⋯⋯相変わらずスローペースですが、完走を目標にしている事に変わりは無いので、月一は意地でも守ります。
狙撃者を蹴落としてから一日が経った。
蹴落とした事を謝ったが、本人は特に気にしていないようだった。
⋯⋯それよりも酷い目に何度も遭っているから、蹴落とされる程度で泣きはしないと。
それなら良かったと、ひとまず安心はした。
彼女の名はアレックスと呼ぶらしく、自他ともに認める狙撃の腕前を持っているそうだ。
だが、確かに正確だったが、こちらには頬を掠める程度しかダメージを与えていない。
1発でキッチリ仕留めるのは苦手なのだろうか⋯⋯?
それはさておき、早速アレックスにこちらを襲った理由を聞いてみることにした。
「こちらの村へ狙撃をした理由はなんだ?」
「うーん⋯⋯すっごく曖昧だけど⋯⋯。
あなたを殺せって命令されたのだけは覚えているかな。
どうして殺す理由があるのかは、聞いてもいないからわかんないや。」
「そうか⋯⋯今はどうだ?」
「今は元気そのものだけど、あなたを殺す気は無いから安心して。
よく見たら⋯⋯意外と悪くない顔してるし。」
「そんなに近づくな。
色恋沙汰に興味は無い。」
「ふーん⋯⋯そう。」
本心を言ってしまえば、こう言うのは全く持って不慣れだ。
この後の仕事に支障が出ても困るので、さっさと彼女を払い除けて1つ提案を出す事にした。
「⋯⋯で、1つ聞いておきたい事がある。」
「⋯⋯なによ。」
「俺の村に来るか?
人手が少しでも欲しいんだ、出来ることならその狙撃でサポートしてくれれば助かる。」
「はぁ、女心をわかってないのね。
容姿より先に狙撃の腕前の方を褒めるなんて。」
「容姿よりもイイものがそこにあっただけだ。」
「失礼だね。
村に行くけど、そういう所はもっと大事にしてよ?」
「わかったわかった、悪かった。
爺さんも一緒に来るか?」
「あぁ、わしも1人じゃとそろそろ厳しいからのぉ。
若いやつは何人か残っとるから、ここの再建は彼らに託すとしよう。」
こうして、自分とアレックス、スミスの3人は派遣村の帰路に立つのだった。
ボートをもう1つ作り、アレックスがスミスを乗せると言って、スミスの足はそちらに向かう。
太陽は真上、海は先までよく見通せる。
小さな航海の旅は、特にこれといった問題も無く快適に進んでいった。
⋯⋯ここの海は、本当に何も無い。
あのカラフルで賑やかな海は幻だったのだろうか。
そんな思いがするほどに、ここは殺風景だった。
陸地が見えてきたところで、いつもなら見えるはずの山が見えないことに気がついた。
どれだけ目を凝らしても、向こうの空が見えるだけである。
不思議な感覚に襲われながらも、3人は地を踏みしめる。
2人は派遣村を見つけ、アレックスは指をさし、アレがあなたの村なのと聞いてきた。
首を縦に1度振ると、嬉しそうに跳んで、スミスを置いて走っていってしまった。
遅れて村に帰って来たものの、何故か途中で掘るのを放り出した山が見当たらない。
「久しぶりじゃないか、スティーブ。」
そこには、折れかけたツルハシを大量に抱えたジョンソンがいた。
おまけに後方には、見知らぬ村人が3人いる。
1人は右目に眼帯を、1人は鉄の仮面を、1人は何もみにつけていなかった。
そして全員同じような前掛けに、茶色のブローチを腰に付けていた。
「ジョンソン⋯⋯アイツらはなんだ?」
「助っ人だ、スロービレッジを覚えているか?」
「もちろんだ、あの滅びた⋯⋯。」
「あぁ、確かに滅んだな。
⋯⋯だが、外にいた奴らが偶然生き残っていたんだ。
それから事情を説明して勧誘したところ、快く受け入れてくれた。」
「そうか⋯⋯で、あの山はどこへ?」
そう言うと、ジョンソンは全員を呼ぶよう3人に指示を出した。
直ぐに皆が集まり、嬉しそうな顔をしてこちらに目を向けてきた。
「スティーブ、聞いてくれよ。
僕もコレ、使えたみたいなんだ。」
モデストは、ツルハシを掲げて自慢してきた。
「どうしてなんだ?
前まではベッドを置くことすら出来なかったお前が!?」
「それこそ僕がどうしてと言いたいさ。
スロービレッジの件から、突然不自由なく道具を使えるようになったんだ。」
夢中になって道具を振り回していたモデストだが、自分のいない間に一体何があったのだろうか。
聞いてみるとするか⋯⋯。
「ジョンソン、これは一体?」
「スティーブ、どうやらスロービレッジの一件から、皆道具を使えるようになったらしい。
理由はわからないが、ともかくあんたを手助けするには十分な力が手に入った。」
「そりゃ助かる。
じゃあ、あの山も⋯⋯まさか!?」
「その通りだ、帰ってくるまでに手分けして片付けたんだ。
そこにあるチェストに石を入れておいた。
石レンガも並行して作ってもらったが、あいにく石炭が足りなくてな⋯⋯。」
「それでも助かる。
後でまた指示を出すが、彼らは大丈夫そうか?」
「あぁ、俺が話をつけておく。
地図に目印でもつけておいてくれ。」
「了解。」
手渡された地図を見ながら、チェストに向かって石レンガをいくつか取り出した。
それから、村の四方に3ブロック程の柱を積み上げてから、ジョンソンにここを囲っておいてくれと頼んだ。
快く承諾されたものの、タダ働きになっていないか不安になってきた。
目標や報酬が無ければ、こんな事を出来るはずがない。
そう思い、尋ねてみることにした。
「ジョンソン、1つ聞きたい。
報酬はきちんと出しているのか⋯⋯?」
「あぁ、もちろんだ。
あんたの稼いだエメラルドが、俺を通じて彼らに還元されている。
安心してくれ。」
「そうか⋯⋯ならよかった。」
「ところで、今回の報酬は貰ったんだろうな?」
「え⋯⋯。」
報酬の行方を全くもって考えていなかった。
思い返してみたら、依頼本は読み上げただけで詳細を見ていない上に、依頼主にも会えていない。
更に、報酬を貰ったかすら怪しい⋯⋯。
記憶をいくら辿っても、エメラルドで思いつくものと言ったら、矢の調達にいくらか払ったぐらいだ。
「⋯⋯まだ貰っていない。
依頼主は誰だ?」
「鍛冶屋の誰かだ。
確か1人いたような⋯⋯。」
鍛冶屋だから、黒い前掛けか⋯⋯。
そう思いながら記憶を辿っていくうちに、嫌な汗が出てきた。
そこにちょうどスミスが来たので聞いてみたところ、その友達が鍛冶屋にあたるようで⋯⋯。
つまり、依頼主は辿り着く前に、残念ながら⋯⋯という事だった。
ここから出た答えは⋯⋯。
「すまない、今回の報酬は0だ。」
「そうか⋯⋯理由は?」
「依頼主が来るまでに死んだらしい。
確かに振り返れば、鍛冶屋とは出会わなかった。
本当にすまない。」
「わかった、そう気を落とすな。
次の依頼を探してこよう。」
そう言って、ジョンソンは自宅へと帰っていった。
しかし、目印の確認をしていたあたりで無線越しに来いとの司令が来たので、石レンガを右手に持ったまま大急ぎでジョンソンの家の地下室へ向かった。
新しい依頼が入ってきたようだが、今回も様子がおかしい。
依頼は以下の通りだ。
依頼内容 洋館内の探索
目 的 攫われた友人の救出
場 所 深い森の大きな館
報 酬 エメラルド30個
スナイパーの件では世話になった。
しかし、また世話にならなければいけなくなってしまったようだ。
私の友人が攫われてしまったのだ。
彼らは斧を持っていて、私には到底適う相手ではない。
あなたの力を貸して欲しいのです!!
心配していたのか、スミスとアレックスもいつの間にか背後に来ていた。
スミスやアレックスに見せたところ、どちらも同じように、この書き方をするような者がいた試しが無いと言っている。
ますます怪しい雰囲気が本から漂ってきた。
「この依頼は、もしかすると罠かもしれない。
理由はわからないが、あんたを倒したいと思っている輩が送り付けてきたのかもしれん。
⋯⋯どうする?」
「その喧嘩、受けて立とう。
だが、俺一人では少々不安だ。」
こんな依頼を寄越すわけだ、相手も手元をがら空きにしてお出迎えするような真似はまずしないだろう。
そこですぐさま思いついた事と言えば⋯⋯。
「アレックス、この依頼に同行出来るか?」
彼女の力を借りることだった。
いや、正確には借りざるを得なかった。
この前のようには上手くいかない、そう思ったからだ。
「いいけど、何をすればいいの?」
「後ろからクロスボウでの支援を頼めるか?
報酬はそっちの言い値で構わない。」
「オッケー。
報酬は⋯⋯そうだなー⋯⋯。
うーん⋯⋯。」
報酬を言い値でと言ってしまったせいか、しばらく黙り込んでしまった。
結局彼女は、終わってから決めると言った。
分け前がどうなるかがわかったもんじゃなくなってしまったが、こうして仲間がいるだけで、変に安心感を覚えた。
この依頼は明日から開始するとの事なので、地下室からジョンソンを除いたクラフターと村人は外へ出た。
今日も長く本を睨みつけていたものだから、またしても外に出た途端に月の光を浴びることになった。
2人分のベッドは、前に手にした羊毛がちょうど必要分あったので、それで間に合わせた。
ベッド達はそれぞれ空き家に向かっていった。
これをもって、家もちょうど全室埋まった。
そろそろ新しい家の建設も進めないといけないのが、クラフターの辛いところだ。
だが、村人達もクラフターとしての力を手にした事を思い出し、設計図を作ってあげれば、あの3人に頼む事も出来るかもしれないとも思った。
そこは依頼が終わったら検討しておこう。
もう夜も遅い、明日に備えてしっかり眠らなければ⋯⋯。