異世界で生きるだけの物語(仮タイトル)   作:毛利 綾斗

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プロローグ

今日は鬱陶しいことに雨である。ただでさえ、一色に手伝わされて帰りが18時といつもに比べて遅いというのに更には帰宅ラッシュのサラリーマンたちに押しつぶされながら帰らなければならない。

 

 

この時間に総武生がいるのが珍しいのだろうか。どこからか視線を感じる。が、今はそんなことはどうでもいいのだ。

今考えるべきは雪ノ下と由比ヶ浜、この二人のことだ。文化祭に体育祭で生まれた違和感と決定的な拒絶を見せられた修学旅行、そして決定的な関係の解消になりそうだった生徒会選挙。なぜ、俺は奉仕部を守ろうとしたのだろうか。あの時、理由は小町に貰った。たが、小町に理由を与えられる前から俺はどうにかしたいと考えていた。

 

俺はあの場所を、奉仕部を守りたかったのだろうか。確かにあの部活が日常になりつつあった。だが、それは平塚先生の鉄拳を回避するためのはずだ。ならば、むしろ俺は雪ノ下や由比ヶ浜の当選を応援すべきだ。雪ノ下が当選すれば彼女が言っていたように生徒会活動と奉仕部の両立をしていただろう。しかし、それははじめだけだ。時がたてば彼女のことだ、無理がたたってしまう。彼女が来なくなれば自然と奉仕部はなくなってしまうだろう。

 

じゃあ由比ヶ浜が当選したらどうだろうか。奉仕部は残るだろう。しかし、由比ヶ浜は奉仕部には来れなくなるだろう。そして、雪ノ下は由比ヶ浜に頼まれて手伝いに行く。これまた奉仕部の活動がおろそかになってしまう。雪ノ下は心を許した相手には極端に甘くなる節がある。まあ、平塚先生は雪ノ下の孤独体質を治したいと考えていたのだろうからよかったのかもしれない。結果、奉仕部はなくなってしまうだろう。

 

 

俺の願った通りじゃないか。学校が終わると同時に帰宅できる。家に帰ってゴロゴロしたり本を読んだりできる。そう、以前のように。

 

チクリと胸に何かが刺さったような感じがした。

 

俺は今の部分を考え直す。「以前のように」はなんら悪いことではない。家にいるのは好きだし、読書するのも大好きだ。じゃあ、なぜ胸に痛みが走ったのだろうか。

行為は関係ないのかもしれない。なら、考えるは今と昔の違いだろう。違いがあるとすればやはり「奉仕部」という部活動だろう。だが、奉仕部の存続に関しては何も感じなかった。では、俺は何に反応したのだろうか・・・いや、目を背けるのはそろそろやめにしよう。

 

俺が本当に守りたかったのは彼女たちとの関係だ。彼女らのどちらかが生徒会に入ってしまえば今のような関係はありえなくなる。それが嫌だったんだ。

 

俺はあの二人のことが・・・。

 

ドンッ

 

という衝撃が背中に走り、浮遊感を感じる。かすかに聞こえるクラクションの音。思考をやめ、現状を把握するため目を開いた瞬間俺は真っ暗闇の世界に沈んでいった。

 

この暗闇の中で考えよう。間違えてばかりの俺が再びあいつらにあったとき、正解を出せるように。

 

そうして俺は思考の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

ここ最近、お兄ちゃんとは話していない。修学旅行であの二人と何かあったのかを聞いた時にもめてから少しギクシャクしている。もう互いに怒ってはいない。ただ少し勇気が出ないだけ。私に無視され続けたことが堪えたのだろう。喧嘩してから2日目の夜、お兄ちゃんは話してくれた。

修学旅行での告白の手伝いの依頼と遠回りに寄越された告白を阻止してほしいという相反する依頼がきたこと。今の環境が心地いいから壊したくないという感情がこもっていたこと。告白阻止の依頼に気が付いたのはお兄ちゃんだけということ。うその告白をして海老名さんが今は誰とも付き合う気がないとお兄ちゃんを振ったことで依頼は何とかなったこと。

話を聞いた私は最初にお兄ちゃんに謝った。お兄ちゃんには手段がそれしかないことが分かったから。次に私はお兄ちゃんを責めた。

 

どうしてその依頼をあの二人に伝えなかったのかと。お兄ちゃんは

 

 

「戸部の依頼を受けた後だったから断れないだろ。それに海老名さんは正式に依頼したわけじゃない。気が付いていないあいつらに悩みの種を植え付けなくてもいいだろ。最悪無視すればよかったわけだしな」

 

 

と言っていた。なぜ助けたのかを聞いたら

 

 

「以前の俺だったら、『その程度で壊れるんだったらその程度の関係だっただけだろ』とか言って無視してたと思う。でも俺も壊したくない居心地の良い関係を見つけてしまった。だから何とかしたかった」

 

 

らしい。お兄ちゃんにとって奉仕部の存在が大きくなっていたこととそれを素直に話したことにあの時は驚いた。今もまだ信じられないが成長したんだろうな。

 

 

とと、話がそれちゃった。ここ最近お兄ちゃんと話せていないのは私が勇気を持てていないだけはない。純粋にお兄ちゃんの帰りが遅く、しかも帰ってくるととても疲れているのだ。だからお話するのが少しはばかられるのです。

 

学校から帰り家に到着する。季節は冬な今。しかも雨の今日、私が家に着くころにはあたりは暗くなっていて周りの家からは電気の光が漏れている。でも、我が家は真っ暗。今日もお兄ちゃんは生徒会の仕事のお手伝いをしているようです。

仕方がないから、今日はお兄ちゃんが好きなハンバーグでも作って労わってあげよう。そして少しだけお話しよう。

 

献立を決めると冷蔵庫の中身を確かめて買い物リストを作る。一応テレビをつけ、千葉チャンで今からの天気予報を確認。今日は結構寒く、もしかしたら雪マークになるかもしれないからです。予報によると今から冷え込み、遅くなるにつれて雪に変わる恐れがあるらしい。

私は買い物リストをもって自室に戻り温かい服に着替えて家を出る。時刻は17時30分、まだ何とか雪にはなっていないようだ。込み具合にもよるけどうまくいけば18時30分には家に着けるだろう。

 

 

 

1時間後、予定通り私は家の前に着いている。駅前のスーパーは電車の利用客が多くお会計まで時間がかかるのに今日はあまり人がいなかったおかげである。鍵を開けようとしていると携帯電話が突然揺れる。靴を脱ぎながら携帯電話を確認するとママンからの電話だ。

 

 

「どうしたのお母さん。こんな時間に珍しいね」

 

早く荷物を置きたい私はリビングやキッチン、ダイニングにつながる扉を開ける。すりガラスから漏れている光を見るにどうやら私はテレビを消し忘れたようだ。

 

 

「小町、大変なの。落ち着いて聞いてね」

 

 

落ち着いていないのはお母さんの方だ。なぜかすごい焦っている。もしかして事故にでもあったのだろうか。

 

 

『本日18時頃、総武線○○駅で人身事故がありました。・・・失礼しました。事故ではなく事件です。被害者の身元は未だわかっていないようですが総武高校の制服を着ていたことがわかっています。また、突き落としたと思われる容疑者も総武高校の生徒であり現行犯として逮捕されました。容疑者は「ウチは悪くない、悪いのはあいつ」とつぶやいているようです』

 

 

ほえー、怖いこと考える人もいるんだなー。と考えているとお母さんと電話していたことを思い出した。

 

 

「今ね、○○駅で総武高校の生徒が突き落とされたんだって」

 

 

「小町、あのね」

 

 

「ねぇ、お母さん。今からバカなこときくね。違ってたら目一杯笑っていいから。むしろ笑って。事件に巻き込まれた学生さんってお兄ちゃんなの」

 

 

「・・・」

 

 

「ねえ、お母さん。笑ってよ、そんなわけないって。締め切りが近くて焦ってるだけだって言ってよ。ねえ!」

 

 

「小町、平塚先生って方から電話が来たの。八幡に電話しても出なくって、搬送されたっていう病院に行ったら・・・。・・・八幡が・・・電車にはねられて・・・一瞬だったって」

 

 

受話器から聞こえてくるのは笑い声なんかではなく、嗚咽交じりの死の宣告だった。

 

 

私の耳に届いたのは何かが重いものが落ちたドサッという音と軽いものが落ちたカランという音。そして何か意味を持った言葉が流れてくるが今の私には何も理解できない。

私は暗い部屋の中、一人で立ち尽くしていた・・・。

 

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