GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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やっとできました雀ちゃん登場回の後編、二重奏シリーズ本編での防人の設定とのすり合わせもあって暫く保留したのもあってここまで伸びちゃいました(汗


収穫の秋と迷える小雀 後編

 中学のあの時以来発揮された〝ちょっとした好奇心〟も含めた〝理由〟がきっかけで、うっかり未開放地区に入って一人星屑の大群を相手にする羽目になり、危うく本当に今度こそこの世からいよいよさよならしかけた―――まだ短い人生で間違いなくトップクラスに位置する加賀城雀に陥った人生最大の危機から、〝勇者〟たちに間一髪助けてくれたこの激動の一日も、気がつけば………もう夕方に差し掛かる、陽光が色づき、青空に夕焼けの色味に付き始めた頃。

 なんとなく雀でも秋って感じがする上に自身の大好物なみかんに形も色もそっくりなまるまるとした夕焼けが、いつも以上に彼女の目からもくっきり見える気がする神樹様の壁がそびえる瀬戸内海へ空の色を変えながら沈んでいく最中、な時間帯となっていた。

 

 

 

 

 

 はぁ~~~ほんと美味しかったなと、思い返しただけでとろけた笑顔のまま私はお腹を撫で上げる。

 

「どうやら余程堪能してもらったみたいだね、今日のランチは」

「ええそれはもう、まだ食べた瞬間の旨味がくっきり口の中に残ってますよ♪」

「それは何より、私も調も料理人冥利に尽きるよ♪」

 

 我が人生最悪の、自分でも自業自得と言わざるを得ないあの危機から生き延びられた私に待っていたのは――

 

 おいでまいと黒鯛をふんだんに使って混ぜ合わせて炊きあがったチヌ飯に。

 チキンのささみ肉と秋野菜ときのこの混ぜ合わせソテー。

 大豆とマカロニと取れたてトマトの野菜スープ。

 そして私のご要望に合わせて、わざわざ近くの農協から買ってきてくれたデザートの小原紅早生(おばらべにわせ)こと、赤味がかった見た目に甘味がふんだんに凝縮された、みかん好きの私にはたまらない、故郷の愛媛みかんとはまた違った味わいのある――香川みかん!

 

 ――まさに〝食欲の秋〟と呼ぶに相応しい、今が旬の食材の数々で作られた料理の数々。

 自分の語彙力では、〝ほっぺがとろけて緩む〟が精一杯ながら、秋の空と空気の下で食べるには最高に絶好の絶品な美味しさで、ゴールドタワーの食堂の料理が物足りなくならないか心配になるくらい。

 こんなアウトドアチックなのに豪勢かつ美味が極まる料理を、中学の頃にお会いした勇者部の皆さんに負けず劣らず個性溢れて愉快な――でも戦場においては〝勇者〟の名に偽りなしの勇姿を見せてくれた勇者の皆様方と一緒に食べる、それはもう賑やかで楽しい昼食(ランチ)でございました。

 しかもその後、西暦勇者の一人である歌野さんの畑の収穫作業の続きの傍ら。

 巫女の水都さんと、巫女の資質を持ってるらしい朱音さんとで次の収穫も豊作となるようにと、端末のアプリからの音色をバックに、簡単なものながら豊穣の祝詞を唱え、一緒に舞を踊ったり。

 本当に〝歌って戦う〟シンフォギア装者の皆さんによるちょっとしたミニライブも、大が付くくらいの本格的かつ圧倒的歌唱力でお披露目なさったりと、色々貴重な体験をたくさん頂きました。

 そしてまだ、勇者の方々との交流の経験の余韻による色んな意味での満腹感が残る今、隣の横並びで一緒に私と歩くもう一人こそ………助けてくれた〝勇者〟の一人であり、先程も名前を上げましたが、平行世界から神樹様の導きでやってきた、前世が〝怪獣〟と言う衝撃的な境遇の持ち主でもある装者―――草凪朱音さんですと改めてご紹介……って、あ………頭の中の温度が、我に返った瞬間一気に冷え込んだ。

 

「たたたた大変申し訳ございません!」

「uh……what?(なに?)」

 

 な……なんでこのタイミングで思い出しちゃうの!?

 普段は自分でも嫌なくらい〝起きたら嫌なこと〟を想像するくせに、この時に限ってそれが働いていなかった我が身を恨みつつ、頭をお下げする。

 

「勇者の皆様方に多大なご迷惑をかけた大バカヤローなか弱き小雀の分際の身のくせして、不覚にも調子に乗ってしまいました………改めまして謝罪を表明致します!」

 

 いくら充実のひと時を過ごしたからって、何調子こいて浮かれていたのやら私……。

 己の諸行を思い出せ、この愚か者かつ人類ヒエラルキーの最下層にいる自分よ。

 こっそり今日の訓練をサボってゴールドタワーから抜け出して来た挙句、みすみす未開放地区に入り込んで星屑の大軍に追いかけ回された、こんな自分たった一人の為にヒエラルキー青天井の勇者の皆様に助けてもらう醜態を晒しておいて、その上ご馳走やら色々施しまで貰い受けてしまっていながら………舞い上がっていたのを自覚していなかったさっきまでの自分を叱ってやりたい。

 大慌てで私は………額に冷や汗がどっと溜まり、お日様の光で誤魔化せてるけど顔はみかんの山吹色より真っかの赤で、心臓の音だって緊張でばくばく大きめに鳴る中、朱音さんに何度も何度も深々と頭を下げて、お詫びの気持ちを一生懸命に表明しました。

 

「気にしてないからそう卑下することないよ雀、私はこの件に関してこれ以上君にとやかく言うつもりはないから」

「はは~~~ありがたき幸せです」

 

 朱音さんからのお慈悲の言葉を、ありがたく頂戴し、一際深く深~く腰を九〇度の角度で一礼。

 ああ………貴方様の背後から、夕陽以上に眩しい後光が輝いているのを、頭を下げた状態でも感じるよ~~~ありがたやありがたや~~~。

 

「わ、私は殿様か……それとも王様か何かな扱いをしてないかい?」

「私からすればそれ以上の高みにおられる天上人でございます」

 

 実際、守護神とも呼ばれる大怪獣ガメラだったお方なわけですし。

 ただ安芸先生からの説明と、ネットで調べた粗筋諸々を読んだだけで凄い痛そうで怖そうなイメージが付いちゃったので、肝心の映画は全然見れておりません。

 

「天上人ね……色々ツッコみたいところだけど……まあいいか」

 

 私のこの態度に、朱音さんは最上級にお美しいお顔を苦笑交じりの困った表情を浮かべましたが、人類最弱の中の最弱たる自分が述べたことは揺るがぬ事実であるので、譲る気はありません。

 

「でもまだ気を緩めない方がいいよ、そのゴールドタワーとやらに帰れば、安芸先生と君の部隊の隊長――楠芽吹から説教の雷が強烈に落ちるのは間違いないからね」

「はぁっ! そうでした……それも忘れていました……あ~~気が増々重たくなるよ」

 

 またしても不覚、頭を抱えて溜息を零す私。

 朱音さんからのありがたいご忠告を聞くまで、その問題をすっかり私は失念していた………待ち受けているもう一地獄………最早ほんの一欠けら分の想像すらしたくない………うっかりちょっとでも頭に浮かべたら帰りたくない気持ちで足取り重くなるのは確実、それでまた相手方にご迷惑をかけたくもないし。

 

「慰めにもならないと思うけど、一応安芸先生には、『本人はいたく反省をしていらっしゃるので、穏便な処置をお願いします』とメールで伝えておいたから」

「いえいえ、重ね重ねのご厚意、ありがとうございます」

 

 全くもって覚悟は決めきれてないけど………これ以上朱音さんたちに甘えたくはないし、仮にも量産型の〝防人〟とは言え自分も一応の一応……勇者システムを持ってる戦士ではあるので、この先に待つ窮地は、どうにか一人で切り抜けよう、と自分の名前でもある雀の涙よりも小さい……なけなしの勇気を搾り取って自分を鼓舞しました。

 

 あ、それと言い忘れていましたが………そんな人類最下層の私と最上階の域に朱音さんの二人は今、海岸線に沿って、SONG所属の戦士隊となった今でも私達の訓練場兼寄宿舎となっている大束町にそびえ立つゴールドタワー、またの名を《千景殿(せんけいでん)》とも呼ばれている塔の下へと帰っている最中でして、朱音さんは護衛も兼ねて、帰りの道中に同行させてもらっております。

 いくつかのやり取りを終えて再び私達は、タワーに向けて歩き出しました。

 それにしても………朱音さん、綺麗なお人だな……今日合った勇者の皆さんもみんな容姿の偏差値進学校ばりに高いお方ばかりだったけど、特にこの人はあのマリアさんやあのツヴァイウイングら、ほんまもんの芸能人に並ぶくらいのちょ~~~べっぴんさんです、いやマジで。

 今朱音さん、農作業に着ていたつなぎ服から私服へと変わっているのですが………首に勾玉のペンダントを掛け、かなり実ったお胸が見えるVの字の襟な赤いタンクトップの上に被せた真っ白のファスナー付きパーカーと、丈が短すぎてそのパーカーに隠れちゃってる上に筋肉質で引き締まっているのに肌がすべすべで柔らかそうな魅惑的曲線が流れる長い生足を惜しげもなく露わにしてるショートデニム……の組み合わせと言う。

 私から見れば、絶対男女関係なく目立つなと思う大胆が過ぎるファッションをごく自然に着こなし。

 

〝あの……恥ずかしくないんですか? 自分にはちょっと刺激が強そうに見えるんですけど………〟

〝いや、私にはこの程度何でもない、見られるくらいは大目にみてるしね〟

 

 最初にこの服装について思い切って訊ねてみたらさらりとこう返してきて、生粋の愛媛県民にして四国民にして日本人な自分からしたら、さすがアメリカ暮らしの長かった帰国子女は違うなと、つい感心させられました。

 しかも……飽きるくらいすっかり見慣れた大束町の夕焼けの光景すら、名カメラマンが撮ったような風景に見えてくるくらいのオーラまで放ってます………絵になってます。

 こんな長身美人で私やメブより二歳年下かつ亜耶ちゃんと同い年の高一だなんて………何のジョークでしょうか?

 朱音さんの方がどう見てもお姉さんに見えてしまいます。多分本人はこのこと気にしてるかもしれないので、口には絶対しませんが。

 ちなみに私の現在の発育状況に関しましては~~~………ノーコメントとさせて頂きますのでこの話は終わり!

 

「っ………」

 

 それはさて置きまして………一体さっきから、何を見ているんだろう?

 私は、さっきから歩きながらずっと、夕陽が沈んでる最中の瀬戸内海と神樹様の壁を眺めている朱音さんがちょっと気になって、横顔を見上げてて………上手く言えないんだけど、本物の翡翠顔負けの透明感な瞳は………何だか、潤んでる?

 でもあれ? 朱音さんご本人とこうして直に会うのは今日が初めてなのに、その瞳を………どこかで見たことが。

 どこで………あ、あの装者の皆さんによるミニライブ。

 その時歌われた歌の中で、朱音さんがメインボーカルで、他の装者さんがコーラスに徹した曲があった、丁度秋の風が吹く場にぴったりな、題名に風の一文字が付く曲だった。

 それを朱音さんは、空一杯に響かせようとするくらい力強く情熱的に、でもどこか儚くて切なく抒情的と言うか、心の芯までしっとりとしみ込んでくる……そんな感じで、プロのアーティストばりの歌唱力で歌い上げていた。

 そうだ……いざ思い返してみれば、確かにその時も、今みたいな潤んでた翡翠色の瞳で、瀬戸内海を、神樹様の壁を―――見つめてた。

 

「どうした?」

 

 すると急に朱音さんが、こっちに目線を移してきて。

 

「いや~~~今になって急に、一駅前で降りたのかなって気になりまして……あはは」

 

 と、咄嗟に私は笑顔でそれらしい言い訳を朱音さんに返し、お茶を濁らせました。

 実際、電車に乗ったのにゴールドタワーの最寄りの一歩手前で朱音さんが降りようと言って、今徒歩で帰っている最中なわけだし。

 

 

 

 

 

「oh……」

 

 Ooups(しまった)……雀からの質問に、私はハッと思い出す。

 いけないいけない………うっかりしていたな。戦闘の後、ランチの調理やら、ランチの堪能やら、収穫の続きやら、それを一通り終えた後にて歌野の畑にお恵みをくださった感謝と次なる豊穣も願った祝詞の詠唱やら。

 

〝恩返しとして土地にさらなるお恵みを差し上げるべく、次は私達で歌うデスよ!〟

 

 切歌の咄嗟の発案で、即興ライブを主に私達装者メンバーで開いて、私の端末の音楽プレーヤーアプリに入れていた曲のいくつかを歌い上げ、フォニックゲインの恵みをマナが流れる大地に送っていたり。

 とまあこんな感じで何かと立て込んでたが為に、戦闘中〝後でじっくりするよ〟と言った切り、すっかり雀になぜ名前を知っていた等の説明をするのを忘れていた。

 特に、私と切歌と調と英理歌とそしてセレナの丁度五人(歌って戦う装者の身なので、訓練のメニューには勿論ボイトレも組み込まれており、よく一緒に身体の鍛錬と同時に合唱で歌唱をも鍛える機会が多い)で、某ロボットアニメシリーズの一作に出てくる戦術音楽ユニット(こちらの世界では西暦末期の企画段階でバーテックスのせいで中止になってしまったが、三百年の時を経て世に出た経緯がある)の名曲含めた歌たちを、装者にして歌を愛する者同士の共鳴が起きたせいか、ついプロばりに熱唱しちゃったりしたのが失念の決め手になったな………毎度ながら私には最高の褒め言葉でもある〝歌バカ〟はほどほどにしないと。

 

「あ……それは色々あって先延ばしにしてた説明を歩きながらにでもしようと思って」

 

 咄嗟に私は、それらしい言い分で雀に返答する。

 実際は……この〝刹那よりも一瞬の時の中で咲き誇り、煌めいて、散華していき、二度と咲かずに消えゆく花〟であるこの結界(せかい)の夕陽をじっくり眺めたかったのが、一駅前で降りた理由なんだけど………それは置いておいて。

 

「まずは君の名と防人のことをなぜ知っていたかだけど」

「はい」

「異世界から来た異邦人の身だから、神世紀の歴史を調べておきたくて、しずっ………大赦次期代表から許可を貰って―――」

 

 記録の仕方としては下の下だった大赦の書庫に所蔵されていた黒塗りだらけな史料の数々を読み進めていた時。

 

「安芸先生が纏めた一冊に、君達――防人のことも載っていたんだ」

「安芸先生がですか!?」

「そう、かなり詳しく丹念に書き止められていたよ」

 

〝防人〟

 

 そう称された、勇者たちが知らぬ――勇者たちの存在を。

 よく翼(どちらの世界でも共通して)が装者としての自身をそう呼称し、本来の意味は飛鳥時代の日本の九州沿岸警備を任じられた兵士たちを指すこの言葉だが、この世界では意味がもう一つある。

 

 端的に言えば―――〝量産型勇者システム〟で変身する戦士たち。

 そして、一度は〝勇者〟の資質があると、一度は神樹様より目を付けられていながら、友奈たちのような勇者に………選ばれなかった者たち。

 喩えるなら、花開く機会に恵まれなかった草木――そんな少女たちで構成された部隊だ。

 

 かつては大赦の工作部隊も同然な立場だったが、現在はSONG所属の外部部隊となっており、最初の交流会(ブリーフィング)で安芸先生が自己紹介の折に言っていた〝戦士隊〟こそ、この防人。

 安芸先生は大赦工作部隊の頃から現在まで、その教官役を努めて続けている。

 その安芸先生が編纂した記録には構成メンバーのリストも記載されていて、勿論ながら加賀城雀の名前もちゃんと載っていた。

 お陰で、今回の戦闘の鐘が鳴ったことを報せる神託に入っていた〝防人〟が、かの勇者たちによる部隊を指していると早急に見抜き、《NARUKO》のGPS機能で樹海が出現する前に彼女の位置も特定でき。

 

「君がどうにか踏ん張っていたところで、何とか駆けつけられたわけさ」

 

 ここまで歩きながら説明していた私は足を止めて、パーカーのポケットに手を入れたまま後ろへ振り返る。

 

「そう、だったんですか……」

 

 私より先に、雀が立ち止まったからだ。

 夕陽でできたお互いの影は、さっきより大きく伸びていた。

 そしてさっきより、今日直に会った自分でも〝おしゃべり〟が好きだと分かる、口数が多くて優れたトークスキルを有した彼女の口が、一転して寡黙となっており、表情もころころ変わっていた可愛らしい顔立ちにも、夕陽の光すら払えぬ影が差し込まれていた。

 さっき私が、静音の名前を出しかけたの境に………彼女はこんな調子となってしまっている。

 無理もない話だ……かつて静音から、防人の隊員たちからすれば理不尽な切り捨ても同然な〝宣告〟を突きつけられればな。

 

「もう少し、寄り道していくかい?」

「え?」

「(トト、安芸先生にもう少し時間が掛かると伝言を頼む)」

「(分かった)」

 

 言伝を受けたトトは霊体のまま、ゴールドタワーへと飛んで行く。

 

「打ち明けたいことがあると何となく思って、それと私も聞いておきたいことがあってね」

 

 このままあのゴールドタワーまで行くつもりだったが、もう少し、話をしてみようと思ったのだ。

 勇者と言う名の花を咲き開くことなく……しかし〝防人〟として、人々を守るお役目を背負う〝勇者〟でもあることに違いはない同朋たちの一人である、加賀城雀と。

 

 

 

 

 

 現在も防人部隊の拠点となっているゴールドタワーからほど近い臨海公園内の、瀬戸内海を眺められるベンチの一角にて。

 

「はい、あったかいものどうぞ」

「あ、あったかいものどうも」

 

 座って待っていた雀に、私は近くの自販機から買ってきた缶飲料を手渡し、自分もベンチに腰掛ける。

 彼女の希望通り、みかんジュースはちみつ味、涼しげな秋の潮風に合わせてホットの方をセレクトした。

 私は勿論、ホットのブラックコーヒーであり、早速蓋を開けて一服。

 神世紀の缶コーヒーは決して悪くないのだが、友里さんの淹れる絶品のコーヒーの味を知った後では、やはりちょっと物足りないね。まあそこは贅沢ってことで。

 

「朱音さん……」

 

 みかんジュースを一口飲んだ雀から、さっそく話を切り出されてきた。

 

「安芸先生が書いたって言う記録を読んだってことは、私達の部隊がどんなお役目について……一度はどうなったのかも……」

 

 彼女たち〝防人〟のことを、発足の経緯やら務めてお役目と言う名の激闘の数々や、戦いの合間で交わされる日常やら等々、今日までの流れを詳しく語ろうとすると……どんなに短く見積もっても小説なら二百ページは軽く超える分量となってしまうので、申し訳ないが、そこは割愛させてもらう、実際安芸先生が書き纏めた記録も何冊に渡る大長編ものだった、静音が推し進めた大赦の組織改革が無ければ、不条理な検閲によって、ああした形で書き記すことは不可能っだっただろう。

 

「ああ、大体は存じている、君達にとって苦い思い出だから余り言及はしないけど、しいて言えることがあるなら……」

 

 あえて要約するなら、並のブラックカンパニーたちのブラックな気質がまだ可愛いものだと思えるくらい、友奈たち正規の勇者たち同様、ほとんど消耗品同然の犠牲ありきな大赦の人でなしな待遇の中、散々〝結界の外に出る〟過酷な任務に放り込まれてこきつかわれた挙句―――。

 

 

「散々こき使われた挙句、ある日突然いきなりリストラの首切りなんかされたら、誰だってクーデター起こしたくなるくらい憤慨するさ」

「そう……ですよね、あはは」

 

 私がコーヒーを飲みながら口にした皮肉(ジョーク)に、雀は苦笑で応じた。

 実は一度、防人部隊は解散の憂き目に遭っている。

 まだ友奈たち勇者部の最初期メンバーが讃州中学に在籍していた頃、大赦の次期代表候補に就いた静音は、三百年の年月ですっかり腐敗の一途を辿っていた大赦の組織改革を早急に取り組み始めた。

 静音が執り行った改革の施策の数々の一つが―――当時の大赦が推し進めていたある〝計画〟の凍結と、その前準備の為、大赦の連中から課せられる〝犠牲者〟が出ることを前提とした過酷が過ぎる任務に日々命がけで携わり、必死に誰一人として死者を出さずにお役目を全うしてきた防人部隊の、即時解散だった。

 

「実際あの時みんなほとんどお怒り心頭で、決定下した次期代表候補さんに存続の嘆願を、場合によって朱音さんの言う通り実力行使も辞さないくらいの勢いでやる気でした」

 

 このいきなりの有無を言わせぬお役目御免の通達に、リーダー格の楠芽吹を筆頭に隊員たちからは猛烈な反発が起きた。

 当然だ………それではいそうですかと納得できる人間なんてそういないし、誰だって蜥蜴の尻尾切りの〝尻尾〟にはなりたくはない………が、弦さんが以前使っていた表現(ことば)を使うなら、〝木っ端役人〟たる防人たちが束になって声を荒げたところで決定が覆るわけもなく、結局その年、部隊のメンバーは散り散りとなった。

 しかしそれから三年後、弦さんら旧特機二課のメンバーが国連直轄組織たるタスクフォース――SONGへと再編成される際、その傘下の形で防人部隊も再結成され、現在も、私が見上げるこのゴールドタワーで、安芸先生の指導の下、訓練に明け暮れている日々を送っているとのことだ。

 

「その件に関しては、私たちのリーダーがとんだ迷惑を掛けた………すまない」

 

 私は、静音がその頃から現在まで推し進めている大赦(そしき)の変革の煽りを受ける羽目になった雀たちに、詫びた。

 

「いえいえいえ! 朱音さんが謝ることじゃないですって! もう三年も前の話ですし、恨みつらみは持ちたくないし、争い事もしたくない性分ですから、お気になさらず」

 

 あわあわと両手を振る雀の言う通り、私はこの件に関しては完全に部外者ではある。

 

「それはそうなんだが、それでもせめて頭ぐらいは下げさせてほしい………」

 

 一度雀に下げた頭を、暁の空にまで見上げる。

 この世界に来て、静音たちと出会ってからまだ半年も経ってはいないし、前に未来に言ったように―――〝人の面の皮は人が思う以上に、多くて分厚い〟。

 

「静音は何かと………誤解され易い人柄をしてるからね」

「はぁ……」

 

 それでも、日頃から相手を〝しっかり見る〟ことを心がけ、付き合いを重ねれば、人物像(ひととなり)の一端を汲み取り、垣間見ることはできる。

 

「本当は誰よりも友、仲間、家族を大切に思っているのに、中々それを言葉にも態度にも出さないし………その癖大事な人たちを犠牲にさせない為なら、時にその人たちから不興を買われるような手段さえ躊躇わず選んで、自分から汚れ仕事の泥を進んで被る覚悟も決めてしまう………痛む己の心を押し隠して、弱音を一切吐かず………大赦の組織改革の為、強引に〝国造り〟の計画を中止した上に防人(きみたちのぶたい)を解散させた時もだし………この前の〝諏訪での戦い〟もそうだった」

 

 正直、この〝国造り〟と称されたこの大赦の計画は、中止となって幸いだったと、雀たち防人には申し訳ないが思っている。

 

「諏訪……」

「今日訓練をサボってまで、私たちの様子を見に来た理由も、それがメインだろう?」

「はい……その通りです」

 

 薄々そうだと思って鎌をかけてみたら、見事に当たった。

 

「あの後……友奈さんたち勇者の人たちがどうしてるのか、どうしても気になっちゃって」

 

 日頃〝ルール〟は順守する方な筈の雀が、こっそりタワーから抜け出してサボタージュするとしたら―――諏訪の一件だ。

 万全の態勢でこちらの奇襲を待ち構えていたことは間違いなかったバーテックスたちを混乱させ、足並みを乱す為に静音が断行した、諏訪市全域への一斉砲撃………結果的に死者こそ一人も出なかったが、民間人の犠牲者を出すことを前提として容認した、非人道的な作戦。

 これも当然ながら………防人部隊の面々からも反発の声が上がったのを、雀の顔色と声色から容易に窺えた。

 

「信じるかどうかは好きにしていい……静音が実行したあの作戦にはみんな不満を露わにして反発してた、過去から召喚された中学生の清美(しずね)からにもね………何より静音自身も、こんな作戦を取ろうとしている自分に内心は己が無力さを呪い、良心を痛めてたけど、それを顔には微塵も出さずに――」

 

〝どう思おうがかまわないわ……私の作戦をね。でも今は私たちのやる事に集中しなさい、罵倒も何もかも、あとでいっぱい受けてあげるから……〟

 

「そう言って作戦を断行した………私だって理解はできても、今だって納得していないさ………でもそれぐらいギリギリの状況だった――」

 

 私は先日、切歌たちに話した、静音が仲間たちの反対を押し切ってまで作戦を実行させた〝事情〟諸々を、雀にも話した。

 

「そ、そんなにヤバい人なんですか………翼さんのお祖父さんって」

「ヤバいどころじゃないさ………もし本当に犠牲者が出てしまったとしても、諏訪を取り戻すのに『必要な犠牲』だったとすら考えもしないくらい、生粋の吐き気がする外道だよ……」

 

 これ以上あの『国枠主義の怪物』のことは話題にしたくないので切り上げ。

 

「話が逸れてしまった………要は静音はね、根っこは他の勇者たちと同じく人一倍以上の優しさの持ち主な自己犠牲の人で、でもそれを素直に表現できない、頑固で不器用な女の子なんだ……」

「そうだったんですか……私は神官の不気味な仮面のせいで、昔の安芸先生以上に〝怖い人〟って印象しかなかったです」

 

 せめてそれだけは知ってほしくて………私はまだ決して長くない付き合いの中で汲み取った静音の人となりを、雀に話し終えた。

 

「それに………朱音さんの話を聞いてると、次期代表、じゃなくて静音さん………何だかメブ、うちの部隊のリーダーと、似てますね」

「そうなのか?」

「そうなのです! 私からすればもう瓜二つってくらい、超が付くくらい真面目なとこも、頑固で融通が利かないとこもそっくりだし―――」

 

 雀のこの発言を皮切りに、話題はお互いのリーダーの〝共通点〟を挙げ合う方にシフトした。

 お互いの予想を超えて、静音と楠芽吹、この二人が〝似た者同士〟であることを証明するエピソードがうはうはと飛び交い、気がつけばさっきまでの湿った重い空気はすっかり裸足で逃げて行ってしまい。

 

「そんなとこまでそっくりなんて、赤の他人なのが信じられなくなるな!」

「ですよね~~~!」

 

 お互い私たちは笑いの草を生えまくるくらい、腹がよじれて抱えるくらい笑い合ってしまっていた。

 この場に当人たちがいなくて、ほんと良かった。

 

「このことは本人たちには御内密で頼むね♪」

「もちのろんです♪ 国家機密以上の厳重さで秘密にしておきますね」

 

 この辺にしておこう、今頃二人とも、噂の風に吹かれてくしゃみをしていそうだから。

 

「長話も過ぎちゃったね」

「いえいえ」

 

 トーク自体もそろそろお開きにしておかないとな、と、背後のゴールドタワーに今度こそ雀を送り返そうとしたその時―――私の脳裏に、神樹様からの神託(おつげ)のビジョンが届けられた。

 

 

 

 

 

 

 神託を受けた朱音は翡翠の眼を戦士へと変身させて、立ち上がる。

 

「朱音さん?」

 

 ほどなく、朱音と雀の端末から、かの警報が鳴り響く。

 

「これって……もしかして」

「敵襲の警報だ」

 

 朱音は端末の通信を開く。

 

「こちら朱音、現在大束町の臨界公園にいる、恐らくここが樹海に一番近い」

 

 瀬戸内海に、樹海のドームが出現し、雀は無意識の内に立って海上に佇む結界を見つめていた。

 

「先に樹海に突入する」

『分かったわ、注意は怠らずにね』

「了解」

 

 通信を切った朱音は、樹海を見据えて数歩足を進めると。

 

「朱音さん……」

 

 雀が自分を呼び、彼女がいる背後へ振り返る。

 

「散々お世話になっておいて………こんなこと言うのは忍びないんですが」

「雀、皆まで言うな、だよ」

「っ………」

 

 雀が言おうとしていたことを制しつつ。

 

「私は、災いを前に無力で戦えない生命(いのち)を守る為、神々の醜い内戦(シビルウォー)なんかのせいで、これ以上人々の悲しみを増やさない為に、この世界に来て―――〝ここにいる〟」

「朱音さん……」

「勿論、君がいる居場所(せかい)もね」

 

 戦士の眼のまま朱音は雀へと微笑み、彼女にとって異世界であるこの世界にて、己が戦う理由を、信念を――高らかに謳い上げた。

 二人は頷き合う。

 朱音は海上の樹海へと瞳を向け直し、悠然と歩み出すと、同時に彼女の横に相棒(トト)が実体化。

 首に掛けていた勾玉を右手で取り、胸の前に添えると。

 

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪(我、ガイアの力を纏いて、悪しき魂と戦わん)〟

 

 聖詠を、粛々と、宙(そら)へと高々に歌い上げる。

 勾玉より暁よりも鮮やかな紅緋色の光が、風とともに流れ出し、朱音の葡萄色がかった黒髪を揺らめかせ。

 

「ガメラァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!」

 

 右手に携えた勾玉を真っ直ぐ伸ばして夕焼けの上空へと翳し、叫び上げ、眩い閃光が朱音を覆い包む。

 この強い輝きに、雀は両腕を瞑目した顔の前で交差して光の奔流を凌ぐ。

 やがて光が治まり、そっと交わした両腕を解いて目を開くと―――ギアを纏い変身した朱音の勇姿(うしろすがた)を目にした。

 そして―――確かに、また見えた。

 守護神――ガメラの、勇壮さに溢れた巨躯を。

 

〝~~~♪〟

 

「行くよ――相棒!」

「(おうさ!)」

 

 胸部の勾玉(マイク)より流れ始めた戦闘歌の伴奏をバックに、ギアの推進器(スラスター)が点火、白煙と強風を舞い上がらせて、朱音とトトは垂直に飛翔。

 そうして樹海の方へと飛び、急行していく。

 風を身に受けながらも、雀は見えなくなるまで、朱音を見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 実は、戦場へと急ぎ飛ぶ朱音を見上げる者が、もう一人いた。

 

「あれが………草凪朱音………ガメラ」

 

 そう呟いた少女こそ、防人部隊の隊長――楠芽吹その人であった。

 

 

後編、終わり。

 


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