もう1度、村へ。
もう一度スロービレッジだった場所に到着した。
剣はまだ新品、防具もポーションが乾いてそのままな所もあるが、一応ピカピカだ。
食料もまだ余裕がある。
先程の復習を糧に、もう一度難問に挑むとしよう。
再び、例の村まで戻ってきた。
日は少し斜めに落ちている所だが、まだ空の色に茜色は見当たらない。
そして、先程の歓迎もあってか、外をちらちらと覗く元村人達が遠くから見えた。
かなり警戒されているようだ。
だが、こちらもそれに関しては同様の気分だ。
しばらく木に隠れながら偵察をしていると、無線が入ってきた。
ジョンソンからだ。
「スティーブ、多人数戦に持ち込むのは極力やめておくんだ。
四方八方からポーションを浴びたら、命の保証はない。」
「さっきの1発を貰った時点で、単体でも命の保証は厳しそうに感じた。
⋯⋯はぁ、ついてないな。」
「まぁ気を落とすな。
さっきの偵察のお陰でわかった、良いことを教えよう。
村の左側を見てくれ、あそこは手薄そうだ。」
言われた通りに左側を見ると、確かに1人しかいなかった。
家の死角にもいるかもしれないと、別の所に移動してみたが、影には空気しか無かった。
これを活かさない手はない。
まずは正面にいる1人を相手にする。
先程の戦闘で相手が敵とみなした場合の行動は把握したので、先手を取ってそのまま押し込んでしまおう。
走りながら相手が投げたポーションを右に避け、次に投げようとした所を剣で滅多刺しにした。
白い煙になって反撃する様子もないので、1人目終了。
次は、相手の目に入らない家の裏側からゆっくりと近づき、外を向いている人を見る。
なるほど、後ろは見向きもしない。
それなら話が早い、そんな調子で1人目に切りかかった。
1発2発、相手が後ろを振り向くまでの間に、剣をしっかりと振り続ける。
相手は口に赤い液体を運ぼうとするも、検討虚しく倒れて白い煙に変化したのを見て、2人目終了。
殺られる前に殺れとは、まさにこの為にある。
投げられなければ、こちらには無害同然だ。
飲もうとしていた赤い液体は白い煙にはならなかったようで、そのまま割れることなく残った。
これは持ち帰って後でジョンソンに聞いてみることにしよう。
次にやるのは肉屋側にいる1人。
相手が振り向かないうちに、肉屋の陰に隠れて様子を伺うと、奥にもう1人いた事に気がついた。
同じように外を監視しているように見えるので、向こう側に言った辺りで手前の1人を倒そうか。
ー3分後ー
奥の1人が向こう側に⋯⋯行かない。
2人で会話を始めたらしい。
しかも、こちらをがっつり見ている。
そして、2人はすぐに歩いて向かってきた。
⋯⋯恐らくバレた。
一直線なので、これは恐らくではなく確実だ。
1人は大声をあげて襲撃だ!と言い放った。
それに応えて、村の内側から足音がだんだんと大きくなる。
同士討ちを狙うのも手かもしれないが、今でもまだ彼らの戦闘能力を全て把握出来ていない。
今は逃げに徹する他ないだろうか。
だが⋯⋯これ以上伸ばしたとして、やつらはもしかしたらこちらへ襲撃にくる事も否定は出来ない。
目視で確認出来る程に近いからだ。
ならば⋯⋯日常の応用で誤魔化すしかない。
事前に持ってきておいたスコップで真下を3マス掘り、上を土で塞ぐ。
これで簡単に相手を欺ける。
(ただし、草が生えていないのでクラフター相手には効かないだろう。
穴を開けられないから効くという話だ。)
最初からこれを使った方が良かったと思うが、やつらも音でこちらを認識しているらしく、今真上に何人かの声が重なって聞こえる。
ガラスの割れる音から、必死に地面に向けてポーションを投げ込んでいるように思える。
そのままの脱出は難しくなった。
横から掘ろうにも、やつらに先回りされる可能性もある。
ならば⋯⋯下に掘る。
ツルハシを振るって、10ブロックさらに下へ行く。
やつらの声も聞こえなくなったところで、湧き潰し対策として松明を置いた。(どちらかというと、視界の確保の方が優先されている。)
その後はジョンソンの授業で習ったブランチなんちゃらみたく横方向に掘り続ける。
7ブロック辺りで家の裏側の真下にいる⋯⋯と信じたい。
地図の縮尺のせいで、細かい部分まで見通せないうえに方角もわからない。
やつらにきずかれない事を祈りながら、真上へ丸石を足場に掘り進む。
土を削って地上に出たと思ったが⋯⋯木の板にぶち当たった。
どうやら、鍛冶屋の中に出てしまったらしい。
だが、これは同時にチャンスでもある。
ここに出たという事は、やつらがまずいない事は明らかだ。
証拠に、偵察した際に扉の無いところから怪しい煙は出なかった。
鍛冶屋に用事はないだろう。
武器も瓶詰めの液体に限られる。
⋯⋯それから、鍛冶屋の人は几帳面なのかなんなのか、大体の人が自作の宝箱に物を詰め込むと、過去に本で見たような記憶がある。
というより、前にいた鍛冶屋のおっさんも宝箱を作っている風景を見たことがあった。
その記憶が正しければ、部屋の奥に宝箱がある。
後ろを振り返ってみると、確かにそこに目的の物があった。
しかし、不思議と後ろめたさが出てきた。
少しだけ怖くなったので、聞いてみることにした。
「ジョンソン、1つ聞いていいか?」
「⋯⋯言わなくてもわかっている。
その宝箱を開けるんだろう?」
「そうだ、だが⋯⋯。
俺が勝手に物を取り出してしまってもいいのだろうか?」
「持ち主はとっくに正気を失っている。
埃を被るぐらいなら、弔いという訳では無いが使ってやった方がいいと俺は思うんだが⋯⋯。」
「もし⋯⋯。
もし、宝箱の持ち主があの帽子と服を手放したのなら、その時は謝って、それから元あったようにしておいてやろう。」
謝罪の為の言葉を考えながら、宝箱を開けることにした。
開けたと同時に、目が少し痛くなった。
中には、怪しげな光を放つ弓と、赤黒い液体が付いた矢が無造作に入っていた。
数えてみたところ、ちょうど1スタックだった。
どちらも初めて見たので、またジョンソンに聞いてみることにした。
「ジョンソン、弓が紫色に光っているぞ。
おまけに矢の先に変な汁がついてる。
これは⋯⋯?」
「それは⋯⋯光るのはえんちゃんと、だったか。
かなり昔の記憶だから、ハッキリとした名前が思い出せない。
だが、その光がある道具は大体スゴい。」
「どんな風にだ?」
「それは⋯⋯んんと⋯⋯とにかくスゴい。」
「そんな大雑把な説明じゃあなにもわからん。」
「もう片方ならわかる、ポーション付きの矢だ。
当たった相手にそのポーションの効果が付く代物だ。
赤黒い色をしているから、それは追加ダメージを期待出来るぞ。」
「そうか、とりあえずありがとう。」
ジョンソンは元クラフターらしいが、この変な光を放つ弓についてはそこまで知らないようだ。
ただ、矢については理解出来たので、試しに使ってみよう。
時間が経ったからか、やつらの配置は元に戻っていた。
また外を向いている帽子野郎に、1発撃ち込んでみよう。
弓の使い方自体はわかっている、だがこれから撃ち出す矢にどれほどの殺傷力があるかは未知数だ。
不安と期待が入り混じる中、1つの矢を真っ直ぐ正確に胴体へ飛ばしてみた。
見事に当たった、っとは言っても15ブロック程度なら簡単に当たる。
⋯⋯が、矢が当たった瞬間、帽子野郎は全身を痙攣させながら白い煙を上げていった。
なるほど、恐ろしく強い。
自分が作ったそれよりも、ずっと強い。
この光る弓は、いったいどのような製法で作られているのかを知りたいが、今は目の前の目的を果たす事に集中しよう。
弓自体はまだ戦える様子だ。
この後は、気づかれないように物陰を移動し、弓の力に頼って次々と白煙を上げていった。
しかし、一方的に倒し続けるのは整地をするのと同じぐらいあくびが出る。
そのぐらい単調でつまらない。
本来なら単調でいる方が、安全かつ楽に事が進むが⋯⋯。
仕事に私情を持ち込むのは控えておこう。
1人とたまたま目があってしまったが、矢を1発飛ばしたら黙って白煙を上げた。
ここでジョンソンから連絡が入った。
「スティーブ、あと1人でここの村の住民の総数と釣り合う。
だが⋯⋯。」
「どうしたんだ?
さっさと倒して帰れと言うと思ったが、何か心残りがあるのか?」
「⋯⋯1人を連れ帰ってきてくれるだろうか。
説得してみてくれ。」
「そんな無茶な事を突然言うな。
全員敵意剥き出しで、実際死にかけた。
説得もなにもないだろう。」
「いや⋯⋯依頼者がまだ生きている可能性もある。
ダメならそのまま楽にしてくれ。」
「⋯⋯はぁ、希望があるならな。」
かなりの無理難題を強いられたが、実は同じ事を少しだけ考えていた。
こいつらを知れば、もしかしたら何かしらの発展に繋がる糸口になるかもしれないと。
夢物語みたいだと自分自身では否定はしたものの、ジョンソンも同じ事を考えていたのなら⋯⋯。
やってみる価値はある⋯⋯のか?
だが、考えながら村の中で最後の1人を探しているが、中々見つからない。
出会わなければ、まず説得すら出来ない。
その時だった。
「あ、あのー。」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ってみると⋯⋯帽子野郎だった。
最後の1人なので、説得(という名の脅迫)という形で持っていた剣を突きつけてみた。
「あわわ、刺さないでください!
こ、これでもダメですか!?」
急ぎ気味に頭に乗った帽子と、着ていたローブを脱ぎ捨てた。
⋯⋯見えなかった内側には、前に依頼してきた彼女という事がはっきりとわかった。
といっても、他の村人と同じ顔かつ同じ服を着ているわけなので、声でしか判別出来ないが。
「⋯⋯前に依頼で会ったやつか。
全員倒してしまったが、無事ならそれでいい。」
「そう⋯⋯ですか。」
「報告するから少しだけ待っていてくれ。
⋯⋯ジョンソン、1人生き残っていたやつがいた。
どうする?」
「本人の意思次第でこちらに来ないか誘ってくれないか?」
「よし、やってみよう。」
彼女にこちらの事情を色々と話した。
村の壊滅について、ここに至るまでの経緯、これからの事⋯⋯。
そして最後に、仲間として受け入れてくれるか否かを聞いて終わらせた。
彼女は、身内や村長などを殺した罪を着た男を少し疑ったりもしたが、現状が現状なので仲間として従う筋の事を伝えてくれた。
「ジョンソン、説得に成功した。
後で何が出来るか聞いておくことにしよう。」
「そうか、わかった。
気をつけて帰ってきてくれ。
後で俺も、色々聞かせてもらうことにしよう。」
こうして、1つの事件と1つの村は完全に終わった。
⋯⋯だが、意図的に雷を落とすような真似はどうしたら出来るのだろうか。
それに加え、何故か1人だけ都合良く生き残った理由も現時点では不明。
俺達の向かう復讐の向こう側には何があるんだ⋯⋯?