楽しんでいただけると幸いです。
それから半年後、今目の前にチャンスがぶら下がっている。
この町に着いてから3日後俺は警備兵団に入隊した。最初は俺の体格、得意な力がわからないなどで馬鹿にされた。それが変わってきたのは1週間がたったくらいの頃だった。必要最低限の知識を身に付けろ、ということで行われていた講習での試験で満点をたたき出すようになってきた。更に、午後から行われていた訓練でも力を見せ始めた。自分の力がわからない俺は剣の訓練と同時に他の人から教えを請い、力を見せてもらい、教えてもらった。すべての力の適性を持っているのだろう、教えてくれた人よりも使いこなすことが出来たのだ。それは力のみだけでなく、剣技にも言えたことでどんどんと技を吸収していった。
だからだろう。1か月たったころには俺の周りにたくさんの人が集まるようになっていた。しかし、俺は以前のようには振舞わなかった。というのも今の俺の評価で受け入れてくれた家族に影響してしまうからだ。恩をあだで返すわけにはいかない。その一心で俺は少し変わったように思う。家では家事を手伝ったり、3人との時間を大切にしていた。ここでの生活は元の世界では味わえなかったものばかりだった。
チャンスの話に戻ろう。今は警備兵団の来賓室。目の前には王国騎士団の一部隊長がいる。しかも、俺に話があると名指しで呼ばれたようだ。
「君がハチマン君か。君の噂は遠くの王都まで届いているよ。どんな力も使いこなす人がこの町にいるとね。しかもその人はかなり強いときた。
そこで君に一つ提案がある。私の部隊、15人と戦ってほしい。君が勝てば王国騎士団の中でもトップに位置する近衛部隊へ推薦しよう。なに、私は地方で強い人材をスカウトする立場でね。私が一言を添えるだけで君は王国騎士団への入団はおろか近衛部隊にだって配属されるだろう」
近衛部隊といえば限られた人材しかなることが許されていない部隊だ。
通常の部隊は15人で組まれるのに対し、現在は8名で最大時でも10名しか所属できなかったらしい。少数精鋭でその実力は計り知れない、とタイガさんが言っていた。なんでも一部隊のみでは相手にならず、更には1人で100人以上の敵を屠ることが出来るほどの実力らしい。
その一員になることは名誉なことであり、一番重要なことはかなり高額な給料をもらえるということだろう。その給料は10年で豪邸を2つは立てることが出来るほどだという。
俺の目の前にそんなうまい話が転がってきているのだ。
「それで負けたときはどうなるんですか?今のままではあまりに話がうますぎますよね」
「負けたときは私の部隊に入ってもらう」
「・・・それだけですか」
あまりにも話がうますぎる。勝っても負けても王国騎士団への入団が約束されている。勝とうが負けようが俺には得でしかなく、損なことなど何一つない。いや、家族と会えなくなるというのは寂しいが定期的に帰ってこればいい。
「やります。どこへ行けばいいですか?」
「戦場は中庭だよ。すでに待機させてあるんだ」
そういって部隊長は立ち上がり、俺を中庭へ行くように促す。それから五分後、中庭へと続く扉の前まで来ている。
俺は扉を開け中庭に入る。それと同時に真後ろ、中庭の壁に沿って薄水色の何かが展開され、何かが自身に向かって飛んでくる。それが炎や風、水だとわかると右へ跳んで回避する。その動きは読まれていたのだろう。そこにはすでに振りかぶっている剣士がいた。
「やばっ」
俺はダメージ覚悟で目の前に風を送り出す。加減せずに放った風は俺と剣士を吹き飛ばす。
このままの勢いでぶつかったら壁もただじゃすまないよな。修繕費に幾ら位かかるだろ。騎士団が持ってくれないかな。
そんなことを考えながら吹き飛ばされ、背中を強打する。衝撃は覚悟していたものの、思った以上にダメージが多い。そう思い砂煙が立ち上がっている内に背後を確認する。背後には傷1つ付いていない壁、そしてその表面に展開されている薄水色の何か。
そこで俺は理解した。ダメージが多く感じたのは壁が破壊されずに衝撃が逃げられなかったから。そしてこの薄水色の何かは防御系の力なのだろう。
煙がおさまってきたため思考を中断し、あたりの気配に集中する。
「おいおい。よくもやってくれたじゃねえか。大体はあの連携で一撃受けてくれるんだがまさかダメージ覚悟で避けられるとは思ってなかったよ。俺も少しダメージ貰っちまったしな」
煙が消え、部隊の人たちの姿が現れる。その数は15。後衛が6、前衛が5、遊撃が4の編成だ。1対多のため、短期戦を意識する。時間がかかればかかるほど不利にしかならない。そう思い腰に付けていた剣を抜くと走り出す。まず狙うは後衛である。前衛や遊撃と近距離戦闘を行っているときに手を出されると厄介だからだ。
俺は見様見真似でイメージする。イメージはシャボン玉、場所は後衛をそれ以外から分断する事。するとイメージ通りにシャボン玉のような半球が前衛と遊撃の9人を閉じ込める。
障壁を張られたことに驚き、動きが止まった2人の後衛を剣の腹で吹き飛ばす。かなりのスピードで吹き飛ばされた2人は壁に衝突して意識を失ったようだ。そのまま他の4人へ攻撃しようとしたところで閉じ込めていたはずの前衛の一人が立ちふさがる。
「急に障壁を張られたから驚いたがあれはなんだ。簡単に壊れてしまったぞ。まるで泡のようにな!そろそろおとなしくしてもらおうか。『インティミデーション』!」
突然その男の気配が大きくなり後退する。そこに4人の後衛がスピード重視の水の弾丸を放ってくる。それも間一髪でかわすと地面は無数の穴によって凸凹になっている。そこに遊撃部隊が切りかかってくる。剣で受け、いなし、躱して反撃を行おうとする。すると前衛部隊が壁になり攻撃は通らない。
後衛が前衛もろとも風と炎を複合した炎の渦で攻撃してくる。竜巻を防ごうにも前衛が攻撃の手を緩めないためそんなことをする暇がない。竜巻に飲み込まれる瞬間前衛が攻撃の手を止める。俺は地面を隆起させて攻撃を防ぐ。直接的なダメージは免れたが狭い岩の壁の中、サウナのような熱気に精神力を持っていかれる。
ここで俺は気づく。短期決戦のはずがいつの間にか相手のペースで持久戦に持ち込まれつつあることに。
「仕方ない。このまま一気に決める」
俺は身体に風をまとい、その風の周りに大量の水を作り出す。水をため、圧縮して一気に放出することで周りの岩を弾き、岩つぶてをとばす。炎の渦によってさらに加速された岩のつぶては騎士団へと向かって飛んでいく。また、大量の水によって炎は消え、竜巻は水を中庭中にまき散らす。その結果、竜巻が消えるころには俺の経っているところを除いたあたり一面に水たまりが出来ていた。
そのまま最後の一撃のためにイメージする。両の手を前に出し、その中で空気を回転させて中心でぶつからせる。
中心部では空気がぶつかり、摩擦し合ってたまった力は手の中から弾けてバチバチと音を立てている。スパーク、電気だ。摩擦によって生まれ、溜められた電気を水溜まり放出する。電気は水を流れ、濡れている騎士団へと走り抜け焦がしていく。あたりからは肉が焦げたようなにおいがするが気にしてもいられない。遊撃の1人には当たっていなかったからだ。どうやら一瞬の判断で炎を出し、周りの地面を乾かしたようだ。
俺は14個の半球の障壁を創造する。先ほどは硬さを考えなかったからすぐに壊れたが、今度は忘れない。構造はCuをイメージする。透明な赤褐色の半球は14人の倒れた騎士団を包み込む。
「思った以上に強かったよ。でももう終わりにしようか、えーっと・・・ハチマン君」
そういうと唯一立っていた遊撃は5メートルはあった距離を一息で詰める。いつの間にか持っていた武器は剣からレイピアに変わっており、刺突してくる。スピードも攻撃のキレも格段に上がっている。回避は続けているがだんだんとかすり傷が増えていく。常に神経を研ぎ澄ましているため精神的な疲労もたまってきている。何より体も限界を告げてきているのだ。緊張感と高速回避をしているうちにだんだんと脳が酸素不足を訴えてくる。
部隊の人間がこんなに強いなんて聞いてないぞ、部隊長さん。しかも、あの人は目の前の人よりも強いってことだろ・・・。ちょっと待てよ、何かが引っ掛かる。部隊長さんとの会話を思い出せ俺。
「どうしたんです?勝てないからといってもう諦めるのですか?」
そうだ、あの人はあの時『私の部隊、15人と戦ってほしい』と言っていた。中庭にすでに15人いたから標的はその15人だと思ったがもし、それが間違っていたら。わかってるこれが希望的観測過ぎることだって。
中庭への入り口を悟られないように見ると、防御系の障壁とその内側に立っている部隊長が目に入る。
「何も言わないのですね。戦意喪失、残念です」
「考え事してたんっすよ」
「この戦闘中に考え事ですか?私のことをなめているのですか」
「なに言ってるんっすか。勝負に勝つための作戦を考えてたんっすよ。んで思いつきましたんで覚悟してください」
「面白いこと言ってくれるじゃないですか。じゃあ見せてもらいましょうか。君の作戦とやらを」
そういって目の前の男は体勢を受け身に変える。
それを確認し俺はしゃがんで地面に両手を付ける。イメージするのは3つ。1つは地面を隆起させること。まずは地面の中に細い空気の糸を通し、一気に風の勢いを強める。2つ目は周りにわからないように地面に穴を掘るイメージ。これには水と風を用いる。最後は掘った穴に電気を流すイメージ。
「行け」
地面が隆起しながら遊撃に進んでいく。
「甘いですね。そんなので私に勝てるわけがないでしょう」
跳んで回避した遊撃は着地と同時にこちらに走りだ・・・さなかった。
そう勝負がついたからだ。俺の後ろ、入り口の手前にいた部隊長が黒焦げになって倒れている。
「一度も私に勝つとは言っていなかった。そう、君は気づいたわけですか。私がこの部隊の一員ではないことに」
「気づいたというか願望ですかね?そうあってほしい的な。それが確信に変わったのは後衛を倒したのにも関わらず発動され続けていた障壁とその中にいた部隊長さんを見たときです。部隊長はこう言っていました。『私の部隊、15人と戦ってほしい』と。またそれと一緒にこうも言っていたんですよ。『中庭は戦場』と」
「それだけでは私が部隊員ではないと気が付いた理由としては些か弱くありませんか」
「信じたんですよ。部隊長さんはうそをついていないって。それにあなたは一人だけ強すぎた。一人だけ実力が違いすぎていて浮いていたっていうのはだめですか?」
そう返答する。というかそうとしか返答できない。遊撃の目は肉食獣のそれで恐れを感じてしまい頭が回らなかったからだ。
「そうか。まあそういうことにしておこう」
「貴方は近衛部隊の一員じゃないんですか?」
疑問に思ったから質問する。俺はこの半年間でかなりの力を付けた、騎士団に入ればかなりの上位にも行けると思っていたのだ。だから俺と戦っているときの彼はまだ実力のすべてを出していない、そう感じたのだ。そして、そんな相手に俺は勝つイメージが浮かばなかった。完全に俺の負けである。違えば俺は自分の実力を過大評価している痛い奴だ。どうか当たっていてほしい。
「そう。私は近衛部隊の一員、今日から君の教育係になるファウストだ。よろしく頼むよ、ハチマン君」
「よろしくお願いします。って俺の教育係ってどういうことですか?」
「急に近衛部隊に配属するんだよ。規則、案内に紹介、そのほかにも色々あるんだよ。そして最大の目的は君を鍛えることだ。君もわかっているだろう。私と君の実力の差を。それをもう少し埋めないと近衛部隊に入ったとしてもすぐに死んじゃうだろうからね、私は優しいから君を鍛えてあげるよ」
そういってファウストさんは俺から10mほど離れるとレイピアを構える。
ザっという地面をけるような音がしたと同時にファウストさんは俺の目の前に立ち、レイピアを持った右腕は俺の首のすぐ横にまで来ている。
見えなかった。これが実戦だったら俺はすでに死んでいる。
「これが私の本気、『俊雷』です。王都に着くまでに少なくとも目で追えるようにはなってもらいます」
ここにきて今日初めての笑みを浮かべるファウストさん。
ハンター○ハンターのキルアが使う電光石火のようなものだと思ってくれればいいのだが残像すら見えなかったということは人間の体では対応できない速さということだ。どうすればこれを見ることが出来る。いや本当にできるのかこれ」
「できる、できないじゃない。するんです。旅路で死なないでくださいね」
どうやら言葉が口をつついて出ていたようだ。旅路で死なないでください、てどんな特訓するんですかねぇ。やっぱ騎士団に入るのを取りやめにならないかな。
「いたた、まだ体がしびれてる。ハチマン君もう少し手加減してくれてもよかったんじゃないかい」
後ろを見ると黒く焦げた部隊長さんが地面に座っている。どうやらもう回復したらしい。
「すんません。奇襲は一発で決めないとだめなんで少し強めになったのかもしれません。今から回復しますね」
俺は部隊長さん、それから他の14人のもとへと向かい治癒の力を使う。これは勿論ミユキさんから教えてもらった力だ。ただし、ミユキさんの力とは違って自分自身にも使うことが出来る。というか自分自身に仕えない治癒って結構不便だよね。
部隊の人を全員回復させ終わると、中庭には警備兵団の人もたくさん集まっていた。どうやらたまたまこの近くにいた人が周りに広めたようだ。
周りの人たちは俺に称賛の言葉をかけてくれる。部隊の人たちも拍手してくれている。そういう部分から大人だと感じる。俺だったら素直に拍手すらもできないだろう。そんな自分を少し嫌に思いながらも今は周りからの行為に感謝する事だけに集中した。
今話も読み切っていただきありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか?
現在、お話を書いている中私だけでは力のアイデアがなかなか浮かばず、以降の戦闘が単純化している状態です。
もしよろしければ読者の皆様から力のアイデアをいただきたいです。
こういう力はどう?と気軽に提案していただけると幸いです。
提案していただいた力は絶対とは言えませんが出来るだけ物語内で使おうと考えています。