東方半喰種   作:魔狼の盾

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霊夢はチョロイン、琲世はフェミニストなイメージ


2話 巫女との出会い

 -1年前、人里-

 

 琲世が幻想郷に来てから1年がたった。今琲世は紫の使いとして、人里に来ていた。しかし目的地はここではなく、あくまでも中継地点だ。紫からは人里まで行けば分かると聞いていたため、取り敢えず人里へと向かい、少し休憩した後出発しようと思っていたが、肝心の目的地が何処にあるのか分からず道に迷っていた。

 

「あの、すいません」

 

「うん?」

 

 こうなったら誰かに道を聞くしかない。そう思って琲世は目についた初老の男性に声をかける。男性は特に警戒する様子もなく琲世の呼びかけに答える。

 

「博霊神社を探してるんですが…何処にあるかご存じでしょうか?」

 

「あぁ博霊神社ね。それなら、一度里を出なきゃならんぞ。ほれ、あっちに丘があるだろ?あの丘を登りきったところだ。麓にも階段やら鳥居があるから、見つけたらすぐに分かると思うよ」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 琲世は礼を言って頭を下げると、男性が教えてくれた博霊神社がある丘を目指して歩き始めた。 

 

 -博霊神社-

 

 人里を出てしばらく歩いていると、話にあった丘に着いた。初老の男性の話の通り麓には鳥居があり、それを目印にして階段を上っていくと探していた神社が見えてきた。

 

「ここか…」

 

 博霊神社と書かれた鳥居を潜ると、賽銭箱の近くを掃き掃除している、変わった巫女服を着ている少女が目に留まる。琲世はその少女に声をかける。

 

「こんにちは」

 

 変わった巫女服の少女は琲世に声をかけられて振り向き、突然の訪問者に少しだけ驚いた様な顔をしていた。

 

「博霊霊夢さん…ですよね?」

 

「…誰?」

 

 少女は否定しなかった。どうやら目当ての人物の博霊霊夢のようだが、とうの霊夢は知らない男が自分の名を知っているの事を警戒しているのか、『何だコイツ?』と言いたげな顔で琲世を見ていた。

 

「えっと…佐々木琲世といいます。紫様の式…の様なもので、今後は藍様に代わり僕が紫様の使いになるので、挨拶に…」

 

「ふ~ん…そう。誰が来ても特に変わりは無いし…ま、私には関係の無い話ね」

 

「そ、そうですか…」

 

 霊夢は興味が無さそうに返事を返すと、琲世から目を離して掃除を再開する。

 

(ずいぶんとドライだなぁ…まあ、今まで歓迎された事の方が少なかったからいつも通りと言えばいつも通りだけど…)

 

 琲世は頬をポリポリと掻きながら気落ちする。今まで挨拶に行ったところの多くは紫の使いと言うだけで煙たがっていたため、予想通りと言えば予想通りだが、それでも気にしてしまう。

 もっとも、煙たがられた原因は琲世にはなく、紫が厄介事を持ってきたのではないかと警戒したからだった。

 

「それから霊夢さんの様子も見ておいてくれと紫様から頼まれてて…何か手伝える事とかありませんか?」

 

 琲世は気を取り直して紫から言われていたのもう1つの要件を済ませようと自ら手伝いを申し出る。

 

「別に無いわよ?」

 

「そ、そうですか」

 

「で?いつまでそこに突っ立ってんの?用事が終わったのなら早く帰りなさい。掃除の邪魔よ」

 

 琲世の申し出をバッサリ切り捨てると一旦掃除の手を止め、いつまでも突っ立っていると邪魔だから帰れと言う。

 手伝いの件は拒否され、琲世は再び気落ちしたものの最低限の目的である挨拶は済んだ。仕方ないので帰ろうかと思っていたら、階段の方から息を切らした荒い呼吸と、階段を駆け上がっているであろう早めの足音が聞こえてきた。

 

「み、巫女様ぁ!!博霊の巫女様ぁぁぁっ!!」

 

「はぁ…今日は厄日ね。何よ?」

 

 下からおじさんが1人、慌てて博霊神社にやって来た。その様子を見て厄介事を持ち込んできたと察した霊夢はため息をついて要件を聞く。

 

「じ、実は…ここ最近里の食料庫から食い物が盗まれる事がありまして…」

 

「…?そんなの里の自警団で対応すれば良いじゃない」

 

 霊夢が不思議そうな顔で男を見る。博霊の巫女は便利屋じゃない。人里で『人間同士』が殴り合おうが殺し合おうが介入する事はないのは周知の事実だ。何故わざわざ自分が出なければならないのかと、面倒に思いながら返す。

 

「それが…犯人に襲われた者が言うには、相手は妖怪らしんですよ」

 

「…まさか妖怪が人里で人間を?」

 

「は、はい。夜中に倉庫で物音がするから様子を見に行ってみたら、妖怪と出くわして襲われたみたいなんです…」

 

 しかし、男が言うには人を襲ったのは妖怪らしい。霊夢は半信半疑と言った様子で男を見る。幻想郷のでの人妖間の掟は絶対であるにも関わらず、妖怪がそんな事をするとは思えなかったからだ。

 幻想郷では、妖怪は人里で人間を襲ってはいけない。それは大妖怪、弱小妖怪問わず共通のルールだ。それを破ったのであれば確かに巫女が動く理由にはなる。霊夢はため息をついて腰に手を置いた。

 

「…分かった。取り敢えず里周辺を見てみるわ。何も見つからなければ夜に里の見回りね」

 

「お、お願いします」

 

 『ホントに厄日ね。タダ働きなんて…』と心の内で愚痴ると、箒を鳥居に立て掛ける。

 

「と言う訳よ。あんたはさっさと紫のとこに帰りなさい」

 

「え?あ、ちょっと…」

 

 琲世の方を向くと、早く帰れと伝える。そして何処からかお祓い棒…所謂、御幣を取り出すとフワリと浮き上がり、琲世と男を置いて先に人里へと飛んでいった。

 

 -里の外-

 

 人里に着いた霊夢は里で別の男性から話を聞き、妖怪が逃げていったのを目撃した男と一緒に里の外、さほど離れていない森まで来ていた。

 

「で?妖怪はこの辺に逃げたの?」

 

「は、はい。遠目からですが、こっちに逃げたのは見えました」

 

「そう…」

 

 男曰く、妖怪が逃げだ方向は分かっているとの事だった。霊夢はその方向を確認すると小さく息を吸う。

 

「人里を襲った妖怪!!出てきなさい!!」

 

 霊夢は件の妖怪に姿を見せるよう呼び掛ける。だが返事はなく、風で木葉が擦れる音だけが響き渡る。

 

「…反応なし。だったら…」

 

 相手からの反応はない。すると霊夢はお札を取り出す。

 

「私の勘だと…そこ!!」

 

 当てずっぽうで離れた茂みに向かっていたお札を投げる。すると黒い影が茂みから飛び出してきた。

 

「ク、クソッ!!」

 

「逃がさない!!」

 

 霊夢は森の奥へと逃げようとする妖怪の後ろから再度お札を投げる。お札は大柄で醜くひしゃげた妖怪の胴体を貫き、その場で妖怪は崩れ落ちた。

 

「退治完了」

 

「はあ~これで安心して暮らせます。ありがとうございます。巫女様」

 

 妖気が少しずつ弱まっていくのを確認した霊夢は妖怪を倒したと確信すると、男が心底安心した様にため息をついて礼を言う。

 

「そりゃぁどうも。それからアンタ…」

 

 霊夢は唐突にお札を男に向けて構えた。

 

「姿を変えるならもっと上手くやりなさい。幻術で姿を人に似せても妖気を隠しきれてないわよ」

 

「チッ!!」

 

 博霊の巫女はその役柄上、妖怪と対峙する事が多い。そのため霊夢は気がついた頃には僅かな妖気に反応できる程には妖気の探知できる様になっていた。当然目の前の男から妖気を感じた事で男の正体が件の妖怪だと最初から気付いていた。

 正体を看破され、妖怪が退治されたのを見届けて安心したのも束の間、あっさりと正体を見破られた男の表情が歪む。

 

「今回の黒幕はアンタでしょ?退治するわ」

 

「クソッたれ!!」

 

 霊夢がお札を投げようと腕を振る。しかし、倒したはずの妖怪が一回り小さくなって後ろから爪を立てて襲ってきた。

 

「なっ?!」

 

「残念だったな。本体はこっちだ!!」

 

 どうやら最初に倒したと思っていた方が本体だったようだ。完全な不意打ちだったに対して辛うじて反応してお札を投げようとするが、振り向いた頃には既に妖怪の爪が目の前に迫ってきていた。

 

「こんの…!!」

 

「させるかよ!!」

 

 お札を投げようとするタイミングで、後ろにいた妖怪の男が霊夢を拘束しようと掴みかかる。寸でのところで横に跳んで躱したが、前から迫ってくる妖怪が爪を振り下ろして霊夢の足を切り裂いた。

 

「いったぁ…」

 

 思いの外深く切られた足からは鮮血が流れる。霊夢は痛みで体勢を崩して

切れた所を抑えて踞る。飛んで逃げようにも、霊夢自身は素早く飛べる訳でもない。至って普通のスピードしか出せない霊夢では飛び上がるよりも先に妖怪の攻撃が届いてしまうのは目に見えていた。

 

「「低級妖怪だと侮ったな。これでも幻術の扱いは得意中の得意でね」」

 

 妖怪と男が同時にしゃべり、姿が重なっていくと男が消えると、妖怪だけがその場に残った。

 

「くっそ…」

 

 完全な油断だった。妖怪から妖気が弱まっていった事でいずれ事切れると思い込み、妖気を強く発し続けた幻覚を本物だと思い込んでしまった。しかもお札が貫いたのは幻覚の部分で、実際にはノーダメージと言う嫌なおまけ付きだ。

 『まさか博霊の巫女がこんなものだったとはな』と妖怪がゲラゲラと笑いながら霊夢に近づいていく。高い妖気感知能力が仇となったが、霊夢とてまだ死ぬ気は無い。妖怪には見えない様に右手を後ろに回してお札を握る。

 

「博霊の巫女を殺ったとなれば俺の名も上がるってもんだ。悪いが死んでもらうぜ!!」

 

「ッ!!」

 

 妖怪が飛びかかる。対して霊夢もお札を投げつけるべく右手に力を込める。ギリギリ間に合うかの一発勝負だ。しかし、霊夢が動く直前に何者かが両者の間に割って入る。

 

「ガッ?!」

 

「あ、アンタ?!何で?!」

 

「さがって!!博霊さん!!」

 

 攻撃される瞬間、霊夢が見たのは琲世だった。琲世は霊夢を抱えて庇い、妖怪の爪が背中をかなり深く切り裂いた。

 琲世はすぐに身を捩り、右足を外側から後ろに回して裏回し蹴りを繰り出す。妖怪はそれを後ろに跳んで躱すが、既に蹴りの勢いで琲世は妖怪と向かい合わせになり、妖怪との距離を詰めていた。

 妖怪は右手の爪を振り下ろす。しかし琲世は左手で妖怪の攻撃を止めると、そこから1歩踏み込んで、妖怪の腹に右の底掌を撃ち込む。か細く見える琲世の腕からは想像も出来ない強烈な一撃を受けて、妖怪はその場で腹を抱えて動きを止める。その隙に琲世は右足を前に出し、右手で妖怪の顎を捉える。そして足を支点にしたテコの様に妖怪を後ろに倒した。

 倒された妖怪は呻き声をだして地面に倒れる。そして眼前には自身を見下ろす琲世…そんな状況下でも、妖怪は恨めしそうに琲世を睨む。倒された妖怪にとっては不利な状況になったが、うつ伏せに倒されなかったの幸いだった。寝かされているとは言え、相手に身体を向けている事で咄嗟の反撃は可能だ。まだやれる…そう思い、反撃の用意をしようとすると、琲世が話しかけてきた。

 

「引いてください。貴方を殺したくはありません。でも、それでもまだ続けるなら…」

 

 琲世は腰の刀『ユキムラ』に手をかけつつも投げ掛けた意外な言葉に妖怪は勿論、霊夢も驚く。人里で人間を襲った妖怪は退治される。それが幻想郷のルールだ。その絶対のルールに背いてまでも命を奪う…相手を傷つける事を快く思わない、琲世の優しさであり甘さでもある。 それに今は霊夢も手負いだ。できる事ならこのまま『無かった事』にして終わらせ、霊夢の手当てもしてしまいたい。誰も傷つかないならその方が良いと考え、このまま手打ちにしてしまおうと琲世は考えていた。

 

「ク、クソったれぇ!!」

 

 しかし、妖怪からすれば屈辱中の屈辱だった。幻想郷のルールは勿論知っている。それでも一時の飢えを凌ぐため、殺されるリスクを覚悟しての行動だったのに、殺したくないから手打ちにするという自身を下に見る提案をされた挙げ句、全く敵わずに情けをかけられ見逃がされる…妖怪としてのプライドがそれを許さなかった。

 怒りに任せた妖怪は飛び上がりながら琲世に襲いかかる。琲世は刀を鞘から抜き、所謂居合い切りで向かってきた妖怪を斬り裂いた。

 

「…ごめんなさい」

 

 ユキムラで妖怪を斬ると、妖怪が大量の血を流してそのまま息絶えた。

その様子を見ていた琲世は悲しそうな顔で殺してしまった妖怪に謝る。

 

「博霊さん、怪我は?!」

 

 戦いを終えると、琲世は霊夢が怪我をしていた事を思い出し、刀を鞘に戻しながら霊夢の元に駆け寄る。

 

「足を攻撃されただけ…ってか私より自分の心配しなさいよ!!私と違ってモロに受けたでしょう!!」

 

「ああ、それなら…」

 

 琲世は霊夢の怪我を心配をするが、むしろ琲世が受けた傷の方が大きく深い。応急処置だけでも済ませようと霊夢は背後に回る。しかし、そこには霊夢の想像を裏切る光景が映っていた。

 

「うそ…もうほとんど治ってる…?」

 

 妖怪の爪をモロに受け、綺麗に裂けた筈の背中の傷は既に塞がり、痕が残っている程度に回復していた。あまりにも早すぎる傷の治りに霊夢は驚きを隠せないでいた。

 

「ちょっと変な『能力』です。この能力のお陰であまり怪我とか気にせずに戦えるんです」

 

「…早死にするわよ。アンタ…」

 

 傷を気にしない…それはある意味では命の危機にも疎いとも言えるだろう。そんな琲世の自身への無頓着さを垣間見た霊夢は呆れてため息をついた。

 

「僕の事より…足、見せてください。ここじゃ応急処置程度しか出来ませんが…」

 

 自分の怪我はもう殆ど治っていたので、琲世は霊夢に足の怪我を見せる様に言う。

 

「い、いいわよ!!こんなの寝てりゃ治るわよ!!」

 

「ダメですよ!!傷口からバイ菌が入ったら後々大変なんですから!!傷口が膿んでしまうと傷の治りも遅くなって…」

 

「あ、アンタはお母さんかっ!!…あぁもうっ!!分かったわよ!!」

 

 霊夢も年頃の少女だ。ましてや会って間もない異性に触らせる事には抵抗があるだろう。しかし琲世は簡単にでも処置をしないと、傷の化膿や痕が残ると言って霊夢に傷を見せる様に言う。もっとも琲世がしつこく足を見せる様に言ったのは霊夢の怪我を心配したが故の事だ。結果、根負けした霊夢は近くの岩に座ってスカートをたくしあげて傷口を見せる。

 

「普通の切り傷よりは深いけど…これなら患部の圧迫で止血出来そう」

 

 霊夢の足を見て、殺菌と止血で十分だと判断した琲世は大きめのハンカチを取り出して傷口にハンカチを巻いていく。

 

(な、なんか…すごく恥ずかしい…)

 

 異性に自分の足を見せる…ましてや触らせた経験などあるはずもなく、想像以上の羞恥心を覚えた霊夢は顔を赤くしながら琲世を見ていた。

 霊夢が羞恥心に耐えながらしばらく経つと、琲世は立ち上がって処置を終えた事を伝える。

 

「よし、戻ったらちゃんと消毒して患部の圧迫は続けてね。それからお家に帰ってもしっかりと消毒して傷口をガーゼと包帯で塞いで…」

 

「だぁからっ!!アンタはお母さんかっての!!まったく…」

 

 相も変わらず母親の様に事細かく戻ってからの処置を伝えると、鬱陶しくなったのか、霊夢は大きな声で遮る。

 

「まぁ…でも、助かったわ…その…」

 

 琲世の親切を突っぱねたが、助けられたのは事実だ。霊夢はモジモジしながらなにやら言いにくそうな様子で何かを言おうとしていた。

 

「…あ、ぁりがと…」

 

 霊夢は気恥ずかしさで顔を赤くし、琲世を直視しないまま礼を言う。

 

「どういたしまして」

 

 照れながらも礼を言う霊夢を見て、助けることが出来てよかったと思い、そのまま霊夢を背負って神社まで送り届けた。

 勿論霊夢は激しく抵抗したが、人里を通らないのを条件にして、とりあえず大人しく運ばれる事にした。神社に帰ってきてからも琲世は霊夢の世話をしようとしたが、やっぱり抵抗したため、この日はそのまま帰る事となった。

 

 -人里-

 

「あ、こんにちは博霊さん」

 

「ど、どうも…」

 

 妖怪退治の次の日、琲世が人里に買い物に行くと偶然にも霊夢を見かけた。霊夢も買い物だったらしく、野菜や川魚を篭に入れて抱えていた。琲世は知り合いと会ったので気軽に声をかけたが、霊夢の方は話しかけられても何を話せばいいのか分からず、何となく気まずさを感じながら返事をした。

 

「足の具合どうですか?傷が残ってないといいんですけど…」

 

「え?ええ、傷は完全に塞がってないけど歩く分には何ともないわ」

 

 傷の様子を聞かれた霊夢は足を擦りながら答えた。実際、そこそこの荷物を持って歩けるのだから、本当に傷が痛む等の症状は無いのだろう。その様子を見た琲世はとりあえずは大丈夫そうだと安堵し、後は少し世間話をして別れた。

 ちなみに買い物ついでに霊夢が例の妖怪の襲撃について聞いてみたところ、妖怪が化けていた男性は襲撃の後から行方が分からなくなっているようだった。恐らく物色中にその男性に見つかり、殺してから喰ったのだろう…あとはその時の騒ぎが外に漏れた為に、男性に化かした幻術をかけて周りを欺いた。それが霊夢の見解だった。どちらにせよ、被害者に見つかり逃げなかった時点で退治の対象だったが、そんな奴でも殺せば琲世は心を痛める。結局、霊夢は事の詳細を伝える事はなかった。

 そんなこんなで何度か買い物の際に鉢合わせ、この度に傷の様子を聞いていくうちに霊夢の足の傷も綺麗に治っていた。

 

「よかった。綺麗に治ったみたい」

 

「たかが切り傷でしょ?心配しすぎよ」

 

 霊夢から傷が治った事聞かされると琲世は心底安心した様な表情になる。対して霊夢は切り傷ごときで騒ぎすぎだと不思議そうな顔になった。

 

「怪我した時は大したことがなくても、後から酷くなる事だってありますから。実際猫にひっかかれて何ヵ月も後に…ってこともあります。とにかく博霊さんの怪我がちゃんと治って良かった」

 

「それは私が博霊の巫女だから?」

 

「そうでなくても女性が怪我してるのにほっとける訳ないでしょう?傷跡が残ったりしたら大変じゃないですか」

 

 『博霊の巫女だから』…今までも体調を崩した時や妖怪退治で大きな怪我をした事は何度かあり、その時は紫を始め周りの者が気を使ってくれた。しかしその影には幻想郷を維持するための存在だからという側面は少なからずあった。

 今回もその類いだと思い意地悪のつもりで本心を聞いてみたが、琲世は『霊夢』の事を心配していた。今までにない反応に霊夢は少し戸惑っていた。

 

「…何でそう、キザなセリフを言えるのかしら…?聞いてるこっちが恥ずかしくなる…」

 

「えっと…ごめんなさい?」

 

 琲世のフェミニストじみた発言を聞いた霊夢は羞恥心から頬を赤くしながら呆れた表情になる。しかし琲世からしたら普通の事を言ったつもりだったので、何故呆れられたのか分からずにキョトンとしていた。

 

「…霊夢」

 

「え?」

 

「上の名前で呼ばれるのは慣れてないの。だから…下の名前で呼んで。あと、敬語も無し。ムズムズする」

 

「分かった。霊夢ちゃん」

 

 霊夢が照れ隠しにそっほ向きながら名前で呼ぶ様に要求する。最初は何の話しか理解出来なかったが、名前呼びに変えてくれと言うものだと分かると、霊夢と仲良くなれたと思い、琲世の口角は嬉しさから少し上がっていた。

 そんなこんなで再び時が経ち、また人里で琲世と霊夢はばったり出くわした。そのまま世間話を始め、休憩がてら茶屋に入りそこでも他愛ない話をしていると、霊夢は内心気になっていた事を聞いてみる事にした。

 

「ねえ…確か琲世さんは紫の式みたいなものなのよね?」

 

「え?うん、そうだよ?」

 

 唐突に紫との関係を確認され、琲世は少し戸惑いながらもお茶を飲みつつ肯定する。

 

「じゃあさ、今夜神社で宴会やるんだけど…来るの?」

 

 ここ最近で打ち解けた事もあり、琲世からしたら珍しく歯切れの悪さを感じさせる話し方で、霊夢は今日の宴会に参加するのかを聞いてきた。

 

「うん。藍さんからも今回は出るように言われてるし、紫様からも許可は貰ってるから行くつもりだよ」

 

「…そっか」

 

 琲世が来る。それを聞いた途端、霊夢は何故かホッとしたような安心感を覚えた。しかし何故そんな感情を抱いたのかは分からなかったが、悪い気はしなかったので、特に気にする事もなく琲世と宴会で会う約束をして別れる。

 今夜の宴会が少しだけ楽しみになり、霊夢は文字通り浮わついた様子で神社に帰っていった。

 

 -夜、博霊神社-

 

 紫の指示と霊夢の誘いもあり、琲世はその日の夜に宴会が行われる博霊神社へと到着した。普段は人(妖怪等含む)が参拝に来ないがために閑古鳥が鳴いている寂しい神社なのに、こう言う時には人が集まる辺り人間も妖怪も現金な連中が多いようだ。

 

(まだ、始まってないのにそれなりに人…いや、妖怪が多いな)

 

 神社の鳥居を潜った琲世がざっと周囲を見渡すと、まだ宴会が始まる前だと言うのに、既に妖怪と僅かな人間が集まり大きな盛り上がりをみせていた。

 

(…霊夢ちゃんの手伝いでもしようか)

 

 大きな勢力への挨拶周りを済ませた後なので、急いで声をかけなければ行けない者がいるわけでもない。加えてそれなりに大きな規模の宴会の準備を霊夢1人に任せるのはなんだか可哀想に思えた。琲世は途中で何人かに絡まれつつも霊夢が居るであろう台所へと向かい、霊夢と一緒に宴会料理を作り始めた。

 

 -現在、博霊神社-

 

「…って感じで、初めて参加した宴会で霊夢ちゃんの手伝いをしてからは自然と宴会料理を作ったりしてるね」

 

 どこか懐かしそうな顔で琲世は霊夢との出会いを話終えた。思えばその宴会でも料理を運んでいる最中も有名どころな人妖に絡まれ、結局気が休まる時間は無かったが、楽しめた事を思い出していた。

 

「思ったより最近だったか…じゃあ私ともその時に会っていたのかな?」

 

「たぶんね。ただ、宴会の時は大抵台所か料理を運んだりしていたから…何時だったか魔理沙ちゃんに絡まれるまではちゃんと話した事はなかったと思う」

 

「そうか…にしても会った当時の霊夢はそんなにツンツンしてたのか。今とは随分と違うみたいだな」

 

「私が何よ?」

 

 一通り話を聞いた魔理沙は今と昔では琲世に対する態度があからさまに違う事にちょっとだけ驚いていた。そんな中、洗い物を終えた霊夢が返ってきた。琲世が『お疲れ様霊夢ちゃん』と労うと『ありがと』と返して琲世の近くに座る。そして琲世と自分の湯呑みにお茶を入れながら何の話をしているのか聞いてみた。

 

「昔の霊夢はツンツンしてたって話をしてたんだぜ」

 

「は、話したわね琲世さん!!」

 

 今とは違って、出会った頃の琲世への対応は大人げない態度だった事を思い出した霊夢は羞恥で顔を赤くして怒り出す。そしてちょっとだけ拗ね様子で膨れっ面になって琲世から顔を背ける。

 

「わ、私の事はもういいじゃない!!そう言う魔理沙とはどんな風に会ったのよ?!」

 

「えっ?そうだなぁ…魔理沙ちゃんとあってからは…色々豪快と言うか…嵐のような日々だったなぁ…」

 

 そう言う琲世は今度は魔理沙と出会った時の事を思い出しながら話始めた。




こんにちはこんばんはおはようございます。
例のウイルスが蔓延しているようですが、いかがお過ごしでしょうか?特効薬が無いうちは基本の対策を徹底して感染しないようにお気をつけ下さいませ。
今後は書きたい事が思い付いたら前書き、後書きにも何か書いていこうと思います。
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