虚月館殺人事件アフター   作:神宮藍

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何とか次話をお届けすることが出来ました。楽しんでくだされば幸いです。
それではどうぞ!

お詫び:5/23(水)に第1話の内容を一部差し替えさせていただきました。
作者の不手際により設定にズレが出る文章を書いてしまったためです。読んで下さった方にはお詫び申し上げます。差し替えた部分は最初の12行の内容のみです。


虚月館殺人事件アフター その②

「……ん?」

 マシュが部屋を出てカルデアの中を歩いていると、通路の所々に取り付けられたベンチに座っている藤丸立香を見つけた。なにやら外の景色を見てボーっとしているようだ。

「先輩、どうしたんですか?」

 呼びかけてみるが、藤丸は気付かない。マシュはより近づいて呼び掛ける。さっきよりも大きな声で。

「先輩、どうしたんですか? 体調でも悪いんですか?」

 それでも気付かない。事態は殊の外悪いようだ。マシュは考える。

(――先輩がここまで呼び掛けても私に気づかないのは何か問題があります。ハッ、まさか、虚月館殺人事件の時は目を閉じていましたが、今度は目を閉じていなくても意識が飛ぶ事態に!?)

「先輩! 先輩、しっかりして下さい! 意識をしっかり持って! 覚醒して下さい!」

 そう叫びながらマシュは藤丸の肩を掴んで前後に揺する。それは激しく、さながら風船に空気を入れる時、空気入れを激しくポンピングするように。

「あっ、ぐっ、や、止めてくれ、マシュ! あ、痛っ!」

 揺すられる中で舌を噛んでしまった。マシュはそれに気づき、揺するのを止める。

「あっ、先輩、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」

 マシュがそう言うのと同時に、

「緊急事態ですね!」

 どこからかともなくそんな声が聞こえ、数瞬後にはマシュの後ろにナイチンゲールが立っていた。

「ナイチンゲールさん!?」

「どいていなさい、マシュ・キリエライト。手当てをします」

 ナイチンゲールの静かながら凄みのある声に、マシュは藤丸から離れる。

「マスターには体に気を付けなくてはならない義務があります。あなたは大事なカルデアのマスターなのですから」

 ナイチンゲールはそう言いながら異空間に収納しているのか、手の平に治療道具を召喚する。水、コップ、小さめの桶、「軟膏」とラベルが貼られた容器が用意される。

「はい、水でまず口の中をゆすいで、桶に吐き出して。それを2~3回繰り返して下さい。次にこの軟膏を塗って、終了です」

 藤丸は言われた通りにする。水で口内をゆすぐと幾分か血の味が和らいだ。軟膏を塗られると少しくすぐったい感覚がしたが、直ぐに終わった。

「これで大丈夫です。後は安静にしていて下さい」

 ナイチンゲールはそう言い残すと、去って行った。カツーン、カツーンと甲高い靴音を鳴らしながら。

(あの靴で、さっき現れた時は何故靴音がしなかったのでしょう……)

 マシュはそんな疑問を思ったが、直後にサーヴァントには常識が通用しないものだと思い、疑問を振り払った。

「さて、先輩、さっきはすみませんでした。それと、どうしてボーっとされていたんですか?」

 マシュは藤丸の隣に腰掛けながら、そう言った。それを受けて藤丸は少し考えるような顔をして答えた。

「うーん、いや、ただ事件のことを思い出していてさ」

「そうですか……」

 マシュは藤丸の今の心境を思って少し心が痛む。意識が他者の身体に乗っていただけとは言え、3泊4日にも及ぶ孤島の洋館でわずかな間ながらも深く関わった人間が2人も殺されるという事件に遭遇したのだ。トラウマものだろう。

「ゴールディ家とバイオレット家、そしてマーブル商会……でしたか」

「うん。悲しいものだったし、残された人の事を考えるとね……」

「そうですか……」

 そこにコツコツと規則正しい靴音をさせて誰かが近づいて来る。マシュが音のする方向に顔を向ける。

「あ、教授!」

 足音の人物は新宿のアーチャーだった。カルデアでは教授またはプロフェッサーMと呼ばれている。一部ではフランパパとも。マシュは教授と呼んでいる。彼は呼ばれた事に気付くと一旦立ち止まり、また歩いて近づいて来る。

「フム、マシュ君に藤丸君か……どうしたのかね?」

「いや、それが……」

 マシュが事のあらましを伝える。それを聞いて教授は答える。

「そうか、まぁ、確かに忘れようとしても忘れられないだろうネ。ただ、君はこの事件で最善は尽くした。違うかね?」

「そうかもしれません。ですが……」

「藤丸君、君は背負い込む性質なのは前から分かっているが……もう君も分かっていると思うが、もともと彼らは君とはなんら関係の無い人間だ。たまたま登場人物の一人に呼ばれただけだった。いちいち考えていたら身が持たんぞ」

「それはそうですが……」

「キミもガンコだね。(窓の外に目を向けて)この外の世界は君によって救われたとはいえ、未だ危うい状況。いつ無くなるか分からん状況だ。そもそも人間など死ぬときはロウソクの火を消す位簡単に死ぬ。気に病んでいては仕方ないものではないかな。

 ……背負い過ぎてはいつかその重みに耐えきれずに潰れてしまうぞ、世界を救う前に」

 教授の言葉は本当だろう。人間は簡単に死ぬ。背負いすぎて潰れてしまう。それは真実かもしれない。自分よりも三回り以上の年月を生き、サーヴァントとして召喚されるほどである教授の言葉は。

 

「それでも、です。潰れるかもしれない。それでもこの想いを抱いて行きたい」

 

 そう答えた藤丸の顔を見た教授はダンディなヒゲをたくわえた口元を大きく歪ませ、両目を右手で被い、左手を腰に当て、大いに笑った。

「クハッ……ハッ、ハハハハハハハ!! 面白いネ! 実に! 誠に! いや、愉快!

 ……やはり君は私とは違う! 思考が! その在り方が! 哲学が! いやはや、そういうものなのだろうな、英霊、いや英雄とは! 英雄と呼ばれる者はすべからくそういうものなのかもしれないな!」

 教授はひとしきり哄笑した後、いつものダンディでニヒルな顔に戻った。そして予想外な一言を放った。

「ふむ。今の私はこのカルデアのサーヴァント。であるならば、行動すべきは己がマスターの為。潰れてしまわれると困る。そこでこの老骨、1つ考えがあるのだが、どうかね? 乗ってみるかね?」

 教授はそんな事を言い出した。考え。一体どういうものなのか。

「その考えとは?」

「なに、簡単な事サ!」

 教授は窓の方を向いて、両手を挙げて少し悪い顔をして続けた。

「カルデアスを利用するのサ! 君も、関わった者達があの後、どのような人生を、未来を辿ったか知れば、少しは心が軽くなるのではないかな!?」

 その発言に藤丸もマシュも驚いている。その提案に驚いたのもあるが、まともな事も言うのだという衝撃が大きかった。

「ふっ、私のアイデアに声もないようだね? 無言という事はこの計画に反対ではないと受け取るが、良いかね? では後程、転送ルームの前で会おう!」

 教授はそう言い残すと高らかに笑いながら去って行った。後にはまだ驚きから戻らないマシュと藤丸が残された。そうしてようやくショックから戻ったマシュが口を開く。

「はっ! せん、先輩、無理ですよね!? 特異点でもなければ転送機を使う事は許可されない! そもそもアレは転送するだけで膨大な電力と魔力を消費します! 先輩! 今からでも教授を追いかけて止めましょう!」

 マシュはそう言うと教授を止めるべく走り出しかける。だが藤丸はその腕を取り、マシュを留める。

「先輩!?」

「マシュ……僕は、見てみたい。教授の言う通り、気になる。ダメ元で頼んでみたい。あの2つの家がどのようになったのか……ジュリエットは……彼女はどうなったのか」

「先……輩……」

 マシュは下を向きつつ、沈痛な表情を浮かべる主を見つめ、こう返した。いつもの、元気をくれる笑顔と共に。

「分かり……ました! 先輩がそう言うなら、私も一緒に頼んでみます!」

「有難う、マシュ」

 痛々しい表情だった藤丸の顔に笑顔が戻る。2人は互いに笑い合った後、マシュが藤丸の手を引いて転送室へ向かって走り出す。

 

つづく




また続いてしまいました。次からは舞台が移ります。出来るだけ楽しんでもらえるような文章をお届けしたいと思います。もうしばらくお付き合い下されば幸いです。
次話投稿まではそう時間を空けずに行きたいと考えています。土日の内にはアップしたいと思います。
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