進め。
進め。
ただ前を見て進め。
パレードは続く。
ラッパを鳴らせ。笛を吹け。太鼓を鳴らして歌を歌え。パレードは続く。
日の出を目指してひたすら進め。月夜に照らされひたすら進め。雨に打たれてひたすら進め。向かい風でもただただ進め。
これはパレードだ。
歩いていれば、歌っていれば、奏でていれば、皆で進めば、怖くない。次第に体は踊りだし、心は弾む。安心したまえ、これはパレードだ。
そこで不安そうに見ている君。何かあったのかい?何、怖くないさ。言ってごらん。……そうかい、それはなんとも恐ろしい事だ!子どもが子どもを傷つけ、虐め抜く。その結果、君のような可哀想な痛々しい傷を負った子が生まれてしまうのだね!
……え?傷は負っていない?何を言っているんだ、私には見えるのだよ。左胸を隠したって無駄さ!痛かっただろう?辛かっただろう?
もう大丈夫。さあ、共に進もう。これはパレードだ。皆おかしな奴だが、皆可笑しな奴だ。犯しな奴でもあるし、侵しな奴でもあるがね。
大丈夫さ!君も歌ってごらん。踊ってごらん。ほら、君だってパレードの一員さ。
皆の者よ!進路を変更しようか!可哀想な新たな「友達」の為に、「友達の友達」の下へ急ごうではないか!こんな無垢な子どもが心に!傷を負っているのだ!傷を負わせた「友達」は果たして友達かい?違うだろう?
そう、それは「悪魔」だ!だが安心したまえ、皆の者よ。悪魔が最も嫌うのは笑顔だ!皆の者よ、踊っている哀れな隣人の顔を見てみたまえ!これ以上にバカバカしい顔は無いだろう?思わず笑ってしまうではないか!皆の者よ、安心したまえ!これはパレードだ!「悪魔」なぞ怖くはない!いや、悪魔すらパレードの前では「天使」となり得るだろう!
何故なら!このパレードこそが!正義なのだから!
進め。
進め。
これはパレードだ。
どうしたんだい?
このパレードは何が目的なのか?
面白い!実に面白いじゃないか!
そうだな、このパレードは何が目的なのだろうか!?
皆の者!皆の者はどうしてこのパレードで歌っているのだ?
どうして踊っている?
どうして楽器を演奏しているのだ?
私は思うのだ!
そんなこと、どうでもいい!
では逆に問おう。
君は心にそんな傷を負っているのに、どうして生きているんだい?
おや、答えに詰まっているね。
私には見えるのだよ。
「死にたい」と思っているのだろう?
死ねばいいじゃないか!そう思っているなら!簡単だ!縄で首を絞めればいい!刃物で首を斬ればいい!銃で眉間を撃ち抜けばいい!錘を着けて海に沈めばいい!崖から飛び降りればいい!体に火を付ければいい!
死ねばいいじゃないか!なぜ生きているんだい!?
……ほら、答えられない。
皆の者も同じなのだよ。
何故生きている?何故生かされている?何故生まれてきた?
そんなこと考えて何になるというんだい?答えが見つかるのかい?
同じなのだよ!このパレードを続けることに!理由などいらない!
そうだろう?皆の者!
進め。
進め。
これはパレードだ。
何?目の前に山がある?構わないさ!トンネルを掘ろう!進路は変わらない!今は真っ直ぐ進みたいじゃないか?
何?目の前に川がある?構わないさ!泳げばいい!ちょうど歩き続けていたから汗をかいていただろう?冷たい水に浸かってみれば気持ちが良いのではないだろうか!?進路は変わらない!
何?目の前に世捨て人がいる?構わないさ!踏み潰せばいい!世捨て人とは「世を捨てた人」のことを言うのだろう?つまりもうそれは死んでいるのだよ!死体を踏みつけて何が悪いのだ?進路は変わらない!
どうしたんだい?
……同じ人を踏みつけていいのか?だって?
勿論だとも!何故なら!彼はもう既に死んでいるのだよ!
仮に生きていたとしても!このパレードは彼を踏み潰して進んでいたさ!何故って?進路を変えたくなかったからさ!
命を踏み潰していいのか、だって?君は今まで虫を潰したことが無いのかい?それだって「命」じゃないのかい?
人の命と虫の命。何が違うというのか?まさか君は自分の周りをブンブン飛び回る羽虫は殺していいけれど、自分の前にただ倒れている世捨て人は殺してはいけない!本気でそう思っているのかい?
倫理観?法律?そんなものは全て「人間」が作った尺度に過ぎない!全ては人間が支配できると信じ込んだ愚かで卑しい!尺度に過ぎないのだよ!自分が生まれた理由すら知らず!知ることも出来ず!だからこそ死を求め!なのに死を受け入れることが出来ない!愚かな人間が作り出した尺度でしか無いのだよ!
じゃあ誰の倫理観に従えばいいか、だって?
神に決まっているじゃないか!
……その神は何処にいるのか、だって?
人間である私が!自分が生まれた理由すら知らない私が!そんなこと知るわけ無いだろう?
だから私は私に従い彼を踏み潰していくのだよ。何故ならパレードは続いていくのだから!
何?目の前に大きな家がある?構わないさ!真っ直ぐ進もうじゃないか!今の私は、私達はとても気分が良い!真っ直ぐ進みたいだろう?安心したまえ!家なんぞ壊せばいい!悪魔を屠る騎士達の行進だ、少しくらいの破壊は赦されるだろう!
……ん?そうだった!これはパレードだったな!悪魔を屠るのではなく、悪魔を笑顔にするだけだ!いやはや、私としたことが!いや、私だからこそ!間違えてしまった!
進め。
進メ。
此れはパレードだ。
喉が枯れても歌い続けろ。足がもげても這いつくばって進み続けろ。腕が千切れても太鼓を鳴らせ。楽器が砕けても旋律を奏で続けろ。
倒れたらそいつは踏み潰せ。死んだ同胞は骨まで食い尽くせ。死ぬ前に歩け。心が壊れる前に踊れ。壊れるまで踊れ。狂うまで歌え。狂っても歩き続けろ。
何故?
これはパレードだ。
皆の者!悪魔は知らない間に踏み潰していたらしい!肩を組んで歌おうじゃないか!非力な人間も、これだけ集まれば、歌えば、踊れば、悪魔すら知らぬうちに踏み潰すことが出来る!
人間とは素晴らしいじゃないか!?こうして皆で歌い、踊れる命など私達人間位しかいない!
……おっと!虫の命も人間の命も!同じであったな!私としたことが!はっはっは、だがそんなことは今はどうだって良いではないか?踊ろう!歌おう!……それじゃあいつも通りじゃないか!ならば仕方が無い!パレードを続けようじゃないか!
そこで見ているお嬢さん!君だよ、君!マドモアゼル!フロイライン!シー!君のことだ!そんな浮かない顔をしてどうしたんだい?私の愉快な踊りを観るかい?それとも背中に彫っている道化師の刺青を観るかい?私のとびきりの変顔が観たいのかい?
……成程!それはそれは!辛かっただろう、悲しかっただろう!失恋とはかくも儚く、かくも美しい!顔をあげたまえフロイライン!美しい顔が更に美しくなるではないか!……いや、それならあげないほうがいいのかな?美しい顔が台無しになってしまうから顔をあげたまえ!そして歌うのだ!彼への想いを!恋心を!恨みを!妬みを!殺意を!苦しみを!
君は歌うのが上手いじゃないか!こんなにも聴いていて吐き気がする歌は初めてだ!皆の者もそう思うだろう?
え?それは褒めているのか、だって?当然じゃないか!
人間とは生きているだけで吐き気がするような生物だ。吐き気がするような生物が最も自分らしさを表現した歌は吐き気がするに決まっているだろう?それこそが美しく、それこそが素晴らしい!
見たまえ!君の素晴らしい歌に涙した同胞達が新たな海を作り上げた!嘔吐した同胞達が新たな肥溜めを作り出した!あの肥溜めは!君の闇だよ!あの海は!君の虚無だよ!
おめでとう!これで君は自らの醜さを、恋の醜さを、生きることの醜さを、世界の醜さを知ることが出来た!……あれ?どこへ行ったんだい?マドモアゼル!?……ぁあっ!新たに生み出された海の中に沈んでしまった!折角この世界の闇の深さを、無意味さを知ることが出来たのに!その闇に、虚無に囚われていなくなるなんてなんと勿体ないことか!
皆の者!救い出してあげようではないか!誰かあの闇に飛び込んでお嬢さんを助け出そうという勇敢な馬鹿はいないだろうか?……なんてことだ!皆歌うことが楽しすぎて聴いてすらくれないではないか!そうか、歌う方が楽しいに決まっている!友の闇など、「赤の他人」の闇など、顔も知らぬ隣人の死など、構ってはいられない。言われてみれば確かにそうだ!気の毒に、マドモアゼル。私とて心苦しいのだよ?しかしこれはパレードなのだ!進み続けなくてはならない!君がその闇の中に飲み込まれようとも歌えるならば、私は君を助けたい!しかし!その中で歌えるなら助けは要らない!歌えないなら助ける意味が無い!解るだろう?君は友であり、同胞であり、「赤の他人」なのだよ!
進メ。
進メ。
此レハパレードダ。
後ろ指を指されても前を向いて歩き続けろ。空から九ミリの弾丸が降り注いできても足を止めるな。悪人の言葉には耳を傾けるな。善人の施しは踏みにじってしまえ。凡人は相手にするな。天才とは関わるな。
ただ歩き続けるだけでいい。
これはパレードなのだから。
おや?不格好に空を飛ぶ鳥がいるではないか!皆の者!進路を変更しようではないか!あの鳥が飛ぶ方へ行きたくはないか?
なんと不格好な鳥だろう。あんな飛び方をする鳥など見たことがない。今にも地に堕ちてしまいそうじゃあないか!あの鳥が堕ちる頃には、パレードは更なる道を切り開いていることだろう!
……おや?あの鳥は片方の翼を怪我しているようだね?成程、だからあんなにも不細工な飛び方をしていたのか。いやはや、あの鳥も可哀想な鳥だ。鳥とは飛ぶ為に生まれてきたのに、飛ぶ為の翼に傷を負っては死んでいるのと同じではないか!
……おっと。感情的になってしまったかな?勢い余って足が千切れてしまった!適当な木の棒をあてがうとしようか!
ふむ、私も可哀想な人間だな!私はパレードを続ける為に、歩き続ける為に生まれてきたというのに、歩き続ける為の足を片方失ってしまっては、死んでいるのと同じではないか?
ふむ、やはり片足だけでは歩きづらいことこの上ないな!しょうがない、歌を歌おう!痛みも紛れ、足取りが軽やかになる歌を歌おう!手拍子をしながら歌を歌おうではないか!
……ぁあっ!なんてことだ!手拍子を強く打ちすぎて、手首が吹き飛んでしまった!これでは楽器を奏でることも、哀れで可哀想な少年少女達の手を取ってあげることすら出来ない!しょうがない、次に哀れな少年少女を見かけたら手を盗ってあげることにしよう!
はっはっは!血を流しすぎたかもしれないな?意識が朦朧とし始めてきたぞ!私は今何の歌を歌っているのだろう?皆の者よ!私の歌は届いているだろうか!?……困ったな、皆の者の声がよく聴こえない。当然か!皆、楽器を演奏して歌っているのだ!応えなど返ってくる筈がないではないか!
……おや?視界が暗くなった。
成程!私は転んでしまったのか!このままでは後ろのパレードに踏み潰され、私の血を啜り、肉を喰らい、骨を杖にしてしまうのだろうな!
……そうか!私は!死ぬのか!
痛い!容赦なく私を踏み潰していくなぁ、皆の者!生殖器が潰されてしまった!私は子を作ることが出来なくなってしまった!まあ、こんな死に体の私と性行為を行うフロイラインなどいるはずもないから問題は無いな!
進め。
進め。
進メ。
進メ!
これはパレードだ。
此れはパレードだ!
そうだ!それで良いのだ!私等踏み潰せ!脱落者は殺せ!死んだ同胞の屍を踏み潰し、新たな同胞へ手を差し伸べるのだ!先導者は誰だって構わないのさ!私は土塊と共に新たな私を創り出し、地獄で新たなパレードを始めようではないか!……いや、もしかしたら既に先に脱落した同胞が!地獄でパレードを始めているかもしれないな!
私は先に地獄に行くとしようではないか!
進め!其れこそがパレードなのだよ!
「死にたくない!助けてくれ……痛い、痛い!俺が見えないのか!?なあ、おい!足下を見ろよ……うぁぁぁあっ!?おい、聴いてくれよ……聴けよ!止まれよ、何がパレードだ、止まれよ!止まってくれよ!?嫌だ、死にたくない……!嫌だ、嫌だ!助けて━━」
先に地獄で待っているぞ!また歩き出す為に!
「……先に、地獄で待ってるぞ……今度はオレがお前等を踏ミ潰スからナ……」
パレードは続く。
狂気と恐怖、狂信と復讐の念を背負って。
楽器を鳴らせ。歌を歌え。歩き続けろ。
パレードは終わらないのだから。