──くそ!何だその目はクソガキがぁ!──
──あの子に関わっちゃ駄目よ。良いわね?──
──給食費が盗まれたって。どうせあの子の仕業でしょう?──
──学校くんな!皆怖がってるんだよ!──
──ああ、こんなに傷ついて。大丈夫、お姉ちゃんは味方だよ──
──動物とばっか仲良くして、気味悪ぃ!──
──良くもウチの子に怪我させたわね!猫の腕を折ったからって腕折るなんて、頭おかしいの!?──
──ご、ごめ……こべんなざい、許して──
──ああ、アナタ……父親になんて事をするのよ!──
──ひっ!いや、こないで!あ、貴方も……結局お父さんと同じじゃない!──
──か、軽い冗談じゃん!別に、怪我してないんだし許してくれよぉ!──
──人を何だと思ってんだ!お前みたいな奴はな、将来人を殺すんだよ!──
──何よそんなにムキになって!──
──子供のしたことだろ!このぐらいの年頃にはあることだ!──
──貴方だって暴力振るって、酷い怪我負わせる分質が悪いわ!──
「………どこだここ」
ムクリと起き上がる少年。その目はとても気怠げで、濁っている。
「あれ、貴方は生者ですか?何でこんな所に」
「………兎が喋った」
妙な少年だと芥子は思った。昔は極々希に、生者が生身で迷い込むことがあったらしい。篁なんかもその一人。しかし今は現世と地獄を物理的に繋げる場所は無いはずだ。少なくとも芥子のいた地獄には。
山とかには残っているらしいが、そこを通ると神に見つかる。そして対処されるはず。しかし撫でるのがとても上手い。おばあさんとおじいさんを思い出しついつい道案内を忘れてしまう。
──ほら、あれが……──
──やだやだ、余所者。しかも孤児なんでしょ?──
──ほら、しっかり働け!──
──何時も能面みたいな顔でさ、気味悪いよ──
──丁、なんだお前その姿!──
──鬼になったのか!?──
──生贄にならなかったのか!──
──ああ、そうか。だからか……村が滅んだのは──
──お前のせいだ!─
──この人でなし!──
──良くも村を!──
朝から嫌な夢を見た鬼灯は、三割増しで逃げようとする亡者への攻撃の威力が上がったが、そもそも逃げようとする亡者が悪い。
「鬼灯様鬼灯様~」
と、そこへピョンピョンと跳ねながら芥子がやってきた。芥子についてくるように現れたのはどう見ても生者。しかも生き霊などではなく、肉体を持った。
ふと、目があった。既視感を感じた。あの目には、覚えがある。
「この子どうも地獄に迷い込んでしまったらしくって………」
調べてみたところ、倶生神は憑いておらず記録課にも記録は無い。浄玻璃の鏡で調べても芥子と出会う少し前までしか映らず、彼を連れ現世に行っても彼の知る名の町はあっても彼が言うには時代が違うとか。
「ええー。帰る場所無いの?」
「はい。地獄の嘘発見機総出で調べましたが嘘はありません」
どこぞの馬鹿のせいで人が簡単に異能を振るえる世界だ。時間移動能力を持っている者がいて、その暴走に巻き込まれた可能性もないと言い切れない。
「どうする、鬼灯君………」
「地獄に送れば良いんじゃねーの?等活か衆合。少なくとも俺はそれに当てはまることはしたぜ?」
「………まあ、暫く保護しましょう」
「何かすることくれ」
「………………」
聞けば今まで、自分の趣味を優先できるような時間を長期間持ったことがないらしく、何もしていないと落ち着かないのだとか。
取り敢えず等活の手伝いをするように言ってから気づいた。彼は人間だ。罪人とは言え人間を傷つけるのに躊躇いがあるのでは?
「痛い痛いごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「あ?うるせーな。ほらそこの殺された子猫達も今石で削って剥き出しになった肉をザラザラの舌で舐めろ」
「………………」
そんな事は別段無かった。
「コイツの動機は潔癖症による動物嫌い………そこの毛の長い犬、蚤多そうな犬、のし掛かりながら噛みつけ。こっちは、夜中吠えるのがうるさくてチワワを………耳元で吠えまくれ。大型犬達はフォロー」
しかも的確に指示してる。
一年で等活地獄主任になった。異例の昇進だが不満は現れない。それだけの功績を残していたから。
この頃から妖気を纏うようになっていた。地獄産の妖怪の肉などを食っているからだろう。
嘗て人であり、世に恨みを持ち、地獄へ来て亡者にその鬱憤をぶつけ、今や人をやめようとしている。共通点、探せば案外見つかるものだ。
戦い方を教えることにした。筋がいいのか無意識に妖気を使い身体能力の強化などを行っていた。
薬学について学びたいと言い出した時は自分で教えたかったが多忙のため、腕だけは信用できる神獣に仕方なく預けた。性格が似なくて良かった。
十年ほど経つ。妖気を得た結果か、見た目は若々しい。当初出会った頃は年を偽っているんじゃないかと思うほど小さかったが、それは栄養を摂れていなかったから。よく食べるようになってからはスクスク育った。微笑ましい。
その特殊とも言える縁故か、未だ妖気は安定しない。
ある日から龍の気を放つようになっていた。
原因は連れている龍。彼女が少年に力を与えたのだろう。おかげで力も安定した。
希に思う。子というのはこのような感じなのかと。自分と同じ、鬼灯印の服をオーダーメイドしてわざわざ着てきた時にはつい頭を撫でてしまった。笑った閻魔はぶん殴った。
見た目成人とも言える年齢になった年に、出会った時と同じ日に煙管をプレゼントし酒に誘った。ちなみにかなりいける口。
そんな柳は現在………
「……………重い」
「柳ちゃん。無理しちゃ駄目よ?今、貴方子供なんだから」
縮んでいた。出会った当初よりもずっと。
三子の蛇を食うことで少しずつ体型は戻ってきてるが………。
「取り敢えず、英雄派は必ず落とし前付けさせる」
これはもう決定事項だ。さて、何があったか時を戻そう