ランサーが司会を務める開会式だが、この時点で今まで見たことの無いような数の村人が来ている。
派遣村の人全員の3倍はくだらないだろう。
というよりそんな数がどこから・・・・・・?
「あれ、スティーブじゃん!」
「クレイモア!?
お前どうしてここに!?」
派遣村をイメージに出したが、本当に来ているなんて聞いてないぞ。
それに、サングラスまでつけている。
「そうだな、お前の活躍を直接見たくって来ちまった。」
「ここ結構距離あるんだが・・・・・・。」
「ジョンソンから、このサングラスと地図をもらったんで、ボートを漕いでやってきたってわけよ。」
「そうか。
・・・・・・頑張ってみようじゃないか。」
「きっちり勝ってこいよ!」
思わぬ来客からの応援をありがたく受けとり、練習走行の為にコースへ行こうとしたが、クレイモアはまだ言う事があるらしい。
「そういやその義手、調子どう?」
「だいぶ馴染んできた。
慣れは恐ろしいもんだ。」
「そりゃよかったぜ。
で、その義手にとにかく面白そうな機能あってさ、ついでに言っとくぜ。」
クレイモアは義手を触って説明をする。
「今まで慣らす目的であえて言わなかったんだけどよ、この指、伸びるんだわ。」
「そうなのか!?」
「そそ、腕1本ぐらい伸びる。」
「・・・・・・それだけか?」
「それだけだ!!
でも、生身じゃ出来ない事が出来るって凄くね!?」
「え、まぁそうだな。
・・・・・・使い道があるのかは分からないが、ありがとう。」
イマイチ使えるかも分からない機能を知った所で何になるんだか・・・・・・。
時間が来たので練習走行を始める。
ボートに乗り込み、ランサーの後ろをついていく形で走り出した。
今回は自分とランサー以外いないので、ほぼ貸切の状態だ。
練習時もそこまでいなかった(練習の時間帯がどうも違うらしく、ランサー曰く夜中に走る輩が多い)が、ここまで遠慮なく外から中まで贅沢に使えるのは初めてだ。
胸が高鳴る。
お互い5割のペースで数周分走ったが、この時は特に変わったことも無く、見栄えのあるものでは無かった。
肝心のボートとの対話は良好だ、一緒に本気の走りがしたいという声が聞こえる。
レースはいよいよ本番を迎えた。
ルールは単純、練習用コースを5周して次に本番用レイアウトで3周を先に完走した方の勝利だ。
走りを露骨に邪魔するような行為は当然許されない。
2つのボートがスタートラインに立つ。
氷の上は酷く寂しいが、観客が盛り上がって暑苦しいほどだ。
「なんだよ、2人だけかよ・・・・・・。」
「シラケるよな、俺たちこんなぽっとでのやつの走り、見に来た訳じゃないんだぜ?」
観客席の前の方から愚痴がちらっと聞こえた。
2人だけなのはこっちだってビックリしている。
「そんな事は無いらしいぞ!?」
「んだよ、てかお前誰だよ。」
「そんな事はいいじゃないか。
あの人、ランサーと最近ずっと走ってたらしいよ。」
「マジで!?
あの伝説のランサーと走ってたァ!?
そんな凄いやつなのか?」
「そうっぽいよ。
あの装備もランサーが譲ったって噂もあるし。」
「へぇ・・・・・・じゃ、どんなやつか見ておくか。」
勝手にプレッシャーを感じる流れにされてしまった。
依頼で来ただけだというのに、とんでもない体験をするとは、自分の巻き込まれ体質も捨てたものではないな。
「それじゃあ、カウントを始めるよ。
僕が仕込んだテクを見せてくれ!!」
村人が横に立ち、腕を上げる。
5、4、3、2、1・・・・・・
GO!!
シャベルを通して緊張と興奮が伝わる。
これが災いして、一瞬ランサーのスタートに遅れた。
彼は恐れを知らない、いや、恐れを封じ込めることに成功している。
皆から一挙手一投足を注目されても、そんな事で怯みはしないと背中が語る。
こちらも負けはしないさ。
最初のコーナーを抜け、軽めのS字を含んだストレートもあっという間に飛び出す。
ステージ2と同じ機体とは思えないほど軽快だ。
シャベルをグッと氷に当てて後方に流せば、その分だけ前に進む。
そんな当たり前な事が、ここまで気持ちがいいと思ったのは初めてだ。
重たいかまどを降ろしたのも大きいだろう。
しかし、抜く抜かないといった攻防にすらならないままコーナーの攻略は続き、2周、3周と周回数だけを重ねていく。
最初の1歩の違いが、大きなズレとなって返ってくる。
しかし・・・・・・腕力に関して言えばそうでも無いらしい。
シャベルを押し込む力はこちらの方が上なのか、ストレートでは距離が近づいている。
これを利用しない手は無いだろう。
コーナーで勝てない分をここで稼ぐのだ。
4週目手前、コーナーの先でついにランサーの横に張り付いた。
観客のテンションは興奮冷めやまぬ状況だ。
次のコーナーでまた距離が少し取れてしまったが、もはやテクニックでは抑えられない。
そのままランサーの横から一気に抜かした。
「いいね、その調子だよ!!
僕も負けてられないね、次の周からが楽しみだ!!」
抜かしたはいいが、それで黙ってるほど彼は弱くない。
誰もが伝説を付けるような、生粋のレーサーだ。
彼はこちらが抜かしてからすぐ、コーナーで詰めにかかってくる。
既に後ろを捉えて、もう一度抜きにかかるようだ。
今こそかまどの出番だろうか。
しかし、前にも言ったようにストレート以外で使用するのはリスキーだ。
今回貰った火薬は手のひらサイズの塊が2つだ。
どう使うもこちらの自由との事だ。
火薬をちぎってちびちび使う事も出来る。
これでいこう。
次のコーナーで4周目は終わる。
このストレートで火薬を潰し、ざっくり半分をチューブに投げ込む。
かまどは火を吹き、煙を吐き出してボートを跳ね飛ばす。
勢いそのままに次の右コーナーの準備に入る。
スタートラインを真横になったまま過ぎ、勢いが落ちてきたところで前へ進むようシャベルを当てる。
コツンコツンと叩いて更に減速し、握っていたもう半分を全てチューブに叩き込んだ。
猛烈な勢いで第1コーナーを攻略したが、果たして。
・・・・・・ランサーはついてきた。
こちらが夢中になって火薬を吹かしていたが、そんな事は気にもせず、後ろに同じ距離でくっついていた。
だが、ここまで瞬間的速さを出したと言うのに、彼はどうしてこの速さについてきたというのか。
真横を向いている時にランサーを見たが、火薬なんて使っている気配は無かった。
いよいよ理解が追いつかなくなってきた。
「すげーよランサー!
ブランクがあるとはいえ、アレ決めちゃうなんてよ!!」
「さすがだ、ランサー。」
観客の歓声に混じって、何か引っかかる言葉が聞こえた。
アレとはなんだろうか・・・・・・?
彼しか知らない必殺技だろうか。
答えは次に迫る練習レイアウト最後のコーナーで判明した。
この本番に至るまで一切見せてこなかった、いや・・・・・・練習故にやる必要が無かったんだ。
ランサーはこのコーナーを持って自分の右横から抜かしていく。
ふざけたコーナリングだった。
次の周から違うレイアウトを走るが、ストレートで抜かしきれず、コーナーでは勝てない。
俺は一体どう勝てばいいのだろうか・・・・・・。
のんびり書いてたらあと1、2時間で投稿時間になるので、キリのいいとこで出します。
来週出せるのかも不安です。