といっても、5100文字ぐらいですけど。
Ep20 派遣村にて。
森の館へ潜入した日から3日が経った。
その間は、ずっとベッドの上にいるか部屋の中を意味も無く歩いて回っていた。
というのも、外へ行こうとするとモデストが必死に止めてくる。
「その腕で外に行くのはしばらく止めておいた方がいい。」
と言った感じで、言葉がダメならと羽交い締めにしてでも止めてくる。
別に外へ行ったら絶対死ぬとかでもないのに、心配性にも程がある。
いつも仕事でつけていたサングラスも、寝ている時にこっそり取られてしまったらしいので、ジョンソンとの連絡も出来ない。
暇だ、とにかく暇だ。
先日もらった本に関しても、ジョンソンが調査の為に使うと言って地下の司令室に連れていかれた。
昼になって腹が鳴る頃、誰かが今いるモデストの家にやってきた。
あれは⋯⋯そう、依頼者第1号である。
未だに名前も知らない(聞いていない)彼女だが、モデスト曰くお昼を持ってきたとのこと。
ちょうどいい所に来たので、手首より先の無い腕でガッツポーズの振りをして、玄関前まで小走りで行った。
が、そこで自分はさっきの嬉しさをなかった事にしたいぐらいの恐怖を覚えるのだった。
彼女が持ってきたのはシチューだ。
だが、どうにも食欲が湧いてこないのはどうしてだろうか。
腹は鳴っている、今すぐにでも何かを食べたい。
が、しかし⋯⋯がっつく程になれない。
何かがおかしい。
「どうしたんですか?
そんなに嫌そうな顔をして。」
「⋯⋯それ、本当にシチューか?」
「そうですよ?
近くで採ったきのこの美味しいシチューですよ?」
彼女はそう言い張っている、だが疑いは晴れない。
そして、玄関からモデストの机に置きに行こうとした時に、疑いは真実を見せる。
きのこに混じって、オレンジやら白やら赤やら、カラフルなものが浮いてきたのだ。
きのこに赤はある、茶色もある。
しかしオレンジや白のきのこなんて見た事も、聞いた事もない、それこそ花でなければ⋯⋯。
⋯⋯んん?
花でなければ??
「なぁ、この白いのやら黄色いのやらはなんだ?」
「え? なんだって、どうして聞くんですか?」
「気になるから聞いているんだ、答えろ。」
「えっと⋯⋯その⋯⋯お花を⋯⋯。」
「そうかそうか⋯⋯花っ!?」
驚きすぎて、後ろにあったベッドへ倒れ込んでしまった。
だが、まだ聞き終わった訳では無い。
「味はっ!? 味見はっ!!?」
「しましたよ? とっても美味しいですよー。」
「そ、そうか⋯⋯。
食べても本当に大丈夫なものなのか⋯⋯?」
「大丈夫ですって、そんな大袈裟な⋯⋯。
私を疑うなんて酷い⋯⋯。」
そう言って、彼女は泣き出した。
モデストからも非難の目を向けられている。
⋯⋯どうあがいても食べざるを得ないだろう。
自分が疑いすぎているだけだ、花入りシチューも案外美味いのかもしれない、飾り付けついでに新しい味も知って欲しいんだそうに違いない。
あの時の自分は狂ってたと思う。
実際に口にした、一口だけ。
⋯⋯そう、一口だけ。
するとどうだろう。
急激に猛烈なダルさが全身を襲ってきた。
間違っていた、自分が間違っていた⋯⋯。
「もうふたつ、質問していいか⋯⋯。」
「え、あぁはい?」
彼女は外へ行こうとしていたらしく、玄関の手前でこちらへ振り向いた。
「なんの花を入れた?
それを知りたい。」
「えぇと、チューリップを⋯⋯。」
「これはハズレだ、めちゃくちゃにダルくなった。
椀を落とすかと思った。
⋯⋯味見をしたのか?」
「え、えぇ⋯⋯しましたよ?
花を入れてからは食べてませんけど。」
「やっぱりな。」
呆れてため息が出てしまったが、これはこれで新しい発見になった。
また洋館とかに潜入する時に、毒を盛るような事も出来るかもしれない、そう思った。
意図しない人体実験だったが、普段ならやらないような事を知るにはまぁいい機会だったとしよう。
だが、まだ話は終わってはいない。
もっと大事な質問が残っている。
「それから2つ目の質問、今更だが名前は?」
「あぁそういえば、会ってからずっと話してませんでしたね。
私の名前はアレージ、よろしくね。」
「改めて、よろしく。」
彼女に対する信頼にヒビが入ってからようやく聞けた名前。
⋯⋯二度と忘れないだろう、いや、忘れてたまるか。
こうして数日、眠ったりアレージが作るシチューを食べたり(時々ちがう花をぶち込んでくる。人をなんだと思っているんだ?)、退屈な日々を送っているうちに、ようやく左手での活動にも少し慣れてきた。
モデストからもやっと外出許可が下りたので、久しぶりに外の世界を見る事にした。
するとどうだろう、中途半端な位置にあった窓が取り払われた空には⋯⋯高さ10ブロック程の石レンガの壁が見えた。
前に帰ってきた時は、まだかろうじて山の痕跡があったが、今は草の生えた平原に変わっていた。
彼らの根性と、石に対する愛情表現みたいなものだろうか。
末恐ろしいものだ。
それはさておき、外の空気がとても気持ちが良い。
久々に顔を合わせた村人もいるが、みんな相変わらず元気だ。
⋯⋯久々の顔合わせで思い出した、あの元スロービレッジの住人(山を堀抜いた、石レンガ大好きな男ら3人)とは話した事がない。
ちょうど目の前で、眼帯の男が鉄仮面を額にあげた男と井戸のそばで談笑している所を見かけたので、話してみることにした。
⋯⋯仮面の男は、どうみても頷いてるだけだが。
「こんにちは、元気にしてるか?」
「あぁ、元気だよ。
⋯⋯スティーブであってる?」
「あぁ、あってる。」
眼帯の男は渋い外見をしている割に、中々軽い口調で返してきた。
一方仮面の男は、無言でこちらを見つめるだけだ。
「あぁ、こいつの事は気にしないでくれ。
いつもの事だからさ。」
「あぁ、構わん。
ところで、名前と軽い自己紹介でもしてくれるか?」
「いいぜ。
俺はクレイモア、武器に関しては特別にスゴい村人だ!!」
「どのぐらい凄いんだ?」
「そうだな⋯⋯リクエストなら、どんなやつだって受け入れてやるよ。
命の恩人だしな!
あとは最低限の衣食住と武器の話と材料さえくれれば、俺はいつだって幸せ者の仲間入りさ!!」
「そうか⋯⋯。
また今度見せたいものがある、その時はよろしく頼む。」
「オーケー!!
ワクワクしてきたぜー、早めにしてくれよ!」
クレイモアは、かなり眩しい笑顔でサムズアップをしてくれた。
彼の自信満々な表情が信頼に値するかは、まだ未知数ではあるものの、前に見つけたボロボロの怪しく光る弓を見せたら、どんな反応をされるだろうか。
そんな事を期待しつつ、横でずっと話を聞き続ける仮面の男に目を向けた。
「むん⋯⋯。」
「やあ、こんにちは。」
「うんむ⋯⋯。」
「名前はなんて言うんだ?」
「うぬ⋯⋯。」
ひたすら頷きしか返してこない彼だが、名前を聞いたら分厚い本と羽ペンをとりだし、かなりの速さで書いた後にこちらへ見せてきた。
名前はハベルと言います。
出来ることは、防具の整備と盾を作る事です。
いつも無口ですが、きちんと話は聞いています。
返答はこの本を通して伝えますので、ご理解いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
これが本に書かれた全文だった。
物腰丁寧かなと思われたが、まだ書き足りないらしく次のページに書き出した。
それも、眉間にシワを寄せて悪態をつきながら。
こうして出来た文章が、以下のものになる。
頭のソレはバケツですか?
あまりにも雑な出来なので、凄く気になります。
それからチェストプレートの汚れ、これはポーションの汚れを放置していなければ、まず出来ないものです。
あなた、まさかずっとこれを着て生活していたのですか?
文句を言いたい箇所は何十もありますが、新しく作った方が早いです。
かなり怒っているのが伝わる文だ、自分の着れれば何でも構わん精神を、真っ向から否定している。
こだわりを持っている事はわかったので、また今度防具を作ってもらうことにしよう⋯⋯怒られる着こなしを卒業するつもりで。
2人の話を聞き終えたので散歩を続けようとしたが、さすがに切断された右腕を黙って終わる訳がなかった。
クレイモアに質問をされた。
「ずっと気になってるんだけど、その右腕どうしたんだよ?」
「不祥事を起こして切られてしまっただけだ。
だが、これからどうしたらいいのか悩んでいる。
何かいい案は無いか?」
「あぁ、それなら詳しい人を知っているぜ。
義肢って奴を作ってるスゲー人だ!」
「それは本当か!? 場所はどこだ?」
「んーと⋯⋯ストレートアローって爺ちゃんの住んでる村にいたかもな。
だいぶ昔の事だから、今もいるかは知らんけどな!!」
「スミスのいた村か⋯⋯ありがとう。
そこに行ってみることにする。」
「スミス⋯⋯え、あの人スミスって言うの!?」
「そうだが、知らなかったのか?」
「あぁ、初めて聞いたぜ⋯⋯。」
とても有益な情報を手にしたので、早速ボートを漕いで行こうとしたが、右腕が無いぶん大変なのは想像に難くないので諦める事にした。
代わりにアレックスに呼んで、ボートを漕いでもらう事にした。
自分も乗ったが、これは義肢がどういったものかが気になってしょうがないからである。
⋯⋯一応誤解を避けるべく、言わないといけない。
色恋沙汰なんかどうでもよくなるぐらい、気になるものが山ほどあるので、結果的にそれとは縁遠くなった。
それだけの話だ。
再び深い森のそばを歩きながら、アレックスの故郷の村へ辿り着いた。
あの事件からしばらく経ったが、鍛冶屋に人気が無いこと以外は、少しずつ日常へ帰る村人達の様子が確認できた。
「本当はあんまり行きたくないけど、その右腕の代わりになるなら、私も頑張るよ。」
「それは助かる。
⋯⋯あんまり頼るのも申し訳ないけどな。」
「少しぐらいならオーバーでもいいよ、借りがまだあるし。
ところで、さっき眼帯の人から聞いた件のことだけど⋯⋯。
一応私もその人の事は知っているけど、家ぐらいしか知らないから、後のことは自己責任って事でよろしくね。」
「わかったよ。」
そんなやり取りをしながら、彼女についていって家の前に辿り着いた。
しかし、もうすぐ日が落ちるというのに、明かりが灯っていない。
留守だろうか。
近くで畑を耕していた村人に聞いてみることにした。
「すまない、義肢を扱っている鍛冶屋の人を探しているんだが⋯⋯。」
「あぁ、この前来た旅人さんか、久しぶり。
その右腕の代わりを探しているんか。
ただ、運が悪かったね、その人はこの前の事件で撃たれて死んじまったよ。」
「冗談だろ⋯⋯。」
「冗談じゃない、ただ⋯⋯。
すでに何個か予備を作ってるだろうから、それを持っていけばいいと思うよ。」
「わかった⋯⋯。」
村人に聞き終わって戻ってきたが、アレックスはその事を遠くから聞いてたからか、後ろめたいような表情をしていた。
操られていたとはいえ、申し訳ないと思ったのだろう。
そういったことが、行きたくなかった理由だと思っている。
例の鍛冶屋の家は、鍵がかかっていないようで普通に開いた。
中には簡素なテーブルとベッド、それから脇に置かれたチェストと金床があった。
そして⋯⋯その金床の上には完成品の義手が置かれていた。
義手は鉄製で中々重みがあるが、嵌めてみるとこの重さが絶妙なバランスをもたらしてくれた。
そして嵌めた途端、この義手の指先がしっかりと動く事に気がつき、これで再びいつもの生活が出来るようになったと思った。
それで義手でガッツポーズをしたが、その時見た床に紙に書かれた文書を見つけた。
読んでみると、この義手は暇潰しに最高峰の技術をありったけに詰め込んだ作品にしようと決意した内容だった。
周りにも同じようなものがあったが、売る予定も使う予定も無く、ただ単に自己満足で作っていたらしい。
まさか死後にこの作品を有効活用出来る人材が現れるとは思わなかっただろう。
この後、どこまでお世話になるかはわからないが、感謝の手紙を義手で持った羽ペンで書き、テーブルの上に重りついでのエメラルドと共に置いていった。
もしも生きていたなら、その時に改めてエメラルドを渡そう。
⋯⋯本当に生きていると信じたかった。
最後に様々に入り交じった心境と新しい右腕を抱え、日暮れで赤く染る海をボートで渡って故郷へ戻っていった。
次の依頼をどう活躍出来るか、期待も同時に膨らんでいった。