モデストの独り言がやまないまま、朝を迎えたみたいだ。
疲労によって数秒しか聞いていなかったが、起きてもまだ話し続けていた。
こいつの顎の筋肉は、相当発達していそうだ。
こっちは長文音読するだけで、もう顎が痺れる。
まぁそんな事はさておき、いよいよ初仕事といこう。
家を出て、ジョンソンと窓越しに挨拶をしたあと、村を出た。
村を出て少し離れた辺りで、ノイズと共に声が聞こえる。
サングラスとセットでついてきた無線から連絡が入ったようだ。
「あー、あー、聞こえるか?」
ジョンソンのようだ。
聞こえると返事をしたところ、忠告を出された。
⋯⋯カメラをONにしろって。
完全に忘れていた、昨日聞いたばかりだというのに、もう忘れていた。
すまないと謝りながらカメラの電源を入れた後、改めて説明が入る。
「今回の目的は、荒れた畑の修復だ。
くわは持っているか?
木製でもなんでもいい、とりあえず持っておくといいだろう。
それからもし、他の依頼があったのなら、ついでにやってきてもいい。
現地での交流も、この仕事では重要だ。」
「あぁ、わかった。
くわは現地で作る、それから挨拶もしておこう。
相手は初対面のやつらだからな。」
草原を数100ブロックほど歩いた所で、もう目的地のスロービレッジが見えてきた。
随分と近いんだな。
このぐらいの距離ならば、道を舗装してみるのもいいだろうか。
草原ブロックだけで邪魔なものも無い、次連絡する時に聞いてみよう。
さて、目的地のスロービレッジに着いた。
こっちは荒らされた形跡が無く、村の名前通りのどかな雰囲気だ。
早速依頼主を探すべく、村を歩き回っていたところ誰だと声をかけられた。
畑の方か、もしかしたら依頼主だろうか。
声の方向を頼りに、村人を見つけた。
畑の方にいた、茶色のローブだから農民みたいだ。
「お前は誰だ?」
「スティーブだ、俺はこの本に書かれた依頼の事でここへ来た。」
そう言って、彼に本の中身を見せた。
彼は、その依頼主ならと案内してくれた。
依頼主は、家の隣にある、一部が壊れてしまった柵に囲まれた畑の上に立っていた。
一応女性みたいだが⋯⋯見た目はほとんどモデストやジョンソンと変わらない。
言ってしまえば、全員同じ見た目をしている。
紛らわしいったらありゃしない。
そう思っていると、声をかけられた。
「あら、こんにちは。
⋯⋯いつもの人では無いみたいですね。」
「あぁ、そいつは今かなり遠い所まで旅をしているらしく、代わりに俺が仕事をする事になった。
よろしく頼む。」
彼女からもよろしくと言われたので、本題に入ろう。
今回の畑が荒れた原因を探してみる。
栽培しているものは⋯⋯にんじん。
そして、柵は壊れていると。
つまり、壊れた部分から何かしら動物が入ったに違いない。
しかし⋯⋯豚以外に、にんじんが好きなやつを知らない。
なら、今回は何が原因なんだ?
そんな考えは、意外にもあっさり打ち砕かれた。
見知らぬ動物が目の前を通り過ぎた。
「あれは⋯⋯なんだ?」
「あぁ、あれは⋯⋯兎ですね。
逃げやすいのですが、とても可愛いんですよ。」
打ち砕いた原因は兎。
⋯⋯たった今、丁寧に目の前で証拠を示してくれた。
にんじん畑を踏んで土に戻し、そのまま逃げていってしまう。
そういう事だった。
恐らくそれを防ぐ為に、畑は柵で囲まれていたみたいだが、残念な事に心無いやつが壊してしまったから、また荒らされた。
今回は特に細かく考えなくても解決出来そうだ。
「あぁ、今回は大丈夫そうだ。
少し時間をもらう、他の事をしていてくれ。
質問は何かあるか?」
「いえ、ありません。」
よろしくお願いしますと言われたあと、彼女は家の花壇の手入れに向かった。
とりあえず報告でもしておこう。
サングラスに付いているマイクの電源を入れた。
「ジョンソン、原因がわかった。
どうやら兎が畑の上を跳んで踏み荒らしていた事だ。
あとは全部、こっちで何とかなりそうだ。」
「そうか、カメラで見ていたぞ。
見ただけで全部わかってしまうなんてな。
今後の仕事も期待してもいいだろう。」
「ありがとう。
それと一ついいか?」
「⋯⋯なんだ?」
「ここと俺達の住む村の間に、道路を敷いてみようと思うんだが⋯⋯やってもいいか?」
「あぁ、俺は大歓迎だが⋯⋯。」
「だが?」
「あぁ、いや⋯⋯その⋯⋯。
あそこの村長、怖いんだよ⋯⋯。」
「そうか、俺は知らんが、依頼が終わったら話だけでもしておこう。」
村長にはまだ顔をあわせていないが、とりあえず先に仕事を終わらせてしまおう。
万が一敵と勘違いされたなら、本を見せるなり依頼人から話を付けてもらうなり、状況に応じて対応しよう。
さて、マイクの電源を落とし、本編に入るとするか。
まずは原木の調達からだ。
⋯⋯と言いたい所だが、今回はその必要はなさそうだ。
ベッド用に持ってきた原木が役に立ちそうだ。
まずは、作業台を置いて、いつも通り2つをかち割って⋯⋯。
それから木材2つを棒4つにしたら、棒を木材で挟み込むようにマス目に置く。
これで柵の出来上がり。
1回のクラフトで3個出来るが、今回必要なのは1個で十分だ。
壊れている柵の隙間にドンと置いて、補修終了。
あとは余った棒と⋯⋯そこらにある石ころをくっつけて、石のクワでも作ろう。
石を取りに、向こうに見える洞窟へ向かおうとしたら、誰かに止められた。
さっきとは打って変わって野太い声だった。
「お前は誰だ、そこで何をしている!!」
その声に一瞬動揺してしまったが、振り返ってみると普通の緑色のローブを着た村人だった。
「⋯⋯依頼を受けてここに来た、今からまた材料を取りに行くところだった。
そっちは誰だ?」
「なんだそうか⋯⋯って、騙されはしないぞ!」
いきなり突っかかってきたが、残念ながら声以外の迫力が全くない。
落ち着いてその証拠ともいえる依頼の本を見せると、一応納得はしてくれたようだった。
これを見せるだけで、何をやっているかがすぐに分かった辺り、前のクラフターはここで数をこなしていたと予測出来る。
「あぁ、偽物では無いみたいだ。
改めて俺はこの村の村長だ、今後ともよろしく頼む。」
「あぁ、こちらもよろしく。」
「ところで⋯⋯前の緑色の服を着たクラフターは?」
「ついこの前に長い旅に出たらしい。
だから今は俺が代わりを務めている。
それから、仕事自体が今回初めてだ。
あまり期待はしない方がいいかもしれない。」
「いやいや、気にするな気にするな。
さっき直していた柵のクオリティも、前のクラフターとそっくりだ。」
褒めてもらって少し嬉しかったが、一旦そこは後回しにして、石を掘りに行こう。
村長にまた戻ると言った後、近くの洞窟に潜り込んだ。
ここも大して深い訳では無かったようで、すぐに行き止まりに辿り着いた。
鉱石も全部取り尽くされているので、旨味は無かった。
まるで、肉汁が抜けきっていて、おまけに冷めきったステーキを齧っているような気分だ。
とはいっても、目的はそっちでは無いので、適当に壁を削って丸石を2つ回収。
ふと外を見ると、日が正面向きでもわかる程に傾いてきているので、早めに帰ろう。
⋯⋯洞窟を掘るより、そのままどこかを掘ってその跡を土で埋め立てても良かった。
そう思いながら村へ帰ってきた。
置きっぱなしにしておいた作業台の前に立ち、今度は石を2つ上に置いて、その下に取っ手として棒を2つ。
これで石のクワが出来上がった。
あとは、囲った柵の中にある土を耕し、元通りに にんじんを植えてあげよう。
これはサービス⋯⋯でいいのだろうか。
そう考えながら、手を動かして無事依頼は終わった。
あとは呼び出すだけだが、本当に誰が誰だかわからない。
辺りを見回しているうちに、夜が顔を覗き始める。
それに感ずいたのか、村人達は次々と機械のように家へ帰っていく。
そのタイミングで依頼主と会った。
「今回の依頼、無事に終わったぞ。」
「ありがとうございます!
では、報酬をどうぞ。」
約束通り、エメラルド5個と⋯⋯それから畑から収穫出来たにんじんを5個くれた。
せっかくなので、村のどこかに畑でも作ってみるとするか。
報酬もバッチリ貰ったので、報告。
無線の電源を入れて⋯⋯。
「あー、あー、聞こえるか?」
「ああ聞こえる。
とりあえずカメラの映像は見た。
今日は帰ってこれるか?」
「もちろん、帰って来れる。
今からそちらへ向かう。」
真夜中だが、100ブロック程度なので走っていれば帰れる。
持ってきたステーキにかぶりつき、食べ終わったらそのまま全速力ダッシュ!
そのまま襲われない事を祈りながら、必死に走り続けた。
ゾンビは気が付かなかった、スケルトンも眼中に無さそうだ。
⋯⋯何事も無く、無事に辿り着けた。
これで、初仕事は大成功だ。
このままの調子で頑張ろう。