「では、初手は私からやろう……」
ヘラクレスがそう言うと膝を曲げ地面に指を沈める。まるでゼリーに指でも沈めるかのような何気ない動作で地面にピシリと亀裂が走る。
「ぬん!」
瞬間、地面が文字通りめくれあがり英雄派達を飲み込んだ。
嘗て大陸を二つに分けたその力は健在。いや、神代から今の時代。その力はより強大なモノとなっているだろう。
「ふむ。やはりこの程度では無意味か」
圧倒的な光景とはいえ、ひっくり返したのは神滅具で形作られたとはいえ所詮地面は地面。烏滸がましくも神殺しを騙る霧に防がれた。
「いきなり、やってくれるね………ところでそれは新手の冥界生物かい?」
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス」
学ランに漢服という妙な格好をした男は、黒いオーラを放ちながら足元を凍らせていくセラフォルーを見て尋ねる。が、気にせず槍でトントン肩を叩く。敵を前に何してるんだろう?攻撃して良いのだろうか?
まあ今回こちらには英雄と呼ばれる者の先人として様子を見に来たと言うヘラクレスが居るので少し待つが。
「曹操と名乗っている。三国志で有名な曹操の子孫さ───一応ね」
「でも知名度じゃ劉備に劣るよな」
「僕はジーク、仲間はジークフリートって呼ぶけどね。彼の有名なシグルドの末裔さ」
「知ってるぞお前。魔剣と三刀流なきゃアーサーに全然勝てないんだろ?」
「俺はゲオルク。ゲオルク・ファウストの子孫だ」
「誰それ?」
「俺はヘラクレス!大英雄ヘラクレスの生まれ変わりだ!」
「お前は、思ったよりひょろいなとしか」
英雄派幹部は全員その場でうなだれた。やって良いのだろうか?こっちのヘラクレスも困惑している。セラフォルーは今にも飛び出しそうだ。
「お前、少しは手加減しろよ!この人達変にプライド高いからそういう反応に傷つくんだぞ!」
「知らんてそんなの」
英雄派構成員の台詞をバッサリ切り捨てる柳。ヘラクレス(神)はふむ、と顎に手を当てる。
「若き英雄を目指す者達よ。君達は何を以て英雄へと至る?」
「………貴方は?」
「そうだな。では……アルケイデスと名乗らせてもらおう」
ヘラクレス、否……アルケイデスはそう名乗ると改めて英雄派達を見る。
「再び聞こう。君達は、何を以て英雄へと至る」
「………シンプルさ。『人間』としてどこまでやれるか知りたい。そこに挑戦したいんだ。それに悪魔、堕天使、ドラゴン、それ以外の超常の存在。それらを倒すのは何時だって人間だった。人間でなくてはならない」
「……………」
「よわっちい人間のささやかな挑戦だ。人間のままどこまでいけるか、やってみたくなっただけさ」
「そうか………」
アルケイデスは腕を組み、数秒上を向くとはぁ、と下げる。
「若いな」
「何?」
「私も嘗て、自分の特異性を知り、何が出来るのか、何をやれるのか知りたくなった。その果てに残ったのは破壊だ………後に英雄などと称えられても、私がやったことは敵を殺すだけ」
「ほう?もしやどこぞの英雄か?しかしアルケイデス………知らぬ名だ。そうだ、英雄と言えば柳、君もうちに入らないかい?龍の血肉を食らい力を手にするのは、まさに英雄の卵と呼ぶにふさわしい行いだと思うんだがね」
「え、ダサいからやだ」
即答。顔をひきつらせる英雄派だが、曹操だけはふっ、と笑い肩を竦める。
「仕方ないな。では、人ならざる者として、俺たちに滅ぼされると良い」
「………もう良い。口を閉じろ若造」
アルケイデスはそう言うと拳を構える。
「守る者無き拳に一体何が乗るというのか、見せてみろ」
「へっ!殴りあいがお望みか?なら、俺の拳でバラバラに吹っ飛ばしてやんぜ!」
「ぬん!」
真っ先に飛び出してきたヘラクレスに対し迎え撃つように拳を振るうアルケイデス。次の瞬間、一瞬にして細かい肉片に変わる。
……ヘラクレスが。
「な!?馬鹿な───!」
「開戦だ。行って良いですよレヴィアタン様」
「ヒャッハー!」
柳の言葉に飛び出すセラフォルー。余程心労がたまっていたのだろう。壊れかけてる。
「覚悟しろ魔王め!」
「正義の刃に切り裂かれるが良い!」
「邪魔☆」
迫りくる構成員にセラフォルーは蒼い氷の弾丸を撃ち込む。小さなそれは皮膚を突き破るも貫通するほどの威力はなく、当たり所によっては我慢できなくもない。英雄派構成員達は無視して突き進もうとしたが、次の瞬間体内から生えた氷柱の群に貫かれる。
「へぇ、やるねぇ……」
と、魔剣を持った白髪の少年が微笑む。
「では僕の魔帝剣グ───」
剣を掲げて笑みを浮かべる優男はその姿のまま凍りついた。その滑稽な姿を永遠に保つのかと思いきや氷が砕ける。もちろん中身ごと。
セラフォルーは残った魔剣のうち一本の剣を掴む。
『──────!!』
「五月蠅い黙れ」
『─────』
セラフォルーに触れられた瞬間拒絶するように震える魔剣だったが、セラフォルーの恫喝にピタリと止まる。背後から迫った英雄派を斬り殺したセラフォルーはうん、と満足そうに頷く。
「あのバカ達もちゃんと斬れそう。良いもの拾っちゃった♪」
「「狐火」」
八坂と妲己が放った炎が英雄派構成員達を灰すら残さず焼き尽くす。
「てめぇぇ!よくも!」
「下品でいやん」
焼き尽くされた構成員の中に恋人でもいたのか激高して迫ってきた男に向かって、妲己は尻尾の一本を振るう。男が持っていた斧が砕け、男の臓物が舞う。
「………そのお姿、やはり初代……なのですか?」
「まーね。ところで貴方、昨日柳を誘惑してなかった?」
「え?」
「アレは私が狙ってるの。次出し抜いて唾付けようとしたら喰い殺すぞ」
「───っ!肝に、銘じます」
「てりゃー」
三子が拳を振るうと、それだけで暴風が発生し京の街並みが吹き飛ばされていく。
「てーい」
龍殺しの特性を持った神器を禁手化させて後ろから襲ってくる英雄派構成員達も、纏めて吹き飛ばす。むふん、と無表情で胸を張る。
「あまり油断するなよ?向こうはまだサマエルを使ってない」
そんな三子に迫った一団を蹴り飛ばした柳は周囲に警戒する。
「………つーか、どこ行ったゲ……ゲ───」
「ゲゲゲのゲー」
「ふむ……」
蹂躙されていく英雄派を目の前にして、しかし曹操は慌てずその光景を眺める。
「………うん。やるね……流石流石」
「ずいぶん余裕ですね」
鬼灯は一見すると隙だらけにも見える曹操を警戒しながら睨む。馬鹿の集まりとはいえ……まあそれなりの戦力を集めていた男だ。それにこの余裕な態度、何か企んでいるのだろうか?
「兵数は力なり。ここで幾らか失っても代えは利く………だから皆、ここで死ね」
曹操の言葉に数人の構成員達が一斉に各々に向かってくる。とはいえ禁手も使っていない……いや、使えない下っ端のようだ。一瞬で死んだ。が、その一瞬のうちに禁手に至った者達が首筋に何かを打ち込む。
「が、あああ!」
「うぐぅぅ!」
「は、はは!来たぜ、力がみなぎってきたぁぁぁ!」
「「「「カオス・ドラ───」」」」
「ここにきて強化とか面倒なことはやめてください」
鬼灯が金棒を振るい、身体変化が現れていた数十人の構成員の七割を吹っ飛ばした。