冒険者兼破壊者の復讐劇。   作:TTY

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2週間の間が空きましたが、生きてます。
頭痛めたり仕事で精神痛めたり(とネタ切れ)のせいで遅れましたという事です・・・・・・。


Ep32 ミニマムブレス。

 ステージ2での練習は、ランサーと2日かけて更なるステップアップをはかる。

時間が刻一刻と迫る。

ランサーは相変わらず朝に叩き起しに来るし、ボート漬けにされるしで、そろそろ村に帰ることを忘れてしまいそうだ。

 

「さて、今日から実際の大会のレイアウトで走るよ。」

「いよいよか・・・・・・。

ところで、どうして今日からなんだ?

最初からでもいいじゃないか。」

「大会がある月は、基本的に5日前まで使えないようになっている。

それ以外の月なら、週に3日間だけ開くんだけれどね。」

「そうなのか・・・・・・。」

 

今日からコースは複雑になる。

今までは右コーナーさえ曲がれれば良かったが、今度は様々なコーナーを攻略していかなければならない。

まだ左コーナーを知らないんだ、手加減をして欲しいものである。

 最初はコースの概要を知るべく、軽く1周走ることになった。

なるほど、いままで通っていたコースが柵で塞がれ、代わりに柵で塞がった箇所が開かれている。

ランサーの説明を要約するとこうだ。

スタートして右コーナー、次に真っ直ぐ抜けられるS字まではこれまでと同じだ。

しかし、すぐにゆるめの左コーナーが始まり、これを抜けると今度は右のヘアピンが待ち構えている。

いきなり難度が上昇していて頭を抱えそうだ。

その後はストレートと左S字コーナーが続き、今度は右、左の2連ヘアピンだ。

ヘアピンを抜けたら後は、慣れた右コーナーを2つ続けてホームストレートになる。

北側では速度を出しすぎず、丁寧に対処していく事を守り、南側で火薬を使って一気に抜ける。

そういったメリハリのある動きを作っていくのが良いだろう。

 

「いきなり難しくなったな。

5日で本当にどうにかなるのか・・・・・・?」

「大丈夫、君なら出来る!!」

 

実際出来てしまっているから怖いのだ。

数周かけてゆっくり走りつつ最短ラインを叩き込み、本格的に練習が始まる。

が、予想通り一筋縄にはいかない。

練習時のレイアウトだから気が付かなかっただけで、思い込みで走れるほどこのボートは甘くなかった。

無理な操作を押し付けようものなら、簡単に駄々をこねて暴走する。

実際、ヘアピンコーナーではシャベルの押し加減を誤り、勢いそのまま回転するような事態が度々あった。

最初の勢いはどこへやら、対話の成り立たないもどかしさに溺れていた。

そんな思いが、休憩のたびに毎回草原で大の字になってため息をつき続ける自分を苦しめる。

そんなふうに寝転がる自分を、ランサーが覗き込む。

 

「ステージ2は難しいかい?」

「そうだな、難しい。

少しでもシャベルをうっかり強く当てようものなら、勢いそのままに大回転だ。

どうだ、惨めだろう?」

「そんなことは無いさ。

何しろあれは、欠陥機だからね!!」

「そうなのか・・・・・・えっ欠陥機だって!?」

 

思わずランサーの覗き込む顔めがけて突撃した。

互いの衝撃で悶絶する。

 

「いたた、そこまで驚く事は無いと思ったんだけど・・・・・・。

君も薄々そんな気がしていたりしてね。」

「さすがに欠陥機と思った事は無いが、随分わがままな奴ぐらいには思ったな。

そうだな・・・・・・しっかり目を向き合って話す気になれば、案外悪くない奴ではあった。」

「意外だね、みんなこれに乗ったらボートレースをやめたくなるんだ。

選ばれたんだね、この子に。」

 

そんなランサーの一言が強力なフィルターになったのか、じゃじゃ馬欠陥わがまま坊やが急に愛おしい存在に見えてきた。

背負ったかまどがたくましいな、お前。

 休憩を終え、再び練習を始める。

すっかりその気になって上機嫌だった心に、早速暗雲立ち込める。

やはり思った以上に言う事を聞かない。

いや、それについては乗り出してから変わらない。

コーナーでふらついては、バランスを崩して真逆の方向へ突撃する。

この機体の癖を把握した補正術を身体に叩き込むのは、メンタルだけではどうにもならない。

嫌いになりそうな気持ちが心に染み込む。

たった1周の距離さえ遠く思えた。

 

「スティーブ、止まって。

一旦深呼吸しよう。」

「あぁ・・・・・・。」

「ずっと下を向いていると良くない。

悪い流れにのみこまれてしまうからね。」

 

好き嫌いを繰り返して、心がやれてきた。

しかし、この大会での賞金とエンダーアイは何としてでも持ち帰ってやりたい。

派遣村に住む全員の笑顔を想像し、どうにか気持ちを持ち直した。

結局この日は、コースを覚えてどうにかボートに振り回されないようにと、必死でシャベルを当て続ける事で日が暮れた。

スピンの回数はだいぶ減ったものの、本番なら1発でアウトだ。

 翌日も相変わらず苦戦するが、ランサーはそんな事を気にすることなく真摯に指導をする。

 

「昨日よりだいぶ乗れるようになってきたね。

すごいよ!!」

「本当に凄いのか?

まだ動きに振り回されているような気がするが・・・・・・。」

「いいや、そんな事は無いよ。

この動きならステージ3もしっかり乗りこなすよ。」

「ところで、そのステージ3はどんな機体になるんだ?」

「今のよりもずっと動かしやすいやつだよ。

ステージ2より翻弄される事も無いと思う。」

「じゃあなぜわざわざ、こんな乗りづらい物を合間に?」

「それは・・・・・・そうだね。

僕なりの挑戦状、と言ったところかな。」

「つまり、俺を試していたと?」

「うん、そうだよ。

君がボートに手を焼くようなら、そこで依頼を終わらせて、お礼を渡して帰す手筈だったんだけどね・・・・・・。

君はそんな所で終わらず、それどころか今もこうしてついてくるから、僕も久しぶりに熱くなってしまうんだ。」

 

隠していた本心をランサーは全開放させんとばかりに、早口でこちらに叩きかける。

その目は純粋な子供そのものだった。

 

「こうはしていられないね、ステージ3はすぐそこにあるんだ!!」

「すぐそこ・・・・・・どういう事だ?」

 

ついていくと、またしても石レンガの建物に辿り着いた。

例のステージ3は部屋の隅で、静かに時が来るのを待っている。

・・・・・・どうやらボートではないようだ。

 

「ステージ3は、今ついているかまどをより小さい物にして最終調整を施した、真のステージ2だよ。

2.1と見てもいいかもね。」

「なるほど・・・・・・。」

 

最初、遠近感でも狂ったのかと思っていた。

本当に小さいかまどらしい。

サイズ感としては、普段使うかまどを丸ごと、頭ぐらいの大きさにしたような小ささだ。

 

「このかまど、小さいからと言ってなめてはいけないよ。」

「今乗っかっているものよりもパワーが出るのか?」

「パワーは・・・・・・据え置きだね。

でも、小さくなった分だけ軽くなったから、さらに速度は乗るはずだよ。」

「そうか、良いじゃないか。

・・・・・・ところで、軽いということはつまり、今のような振り回される動きもマシになるのか?」

「そうだね、前よりもずっと操りやすくなるよ。

今の君なら変幻自在って訳さ!!」

 

 早速かまどを換装して、ボートをコースの上へ立たせる。

そして乗った今、心の中にうっすら浮かんでいた本音を言わせて欲しい。

ステージ2の席は狭かった、本当に狭かった。

それを小さなかまどが解決してくれた。

膝を痛めそうな体勢から開放してくれたのだ。

快適な乗り心地に安堵してから、ランサー先行で1周肩慣らしで走る。

1つコーナーを抜けただけでわかった、このボートは決してわがままな奴では無かったのだ。

 

重たいストレスがのしかかる中もがき、結果として他人を雑に振り回し、故に誰からも嫌われてきた。

そんな重たさが抜けた今、かつて誰にもみせなかった素直な心で接しようとする気持ちを、こちらにどうにか伝えようと必死になっている。

このボートは待っていたようだ。

俺もこの言わぬ思いを受け止めよう。

 

歯車が噛み合ったボートと自分は、練習の終わりまでにスピンする事はなかった。

危うい動きこそあれど、不思議と姿勢が行きたい方へ向かっているような気がした。

こいつとなら、きっと優勝も夢ではない。

ボートは一旦石レンガの建物に保管することになった。

ステージ2の練習で散々ぶつけたボディの補修、底にある板の交換、チューブチェック・・・・・・。

明日に最高のコンディションになるよう最終調整を行うそうだ。

ランサー直々の依頼なので、彼らはいっそうやる気に満ちている。

ボートに関して心配する事は無いだろう。

そのまま小屋に戻り、緊張を抱えて眠る。

この日は特に寝つきが悪かった。

あらゆるプレッシャーを思い出し、こちらの眠りを妨げようとせんと必死だ。

どうにか安眠の妨害を阻止し、本当に眠れたのは夜も半分を越えた頃だった。

 そして大会を迎える日になる。

ランサーが軸となって支えた日々が自信へと繋がるが、そんな希望と同時に、ファンを名乗る男の声が絶望的なほど反響する。

 

この大会に乗じて、何かが動き始める。

重たい空気が分厚い雲に乗ってやってくる。

雷の怒号が近づいてくる。

 

 朝食を食べ終え、小屋の中から外を2人で眺めていた。

先程から雲行きが怪しい。

 

「ランサー、今日は天気が悪くなりそうだな。」

「そうだね。

でも、中止にはしないよ。

ただ・・・・・・。」

「・・・・・・?」

「みんな雨が嫌いで、どんどん僕のところに棄権を言いに来たんだ。

それで、実質君と1対1の構図になってしまったんだよね。」

「え、大会なのにそんな事が起きるものなのか?」

「全盛期ならこの天気でも人は全然集まるんだけれど、今は集めるのにすら苦労しているんだ。

最近黒いモンスターに襲われているとかで、走れる人すら見つけられなくて・・・・・・。」

「!?」

 

思わぬ言葉がランサーの口から出たせいで、勢い任せに彼の方をむく。

 

「黒いモンスターだって!?」

「いきなり食いつくような話題だったかな!?

・・・・・・気になるのかい?」

「互いの解釈が間違っていなければ、そいつは俺が追っている因縁そのものだ、まさかここで出るとはな。」

「君もあのモンスターに?」

「そうだ、穏やかな村での生活を奪われ、間接的とはいえ腕も片方無くした。

そして今、こうして依頼でやってきたという訳だ。

失ったものは大きいが、得た物が無かったとは言っていない。

違うか?」

「君の言う通りだよ、僕もこうして君と会えた事を嬉しく思う。

・・・・・・レースを散々にしてくれたのは凄く苦しいけれどね。」

 

お互いの苦痛を共有しあい、レースの時間は近づく。

大会は10時から始まるようだ。

・・・・・・しかし、もらったパンフレットを見ると、ほとんどの行事にバツ印がつけられ、無くなってしまっている。

実質ランサーとの一騎打ちになってしまった影響をひしひしと感じる。

だが、そんな事はどうでもいいと思わせるほど外は賑わっている。

みんな好きなんだな、ボートの限界を探る遊びというのは。

そして開会式が始まる。





【挿絵表示】

せっかくなので挿絵でも置いときます。
・・・・・・また更新遅れそうや。
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