朝になってから、急いで支度をすませた。
防具は相変わらずポーションで変色しているが、まだ使えるのでセーフだ。
剣も切れ味が劣ってきたものの、鈍器としては優秀な部類だろう。
鉄の重みで叩き切るスタイルでどうにかなる⋯⋯はず。
アレックスは、新しいクロスボウをスミスから貰ったそうだ。
昨夜アタッチメント作りに夢中になった事もあってか、随分とゴテゴテに盛られているのを見かけた。
サイトは勿論、矢筒まで付いていた。
買ったのかそれともおまけ感覚で付けてきたのか。
真相は不明だし知る気もないが、心強い事に変わりはない。
今回は自分も弓を持っていくことにした。
基本的に彼女に狙撃を任せておきたい所だが、死角で撃てない状況が来ると思ったからだ。
そんな時には自力で解決しなければならないが、ここ最近練習ばかりで敵を的に出来ていない⋯⋯。
自信が欠けているがやるしかない。
食料はお互いにニンジンと肉を同じ数揃えた。
⋯⋯たった今収穫出来たからといって、そのまま渡すのもどうかと思ったが、時間が残っていなければ、何より必要な肉も2等分したせいでとても生きて帰れるような状態ではない。
だからといって、贅沢を言える余裕も無い。
物資が乏しいからだ。
出かける前に、にんじんを育てている女に1枚の紙切れを渡す事にした。
内容は⋯⋯少し前に言った事への解決策、つまり家畜を用意しろ。
餌と柵もだ。
といったことを書いて黙って渡したあと、アレックスを手招きして呼び、村を出た。
村から出てボートに乗ろうとした時、無線が入ってきた。
ジョンソンだ。
「今回の目的地をマークした。
⋯⋯随分家と近いみたいだな。」
「あぁそうだ、随分近い。
ご近所さんがまさか敵対勢力だとは思いもしなかった。」
「ともかく任務は、その館の調査だ。
⋯⋯中が暗そうだ、慎重にいってくれよ。」
ジョンソンから念押しを貰い、隣にいたアレックスにも同じ事を伝え、地図を広げる。
地図にはいつの間にか黄色い旗のマークがついていた。
もう言われなくてもわかってはいたが、改めて敵対勢力の眼前で悠々とマイホームを建てていたと考えると、恐ろしいものだ。
ボートを漕いで数分、自宅が見えてきた。
それの背景、いや、保護色と言わんばかりに大きな館も見えてきた。
あれが目的地である。
玄関からの正面突破は危険だと考えたので、今回は壁を破って侵入することにした。
丸石の土台の壁にはしごをかけ、ボートを降りて登って行き、いよいよ壁に辿り着いた。
アレックスには危ないと手の平を返したが、当の本人は入りたくてうずうずしている。
その理由を聞いてみる事にした。
「アレックス、落ち着け。」
「嫌だ。」
「⋯⋯どうしてだ? 何か理由でも?」
「うーん⋯⋯デジャヴというかなんというか⋯⋯思い出せないけど何かあったの。」
「その何かってなんだ?」
「⋯⋯思い出せないから何かなの。
早く入りましょ?」
すっかり忘れていたが、こいつは元々敵だ。
動向には注意しないといけない。
もしかしたら、その何かを取ってまた敵陣へ帰っていく可能性もありえる。
その時がきたら⋯⋯自分は⋯⋯。
そう考えると、壁に穴を開けるために持った斧が震え出す。
せっかく出来た仲間に、そんな考えを持った自分が恐ろしく感じた。
「スティーブ、早くしてくれる?」
「あ、あぁ。
考え事をしてしまった、今開ける。」
急かされてようやく意識を外に向け、斧は振り下ろされた。
ミッション開始の合図だ。
お互い無事通れるように2マスの穴を壁に開けたが、さらに丸石の壁があった。
そのまま中には入れそうになかったので、石のツルハシに持ち替えて丸石を取り除く。
その時にまだ石の道具を使っているのと彼女に笑われてしまったが、ここ最近洞窟に潜り込むような事もしていない。
無くて当たり前だが、最低限使えるならそれでいいと思って、その笑いを受け流した。
中は小部屋になっていて、真ん中に邪魔するように置いてあった植木鉢をどかし、周囲を調べてみたらここは小さい聖堂のようだった。
床はどこから持ってきたかもわからない白樺の木材で出来ていて、壁はもう見慣れたダークオークの木材が使われている。
小部屋の出口には廊下が見えていて、等間隔に並んだ柱に松明がかかっていて、その間に部屋への入口があり、廊下はかなり奥まで続いていた。
今まで側面しか見ていなかったが、これをもって館はかなり大きいと確信した。
アレックスに警戒を促し、剣を持ってゆっくりと聖堂を出ていったその時だった。
「侵入者だ!!」
突如、野太い声が館中に響き渡った。
そして1人の顔色の悪い村人が別の小部屋から出てきた。
彼は右手に持った斧を堂々掲げながら、走ってこちらへ向かってきた。
「アレックス、左だ!撃て!!」
咄嗟にこちらから発射合図を促すと、すぐに左を向いて矢が斧を持った村人へ撃ち込まれた。
村人はそのまま仰向けに勢いよく倒れていった。
その時に見えた、腹部に深く刺さったそれが、彼女の持つ武器の恐ろしさを物語っている。
刺された本人は、腹部を抑えながらも立ち上がり、またこちらに向かって走り出した。
そこを持っていた剣で勢いよく貫いたところ、彼は白い煙を出しながら倒れた。
自分はまた侵入した聖堂の壁に隠れ、アレックスには反対側に隠れてもらい、無線を始める⋯⋯。
「ジョンソン、今のを見ていたか?」
「あぁ、斧を持っていたな⋯⋯。
気を引き締めて進んでくれ。」
「もちろんだ。
⋯⋯ところで、攫われたやつの特徴などは本当に何も来ていないんだな?」
「あぁ、なにも聞かされていない。
今さらだが、この依頼を無理に達成しなくてもいい。」
「いいや、敵の情報を探るチャンスである以上、引く気は無い。」
「そうか⋯⋯気を付けてくれよ。」
無線を切ってから部屋から出て、廊下を左に曲がっていった。
部屋を出た近くにもまた部屋があったが、そこには木の柵が壁1面に置かれ、床には灰色と薄灰色のカーペットがチェック模様に敷かれている、なんとも奇妙な部屋だった。
調べても特に何も無かったので、廊下の奥まで行くと、また部屋があるのを見かけた。
近付いてみると、そこには小さな畑があった。
小麦を栽培しているようだが、日光に当たっていない分、質はよろしくなさそうだ。
そんな事を考えていた時、ジョンソンからの無線が入ってきた。
「スティーブ、それは⋯⋯畑か?」
「あぁ、見てわかるだろう?
畑だ、それも極普通の。」
「いったいどうしてこんなところに、そんなものを⋯⋯?」
「さぁな。
森を切り開いたりせず、こんなこじんまりとした場所に作るのには、なにか理由でもあるんだろう。
それも、俺達には知られたくないようなものがな。」
「いよいよこの館の雰囲気が怪しくなってきたな⋯⋯。」
小麦をしばらく見つめたあとに部屋を出てみると、廊下には例の顔色が悪い村人が3人固まっている様子が遠くに見えた。
サングラスでズームしてみたところ、何やら話し合っているようだ。
しかし3人の声は反響して混ざり合い、上手に聞こえなかった。
ただ、1人は身振り手振りを交えながら他2人に伝え、その2人は奥へ走っていった事はわかった。
⋯⋯間違いなく嫌な予感がする。
とりあえず残った1人を倒すべく、アレックスに射撃を頼むことにした。
「アレックス、あそこの村人の脚を撃ってくれるか?」
「そこそこ距離あるから、厳しいかも。
やるけどね。」
そう言ってアレックスはクロスボウを構え、数秒で引き金を引いた。
飛んで行った矢は、惜しくも脚より上の腹部を刺した。
すると、走っていったはずの2人が音に気が付き戻ってきてしまった。
また指示を考えなければならなくなってしまったか⋯⋯。
「アレックス、次は⋯⋯。」
そういう間もなく、彼女は矢を番えて即座に2本分撃ち出した。
1発は見事に左側にいた村人の頭部を撃ち抜いたが、もう一方は上手く当たらなかった。
その合間に走って距離を縮め、外した方に向けて剣を縦に振り下ろした。
倒れた村人は、抵抗しようと斧を振りかざそうとしたが、飛んできた3本目の矢が命中して煙になった。
あまりにも突然だったので、思考が停止しかけた。
ハッと我に返り、アレックスの方へ向いて注意をする事にした。
「おい、今撃つな!!」
「だって危なそうだったから⋯⋯。」
「そこは事前に言え!
さすがにヒヤッとしたぞ!!」
「スティーブ後ろ後ろ!!
さっき当てたやつが起きそう!!」
「知ってる!」
振り返って、頭に矢が刺さった村人に向けて、横に剣を振り抜いた。
剣の向かう先に連れていかれるように、村人は吹き飛んで壁にたたきつけられた後に煙になった。
どうにか一難を乗り越えたが、まだ油断は出来ない。
この規模の館だから、10人はくだらない程の数はいるという事ぐらいしか、今のところはわからない。
だが⋯⋯この1件が、今後の動向に影響を与える可能性は高いと見ていいだろう。
ー 同時刻、3階会議室にて ー
「エヴォーカー様!
奴らが来ました!!」
「そうかそうか、まぁ落ち着け。」
黒衣を着た村人に似た人物が、椅子に腰掛けながら本に目を通していた所、1人の邪悪な村人が火をつけられたように会議室に飛び込んできた。
他の村人達も、その光景を目で追い続ける。
そして、落ち着けの一言に被さるように、村人の話は続く。
「これが落ち着いていられますか!
もう3人は少なくともやられています!!
早く指示を!!」
「うるさい!
私だって既に考えはしている。
そもそもシミュレーション通りに行動しろと何度言えばわかるんだ?」
「それはそうですけど⋯⋯。
奴らは⋯⋯。」
「言い訳はいらん、早く配置につけ!!」
「は、はぃぃ!!」
顔色の悪い村人達は、一目散に部屋から抜け出していった。
この言い訳に重要な事実が含まれている事に、彼はまだ気がついていない。
「既に3人も犠牲になるとはな⋯⋯。
やるじゃないか、クソが。」
悪態をつきながら歩いて部屋を出ていき、廊下を渡り出した。
ゆっくりと怪しい小言を呟きながら⋯⋯。
続く。
月1でやってるけど、未だに感想が来ないからどう直すべきかもハッキリとしないのが悩み。
⋯⋯もう少し掘り下げていくつもりではいる。