チリリーンと風鈴が涼しげになる。
ミーンミーンと響く蝉の声が、日本の夏を感じさせる。
「「あー………ん」」
シャクリシャクリと瑞々しい西瓜を咀嚼する音が鳴る。
本殿の縁側に座る黒い着物を着た幼女と、黒い洋装に背中に鬼灯のマークを付けた男性。柳と三子だ。
「…………夏」
「夏だなぁ」
ここは現世の駒王町。さて、時間を少し巻き戻そう。
「と言うわけでお前等の監視者兼顧問になった
「訳が解らないのだけど」
「ん?だから、お前領主から外されたろ?でも卒業までは通う……だからその監視。ああ、ちなみに領主は神社に戻ってきた土地神がやるから安心してくれ」
オカルト研究部に突然やってきた柳の言葉にリアス・グレモリーは眉根を寄せる。確かに会談中そんな事を言っていたが、本気だったとは。しかも事前の打ち合わせもなく。
「いきなりすぎないかしら?」
「とは言ってもな。そちらも何の報告もなしにこの町の住民を金で引っ越させたあげく無断で魔力の使用を行ったろ?土地神のイチョウさんカンカンだったぞ。あ、ちなみにイチョウさんってのは安産の神ね」
「いえ、だから……」
「本来は神社に住んでいた姫島朱乃に話を通すはずが引っ越したことに関して何の報告もなかったしな。しかも調べてみれば男の家に入り浸って神社の管理もしてない始末。俺と三子と土地神の最初の仕事は神社の掃除だった。こんなこと初めてだと文句言われた」
イチョウのグチグチした文句は耳に残っている。しかも相手が安産の加護を与えた夫婦の息子で、さらにその息子の歩んだ人生に頭を悩ませる始末。しばらく一人でいたいと社に閉じこもってしまった。
「まあそう言うわけで今あそこは神聖な場だ。お前等は近づかん方がいいよ。あ、一応私物は送っといた」
鞭とか鞭とか鞭とか。三子の教育に悪そうなモノは全て送った。イチョウが首を傾げていたので説明せずにダンボールにつめた。
「しっかし教師ってのは大変だな。保護者の相手……原因はあの三人だけど………」
思い出すのはメガネとハゲと赤い龍。
女子更衣室を覗こうと木を登っているのが見えたので木から蹴り落とした。その後親御さんを呼び出したら校長が大事にするのはあまり、とか言ってきたので被害者の女子生徒達に軽くすませて良いか聞いたらそれが保護者に伝わりどういう教育を云々言われた。新任だから柳には関係ないと言いたかったが、言ったところでさらにキーキー騒ぐことだろう。
因みに変態三人の家にも親が文句を言いに来て、変態三人が親を巻き込むんじゃねー!と叫んだが目撃者全員がじゃあ迷惑かけるような事するなよと思った。あれ以来、覗きなどの変態行為は行っていない。
校長が文句を言ってクビにしようとしてきたが、イチョウが土地神パワーで不運を届けた。と言うか保身で性犯罪を放置してたのだから教育委員会にバラせば普通にクビになった。
「頑張れ頑張れ」
「ありがとよ……ていうかお前、学校に付いてくるな。俺子持ちセンセーとか呼ばれてんだぞ。後あのメガネがお前を見る目はヤバい。学校は危険だ」
「まあまあ柳殿。三子殿を害せる者などそうはいまいよ………」
「お、サンキュー」
奥から塩を持ってやってきた銀髪に銀杏の葉の髪飾りをした女性の名はイチョウ。八百万の神の一柱にして本来は木の神だったのだが木霊憑き故に多くの実を落とす銀杏を何時しか子宝を与える神として崇め、安産祈願の神になった女神だ。
因みに柳が弁当忘れると持ってきてくれる。
「確かに三子は強いけど、純粋だからなぁ。それにつけ込んで妙な事しそうな奴が居るんだよ。既に衆合地獄行き決定してるけど、その中でも悪見処に落ちる可能性が高いな。でも彼奴絶対将来独身だよな?その辺はどうなるんだろ」
悪見処。他人の子供を犯した者が落ちる地獄。自分自身の子供が陰部から串刺しになる様子を見せられ、その上で罪人の肛門に熱した銅を注いで肉体的苦痛も与える。もちろんこの子どもは幻覚だが子供が居なかった場合はどうなるのだろうか?
「この辺りは鬼灯様に報告しておくか。もしもの可能性で結婚できる可能性も、まあ0ではないし………限りなく0ではあるけど」
その頃の堕天使。
「良いですか皆さん。一日でも早く完成させるのです!解りましたね!」
シェムハザがアザゼルから随時送られてくるシステムの神器定着システムを研究者達と共同で解析していき、神器をリスクなしに抜き取る術式の完成を急いでいた。
「よく聞いてください。私は鬼灯殿に会ったのは、一度だけ。しかし忘れもしない。私はあの人を敵に回さないためならアザゼルを死なない程度に痛めつけられる!」
顔を青くして震えるシェムハザ。それが鬼灯なる人物を知らぬ一同にも恐怖を与え、その三日後術式は完成した。
アザゼルは即座に駒王学園で先生してくると逃げ出し堕天使達の怒りを買った。
「………んー……こかな?」
「チュン、先程から何をしているのですか?」
五道転輪王は最後の裁判官だけあり、基本的に亡者が来ることは少ない。その空いた時間、チュンはボーッとしていることが多かったのだが今は本を読みながら何やら体を動かしている。
「私気づいたよ。柳の師匠なのに拳法柳より下手。力任せね」
「はあ、なる程?」
「だから一から学び直すよ」
チュンが読んでいるのは格闘技の指南書だった。八極拳、蟷螂拳、虎牙拳、少林拳など様々な。
「……あの浮気者で威力試してくるよ」
「晩ご飯までには帰るんですよ~」
その日天国では人型のまま空を舞う神獣の姿が目撃されたとか。
「──っ!何か悪寒が……」
現世にて悪寒を感じ跳ね起きる柳。周囲を見渡す、特に何もない。クーラーでもかけ過ぎたのだろうか?いや、これは何というか、嫌な予感がする。例えるなら魔王が魔王を倒せるだけの力を持つ聖剣の所有者に選ばれたような、既に強い何かがさらに強くなってしかもそれが自分に実害を及ぼすような悪寒。
「柳殿、電話だ」
「ん、電話?」
と、そこへやってきたイチョウが柳に電話を渡す。
『鬼火先生!部長とアーシアがちっちゃ───』
ガチャン
「良いのか?お主の生徒だろ?」
「間違い電話だった」
「そうなのか?」
「ちょっと仕事ができた」
「仕事?」
「無許可でリバウンドもありえる術使ったあげく失敗したバカ共にゃ、反省文と術をキチンと使えるように練習させる。とりあえずこの『好きな相手がこむら返り/自分がこむら返り』になる術と、『昨晩同じ布団で寝た相手が便意はないのに腹痛/一日数回唐突に便意が訪れるも何も出ない』とかをやらせるか『虫歯になる/虫歯のような痛みが丸一日続く』もありだな」
「成功しても失敗しても嫌じゃな……しかし、子供になって、とか言っておったぞ?」
「だから?」
「………お主は立派な鬼灯殿の部下だよ」