冒険者兼破壊者の復讐劇。   作:TTY

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Ep29 氷上を走る弾丸。

 今回の依頼は、凍った川をボートで滑る遊びに参加する事だ。

数合わせなのか、単に招待しただけなのか、そこはわからない。

目的地は雪の平原の中にある村だ。

地図を見ても、至って普通の村としか言いようがない。

しかし自分の家がそうであるように、この情報は最新のものではない可能性がある。

近づくと、自動で周囲を書き直すのだ。

今近づいている村も、じわりじわりと更新されている。

ここはアレックスと敵として鉢合わせた村だ。

子供が走り回っているのを見るに、復興は少しずつ進んでいるらしい。

少し経ってからジョンソンの無線が入ってきて、爺さんに故郷の景色を見せてやれと言ってきた。

 

「今爺さんはそっちの家にいるのか? 」

「あぁ、暇だからこうしてあんたの目から見た外の景色を見ていたいという事だ。

しばらく見せてやったらどうだ?」

「そうだな、ここは襲撃を受けたにも関わらず滅ばずに済んだんだ、良い景色だぞ。」

 

村とその周辺の景色をこちらも堪能するように、ゆっくり時間をかけて1周回った。

爺さんは満足そうにしていて、スロービレッジの二の舞にならなかった事に安堵する。

 ついでに村の再建を託した若者にも挨拶をする事にした。

ストレートアローの名は親の代から轟いてなお衰えを知らず、気が向いたら戻ってくるよう言われた。

しかし、連れてきた際に道具ごと持ってきていたので、もう一度戻るのは大変だろう。

無論体力面の問題もあるが。

爺さんは、現状ここが1番落ち着くからと離れる気は無いようだ。

・・・・・・帰るのは当分先になる事を若者に告げた。

 村の現状を確認していたら、いつしか日が暮れそうになったので、爺さんが住んでいた家で夜を過ごすことにした。

ベッドを置いてしばらく寝転んでいると、松明の光に照らされて置かれていた矢に気が付く。

作った矢の一部はそのまま放置されていたようだ。

振り返れば、この上等な矢を試射以外でまともに使った試しがない。

どこかのタイミングで本格的に使い込んでみたいものだ。

せっかく滑車のついた強力な弓も貰っている、実戦投入したい気持ちで体がうずいて仕方がない。

しかし、依頼からしてこの弓の出番は先になりそうだ・・・・・・。

 夜が明け、村を早くに出た。

少し歩いた辺りでもう真っ白な景色が現れた。

雪だ、雪が一面を埋めつくしている。

生まれて初めて見たが、本の中で見るよりずっと白い。

 

「スティーブ、目的地である村はこの森の少し先にある。

・・・・・・ところで気になったんだが、寒くないのか?」

「寒いに決まってるじゃないか、半袖なんだぞ。

それに義手も動きが悪い。

機械仕掛けになっても手がかじかむらしいな。」

「クレイモアが言ってたが、それは油圧式だ。

冷えて中の油の流動性が下がっているんだろう。

温められる物を持たせるべきだったな、すまん。」

「前見たくあの黒い箱に入れておいてくれると、こちらとしてもありがたい。」

「わかったよ、時間がかかるとは思うが探してくる。」

 

ネザー探索で熱気に慣れてから、いきなり冷気漂う世界に踏み込むのは辛い。

歩くのすら億劫になりそうだ。

それでもどうにか前を向いて足を進めていくと、小さな川に辿り着いた。

川は寒さの為に表面が凍ってしまっているが、底の方では鮭がのんびりと泳いでいる。

ネザーで出会ったピグリンといいこの鮭といい、自分には耐えられない環境に適応出来る事に感心するばかりだ。

川は5ブロック程度の幅なので、そのまま歩いて越えられた。

途中凍り付かずにいた所もあったので、そこは迂回して迷路を進むようにして抜けた。

こんな寒い中で寒中水泳はやりたくないものだ。

 更に歩いていくと、また川が見えた。

今度はかなりの広さだ、最低でも15ブロックはある。

底は見えない。

表面を密度の高い氷が敷き詰められてしまっている。

しかし、体感温度はそこまで変わらないはずだが、どうしてここまで凍るのだろうか?

答えはすぐに右側から現れた。

なんと、自分には考えられないような馬鹿げた速度で、ボートが向かってきているのだ。

それも5台程だ、村人が颯爽と乗りこなしている。

 

「おい、そこのにーちゃん早くどけって!!」

 

言われずとも体を後ろへ無理矢理引っ張り、そこを一瞬のうちにボートが飛び抜けていく。

爺さんの矢と同じ速さにすら感じてしまう程だった。

一体なんなんだあれは?

その時、ジョンソンから無線が入る。

 

「目的地に着いたようだな。

ここでボート遊びをして、彼らを満足させて欲しい。」

「あれを遊びと言うのか?

俺の想像してたボート遊びとまるで違うじゃないか!?

これじゃあレースだぞ!! それもとびっきりに危険な!!」

「そういう事だ、俺達は暖かい部屋でクッキーでも食べながら見させてもらおう。」

「おいおいずるいぞ、頼むから誰かしらに代わr」

 

無線をブツ切りにされてしまった。

嫌な予感が別方面で当たってしまった。

敵対する訳では無さそうだが、下手をすれば向こうの木でむち打ちだ。

冗談じゃない。

 とりあえず危機は去ったので、地図を見てみる。

とっくに更新は終わっていたらしく、そこには綺麗に整備された氷の道が、目的地である村をぐるりと囲っていた。

今通り過ぎていったボートは、この氷の道でレースでもしているのだろう。

・・・・・・案外楽しそうに思えてきた。

とは言っても、あのスピードはやりすぎだ。

もっと優雅に滑っていくものだと思っていたんだが・・・・・・。

依頼である以上、このレースに付き合わなければいけない。

 村に着くと、今まで見たことの無い数の村人があちこちにいるではないか。

派遣村の数倍は下らない。

自分もここまで密集した人混みは初めてなので、誰が依頼を出したかなんてさっぱりだ。

せめて特徴なり無線なりで伝えて欲しいぐらいである。

ため息が1つ出た時、人混みの騒ぎの中からこちらを呼ぶ声が聞こえた。

おーいと呼ぶ方へ向かうと、そこにはボートと半袖半ズボンの男がいた。

見てるこっちが震え上がりそうだ。

 

「君かい? ジョンソンの依頼で来たスティーブって人は?」

「そうだが・・・・・・名前は?」

「僕はランサー、ここ一番のレーサーだ。」

「ランサーか、よろしく頼む。」

 

はにかむ笑顔が特徴的な彼が、今回の依頼主のようだ。

早速、この危険な遊びについて聞くことにしよう。

 

「ところで、このボート遊びは本当に氷の上でやるのか?

随分と危なそうな予感がするんだが・・・・・・。」

「そうだね。

みんな怖がるから、中々レーサーも集まらないんだ。」

「本当にレースだったのか・・・・・・。」

「もちろん、普通に滑って遊ぶ事は良い事だ。

でも君にはレースに参加してもらうよ。

君の勇姿で、みんなをこのサーキットに引き寄せて欲しいんだ。」

「人数合わせでもするのかと思ったら、大層な事を言うじゃないか。

俺は氷の上で走ったことすらないんだ。

あまり期待させる走りにはならないだろう。」

「だからいいんじゃないか。

何も知らない君でも、走る事は出来るさ。

怖くはないんだよ。」

 

 早速自分とランサーの2人で、近場の大きな湖へとやってきた。

言わずもがな、全面が氷に覆われている。

他にも何人かの村人が、ここでボート遊びに興じているようだ。

とてもゆったりと、しかし時として制御を誤ってグルグル回る者が何と多いことか。

これでレースなんてやっていたら、話にもならない事になるのは確かだ。

湖のほとりまで歩き、2つのボートが置かれた。

真っ白に塗られている事以外、普通のボートに変わりはない。

自前のボートでもどうにかなるだろう。

 

「あぁ、そのだな・・・・・・ボートは持ってきているんだ。

気を使わなくていい。」

「そう?

うーん・・・・・・オススメは出来ないかな。

未だかつて無い速度にボートが耐えられるというなら、自前のボートでいいよ。」

「・・・・・・。」

 

万が一の事を思うと不安になるので、彼に従ってレース用のボートを借りる事にした。

 

「それにしても、このレース用と普通のものでは何が違うんだ?」

「それを聞かれると思ったから、本を持ってきていたんだ。

でも、その本は分厚いから要点だけ話すよ。」

 

ランサーは目印を頼りに本をパラパラとめくり、こちらに見せながら説明をしてくれた。

 まずはスペックについて見てみよう。

一見塗装されているだけのボートに見えるが、中身が違う。

始めに、このボートには骨組みが中に組み込まれている。

基本的な物は木材を組み合わせて作るが、氷の上を走るには強度が足らないのだ。

実際、1人の速いボート乗りの村人が、続けざまにコースレコードを塗り替えていたある日、高速域に耐えられず突然ボートが自壊してしまった例がある。

その為、先に金属棒を組み合わせた骨組みを作ってから木材のボディを嵌め込む、頑丈かつ見た目を変えないスタイルが主流になっている。

次にこの氷の上を走る、ただそれだけの為に、滑走用の板(ソリの底面についているそれと同様の物)が付いている。

ひっくり返すと確かにあった。

この板が、走る、曲がる、止まるの3つを担っている。

なお、この板はボートを傷つけない為にあるらしく、過去に板が付いていないボートの底面が削れきって、穴が空いてしまった事例があった。

これの対策でボートの底面を厚くしたが、軽量化をしていくうちに、今のような形に落ち着いたという。

最後にボートを動かす為のシャベルにまで違いがある。

形は似ているが掘る部分の形状が細くなっていて、剣に近い。

単体の槍としても案外使えそうだ。

このシャベルを氷に当てて加減速と旋回を行う。

この3つのポイントにテクニックが合致して、初めて氷上を自在に舞うことが出来るのだ。

 違う点はこのぐらいなので、早速凍った池の上を滑ってみることにした。

前に進むコツとして、ランサー曰く氷をシャベルで蹴りあげるイメージで当てるといいらしい。

グッと力を込めて、勢いよく蹴るように突くと、ボートは水の上より速く動く。

加速は更にシャベルを当てていけばいいが・・・・・・ボートは言うことを聞かない。

あっという間にとっちらかってしまった。

 

「大丈夫だよ、始めはみんなそうやって回ってしまうんだ。

僕も例外じゃないよ。」

「これで本当にレースは出来るのか!?」

「その意思さえあれば出来るよ。」

 

結局この日は、真っ直ぐ走る事だけで精一杯だった。

両手を正確に前から後ろへ送る行為をひたすら、機械のように繰り返す。

アンバランスな腕でやるのは困難だ。

ただ、繰り返すと機械とは違って何かが変わってくる。

ふらつくボートが、少しずつ目の前を向くようになった。

これだけでも嬉しくなるぐらいに、ボートを真っ直ぐ滑らせるのは難しかった。

ランサーはそれを手放しに褒める。

 

「1日でここまで出来るなんて、君は凄いよ。」

「ただ真っ直ぐ滑る事が出来るようになっただけだ。

これから曲がる練習もしなきゃいけない。

先が長くなりそうだ。」

「諦めない限り、上手くなれるよ。

明日は実際にコースで走って練習だ。」

 

日が暮れ出しているのもあって、今日の練習は終わりだ。

小屋を貸し出してもらえたので、そこで夜を過ごすことにした。

当然だが、中は荷物を入れるチェストに寝る為のベッド、壁にかかった松明だけのシンプルなものだ。

しばらくここが自分の拠点となる。

何も無いので暇になるのは仕方がない事だが、目の前の事に集中しろと言われているように思える。

それもあって、黙ってベッドに横になった。

明日からボートランナーデビューだ。

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