冒険者兼破壊者の復讐劇。   作:TTY

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先月分を書き忘れて新年を迎えてしまったので、2話分の文字数を詰め込みました。
3兄弟の3人目がやっと出てきます。


Ep21 地下暮らしの男。

 亡き鍛冶屋の義手を受け継ぎ(聞こえはいいが、実際のところ盗品である。)、無事村まで帰ってきた。

様々な視線が右腕に集中するが、アレックスは事情が事情だったのか、こちらを向くのをためらっているように見えた。

今更過去を悔いたところで何も変わりはしないし、なにより受け継いだ以上、前に進む事は止められないのだ。

 帰ってきてからゆっくり休むつもりでいたが、その前にジョンソンから報告があった。

 

「スティーブ、聞いてくれ。

前回の依頼で受け取った本についてだ。」

「あぁ、無理矢理取ったんだろ?

何回も期限を損ねさせないでくれ。」

「悪かった、俺も気になってしまってだな⋯⋯。

⋯⋯それよりも、良いものを見つけたんだ。

これを見てくれ。」

 

そう言って、本を開いてこちらに見せてきた。

そのページには黒い輪の中が紫に怪しく光るイラストが描かれていた。

 

「それはなんだ?」

「これは、ネザーポータルと呼ばれるものだ。

黒曜石で作ったゲートに火をつけると出来るらしい。

これで、今俺たちのいる世界の、さらに地下奥深くへ行けるようだ。

⋯⋯気にならないか?」

「あぁ、そうだな⋯⋯。

気になるが、先に黒曜石って一体なんだ?

この黒い石のことか?」

「そうだ、この黒い石だ。

めちゃくちゃに硬いぞ、こいつは。」

「どのぐらいだ?」

「お前が今まで相棒としていたツルハシじゃあ、到底敵わん!!」

 

なんでも、前回の依頼で手に入れた本を読み、例の黒いモンスターへの手がかりに近づけるであろう情報を見つけたみたいだ。

それはさておき、ジョンソンは次に依頼⋯⋯ではなく、手がかりを捕まえる為に必要な物として、ダイヤモンドのツルハシと黒曜石を10個持ってこいと命令された。

この前の休日出勤と言い、少し雑に扱われている気分になってきた⋯⋯。

黒曜石は、基本的にはそこまでの量を取れないらしい。

というのも、黒曜石は溶岩の源泉に水をかけて作らないといけない上に、これがまたとにかく硬いそうだ。

その為のダイヤツルハシである。

鉄ではまるで歯が立たないと強く言われてしまったので、渋々洞窟へ向かおうとするところに、後ろから呼び声がしたので振り向いた。

夕陽を後光に暗がりに誰かが駆け寄ってきた。

握り拳の右腕に、何か透明なものが見える。

 

「スティーブ!

これが欲しいんだろ?」

 

声を聞いてすぐにクレイモアだとわかった。

軽い口調は、今のところ彼ぐらいだからよくわかる。

彼は言い終わってすぐに手を出せと催促してきたので、義手の右手を差し出したら、なんと無造作にダイヤを握らされた。

 

「へへへ⋯⋯くれてやんよ、代わりにだけどよぉー⋯⋯。」

「お、おう。」

「その義手、帰ってきた後にじっくり見せてくれねえかなーって⋯⋯あー⋯⋯無理は言わないけどよー⋯⋯。」

 

ダイヤを渡す条件に、義手の調査を要求してきた。

⋯⋯確かに珍しいものなのはわかるが、何をしでかすかわかったものじゃない。

だが、この義手の仕組みを知りたい気持ちが勝った。

⋯⋯ダイヤに目が眩んだ訳では無い。

 

「あくまで借り物みたいなものだ。

大事に扱ってくれるなら、お前を信じて貸し出す。

⋯⋯この与えられた腕は一点物で、おまけに製作者がとっくに死んでるからな。」

「そうか⋯⋯わかったよ。

丁寧に扱えばいいんだよな?」

「そうだ、わかればそれでいい。」

 

 こうして洞窟に潜ることなく、3つのダイヤモンドを手にする事が出来た。

(しかし、どちらにせよ潜る事に変わりはない。)

すぐさま作業台へ吸い込まれるように向かい、これまでのツルハシを作るレシピ同様に並べ、ついにダイヤモンドのツルハシを手にした。

既に日が暮れていたが、松明の明かりを反射して光る青はとても美しく見えた。

これを採掘に使うのを若干躊躇いたくなったが、四の五の言っていられる状況ではないので、心を鬼にしてぶん回してやろうと決意した。

 その後、クレイモアに報告ついでに見せたが、悲しいかな。

作りが雑すぎてすぐに壊れそうだと、厳しい意見をもらった。

クラフトド素人な一鉱夫である事がバレた瞬間であった。

こういうものは、素直にその手の人に頼るのが1番だという教訓を胸に刻み、同時に防具をボロくそに評価された事まで思い出して、膝から崩れ落ちそうな程のショックを受けてしまった。

クレイモアから、素人ならこれでも上出来だと励ましてもらいながら手を差し伸べてもらい、まるで後光がさしているようにも見えてしまったが、今は夜だ。

月が真上まで来ているので、一旦別れを告げてジョンソンの家へ帰った。

 

「お帰りスティーブ、義手の調子はどうだ?」

「あぁ良好だ良好。」

「なぁんだスティーブ、元気がないじゃないか。」

「散々文句を叩きつけられたからな。

プロの目には誤魔化しが許されん。

ちくしょぉぉぉぉぉ!!」

「わかったわかった、泣くなって。

彼も悪気があった訳じゃないんだ、許してやってくれ。」

「グズっそれはわかるんだ、だが、ズルっ否定された事実は変わらんっ!!」

「今日はもう寝ろ、1晩明かせばどんな事もケロッと立ち直れるさ。」

「わがっだ、ねる。」

 

 翌日、ケロッと直った心境で洞窟探しに向かう準備を整えた。

相変わらず生齧りが主流の人参を30個抱え、右手にダイヤツルハシ、左手に松明を持って、全身には散々な言われようの実績を持った鉄防具を着込み、黒曜石採掘の道のスタートラインに立った。

今回の洞窟は自然に出来たものではなく、彼らが趣味で掘っていた穴だ。

山だけでは物足りなく、石炭もついでに欲しいという理由で掘っているのだから恐ろしい。

ツルハシも大量に作っていれば、高品質なものが出来るのも無理はない。

今の彼らは着実に石レンガを積み上げ、今は周りを囲む壁をさらに分厚くしているそうだ。

それに加え、これから集める村人の為に家まで用意するというのだ。

もはや趣味なのか本業なのか、いよいよわからなくなってきた。

ジョンソンが求めていたクラフターの価値は、下がる一方である。

それはさておき、そんな彼らも溶岩だけは見たくないと叫んでいた。

熱いのは言わずもがな、これのせいで仕上げた防具が鉄くず同然の代物になったと、ハベルがげんなりした表情で本に書き綴っていた。

黒曜石ぐらい採掘大好きな彼らなら余裕だろうと思っていたが、意外とそうでもなかった。

実はあの叫びやらは演技かもしれないが、何もしないよりかはマシになっただけありがたい。

借りっぱなしという訳にもいかないのだ。

 話を戻してクレイモアについていき、壁の先をさらに歩いてボートで海を南に渡り、例の場所へ辿り着いた。

前に行ってみようと思っていた赤砂の積もるバイオームにそれはあって、なんとなく嫌な予感はしていたが、案の定周りに大量のチェストが置かれていた。

今までたまたま赤砂の山に隠れていただけで、既に採掘はかなり進められていたそうだ。

クレイモアから許可を貰って、チェストを恐る恐る開けてみると⋯⋯。

あぁ、やはり彼らは村人のガワを着たとんでもない輩の集まりだった。

開けても開けても丸石しか入っていないじゃないか。

端に避けてあるように置かれたチェストも開けたが、こちらには石炭のブロックや精錬済みの鉄、鉄と同じぐらいの量の金、そしてアクセント感覚にダイヤモンドときた。

余談だが石炭ブロックとは、石炭を作業台に9つ置くと出来る塊で、チェスト収納術に欠かせない技術である。

ちなみに鉄や金、エメラルド、ダイヤモンドでも出来る。

置くだけで固められてしまうのは便利なのだが、木材だけしか使っていないはずの作業台で行っているので、大変奇妙だ。

まぁそれが大量にあるのだから、この地下はもう穴だらけに違いない。

 

「あぁそうだ、スティーブよぉ。」

「どうした?」

「この下はとっくに空洞だからさ、足を滑らすなよ?」

「わ、わかった⋯⋯。」

「動揺しないでくれよ、ここにある資材は自由に使っても構わないからさ、ね?」

「それはありがたいが、勝手に許可はダメだろう。

あと1人とはまだ会っていないんだ。」

「あぁ⋯⋯もううんざりする程あるし許可もクソもねえって。

待ってれば会えると思うけどよー、あいつあんまり関わりそのものが好きじゃないからなー⋯⋯。」

「そうか、先に言ってくれてありがとう。

いきなり嫌われずに済みそうだな。」

「そうだな、頑張れよ!

迎えが必要ならジョンソンに言ってくれ!!」

「おう。」

 

クレイモアは、先程の宝の山のようなチェストから鉄と金を大量に持って、ボートで帰っていった。

 彼は嘘つきではなかった。

赤砂の下は、縦に大きな空洞と化していた。

そこを手すり無しの丸石で出来た階段が、空洞の周りを回るような螺旋階段として真下まで続いていて、そこに絶賛稼働中のかまどが山ほど置かれている。

石の壁に手を添えながら下っていくと、さらに驚かせてきた。

もはや地下空間だ、遠くに見える村人が小麦の種みたいに小さい。

それぐらい広く掘り進められている。

ん? 村人⋯⋯?

⋯⋯あの村人が、3人目の男か。

あまりにも遠いので、小走りで近づいてみるとどうだろう、彼は見られたくない物を隠すように逃げ出した。

が、大して速くなかったのですぐに右手を掴むことが出来た。

 

「ぐぁ、離せ!!」

「待て、俺は敵じゃない。」

「じゃあなんだよ、俺になんか用でもあんのかっての!!」

「黒曜石を取りに来たんだ、場所はわかるか?」

 

目的を言うとすんなり抵抗をやめ、押さえた右手を振りながらついてこいと言ってきた。

 そして辿り着いたのは何やら熱い液体が天井からぽたぽたと垂れ落ちてくる所だった。

 

「この上にあるよ、目的のモンが。」

「そうか、早く回収しないとn」

 

今度はツルハシを持った義手を両手で止めてきた。

 

「やめろ、馬鹿正気かお前!?」

「⋯⋯?

どうした?」

「どうした、じゃねえ!

上は溶岩だよ、熱いよ!死ぬよ!?」

「⋯⋯本当か。

すまん。」

 

ここで、黒曜石は天井から垂れる橙色では無いことを思い出した。

あまりにも巨大な空洞に目を奪われてしまったので、大事な事を見落としていた。

そして忘れないうちに名前を聞いたところ、彼はインスティーと言うそうだ。

彼は道具を担当しているので、彼が持つツルハシなどは全て丁寧な仕上がりをしている。

 この後は彼の支持に従い、土の足場を積み上げながら、溶岩溜まりの1番上を目指して掘り進めていく事になった。

途中で溶岩が何度か流れてきて焦ったが、落ち着いて丸石を開けた穴に詰めればそう怖くはない。

そうしていくうちに、ついに溶岩溜まりの表面を見つける事が出来た。

あとはこれに水をかければ⋯⋯かければ?

 

「スティーブ、どうした?

変な所を向いて。」

 

サングラスに付けたカメラの動きの様子を見ていたのか、ジョンソンから無線が来た。

 

「そういえば、バケツは持っているか?

水をかけるのに必要なんだが⋯⋯。」

「⋯⋯。」

「いやースティーブがそんなヘマをするはずが無いよなー、俺は断じてそんな男じゃないと信じている!!」

「⋯⋯それが、ヘマをしたんだよ。」

「お、おう⋯⋯。

水を汲み忘れただけだよな?」

「バケツが無い。」

「oh...

⋯⋯そんなばかな。」

「⋯⋯取ってくる。」

「あい、落ちるなよー。」

 

⋯⋯さすがに自分でも呆れるヘマをやらかしたので、地上まで戻る事にした。

その事をインスティーに伝えたところ、彼は幸運の神様だろうか。

水入りバケツをちょうど持っていたのだ。

採掘時に溶岩が流れてきても大丈夫なように、常備しているとの事。

これで溶岩の流れをコントロールしたり、うっかりそこへ入ったとしても、その場で溶岩を止めつつ消化も出来るので、万が一の時は用意しておくといいみたいだ。

⋯⋯いい事を聞かせてもらった。

話は戻して、早速水を上からバシャリとかけてみると、みるみる表面が黒くていかにも硬そうな物体に変化した。

水をもう一度バケツで回収すると、黒さは周りの石と比べれば一目瞭然、本で見た黒曜石に間違いない。

実際見ると、表面はゴツゴツとしている中に、キラキラと星のように小さな粒が光っているのが綺麗だ。

インスティーから、水は黒曜石の横に流しっぱなしにした方がいいぞと忠告を貰い、横の石を取り除いて水をそこに流し込んだ。

それから、水に面した黒曜石をダイヤモンドのツルハシでひたすら叩いていく。

ジョンソンから言われた通り、恐ろしい程硬い。

石が全然やわく思えるぐらい硬い。

これを10個も集めるのは面倒臭いと思ったが、始めたからには引き返す訳にもいかない。

ひたすら叩いてやっと回収出来ると思ったら、激しく光る溶岩が現れだした。

と思いきや、流れてきた水流によってすぐに引っ込められた。

その為の水だ、このぐらいはわかる。

しかし、一瞬の溶岩にせっかく壊した黒曜石が飲み込まれてしまったので、思わず脱力した声が漏れてしまった。

苦労して得たものを失う一瞬の儚さを知ると、なんにも言えないものだ。

その後、水流に流されながら地道に黒曜石を叩き壊しては回収し、表面全てを削り終わったらまた表面に出来た黒曜石の横に穴を開けて水を注ぎ、黒曜石を削る⋯⋯。

これを繰り返して、ついに溶岩全てを黒曜石にしてやった。

汗ダラダラにして、黒曜石をたんまりと回収してなんだか嬉しくなった。

早速報告しよう。

 

「ジョンソン、やったぞ。

大量の黒曜石を回収した。」

「さすがだスティーブ、途中から飽きて本を読んでいたが無事で何よりだ。」

「監視の意味が無いじゃないか⋯⋯。

それはそれとして、これから帰るぞ。」

「あぁ。

だが、今は夜だから帰り道には気をつけるんだ。

宝物を海の藻屑にするんじゃないぞ。」

「了解。」

 

帰路に着く前に、案内をしてくれたインスティーにお礼を言った。

そして、彼から別れる前にもう少しだけ会話をしたいと言われた。

 

「⋯⋯スティーブ、これからどうするんだ?

そんな硬いモン大量に持って。」

「ネザーへ行く為に必要らしい。

これだけあれば、不足する事は無いだろう。」

「そうか⋯⋯気をつけろよ。

久々に違うやつに会えてよかった。

俺の兄弟に良い装備を作ってもらえよ?

クレイモアによろしく言っとくからさ。」

「あぁ、それは後回しになるかもな。

ダイヤ3つの前貸しって条件付きでこの義手を見たいって頼まれてだな⋯⋯。」

「えっ⋯⋯ちょっと待て。

そのダイヤ、この前勝手に持ってかれた3つじゃねーか!

アイツめ⋯⋯なに勝手な約束させてんだよ!!

鉄と金はどうだっていいけど、ダイヤだけはマジでやめろって何度も言ってんのに⋯⋯。」

「そうか⋯⋯後で言っておく。」

「やっぱりさよならは無しだ、俺も行く!!

ついでにネザー見たいし!!」

 

こうして2人で久しぶりの夜空を拝み、クレイモアにボートともう1隻作る用の材料を取りに行かせ、こちらで組み立てを行ってから帰ることになった。

かなり長い時間起きていたのもあって、視界がふらつく⋯⋯。

空を見れば、あの時崖から落としてきたファントムがこちらの周りをぐるぐるしている。

それも、今回は3匹いる。

かなり怯えているが、彼らには見えないのか不思議そうな目でこちらを見ている。

陸地に上がった瞬間、更に厚くなった壁の門をくぐり抜け、ジョンソンの家まで彼らを置いていかんとばかりに走って向かい、ドアを蹴破るぐらい強く開いて帰還した。

遅れて2人もやってきたが、どちらも息切れをしていた。

 

「スティーブ、なんなんだよ。

いきなり走ってさあ。」

「すまん、寝ない日が続くと空を飛ぶファントムって奴が俺を啄みに突っ込んでくるんだ。」

「なんだよそりゃ⋯⋯。」

「それはこっちのセリフだ。

まあそれはともかく⋯⋯ジョンソン、黒曜石だ。」

「あぁ、本に書かれた通りだな。

組み立ては明日にしてスティーブは寝ろ、フラフラじゃないか。」

「黒曜石は想像以上に硬かった⋯⋯。」

 

黒曜石はジョンソンに預けてそのままモデストの家に向かい、ベッドへ滑り込むように飛び込んだ。

隣の家だと言うのに、彼らの口喧嘩が聞こえる⋯⋯。

ダイヤ論争が繰り広げられているみたいだ⋯⋯。

あ、ダイヤ3つが奪還された。

その後は説教ばかりで聞き終える前に寝てしまった。

ネザーにモンスターへの足がかりになる手がかりがある事を、心の隅で願いながら⋯⋯。


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