冒険者兼破壊者の復讐劇。   作:TTY

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Ep31 ステージ2。

 翌日もランサーは日が昇る前にやってきて突然こんな事を言い出した。

 

「昨日は散々考えたよ。

君はもうある程度走れるようになった。

僕にはまだ届かずとも、他の村人より余程速い乗り手と見た。」

「それは本気で言っているのか?」

「本気の本気、嘘はつかないよ。」

 

いきなりの褒め言葉に困惑してしまう。

しかし、走り出してからまだ2日しか経っていないのに、ここはこうと走り方が定まってきている気がしなくもない。

 

「今日は君のボートを更にパワーアップさせよう。

もっと速く走るには、そのボートじゃまだまだだ。」

「そうなのか?

これですら疲れるんだが・・・・・・。」

「悪いけれど、これはまだステージ1だ。

この後2に移行し、それも上手く行き次第ファイナルにする予定だよ。

まだまだ本気を出てないんだ、気を引き締めてくれよ?」

 

嘘だと言ってくれ。

1週間もないのに、これより更に早いボートを使うのか、正気なのか。

 彼にいやいや連れられ訪れたのは、村のはずれにある石レンガ造りの建物だった。

派遣村も、余った石材を切り出して村人用の住居を骨粉を撒くが如く、次々と生やしている。

今も尚衰えを知らない。

実は自分が拠点とする建物も、気がつくと8階建てになっているうえに、知らない村人が住み着いていた。

インスティーの飽くなき採掘魂の賜物である。

 話を戻して、中では多数の村人が、ボートを舐めるように見つめている。

ここでボートの改造をしているようだ。

 

「あぁランサー、ちょうどいいところに。

ボートが仕上がった。」

「ありがとう。

スティーブ、これがステージ2の機体だ。」

 

そのボートは一見ダークオーク製のものだった。

しかし、後ろにかまどが置かれている。

 

「このかまどは・・・・・・なんだ?」

「そうだね、これがステージ2の大きな特徴だよ。」

 

嬉々としてランサーはボートに乗せられたかまどについて語る。

これは一言で言うなれば、加速装置だ。

中に燃料と燃やす物を入れて精錬する事に関しては、慣れ親しんだ物と変わらない。

しかし、入れる物がまた変わっている。

ランサーが懐から妙な塊を取り出す。

 

「なんだ、その・・・・・・火薬を握りこぶしサイズに固めたようなものは。」

「よくこれが火薬だって分かったね。

そう、これをかまどに入れるんだ。」

「おい待て、それをかまどに入れるのか!?

爆発しないのか!?」

「大丈夫、これはただの火薬じゃないよ。

外に出よう、見てもらった方が早いからね。」

 

 外に出たランサーと自分はさっそく、近くに置かれた作業台へ向かう。

見せるにはもう少し手を加える必要があるらしい。

作業台でランサーは、火薬の塊に染料を練り込んで、それを紙で巻いた物を3本作った。

 

「出来たよ。

これの導火線に火をつけて、着火する直前に手を離してごらん。」

 

火種は松明からもらって、言われた通りにしてみる。

ヒューンと甲高い音と共に空へ昇っていく。

2秒した辺りで爆発音と共に、綺麗な赤色の光が浮かぶ。

昼間にやったからよくは見えなかったが、夜中にやれば見事な光景になったに違いない。

 

「さて、これがロケット花火というんだ。

綺麗だった?」

「あぁ、綺麗だ。」

「あの赤い光の正体が、さっきの火薬の塊だ。

花火の星って言うんだよ。

とはいっても、あの赤は僕が色付けしたものだから、ただの火薬を爆発させてもああいう風にはならない。」

「改めて聞くが・・・・・・こんな危険なものをかまどに入れてしまうのか?」

「そうだよ?

エクストリームだね!」

 

ランサーの屈託のない笑顔から飛び出す爆弾発言に、思わず1歩引いてしまった。

 

「実際はもっと小さめのものでやるから安心して。

さっきの物は実際に花火として使う量で、レースで使う量はもっと小さい。」

「そうか・・・・・・。」

 

色々と不安にはなったが、実際に使ってみないと分からないところだろう。

 建物内に戻って、改めてボートの紹介に入る。

 

「さて、このステージ2からはかまど付きになる。

重くはなるけど、更にチューニングが施されている。

シャベルの繊細な当て方が重要になってくるよ。」

「更に難しくなるのか・・・・・・。

それに大会まで1週間も無いが、大丈夫なのか?」

「3日でボートを乗りこなせた君なら大丈夫!」

 

 早速ボートを連れてコースに戻って来た。

建物内で見ていた時は前しか見ることが出来なかったが、かまどの後ろ側やボートの中を見る事が出来た。

チューブがかまどから伸びている。

覗き込んでいたら、ランサーが詳しく説明してくれた。

 

「言い忘れていたけど、このチューブに火薬を投げ入れればいい。

すると、かまどの中で勝手に燃えて大量の煙が出る。

この煙が後ろについたチューブを通じて排出され、その勢いでボートを加速させるんだ。」

「なるほど・・・・・・。」

「ちなみに、曲げている最中は使わない方がいいよ。

姿勢が一瞬で乱れてしまうからね。

最悪ボートから投げ出されてしまうんだ。」

「なら、最適な使い方はコーナーを抜けた直後か、長い直線という事なのか?」

「そう、そこまで考えられれば大丈夫。

ステージ2も問題無く乗れるはずさ。」

 

 そして、このボートに慣れるべく練習を始める。

しかし、ボートに乗り出した時、どこかで聞いたような・・・・・・いや、聞きたくない声が聞こえる。

例のデブだ。

 

「まだ乗り出して数日もしてないのに、もうかまどつけちゃったの?」

「あぁ、なんかそういう事になった。」

「チミって、形から入るんだねっぷぷ!

どーせ使いこなせないよ、そんなの。」

 

色々と煽り文句が飛び交うが、そんな事はどうだっていい。

まず乗りこなす事が先だ。

そう思ったところ、ランサーは言葉で斬り掛かる。

 

「それはどうかな?

スティーブは速いよ?」

「それはそれはご立派な事言うじゃん?

でも、ちょっとしか走ってないんでしょ?

この前だって、痛そうにしてたんでしょっぷぷぷ!!」

「それは間違いない、痛そうにしてた。

でも今は大丈夫、もうそんな事にはならないよ。」

「本当かな〜?」

「本当だ。」

 

ランサーは快く思わないらしく、どんどんこちらのプレッシャーを煽るような調子になってきている。

そろそろ止めないと大会どころではなくなりそうだ。

 

「ランサー、突っかからなくて良い。

こういうのは放っておくのが1番じゃないか。

気持ちはわかるんだが・・・・・・。」

「君は何も分かっていないんだ!

君の走りはまだ粗削りとはいえ、まさに才能の塊だよ!?

それなのに、こんな風に過小評価されて納得がいかないじゃないか!!」

「あくまでこちらは遊びで来ているんだ。

依頼内容を忘れないで欲しい。」

「君という奴は・・・・・・!!」

 

お互いの熱量の差が確執を生んでしまった。

そろそろこのステージ2の機体で練習をさせて欲しい。

 

「遊びでこんな本気装備させてるの?

エメラルドの無駄だよ無駄!」

「・・・・・・じゃあ勝負しようじゃないか。

僕の目は間違っちゃあいないんだ!!」

 

まずい、飛び火した。

練習も無しにこのデブを出し抜けと!?

ここでハッキリとわかった。

もう遊びでは済まされない世界に連れてこられたんだと。

 2人はボートに乗ってラインの前に立つ。

ルールは単純、練習で使用したコースを先に3周した方の勝ちだ。

 

「この数日で本当に上手くなったのか、ぼくちんが見てあげるよ。」

「・・・・・・。」

 

相変わらず嫌味を感じて仕方がないので、早く終わらせてしまおう。

ランサーがカウントを始める。

3、2、1・・・・・・

 

GO!!

 

 2台のボートは共に駆け出す。

滑り出しは好調だ。

最初のボートよりも少しだけ加速がつく。

ただ、後ろのかまどのせいでボートが少しふらつく。

矢を逆向きにして打ったのと同じように、安定性に欠けている。

このふらつきが原因で、デブとの横並びを実現しているみたいだ。

 最初のコーナーは慎重に行くことにして、少し早めにシャベルを氷へ当てる。

しかし、中々目的の速度まで落ちない。

ボートが重たくなった事で、止めるのに更に力が必要になっているようだ。

幸い早く止めた分で相殺出来たので、そのままコーナーを曲がる。

が、ここでもかまどは悪さをする。

ボートの不安定さ故に、コーナーの立ち上がりも、前のものよりシビアになる。

シャベルの当て方に気を使って、スピンせずに次のストレートへ進む。

デブの背中が遠くなっていく・・・・・・。

 

「ちみも、まだまだだねぇ。

ボートに乗せられてるだけで、ドライバーはダメダメ!」

 

そういうお前もだろうが。

彼のボートは何も積んでないはずだが、見ているこっちも不安になるほどボートがふらついてる。

前のボートなら全然勝てる、話にならないだろう。

だが、初乗りかつ本気で走れと言われて焦っている。

まだ始まったばかりだというのに・・・・・・。

 次はゆるめのコーナーなので、シャベルの当てだけで少しだけ減速をしつつ曲がる。

このステージ2の機体は、高速域だと綺麗に曲がるようだ。

えらく角度はつくが、これはこれで楽しい。

一気にデブのボートのすぐ後ろを捉えた。

この後の2コーナーも、形は違えど1つ目と似たような感覚で走り抜けられる。

このまま加速して抜かしたいが、火薬の出番はまだだ。

デブが何をしでかすか分からない。

 ストレートではデブの方が速いらしく、じわりじわりと離される。

今すぐにでもかまどを放り投げたい気分だが、そんなことをしようものなら、ランサーは怒り、嘆き、悲しむだろう。

依頼者をそんな目にあわせてはならない。

これは遊びではなく依頼だ。

 真剣に走ったが、抜かす機会に恵まれず、2週目に入った。

あいつ、抜こうとするとすぐにブロックしてくる。

生意気な。

こちらの怒りを背に受けるデブは、ふらつきはするも軽快に走り抜ける。

・・・・・・いや、最初よりふらついている。

というより、このデブ・・・・・・最初の練習をしていた時、数周で走るのをやめて休憩していたような・・・・・・?

なるほどな。

勝負は2つ目のゆるいコーナーに決めた。

 決戦はすぐに来た。

ゆるいコーナーを1周目と同じように抜ける。

ここでデブ、外側へ離れていく。

シャベルを当てる力が足りず、ズルズルとラインから離れてしまっているようだ。

ここを自分は見逃さない。

コーナー出口付近、ゆるいコーナーのお陰でボートが早く安定する。

そこを火薬でドンと加速する。

背中の方から小さな爆発音と共に、ボートは爺さんお手製の矢の如く飛び出す。

というより本当に矢になったような気分だ、気持ちがいい。

 この後はもう語るまでもなく、大差をつけ・・・・・・いや、勝手にデブが自爆して1周差で勝った。

つまらなかったぞ。

 

「ち、チミがそんなもん付けるから勝てなくて当然だもんね!!

ぼくちんのガチ機体なら、かまどに頼らずとも勝てるさ!!」

「それ、本気で言っているのか?」

 

呆れ半分に言ったものだから、デブはそれはもう怒る。

 

「もう1度勝負しろ!!

ボートを交換しt」

「そうした所で関係ないよ。

むしろお互いケガをしてしまうからね。」

 

ランサーは冷静に止めに入る。

さっきと構図が逆になってしまった。

 

「君のボート、少し見ただけでわかるよ。

大量の削れが目立つボディだ、中の骨組みにまでダメージが入っているかもしれない。

それに、力任せに握っているからシャベルも変な形になっている。」

「ぼくちんの愛機にケチをつけんな!!」

「ケチか・・・・・・。

そっくりそのまま返そうかな、その言葉。」

「どうして!?

証拠があるのか証拠は!!」

「そのボート、スティーブに渡したものより安い、廉価版だしね。」

 

あのボート、しっかり良い物だったのか・・・・・・。

最初に自前のボートで行こうとした事を思い出し、ランサーを視界から外した。

デブはもう氷のように固まっていた。

 

「最後にこれだけ渡しておくよ。

次の大会、しっかり見て欲しいな。」

 

ランサーは固まったデブの手に大会のチラシを挟んだ。

そのチラシを見て、何か恐ろしいものを見つけてしまったらしい。

 

「ねぇ、1個聞いていい?」

「どうしたんだい?」

「チミ、この人にそっくりだよね・・・・・・。

まさかとは思うけど・・・・・・。」

「そっくりも何も、それは僕だ。

人もいないし、参加してくれるともっと嬉しいよ。」

「伝説のランサー様だったなんて!

嫌です断ります、勝てないさようならぁぁぁ!!」

 

ボートを慌てて回収して逃げてしまった。

 

「・・・・・・伝説の?

おい、どういう事だ。」

「さあ、なんの事だろう?

大会、頑張ろうね!!」

 

嫌な予感がしてきた。

彼が最後の壁になるのが予感される。

 

大会まで、あと5日である。




ストックが尽きました。
来週からいつも通り不安定な投稿が予測されるでしょう。
・・・・・・区切りがつくまでは頑張ります。
その後は・・・・・・お察しください。
(まだまだエタる気はせん)
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