冒険者兼破壊者の復讐劇。   作:TTY

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Ep30 走る、曲がる、止まる。

 ランサーは朝にとにかく強いらしい。

というのも、まだ日が登りだした頃だというのに起こしに来た。

 

「おはようスティーブ、朝の日差しが気持ちいいよ!!」

「まだ外は明るくもなってないぞ、早起きにしても早すぎる。」

「そうかな?

ともかく、僕は朝ご飯を食べて走りに行こうと思う。

君も一緒にどうかな?」

「まだ眠いんだが・・・・・・そうだな、勢いよく起こすから眠気が飛んでしまった。

今行く。」

 

近くにある小屋が食堂なので、そこで朝食をとることにした。

パン2つと、スイートベリーと呼ばれるフルーツが出てきた。

パンは・・・・・・なかなかハードな食感だった。

この地域のパンは固めだそうだ。

食文化の1つを取っても面白いものである。

スイートベリーは、自分たちのいる地域には無いもので、タイガと呼ばれる場所で採れる。

葉が鋭く、くっつくとしぶといので厚手の手袋をして取るようだ。

味は名の通り甘く、潰して砂糖と一緒にかまどでじっくり煮詰めたジャムも美味しいとの事だ。

これがいつでも食べられたらいいなと、独り言が出てしまう。

それを聞いたランサーは、遠方から来たのだからと、記念に苗を数本貰ってしまった。

帰ったらアレージに育ててもらうのも悪くない。

プロに任せてみたらどうなるのかが気になる。

 朝食の後、早速コースに出ることになった。

村を囲う氷の道が舞台で、直線の先に直角のコーナーだけのシンプルなコースだ。

ボートをスタート位置に置いて、まずは1周しようとランサーは提案する。

曲がり方はこれから教えてくれるのだろうか。

しかし、そんな様子はなく、すぐによーい、ドンの合図でランサーは飛び出す。

彼は慣れた手つきでスコップを氷にぶつけていく。

手加減はしてくれているように見えるが、それでもあと少しで見えなくなりそうだ。

自分もガツガツ氷をスコップで蹴り上げ、ついていく。

加速後すぐに第1コーナーに入る。

スコップを氷に当てて減速するも、雑な当て方をしたので速度を殺しきれずに壁にヒットした。

その当たった衝撃でボートから投げ出されてしまい、転がり続け、草原の上で大の字になる。

痛みが収まったあたりで我に返ったようにボートへ走る。

実の所、多少の速度ならボートはピンピンしているようで、木のボディは大してやられていなかった。

クラフトはいつだって常識を越えた物を産むが、これも例外ではないのだ。

しかし、非クラフト製の肉体は割と無事ではない。

ただ転がっただけで済んだのは幸運だったが、木にでもぶつかったら、療養コースへ突入だ。

そう思っている家に、氷の滑る音が遠くから聞こえた。

早くも1周が終わったようだ。

ボロになった自分の身体を、心配そうにランサーは見つめている。

 

「スティーブ、大丈夫かい?」

「あぁ、草原が逃げ道になって助かった。

飛ばしすぎたみたいだな。」

「そうだね、あと少し早くブレーキに入れば上手く曲がれたはずかな。

・・・・・・と思っていたけど、まだ曲がり方を教えていなかったね。

最初に教えるはずだったのに、自分のテンションの高さを抑えられなかったよ。」

「まあ元気なのは良い事だ。

あとはボートが心配だが、それ以上にこのボートに慣れてしまいたい。」

「大丈夫、時間はいっぱいあるし、このボートは頑丈だ。

ハードの事は気にせず、自分のソフトの面を大事に走っていこう。」

「そうだな、あとは無理をする程上手くないのも良くわかった。

自分のペースで行くとしよう。」

「そう!

大事なのは絶対に生き残るという気持ちさ!」

 

気を取り直して曲がり方を教わるべく2週目が始まろうとしていた。

その前に、太った村人に声をかけられた。

 

「そこのチミは新入り?」

「あ、あぁ。

そうだが?」

「いきなりコースで練習だなんて、チャレンジャーだねぇ。

ぼくちんの迷惑になんないように走ってよ、ぷぷぷ!」

「そのぐらいはわかってる。」

「それと、その傷から察するに・・・・・・壁にぶつけて転んだね?」

「・・・・・・そうだ、その通りだ。」

「あんまりイキってるとこっちまで恥ずかしいわ、くくっ!」

 

初対面でこれとは、なかなかに腹の立つ奴だ。

しかし連れ出されたとはいえ、これが事実だから何も言い返す事は出来なかった。

もたつきながら滑っていく後ろ姿を見つめるしか出来なかった。

ひたすらに悔しい。

その悔しさをバネに、彼らが半周した辺りで自分とランサーもボートを置いて滑りだす。

 

「すっかり忘れてたけれど、今から曲がり方を教えるよ。」

「あぁ、頼む。」

「まずは速度を落としたままで行ってみよう。」

 

ランサーはまず、シャベルの当て方を教えてくれた。

右コーナーを曲がる時は、右手のシャベルだけを氷に当て続けながら、左のシャベルを加速時と同じように当てていく。

そうするとボートは右側を向くので、ここから加速をしていく。

そのままにしていると外側へ流れるように走り出すので、上手いことシャベルを当ててボートを真っ直ぐにする。

これが基本の曲がり方だ。

左コーナーは使う手を逆にして、同様の手順で曲げられる。

しかし、これを覚えたからといって今すぐ上手に走れると思ったら、そうはいかない。

ただの環状でも一つ一つのコーナーは微妙に違う。

というのも、今走っている環状コースはあくまでレイアウトの1つであり、本番は別のレイアウトを使用する。

本番で使う方のコースと共有している部分があるのだ。

その為、全部同じ曲がり方では攻略はできない。

当て方を変えて、そのコーナーに適した曲げ方をする必要がある。

 とにかく最初はゆっくりとした速度で、少しずつ曲げる練習を始めた。

ぎこちない動きだが、コーナーをやり過ごす度に少しずつ最適化されていく。

何回もスピンしたり、何回も壁にぶつけたり、無様な走りな所は中々変わらない。

それでもランサーは、こちらを見捨てる事無く止まって様子を見に来る。

時々それを、太った村人の乗るボートが過ぎていく。

後ろから見ていると、彼も下手な走り方をしているものだ。

だいぶ速度を落とすし、その割にコーナーを出る度ふらついている。

それに対し、ランサーの走りを見て欲しい。

彼はシャベルを適切な具合で氷に当てる術を熟知している。

なので、手元に無駄がなく、まるで壁とボートが見えないリードで結ばれているような・・・・・・そんな正確なコーナリングを見せてくれる。

練習の中でもあっという間に時間は過ぎ、夜になってしまった。

身体が痛むが、走っていると中々に楽しいものだ。

依頼とはいえ、こんなに楽しくていいのだろうか。

そう思う気持ちを胸にしまい、寝る事にした。

 翌日も朝早くから練習だ。

昨日見惚れたランサーの走りに憧れ、今度は後ろから見様見真似でトレースしてみようと試みた。

練習内容は引き続きコーナリングである。

スコップの当て方から姿勢まで、目で見れる範囲でトレースしながら追いかけてみよう。

が、まだ慣れてはいないらしく、ボートは揺らついてしまう。

それを背にランサーは減速をして様子をみつつ、次のコーナーまでこちらを引っ張る。

ひたすら追いかけて、ひたすら後ろ姿を目で見てトレースしてみて・・・・・・。

気がつくと、お互い無言のまま同じコースを呆れるほど周回している事に気がついた。

ランサーはこちらの事を気にせず走り続けている。

それを黙って追いかける。

日はとうに暮れて、時間は夜も本格的に深みを見せる頃である。

ランサーもさすがに疲れたのか、走りにいつもの元気さが無くなっていた。

自分もここら一帯寒いはずなのに、それすら忘れていた。

夢中になって走っていたんだと思う。

ランサーもハッとしたような動きを見せ、慌てて最後の周回を終わらせた。

自分も同じように終わらせた。

ボートを降りた瞬間、現実に戻れと今更のように寒さが襲ってくる。

 

「よ、夜は寒いな・・・・・・。

ランサー、ここまで走るなんて聞いてないぞ。」

「そうだね。

でも君は凄いよ、僕も時間が経つのを忘れて走っていたんだ。

本当は昼頃に食事を摂って、もっと深い事を教えるつもりだったんだよ。」

「それは本当か?

練習だというのに、そっちは逃げるように走り続けたじゃないか。」

「君の上達が速すぎて、もしかしたら本当に抜かれるかもって。

そう思うと、負けず嫌いの血が騒ぐんだ。

・・・・・・ところで、君はどうやってあそこまで走らせられるように?」

「目で見て真似して追いかけた、それだけだ。」

「そこまで出来てしまえば、あとは詳しい走り方を教えて、その通りに動けるようにするだけだね。」

 

 翌日、再び練習走行が始まる。

今日は曲がり方や走り方の詳しい解説と実践だ。

この解説は1日ずっと続く上に、複雑なので今回の説明は抜きにする(実際に走りながらの方が早い)が、これで本格的にレースに出る体勢が出来た。

ここからいよいよ本当の依頼が始まる。

遊びでは済まされない領域に足を踏み入れるのだ。

・・・・・・ジョンソンからは遊びと聞かされていたのに、話が違うじゃないか。

 今回の本当の依頼は、レースに出場する事である。

ランサーはこれから村に貼る紙を見せてくれた。

レースは今日から1週間後、予選は抜きに本戦のみである。

・・・・・・人が集まらないので仕方の無い事だとランサーはぼやく。

優勝賞品は参加賞も含めエメラルドだ、合計すると大層な個数になる。

これでも全盛期の半分にも満たないようだ。

それだけ昔は、大勢のクラフターがこのレースに興じた証と言えるだろう。

この賞金が、そのまま今回の依頼の報酬として支払われる手筈となっている。

ここまでなら、1位を目指して頑張ってねで済む話だ。

 

「ところで、この副賞は・・・・・・?」

「君も気になるんだね。

それはエンダーアイ。

選ばれし者が手に取ると、道が開かれる・・・・・・という噂のあるお宝さ。

これ自体にも一応の価値はある。」

「どこかで見たような・・・・・・。」

 

記憶を辿ってみると、一冊の本で止まった。

「終わりを見た目」である。

この中に同じような見た目の物があった。

もしかすると、この話は実際にあったものなのではという疑念が生まれる。

考え事をしていたらランサーに肩を軽く叩かれた。

 

「聞いてるかい?

・・・・・・エメラルドより、その副賞の方が欲しい?」

「そうだな、もちろん依頼である以上エメラルドも欲しいが。」

「君は変わってるね。

なら、この1週間で更に早くなろう、君ならできる!」

 

この短い期間の間、どこまで自分は上手くなれるだろうか。

不安とともに夜は来る。

小屋に入ると、トーチに照らされて誰かが立っていた。

 

「やあ、久しぶり。」

「お前は・・・・・・!?」

 

いつぞやのファンを名乗っていた男だ。

 

「洋館では世話になったね。

館は全焼、家主も丸焦げさ。」

「そうか・・・・・・ところで、何をしにここへ?

というより、なぜこの場所にいるのが分かった?」

「それはいいじゃないか。

君の活躍をきいて、ここまでやってきただけなんだから。」

「もう一度聞く、何故ここに来た?」

「警告をしにきたんだ。」

「警告・・・・・・?」

 

彼の姿そのものが怪しく、ここに来れた理由もわからないまま話は強制的に進む。

 

「最近、この村の周りで魔法使いが騒ぎを起こしている。

スロービレッジでの実験をもう一度やるみたいだね。」

「魔法使い、実験・・・・・・ポーションの事か?

また雷でも降らして、武装集団を作ろうとでも?」

「そうだよ。

ま、あいつの事は私も嫌いだ。

君が倒してくれるなら願ったり叶ったりといったところ。」

「それで終わりか?」

「次の標的は・・・・・・恐らくここになるだろう。」

「・・・・・・。」

「ネザーで散々無理をしたと風の噂に聞いた。

・・・・・・何度も死なれたら、いよいよ頭を抱えたくなる。」

「わかった、無理はしない。」

 

警告を終えた彼は、小屋から出ようとした。

しかし何か言い忘れたのか、ドアの前で動きを止めた。

 

「最後に1つ、謝らなければいけないことがある。」

「何か悪い事でも?」

「ああ、その腕を切ったのは・・・・・・私だ。

斧を当てずっぽうに投げたが、それが君の腕を叩ききってしまったようだ、申し訳ない。」

「・・・・・・そうか。

今更謝られたところで腕は戻らない。

帰ってくれるか。」

「墓場まで持っていくべきだったかな。

・・・・・・でも、良い腕にしてもらえたみたいで、私の不安も少しはマシになったよ。」

 

言いたい事を言い切り、小屋から出ていった。

どこへ行くのか気になったので、ドアの隙間から見てみるが、すぐに闇の中に消えてしまった。

目で追うことすらままならなかった。

彼とのやりとりは思ったより時間を食ったらしく、月は真上を向く頃だったので、すぐにベッドへ飛び込んだ。

レースまで、あと6日である。





【挿絵表示】

コースなんて字だけで説明してもあれなので、資料として描いたものを置いておきます。
これできっともっと楽しく読める・・・・・・はず。

もっと追記

【挿絵表示】

じっさいにつくりました。
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