翌日もランサーは日が昇る前にやってきて突然こんな事を言い出した。
「昨日は散々考えたよ。
君はもうある程度走れるようになった。
僕にはまだ届かずとも、他の村人より余程速い乗り手と見た。」
「それは本気で言っているのか?」
「本気の本気、嘘はつかないよ。」
いきなりの褒め言葉に困惑してしまう。
しかし、走り出してからまだ2日しか経っていないのに、ここはこうと走り方が定まってきている気がしなくもない。
「今日は君のボートを更にパワーアップさせよう。
もっと速く走るには、そのボートじゃまだまだだ。」
「そうなのか?
これですら疲れるんだが・・・・・・。」
「悪いけれど、これはまだステージ1だ。
この後2に移行し、それも上手く行き次第ファイナルにする予定だよ。
まだまだ本気を出てないんだ、気を引き締めてくれよ?」
嘘だと言ってくれ。
1週間もないのに、これより更に早いボートを使うのか、正気なのか。
彼にいやいや連れられ訪れたのは、村のはずれにある石レンガ造りの建物だった。
派遣村も、余った石材を切り出して村人用の住居を骨粉を撒くが如く、次々と生やしている。
今も尚衰えを知らない。
実は自分が拠点とする建物も、気がつくと8階建てになっているうえに、知らない村人が住み着いていた。
インスティーの飽くなき採掘魂の賜物である。
話を戻して、中では多数の村人が、ボートを舐めるように見つめている。
ここでボートの改造をしているようだ。
「あぁランサー、ちょうどいいところに。
ボートが仕上がった。」
「ありがとう。
スティーブ、これがステージ2の機体だ。」
そのボートは一見ダークオーク製のものだった。
しかし、後ろにかまどが置かれている。
「このかまどは・・・・・・なんだ?」
「そうだね、これがステージ2の大きな特徴だよ。」
嬉々としてランサーはボートに乗せられたかまどについて語る。
これは一言で言うなれば、加速装置だ。
中に燃料と燃やす物を入れて精錬する事に関しては、慣れ親しんだ物と変わらない。
しかし、入れる物がまた変わっている。
ランサーが懐から妙な塊を取り出す。
「なんだ、その・・・・・・火薬を握りこぶしサイズに固めたようなものは。」
「よくこれが火薬だって分かったね。
そう、これをかまどに入れるんだ。」
「おい待て、それをかまどに入れるのか!?
爆発しないのか!?」
「大丈夫、これはただの火薬じゃないよ。
外に出よう、見てもらった方が早いからね。」
外に出たランサーと自分はさっそく、近くに置かれた作業台へ向かう。
見せるにはもう少し手を加える必要があるらしい。
作業台でランサーは、火薬の塊に染料を練り込んで、それを紙で巻いた物を3本作った。
「出来たよ。
これの導火線に火をつけて、着火する直前に手を離してごらん。」
火種は松明からもらって、言われた通りにしてみる。
ヒューンと甲高い音と共に空へ昇っていく。
2秒した辺りで爆発音と共に、綺麗な赤色の光が浮かぶ。
昼間にやったからよくは見えなかったが、夜中にやれば見事な光景になったに違いない。
「さて、これがロケット花火というんだ。
綺麗だった?」
「あぁ、綺麗だ。」
「あの赤い光の正体が、さっきの火薬の塊だ。
花火の星って言うんだよ。
とはいっても、あの赤は僕が色付けしたものだから、ただの火薬を爆発させてもああいう風にはならない。」
「改めて聞くが・・・・・・こんな危険なものをかまどに入れてしまうのか?」
「そうだよ?
エクストリームだね!」
ランサーの屈託のない笑顔から飛び出す爆弾発言に、思わず1歩引いてしまった。
「実際はもっと小さめのものでやるから安心して。
さっきの物は実際に花火として使う量で、レースで使う量はもっと小さい。」
「そうか・・・・・・。」
色々と不安にはなったが、実際に使ってみないと分からないところだろう。
建物内に戻って、改めてボートの紹介に入る。
「さて、このステージ2からはかまど付きになる。
重くはなるけど、更にチューニングが施されている。
シャベルの繊細な当て方が重要になってくるよ。」
「更に難しくなるのか・・・・・・。
それに大会まで1週間も無いが、大丈夫なのか?」
「3日でボートを乗りこなせた君なら大丈夫!」
早速ボートを連れてコースに戻って来た。
建物内で見ていた時は前しか見ることが出来なかったが、かまどの後ろ側やボートの中を見る事が出来た。
チューブがかまどから伸びている。
覗き込んでいたら、ランサーが詳しく説明してくれた。
「言い忘れていたけど、このチューブに火薬を投げ入れればいい。
すると、かまどの中で勝手に燃えて大量の煙が出る。
この煙が後ろについたチューブを通じて排出され、その勢いでボートを加速させるんだ。」
「なるほど・・・・・・。」
「ちなみに、曲げている最中は使わない方がいいよ。
姿勢が一瞬で乱れてしまうからね。
最悪ボートから投げ出されてしまうんだ。」
「なら、最適な使い方はコーナーを抜けた直後か、長い直線という事なのか?」
「そう、そこまで考えられれば大丈夫。
ステージ2も問題無く乗れるはずさ。」
そして、このボートに慣れるべく練習を始める。
しかし、ボートに乗り出した時、どこかで聞いたような・・・・・・いや、聞きたくない声が聞こえる。
例のデブだ。
「まだ乗り出して数日もしてないのに、もうかまどつけちゃったの?」
「あぁ、なんかそういう事になった。」
「チミって、形から入るんだねっぷぷ!
どーせ使いこなせないよ、そんなの。」
色々と煽り文句が飛び交うが、そんな事はどうだっていい。
まず乗りこなす事が先だ。
そう思ったところ、ランサーは言葉で斬り掛かる。
「それはどうかな?
スティーブは速いよ?」
「それはそれはご立派な事言うじゃん?
でも、ちょっとしか走ってないんでしょ?
この前だって、痛そうにしてたんでしょっぷぷぷ!!」
「それは間違いない、痛そうにしてた。
でも今は大丈夫、もうそんな事にはならないよ。」
「本当かな〜?」
「本当だ。」
ランサーは快く思わないらしく、どんどんこちらのプレッシャーを煽るような調子になってきている。
そろそろ止めないと大会どころではなくなりそうだ。
「ランサー、突っかからなくて良い。
こういうのは放っておくのが1番じゃないか。
気持ちはわかるんだが・・・・・・。」
「君は何も分かっていないんだ!
君の走りはまだ粗削りとはいえ、まさに才能の塊だよ!?
それなのに、こんな風に過小評価されて納得がいかないじゃないか!!」
「あくまでこちらは遊びで来ているんだ。
依頼内容を忘れないで欲しい。」
「君という奴は・・・・・・!!」
お互いの熱量の差が確執を生んでしまった。
そろそろこのステージ2の機体で練習をさせて欲しい。
「遊びでこんな本気装備させてるの?
エメラルドの無駄だよ無駄!」
「・・・・・・じゃあ勝負しようじゃないか。
僕の目は間違っちゃあいないんだ!!」
まずい、飛び火した。
練習も無しにこのデブを出し抜けと!?
ここでハッキリとわかった。
もう遊びでは済まされない世界に連れてこられたんだと。
2人はボートに乗ってラインの前に立つ。
ルールは単純、練習で使用したコースを先に3周した方の勝ちだ。
「この数日で本当に上手くなったのか、ぼくちんが見てあげるよ。」
「・・・・・・。」
相変わらず嫌味を感じて仕方がないので、早く終わらせてしまおう。
ランサーがカウントを始める。
3、2、1・・・・・・
GO!!
2台のボートは共に駆け出す。
滑り出しは好調だ。
最初のボートよりも少しだけ加速がつく。
ただ、後ろのかまどのせいでボートが少しふらつく。
矢を逆向きにして打ったのと同じように、安定性に欠けている。
このふらつきが原因で、デブとの横並びを実現しているみたいだ。
最初のコーナーは慎重に行くことにして、少し早めにシャベルを氷へ当てる。
しかし、中々目的の速度まで落ちない。
ボートが重たくなった事で、止めるのに更に力が必要になっているようだ。
幸い早く止めた分で相殺出来たので、そのままコーナーを曲がる。
が、ここでもかまどは悪さをする。
ボートの不安定さ故に、コーナーの立ち上がりも、前のものよりシビアになる。
シャベルの当て方に気を使って、スピンせずに次のストレートへ進む。
デブの背中が遠くなっていく・・・・・・。
「ちみも、まだまだだねぇ。
ボートに乗せられてるだけで、ドライバーはダメダメ!」
そういうお前もだろうが。
彼のボートは何も積んでないはずだが、見ているこっちも不安になるほどボートがふらついてる。
前のボートなら全然勝てる、話にならないだろう。
だが、初乗りかつ本気で走れと言われて焦っている。
まだ始まったばかりだというのに・・・・・・。
次はゆるめのコーナーなので、シャベルの当てだけで少しだけ減速をしつつ曲がる。
このステージ2の機体は、高速域だと綺麗に曲がるようだ。
えらく角度はつくが、これはこれで楽しい。
一気にデブのボートのすぐ後ろを捉えた。
この後の2コーナーも、形は違えど1つ目と似たような感覚で走り抜けられる。
このまま加速して抜かしたいが、火薬の出番はまだだ。
デブが何をしでかすか分からない。
ストレートではデブの方が速いらしく、じわりじわりと離される。
今すぐにでもかまどを放り投げたい気分だが、そんなことをしようものなら、ランサーは怒り、嘆き、悲しむだろう。
依頼者をそんな目にあわせてはならない。
これは遊びではなく依頼だ。
真剣に走ったが、抜かす機会に恵まれず、2週目に入った。
あいつ、抜こうとするとすぐにブロックしてくる。
生意気な。
こちらの怒りを背に受けるデブは、ふらつきはするも軽快に走り抜ける。
・・・・・・いや、最初よりふらついている。
というより、このデブ・・・・・・最初の練習をしていた時、数周で走るのをやめて休憩していたような・・・・・・?
なるほどな。
勝負は2つ目のゆるいコーナーに決めた。
決戦はすぐに来た。
ゆるいコーナーを1周目と同じように抜ける。
ここでデブ、外側へ離れていく。
シャベルを当てる力が足りず、ズルズルとラインから離れてしまっているようだ。
ここを自分は見逃さない。
コーナー出口付近、ゆるいコーナーのお陰でボートが早く安定する。
そこを火薬でドンと加速する。
背中の方から小さな爆発音と共に、ボートは爺さんお手製の矢の如く飛び出す。
というより本当に矢になったような気分だ、気持ちがいい。
この後はもう語るまでもなく、大差をつけ・・・・・・いや、勝手にデブが自爆して1周差で勝った。
つまらなかったぞ。
「ち、チミがそんなもん付けるから勝てなくて当然だもんね!!
ぼくちんのガチ機体なら、かまどに頼らずとも勝てるさ!!」
「それ、本気で言っているのか?」
呆れ半分に言ったものだから、デブはそれはもう怒る。
「もう1度勝負しろ!!
ボートを交換しt」
「そうした所で関係ないよ。
むしろお互いケガをしてしまうからね。」
ランサーは冷静に止めに入る。
さっきと構図が逆になってしまった。
「君のボート、少し見ただけでわかるよ。
大量の削れが目立つボディだ、中の骨組みにまでダメージが入っているかもしれない。
それに、力任せに握っているからシャベルも変な形になっている。」
「ぼくちんの愛機にケチをつけんな!!」
「ケチか・・・・・・。
そっくりそのまま返そうかな、その言葉。」
「どうして!?
証拠があるのか証拠は!!」
「そのボート、スティーブに渡したものより安い、廉価版だしね。」
あのボート、しっかり良い物だったのか・・・・・・。
最初に自前のボートで行こうとした事を思い出し、ランサーを視界から外した。
デブはもう氷のように固まっていた。
「最後にこれだけ渡しておくよ。
次の大会、しっかり見て欲しいな。」
ランサーは固まったデブの手に大会のチラシを挟んだ。
そのチラシを見て、何か恐ろしいものを見つけてしまったらしい。
「ねぇ、1個聞いていい?」
「どうしたんだい?」
「チミ、この人にそっくりだよね・・・・・・。
まさかとは思うけど・・・・・・。」
「そっくりも何も、それは僕だ。
人もいないし、参加してくれるともっと嬉しいよ。」
「伝説のランサー様だったなんて!
嫌です断ります、勝てないさようならぁぁぁ!!」
ボートを慌てて回収して逃げてしまった。
「・・・・・・伝説の?
おい、どういう事だ。」
「さあ、なんの事だろう?
大会、頑張ろうね!!」
嫌な予感がしてきた。
彼が最後の壁になるのが予感される。
大会まで、あと5日である。
ストックが尽きました。
来週からいつも通り不安定な投稿が予測されるでしょう。
・・・・・・区切りがつくまでは頑張ります。
その後は・・・・・・お察しください。
(まだまだエタる気はせん)