てかもう1年経つんかい、進級もしてんのに全然自覚出来てないよ。
日が頂点に達する前に休日が終わってしまった。
ストレートアローの肩書きを持った爺さんに付き合わされる事になったからだ。
⋯⋯これといった不満は無いが、話が脱線している事が気になってしまう。
そこは臨機応変に対応するしか無いか。
「んん?
どうしたんじゃ、そんな気難しそうな顔をしおって。」
「あ、あぁ、いや⋯⋯。
なんでもない。」
「気の所為なのか?
ならいいわい。」
先を考えているとなにかと変に怪しまれそうな気がするので、今は目の前の出来事だけを考えることにしよう。
家に入ると早速、例の黒い箱とやらを見つけた。
緑色の目が真っ直ぐ壁を見つめていて気持ち悪い。
夜になったら、突然手足が生えて襲ってくる⋯⋯といった事にならないか不安でしょうがない。
(しかし、爺さんもジョンソンも気にしていないようすなので、結局心配する必要性は無いが。)
ストレートアローの爺さんは、その辺にほっぽっていたらしい弓を手に取り、独り言を呟き始めた。
あまりにも小声なのでよく聞えないが、断片的に弓作りのイロハなるものを思い出しているところだという事だけわかった。
そして、こちらへ振り返って手招きをした。
「わしは長生きをしたもんで、もう弓を引く力なんてないわい。
ちょうどお主のような人を探しておった。
ところで、ジョンソンは元気か?」
「あぁ、元気だ。
ここに来たのも、彼の仕事から来てるからな。
⋯⋯それが無ければ、ここに来る事は偶然でもない限り無かっただろうな。」
「そうかそうか。
話は戻すが、ほれ、ちょいとお主の腕前でも見せてもらおう。
また外に出るぞ。」
爺さんは、いかにも古そうな弓と矢を投げ渡してきた。
恐らく自作のものだろうが、それでも雑に扱いすぎだと思った。
外に出てから、爺さんは山を指さした。
あの山の中腹に、昔作った的(かぼちゃ)があるらしい。
そこを目掛けて撃ってみろとの事だ。
弓の扱いは言うほど得意ではないが、やるしかない。
この前のように近距離でバシバシ撃ち込んでいくのではなく、その逆、遠距離にある的へ丁寧に撃ち込んでいくのは、今回が初めてだ。
まずは1本番える。
肩の力を使い、身体の軸を崩さないようにしながら、ゆっくりと真っ直ぐに後ろへ引っ張る。
そして、そのまま真っ直ぐ後ろへ手を送り、ちょうど水平に矢は放たれた。
なるほど、爺さんの作った矢は、恐ろしく真っ直ぐ的へ向かって行くのが見えた。
やろうと思えば、ここから派遣村まで飛ばせるのではと錯覚してしまう程、本当に真っ直ぐ飛んでいった。
「現役の時に作っただけあって、良く飛ぶもんじゃ。
お主⋯⋯随分と上手いものだ。
ジョンソンよりもセンスがあるんじゃないかのぉ。」
「今のはきっと偶然だ、次は外すだろう。」
しかし、言ったことが本当になる事は無かった。
全ての矢は正確に的を捉え、ついに的として使われていたかぼちゃが針山みたいに矢の餌食になっているのを、サングラス越しに確認出来た。
我ながら恐ろしい何かを感じる。
「⋯⋯外すどころか、全て当てるなんて。
お主⋯⋯これが初めてなんじゃろうか?」
「初めてだ、自分でもここまで正確な狙撃が出来るとは思ってもいなかった。
⋯⋯すまない、手が震えてきた。
少し休ませてくれるか?」
「あぁ、構わん。
集中力は人並みで逆に安心したわい。」
人並みという言葉に少し反応してしまったが、それが普通だ。
弓なんて数回引いた程度だから、これでいい。
⋯⋯ただ、当たり前のように上手く引けて、正確に当てられたのは一体なんだったんだ?
もっと堂々と外しても、別に違和感は無いと思うが⋯⋯。
それはさておき、手の震えは収まった。
その事を爺さんに告げた後、爺さんは久々にやるきがみなぎったと言って、家に走って戻っていった。
とても歳をとっているような走りには見えなかったが、それほど心に火のつく何かを感じたのだろう。
まだ話自体は終わっていないので、自分も家まで走ってついていった。
家の中で爺さんは、チェストから棒と矢じりにする火打石、そして鶏の羽を手に抱えて机に向かっていた。
それから作業台を使わず、丁寧に矢を作り始めた。
雑にひねくれた木の棒を削って真っ直ぐにし、火打石を机の横にあった金床でゆっくりと火花を散らしながら削り、羽を優しく整える。
作業台なら一瞬で終わってしまうような作業を、時間をかけて一つ一つ綺麗に仕上げていく。
ストレートアローの名は伊達ではないと感じた。
「試しに1本作ってみた。
⋯⋯どこまで飛ぶか、ちょいと近くにある海の方で撃って欲しいところなんじゃが⋯⋯。
もう夕方じゃな、時間を取りすぎたな。」
「夕方か⋯⋯。
一旦帰らせてもらうぞ、俺も自分の家に1度帰る予定だったからな。」
帰ることを告げて、ようやく本当の自宅に足を運び出した。
地図を頼りに森の脇を通っていくが、日が暮れそうなのもあって、中々見づらくなってくる。
定期的に松明を近づけて、何度も地図を睨みつけていたら、目の前に気が付かず体をぶつけた。
⋯⋯歩きながらはダメだな。
視界がかなり塞がるし、目の前の避けられて当然の木にさえ気がつけない。
特に酷くぶつけた額をさすりながら、水辺にまで辿り着いた。
ここでオーク1号、着水だ。
(オーク1号は即興で付けたボートの名前である。
ネームセンスは期待するだけ無駄なのだ。)
少し疲労が辛くなってきた。
ファントムが飛ぶ程の徹夜はしていないが、それでもきついものはきつい。
月光に照らされながら、オーク1号は1つ浮かぶ島にぶつかった。
かつて弄った島との再会だ。
ただいま。
久しぶりの我が家は大きく見えた。
そしてダサくも見えた。
ただ、これ以上無い安心感でそれはどうでも良くなる。
作った苦労の補正はとても大きい。
早速中に入ったところ、急に狭く感じてしまった。
ジョンソンの家よりも面積的には小さいからなのか。
それはさておき、1番に重い鎧と共にベッドに身を投げた。
物理的にも、そして身体的にもガタが来ていたようで、起き上がる気が0になった。
翌日になって昼頃まで寝ていた事実に気がついた。
かなり寝てしまったようだ。
急いで部屋を出てボートに飛び乗り、遅れた朝食も兼ねた昼食のステーキを齧りつつ、ボートを漕いでいく。
歩きよりは速いが、しかし急ぎで行くならもう少し速く漕げたらいいだろうに。
もう少しトレーニングを積むべきか。
そう思いながら対岸まで漕ぎ切り、ボートを回収して森の脇を走り、日はまだ真上の辺りで家に到着した。
「ぜぇっ⋯⋯はぁっ⋯⋯。
待たせたな。」
「おお、ちょうど良かったわい。
わしも時間が欲しかったんじゃ、別に急ぐ必要も無かった。」
「そうか⋯⋯はぁっ⋯⋯。
ちくしょう、連絡さえ取れていれば⋯⋯。」
「あぁ連絡⋯⋯連絡⋯⋯。
そうじゃ、わしもそのサングラスをジョンソンからもらっていたわい。
多分わしからも無線で連絡は出来るはずじゃ。」
「あるなら早めに思い出してもらいたかった⋯⋯。」
軽く文句を言ったあと、爺さんは家に来てくれと手招きしながら言ってきた。
ついていくと、かなりの数の矢をこちらに見せてくれた。
「どうじゃ、わしも久々にやるきになったからのう。
このぐらいなら無理なくつくれたわい。」
「おぉ、凄い。
⋯⋯ところで、これ全部を買うならいくら出せばいい?」
エメラルドはジョンソンに送ってもらった分があるが、品質を見ると足りるかどうか不安になってくる。
が、答えは礼もあってか0との事。
「いいのか、これを全部。
随分と時間をかけただろう。」
「いいんじゃ、半日もわしのリハビリに付き合ってもらったんじゃし、オマケに急かしたのも悪かった。」
「エメラルドの1つ2つはまるで惜しくない出来だ。
欲しいならあげても構わない。」
「なら、これでも買うかい?」
そう言って爺さんは、小さな赤い出っ張りが縦に並んだ奇妙な物を手に取って見せてきた。
「これはサイトじゃ。
小さく数字が書いてあるじゃろ?
これはブロック数をさしていて、これに合わせて撃つと無い時よりも正確に当てられるんじゃ。」
「なるほど、簡易的だが実用性は高そうだ。
いくらだ?」
「エメラルド2つといったところじゃな。
昔作ったものじゃが、ジョンソンをこき使って調整しただけあって、精度はいいぞ?」
「よし、買おう。
⋯⋯あいつも苦労してんだな。」
サイトとエメラルドを交換した後、早速自分の作った弓に取り付けた。
少し重くなったものの、確かに狙いは付けやすくなった⋯⋯気がする。
試しに歩いて測った30ブロック先に適当に土を盛り、また戻ってサイトを頼りに撃ってみた。
矢はしっかりと赤いでっぱりの通りに土の壁を捉えた。
ジョンソン、お前の苦労がこれから先、俺の元で役に立ちそうだぞ。
矢に加えてサイトまで取り付けたので、昨日出来なかった試し打ちをするべく、外に出た。
外の太陽はまだ上にある。
早速、村から目視で確認出来るほどに近い海へ向かった。
海に辿り着いたあと、弓を構える前に何となく海中を眺めてみた。
海中はかつて見たことがない程に賑やかだった。
こちらの海とは違い、赤や青の色をしたブロックに、光る小さな物体、揺らめく長く伸びた緑の植物、どれも見たことがない。
試し撃ちが終わったら、軽く泳ぎにでも行きたいところだ。
ただ、今の目的は別方向。
思いは一旦完結させ、弓を構え、矢を番える。
そして、昨日のようにゆっくりと同じように弦を引き、指を離す。
矢は弧を描くように飛ぶ⋯⋯いや、それどころか海に落ちる気配も無く、そのまま地平線の彼方へ消えていってしまった。
ストレートアロー、ここに在りか⋯⋯と思わず口に出してしまった。
年老いてもなお、ここまで優れた矢を作り上げるとは⋯⋯。
もう1本撃ってみたが、同じように地平線に吸い込まれていくように飛んでいった。
昨日の練習時に、派遣村まで飛びそうな勢いと思った事がまさにその通りになってしまった。
改めて恐ろしい職人がいたものだと思う。
モンスター相手にどれだけ対抗出来るかを知りたいところだが、まだ日は沈まないので1度帰る事にした。
色々と荷物を置いてから海水浴に励みたい気持ちもあったが、それよりも先に、爺さんへ腕は衰えていないと報告ぐらいはしたかった。
それもあって、小走りで帰った。
村に入り、爺さんの家がだいぶ近くなった辺りで、突然無線が入ってきた。
爺さんだった。
「お主、大変じゃ。
例のスナイパーが現れた。
今すぐにどこかへ隠れるんじゃ。」
「わかったが、どこから撃たれている!?」
「山の上からじゃ!!
とにかく、家に入るんじゃ。
たった今窓の向こうで1人が撃たれたんじゃが、あれはかなり致命傷に見える。」
「そうか、窓の向こうなら家か。
絶対に家から出るなよ!?」
「そんな事、とうにわかっとるわい。
お主の方が危険じゃろうに。」
撃たれた方向は山の上らしいので、山に目を向けサングラスを利用して敵を探す。
緑の服を着た女が、なにやら物騒な物を抱えて何かを探しているように見えた。
そして、顔を見るとこちらと同じサングラスを持っている。
「⋯⋯⋯⋯見つけた。」
無線からその事だけが聞こえた刹那、矢が頬を掠めた。
村人を殺し続けたのは、まさか自分をおびき寄せる為なのか⋯⋯!?
それはともかく、狙いは自分自身だ。
放っておいたら、ここが終わるのも時間の問題なのかもしれない。
試し撃ちの的が意図せずに決まってしまった。