・・・・・・次の話もまだプロットなんですよ。
レースは誰もカウントをしない、観客もいない、静かなものだった。
しかし、それすら忘れてしまうほどの戦いが始まろうとしている。
青ローブは後半のヘアピンを抜けた直後で、こちらはスタートラインから出たばかりだ。
やつはこちらを倒すべく、勢いを上げて突撃してくる。
「楽しむ前に倒れんなよ!!
ただ滑ってるだけじゃ物足りねえんだよ!!」
「・・・・・・。」
青ローブは煽るが、こっちは帰りたいんだ。
楽しめるような心構えも当然ない。
しかし、アレックスは乗り気だし、こんな厄介極まりない存在を放置するのも良くない。
早いところ終わらせてしまおう。
1周目は様子見なのか、弓や例の武器を取るような事はしなかった。
相手もコースの下見ぐらいさせろと言うから、攻撃をさせてもくれない。
アレックスは普通に楽しそうにしているようだ、ボートの後ろ側がうるさい。
かまどの全出力なんか話にならないうるささだ。
・・・・・・本当にのんきなものだ、生き死にがこのボートにかかっているというのに。
「スティーブ、今回の依頼はなんで私じゃなかったの?
こんな楽しそうなレースに参加したかったー!!」
「アレックスは他の依頼でいなかったじゃないか。
それに、ボート遊びとしか聞かされてなかったのに、今は全力で殺し合いを始めるところだ。
こっちの身にでもなってくれ、嫌になりそうだ。」
このままだと愚痴大会に入りかねないので、とにかく黙る事にする。
2周目に入ってから、急に矢が目の前に飛び出してきた。
ついに攻撃が始まったが、しかし器用なものだな。
ボートを操りつつ、隙あらば弓を手に取り撃って見せているのだから。
敵ながら感心しつつ、コーナーを対処する。
しかしアレックスは突然変な事を言い出した。
「スティーブ、おかしいよ。
あの変なおじさん、2人だったっけ?」
「え、2人・・・・・・?
最初から1人だったんじゃないのか?」
「そうだよね、やっぱりおかしいよね!?」
聞いた直後、それはただの見間違いだと思っていたし、最初に現れた時だって1人のはずだ。
・・・・・・そう思ったので確かめようと、コーナーを抜ける際にボートが斜めになるタイミングで右側を向いてみることにした。
信じられないが、確かに青ローブが2人乗っている。
疲れて2人に見えるのではなく、ボートを漕ぐ担当と武器を投げる担当と分かれているから本当らしい。
姿かたちまでそっくりだ。
感心していた気持ちを返して欲しい。
あの青ローブ、そこらにいる魔女とは話にならないまでの技術を持っているようで、更に絶対的な自信と口の悪さまで持っている。
今回も厳しい戦いになりそうだ・・・・・・。
矢が飛んだ辺りでこちらも反撃を開始する。
アレックスのクロスボウがキリキリ音を立てて弦を張る。
構えて狙いを定め、呼吸が身体とシンクロしたタイミングで撃ち込む。
弓とは違って1発1発にどうしても時間がかかるので、相手のように次々当てずっぽうには撃てない。
それを帳消しにする攻撃力の高さがクロスボウの売りではあるが、ボートは左右に激しく動き、先を予測しないとまともに当たりはしない。
お互いあまりにも不利な狙撃対決だが、止まれば即ち死あるのみだ。
自分はベッドから復活が出来る体(だが、あと何回死んでも大丈夫かの保証は無い)を持っているので、捨て身でもなんでもいいかもしれない。
それに比べ、アレックスは死んだらそれまでだろう。
命の替えが効かない事は今に知った話では無い。
お互い撃っては外し、撃っては外しを繰り返して4周目に入る。
この間もただ闇雲に撃っている訳ではない。
その証拠になるかは分からないが、アレックスが惜しい、少し右、左と呟いている辺り、しっかり精度が上がってきているらしい。
しかしそれは相手も同じ事だ。
青ローブはこのやり方を前にやったとでも言うのか、ついにボートに当て始めている。
このままだと、次に刺さるのはボートではなく自分かアレックスになるかもしれない。
そんな恐怖が手元を伝って震えに繋がる。
「スティーブ、だんだん運転が荒れてきているよ。
あなたがボートを動かさないと私も死ぬんだよ!?
ほら、緊張している暇なんてないよ!!」
そして8周、9周と本番のレースよりも長期戦と化したこのデスゲームも、ボートに当てられて以降膠着状態にあった。
矢が真横に当たったので、もういつものラインで走る事は出来ない。
ボートはそのままだというのに、まるで図体だけデカくなった気分だ。
そのお陰で狙いがズレたのか、しばらくはボートより少し離れた場所に矢が飛んでくるようになった。
・・・・・・しかし、目の前に突然矢が飛んでくる事もあるので、油断は全く許されない。
当然咄嗟に避けたくはなるが、それがヤツの狙いだと思っている。
この少しの差も補正するように、矢をひたすら撃って感覚を手に馴染ませている。
ステージ2と同じ機体とも言えるこのボートは、雑な動きをそのまま伝えるが故に扱いずらい。
万が一スピンしたら即終了だ。
綱渡りのような繊細かつ一発勝負の攻略を強いられている状況が辛い。
そんな時、アレックスがついに1発を弓で攻撃していた青ローブに当てたようだ。
1発当てた所で勝負が終わる訳では無いが、先制攻撃に成功したのは紛れも無い事実だ。
・・・・・・が、ここでまたアレックスは妙な事を言い出す。
「ねえ、スティーブ。
青ローブのおじさん、消えたんだけど・・・・・・?」
「なんだって!?
消えたって、それは本当なのか!?」
「嘘はついてないよ!
当たったらパって消えちゃった!!」
俺達は幻でも見ているのか。
それ以外に思いつくようなものはまるでなかった。
得体の知れない相手に狙われている恐ろしさが緊張を乗り越える。
一気に体が恐怖に屈してしまうように力が抜けていく。
ゴール付近のストレートにいたのでひとまずクラッシュは避けられた。
しかしそこを青ローブは距離を縮める。
そんなだらけた自分に喝を入れようと、アレックスはこちらのインベントリからポーションを取り出し、ぽっかりあいた口に流し込む。
薬物で無理矢理体を動かすのは正直好きになれないが、四の五の言っている場合ではない。
気合いで現状を打破せねば。
ポーションの力は自分の思っていたよりも強力で、そして代償もまた大きかった。
力は底からいくらでも取り出せる程に有り余っているが、思考が追いついていないようだ。
連戦からくる疲れが精神を蝕んでいるらしい。
もはや右腕の義手みたく、機械にでもなったような気分だった。
青ローブは最初の頃よりも速度を上げて近づいている。
経験者でありそうなのはもちろん、1人になった事による軽量化が効いているのだろう。
アレックスが言うに、もう目の前まで来ている。
ならば逆に仕掛けていこう。
相手はボートを漕ぐのに必死なら、もはや的も同然だ。
そのままアレックスにクロスボウを撃つよう指示する。
指示通りクロスボウは仕事をした。
その時青ローブは瞬時に詠唱し、身代わりの自分を作る。
刺さってボートの後方を転がり消えていった。
この詠唱時間でボートを漕げないタイミングがチャンスになるだろうか。
気がつくと辺りはすでに暗くなっていて、コースを月明かりが照らしていて、この光だけが今は頼りになっている。
もう疲れは限界を越えていて、一刻も早く寝たいところだ。
そうして意識が飛ぶ度にアレックスに蹴られ、正気を取り戻す。
何周目かも分からない頃、ヘアピンの先のストレートに入った辺りで青ローブの詠唱が聞こえた。
しかし、何も出してこなかった。
ブラフをかけてきたのだろう、素早く弓を構え出す。
そこをアレックスは逃さず1発を当ててみせた。
撃たれて大きくのけぞり、コーナーを曲がりきれずにクラッシュした。
ついに倒せたみたいだな。
Uターンして生存確認をしようとした頃、暗闇の中に人影を見た。
青ローブだ、どうもまだ生きているらしい。
しつこいな。
・・・・・・しかし刺さった矢が見当たらない。
時間が経つと矢は消えてしまうが、それにしては早すぎる。
「スティーブ、ちょっと待って!!
あれ本物!?
曲がって曲がってぇぇぇ!!」
その言葉は届かず、正確な一撃を腹に食らった。
堪らず声を上げ、ボートは青ローブめがけて突っ込む。
1周遅れで同じようにボートからアレックスと共に転げ落ちてしまった。
お互いコースに投げ出され、今度こそ正面切っての戦いの時間が来た。
青ローブは変わらず弓を構える。
変化が無ければそのまま突っ切るのみだ。
剣で飛んでくる矢を落ち着いて弾きながら近づく。
普通であればそんな事は出来ないと思うし、こうして弾き飛ばせている自分も驚いている。
理由は単純、矢の速度が遅すぎるからだ。
というのも、普段使う矢の速度に目が慣れてしまっていた。
アレックスも愛用するストレートアロー特性の矢が真っ直ぐ飛ぶのは当たり前だが、あの矢は飛ぶ速度も尋常ではない。
風を斬る音がハッキリと聞こえるのだ。
依頼で消費する事が勿体ないような芸術品だが、爺さんは何本でも作るから何本でも使えと言っていた。
それに加え、1度抜いた矢はまともに飛ばない。
この事を実証するように、彼は矢筒からではなく刺さった爺さんの矢で応戦している。
歪に曲がった矢尻に勢いでしなってそのままな本体では飛ぶ方が奇跡と言えよう。
剣先があと少し先の所まで迫ってきた。
青ローブは弓をようやく捨て、素早く詠唱を始める。
目の前に青ローブの幻影が飛び出すが、もう遅い。
それごと剣で青ローブを貫いた。
引き抜き続けざまにもう1発突く。
軽装な見た目故、これ以上は耐えられないだろう。
勝利を確信した時だった。
ぽつり、ぽつり・・・・・・。
雨が一瞬にして村を包み込んだ。
激しい豪雨で視界を奪っていく。
しかしもう追撃する余裕は無いと思いたい。
「・・・・・・かはぁ、や、やるじゃ・・・・・・ねえか・・・・・・。」
「これ以上自由にはさせない、早いところ眠ってくれ。」
「いいや・・・・・・ま、まだ・・・・・・夢に入るには早すぎ・・・・・・るぜ・・・・・・。
俺が眠っても・・・・・・俺の影は眠ら・・・・・・ねえ!!」
そう言い残し、最後の力を振り絞って当てずっぽうに武器を投げつける。
同時に白煙をあげて消えてしまったので、急ぎ目で飛んだ武器の行方を追った。
・・・・・・なんてことだ、民家の窓を貫いて屋内に着弾してしまった。
雷が屋根を激しく叩きつける。
この村もいよいよ終わりを迎えてしまうのだろうか、そんな予感が足を風のように素早く向かわせる。
たどり着いた民家の扉を開けるが、中には誰もいなかった。
もう手遅れだろうか、そう思っていた時、ついてきたアレックスとは別の気配を感じて咄嗟に振り向く。
いたのはウィッチ・・・・・・ではなくランサーだった。
「よかった、スティーブ!
生きてたんだね!」
「あぁ、生きてる。
それよりここに奴の武器が飛んで雷を落とした。
・・・・・・近くに帽子をかぶっていて鼻にイボのついた奴を見なかったか!?」
「いや、見かけていないよ。
いたら目立ってるだろうしね。
それに、雷に関しては心配する必要は無いよ。」
「心配が無いって・・・・・・つまりどういう事だ?」
こんな防衛策も何も無さそうな村に雷対策が可能とは、一体どういうことだろうか。
1度外に出ればわかると言われ、窓の割れた民家から全員出た。
ランサーは屋根の上を指さした。
暗闇でよく見えなかったが、何かが刺さっているのだけはわかった。
「あれは避雷針って言うんだ。
近くに落ちる予定の雷は、全部これが受け止めてくれるんだ。
便利だよね!!」
「なるほど・・・・・・。
・・・・・・作り方とかはあるのか!?
これがあればもう奴のような輩に怯えるリスクも減るだろう。」
「銅を棒状に伸ばしているだけの簡単なものさ。」
「銅で出来て・・・・・・え、銅とはなんだ?」
「あれ、君の所では見かけないのかい?
結構頻繁に見るような鉱石なんだけど・・・・・・。」
銅鉱石そのものを見た事が無く、実際にこんな鉱石だと見せられても、見たことが無いから分からなかった。
岩の中で橙色に光っているが、緑色に変色した部分もある。
この緑は空気に触れて出来た錆びだそうで、磨けばまた光るようになるそうだ。
鉄や金、エメラルドにダイヤモンドと見てきたが、こんな鉱石もあるのかと驚く。
自分の知らない世界は色々な物に溢れている故に楽しいものだと実感する。
「こんなありふれた鉱石をそこまで物珍しそうに見るなんて初めてだよ。」
「無いものは無いからな・・・・・・。
かといってこっちは見せる物が無いな。」
「いやいやとんでもない、あの走りを見せて貰えたんだ。
いい宣伝になったと思うよ。」
「それならなによりだ。」
騒動が落ち着き、あれだけ降っていた雨もいつしか止んでいた。
一昼夜の長い戦いが終わった事をようやく実感した。