冒険者兼破壊者の復讐劇。   作:TTY

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Ep7 初仕事。

 モデストの独り言がやまないまま、朝を迎えたみたいだ。

疲労によって数秒しか聞いていなかったが、起きてもまだ話し続けていた。

こいつの顎の筋肉は、相当発達していそうだ。

こっちは長文音読するだけで、もう顎が痺れる。

まぁそんな事はさておき、いよいよ初仕事といこう。

 家を出て、ジョンソンと窓越しに挨拶をしたあと、村を出た。

村を出て少し離れた辺りで、ノイズと共に声が聞こえる。

サングラスとセットでついてきた無線から連絡が入ったようだ。

 

「あー、あー、聞こえるか?」

 

ジョンソンのようだ。

聞こえると返事をしたところ、忠告を出された。

⋯⋯カメラをONにしろって。

完全に忘れていた、昨日聞いたばかりだというのに、もう忘れていた。

すまないと謝りながらカメラの電源を入れた後、改めて説明が入る。

 

「今回の目的は、荒れた畑の修復だ。

くわは持っているか?

木製でもなんでもいい、とりあえず持っておくといいだろう。

それからもし、他の依頼があったのなら、ついでにやってきてもいい。

現地での交流も、この仕事では重要だ。」

「あぁ、わかった。

くわは現地で作る、それから挨拶もしておこう。

相手は初対面のやつらだからな。」

 

 草原を数100ブロックほど歩いた所で、もう目的地のスロービレッジが見えてきた。

随分と近いんだな。

このぐらいの距離ならば、道を舗装してみるのもいいだろうか。

草原ブロックだけで邪魔なものも無い、次連絡する時に聞いてみよう。

 さて、目的地のスロービレッジに着いた。

こっちは荒らされた形跡が無く、村の名前通りのどかな雰囲気だ。

 早速依頼主を探すべく、村を歩き回っていたところ誰だと声をかけられた。

畑の方か、もしかしたら依頼主だろうか。

声の方向を頼りに、村人を見つけた。

畑の方にいた、茶色のローブだから農民みたいだ。

 

「お前は誰だ?」

「スティーブだ、俺はこの本に書かれた依頼の事でここへ来た。」

 

そう言って、彼に本の中身を見せた。

彼は、その依頼主ならと案内してくれた。

 依頼主は、家の隣にある、一部が壊れてしまった柵に囲まれた畑の上に立っていた。

一応女性みたいだが⋯⋯見た目はほとんどモデストやジョンソンと変わらない。

言ってしまえば、全員同じ見た目をしている。

紛らわしいったらありゃしない。

そう思っていると、声をかけられた。

 

「あら、こんにちは。

⋯⋯いつもの人では無いみたいですね。」

「あぁ、そいつは今かなり遠い所まで旅をしているらしく、代わりに俺が仕事をする事になった。

よろしく頼む。」

 

彼女からもよろしくと言われたので、本題に入ろう。

 今回の畑が荒れた原因を探してみる。

栽培しているものは⋯⋯にんじん。

そして、柵は壊れていると。

つまり、壊れた部分から何かしら動物が入ったに違いない。

しかし⋯⋯豚以外に、にんじんが好きなやつを知らない。

なら、今回は何が原因なんだ?

そんな考えは、意外にもあっさり打ち砕かれた。

見知らぬ動物が目の前を通り過ぎた。

 

「あれは⋯⋯なんだ?」

「あぁ、あれは⋯⋯兎ですね。

逃げやすいのですが、とても可愛いんですよ。」

 

打ち砕いた原因は兎。

⋯⋯たった今、丁寧に目の前で証拠を示してくれた。

にんじん畑を踏んで土に戻し、そのまま逃げていってしまう。

そういう事だった。

恐らくそれを防ぐ為に、畑は柵で囲まれていたみたいだが、残念な事に心無いやつが壊してしまったから、また荒らされた。

今回は特に細かく考えなくても解決出来そうだ。

 

「あぁ、今回は大丈夫そうだ。

少し時間をもらう、他の事をしていてくれ。

質問は何かあるか?」

「いえ、ありません。」

 

よろしくお願いしますと言われたあと、彼女は家の花壇の手入れに向かった。

 とりあえず報告でもしておこう。

サングラスに付いているマイクの電源を入れた。

 

「ジョンソン、原因がわかった。

どうやら兎が畑の上を跳んで踏み荒らしていた事だ。

あとは全部、こっちで何とかなりそうだ。」

「そうか、カメラで見ていたぞ。

見ただけで全部わかってしまうなんてな。

今後の仕事も期待してもいいだろう。」

「ありがとう。

それと一ついいか?」

「⋯⋯なんだ?」

「ここと俺達の住む村の間に、道路を敷いてみようと思うんだが⋯⋯やってもいいか?」

「あぁ、俺は大歓迎だが⋯⋯。」

「だが?」

「あぁ、いや⋯⋯その⋯⋯。

あそこの村長、怖いんだよ⋯⋯。」

「そうか、俺は知らんが、依頼が終わったら話だけでもしておこう。」

 

村長にはまだ顔をあわせていないが、とりあえず先に仕事を終わらせてしまおう。

万が一敵と勘違いされたなら、本を見せるなり依頼人から話を付けてもらうなり、状況に応じて対応しよう。

 さて、マイクの電源を落とし、本編に入るとするか。

まずは原木の調達からだ。

⋯⋯と言いたい所だが、今回はその必要はなさそうだ。

ベッド用に持ってきた原木が役に立ちそうだ。

まずは、作業台を置いて、いつも通り2つをかち割って⋯⋯。

それから木材2つを棒4つにしたら、棒を木材で挟み込むようにマス目に置く。

これで柵の出来上がり。

1回のクラフトで3個出来るが、今回必要なのは1個で十分だ。

壊れている柵の隙間にドンと置いて、補修終了。

あとは余った棒と⋯⋯そこらにある石ころをくっつけて、石のクワでも作ろう。

石を取りに、向こうに見える洞窟へ向かおうとしたら、誰かに止められた。

さっきとは打って変わって野太い声だった。

 

「お前は誰だ、そこで何をしている!!」

 

その声に一瞬動揺してしまったが、振り返ってみると普通の緑色のローブを着た村人だった。

 

「⋯⋯依頼を受けてここに来た、今からまた材料を取りに行くところだった。

そっちは誰だ?」

「なんだそうか⋯⋯って、騙されはしないぞ!」

 

いきなり突っかかってきたが、残念ながら声以外の迫力が全くない。

落ち着いてその証拠ともいえる依頼の本を見せると、一応納得はしてくれたようだった。

これを見せるだけで、何をやっているかがすぐに分かった辺り、前のクラフターはここで数をこなしていたと予測出来る。

 

「あぁ、偽物では無いみたいだ。

改めて俺はこの村の村長だ、今後ともよろしく頼む。」

「あぁ、こちらもよろしく。」

「ところで⋯⋯前の緑色の服を着たクラフターは?」

「ついこの前に長い旅に出たらしい。

だから今は俺が代わりを務めている。

それから、仕事自体が今回初めてだ。

あまり期待はしない方がいいかもしれない。」

「いやいや、気にするな気にするな。

さっき直していた柵のクオリティも、前のクラフターとそっくりだ。」

 

褒めてもらって少し嬉しかったが、一旦そこは後回しにして、石を掘りに行こう。

 村長にまた戻ると言った後、近くの洞窟に潜り込んだ。

ここも大して深い訳では無かったようで、すぐに行き止まりに辿り着いた。

鉱石も全部取り尽くされているので、旨味は無かった。

まるで、肉汁が抜けきっていて、おまけに冷めきったステーキを齧っているような気分だ。

とはいっても、目的はそっちでは無いので、適当に壁を削って丸石を2つ回収。

ふと外を見ると、日が正面向きでもわかる程に傾いてきているので、早めに帰ろう。

 ⋯⋯洞窟を掘るより、そのままどこかを掘ってその跡を土で埋め立てても良かった。

そう思いながら村へ帰ってきた。

置きっぱなしにしておいた作業台の前に立ち、今度は石を2つ上に置いて、その下に取っ手として棒を2つ。

これで石のクワが出来上がった。

あとは、囲った柵の中にある土を耕し、元通りに にんじんを植えてあげよう。

これはサービス⋯⋯でいいのだろうか。

そう考えながら、手を動かして無事依頼は終わった。

あとは呼び出すだけだが、本当に誰が誰だかわからない。

辺りを見回しているうちに、夜が顔を覗き始める。

それに感ずいたのか、村人達は次々と機械のように家へ帰っていく。

そのタイミングで依頼主と会った。

 

「今回の依頼、無事に終わったぞ。」

「ありがとうございます!

では、報酬をどうぞ。」

 

約束通り、エメラルド5個と⋯⋯それから畑から収穫出来たにんじんを5個くれた。

せっかくなので、村のどこかに畑でも作ってみるとするか。

 報酬もバッチリ貰ったので、報告。

無線の電源を入れて⋯⋯。

 

「あー、あー、聞こえるか?」

「ああ聞こえる。

とりあえずカメラの映像は見た。

今日は帰ってこれるか?」

「もちろん、帰って来れる。

今からそちらへ向かう。」

 

真夜中だが、100ブロック程度なので走っていれば帰れる。

持ってきたステーキにかぶりつき、食べ終わったらそのまま全速力ダッシュ!

そのまま襲われない事を祈りながら、必死に走り続けた。

ゾンビは気が付かなかった、スケルトンも眼中に無さそうだ。

⋯⋯何事も無く、無事に辿り着けた。

 これで、初仕事は大成功だ。

このままの調子で頑張ろう。


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