数日経ったある日、ジョンソンは、家の後ろにある山を見つめるスティーブを見て一言、呟いた。
「⋯⋯なぁ、あんた。
山を見つめてどうしたんだ?」
「⋯⋯削れば足りるか?」
「え、削るって⋯⋯あの山をか?」
「そうだ、あれを削って壁に充てられるかと思った。」
「⋯⋯正気か?」
「⋯⋯正気だ。」
そんなやり取りをした今日の朝。
ジョンソンは、驚き呆れていた。
ラージチェストが何個あれば足りるのかも、検討がつかない。
そんな先の見えない大きな事を、スティーブはやろうとしているのだ。
⋯⋯とまぁ、軽めに振り返って覚悟を決めて、今は昼頃。
で、それを実行に移そうと大量に石のツルハシを用意した。
それから、石レンガを作る過程に石が必要になるのでかまどを12個用意した。
さらにそれを入れるためのチェストもそれなりの数を用意した。
⋯⋯何軒か空き家を壊して得た木材で作ったが、後でもっと良いのに建て替えると思ったのか、ジョンソンからのお咎めは無かった。
どの道家は半壊なので、直すより一から作り直した方が早い気がしなくもない。
準備は出来た、やるか。
空き地にラージチェストを縦に積み、地道に山を登って頂上から始める事にした。
中途半端な高さから始めると、落ちて重症を負いかねない。
そういうのもあり、頂上を選んだ。
村を一望出来る貴重なスポットだが、万が一ここから襲撃があっても困る上に、壁作りの素材が足りたとしても、作るのが面倒だ。
ここを平らにするという意味も込めて、山を崩す。
〜3日目の終わる直前まで時間は飛ぶ。〜
⋯⋯ひたすらに黙って山を丁寧に削っていく。
歌なんて大したものを知らないので、鼻歌は歌わない。
ダンスなんてそもそもやらない。
読書をしようとも思ったが、長時間やっていたからなのか、視界がボヤけてきて、持参してきた本を読む事さえやれていない。
もっとも、そんな状況で本を理解できる自信が無い。
さっきは丁寧とは言ったが、集中力も削れてきて、他のものに惹かれては戻るを繰り返している。
気分転換と称したモンスターハントも、最初は軽快に倒せはしたが、最後は四方から矢攻めに遭い、すぐ下を掘って入口を塞ぎ、そこからまた作業を進める事を繰り返していた。
溜まった丸石は、山を降りては家の隣にあるチェストにしまって、また登る。
偶然にも、ベッドに近づくのは昼間なので、寝る事は許されなかった。
⋯⋯正直、夢を見るのは簡単でも、その夢を現実にする事は難しい。
夢は瞼の裏に映っても、その先には映らなかった。
それを山が物語っている。
中途半端に数ブロック低くなっただけだ。
またコンディションが整ったら、この夢を掘り下げてみようとは思うが、長時間はもう二度とやらないと誓おう。
挫折して曲がった心、それを具現化するように崩れかけた身体、証拠としてインベントリに残った64個の丸石の集団。
それを全て足して山を下る。
幻覚だろうか、空を見上げると何かが飛んでいる。
青い得体の知れない何か。
目が緑に光っている。
今までに見たことがない。
ぼんやり眺めていると、急降下してこちらの肉を啄んできた。
ノックバックで山から墜落する。
頭から村のある高さまで堕ちる。
ニワトリのようにふわりと落ちることは無く、愚かに地面に打ちつけられる。
⋯⋯その衝撃で、完全に動かなくなった自分を感じた。
ぶつかった衝撃で吹き飛ぶ土に混ざって、ボロくなったツルハシや剣、丸石を横目で眺める。
走馬灯が脳裏に焼き付く。
ここまでの奮闘の記憶と、出会った新しい仲間、そして⋯⋯誰かもわからない金髪が目立つ緑の服を着た女の後ろ姿⋯⋯。
それが脳裏に流れ流れて、そしてついに途絶えた。
⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯おい!」
「おい、大丈夫かスティーブ!」
目が覚めると、ジョンソンの家に置いたベッドの上で寝転がっていた。
⋯⋯作業帰りに空飛ぶ何かにつつかれ、そして落とされた事以外に記憶は無かった。
頭は痛くない、身体を痛めたような証拠は無い、そして所持品も無い。
無事を伝えると、ジョンソンは安堵の表情を浮かべた。
遅れてやってきたモデストも、大丈夫かいと心配をしてくれた。
「あんたが倒れてしまった瞬間を窓から見て、俺はもうここで終わりかと思ってしまったが、杞憂で良かった。
⋯⋯俺みたいな例外がいるせいで、余計な事を考えてしまう。」
「クラフターは原因不明の力で復活するのを忘れていた。
だが、もうしばらくこんな思いはごめんだな。」
自身も、謎のモンスターに襲われて別の場所にリスポーンしたという例外持ちだったのを思い出した。
それを言ったら、生きていた事をめでたく思ったらしく、ジョンソンは笑い出す。
それにつられて、こちらも笑った。
そんな中で、蚊帳の外にいるモデストは⋯⋯ポカーンとした表情でそれを見つめていた。
笑いが収まったところで、謎の飛ぶモンスターについて話すことにした。
「⋯⋯さて、笑うのはこのぐらいにしておこう。
まだ話が終わっていない。」
「あぁ、まだ途中だったな。」
「そうだな、今回倒された原因でも言っておこう。」
「⋯⋯なんとなく予想はつく、疲労か?」
「いや、山から倒れ、崩れ落ちる程の疲労では無かったからこれは違う。
だが⋯⋯嘘みたいな話に聞こえるかもしれないが聞いてくれ。
⋯⋯見慣れない暗い青色の生き物が空を飛んでいた、それも大量にだ。
そして、実際につつかれて叩き落とされた原因とも言える。
あれは一体⋯⋯?」
ジョンソンに簡単に伝えたが、それは疲労からくる幻覚だと一蹴された。
空を飛ぶ敵なんぞ見た事がないと。
だが、モデストは幻覚じゃないと横槍を入れた。
「多分それは、ファントムだよ。
緑色の光る目をしていたなら、きっとそれだ。
ちょっと本を取りにいってくる。」
しばらくして、モデストは図書館から1冊本を持ってきた。
タイトルは⋯⋯襲撃者の記録?
モデストはページをパラパラとめくり、止まって開いて見せてきた。
「スティーブ、君の言っていることはこれかな?」
「⋯⋯それだ、うっすら見えた形と同じだ。」
「なら良かった。
対策は簡単に出来るよ。」
「どうするんだ?」
「3日以上の徹夜を避けるんだ、簡単でしょ?
スティーブ、君はよく頑張っているけど、休憩も大事だよ。」
「あ、あぁ。」
「次からは、倒そうと思わない限りこまめに寝るんだよ?」
モデストからの忠告を受けたあと、彼はじゃあと言って教会に戻った。
余程の理由が無ければ、素直に寝る事を心掛けるとするか⋯⋯。
ジョンソンにベッドを貸してもらった事に礼を言って外に出て、落ちた場所に着いた。
無事、経験値と道具を全て回収出来たので、丸石をチェストに放り込んで、道具も二つをくっつけて修繕した。
山を見つめて、深くため息をついた後、またジョンソンの家に戻った。
ちょうど戻ったタイミングで、雨が降ってきた。
中々の土砂降り、このままここで待機するか⋯⋯。
ジョンソンにしばらくここで雨宿りすると言って、階段ブロックの椅子に腰掛けた。
⋯⋯外は土砂降りで終わらないらしい。
雷も酷くなってきた。
こりゃ、昼間はもう外へ出られないだろうな⋯⋯。
~同時期、スロービレッジにて〜
「村長さんよぉ、今日は雨足がやべーな。」
「そうだな、俺もこんな天気にゃ水やりはやめとくぜ。
もう花はたらふく水を飲むだろうしよぉ。」
「雨なのにすぐ水をやろうとするんじゃねーって。
花が思いっきし吐くだろうが。」
村長とその友人は、雷雨の中、家できのこスープを飲みながら雑談を交わしていた。
しかし、友人は中で雨宿りは長く出来ないらしい。
門限のせいで、自宅に帰らないといけないからだ。
そんな訳で、貧乏ゆすりをしながら出されたスープを飲んでいたものの、とうとう限界が来たようで、ついに雷雨の中に突っ込んでいってしまった。
⋯⋯友人は撃たれた、雷に。
そして⋯⋯正気を失った。
彼は瞬きよりも早く、妙なローブと帽子を着込んでいた。
「おい、大丈夫か!?」
村長は友人に問いかける。
が、答えは投げ返される。
ポーションという形で。
「思いだしたよ。
抑圧的になると、内に秘めた心は黒くなるって。」
「あぁ⋯⋯ぐぐ⋯⋯。」
毒に蝕まれ、意識が朦朧する中、村長は人生最大級の大声を出す。
「今日は酷い雷だ⋯⋯!!
みんな⋯⋯家に避難しろ⋯⋯!!」
赤黒いポーションが体に染み付いた瞬間、村長は煙になった。
それを合図に、雷は勢いを増す。
集中して撃たれる、村人にも、家々にも、次々と。
雨の努力虚しく、撃たれた家から瞬く間に火が上がり、消えるブロックの隙間を縫うように、正確に村人を撃つ。
「家の中もダメなのかよちくしょう!!
あぐぁっ!!」
鍛冶屋にいた1人の村人は、この惨劇を伝えるべく、これから出すはずだった依頼本に、緊急事態を知らせるべく書き込む。
殴り書きだが、それを直す余裕も無かった。
「エンダーチェストは⋯⋯あった!
どうか⋯⋯届いてくれ⋯⋯!!」
ダンクシュートを決めるが如く本を入れた瞬間、雷は落ちる。
そして⋯⋯全員が同じ衣装に身を包み、同じ帽子をかぶり、同じ意志を見出す。
抑圧から解放され、自由になる⋯⋯!!
村長から、クラフターから、支配から逃れる為に⋯⋯!!