を付け。
両肩のパーツを紅緋色にしたトールギスⅢのものに差し替え、同機の主武装たる《メガキャノン》と《ヒートロッド付属シールド》を装備、シールドも表面にガメラの甲羅模様を描き込み、鞭戦端を挟み込む形でアルトロンガンダムの連装ビーム砲を盛り込み。
ウイングゼロと同等の推力と機動性を齎す主翼(エピオンウイング)には、漫画版『敗者たちの栄光』で登場したエピオンの追加兵装《シュトゥルム・ウント・ドラング》のパーツを組み合わせ、攻防一体の機能を付加させ。
近接戦のメイン武装をビームソードからアルトロンのツインビームトライデントに変更させた。
――とまあこんな感じに、元のエピオンの持ち味を損なわず、私の前世と、前世で戦った怪獣たちの能力に近い武装と機能を織り込んで遠近両用のオールラウンダーな機体へと様変わりさせた。
「さてと、今日はどんなミッションが新規追加されているかな?」
草凪朱音(いまのわたし)が生きている地球では、フルダイブのVRゲームが普及しており、その中には自分の作ったガンプラを実際に操縦して、歴代ガンダム作品劇中の場面を追体験できるものもある。
そのゲームを嗜むユーザーの一人な私はできたてのガンダムエピオンGで、本日のアプデで追加予定の舞台(ミッション)で早速一遊びすることにしていた。
「『ヴァリアント防衛ミッション』か……」
その中には、最初は小説として世に出て、約三〇年後に劇場アニメ化もされた閃光のハサウェイ出典のものもあり、内容は原作では撃沈されてしまう『反地球連邦組織マフティー』の支援船(小説内では支掩船)にして鉱物運搬船を、マフティー掃討部隊『キルケ―ユニット』の攻撃から守り抜くと言う内容だった。
「これにしてみるかな」
ステージボスにミノフスキー・クラフト搭載機ペーネロペーがおり、相手にとって不足なし、私はこのステージを選択し、VRゴーグルを付けてベットへ仰向けに寝込み、ゲームの中へと入り込んでいった。
選択した新ミッションに入る前に、チュートリアルモードで組み立てほやほやの《ガンダムエピオンG(ガメラ)》の鳴らし運転。
チョイスしたステージはオーストラリア大陸、南端から北端まで砂漠を縦断だ。時速一〇〇キロ以上出すとバーストしかねないレンタカーを使うよりはまだ容易――なんて余談はさておき。
この自身の手で改造されたガンプラをそのまま遊べるガンダムシリーズのVRゲームの魅力をもう一つ挙げるなら、コクピットも自分好みにデザインできると言うこと。
宇宙世紀以外のMSに全天周モニターとリニアシートの搭載は当然できるし、その逆にアナザーガンダム作品群のMSを敢えて一年戦争時のコクピットで操縦することも可能(さすがにコアファイター系の機能が付いた機体であったり、ガンダムXらサテライトシステム搭載機となると改造の自由度は落ちるけど)、コンソールや操縦桿などの部品も細かくカスタマイズできるし、原作同様全天周モニター画面のCGの質をも調整できる。
私はと言うとリニアシートとコンソールは元々連邦系であるシナンジュのものをチョイスしつつも、操縦桿はネオジオンサイコミュ搭載型にしつつも、ナラティブやヴィクトリーに採用されているコントロールシリンダーよろしくグリップを三六〇度回転できる仕様にした。
これは開放感を味わいながら空を飛び回りたい私の好みでもあるけど、元のエピオンのコクピットは射撃武器がないので操縦桿にトリガーや火器管制ボタンが付いていない事情もあったりする。
そんなオリジナルコクピットで、オーストラリアの砂漠の大地の上にてエピオンG歩かせたり、ゼロフレームの可動域の高さを生かして体操させてみたり、軽くスラスターを付加して、上昇と降下を繰り返したりと準備運動を経て。
「MA形態(ワイバーンモード)へ移行」
いよいよ蒼穹へ向かって機体を高度一万メートルほどまで飛翔させると、音声入力で飛行形態に変形させた。
おっと、さっきは言い忘れていたけど、一番アレンジが利いているのはこの《ワイバーンモード》だったりする。
膝から下の両脚の装甲はウイングゼロカスタム(膝部分は黒、それ以外は紅緋色の配分でカラーリングさせた)のものへと差し替え、これも足回りのスラスターをこれまたシナンジュ風味で増設。
背中にはガンダムキュリオスの機首パーツを取り付け、機首先端は口端に前世(ガメラ)の牙が生えたドラゴンの顔に見えるよう配色を加えた。
そしてワイバーンモードへは、両腕は元のエピオン同様手を引っ込め前方に突き出し、背中の機首が展開、下半身はゼロカスネオバード風に折り畳まれ、シールドは原典同様腰に装着し、ガメラの飛行形態のように空力制御用でヒートロッドが尻尾のように伸びる――とウイングガンダムズのバード形態に近い姿となった。
しかし機首のデザインとエピオンクローとヒートロッドで、鳥よりも形態名の通り飛竜に近い見た目となっているエピオンGのスラスター出力を少しずつ上げ。
「いざ、縦断開始~♪」
――を合図にスロットルレバーも兼用している操縦桿を、ガンダムW後半OPのウイングゼロを駆るヒイロよろしく押し出し、急加速したエピオンGは眩いオーストラリアの空の海の中にて大気の壁を潜り、音速を超えるスピードで、時に曲線に、また時に稲妻状に軌道を変えたりして駆け抜けていく。
コンソールのモニター内の速度計は、『Mach 3.5』と表示されており、前世の自分並の速度に到達。
実は主翼(エピオンウイング)には、ビルゴのプラネイトディフェンサーやデスサイズヘルのアクティブクロークにも使われているマイクロ波を用いた電磁シールドを形成して敵の攻撃から防御する機能も付加させているんだけど、これの応用で機体前方をフィールドで覆い、空気抵抗による厚みと摩擦熱を相殺、加速時のGの衝撃も緩和することで、ゼロシステムを用いずともトールギスを超える殺人的な加速力を維持させたまま音速越えを、仮想空間内とは言え実現させていた。
地上を見下ろせば、もう北オーストラリアの海岸線を越えて縦断し終えており、今度はゆっくりと安全運転で速度を落として旋回、ミッション本番に備え『閃光のハサウェイ』の舞台(ロケ地)を、このエピオンGのスピードと機動性で一通り見回る。
我ながら会心の出来、肩慣らしはこの辺にしてミッション本番に入るとしよう。
「ポーズ」
と、一言挙げると宙に表示された3Dタッチパネルを操作し、私はゲーム本編へとダイブした。
このフルダイブVRガンダムゲームは、その特性を生かして仮想空間内で再現されたシリーズの物語――いわゆるムービーパートをプレーヤーが直に追体験するモードを選択することも可能だった。
勿論、ムービーパートをスキップしてプレイ本番に入ることもできるけど、私はせっかくなので、ハサウェイ・ノア率いるマフティー実働部隊のメンバーにしてもう一人の〝ガンダムパイロット〟と言う体で物語世界の中にいる。
原作小説なら中巻の『ディパーチャーフロムダーウィン』のパート、オーストラリア北部の港湾『ビノエ・ハーバー』の西側にある名無しの入り江に迷彩で隠れ潜む形で停泊しているヴァリアントが、支援部隊から補給を受けている最中の頃。
その支援物資の運搬作業を、エピオンGに乗る私は行っている。
向かいから、この物語の主役機であり、次の物資を取りに行くところのΞガンダム(今乗っているのはハサウェイではなく、別のパイロットが操縦している)とすれ違う。ご覧の通り武装組織としてのマフティーの台所事情はお世辞にも豊かと言えず、原作同様に補給作業には部隊の切札である筈のガンダムも駆り出されるくらい余裕がない。
プレーヤーによっては退屈に見えるかもしれないが、私はかの特撮TV番組のナレーションを引用して、文字通りに『不思議な時間に入っていく』感覚で作品世界に没入できる仕様が気に入っていた。
それに最初から軍事兵器として開発された宇宙世紀のものと違い、AC(アフターコロニー)世界のMSは元々スペースコロニー建造作業用のパワードスーツ、つまりは産業機械の一種だったので、この物資運搬作業はある意味で先祖帰りしたとも同然だと思うと、にやけてくるくらいにやりがいがある。
傍から見ると、結構シュールな光景に見えるかもしれないけど。
「やっぱり大きいな……ΞGってさ」
次の物資を取りに行く途中でまたΞガンダムとすれ違った私は、改めてかの機体のサイズをまざまざと感じる。
『お~い〝ティルダ〟』
「なんだい? せっかくガンダムに乗る名誉をもらい受けたのに浮かない顔だ」
直後、ΞGに乗るNPC(パイロット)から通信が来た。
ちなみにティルダとは私のミドルネーム兼このガンダムゲーム内でのハンドルネームである。
『どうせなら……エピオンだっけ? ティルダのイカした赤のガンダムに乗りてえな、Ξはでかいし――』
《マフティー動乱》が起きたこの時期の宇宙世紀製MSは大型化のピークを迎えており、特にΞGやペーネロペーら《ミノフスキー・クラフト》搭載の第五世代MSは、当時の技術力の限界って奴の事情云々で全高三〇メートル前後にまでサイズが肥大化していた。ここまで来ると元身長八〇メートルの怪獣だった自分から見ても最早怪獣の域、おまけにΞGのデザインがハサウェイの矛盾だらけで破綻した心象風景(ないめん)が反映されたかのような歪さと禍々しさのある劇場アニメ版仕様なのが拍車をかけていた。
対してAC製MSの大きさの平均はF91ガンダムら第二期MSより一回り大きい程度、エピオンでさえ頭頂高一七.五メートル、ΞGたちと並ぶと親子並みのサイズ差があり、後の小型化の流れに移るのは必然と言えよう。
『操縦桿は時代錯誤のアームレイカ―だし、何よりマフティーのガンダムだからプレッシャーでヒヤヒヤもんよ』
劇場版ΞGの操縦桿は、第二次ネオジオン戦争頃に採用されたが、パイロットたちから『手が滑り易い』、『もし手が怪我でもしたら操縦自体できない』と不評続出してすぐに廃れたアームレイカ―式、おそらく初めて乗ったMSがその時期のジェガンだったことと、第五世代機のガンダムタイプを扱うには、前述のデメリットを踏まえた上で操作性の高さと言うメリットを取ったハサウェイの意向だろう。
「生憎私のエピオンも小柄なサイズに見合わぬ〝じゃじゃ馬〟だ、それに丁度おいでなすったぞ、南瓜頭(フェイクマフティー)のリーダーさんらが、気は抜くな」
『あいよ』
NPCと会話しつつも作業の手を緩めず周囲を見渡していると、地上にいるハサウェイと彼の参謀兼ヴァリアントの副艦長イラム・マサムが着陸したばかりのヘリから降りてきた人物らを出迎えている。
彼らは勝手にマフティーの名を騙ってオエンベリで決起した武装集団《オエンベリ軍》(上巻冒頭にて軍資金目当てにハウンゼンをハイジャックし、当のマフティー本人に手痛くお仕置きされたテロリストたちもこの組織のメンバーである)のリーダーと参謀。
この時点では目的が同じと言うことで本物のマフティーと協力関係にある………まあ乱暴な言い方をすれば、どちらも反政府組織(テロリスト)なあることに変わりないどっちもどっち、マンハンターどもを配下に置く刑事警察機構調査部部長のゲイス・H・ヒューゲストが言ってたが……そこに『本物も偽物も関係ない』。
『待っていたよ』
『まさかこんな僻地でモノホンのマフティーと合流できるとは思っていなかったぜ』
ムービーパートである為、ゲームの仕様(えんしゅつ)で全天周モニター内にモニターが現れ、プレーヤーの私は画面内に映るハサウェイたちのやり取りを鑑賞させてもらえた。
『それで、用件は?』
『〝下駄〟を二機貸してほしいのさ大将のマフティーさんよ、そうすればダーウィン空港の制圧をお前さん方の手土産にできる』
オエンベリ軍の長がわざわざ出向いてきたのは、基地と隣接しているダーウィン国際空港を攻略したいのでマフティー側が保有しているMS移送用航空機(ベースジャバー)――通称下駄を、七機の内二機を借用してもらう交渉の為だった。
『ご覧の通りこちらも、ガンダムたちを作業に使役させるほど、マシンの余裕がないのだがね』
ハサウェイは作業中の愛機(ΞG)を指差して、マフティーの差し迫る懐具合を自虐する。
ゼータガンダムら飛行形態持ちを除き、人型のまま大気圏内を単独で長距離飛行できるMSは、宇宙世紀ではΞGたち第五世代機が初めて、加えて可変機は開発にも整備にもコストが掛かるので、大半のMSが〝重力の井戸の中〟で長距離移動する場合、ベースジャバーらサブフライトシステムが欠かせないのだ。
向こうからは『七機もある』でも、当のマフティー側からは『七機しかない』。
ガンダム含めたMS本体もサポートマシンも、さらに人員込みで、マフティーの戦力はその全てが〝虎の子〟と言っても過言ではない。
とは言え、ここでオエンベリ軍の頼みを渋って折角の彼らとの同盟関係をお釈迦にするわけにもいかなかったので。
『まだ諸君らが元気であればの条件が付くが、これからすぐにダーウィン空港を襲撃、それとこちらの陽動作戦にそちらの人員三〇人ほど貸してもらいたい』
『ここからすぐにダーウィンを分っ叩けって? やけに性急じゃねえか』
『日中の今にダーウィンを攻撃できれば、我らが泡を食っていると敵に思わせられます、ここで補給作業があったなどと悟られずに済むでしょう』
『なるほど、目眩ましの時間稼ぎは、確かに必要だな』
ハサウェイとイラムは交換条件とメリットを提示し、それに応じてくれればベースジャバーを貸し与えられるとオエンベリ軍リーダーに伝え、彼は納得したことで交渉は成立し、その模様を私に見せていた画面は閉じた。
さて、まだヴァリアントに箱無物資が残っているので、運搬作業を続ける。
ミッション本番まで、まだもう少し先だ。
物資運搬作業を終えた私は、ヴァリアント船内片隅で休息を取りながら私のガンダムエピオンG(ガメラ)と、ΞガンダムにメッサーらマフティーのMSが、うつ伏せの補給と整備中の模様を眺めていた。
空調環境の悪さもきっちり再現されている艦内は暑く、私はノーマルスーツの上半身部分だけ脱いで水分補給、映画のマ○リックス並みにVR内でも飲み食いできて味もちゃんと感じられるのは、技術の進歩さまさまだ。
ちなみにその整備員の一人で、原作小説では堂々とよく上半身を露出して作業していたジュリア・スガは、さすがにゲームのレーティングの都合で劇場アニメ版同様タンクトップ止まりである(それでも十分『悪いおっぱいじゃない』のは分かる)。
「ティルダ」
そこへ作業進行具合の確認に格納庫へ訪れたNPC(ハサウェイ)が私(ティルダ)に話しかけてきた。
「準備は?」
「私はエピオンの整備が終わればいつでも、けどアデレード会議に出席する閣僚を一網打尽にするには……もう少し戦力(MS)が欲しいところだけどね」
「検討に入るだけでも来年になるな、その申告は」
肩をすくめるハサウェイ。
仮に原作の末路と違ってアデレードでの決戦を勝ち抜けたとしても、組織(マフティー)がその来年に存続できるなんて保障は皆無だと分かっているだろうに………おっと、これはあくまでゲームだ。
とは言えこういうゲームの仕様だからこそ、物語を間近で堪能する上でやり込めることはやり込んでおきたいので。
「それと、君にもケリアのことで頼んでおきたい、また暫く会えなくなるから」
「それぐらい自分で言いなさいな、いくら偶像(マフティー)のプレッシャーで余裕が無くてもさ」
と、頭でっかちで、心が――〝死人に引っ張られている〟――ハサウェイ・ノアにはっきりもの申しておく。
ケリア――ケリア・デース。逆襲のシャアのラスト直後から長年重度の鬱病に悩まされていたハサウェイを介抱し支えていたハサウェイの恩人にして恋人。一時は結婚も視野を入れるほどの仲だったが……この頃にはすっかり疎遠となっていた。
「今でなくてもせめて作戦が終わってからでも腹を割って話してあげて、地上から宇宙(そら)より遠くなっていくアンタを見せつけられるケリアも助けられないで、地球なんか助けられるわけない」
「そうだが……それでも頼む……仕方のないことなんだ」
「まあ一応聞いてはおくけど……理想がお高い世直しを進める輩の常套句だよ〝マフティー〟……〝仕方ない〟っのは」
当人には耳が痛い忠告を送りつけて、私はノーマルスーツ(これもプレイヤーの手でカスタマイズでき、私のは映画版でレーン・エイムが着ていたのをマリーダ・クルス用のカラーリングに仕立てたもの)を着直しながらその足でエピオンG下へと向かうと――。
「整備なら終わってるよ」
丁度エピオンGのコクピット内で調整していたジュリアが出てきた。
「仕事が早いねジュリア」
「ガンダニュウム合金製のガンダムを最初にメンテする名誉を貰ったんだ、気合いが入るってもんさ」
設定通りガンダニュウムの塊で、金属的な質感のない装甲をトントンとジュリアはノックして鳴らす。
「なら尚更丁重に扱わないとね、ありがとう」
ジュリアに礼を送ってコクピットに入ってサイコミュ機器(デバイス)が取り付けられたリニアシートに搭乗、コンソールを操作して、お馴染みの駆動音が鳴る中、機体を起動させる。
球体型の壁面ほぼ一面に、頭部のカメラとセンサーに胸部のサーチアイが取り込んだ情報を下に作成されたCGによる格納庫の風景が表示された。
「っ……来てるな」
このエピオンGの頭部にはΞガンダムのものと同じパイロットの脳波を増幅させるサイコミュブロックが搭載されている〝設定〟であり、ゲーム内での自分(ティルダ)の感応波が………着実にこちらへ近づいてくる〝敵意〟をキャッチした。
「ヴァリアント艦橋(ブリッジ)、出港準備は?」
ブリッジと通信を繋ぐと、モニターにヴァリアントの船長の姿が映し出される。
『もうじき完了するが、どうした?』
「敵の部隊の気配を感じた、おそらくあちらのガンダム――ペーネロペーもいるだろう」
『もしやニュータイプって奴の勘か?』
「それとパイロットの勘と……もし自分がケネス・スレッグなら……虐殺の火が上がったオエンベリ近辺に支援基地があると見て捜索隊を出しますよウェッジ艦長」
いわゆるニュータイプの直感力だけでは心もとないので、ハサウェイが奇遇にも自身を撃つ指令を受けた部隊の長と接触した件と、オエンベリで起きた悲劇に関する事実(カード)も用いた。
『マフティーが言ってた通りのやり手なら、あり得るか……』
このままだと原作同様、いずれビノエ・ハーバーに隠れているヴァリアントが《キルケーユニット》に見つかり、貴重な物資も人員も戦力も失うのも時間の問題。
「私が囮になって時間を稼ぐ、その間に次の中継地へ出港してくれ、私のガンダムなら単機ですぐ追いつける」
『分かった、無理はするなよ、マフティーが勝利の女神なら、お前さんとそのガンダムはマフティーと俺たちの〝守護神〟みたいなもんなんだからな』
「了解」
ウェッジ艦長のおだてに対して――〝元守護神(ガメラ)だよ〟――と、内心で訂正を口にしつつも。
「ヴァリアント船内へ、聞こえていたな、これより発進する」
艦内にいるマフティーのメンバーに通信で発進の旨を送ると、程なく格納庫の天井が開いて陽光が降り注ぎ、真紅のガンダムをうつ伏せに寝かしていたハンガーデッキが九〇度起き上がり。
『射出タイミングを、ティルダ・ラッセルに譲渡します』
「了解、ティルダ・ラッセル――ガンダムエピオンG――行きます!」
リフトアップが完了し、オペレーターのミヘッシャ・ヘンスからの発信準備完了の通信を聞いたと同時にシリンダータイプの操縦桿(スロットル)を押し出し、シリーズお馴染みのフレーズを発して機体を発進させ、ある程度の高度まで上がったところでMA(ワイバーン)形態に変形させ、オエンベリの方角へと飛ばした。
飛行形態字の前世の自分(ガメラ)と西洋龍を掛け合わせた様な姿のMA(エピオン)は、入道雲が漂うオーストラリア大陸周辺の空と太平洋の狭間の高度で駆けていく。
私は敢えて全天周モニターの視覚(じょうほう)に頼らず、敢えて目を瞑って感覚を研ぎ澄ます。
コントロールシリンダー式の操縦桿は、グリップと周辺のボタンでほぼ直感的に機体制御を行える上に、シナンジュのリニアシートに取り付けられている《バイオセンサー》と前述のサイコミュブロックでサイコフレーム非搭載でも《インジェクション・オートマチック・システム》が使えるようになっている。
このシステムは簡単に言えばパイロットの思考(かんのうは)に合わせて機体が自動で動いてくれる機能、サイコミュを通じて〝敵意〟を感知すれば仮に先手を取られても即応できる。
「―――見つけた……」
脳裏に哨戒中のキルケ―部隊の存在を感知し、目を開き直すと同時にMS形態へ変形し直し、頭部のカメラとセンサー、胸部のサーチアイで索敵し、向こうより先に相手の位置を探り当てた。
モニター内にカメラのズーム画面を表示し、海面より上空五千メートルの高度を飛行し、マフティーの支援施設を探し回る最中のペーネロペーと移送機(ケッサリア)に乗るグスタフカール(劇場アニメ版の00型)たちを捉える。
ガンダムシリーズのおさらいとして、宇宙世紀ではミノフスキー粒子と言うレーダーと通信機能を妨害する物質がある。
そしてこの改造機(きたい)の元となったエピオン含めたACのガンダムに使われているガンダニュウム合金は、電磁波を吸収する特性を持つ。
となると………ミノフスキー粒子が散布された空間内では、一層ガンダニュウム合金製のMSを発見するのは困難であり、先制攻撃を仕掛けるには好都合、元よりACのガンダムたちの主な用途は奇襲だ。
「船(ヴァリアント)は落とさせない」
エピオンGの右肩に装着されたメガキャノンの砲身を展開、伸長させて構える。
「ターゲット――キルケ―・ユニット――ロックオン」
展開された砲身内に稲妻が迸りメガ粒子をチャージさせながら、モニターの照準(ターゲットマーカー)を敵部隊に重ね合わせる。
「メガキャノン、最大出力――ファイアッ!」
エネルギー充填が完了したと同時にトリガーを引く。
メガキャノンの砲身から、暁色の強烈なメガ粒子複合ビームの奔流が解き放された。
突然の膨大なメガ粒子の奇襲攻撃を受けたCPUのキルケ―部隊。
その内の主戦力たるペーネロペーは回避できたが、グスタフ・カールとそれらを二機ずつ乗せていたベースジャバー――ケッサリアの半分以上はその幾重の層で構成されたビームの奔流に呑み込まれ、蒼穹内に幾多の火花を散らし、後方にいたビック・キャリアーも回避運動する暇すら許されず、融解し落とされた。
辛うじて直撃を免れて残ったグスタフ・カールたちも、多くが長時間大気圏内を飛行するのに欠かせぬ下駄(ケッサリア)を喪う。
ゼータガンダムらの可変機を除けば、宇宙世紀のMSの多くはΞガンダムとペーネロペーら第五世代機の登場まで、単独で地球内での飛行能力を持たず、空中戦を強いられる場合、スラスターによる上昇と、落下速度と風向きを計算に入れた降下を繰り返すことになる――仕様もこのゲームでは再現されている。
加えてこの空域の下は太平洋の海上、着地できる足場がなく、推進剤を使い切ってしまえば戦闘はおろか退避することもままならなくなる。
ケッサリアを喪失したグスタフ・カールはその時点で戦力除外されるが……。
「私は〝マフティー・ナビン〟の様に逐一警告するつもりはない――」
それを見逃すまいと、朱音(ティルダ)の駆るエピオンGは主翼(エピオンウイング)を広げて超音速でキルケー部隊に肉薄し、連射モードにしたメガキャノンからの粒子ビームでペーネロペーを牽制しつつ。
「悪いが……ガンダムを見たものを、生かして返すわけにはいかないのでなッ!」
ガンダムW劇中で使われた台詞を発しながら、不自由な空の中で必死に迎撃するグスタフ・カールらからのビームライフルの弾幕を難なく潜り抜け、数機とすれ違う。
直後、ビームサーベルを振るわれたわけでもないにも拘わらず、機体同士が掠め合うギリギリの距離でエピオンG通り抜けられた機体は両断され、赤熱化した断面が一瞬露わになって爆発した。
ガンダムWには、TVシリーズの物語を、ガンダムらMSのデザインをいわゆるEW版のものでリメイクした漫画版があるのだが、エピオンGの原型機たるガンダムエピオンEW版には《シュトゥルム・ウント・ドラング》と言うオプションパーツが存在した。
この一対の兵装は前腕両腕にそれぞれ付けると、ウイングガンダムゼロのツインバスターライフル最大出力のビームも防御できる電磁バリアを張り、主武装のビームソードに装着させればただでさえ強力な光刃の出力(こうげきりょく)を一層発振、増大させる攻防両面の機能を有した。
朱音はそのパーツをエピオンウイングに取り付ける形で改造し、前世で戦った宇宙怪獣も用いた電磁バリアを張り巡らせて防御する機能はそのままに、敵機とすれ違った瞬間にνガンダム含めた第二次ネオジオン戦争時のビームサーベルよろしく翼からビームを発生させて切り抜ける攻撃方法に組み替えた。
先に撃墜されたグスタフ・カールは、この主翼(やいば)で切り裂かれたのだ。
エピオンGはとの突出した機動力による自由飛行で部隊の渦中を飛び回り、ペーネロペーは友軍機へのフレンドリファイアを恐れてビームライフルを中々撃てず、辛うじて射線上に味方がいない瞬間を狙って撃っても、エピオンGには難なく躱される。
奥の手の〝ファンネルミサイル〟を使おうにも、エピオンGは探索部隊を散開されぬ密集させるので、無闇に発射すればこれもまた味方に当ててしまいかねない。
UC105時点の大型MSからは小型ゆえに小回りも利いて縦横無尽に空を駆けまわるエピオンGに攪乱され、先手の砲撃で乱された味方機の態勢が整わない中、エピオンGは攻勢の手を緩めない。
「落ちろッ!」
遠方の敵機には連射力は落ちるが初速と貫通力が上がり、射程距離も伸びる照射モードに切り替えたメガキャノンからの、前世の宿敵の〝超音波メス〟を連想させる細くもメガ粒子の収束濃度が高いビームが、敵機の装甲をバターの様に焼き切り。
「くらいなさいッ!」
中距離の相手には、甲羅(エピオンシールド)から伸長し高熱と振動させた鞭(ヒートロッド)による、柳星張の触手の如く不規則にしなる軌道で迫る攻撃で切り裂き。
近距離まで接近した場合は、ビームトンファーまたは前述のビームウイングで屠る。
超音速を維持したままの高機動で翻弄させる敵機との相対距離に応じて、武装を使い分けで一撃離脱(ヒット&アウェイ)を繰り返し、グスタフ・カールとケッサリアは全機落とされた。
残るはペーネロペーのみ、ガンダムタイプ同士の一騎打ちだ。
友軍がやられて鋭利になったペーネロペーの〝敵意〟を感じ取った私は甲羅(エピオンシールド)を構えると同時にIフィールドを生成――直後、こちらめがけて飛んできたマゼンタ色のビームが盾周囲に張り巡らされたメガ粒子と衝突して飛び散った。
ビームライフルを連射し、同時に両腕のウェポンユニットからメガ粒子砲を、さらに〝ファンネルミサイル〟含めたミサイルの驟雨を降らしてくる。
「しつこいタイプは嫌われるよ」
上空で逃げるギャオスを追い詰める寸前に富士の樹海へ撃墜させられたりと、誘導兵器(ミサイル)の脅威を前世で嫌と言う程思い知らされてきた私は、皮肉を零しながら愛機の機動力でペーネロペーの攻撃を掻い潜り四方を囲まれる前に距離を取ると同時に、比較的遠方にいる通常ミサイルをメガキャノンと、エピオンシールド先端に取り付けた(アルトロンの)二連装ビーム砲の連射で、中距離には両肩のマシンキャノンによる迎撃で先に撃ち落とし。
「〝レギオン〟の槍に比べれば、ファンネル程度ッ!」
ビームトンファーでファンネルミサイルを斬り落としていく。
これはAW世界の元NTからの受け売りだが――〝たとえ観応波(せいしんは)でコントロールされていても、動いているのは物理的な物体〟――だってね。
飛び道具では埒が明かないとCPU(ペーネロペー)は判断したのか、腕部の複合兵装(シールド)からビームサーベルと発振させて斬りかかってきて、私はビームトンファーで斬撃を受け止め、ビーム刃同士の鍔迫り合いで閃光が鮮やかに飛び散る。
まだヴァリアントは安全圏にまで辿り着いていないのでゲームクリアにならず、もう少しペーネロペーとの一騎打ちが続く。
逆を言えば、このまま時間稼ぎをしているだけでクリアになるのだが………MS戦におけるタイマンと言えば……無論接近戦による決闘が最大の醍醐味だ。
蒼穹を飛び回り、何度も己が得物をぶつけ合う〝超音速の大決闘〟を繰り広げる中。
『ちょこまかと!赤く小粒なガンダム擬きッ!』
接触回線で、ペーネロペーのパイロット――レーン・エイムの、原作通り良く言えば武人らしい潔さ律義さの持ち主、辛辣に言えば血の気が多くて自信過剰な〝若い〟人柄がひしひしと伝わってくる声がコクピット内に響いてきた。
「お前のガンダムが大形過ぎるのさ! レーン・エイムッ!」
『何を!? 〝ペネロペー〟をバカにするかマフティーのパイロットめッ!』
全高三〇メートルを超えるペーネロペーの巨体(サイズ)を揶揄すると、本来のイントネーションで呼称するくらいかのガンダムに愛着を抱いているレーン・エイムはまんまと煽られる。
〝草凪朱音〟としてはまだ一五歳な自分が言うのも何だが……ハサウェイの原作小説内での独白の通り〝実戦の狡猾さを知らない〟……直線的が過ぎる青二才だな、と心中呟く私はビームトンファーを腕部内に納めると同時に腰(リアスカート)にマウントしていた槍(ぶき)を手に取り、柄を伸長、両端から三叉状のビーム刃を発振させた。
エピオンGの白兵戦における切札(とっておき)――《ツインビームトライデント》。
主翼(ウイング)を広げ、トライデントを高速回転させながらペーネロペーへ肉薄する。
遠心力を相乗させた上段からの初撃――からの連撃を両腕のビームサーベルで応戦するレーン・エイム、さすがにガンダムパイロットだけある。
「押されている!?なんと!」
だが小回りが利くエピオンGと違い、ペーネロペー――オデュッセウスガンダムは、ただでさえその巨体な上に、その身に纏うフライトユニットでより大柄、懐に飛び込まれれば自慢の《ビームバリア》を展開するのも困難。
「デリャ!」
トライデントの刃がフライトユニットの機首を両断し、左腕に備えるガンダニュウム合金製のエピオンクローをガンダムフェイスに突き立て、衝撃を受けられ生じた隙を逃がさず、間髪入れずにビームトンファーを発しメインカメラを破壊。
止めにビームトライデントの柄を短縮し、刃を三叉から両刃に集束させたビームソードモードでコクピットを貫いた。
乗り手を喪ったペーネロペーは機能沈黙、そのまま太平洋の墜落し、海中に消えていった。
直後、モニター正面に『MISSION CLEAR』と表示され、ゲームクリアとなった。
「ふぅ~」
リニアシートへ深々と腰かけて一息つく。フルダイブ型VRとは言えゲームはゲームなので、一旦休憩しよう。
次はどのミッションをやってみようかな~~~せっかく我ながら会心の出来なマイガンプラだし、夏休みだし、程度(ほどほど)は踏まえつつも存分に楽しまないとね。
せっかくだから次はカスサンに『閃光』流しながらやってみるとしよう~♪
終わり。