バオーン
この世界ではクトゥルフ神話の神『ツァトゥグア』と同一視されている。
相手を眠らせることから転じて、知性を司る神になっているとかなんとか。
争いを好まず、マドカとの遭遇の八年後、地球の異変を感じて宇宙へと飛び去った。
「彼が、私を怪物から守ってくれたの」
そこには、精悍な顔つきの、黒いコートに身を包んだ男が立っていた。
「俺はクレナイ・ガイ。よろしくな」
ミズオ・ユリカが彼を紹介する。
「この方、怪物の話について聞きたいんだって」
クレナイ・ガイと名乗った男がうなずく。
「どうやら、あんたたちはこの件に詳しいみたいだな…何か情報があるなら教えてくれないか」
マドカもナイトウも快諾する。
そして、象牙の書…別名『エイボンの書』と呼ばれる本が、怪物を予言していたことを伝えた。
すると、本をパラパラと読んでいたガイがつぶやく。
「なるほどな…この『ミ=ゴ』ってやつは見たことあるな」
「ええっ!?」
「それに、この『ティンダロスの猟犬』ってやつも」
それが冗談ではないと察したマドカが聞く。
「それは、どこで…!?」
「あ、ああ…!別の国を旅していた時にな…」
ガイは、何やら慌てたように話した。しかし、その表情やしぐさから、三人は『ガイが嘘をついていない』と確信した。
突然現れた謎の男であるガイだが、悪い人物には感じられなかった。マドカたちはひとまず、彼の協力を得ることとなった。
ガイが話を切り出す。
「それでだ。俺がいま追っている事件だが、なんでも奇妙な容貌の人間が何かを企てているというんだ」
常識的に考えて、そんな話は到底信じられないものだが、怪物や巨人を見てしまった彼らはすぐにその話が真実であると理解した。
「理解が早いな。まあ、こっちとしては助かる」
ガイはそう言って、地図を取り出した。あと、ラムネも。
ラムネを一口飲んで、続ける。
「地図に赤い印をつけたところが、その怪人の目撃場所だ。数週間前から、深夜に目撃が相次いでいる。何か知らないか?」
「クレナイさんは何か知ってますか?怪物の外見とか」
「ああ、うまく言い表せないが…カエル、いや、魚か?体は鱗で覆われていたが」
マドカが象牙の書を開く。
「この中に、似たような姿のやつはいますか」
ナイトウとガイものぞき込む。すると、ガイがあるページで反応を示した。
「これだな。なに…『ディゴン』?」
「えっ!?クレナイさんもこの文字、読めるんですか!?」
ガイはごまかしつつ、その本の続きを読む。
「『海の神とされる二柱の神を崇拝する下級種族』か。つまり、こいつらはその二体の神を蘇らせるのが目的のようだな」
警官のユリカはあることに気づいた。
「そういえば、このあたりで怪しげな宗教団体が活動してると聞いたわ」
「そいつは怪しいな」
ガイはうなずいた。そこで、宗教学者ナイトウも口を挟む。
「ふむ…名前は、神とされる『ダゴン』に似ているが、その性質はどちらかというと『ディープワン』だな…」
聞きなれない単語にほかの三人は首をかしげる。
「ああ、なんでもない。ただ、私の調べている宗教と重なる部分があったからね。ユリカ君の言う宗教団体も、私の調べている宗教かもしれない。」
そういうと、ナイトウはその次のページをめくる。
ナイトウの予想と違い、その次は二柱の神が描かれていたものの、魚というよりも兵士や戦士のようないでたちだった。
「マドカ君かガイ君、これはなんと書いてあるかな。私の調べとおなじなら、おそらくダゴンとハイドラだと思うが」
マドカが読み上げる。
「ええ、たぶん合ってますよ。『ダーラムとヒュドラ』って書いてあります」