英雄派の拠点の一つ、曹操は残った構成員達に待機を命じて今後の作戦を練る。
幹部連中は軒並み全滅。いや、ジャンヌとレオナルドは単なる行方不明だが。
取り敢えず、使えそうな奴等を幹部に引き上げてやるか、と書類を見つめる曹操。と、その時───
───見ぃつけたぁ
「──!?」
不意に悪寒が走る。とっさに槍を顕現させ振り返りながら構える。壁を突き破り現れた漆黒の黒龍が槍と当たり神々しいオーラと禍々しいオーラが空間を走り拠点を吹き飛ばす。
「シャアアアアッ!!」
「──────!!」
黒い炎にも見える黒龍の力が増す。地面に激突し、地面を何度も転がる曹操。フェニックスの涙を使い傷を癒すと黒龍のやってきた方向を睨みつける。
「鏡面世界……顕現」
そこにいたのは見覚えのある男。常闇の鬼神と共にいた、オーフィスの肉を喰らった地獄所属の男だ。名は確か、鬼火柳………しかし、あの黒い龍は何だ?
混乱する曹操の前で指を鳴らす柳。空間が歪む。この感覚、知っている。ゲオルクの絶霧で創った世界に入る感覚によく似ている。
「空間魔法か?」
「悪魔のレーティングゲームステージの技術をな……ここなら存分に暴れられる」
「…………どうしてここが解った」
結界を張っていた筈だ。事実これまで襲撃はなかった。なのに、何故……
「俺はお前を殺したくて仕方ない。だから、日本でも有名なストーカーの清姫さんに呪いたい相手の居場所を探す方法を学んで、後はこの呪いを利用した」
そう言って黒龍の頬を撫でる柳。あれが件の呪いなのだろう。少なくとも神滅具と打ち合えるレベルにはヤバいようだ。
「此奴は俺に残ったサマエルの呪いの残滓に俺の持つ無限の龍神のオーラを混ぜ、俺自身の敵意を加えた呪い。対象を何処までも追う………日本神話らしいだろ?」
「サマエルの、呪いを………成る程、どうりでこの槍と打ち合えるわけだ」
「打ち合える?お前まさか、今のが本気だとでも?」
ズルリと呪いで形成された龍の大きさが増す。感じる力の量も明らかに増えた。槍が怯えるように震える。と、その時──
「曹操様はやらせはせん!」
「人類の未来のために、ここで散れ!」
英雄派生き残りたちが柳に向かって己の神器を振るう。全方位からの攻撃。これなら多少時間を稼げるはず。今は撤退し、再び戦力を、と曹操が転移魔法を使おうとした瞬間、魔法陣に光り輝く聖剣が突き刺さり魔法陣が砕ける。
「───な!?」
「指揮官が部下おいて逃げるなんてあんまりじゃない?」
見覚えのある短剣。そして聞き覚えのある声。顔を上げると呆れた様子のジャンヌが立っていた。その手には聖剣。片手で投げてはキャッチするという芸当をやってのけている。
「ジャンヌ、何のつもりだい?」
「────辞める」
『辞表』と書かれた封筒を取り出し曹操に向かって飛ばすジャンヌ。反射的に受け取ろうとした瞬間封筒を突き破り刃が姿を現す。
「くっ!?」
慌てて槍で弾く。ジャンヌの姿は既にない。が、後ろから感じた殺気に振り向き槍から極大の光線を放つ。
「いてぇな、火傷するだろうが」
と、その光を突き破り腕が伸びてくる。槍を掴んだ腕から黒い小さな蛇を放ち絡みついてくる。咄嗟に腕を放し、距離を取る。直ぐに槍の実体化を解きもう一度召喚する。
「ふっ、成る程。出し惜しみする余裕はないようだな………
「隙だらけだ」
何やら長い名を教えようとしてきた曹操を思い切り蹴り飛ばす柳。当然だ。待ってやる道理など無いのだから。
「必殺技を名乗りたいならな、名乗れるだけの強さを持つとか、名乗ってる途中に近づけなくなるだけのエネルギーを周囲に放つとかやれよ。こんな風に───」
ゴゥ!と大気が柳を中心にうねる。禍々しい呪いのオーラと荒々しいドラゴンのオーラが顕れ、どちらも黒い龍の姿を取る。
「これは俺の師匠の一人からの伝言だ。『英雄になると言ってるくせに洗脳とか駄目ですよね。それはもう英雄になる気は絶対にないです。つまり嘘吐きです。塵一つ残さず消えなさい』だとよ──
「ぐ、や、槍よ、神を射抜く真な───うわ!」
宣言通り塵一つ残らず消え去った曹操。最期の言葉は「うわ!」だった。
カラン、と地面に槍が落ちる。新たなる持ち主を求めて転移しそうになった槍を、柳が掴み取った。ついでに曹操の魂をお迎え課に引き渡しておく。
「あー、中に何かあるな。ほい消去っと──」
呪いを流し込み中に残った意識を消し去る柳はそのまま槍を、聖槍をジッと眺める。
「というわけで、新たな術式を組んでみました」
と、鬼灯に聖槍を見せる柳。柳曰わく神の子の心臓を突き刺しその死を確認した槍。
元々カインの血をひく鍛冶トバル・カインが天から落ちてきた金属により作ったとされる槍であり、ただの槍ではないのだが、神を殺すような槍ではない。だって実際は殺してないんだから。
「だけど神の子の死を確認したという逸話を下に、
「そうですか。破棄してください」
「了解………って、天界と一悶着ありません?」
「元々神仏に傷を与えられる、下級神なら殺せるなんて道具を造った向こうが悪いんですよ。管理も杜撰ですし……それに此方の神剣を勝手に盗み神滅具に組み込んだり折ったりしたのは向こうが先ですから」
「成る程」
と、腕と膝を使い槍をへし折る柳。後で夜叉一の子供たちの遊び道具にでもするかと更に細かくへし折る。
「そう言えば柳さん、明日から現世に復帰でしたね」
「まあ、また彼奴等の面倒を見ると思うと気が滅入りそうですが」
「そうですか……明日に響かない程度に、飲みに行きませんか?奢りますよ。もう少しで仕事も終わりますし」
「そうですか?じゃあ、外で待ってます」
翌日。
「戻った。一人に押しつけて悪いなロスヴァイセ」
「いえ、お元気そうで何よりです」
「何か変わったことは?」
「はい。報告書に纏めてあります」
と、ロスヴァイセから受け取った報告書に目を通す柳。どうもルキフグス家の生き残りや魔法使いが侵入しかけたりと色々あったらしい。魔法使い達は雑魚だがルキフグス家は仮にも上級悪魔。失礼だが、報告の強さをみる限りロスヴァイセでは勝てると思えないのだが………
「妙なことを言って去っていきました」
「妙なこと?」
「はい、なんでも……『私の姉になってください』、と………」
「…………なんだそれ。ん?」
報告書を見ていき、最後の報告を見た柳の眉間がピクリと動く。ロスヴァイセは気まずそうに目を逸らした。
「………ルーマニアに向かった?いや、ルーマニアの貴族吸血鬼からの申し出だ。リアス・グレモリーが向かうのは良い。けど、要経過監視対象である封印候補者のギャスパー・ヴラディも……」
「すいません、お止めしたんですが……どうも先に向かった主人が心配だったらしく、服を無理矢理脱がされて、その隙に───」
「…………………」
「塔城さんと姫島さんは前回お母様方と再会させた時の礼なのか味方してくれましたけど、主の意向には逆らえず……あ、ヴラディ君は普通に行きたがってました………あ、天界側は残ってます。アザゼルさんは、向かいました」
「………彼奴等、帰ってきたらマジ覚えてろよ」
流石に既にルーマニアに行った相手を追うことは日本神話にはできない。帰ってきたらぶちのめそうと決める柳。
「あの、それがですね。どうも吸血鬼のツェペシュ派に、
「つっても俺吸血鬼共に恨まれてるからなぁ………エルメンヒルデにお願いしてみるか」
「吸血鬼に知り合いが?」
「と、出るかな……向こう何時だ?お、出た」
『やや、やややや柳様ぁ!?ほ、本日はお日柄も良く──ど、どうしたのでしょう?な、何か気に入らないことが?大丈夫です!吸血鬼共を潰すというならこのエルメンヒルデ、誠心誠意を以てお手伝いいたします!いたしますから、どうかお慈悲を───!』
「何かそっちで
手伝ってあげるでも、手伝おうか?でもなく、手伝わせろ………命令形だった。
『は、はひ!お待ちしております!』
「………何したんですか?」
「他の吸血鬼にしたのと同じく、調子に乗って襲ってきたからぶちのめした」
イッセーは困惑していた。マリウスとかいういけ好かない、ギャスパーの親友であるヴァレリーを利用する屑野郎が紹介した護衛。途轍もない悪寒を感じる。絶対に勝てないとすら思えてくる。だが、その姿は………黒い左目と金の右目というオッドアイの…………黒兎だった。
ヒクヒク鼻を動かしバナナをモグモグ食べている。