ゴブリンスレイヤー:ドゥエルガルアドベンチャー   作:酢豆腐

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祝ゴブスレアニメ化!


プロローグ

秩序と宿命の神々と混沌と偶然の神々が相対する遊戯盤たる四方世界。

 

その地下には広大なる空間、地下世界(アンダーダーク)が存在し、地上同様に人々の営みがある。 ・・・但し地上と異なる点として混沌に与する勢力と異様なる魔力に満ちているという点が挙げられるが。

 

この地下世界に強大な勢力を誇る1つの種族がいる。彼等はドワーフ古語でドゥエルガルと呼ばれる。灰色の皮膚と髭、乏しい体毛、強靭で毒の効きにくい身体に暗視能力。

 

はるか遠き上古の時代にはその欲深さから大工房都市を拡張しすぎてしまい悪しきものを目覚めさせた。彼等はデーモンたちに隷属させられ、長い苦難の時が鋼の神への信仰を失わせた。結果として彼等はデーモンのくびきから逃れるために、絶え間ない労苦を強いる斧と征服の女神の力を借り、彼女を信仰するようになった。

 

その為に彼等は常に骨の折れる仕事をし、悲観的で利己主義で愚痴ばかりこぼしている。そして外敵に対しては団結するものの都市内部では常に氏族同士が足を引っ張りあい、勢力拡大の野心を抱えて永い永い時を過ごしてきた。

 

こうして我々は正しく神代のドワーフの血を受け継ぎながらも混沌のものとなったのだ。

そんな氏族社会で腐れボンズに権威があり、恣意的な判断だの調停の名を借りた弱いものいじめがまかり通るところに、他の神から託宣を受け、この工房都市から出て自由に生きるなどと言い出す奴がいたらどうなると思う?

 

答えはリンチ(神前裁判)され牢獄に放り込まれる、だ。ひそかに出奔するための準備を整えていたつもりが、何時のまにやら監視されていたらしく、突然完全武装の男衆に囲まれ棒で叩かれた。

 

幼いころからディープウォーデンの見習いとして他の氏族の子供たちと集団生活を送っていたがために氏族内に味方が少ないのも響いたらしい。ディープウォーデン、トンネルの守護者、生身の警報装置。我々は地上でいうところの街道警備隊のようなものだ。鉄と血で結合した非ドゥエルガル的集団にしてドゥエルガルらしからぬ誠実な戦士たちの殿堂である。そこでは役に立つのならどのような神から奇跡を賜っていようが問題にはされなかった。

 

「おどりゃこんクソ外道!氏族裏切って一人地上で気楽にすごそういう腹かい!」

「ほうじゃほうじゃ!」

 

勤めを終えて戻ってきたところにこの罵声である。

 

「おーう。若い男衆が完全武装で雁首そろえてからにどしたんなら」

 

「とぼけるのもええ加減にせぇよ!ディープウォーデンちゅうのは芸が細いのう!」

「これ見てもまだとぼけられるんかのう!」

 

固い地面に投げ出されたのは保存食や革の水袋、真新しいランタン、光沢を出すためのやすりがけ中だった風来神の聖印である。どうやら自室を相当に家捜しされたらしい。

 

「ほーん。これがどしたんなら。ワシがどんな神さん信じようがこんなには関係の無い話じゃないの。のう!」

 

殺気だって私を囲む連中は本来灰色の顔を赤黒く染めて罵声を浴びせてくる。私がこの先の見えない生活から足抜けし、冒険者にでもなって好きに暮らそうという考えなのが気に入らないらしい。もともと寄宿舎時代から風来神の声が聞こえていた私に、自己犠牲やら斧と征服の女神への信仰なんかは存在しない。この騒ぎも大方長老連中が若い衆を焚き付けているのだろう。うちの気の弱い親父が青い顔で見物人に混じっているのが見えた。

 

「こんなはワシを裏切者呼ばわりするがよ、ワシら皆よ灰色鉱人(ドゥエルガル)だろうが闇人(ダークエルフ)だろうがよ、旨いもの食ってマブいスケ抱くために生まれてきたんじゃないの!」

「それだってよ、銭がなけりゃ出来はせんので。自分で楽しく銭稼いで自分のために自由に使おう自由に生きようってことに身体張るのの何が悪いの!のう!」

 

「このボンクラぁ!」

 

そこからは戦槌構えて突っ込んでくる若い衆を盾でいなし、斧剣で突き刺し、ひっかけ、頭をかち割り10人から先は数えていないが、ある程度片付けた時点で多勢に無勢で強かに殴られ取り押さえられ、集会所の女神像の前に引き出され、群衆のリンチに遭った。

とっさに《幸運》の奇跡、ヤバそうな相手には《不運》の奇跡を使用限度の3回まで使いきって凌いだので見た目ほどに傷は深くない。

 

そしてスケイルメイルやらガントレットやらも外されずに首枷、手鎖その他で拘束されて牢獄に放り込まれているというわけだ。武器はともかく大振りの円盾、ディープウォーデンの鉄靴と斧の紋章が描かれた盾を奪われたのは大変な屈辱であった。そして恐らくこのままでは近いうちに私は処刑されるだろう。

 

「ぶち殺しちゃる・・・ぶち殺しちゃるど・・・ぶち殺しちゃる・・・!」

 

さしたる考えが有るわけでもないが、殺意が言葉として溢れ出る。腫れた顔に、痛む頭、へこんだり鉄片の欠けたりした鎧は私を非常に惨めったらしい気分にさせた。風来神の教えの一つに《力無き者に自由を語る資格なし》というものがあるが正にその通りだ。私にあの場の全員を相手取って勝てる力があればこのような事にはなっていない。

その時だ。中性的な声が私に囁きかけたのだ。風来神からの託宣である。

 

《君のもとにこれから君の先達がやってくる。君は彼女に着いていってもいいし、いかなくても良い》

 

風来神の良いところは私のような男に奇跡を授けてくれること、教義が分かりやすいこと、託宣でもって回った言い回しをしないところである。

 

ちなみに私が授かっている奇跡は《小癒》《幸運》《不運》だ。冒険者になったら私はクレリックなり戦司祭として扱われるのだろうか。致命的な傷を負わずに済み、未だに命脈を保っていることを風来神に感謝し、祈る。

祈りを終えて身体をほぐしていると牢獄の前に誰かが音もなく現れた。

 

「その姿から察するに君が世にも珍しい灰色鉱人の風来神信徒か」

 

その女闇人は完全に影と同化しているかのようだった。外套のフードを下ろすといっそ冒涜的とさえいえる美貌が顕になった。

 

「実際のところ君の同僚が手引きしてくれたお陰でこの要塞めいた大工房都市への侵入は容易だったのさ」

 

あの最も非ドゥエルガル的集団の誰かが手助けしてくれたらしい。10年の歳月を厳しい訓練・集団生活とトンネルに捧げたのも無駄ではなかったらしい。得難い戦友に感謝する。

 

「さぁ、立ちたまえ。信徒の先輩にして託宣を受けたるこのボク、闇人の忍馳が囚われの君を自由にして差し上げよう」

 

私を戒めから解放すると、芝居がかった仕草で一礼して彼女はそう言った。

 

「す、すんません世話になります」

 

私は可能な限り恭しくオジギした。

 

「ふーん。君はあんまりボクの知ってる灰色鉱人らしくないね」

 

それはそうだ。一部を除いてドゥエルガルという種族は恩知らずの外道ばかりだ。

話ながらも忍馳は魔法のかかっているとおぼしき肩掛け袋から私の斧剣と大振りの円盾を取り出す。

 

「それに君は鉱人の系譜にしちゃ随分と"のっぽ"なんだねぇ」

 

他のドゥエルガルに比べると私はおよそ頭二個半は背が高い方だろう。悪目立ちしてしかたなかったが。

 

「上背が有るぶん力は有りますけぇゴブリンでも追剥ぎでも叩っ殺しちゃりますけぇのう!使ってやって下さいや!」

 

「あはは!じゃあしばらくは一緒に行こうか。風の向くまま気の向くまま、ってね」

 

そうして私達は大工房都市から脱出し、旅の連れ合いとなったのだった。

 


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