異世界で生きるだけの物語(仮タイトル)   作:毛利 綾斗

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嵐の後の・・・

「ほう、君がハチマン君か。ようこそ、我々近衛騎士団の詰め所へ。あいにく今は私しかいなくてね。あーっと自己紹介がまだだった。私はヒースだ。君はあの部隊を一人で倒したんだろう。しかもファウストを混ぜた状態で。いやーそんな逸材が欲しかったところだ、私は君を歓迎させてもらうよ。でもこれまで君のような人材の噂を全然聞かなかったのは不思議だね。出来たら君のことを教えてほしいんだがどうだろう。おーっともちろんタダでとは言わないよ。どうだろう、今日の夜にでも私と君とファウスト君の3人でご飯でもしながら語り合おう。えーっと君の年齢はいくつだったっけ?もうお酒も大丈夫だったかな。それならいいバールがあるんだけど・・・」

 

 

「そろそろ止まってくださいね、ヒースさん」

 

 

灰色の髪を後ろでまとめているダンディなヒースさん、寡黙で落ち着いた人に見えたがどうやらかなりの話好きのようだ。ファウストさんに止められてしぶしぶといった感じで話を止める。

 

 

「話なら夜に聞きます。今はまずハチマン君の入隊と配属の手続きをしましょう。結構時間かかりますし、それが終わらないとハチマン君も任務に就けないでしょう」

 

 

「そうだね、ハチマン君の手続きを全部終わらせないとね。そうだよ、じゃあ早く手続きをすましちゃおう」

 

 

そう言って笑顔でさっさと作業を始めるヒースさん。

さっきまでは誰もいなかった詰め所に急に人影が現れ、動き始める。

 

 

「ハチマン君、あれが団長の使う力、『影』だ。あれは万能だよ。相手の動きを封じたり攻撃に使ったり、防御にまで使える。それにああやって実体化させて動かしたりすることもできる。だが、それができるのも団長の処理能力が高いからだよ。私も以前挑戦したんだがあの力は使うことさえ難しい。あの力を行使できるのは団長を含めた近衛騎士の2人。だがもう一人も使えるのは影を動かす程度で実践に使えるような代物ではなかったようだよ」

 

 

ヒースさんが書類を用意しはじめ、ファウストさんも何か忙しそうに動き始める。俺はというと詰め所の中に置かれているソファに座っているだけだ。何か手伝おうにも俺は勝手を知らないし二人ともかなりの速さで動いているため話しかけることさえも邪魔になってしまいそうで何もすることができない。

だから俺はヒースさんの力である『影』について考える。

一番イメージしやすいのはNARUT○に出てくるシカマルの忍術だろう。影縛りに影首縛りなど自身の影を伸ばし、相手に影響を及ぼす。影を伸ばす際にシカマルはなんと言っていただろうか。すでに記憶は彼方に飛んでいってしまった。

ならば次はヒースさんを観察するべきだろう。彼は常に自身の力を使うとき自分の影が大きな影に隠れるように移動している。なぜずっと同じ場所ではなく移動する必要があるのか。彼が力を使うと近くにあった大きな影が変形し動き出し、次の瞬間物体からは影がなくなってしまうからだ。現在、彼が動かしている影は5体。影は自立し、立ち上がって移動している。俺の目が確かなら彼の影が少しずつ短くなっているような気がする。

そのことから考えるに彼は自身の影をもとに他の影を動かすことが出来るようだ。ということはまず俺がすべきことは自身の影のコントロールだろう。

影をコントロールするというのはどういうことだろうか。

人間は影を意のままに操れない。影絵は操っているというよりは理の中でイメージが作り上げた虚像だろう。

影がどのようにできるか。それは簡単だ。光を何かで遮れば、遮られた部分にできる。影は何かによって形を自由に変えることが出来る。また、光源の角度なんかによっても影の大きさは変わってくる。ん、光源の角度が小さければ小さいほど影は伸び、角度が90度に近づけば近づくほど影は短く足元にできる。ということはイメージは伸ばしたい方向と反対に光源を設置。それの角度を変えることで伸び縮みをコントロールする。影首縛りのように影を実体化させる方法まではイメージできないが首まで伸ばす方法なら分かった。

俺は自身の足元にイメージする。すると自身の影が身体を張って胸あたりまで伸びてきていることを確認する。これ以上は自身の目で確認できないからいけないが目の前が暗くなってないことから目までは影が来ていないことがわかる。

イメージを消し影を戻す。次は影をどこまで伸ばせるかを確認する。最初はどこにも中継を入れずにどこまで伸びるかだ。限界まで伸ばした結果長さは約10m、幅は数センチになった。今の自分の限界を知り、影を戻しているときだった。たまたまファウストさんが俺の影を踏んだ。踏まれただけなのに急に身体の自由が利かなくなったのだ。身動き一つ、口すらも動かない。しかもファウストさんは何か用があるのだろう。現在の位置から動こうとはしない。口すらも動かない俺は当然というか、だんだんと息が出来なくなる。

『死ぬ』

そう覚悟した瞬間以前車に轢かれた時のことがフラッシュバックする。

急に影が跳びあがりファウストさんに襲い掛かる。

それに驚いたファウストさんが避けると同時に自身の影が自身の足元に戻る。

 

 

「ヒースさん、急に影で驚かさないでくださいよ。書類をぶちまけてしまうところでした」

 

 

「いやいや、すまなかったね。ちょっと話があったんだよ。君は集中すると声が届かないからこうするしかなかったんだ」

 

 

そう軽く笑いながら言うヒースさん。

 

 

「もういい時間だ。書類もほとんど終わったしあとは私だけで十分だよ。君はこれを提出してきてくれ。ハチマン君は私が連れて行くから先にいつものお店に行っていてくれ」

 

 

それから少し言葉を交わすとファウストさんは部屋から出ていく。扉が閉まるとヒースさんの顔から表情が消える。

急に部屋の空気が変わり、温度が下がる。なのに俺の背中からは汗が流れる。

 

 

「ハチマン君、君はどうして『影』の力が使えるのかな?」

 

 

これまでと同じような笑顔。しかし目が笑っていない。あれは獲物を狩る肉食獣の目、あの目には光を感じられない。そう、まるであの瞳を見ていると深淵に吸い込まれるような錯覚に陥る。

 

 

「どうして黙っているんだい。答えがないのか・・・それとも答えられないような秘密があるのかな?」

 

 

彼が言っていることの意味が分からない。だが彼の威圧感からこの『影』の力には何やら裏があるようだ。知らないうちに何かしら俺はやばいものに足を踏み込んでしまったのかもしれない。

口を開ける。

俺は何も知らない。ただイメージしたら使えた。

そう伝えるだけでいいのに開けた口からは息が漏れるだけだ。

 

 

「その様子じゃ本当に何も知らないようだね。それに君の実力程度だったら怖くないしね」

 

 

そういうと彼の目に光が戻る。

 

 

「じゃあ行こうか、ハチマン君。今日は色々話し合おう。他の団員にも声をかけてあるんだ、楽しみにしていてくれたまえ」

 

 

威圧感は消え、いつものようなフランクな感じの声に戻る。開けた口を閉じ、そして開ける。

 

 

「・・・お手柔らかにお願いしますね」

 

 

そういうと俺は今まで前のめりに座っていたソファに腰深くかけ、背もたれに身体を預け、上を向いて息を吐く。ヒースさんが立ち上がったのに合わせて俺も立ち上がる。近すぎず遠すぎない、だいたい5メートル離れてついていく。途中、書類を出すために騎士団の詰め所から王城内の内政官の部屋に向かう。その後は門を出て赤いレンガの道を歩く。ガタガタな道でもヒースさんの速度は変わらない。それに対して俺は地面に足を取られて上手く歩けない。いつも通りに歩いていると少しずつ差が開いてしまう。最初は5メートルだった差は裏路地に入るときには8メートルくらいに広がっていた。

 

 

「さあここだよハチマン君」

 

 

そういってヒースさんはある店の扉を開く。

開かれたドアから見える店内は少し薄暗いが怪しさはない。床は板張りになっており、壁はレンガになっている。席はカウンター席が8つ、4人掛けのテーブル席が2つと狭めだが隠れ家風でかなり好きな部類に入るだろう。カウンターの向こう側には灰色の髪をオールバックにした60歳後半くらいの男性がグラスを磨いていた。

 

 

「あー、団長こっちこっち。こっちではじめてますよ」

 

 

そういって手を振る女性。黒髪ショートの女性は可愛いというよりも美人というのが似合い、それ以上に男前な印象を感じる。なぜかはわからないが。

 

 

「ほう、君がハチマン君か。私はラン、これからもよろしく頼むよ」

 

 

そういって手を突き出してくるランさん。仕草の一つ一つがかなり男前で誰かに、そう恩師である平塚先生に似ているのだ。内面だけでなく、よく見れば外見もそっくりだ。それこそ髪が長ければ平塚先生本人と全く変わらないだろう。それにこの声どこかで聞いたことが・・・。

 

 

「さっきぶりですね、シルさん・・・今はランさんの方がいいですか?先ほどはありがとうございました。でも驚きましたよ、シスターをしていた貴女が近衛騎士だったなんて」

 

 

「ほう、君は気づけたんだね。ファウスト君は最初気づけずにいてね、見ていて面白かったんだよ。っと面白い子だろうラン君。私としてはもう何か仕事をさせてもいいと思うんだが意見を聞かせてもらえるかい」

 

 

「私も賛成です。彼は頭の回転も速いし何より多才だ。彼の存在がこの騎士団全体に良いものをもたらすと思っています」

 

 

そう話すファウストさん。この半年間色々と褒められてきて慣れてきてはいたがファウストさんたちに褒められるのはかなりうれしい。たぶんだが今俺の顔は赤く染まっているだろう。

 

 

「ほう、団長はともかくファウストにまで気に入られるとは大したものだ。誇っていいぞ。

ならば私の部隊を任せるというのはどうでしょうか」

 

 

その言葉に顔を少ししかめるファウストさん。

 

 

「貴方の部隊・・・ということはあの戦闘狂集団のことですよね。流石にそれは・・・」

 

 

「いい案だ。そうだ私が推すのだから最初からそれくらいはやってのけてもらわないと困る。とにかく明日にはその案を形にして通しておこう。ハチマン君、君は明後日から仕事をしてもらう。明日はゆっくりしてもよし、この街を見て回るもよし。明日は君の自由にしてくれたまえ。じゃあ仕事の話もここまで、飲み物も来たようだし親睦会を始めるとしようか」

 

 

そういってグラスを持ち、音頭を取るヒースさん。

乾杯をしながら俺が考えていたのは影の力を使ったときのヒースさんの変わりよう、あのファウストさんに戦闘狂集団といわれている部隊のこと、そしてランさんのこと。

俺のために開いてくれた会だったから中途半端な返事はだめだろうと思い、耳に意識を集めながらも考え続ける。そして考えても結論が出るわけがないととりあえず考えるのをやめた頃には3人の酔っぱらいが俺を囲んでいた。

この会は俺のために開いてくれた会だ。今日くらいは羽目を外してもいいだろう。俺はそのまま3人の酔っぱらいとの会話にちゃんと臨んだ。

 

 

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