⋯⋯さすがに令和が終わるまでには完結するでしょ。
これからも月一ノルマで頑張ります。
突如として現れてしまったターゲットだが、やつの戦闘能力はこの頬を掠めた1発が全てを示していた。
次も恐らく⋯⋯当てにくるだろう。
家の影に隠れながら様子を伺いつつ、無線をジョンソンにかける。
「⋯⋯ジョンソン、スナイパーが現れた。
やつは相当の手練だ。」
「あぁ、様子はこちらも確認できた。」
「⋯⋯やつの弱点はわかるか?」
「わからん、ただ前方にいたらやられるのは確かだ。
⋯⋯後方から奇襲を仕掛けてみるのはどうだろうか。」
「了解、まだ思いつきはしないが頭の中に入れておこう。
⋯⋯仲間に出来たら最高だな。」
「さすがに無理だろう。」
一蹴されたが、心の中では最低限のダメージで無力化して、説得をしてみたいところだ。
しかし、過程は思いつかない⋯⋯。
考えていたところ、偶然にも遮蔽物に利用していた家は、爺さんの家だという事に気がついた。
横にドアがあったので、藁にすがる気持ちで家に入った。
ここなら狙撃は出来まい。
入って早速爺さんは、しばらくここに隠れるべきだと忠告した。
しかし、このまま居座られたところで不安は死ぬまで続くだろうと考えると、早めに済ませた方がずっと楽だ。
窓からサングラスでズームして覗くと、スナイパーは異様な兵器を持ちながらじっと自分を見つめていた。
爺さんもサングラスで覗いていたが、かなり驚いていた。
「おい、どうしたんだ。」
「あの武器は⋯⋯クロスボウ⋯⋯!?
わしの試作品として渡した物が、まさかわし達の首を絞める事になるとは⋯⋯。
あぁ、皮肉なもんじゃ。」
「試作品⋯⋯?
少し教えてくれるか?」
「あぁ、いいじゃろう。
ついでじゃが、わしの昔話もお主にはきっと役に立つじゃろう⋯⋯。」
爺さんはクロスボウについて語りだした。
この間に、女が諦めて帰ってくれるといいが⋯⋯。
ー遠い昔ー
爺さんは昔、ストレートアローの肩書きを持っていた。
彼の作る矢は、恐ろしい程に真っ直ぐ飛ぶ代物だからだ。
当時大勢いたクラフター達は、こぞって彼の矢を頼りにした。
クラフターの中でも特に大量の矢を買っては消費し、何度も顔を出した女がいた。
ストレートアローは、そんな彼女にある話を持ち出した。
弓をも凌ぐ、新しい遠距離武器の開発である。
その話に女は興味を示し、事は少しずつ動き出した。
その兵器は、弓に新しい発射機構を取り付けたものだった。
トリップワイヤーフック(本来ならレッドストーン装置と呼ばれる自動化の技術に使われるもので、2つセットにして使う。糸を挟み込んで、踏んだものを感知する事が出来るのだ。)を、ストレートアローは機構に組み込んだ。
それは、フックに弦を引っ掛け、トリガーを引くとフックから弦が離れ、勢いよく矢を飛ばす仕組みである。
試行錯誤の末、試作品という形ではあるものの、それは完成した。
女はクロスボウを手に持ち、ストレートアローの指示に従い、ゆっくりと弦を引っ張る。
フックに引っ掛けて保持する事が可能なので、狙いを定める間に引き続ける必要性が無くなったのだが⋯⋯。
女は真っ赤な顔をしながら弦をどうにかフックへ引っ掛けた。
弦はかなり重く、かなり強い力で引っ張る必要があるのだ。
何度も引いているうちに女は疲弊し、そして倒れてしまった。
そんな彼女をみて、翌日少し引く力を弱くした状態でまた試射を行ったところ、これぐらいがいいと彼女は言った。
その日から、彼女は試作品であるクロスボウを色々な場所で使っていくようになった。
冒険でも狩猟でも、いつでも片時も離さずに持ち続けた。
ある日の事だった。
フックが外れかけで、持ち手もボロボロになったクロスボウを抱えて女はやってきた。
「そろそろ壊れそうだから、直せるかしら?
エメラルドは言い値で良いからさ。」
「代はいらん、そこまで大切にしたんだ。
今度こそ⋯⋯キチンと完成品にして返してやる。」
数日かけて、改修は完了した。
彼女の腕力も相応に成長した事を信じて、少し引きを重めに、狙いやすいようにサイトを付けて、クロスボウは再び彼女の手に戻った。
そして数日後⋯⋯女は冒険に行くという言葉を最後に消息を絶った。
その日を境に、周りにいたクラフターも冒険から帰ってくる者は少しずつ減っていき、ついに誰もいなくなってしまった。
そして⋯⋯ストレートアローは矢を作る事をやめた。
ー現在に戻る⋯⋯。ー
「ところで、あのクロスボウという武器は本当にあれ一つだけか?」
「わしが作ったものはあれだけじゃ。
じゃが⋯⋯消息を絶っている間に、他の誰かの手に渡った可能性も否定は出来んのう。」
「この後も油断は出来ないな⋯⋯。」
かなりのんびりと家の中で話をしたので、もう帰っていると信じたかったが、窓越しに覗いたところ、どうやら彼女はかなり忍耐力があるらしく、日が傾き始めてもなお姿勢は崩していなかった。
よくまあ疲れないことだ。
⋯⋯と思っていたが、サングラスでズームしてみると、なんと寝ている事がわかってしまった。
クロスボウの先がコクコクと上下している。
訂正、かなり疲れているようだ。
このチャンス、逃すまい。
同時に、ジョンソンの言っていた事から、ある作戦を思いついた。
爺さんに伝えると、快く了承された。
⋯⋯なかなか危険だが、爺さんは果たしてわかっているのだろうか。
もう一度言えばさすがに降りるだろうと思ったが、しかし答えは揺らがない。
命を賭けるらしい。
「わしも、もしかしたら今すぐに死ぬかもしれん。
別に後悔しとらん、今の世界にやりたい事リストは新しく作れる気がせん。」
「いいや、この先にもしかしたら出来るかもしれない。
終わったら俺達の村に来るか?」
「いいのう、帰ってこれたらの話じゃが。」
作戦はたった今始動した。
自分はまず村から出ていった。
無論目線はスナイパーから離さず、走って山の裏側へ向かう。
一方爺さんは、弓を構えて眠るスナイパーの様子を見守っている。
スナイパーは⋯⋯こちらの事なんぞ知らんとでも言うようかのように、まだ居眠りに勤しんでいる。
スナイパーが見えなくなる程に回り込んで、ちょうど真後ろに立った。
空は茜色に染まり出していて、このままだと真っ直ぐ向かえなくなってしまう。
スナイパーの様子はどうかと爺さんに聞いたところ、まだ居眠りを続けているらしい。
本当に好都合すぎて、むしろ不安になってきた。
ゆっくりと山を登りながら、徐々にスナイパーの元へ近づき⋯⋯。
ついに姿を捉えた。
地面は砂利や土のように踏む度に大きな音はしない石だったので、近付くのはとても容易だった。
ようやくスナイパーは目を覚ましたのか、クロスボウを抱えながら大きくあくびをしだした。
全くもって呑気なものだ。
「おはようございましたとでも言っておくか。」
⋯⋯あくびが終わりかけて振り向いたところを、思い切り後ろから蹴りあげた。
スナイパーは、ファッ!?と高い声を出した後に山から転がり落ちた。
少々手荒だが、奇襲成功だ。
眠っていたのが最大の敗因だ。
山から降りてみると、スナイパーは地面に激突し、そのまま気絶していた。
言うほど高くは無いので、死ぬ事は無いだろうと思っていた。
サングラスは割れてしまったが、形ですぐにこちらと同じものだという事がわかった。
クロスボウも一応無事だ。
爺さんは弓を持ったまま駆け寄ってきて、スナイパーの顔を懐かしそうに眺めていた。
「あぁ⋯⋯随分と久しぶりじゃのう。」
「話したい事は山ほどあるだろうが、まずは家まで運ぼう。」
地面に倒れたスナイパーを抱えて、爺さんの家まで戻った。
戻ってからベッドの上にスナイパーを乗せたが⋯⋯回復させる方法は、食べる以外に知らない。
さすがに今気絶している中、ステーキを口に突っ込ませる訳にもいかない。
それはもはや追い討ちに等しい。
やる事が無いので、スナイパーの所持品を片っ端から引っ張り出すことにした。
出てきたのは、クロスボウと羽がボロボロになった矢が3本程度、それから生の牛肉に壊れた多機能サングラス。
それだけだった。
恐らく途中で狩りをして生肉を貪りつつ、動物に向けて撃った矢を、何度も何度も抜いては繰り返し使ったのだろう。
「こんな小娘が、わしの作品をここまで大切にするとは⋯⋯。
ケチじゃのう、ケチじゃのう⋯⋯。」
爺さんは笑っていたが、ポツリポツリと床に落ちる粒は感情を隠せていない。
矢を眺めたりしていたところ、気絶していたスナイパーは目を覚ました。
「あれ⋯⋯ここは⋯⋯?」
「久しぶりじゃな、小娘よ。」
「⋯⋯あなたは誰?」
どうやら、女は先程の気絶が悪かったのか記憶を失ってしまったらしい。
しかし、爺さんが急いでクロスボウを抱えて必死にアピールしたところ、どうにか思い出せたようだ。
「あぁ思い出した!
ストレートアローのスミスさんだ!!」
「スミス⋯⋯?
爺さん、スミスって言うのか?」
「そうじゃ、ようやく思い出せたわい。
ありがとうな。」
「ところで、その青い服のおじさんは誰?」
「彼は⋯⋯⋯⋯。
なんじゃっけ?」
「スティーブだ。
⋯⋯はぁ、そろそろ記憶が危なそうだな。
今に始まった事でも無さそうだが。」
「そんな事を言うんじゃない!」
皆で笑いあって、久しぶりにギスギスとした雰囲気ではなく、温もりのある平和な空気を感じ取れた気がした。
まだ平和への道のりは遠く、復讐の道のりもまだ長い。
どちらも少しずつ足をゴールに近付けていると信じなければ、果たしてどこまで自分は持つのだろうか⋯⋯。
それは置いておくとして、今日はもう遅いので皆でベッドを並べて眠る事にした。
恐れることなく、毎日当たり前のように、この平和を感じ取れる日が来ることを願いながら⋯⋯。