花屋喰種   作:みぞれアイス

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前回でニコ姉貴兄貴をあっさり信じたのは、主人公の数少ない友人だからです。
現時点で主人公と友好的関係を築いている喰種って、あんていくを除くと
イトリ・ウタ・ニコ・6話で名前だけ出てきた『ろーちゃん』(本編未登場)くらいしか居ないんです。
(*´∀`*)数少ない友人なんで、あっさり信じちゃうんです。



第10話 前奏曲

 あんていくが臨時休業になった。理由は強盗に入られたとの事だが、実際の理由はヤモリ達による『あんていく』襲撃及び、カネキ誘拐である。

 

 そして、あんていくが休業になったことにより、カオリの配達業務が消えた。

 そのため、カオリは店頭で接客の日々を送っていた。

 

「そういえばカオリちゃん、また11区でグールによる事件ですって。15区(ここ)は何故かグールが来ないけど、嫌な事件よねぇ」

 

 フラワーショップ西荻窪の店長は、喰種被害のニュースを他人事のように呟く。15区では喰種被害が起きる前にカオリによって喰種が捕食されてしまうため、15区の人間にとって喰種被害は他人事でしかない。

 

「あんていくさんも喰種による強盗で臨時休業みたいですからねー。グールには困ったものですよー。夜遅くは出歩かないで、家でビデオを見るに限りますー」

「そうねぇ、わたしも何か借りてこようかしら……CCGの人達がさっさと駆除してくれないかしら……」

「捜査官さん達にお任せするしかないですよねぇー。私達は捜査官さんの不思議武器も無いですしー」

 

 カオリは笛口夫婦の不思議武器(クインケ)を持っているが、当然店長には内緒である。捜査官以外がクインケを所持するのは犯罪だからだ。

 

 そんな他愛もない話を店長としつつ、たまに来る客に花を売り、仕事を終える。

 仕事終わりに携帯を見ると、1件のメールが来ていた。

 

「ん、メールが来てる? お、芳村さんからだ。この日のこの時間にあんていくに行けば良いんだねー。分かりました……っと」

 

 芳村にメールを送り返し、カオリは『ペニーワイズ風の衣装』を愛用の125ccスクーターに載せる。

 

「さーて、12区に行きますか! ニコさん情報によると、アオギリとかいうトコの喰種(ごはん)がいっぱい来てるみたいですしー! でも捜査官さんも多いんですよねぇ……慎重に行きましょー」

 

 カオリの日常は、緩やかに過ぎていった。

 

 

──────────

 

 アヤト達によってカネキは『アオギリの樹』のアジトへ連れて行かれ、紆余曲折あってヤモリの私物となっていた。

 

「嫌だ……やめて……やめてください……」

 

 血と汚物の混じり合う部屋の中、カネキは拘束されていた。ヤモリは幾つもの拷問道具を並べ、カネキの恐怖を煽っていく。

 

「これはね、Rc抑制液。これが喰種の体に入ると、赫子の活動が抑えられて、体の抵抗力が失われる。そうすると、すんなりメスが通るようになるんだ。人間みたいに……ね」

 

 ヤモリは注射器に『Rc抑制液』と呼ばれる液体を入れた。

 

「喰種の体に注射針は通らない……だけど、唯一針が通る場所があるんだ……それは粘膜。だから……目に刺すんだよォ!」

「ぎぃああああああ────ッ!!!」  

 カネキの眼球に、ぞぶりと注射針が飲み込まれる。あまりの激痛に、カネキは拘束椅子の上でのたうち回った。

 

 

「……ねぇカネキ君。どこまで数えたっけ?」

 抵抗力が弱まったカネキの体を、ヤモリは愛用の大型プライヤーを使って抉り取って行く。爪を、指を、歯を、耳を……カネキは幾度となく体をもぎ取られては再生を繰り返す。

 

 ヤモリは拷問の最中、カネキに『1000から7を引いていき、その数を口に出す』ように命じた。それはかつてヤモリがCCG職員『戸影豪正(トカゲごうまさ)』という男から受けた拷問の一つであり、頭を使わせることで拷問対象が正気を失わないようにするテクニックであった。

 

「ごひゃく……ごじゅう……きゅう! ごひゃく……ごじゅう……に……」 

 

「そっか。じゃあ次で一旦休憩にしようか。そうだカネキ君、映画でも喰種でもどっちでも良いけど『レザーフェイス』って知ってるかい? 他人の顔の皮膚を剥ぎ取る悪魔なんだけど……その皮の剥ぎ方はね……こうやるんだよなぁ!!」

 

 ヤモリはカネキの頭を押さえつけると、カネキの顎にメスを差し込んだ。そして、メスはカネキの顔を進み、カネキの顔に切れ込みが入っていく。顔面から血液が吹き出し、顔を削り取られる痛みがカネキを襲う。

 

「■■■■■■■────ッッ!!!」

「面白エエエエエ!!! 面白ェ面白ェ面白ェエエ!! どいつもこいつもこの拷問じゃすぐに死にやがったけど、カネキ君は最高だなあああ!! すんげぇ再生力だぁあああああ!!」

 

 人ならざる苦悶の絶叫を上げるカネキと、歓喜の雄叫びを上げるヤモリ。

 

「すまねぇ……今は耐えてくれ……カネキ……」

 

 部屋の外で待機させられている万丈は、一人悔し涙を流した。

 

──────────

 

 数日後、ここはあんていく。

 

 トーカは、あの時(アヤト)を見殺しにすればカネキは誘拐されなかったのでは。自分に弟を止める力があれば、カネキを救えたのでは。といった思考に囚われていた。

 

「お姉ちゃん……」

「落ち着け。アイツは見た目ほどヤワじゃねーよ……」

 

 カオリによる捜査官殺害の一件以降、トーカと共に暮らすようになったヒナミが、心配そうに見上げている。それを見たニシキが、落ち着きの無いトーカを諌める。

 

「ごめん……」

 トーカは二人に謝るが、その顔は晴れない。

 

 

「みんな揃っているようだね。後から数名来るが、先に始めよう」

 あんていくの従業員入り口から入ってきた芳村が、部屋にいるメンバーを見回し、そう口にした。

 

 部屋にはトーカ、ニシキ、ヒナミの他に、古参従業員の『入見(イリミ)カヤ』と『古間円児(こまえんじ)』も居る。四方以外のあんていく従業員全てが揃っていた。

 

「11区で起きている問題について、我々『あんていく』の取るべき対応だが……まずは連れ去られたカネキくんに関してひとつ、言っておくことがある……カネキくんにはもう、会えないと思った方が良い……」

 

「そ……そんな……」

 芳村のその言葉に、トーカの体はカタカタと震えだした。

 

「コラジジイ! テキトーなこと言ってんじゃねぇ!! それじゃあアイツが……カネキがまるで……」

「やだ、そんなのいやだよ……もうお兄ちゃんに会えないなんていやだよ……」

 死んだ。ニシキはその言葉を口にしそうになったが、ヒナミの言葉や、トーカの真っ青な顔色を見て口を閉ざした。

 

「彼の生死に関しては断定できない。もしも無事なら助けられるが……今回は最悪のケースも有り得る……」

「可能性があるならよ……行くんだろ!? 助けに!!」

 ニシキはその可能性にかける。だが芳村の声は暗い。

 

「『アオギリの樹』は、戦うために生きているような喰種(グール)達ばかりだ……彼らの根城に潜り込んでカネキくんを救い出すのは、決して容易な事ではない……更に、CCGの動向も無視できない。近々11区に、アオギリの樹を掃討するための部隊が派遣される……そうなればもう手出しできない。我々が行っても全滅する可能性だって充分にある……正直に言おう、危険すぎる」

「じゃあカネキを見捨てるってのか!!」

 

「私は行く」

 トーカは静かに宣言した。

 

「『あんていく(ここ)』の方針って何でしたっけ? 店長が行かないなら、私一人でも」

「……俺はアイツに借りがある。死ぬならソレを帳消しにしてからじゃねーと、夢見がクソ悪ィんだ」

「ヒナミも手伝いたい! お兄ちゃんには助けて貰ってばかりだもん! ヒナミができることなら、何でも手伝うよ!」

 

 トーカ、ニシキ、ヒナミの宣言に、芳村は静かに微笑んだ。

 

「誤解が無いように言っておこう。私は元よりカネキくんを助けに行くつもりだ。命の保証が無いことをわかってほしかった……だけど、みんなの気持ちは良く分かった。カネキくんを助けたいなら、命を賭けなさい。その代わり、私や四方くんが君達を全力で守ろう。喰種同士助け合うのが『あんていく』の方針だからね……やるかい?」

 

 ニシキ達3人は、やる。と口にした。

 

「ちなみにカヤちゃんには私のバックアップとして参戦してもらう」

「芳村さん……入見が行くって事は『魔猿(マエン)』はどうします?」

 魔猿とは、かつて古間についていた異名である。

 

「古間くんにはここの留守を任せたい。ここを守る人も必要だからね」

「承知!」

 古間は恭しく芳村にお辞儀をした。

 

「それと、今回のサポートメンバーだ。入ってきなさい」

「アモーレ! 久し振りだね……」

 四方と共に部屋に入ってきたのは『月山習』。ニシキやトーカと敵対し、戦った喰種である。『美食家(グルメ)』の異名を持ち、カネキの肉を食べる事に執着しているため、信用できないとトーカ達は口々に叫んだ。

 

「私が呼んだんだ。彼が居れば救出の確率は上がる」

 芳村のその言葉に、ニシキ達は一旦黙ることにした。

 

「んん! 光栄です芳村氏……それに、ハァトブレイク……僕も哀しい気持ちは一緒さ……無二の御馳走(ゆうじん)であるカネキくんが、ワケの分からない連中によって、危険な目に晒されるなんて……Non!! あっていいハズがないッ! そうだろう!?」

「コイツはカネキを喰う気よ!! 助ける気なんて!!」

 

 オーバーなリアクションを取る月山に、トーカは事実を告げる。月山があわよくばカネキを食べる気でいるのは分かり切っていた。

 

「安心しろ、そんな事は俺がさせない」

 四方がトーカに告げる。月山よりも強い四方が見張るならと、ひとまずトーカ達は納得した。

 

「やれやれ……まったく心外だな。僕は心を入れ替えたというのに……カネキくんを助けたいという気持ちは、素直にFriendship(フレンドシップ)……親しみによるものさ。カネキくんはこんな僕に随分良くしてくれた……Idiot(イディオット)……今更になってそれに気付いたのさ……(ま、本当の事をいうと、敵のアジトなんかでカネキくんをゆっくり味わうことなんてできないから助けるんだけど……ね)」

 

 

「そして、サポートメンバーは月山くんだけじゃない。入って良いよ」

 

 芳村の言葉で入ってきたのは3人。4区でマスク屋を営むウタ、14区のバーを経営するイトリ、そして……花屋のカオリ。

 

「イトリさんにウタさん? それに花屋さんも?」

「おーす!」

「やぁ」

「どうもー! 花村カオリですー」

 

「あたしらも芳村さんに頼まれてね! なんか危ないことするみたいじゃん? はい芳村さん、見取り図」

「うん、ありがとうイトリちゃん」

 イトリは芳村に敵アジトの地図を渡した。

 

「それじゃ、ボクもこれを」

「流石ウタくん。完璧だ」

「お役に立てたようなら良かったです」

 ウタは芳村に紙袋を渡した。

 

「え!? これは芳村さんに何か渡す流れなんですかー? 今日はお花は持ってきてないですよー! ……えーと、じゃあ芳村さんには、おやつのジャーキーをあげます!」

「あぁ……うん。まぁ……ありがとう」

 カオリはお手製の喰種肉ジャーキーを渡した。

 

「それで、ボクは蓮示くんと一緒で?」

「あたしは古間さんと留守番でイイですか?」

「うん、よろしく頼むよ」

 ウタとイトリが芳村に問い掛け、芳村がそれを肯定する。

 

「ウタさんも来るんですか?」

「行くよ。体もナマるし、マスク屋として見たいモノがあるんだ。見れるといいなあ」

 トーカはウタが言った事の意図を理解することはできなかったが、とりあえず来るということらしい。

 

「では、ヒナミちゃんは私とカヤちゃんと。トーカちゃん、ニシキくん、月山くんは四方くんとウタくんに付いて行くように。それと……カオリちゃんは好きにやっていい。ただし、このメンバーを巻き込まないようにね?」

「はーい!」

 

 明るく返事をするカオリに、トーカとニシキは怪訝な顔をした。トーカ達はカオリの正体を知らないため、カオリが戦える喰種には見えなかったのである。

 

「ウタさんだけじゃなくて花屋さんも来るんですか?」

「えっと、なんつーか。花屋さんは戦えるんすか? 申し訳ねーっすけど戦えるようには……」

 

 トーカとニシキは不思議そうにカオリを見る。カオリが花屋に勤めている事は知っているが、『どこにある花屋』かは聞いていないのだ。

 

「そうですねー。私は西()()()()()の花村カオリです。そして『フラワーショップ西荻窪』に勤めるお花屋さんでーす」

 

 トーカは中央線にそんな駅があったなーと思っているが、ニシキは驚きの目でカオリを見た。

「西荻窪ォ!? ……それって1()5()()じゃねぇか!! ……まさかアンタ……ッ!?」

 ニシキは思わずカオリから飛び退く。そして、その言葉にトーカも気付いた。

 

「……レザーフェイスさん」

「はーい。レザーフェイスさんですよー」

 

 カオリはマスクを取り出して、顔に着けた。

 それはホッケーマスクに人の皮を貼り付けたモノであり、レザーフェイスの由来となったマスクである。

 

「ジジイ!? マジで正気か!? レザーフェイスって言えば月山と同類で月山以上にヤベェ奴じゃねぇか!! 間違いなくカネキを喰うぞ!!」

「ちょっと待ちたまえ! 花村氏のような悪食にして暴食かつ狂食な喰種と一緒にしないで欲しいのだが……」

 美食家を自負する月山にとって、共食いを主軸とするカオリと同類にされるのは心外であった。

 

「ニシキくん、カオリちゃんはずっと前から、20区に住む喰種は食べないと約束してくれている。それに、カオリちゃんはカネキくん救出には参加しない。私がカオリちゃんに伝えたのは『カオリちゃんをアオギリのアジトへ案内する』ことと、『霧嶋アヤトくんを除くアオギリの樹に所属する喰種は、例え20区の喰種であろうとも食べて良い』これだけだよ」

 

 アヤトの名に、トーカはビクリと反応した。トーカはアヤトを捕食対象から外すように頼んでくれた芳村に心の中で感謝した。

 例え敵側にいようとも、トーカは実の弟を切り捨てられなかった……。

 

「そーゆーことだよー。私は喰種(ごはん)を心行くまで食べるだけ。カネキさんを助ける気はないから、そっちは頑張ってねー。あ、そーだイトリさん。場合によってはニコさん食べちゃうかもしれないけどごめんねー?」

 

「あーうん、アイツってアオギリに潜入中だっけ……アイツの情報収集は正確なのが多いから、できれば食べないで欲しいけど……でもまぁ、アイツもうアオギリから逃げてると思うよ? ウチの諜報員は優秀だからね。ウチのお得意様であるレザーフェイスさんはそこらへん信用してるっしょ?」

 そうだねーとカオリとイトリは笑いあった。

 

 

「芳村さん、本当にこれで良いんですね?」

「ああ、決めたことだよ。私はカネキくんを取る。例え……もう今までのカネキくんではなかったとしても……」

 

 

──────────

 

 

「テメェらぁ!! 玩具(クインケ)は持ってきたなぁ? よーし良い子だ!!」

 

 CCG特等捜査官の丸出は高台に立ち、捜査官達に向かって叫んだ。

 

喰種(クズ)共とお遊戯の時間だ!! テメェらはゴミ共をブッ殺しまくれ! 昇進のチャンスだぞおおお!! 総員、事前通達した11区の持ち場へ移動開始ィ!!」

 

 完全武装した喰種捜査官達もまた、11区へと集まっていた。

 




 さ ら っ と 喰 わ れ る ア オ ギ リ グ ー ル 
今回主人公が捕食を行った12区といえば、新日暮里と並び称される性地・下北沢があるところなんですよっ

そして、数少ない友達のニコ姉貴兄貴を食べるかもと宣言する主人公。友達は食料、食料は友達、Friendship is Food.

芳村さんは漫画版だと「入見さん」と呼ぶんですが、アニメ版だと「カヤちゃん」なんですよ。本作品はなるべく漫画版の流れをくんでいますが、ここはアニメ準拠です。
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